場面は護堂がペルセウス倒した後日です。
強者
暗い。何処までも続くのではないかと錯覚されるほどの暗闇。
そこを俺は一、二分程漂っている。
ナニコレ怖い。
体は動くものの、移動手段がない。
ただただ何処かへプカプカと流れていく。
「え、これマジでどうなんの?」
不安が俺を襲うなか、俺の進行方向に小さな光が差した。
一応、暗闇から出れそうだと思い安堵の息を漏らす。
いや暗闇を数分間漂うとか、本当に怖かったよ。
帰ったら絶対殴るぞあのクソジジイ!
決意を新たにしていると、光がどんどん近づいて来て、俺はその光に包まれた。
* * * *
「...ん、んん?なんだここ?」
光を抜けたその先に広がっていた景色は、完全無欠の異世界でもなく、かといって俺のよく知る日本でも無かった。
目の前には無数の瓦礫の山々。
おそらくそこに点在していたであろう建物は跡形も無く、見渡す限り、無事な建築物は見当たらない。
「...世紀末か何かか?」
今にも棘付きの肩パットを身に付けたモヒカン集団が出てきても可笑しくない光景に呆然となる。
どうしようもないので、スマホを取り出し爺さんに電話をかけようとすると、遠くから爆発音の様な凄まじい轟音が響いてきた。
「......行動しないと何も始まらないか...」
そう思い、スマホをしまって音のする方へと向かう。
未だ轟音が聞こえるので、一応注意しながら進んでいく。
「なーんか嫌な予感がするな...」
息を潜め、瓦礫の山に隠れながら暫く進むと、遠くに人影らしきものを見つけた。しかも複数名。
そいつらが、雷を出したり剣で斬りかかったりと戦闘を繰り広げている。
アイツらがこの轟音を出している張本人であると思っていいだろう。
箱庭に行った後だからか、人が雷纏ってても不思議に思わなくなってるなー、俺。
そんなことを考えながら、もう少し状況を見極めようと近づいていく。
するとだんだん、戦っている奴らの顔が見えてきた。
てか、1人飛んでるな。空飛びながら雷振りまくとか、お前は神か。
状況的には、その空を飛んでる顎髭生やした雷男 VS 2人の女の子+男1人、か。奥にもう1人、巫女服の女の子がいるけど、戦闘には参加していないのでノーカウント。
というか、今戦っている4人。なかなか強いな。
特に男2人はヤバイ。十六夜(モンスター)感が出てるよ。
くわばらくわばら、と手を合わせた後、これからどうしようかと引き続き様子を見ていると、空を飛んでる方の男がこちらに視線を向けた。
「む、新たな人間か。ふむ、人間にしてはなかなかな呪力だな。しかし、増援にしては些か弱すぎるのではないか?」
ヤッベ見つかった!
反射的に隠れていた瓦礫から飛び退くと、一瞬前まで俺がいた場所に雷が落ちてきた。
瓦礫は消し飛び、俺の姿があちらから丸見えになってしまう。
「オイオイ、いきなり雷ブッパとはどういう了見だコラ!危うく死ぬところだっただろ!」
怒りを顕に、空飛ぶ男を怒鳴りつける。
当たってたら普通にヤバかったぞ今の!
「な!?一般人!?」
「どうしてこんなところに!住民の避難は済んでいたのではないのか?」
「いや、日本語話してたし、たまたま逃げ遅れた旅行者とか、そんな感じだろ。オイ!そこのお前!早く逃げろ!」
順に金髪少女、銀髪少女、黒髪少年が叫んでくる。
が、それを遮るかのように雷が数発落ちてきた。
俺は第六感とか、直感とかそんな感じのを感じて避けるが、1発だけ喰らってしまう。
「ちっ」
「オイ!大丈夫か!?」
黒髪少年が心配して声をかけてくる。
いや、大丈夫か?てお前。一般人は雷喰らったら即死だろ。いやまあ俺は常人じゃないから無事だけれども。
「大丈夫大丈夫。大丈夫だけどアンタは殴る。一般人だったら即死だぞこの野郎」
黒髪少年の方に手を挙げて無事を示し、続いて飛んでる雷男を睨みつける。
「嘘!?雷が直撃して無傷!?」
金髪少女が驚愕した表情を向けてくる。
...うん、キチガイじみてきてるのは自覚があるよ。
「ほう?思ったよりは楽しめそうだ。よいぞ、かかってこい人の子よ」
「上等!」
ニタリと口角を上げ、地上に降りてくる雷男。
俺は思いっきり地面を踏み抜き、ヴォルグさんに速いと言わしめた速度で接近。そのまま、雷男の顎に拳を叩きつける。
しかし、俺の拳が相手に当たることは無く、雷の壁の様なものに阻まれた。
「フン!!」
雷男が拳を握り、俺の腹へと打ち込こまれめり込んでいく。
「カハッ!」
肺にあった空気が一気に外に出ていき、くの字に折れ曲がりながら少年少女がいる方へと吹き飛んでいく。
「よっ、と!大丈夫か?」
「ぐぉぉ...。な、なんとか...」
吹き飛んだ先で黒髪少年にキャッチされ、瓦礫に突っ込む様な事態は回避した。
だが、ヤバイことに変わりはない。
今のままの俺じゃ、あの雷男の障壁の様なものを突破することが出来ない。どうすんべ。
「護堂!あなたは1度その子を連れて祐里のところまで下がって、怪我の回復に努めなさい!数分は私とリリィで抑えるわ!」
「分かった!エリカ、リリアナ、無茶はするなよ!」
金髪少女に言われて、黒髪少年改め、護堂は俺を抱き抱えて後ろに退る。
...人生初のお姫様抱っこを男に奪われた...
「護堂さん!大丈夫ですか!?」
万里谷と呼ばれた少女が護堂の下へと駆けつける。
「ああ、なんとかな」
護堂は俺を降ろし、自身の腹部を抑える。
よく見るとその部分の服には穴が空いており、そこから血が今も流れている。
「護堂さん、あの神の名が“視え”ました」
「......ここでやるしかないのか?」
護堂が俺の方を見て、なんとも言えない表情を浮かべる。
なんだ?俺がいちゃまずいのかね?
まあ、何をするのか知らないが、その前に聞くことがある。
「神?あの雷男って神様なわけ?」
「え、ええ。まつろわぬペルーン神、スラヴ神話の頂点とも言われる雷神です」
「武神の次は雷神かー...。てかなんで、神様ってのは有無を言わせず攻撃してくるんだ?」
爺さんも俺が気付く前に俺を殺したって言ってたし、何なんだよ神ってのは。
「と、とにかく!貴方は逃げてください!ここは危険ですから!」
巫女少女改め、万里谷が俺にそう言ってくるが、逃げられないでしょこの状況。
「たぶん、逃げようと背中向けた瞬間雷降ってくるぜ?それに俺は多少なりとも強い自信があるからな。大丈夫だ」
サムズアップして万里谷さんにそう言う。
見たところ十六夜や白夜叉より強くはないだろう。ここで逃げてたら、十六夜達にも勝てねえよ!
ギフトカードから『
「そっちは何か、俺がいちゃ不味い事をするんだろ?なら俺は、あの2人と一緒に雷神の足止めでもしておくよ。あの娘ら、そろそろヤバそうだし」
「な、オイちょっと待て!」
護堂が静止をかけてくるが、止まらない。
槍を構え、一直線に雷神に接近する。
「また来たか」
「ただいまッ!」
一気に懐近くに入り込み、槍で腹を目掛けて突く。
またもや雷の障壁に阻まれそうになるが、さすがは対神性と言ったところか。障壁を消し飛ばし、雷神の腹を貫いた。
「ぐおぉ!」
雷神が呻き声を上げ、俺を引き離そうと大量の雷を放ってきた。
さすがに何発もの雷に耐える事は出来ず、俺は地に落ちた。
「チィ!」
あと1発、心臓か頭を穿てば勝てたのに!
悔しい思いを舌打ちというかたちで漏らし、再び雷神に向かおうとするが、近くに銀髪少女が倒れているのを見つけた。
おそらく、さっきの俺への攻撃のとばっちりを受けたのだろう。金髪少女も心配そうに寄り添っているが、そちらも満身創痍な感じだ。
このまま俺が戦い続けるのは不味い。この2人、雷の余波だけで死にかねないぞ。
「大丈夫か?護堂のところまで避難できそうか?」
「ッ!大丈夫よ、まだ、行ける。戦えるわ」
「いや、君が大丈夫でもそっちの銀髪少女は無理だろ。気絶してるんだし。ここは俺がどうにかするから、その子連れて下がってなよ」
そう言うと、金髪少女は悔しそうに口を結び、銀髪少女を抱き抱えて下がっていった。
「さてと、待たせ」
たな、と続ける前に、雷神がこちらに斧を振り下ろしてきた。
神速の一撃に、俺は防ぐことも避けることも出来ず地面にめり込む。さらにその上から無数の雷が落ちてくる。
「......次はあの小僧らか」
そう言って、護堂たちの方へ飛んでいく雷神。
俺は叫ぶ事さえ許されないその攻撃に、簡単に意識を奪われた。
* * * *
「っ!ガハッ!」
意識を取り戻した瞬間、咳と共に喉の奥から多量の血が出てきた。
それらを全て吐き出し、周りを見渡そうとするが、体の自由がきかない。
うつ伏せのまま、できる範囲で周囲を見渡す。
「な、」
そこはまさに地獄。
周りには轟々と燃え続ける炎、空から落ちてくる雷、地面にはクレーターがいくつも出来上がっている。
俺の目線の少し先には金銀少女"sが倒れており、その更に先には、仁王立ちの雷神と、その足元に転がる護堂がいた。万里谷さんの姿は見えないが、おそらく何処かで倒れていることだろう。
こちらに気づいた雷神の獰猛な笑みを見た時、俺に死の恐怖が芽生えた。
――どうしてこうなった?
俺は普通に生活していただけなのに、急に変な自称神の爺さんに殺されて、転生させられて...。
箱庭は楽しかった。まだ少ししか過ごしていなかったけれど、強い奴らがたくさんいて、面白い事がたくさんあって、ロマン溢れるところだった...。
そこに、新しい家が出来た。まだ2人だけだけど、心強い仲間、家族みたいな人達が出来た。
約束もした。ゲームをしようと。また必ず帰ってくると。
なのに、なんだこのザマは?また、殺されるのか?
――――――嫌だ。
まだ俺は何もしちゃいない。コミュニティだって作ったばかりだし、ヴォルグさんや爺さんにお礼も言ってないし、爺さんをまだ殴ってない。
十六夜達“ノーネーム”にも勝ってないし、まずゲームすらしていない。白夜叉とも戦いたいし、“世界の果て”のその先や、箱庭上層の景色も見てみたい。
行きたいところややりたい事ならまだまだある。満足なんか全然出来てない。もっと、もっと色々な事がしたいし、そして何よりも、
――――生きていたい。
そうだ、俺はまだ死ねない。死んでなんかやるものか。やりたい事をやりきるまで、俺が満足しきるまで、俺は意地でも生きてみせる。
「う、おォォォ!!」
「フン。まだ立つのか、人の子よ」
立ち上がって天を仰ぎ、その後に雷神を双眼でしっかりと見る。
「――こんなところで負けてはいられない。この勝負、何がなんでも俺が勝つ。俺がそう決めたんだ。だからお前は、ここで大人しく負けていろ」
そう、宣言したその瞬間、
俺の内で、重い門が開くような音がした。
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