問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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賽は投げられた

 

 

 

 

「これは...」

「隊長!」

 

 ランが呟き、セリューがエスデスの下へ駆け寄った。

 少し遅れてやって来たクロメは、八房の柄を握り締めながら俺に声をかけてくる。

 

「...あなたがやったの?」

「ああ」

「ッ! ...あっちにウェイブも倒れてた」

「そっちは俺じゃない」

 

 俺の返事にラン、セリュー、クロメが目を剥く。

 まあ当然だろう。つい数時間前まで仲間として親しく話していた奴が急に敵に回れば驚きもする。

 だが、ランとクロメはすぐに状況を飲み込んだらしく、俺に対して戦闘態勢を取った。その辺りはさすがと言えるな。

 

「落ち着けお前ら。確かにエスデスをボコったのは俺だけど、別に殺したわけじゃねぇ。それに、俺達の目的はお前らと敵対することじゃねぇんだよ」

「...俺“達”、ですか」

「言っとくけど、俺が反乱軍のスパイだった、なんてオチも無いからな?」

 

 達、というところに反応したランへそう言う。確かにナイトレイドとの関係はあったが、反乱軍に味方したつもりは毛頭ない。友好なのはあくまでナイトレイドという一団体なのだ。

 

「さて、まあ俺の事は今はいいんだよ。お前ら、この現状を見て、まだ俺に敵対する気があるか? 無いならそこをどけ」

「...それは無理な相談ですね。我々は、身を挺してでも帝国を守る立場にあるので」

「勘違いすんなよ、ラン。俺の目的は帝国じゃない。大臣の息子と、ワイルドハントだけなんだよ」

「ワイルドハント...?」

 

 ん? なんか今、ランの様子が...。

 

「.....リョータ。説明して下さい」

「あ?」

 

 ランの纏う雰囲気が少し変わり、それに気を回していた俺に、セリューがそう聞いてくる。力の抜けた様にゆらりと立つその姿はまるで幽鬼かゾンビのよう。いつぞやの特異点でみたエネミーと似ている。

 

「貴方はなぜ、隊長をこんなにしたんですか? 貴方はなぜ、帝国を裏切るようなマネをしているんですか? 貴方はなぜ──悪に堕ちたのですか?」

 

 ヤバいこの子目は笑って無いけどめっちゃ笑ってる。

 

 やはりセリューの悪い癖が出たか。

 もはや信仰の域にまで達している、純粋な正義狂い(バーサーカー)。たまに出るセリューのこの顔は、ウェイブと共に付けた彼女の二つ名、「顔芸のセリュー」の由来になった。いやマジで同一人物とは思えない程に歪んだ顔になるからなこいつ。

 

「年頃の女の子がそんな顔をするのはやめ...」

「質問に答えてください」

「アッハイ。 ...つってもなぁ。 別に裏切ったわけじゃないし、悪堕ちしたわけでもないんだよな。エスデスだって、そっちから挑んで来たから返り討ちにしただけだし」

 

 全て本当の事だ。悪堕ち、というか、そもそも俺の本質は悪であるのだし、この短期間で堕ちたわけではない。強いて言うなら神殺しの魔王(カンピオーネ)として新たに生まれ落ちた際に、ついでに悪にも堕ちたのだろう。力に対する代償、もしくは付属的なものだ。

 

 だが、そんなものは目の前の正義ジャーキーには関係ない。

 奴が気にしているのは、俺が悪かどうかという事だけ。己の信念に従い、()を滅さんとする歪みきった正義感に支配されている。

 まあ、普段なら悪即滅の勢いでコロをあてがうのだが、今回は俺に対話を求めてきている。多少は俺に対して仲間意識があったという事なのだろうか?

 

「...はぁ。分かった、セリューは俺の邪魔をするってんだな? で、そっちの二人はどうするよ? 俺にもあんまり時間がないんだ、さっさと身の振り方を考えろ」

 

 まあ、仲間意識があろうがなかろうが関係ない。重要なのは、俺の邪魔をするのか否かという事だけだ。

 

 対話と並行して、気配を探ってシャルロット達の状況を大雑把にだが把握する。

 今はまだ、シャルロットやラウラに大きな怪我は無さそうである。ワイルドハント全員を一気に相手取っているらしいが、モードレッドの活躍もあり、互角にやり合えている。まあモードレッドが本気を出したらワイルドハントなんざ一瞬で灰になりそうなものだが、そこは上手く力を抑えているのだろう。今回の主役はシャルロットだ。

 

「...リョータ。貴方は言いましたね、ワイルドハントだけが標的だ、と。 ではなぜ、エスデス隊長や帝国兵の皆さんまで襲っているのですか?」

「言ったろ。俺達の邪魔をしたからだ」

「邪魔ですか...。ではなぜ、ワイルドハントにこだわるのですか?」

「俺の仲間が手を出されかけた」

「手を出されかけた?」

 

 不思議そうに繰り返すラン。未遂に終わったのになぜ仕返しをするのか、などと考えているのだろうか?

 

「.....分かりました。ワイルドハントを...あの男を始末できるのであれば、私は貴方の邪魔はしません。その代わり、私を同行させてください」

「は? え、断るけど」

 

 急に何言い出してんのこいつ?

 

「...どうしても、ですか?」

「いやまず意味が分からねぇんだよ、っと」

 

 襲いかかってきたコロを右足の回し蹴りで文字通り一蹴しつつ、ランに問い返す。ランが何を企んでいるのかは知らないが、連れて行くデメリットはあってもメリットが一切無い。

 

「チャンプ、という男を覚えていますか? 球の帝具を扱う、太った男です」

「ああ? あー...うん。いたな、そんな奴も。で?」

「私はその男に怨みがある。私が自らの手で殺さなければ気が済まない程に...。本来はもう少し時間をかけるはずでしたが、今こうしてチャンスが目の前に転がっている。これを見逃さない手は無いでしょう」

「へぇ...」

 

 意外だな。ランがここまで殺気立ってるのは珍しい。まあ珍しいっつっても、せいぜい数ヶ月程度しかランとは共に行動していないのだが。その間しかランの事を見ていないのに珍しいもクソもないか。

 

「じゃあ好きにすればいいさ。邪魔しないってんなら、俺にお前を攻撃する理由は無い」

「ありがとうございます」

 

 ランが俺を油断させようとしている、という線も捨てきれないが、その時はその時だ。寝首をかこうってんなら素直に返り討ちにするまで。何も問題無いな。

 

「ラン! 貴方まで悪に堕ちるんですか!」

「セリューうるさい」

 

 言って、コロをぶん投げてセリューにぶつける。

 セリューはDr.スタイリッシュにより体を弄られている、いわゆる改造人間だ。あの程度で死にはしないだろう。まあ生かしておく理由も既に無くなったのだが。

 

「クロメ。あとはお前だけだ。 どうする?」

 

 セリューを物理的に黙らせたあと、俺はクロメにそう問う。

 彼女は理解しているはずだ。己の全てを使っても俺に勝てない事に。クロメはその辺の感覚は割と鋭いし、何より俺の実力はエスデスの無惨な姿が如実に語っている。あれを見てもなお、直線的で単調な攻撃を仕掛けてくるセリューは馬鹿なのだろうか?

 

「...あなたは、本当に反乱軍じゃないの? ナイトレイド...お姉ちゃんとは、本当に関係ないの?」

 

 だが、実力差を理解して尚、クロメにも譲れないものがあるらしい。

 ここで嘘はいらないし、今までもこいつらに嘘をついた事はない。...あ、いや、一回だけあるか。

 まあとにかく、ここは正直に話そう。はぐらかす様な言い方じゃなく、嘘偽りの無い真実を。

 

「俺は反乱軍じゃない。これは断言する。けど、無関係って訳でもないな」

「それは、どういう意味?」

「そうだな...。単刀直入に言う。俺はナイトレイドとの繋がりがある」

「「っ!!」」

 

 俺の言葉に、クロメだけでなくランも驚愕に目を剥いた。

 

「でも、お前らについた嘘は一つだけ。タツミについてのみだ。それ以外は全て真実だよ」

「タツミ? ここでその名が出てくるという事は...」

「...タツミも、ナイトレイド?」

「ああ」

 

 短い返事を返し、さらに俺は言葉を続ける。

 

「勘違いの無い様に言っとくが、俺はナイトレイドの構成員じゃない。簡単に言えば居候だ。何回か家賃替わりに仕事を手伝ったりもしたがな」

「居候...? すいません、リョータ。話が全く見えない」

「簡単な話だよ。俺は帝国に拠点が無かった。セリューに襲われた時にナイトレイドとも会ってて、成り行き上そいつらと同行した。なんやかんやあってナイトレイドと仲良くなった。こんだけ」

 

 本当に成り行きでしかない。もしあの時、セリューが俺達を攻撃してこなければ、俺達は帝国側に居候していたかもしれないしな。

 

「まあ重要なのは、俺は反乱軍の仲間でも、帝国の仲間でも無いって事だ。ナイトレイド、アカメとはもちろん関係があるが、顔見知り程度だな」

 

 一緒にいた時間はイェーガーズの方が圧倒的に長いし、もしナイトレイドとイェーガーズのどちらかを選べと言われれば、俺はイェーガーズを選ぶ可能性もある。所詮はその程度の関係でしかない。まあ気に入ってはいるのだが。どちらかと言われればイェーガーズかな、うん。

 まあ現段階ではどっちを選ぶとかの話では無く、どっちが俺達の邪魔をするのかってところが重要なわけだが。

 

「反乱軍じゃない...でも、帝国の味方でもない。そういう事?」

「ま、そうだな」

「...帝国に牙を剥く気は?」

「さあな。そこはあの大臣の出方次第だ」

 

 まあ、既に大将軍を二人も戦闘不能に追い込んでいるので、帝国側としては俺らの事を敵認定せざるを得ないかもしれないが。

 

 俺の答えを聞き、未だ自分の答えを出せずにいるクロメに、俺から声をかける。

 

「邪魔する気が無いならそこをどけ。迷ってんなら道を譲れ。ま、邪魔するってんなら俺は押し通るだけだけどな」

 

 言って、俺は一歩を踏み出す。

 クロメは動かない。というより、どうすれば良いのか分からないのかもしれない。

 クロメには仲間もいるし、いた。過去に死んでいった、帝国に洗脳されていた仲間達がいたのだと、いつかアカメから聞いた事がある。だからクロメは帝国を裏切らない。失った仲間達の為にも裏切れないのだと。

 

 

 

 ──正直、知ったこっちゃない。

 

 死んだのなら、それは死んだ奴が弱かったのが悪い。守れなかった奴が弱かったのが悪い。弱さは絶対悪だ、とまでは言わない。だが、自分が弱かったが故に起きた悲劇であれば、恨むべきは自分。そして、己の弱さ故に死んでいった故人、自分の弱さ故に守りきれずに死んでしまった仲間に対して出来る償いなど、存在しない。それが俺の持論だ。反論は認めるが、俺はその反論意見を肯定しないだろう。

 

 

 

 閑話休題(まあ、そんなどうでもいい話は置いといて)

 

 

 

「ラン。お前、本当にいいんだな?」

 

 立ち尽くすクロメを抜き去り、尚も着いて来るランに向かってそう聞く。

 

「...ええ」

「あのな、ラン。俺は別に、俺らに協力しなけりゃ潰すなんて言ってないんだぞ? 大人しく道を譲るんなら手出しはしない、そう言ってんの」

「...分かっています。ですが、私は元々、帝国を中から変えるつもりでイェーガーズに入隊しました。反乱軍の様なやり方に頼らず、帝国を変える手段を取ろうと考えたからです」

「だったら余計ダメじゃね? 俺、下手すりゃ大臣の息子諸共に帝国を滅ぼすかもしれねぇんだけど? そんな覚悟決めてまで殺したいのか、そのチャンプルーって奴を」

「チャンプです。...はい。私は、あの子達の無念を晴らし...何より、私自身の胸に住まうこの憎悪をあの男にぶつけなければ気が済まない」

「...ふぅん」

 

 ランの過去に興味は無いが、それなりの理由があるようだ。

 であるならば、俺はこれ以上ランを止めない。

 

「じゃ、行くか」

「はい」

 

 クロメは動かない。未だに動けないのか、動かない事が彼女の出した答えなのか。どちらかは知らないが、動かないのであればどちらでも構わない。

 

 だがここで、一人と一匹が立ち上がる。

 

「──...コロ、“狂化”ァ!!」

「Graaaaa!!!!」

 

 セリューが息を吹き返し、コロの奥の手を使用したらしい。

 どこぞの大英雄の様に肌を赤黒くさせたコロが、宮殿を揺らすのではないかと錯覚させる程の咆哮を上げる。

 本来であれば、この不意打ちの様な超音波に耳をやられるのだろう。下手をすればバランス感覚まで狂うかもしれない。現に、隣のランは耳を抑えてフラフラとしている。

 だが、俺にとってはなんの脅威でもない。ただの耳障りな音だな、程度の認識だ。なぜなら──

 

「あの地獄(ジョイント・リサイタル)に比べりゃあ、なんてことねぇんだよ」

 

 その奇声は人の正気を狂わせ死に至らしめるという、狂響植物マンドラゴラ。その狂声を軽く相殺出来るだけの声を持つ者が二人、互いの声を殺すこと無く、むしろ相乗効果を生むかのようにデュエットするというこの世の地獄。

 俺はその地獄を三度超え、更には単独ライブにも両手では足りない程に強制参加させられている。そんな俺に音波攻撃を仕掛けてくるとかまじ浅はか。

 

 俺に攻撃が効いていないとはつゆ知らず、セリューの指示に従ってコロが突進してくる。大型トラックですら正面からぶつかったらひしゃげるであろう威力の突進を、俺は足で受け止め、そして蹴り上げた。

 

「覚悟はできたな? セリュー」

 

 言って、空中にいるコロの元まで跳ぶと、まるで初めて会合した時のような構図になった。

 セリューは目を見開いている。数ヶ月も一緒に活動していて、俺をこの程度で殺れるとでも思っていたのだろうか? だとしたら本気で浅はかすぎる。

 邪魔するのであれば、俺はセリューを敵と見なす。だがまあ...きっと、俺はイェーガーズに絆されたのだろう。殺しはしない。半殺しだ。

 

「──星のように...」

 

 コロの足を掴み、セリューへと投擲する。

 肥大化したコロの巨体はセリューへと命中し、セリューはコロと床にサンドされた。だが、これでは終わらない。殺しはしないが半殺し。意識くらいは刈り取らねば。

 

 さすがに投げ飛ばされた程度では大したダメージは入らなかったらしく、コロが起き上がろうと床に手をつく。その隙間からはセリューが這い出ようとしていた。

 

「逃げ場は無いぞ」

 

 腕立ての要領で起き上がろうとしているコロの背中を殴りつけ、そのまま連続で拳を振るう。床には亀裂が入る程の衝撃が行き届き、コロの下敷きになっているセリューも無事では済まない。

 

「鉄拳」

 

 連打を止め、溜めを作って右の拳を握りしめる。

 

「聖裁ッ!!」

 

 そして、コロの背中へ振り下ろした。

 

 言っておくが、本気ではない。本気で殴ったらコロが死ぬ。核ごと爆散して終わりだ。愛知らぬ哀しき竜のように。...タラスクは何度蘇り、そして何度爆散したんだろうか? 愛を知らないんだぞ、もっと優しくしてやってよ聖女様っ! と思った事も一度や二度ではない。ハレルヤ(神を賛美せよ)とか言いながら容赦無く相棒を粉砕する聖女サマまじイェーガー。

 

 まあ、とにかく。

 

「んじゃ、急ぐぞ、ラン。今ちょっとシャルロットがピンチだから」

「.......え? あ、はい」

 

 呆けていたランを呼び、駆け足で廊下を行く。

 セリューとコロは完全に気絶しているし、クロメは俺達の邪魔をする気は無いらしく突っ立ったまま。残る不安要素は羅刹四鬼くらいか。まあ不安になるほどの敵じゃ無いが、一般兵と比べれば強い。警戒しないよりはマシだろう。

 

 

 つい数十秒前、俺がコロを蹴り上げたのとほぼ同時に、シャルロットが吹き飛んだ。相手は恐らく大臣の息子。ISの絶対防御があるためにシャルロットは無事だが、心配なものは心配だ。

 どう処分してやろうかあの野郎、などと考えながら、俺はランのギリギリ着いてこれる速度で廊下を駆けた。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

「.....ふむ。モードレッド、説明」

「...シャルロットが雷使った」

「.......ほう?」

 

 現場に駆け付けた俺が見た光景は、プスプスと黒煙を上げながら倒れ付す大臣の息子と肩で息をするシャルロット、という図だった。

 何が起きたのか分からないが、なんやかんやでシャルロットが勝った事は分かる。

 

「まあ、なんつーか...。お疲れさん、シャルロット」

「はぁ...はぁ.....り、凌太...。へへっ、僕、勝ったよ...?」

「ああ、頑張ったな。おめでとう」

 

 言って、シャルロットの頭を撫でてやる。

 何をどうやったのかは知らないが、頑張ったのなら褒めてやらなければ。

 シャルロットがどうやって大臣の息子を倒したのか、シャルロットが雷を使ったというのはどういう事なのか。色々と気になる事はあるが、まずは別にやるべき事がある。

 

「さて、残りのワイルドハント諸君。テメェらのリーダーはウチのシャルロットが倒した訳だが...まだやるか?」

「あ゙? 上等だ、かかってこいやゴラァア!!」

 

 慈悲のつもりでかけた忠告は意味を成さず、おかっぱ頭の男が興奮した様子でそう叫ぶ。自分らの頭がやられた上に俺とランが増援として来たというのにこの態度。随分とオツムが緩いらしい。

 

 よろしい、ならば殲滅だ。

 

「ラン。チャンプって奴はあのデブでいいんだな?」

「ええ、間違いありません」

 

 少し見渡し、ピエロの様な男を指差してランに問うと、ランから肯定の声が聞こえてきた。

 

「よし。ならアイツはお前が殺れ。危なそうだったら援護もしてやる。モードレッド! あそこのデブピエロ以外はフルボッコだ! 皇帝に突き出すのは大臣の息子だけで十分だろうから、手加減は要らねぇぞ!」

「ハッ! 了解!! 行くぞ、有象無象共がッ!」

 

 漸く本気を出せる様になった事で興奮しているのか、モードレッドから赤雷が迸る。モードレッドがあんなにやる気出してるんだし、もう俺いらないんじゃないかな。

 

「ラウラ、お前は大臣の息子持って一旦下がれ! 巻き添え食らうぞ!」

 

 そうラウラに告げ、俺もシャルロットを抱きかかえて後退する。

 モードレッドがその気になれば、ワイルドハントなど瞬殺できるだろう。しかし、それと同時に宮殿の耐久値もマッハで減る。現に、モードレッドが魔力を放出しただけで壁に亀裂が走っていた。先程までの戦闘でもギリギリで保っていただけだったのだろう。このままじゃ生き埋めだ。

 

「モードレッド! 俺らは一旦外出とくから、気が済んだらお前も来い!」

 

 モードレッドの返事を待つ事無く、俺はラウラと共に今来た道を戻る。

 廊下を駆け始めて数秒後、後方から盛大な破壊音と砂塵が舞った。

 

「やっべ...! 急ぐぞラウラ! 全力で飛ばせ!」

「言われなくてもやっている!!」

 

 如何にISと言えど、瓦礫の山の下敷きになって無事でいられる保証は無い。出来るだけ早く宮殿を出なければならないだろう。

 

 ...にしてもモードレッドの奴、ちょっと暴れ過ぎなんじゃねぇか? アイツだって、ラウラやシャルロットが生き埋めになったらヤバいかもしれない事は分かってるだろうに。ワイルドハントが相手なら、俺達が宮殿の外へ出るまでの時間など十分に稼げるはずなんだけど...。

 

 ──もしかして、この揺れの原因はモードレッドじゃない?

 

 その思考に至った俺は、以前小耳に挟んだ言葉を思い出した。

 帝国の最終兵器、至高の帝具。何の誇張も無く、正真正銘最強の帝具がこの帝国にはある、と。

 

「ッ!」

 

 俺は走る事を一旦止め、天井に向かって雷砲を放つ。

 天井に直径五メートル程の風穴を開けると、それに向かって跳躍した。

 

「ラウラ!」

「あ、ああ!」

 

 跳ぶ間際、ラウラの名を呼んで着いて来る様に顎で指示する。

 俺の意図は十分にラウラに伝わったようで、多少困惑気味ではあるものの、俺に続いて天井の穴へ飛び込んだ。

 

 天井をぶち抜いて急造した脱出路を抜け、俺達は宮殿の外へ出る。

 俺もトニトルスを展開して浮遊し、宮殿から十分な距離を取った。帝具によって飼われている飛行型の危険種が襲い掛かってくるが、それらの尽くを問答無用で蹴散らす。

 

「どうしたのだ、凌太。何をそんなに焦って...」

「構えろ、ラウラ」

 

 言って、更に上昇しつつ宮殿を見下ろす。

 不思議そうにするラウラだったが、大人しく俺の言葉に従って身構えた。

 俺達の見下ろす宮殿の揺れは、未だ収まっていない。モードレッド達が戦っている場所は特にだが、宮殿全体が揺れているのだ。

 

「ね、ねぇ、凌太...。これ、もしかして地震...?」

「違うだろうな。ほら、見てみろお前ら。帝国最終兵器のお出ましだ」

 

 何か嫌な予感でも感じ取ったのか、多少震えた声で疑問を口にする。

 だが、シャルロットの嫌な予感は的中していた。斯く言う俺の予感も正しかったらしい。

 

 宮殿が割れ、そこから推定高度百メートル超えの巨人が現れた。

 マントを羽織り、その顔を厚いフィルムで覆った巨人はゆっくりと首を横に回し、そして俺達の方を見て首の動きを止める。

 

「...なぁ嫁よ。あの巨人、私達を見てないか?」

「.....ああ、見てるな」

「...なんか、エネルギー砲みたいなのを撃つ準備してない?」

「.....ああ、してるな」

「「...ヤバい?」」

「.....ヤバい」

 

 その瞬間。眩い紅の閃光が、俺達の視界を覆い尽くした。

 

 

 

 




結局帝国潰さなきゃ話が収まらなくね?
とか思いつつある今日この頃です。

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