問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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更なる可能性

 

 

 

 

 

 

 

 ──お月様から兎さんが降ってきた?

 

 ふと、そんなワードが脳裏を過ぎるくらいには、俺は現実を受け入れられていなかった。

 だってそうだろう? 突然空からいないはずの身内が降ってくるとか、一体誰が思うよ?

 

 呆けている俺の目の前で、彼の天災兎は一回転して綺麗に着地する。何かしらの手段で一時的に重力を無視したのだろう。魔力は感じなかったから、またよく分からない機械でも持っているのだろうか?

 

「やっほー、りょーくんっ! ハロハロー! えへへ〜、来ちゃった!」

 

 ニパッと笑う天災兎こと篠ノ之束。

 笑顔を向けられた俺はちっとも笑えない。疑問ばかりが浮かぶが...最終的には“考えない”という結論に落ち着いた。どうせ爺さんが一枚噛んでいるのだろう。今頃俺の呆けた顔を見て笑っているに違いない。何それ腹立つ。

 

「えっと...久しぶりだな、束。いきなりどうした? なんかあったのか」

「んー、そういうのじゃないよ。ただ興味本位で来てみただけっ!」

「...さいですか」

 

 興味本位だけで異世界に来る人間とか、よく考えなくても凄いな。未知に対する恐怖心は無いのだろうか?

 ...いや、俺も異世界に対しての恐怖心とかは持ってないな。

 

「いやー、それにしても暴れてるねぇ、りょーくん。さすがカンピオーネ、やる事が一々ド派手だね!」

「違うと言い切れないのが悔しい。.....ん?」

 

 今の束の台詞、少し引っかかるな...。まるで俺以外のカンピオーネも知ってるみたいな言い方だった。まさか他の神殺しと面識があるとか...?

 

「ふっふっふー! りょーくんの思っている通りさっ!」

「ナチュラルに人の心を読むな。...えっ? 何お前、俺以外のカンピオーネと面識あんの?」

「モチのロンなのだよ!」

 

 ビッ! もサムズアップしてくる束に、俺は驚くしかない。

 

「ほら、豊穣神か何か知らないけど、“ファミリア”に神様いるでしょ? あのお爺ちゃんにりょーくんが行ったことのある異世界に飛ばしてもらってたんだー」

「何やってんのお前ら」

「でねでね? 私が会ったのはねー、草薙護堂とアイーシャ、アレクサンドル・ガスコイン、サルバトーレ・ドニの四人だよ! いやー、りょーくんに負けず劣らず、みんな化物揃いだったねー」

 

 護堂以外誰も知らねぇんだけど。

 あー、いや、サルバトーレ某は知ってるな。護堂から話を聞いたくらいだけど。確か『剣の王』とかなんとか。護堂曰く、問答無用で全てを断ち切るんだっけか。

 

「川神百代って奴も強かったけど、カンピオーネ程じゃないし〜。悪魔やら天使やら堕天使やらもダメだね〜。いや、モブにしては強かったんだけどね? あー、でも二天龍は別。特に白い方ね。それと、神仏は文字通り次元が違かったよ」

 

 ペラペラと自身の経験談を語っていく束。こちとらそろそろ驚き疲れてきたんだが。シャルロットとモードレッドを見てみろ。全く話についてこれてないぞ。

 というか、悪魔も天使も堕天使も、単純な戦力という点で言えば束より強い。カンピオーネと比べるのがまず間違っている。

 

「...あれ? そういやクロエはどうした?」

「クーちゃん? クーちゃんは“ファミリア”の本拠にいるよー。カンピオーネとまつろわぬ神との戦いに巻き込まれた時に大怪我しちゃって。お爺ちゃんに頼んで傷は塞いでもらったんだけど、大事を取って休んでもらってるんだよ」

「はぁ!?」

 

 え、何こいつら。俺の知らないところで神と戦ってたのん?

 

「安心してよりょーくん! クーちゃんはピンピンしてるし、私も無事だったから! それに、そのまつろわぬ神も草薙護堂が倒してたしね!」

 

 ...まあ、無事だってんなら文句はない。

 とりあえず、今度護堂に会ったら一応礼でも言っとくか。

 

 と、遠い世界の護堂に感謝の念を抱いていると、ISで飛んでこちらに向かってきているラウラを横目で捉えた。

 

「しっ、篠ノ之博士!? えっ、なぜこんな所に!?」

「んー? おお、ラウラ・ボーデヴィッヒ...だったよね、確か」

 

 束の存在に気付いたラウラは真っ先に声を上げるが、束はラウラの問いには答えなかった。さっき俺に言ったからいいや、とでも思っているのだろうか?

 

「それでねそれでね! 話戻すんだけどさ、りょーくん。この世界、面白かった? 個人的にはカルデアが一番面白かったんだけど、あそこと比べてどう?」

「そうだな...。ま、そこそこってとこか。強い奴はいないけど、帝具なんていう、おもしろひみつ道具がある」

「ていぐ? って、帝国の帝に武具の具って書いて帝具?」

「その通り」

 

 言って、俺はギフトカードから一つの帝具を取り出し、それを束に手渡す。

 手袋型の帝具で、数ヶ月前にモードレッドが戦利品としてスタイリッシュからブン取った神ノ御手『パーフェクター』。

 

「ほれ、それが帝具だ」

「これ? んー...ただの手袋じゃないって事は分かるけど...。ちょっと付けてみてもいい?」

「いいぞ。元々、それは束にやるつもりだったからな。俺以外に適性なかったし」

「ホント!? やったー! りょーくんからのプレゼントだー!!」

 

 パーフェクターを手に入れたのはモードレッドなので、正確に言えばモードレッドからのプレゼントということになるのだろうが...まあいっか。嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる束を見て、俺は真実からぞっと目を背けた。

 

「ん...ぁ...? .....っつ!」

 

 と、俺が目を背けたその先で、拘束されていたエスデスが目を覚ました。目を覚ましたはいいものの、大怪我による激痛に苛まれて顔を顰める。

 

「なんだエスデス、起きたのか」

「...リョ.....タ.......!」

 

 常人ならショック死してもおかしくない程度の激痛が走っているはずなのだが、さすがは帝国最強と言うべきか。歯を食いしばり、俺を睨みつける姿は実に勇ましい。

 

「んー? りょーくん、そいつ何?」

「この国最強の奴だよ。さっきボコった」

「ほーん。強かった?」

「そこそこ」

 

 人間として最高峰だとは思う。総合力で言えば百代には及ばないだろうが、帝具の能力はそれなりに強力だ。魔力とかじゃないから、俺やモードレッドの対魔力でも無効化できないし。

 

「...そうだな。なぁ、エスデス。お前、俺の仲間になる気はないか?」

「な...ん.....」

「ああ、悪い悪い。その怪我じゃまともに喋れないよな」

 

 言って、俺は回復魔術を使用してエスデスを、ついでにウェイブ、クロメ、セリュー、ランも回復させる。四人も直に目を覚ますだろう。

 

「さて、もう一度言っとこうか? エスデス...いや、イェーガーズ全員、俺の仲間になる気はないか?」

 

 イェーガーズの隊長はエスデスだ。隊の決定権は彼女にある。まあ、帝国はもう無いも同然だし、元上司に従う道理なんて無いだろうけど。

 

「...断る。そう言ったら?」

 

 既にエスデスの拘束用の縄は切られている。氷の刃を生成し切ったらしい。すぐに逃げ出す、ないし襲いかかってこないのは、実力差を十分に理解しているからだろうか。

 

「別に。好きにすればいいさ。俺に再戦して死ぬのも良し、この大陸を出て外国に行くも良し。お前が何を選択しようと、俺は止めない。けどまあ、一応これだけは言っておこう。俺達と来れば、退屈はしないぜ?」

 

 俺が異世界を渡るのは、爺さんの気まぐれと修行以外に、“ファミリア”の戦力を増やすという目的がある。エスデスは下層程度の実力があるし、ほかの連中も鍛えれば強くなりそうなスペックを持っている。

 

 ...そういや、ボルスを見てないな。どこ行った? まさか死んでるんじゃないだろうな...?

 

「...なるほど。私を満足させるほどの新たな戦場がある、と。そういう事だな?」

「おうよ。で? どうする?」

「ふんっ。断らせてもらおう」

「...そっかー。ま、仕方ねぇな」

 

 性格がヴァーリと似てるからホイホイ着いてくるかと思ったんだけど...あてが外れたなぁ。ほかの連中にも一応聞いてみようとは思うけど...そっちも無理か? まあ無理なら無理でもいいんだけど。

 

「束。俺はもう箱庭に帰ろうかなって思ってたんだけど、お前はどうする?」

 

 この世界でやるべき事はある程度やった。帝具という武器を手に入れたことでシャルロットとラウラの強化は済んだし、扱い方を覚えるのは箱庭に帰ってからでも遅くはない。

 

「りょーくん帰るの? んー、だったら私も着いて行こっかなー。帝具も何個かは持ってるんでしょ?」

「まあな」

「だったらいいや! 私も一緒に帰るよん!」

 

 

 

 と、いう訳で。

 

「じゃあ皆ー、帰る準備するぞー」

『はーい』

 

 そういうことになった。

 

 

 * * * *

 

 

 帰る準備と言っても、やる事は少ない。

 俺とモードレッドは特に荷物が無いため、シャルロットとラウラの荷物をギフトカードに突っ込むだけだ。その後はちょっとした観光をするくらい。

 

「金は全部、何かしらの物に変えといた方がいいぞ。別の世界じゃ使えない可能性の方が高いからな」

「んー、だったら小物とか買っとこうかなぁ。確か、可愛いアクセが露店に...」

「嫁が帝都を廃墟に変えたことを忘れたか?」

「あー!? そうだったぁ.....」

「主犯は俺じゃねぇ、皇帝だろ」

「なぁマスター! 焼肉食いに行こうぜ、焼肉! 近くの街探せば焼肉屋くらいあるだろ」

「あー、束さんも行きたーい! りょーくんの奢りでねっ」

「ああ、いいぞ。金はある」

「ひゅー! りょーくんカックイィー!!」

 

 正直、この中で一番の金持ちは俺だろう。イェーガーズの給料パネェ。帰る前にどっかで宝石でも買っとくか。

 

「.....なぁ」

 

 と、俺達が今後の予定を立てている途中。

 呆れたような声が、俺達の耳に届く。随分久しぶりに聞くこの声の主は、最近成長の目覚ましいタツミだ。本当に伸び代あるよなぁ、コイツ。

 

「...リョータ。一つ聞いていいか?」

「ん? なんだよタツミ。お前も食いに行くか?」

「行く。あ、いや、そうじゃなくて」

 

 割と即答だった。焼肉は食べたいらしい。正直な奴め。

 

「...なんで、ナイトレイドのアジトで平然と寛いでんだ?」

 

 タツミの疑問はそこらしい。タツミ以外にも、数人のナイトレイド構成員が俺達を訝しげに見ている。

 

「なんでも何も、荷物取りに来たんだろうが」

「それは分かるよ。うん、分かる。...なんで寛いでんだって聞いてんの」

「悪いか」

「いや悪かねぇけどさ...」

 

 今この場にいるナイトレイドは六人。タツミ、アカメ、ブラート、シェーレ、マイン、それから...確かチェルシーとかいったか。その全員が、俺達への警戒心を抱いている。その代表としてタツミが口を開いたのだろう。

 

「...ま、お前らが警戒すんのも分かるけどな。けど、俺言ったろ? 俺達に敵対しない限り、俺はお前らの敵じゃない。俺が先にお前らを敵認定することはないんだよ」

「それ、信用できるだけの材料が無いし」

 

 そう言ったのはチェルシーだ。咥えている飴の棒をピンと立てている様子からして、言葉通り俺を信用していないのだろう。ま、アイツとは一回しか面識無いし、それで信用しろってのも無理があるか。

 

「信じるも信じないもお前らの自由だよ。んじゃ、そろそろ俺らは行くわ。...ああ、一応聞いとくけどさ。お前ら、俺らの仲間になる気ってあったりする? これから始まるのは新しい国造り。そんな世の中で、お前らみたいな闇にどっぷり浸かった連中は表に出れない。それだったら、俺らと一緒に別の場所で暴れてやるって思える奴、いる?」

『.........』

「...そ」

 

 俺の問いかけに返ってきたのは六人分の沈黙だけ。

 予想はしていたが、ブラートかアカメ、せめてタツミくらいは仲間に欲しかった。

 因みに、俺はイェーガーズの連中にもフラれた。全滅だ。軽いポロロン案件である。悲しい。

 

「んじゃタツミー、焼肉食い行くぞー」

「いや俺も行くのかよ!?」

 

 自分から行くって言い出したクセに。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

「おっ、この肉美味いな。なぁ、これ何の肉なんだ?」

「エアマンタのバラ肉です」

 

 帝国が廃墟になったというのに営業を続けていた商魂たくましい店にて、俺達は焼肉を食っていた。特級危険種の肉を出してくるとは...やるな、この店。

 

「じゃあこのエアマンタのバラ肉をあと五人前頼む。それからCセット八人前と、米大盛り十杯」

「はいっ、よろこんで!」

「あ、あと酒」

「よぉろこんでェ!」

 

 元気の良い返事をし、店員が厨房に下がっていく。

 在庫を食い尽くす勢いで注文しているが、主に食べるのは俺ではない。モードレッドと...あとアカメが食べるのだ。本当、こいつらのどこにそんなに収まってんだ? あとなんでアカメ達も着いて来てんの?

 

「タツミよぉ、俺はお前しか誘ったつもりはなかったんだけどなぁ」

「まぁ、チェルシー以外はお前のこともある程度知ってるし、一緒に仕事もした仲だからな。飯くらいいいだろ?」

「別にいいんだけどさぁ...。さっきまでの警戒心どこいった?」

 

 結局、あの場にいた全員が焼肉屋に着いて来た。金銭的な問題はないのだが、こいつらの切り替えの早さに若干呆れる。チェルシーもメロンソーダ啜ってんじゃねぇ。本当にさっきまでの警戒心はどこに捨ててきたんだ。

 

「すいませーん、レアチーズケーキくださーい」

「あ、じゃあアタシはいちごパフェ。シェーレもデザート食べる?」

「そうですね...。ではバニラアイスをお願いします」

 

 警戒心も捨て、ついでに遠慮も捨てたらしい。全部俺の奢りと聞いた連中が、なんの躊躇いもなく注文している。後で太ったとか言っても知らないからな。太った云々は、本当に俺は悪くない。

 

「まあいいじゃねぇかよ、リョータ。ほらほら、もっと飲め! タツミもな!」

「てめぇは俺らに酒飲ませてどうする気だ、ブラート。一応言っとくが、俺は酔わない体質だからな?」

「.....。飲め飲めタツミィ!!」

「俺だけが標的になった!?」

 

 いや、本当に酔わせて(ナニ)する気なんだコイツ? おっと、少し寒気が...。強く生きろよ、タツミ。

 

「そういえばさぁ、りょーくんって、権能はどこまで掌握してるの?」

「掌握? いや、分かんねぇけど...なに? 掌握率とかあんの?」

「んー、あるらしいよー? 草薙護堂曰くね。あ、エアマンタおいしー!」

 

 何それ初耳なんですけど。

 まあ問題無く権能使えてるし、完全に掌握してるんじゃないか? いやでも、もしまだ完全には掌握できてないとしたら...?

 

「もっと上がある、か...」

 

 掌握が進んだとして、何がパワーアップするのだろうか? 雷系の攻撃を受けた際の魔力吸収率が上がる? 夢の世界でできる事が増える?

 まあなんでもいい。強くなれるというのであれば、決してマイナスにはならないはずだ。

 レベルアップの為には、もっと鍛えて、そして戦う必要がある。強者との、それも格上との戦いが望ましい。爺さんは...ダメだ、格上過ぎて話にならねぇ。もっと実力差の開き過ぎていない奴、それこそ同族(カンピオーネ)とか。十六夜もいいし、英霊もいい。運がいいのか悪いのか、俺の周りには強者が多い。ここはポジティブに、いい修行相手がたくさんいると思えばいいだろう。

 

 とりあえず今は──

 

「すんませーん、Cセット十人前追加でー」

「よろこんでぇ!!」

 

 モードレッドとアカメの腹を満たすことが先だろう。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

「えー! リョータの奢りで焼肉食い放題とかいいないいなー! 私も行きたかったぁ!!」

 

 焼肉屋食べた後、満腹になった腹を抱えながらナイトレイドの拠点へ戻ると、ある程度の仕事を終えたらしいナジェンダ達がいた。ソファの上で駄々をこねているのはレオーネだ。こいつも結構肉を食うからな。もはやライオネルと同化しつつあるんじゃねぇの? ってレベルで。

 

「...一週間後、元皇帝の公開処刑が決まった。そして、今後は一人の王を立てない。これからは新しい国の始まりだ」

「へぇ。で、それを俺に言って何を求めてんの?」

「.....リョータ、新しい国の力になる気は」

「ねーよ」

 

 俺は誰かの下につく気はないし、この世界に留まる気もサラサラない。それはナジェンダにも言っていたはずなので、若干の落胆の色は窺えるものの、ある程度は予想していたような顔だった。

 

「皇帝の処刑はまあ妥当だとして、大臣やエスデスはどうすんだ?」

 

 多少気になったので、俺はナジェンダにそう聞く。あの二人も処刑だろうか?

 

「大臣は市中引き回しの後、恨み辛みのある者が一人ずつ傷を与えてゆっくり殺していく。そうでもしなければ、民衆の気が収まらないからな」

「うっわ、惨いなー」

「仕方ないさ。奴がしてきたことを考えればな。エスデスには...逃げられた」

「逃げた? アイツが?」

 

 正直意外だ。エスデスのことだから、反乱軍を一人で相手取るくらいのことはしそうだと思ってたんだが。

 

「ああ。下手に暴れてお前が出てくるのを恐れたらしい。全く、あの化け物を恐れさせるとはな...。ほかのイェーガーズについては、一応捕らえている。さすがに処刑などの罰はないだろうが、どうなるかは決まっていない。こちらに協力的であれば、その力を新国家の為に奮ってもらおうと考えている」

「そっか。そういや、ボルスは見つかったのか?」

「ああ。妻と子供を郊外へと避難させていたらしくてな。帝都に戻ってくる前に帝都が無くなっていたそうで、呆けているところを確保した」

 

 無事だったのか。それは良かった。

 避難させていた、ということは奥さんと子供も無事なのだろう。

 ボルスは自己犠牲の嫌いがあるが、根は心優しい男だ。今後とも、家族共々幸せに暮らして欲しいと思う。俺が他人の幸せを願うなんて滅多にないことだが、こればっかりは本音なのだから仕方がない。

 

「──っよし。んじゃあ帰るか」

 

 両手で膝を叩きながら、俺は立ち上がる。

 シャルロット達の買い物も焼肉帰りに済ませたし、もうやるべき事はやった。長居は無用、という訳ではないが、留まっておく理由もない。

 

「...リョータ、我々に協力してくれる気は」

「くどい。何回聞かれても俺の答えは変わんねーよ、ナジェンダ」

 

 ナジェンダが心配しているのは、十中八九エスデスだ。俺やモードレッドがいなくなった後、あの戦闘狂が何をしでかすかが分からない。それが怖いのだろう。

 

 だが、そんな事は俺の知った事ではない。これからも頑張って鍛えて、エスデスに対抗できるだけの力を付けろだけは言っておこう。

 

「ブラート、アカメ。エスデスを殺れるとしたら、お前らだろうさ。インクルシオと村雨の能力でな。あとは、お前ら自身がどこまで強くなれるのか。そこにかかってる。ま、頑張れよ?」

 

 そう言い残して、俺はギフトカードから取り出した時空遡行機(タイムマシンモドキ)に乗る。ほかのメンバーも全員乗り終えたことを確認し、タイムマシン擬きを発車させた。

 シャルロットやラウラはナイトレイドの連中と別れの挨拶的なことをしていたが、モードレッドは何もしていない。束は言わずもがなである。

 

 やがて、俺達は完全に世界から隔離された。

 見渡す限りの闇の中を、タイムマシン擬きに乗って漂う。

 

「りょーくん。今どこに向かってるの?」

「箱庭だよ。クロエのことも気になるし、一回戻っておこうと思ってな」

 

 言っている間に、暗闇に一筋の光が差す。出口だ。

 束以外がいつ振り下ろされてもいいように身構えていると、俺達の予想を裏切るかのように、タイムマシン擬きは緩やかに光へと突っ込んで行った。些か拍子抜けするものの、安全に越したことはないと、とりあえず一息吐く。

 

 安心した俺達が、光を抜けた先で見た光景は──

 

 

 

「にゃーん! ...違いますね...もう少しこう、あざとく...にゃぁ〜ん」

 

 

 俺の部屋のスタンドミラーの前で、ネコミミを付けながらポージングと発声の練習をしている聖女(ジャンヌ)の姿だった。

 

 

 

 

 




一度箱庭編をやってから別の世界に飛ばそうと思います。
箱庭編はあんまり長くしないつもりです。

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