まさか一ヶ月も間が空くとは...。エタったわけでも、エタる予定も無いので、どうか最後までお付き合いください。本当にすいませんでした。
「つまり、シャルロットが一人でアイスを買いに行った際に不運にもワイルドハントと遭遇。剥かれかけたところにラウラが来て二人で何とか逃げた、と」
「……うん」
「その時モードレッドは?」
「オレは元々遅れて来る予定だったんだ。でも…こんな事になるんだったら一緒に来れば良かった!」
モードレッドが怒りに任せて床を殴ると、木製の床は簡単に壊れる。破壊された床を見て、俺も同じく怒りのはけ口からくる破壊衝動に駆られるが、そんなことをしても俺の怒りは収まりそうにない。まあ、それはモードレッドも同じだろうが。
「モードレッドは悪くねぇよ。俺が事前に気を付けておくべきだった」
ワイルドハントと遭遇すればシャルロットやラウラだけでは対処しきれないかもしれないという可能性は、少し考えれば出てきたはずだ。それを、モードレッドがいるから大丈夫、などと完全に思い込んでいた。これでは何の為に俺とモードレッドが付いて来たのか分からない。
「ま、反省は後からだ。今は大臣の息子とワイルドハント、ついでに帝国をまとめてぶっ潰すぞ」
「当たり前だ。誰の仲間に喧嘩を売ったのか、絶望するまで教え込んでやる!!」
俺が立ち上がり、モードレッドも続いて立ち上がる。
「しかしだな。帝国の殲滅など、私達だけで決行していいのか? いや、戦力的な意味ではないのだが、せめてナイトレイドには伝えるべきだろろう」
「じゃあ伝えよう。今から式神でも飛ばして、あいつらが来る前に全て終わらせる。 ま、今の時点で何人かは帝都中にいるから、そいつらは間に合うかもしれないけどな」
「それは伝えたと言えるのか…?」
「言えるさ。それにな、ラウラ。俺は身内がやられた分は自分達でやり返さなきゃ気が済まないんだよ。ナイトレイドなんかに任せられるか」
そもそも、今のナイトレイドの戦力では帝国全体をいっぺんに相手にするのは難しいだろう。新メンバーが加わったらしいが、それでもエスデス一人に及ばない。明日、エスデスがいなくなった頃合いを窺うという手段もあるが、そんな面倒なことをするなら俺達だけでやった方が何倍もマシだ。
「とりあえずはワイルドハントへの逆襲が最優先だ。帝国も反乱軍も、あっちから仕掛けてこない限りは基本無視でいい。ラウラは帝具も使っていいぞ。それからモードレッド、大臣の息子は殺すな」
「了解だマスター。死んだ方がマシと思えるくらいのトラウマを植え付けるんだな?」
「
さすがモードレッド、俺の思考を理解しているな。
「…ごめん、みんな。迷惑かけてるのは分かってるんだけど、一つだけ我儘を言ってもいいかな?」
俺とモードレッドが頷き合い、ラウラが若干引くなか、シャルロットがそう口を開いた。
「ん? ああ、いいぞ」
別段断る理由も無いので、頷いてシャルロットの我儘とやらを聞くことにする。
「…あのね、僕に絡んできた人…シュラって言ったけ。その人、僕が相手をしてもいいかな?」
「…なんでだ?」
理由は簡単に推し量れるが、一応念のために聞いておこう。
「だって、やられたのは僕だもん。とっても嫌な思いをして、とっても怒ってるんだよ! さっきまでは『怖い』っていう感情の方が強かったけど、今は心底腹が立ってるんだ!」
憤り、熱が入ったように感情を吐露し始めたシャルロット。その目からは「あの野郎、絶対に殴る」という強い思いが見て取れた。
………あれ? シャルロットって、こんな血の気の多い
問題は、シャルロットが大臣の息子に勝てるのか、ということだが…まあ、本人がやりたいと言っているのだからそれを尊重してやりたい。厳しそうだであれば俺も参戦する。あくまでメインはシャルロットなので、後方援護に徹しよう。俺やモードレッドの怒りの矛先は……ほかのワイルドハントの連中でいいか。
* * * *
「あれ? リョータさん? こんな夜更けにどうされたんですか? それに、その後ろの方達は…?」
ワイルドハントハント計画が立ってから数十分後。
俺、モードレッド、シャルロット、ラウラの四人は帝都中心に聳える宮殿の門前へと赴いていた。
そこで俺達の姿を確認した門番が、不思議そうに聞いてくる。
彼の質問に答える義務などありはしないが、答えない理由も無い。ここで下手に時間を食うより、ある程度の答えを返した方が早いだろう。
「ちょっと大臣の息子に用事がな。後ろの三人は俺の仲間だ。とりあえずここを通してくれ」
「仲間…? ああ! 噂のハーレムですか!? いやー、全員可愛くて羨ましいなー! 最近はセリューさんもその毒牙にかけたとかかけてないとか」
「なにその噂、初耳なんだけど。出所詳しく」
「それよりもそのセリューさんって人について詳しく。僕知らないんだけど?」
「嫁…お前という奴はまた…。次はどんな女だ」
シャルロットとラウラにそう迫られるも、俺は知らない悪くない、としか答えることが出来ない。呆れたような態度のモードレッドがわざとらしく咳をしたところで俺達は本来の目的を思い出し、この問題の談義は全てが終わった後に回す事になった。
ニコニコと笑う門番に軽い殺意を飛ばしつつ、俺達は宮殿の門を潜った。
既に大臣の息子の位置は把握しているため、迷いなく歩を進める。現在、大臣の息子は寝室にいるようだ。
「ラウラ。噴水とかを見かけたら出来るだけ触っとけよ」
「ああ、分かっている」
宮殿内には景観を良くする為なのか、噴水がいくつか作られている。それらの水に触れれば触れるほどに、ラウラの手数は増えていく。この帝具を宮殿内で使うということは、自分達が三獣士を殺ったと公言しているようなものだが、今はそんな事は関係ない。
「──陛下の城で、無粋な殺意を振り撒いているのは誰だ」
最短距離を行くために中庭を突っ切っていると、予想通りの番人が俺達の目の前に現れる。
「どけ、ブドー。今はお前に用なんて無いんだよ」
溢れる殺気を抑えることなく、俺はブドーを見上げてそう言う。
宮殿の番人、大将軍ブドー。彼もまた、エスデスと並んで帝国最強と謳われている男である。
それを聞いた時「はて? 最強が二人いるとは一体?」という感想を抱いたのだが…はっきり言おう。エスデスの方が強い。故に帝国最強はエスデスであり、ブドーは二番目なのである。
まあ、そんなどうでもいい情報は放って置いて。
「リョータか。今の貴様にこの宮殿へ足を踏み入れる資格はない。早々に立ち去れ」
「話を聞かねぇ野郎だな、お前も。そこをどけっつてんだ。三度目は無いぞ」
「話を聞かぬのはそちらだ。リョータ、貴様が引かぬというのであればこちらも──」
威圧感を増し、俺達に一歩近付いたブドーだったが、言葉を言い終える前にその姿は掻き消え、同時に右側の壁が豪快に弾け飛んだ。
「警告はしたぞ」
一言添え、
「なあマスター。今の奴って確かブドーとかいう大将軍だろ? 殺したのか?」
「さぁな。まあ、アイツも雑魚じゃない。まだギリギリ生きてんじゃねぇの?」
別に殺すつもりの攻撃ではなかった。当たり所が悪ければ分からないが、あの程度ならば耐える事も出来るだろう。まあ、少なくとも一ヵ月はまともに動けなくなっているかもしれないが。
「んなこた今はどうでもいい。それよりシャルロット。もうすぐ大臣の息子とのご対面だ。気ぃ締めろよ」
「う、うん…!」
緊張した面持ちで、シャルロットが返事をする。
シャルロットではシュラに勝てない。ISを装備しても、ギリギリでシュラに軍配が上がる可能性が高いだろう。
だがそれでも、シャルロットは戦う意思を俺達に示した。だったら、それを応援せずして何が仲間だろう。
俺に打てるだけの手は打った。後はシャルロットがどこまで頑張れるかだ。もちろん、頑張りだけではどうにもならないかもしれない。実力差という厳しい現実は確かに存在する。だが、そんなものはいくらでもひっくり返せることを俺自身が証明してきた。ならば、シャルロットにもそれを期待してみようじゃないか。
「もし本当にヤバそうだったら、俺かモードレッドが割って入る。だから、って訳じゃないけどさ。当たって砕けるつもりで挑んで来い」
「砕けちゃうの!?」
「いや、できれば砕けてほしくないんだけどな」
そんな多少気の抜けた会話をしていると、せわしない大量の足音が夜の宮殿内に響きだした。先ほどの音で叩き起こされた兵士達がこちらに向かってきているのだ。
その中にはもちろん、イェーガーズのメンバーのものも含まれている。今確認できるだけで…五人か。結構多い、というかボルス以外全員いやがるな。すぐに到着しそうなのは二人。他はまだ遠い。
「さっきも言ったけど、ワイルドハント以外は基本無視でいい。邪魔する奴だけ薙ぎ払え」
「「「了解ッ!」」」
最終確認を終えたところで、俺達は大量の帝国兵達と接敵した。
俺の顔は宮殿内で割と知れ渡っている。それは当然、イェーガーズ所属、つまりは仲間としてだ。故に、兵士達は俺を見ても敵意や殺気といったものを示さない。
「ッ! リョータ!?」
「ようウェイブ。悪いがここ、通らせてもらうぞ」
雑兵の中から見知った顔が現れたので、そいつに軽く声をかける。何度も言うが、今の俺達の標的はワイルドハントのみだ。そのほかは正直どうでもいい。
「ま、待てよ! さっきの馬鹿でかい音について、何か知ってるんじゃねぇのか!?」
「知ってるけど答える義理はねぇ。ウェイブ、俺達の邪魔すんな」
「ッ……!」
眼光鋭く、ウェイブを射抜く。
萎縮したウェイブを一瞥し、俺はシュラの居る所へとさらに歩を進めようとするが───
「止まれ、リョータ」
───そう易々と事は進まないらしい。
一瞬にして気温が下がる。つい今しがたまでは少し暑い程度の気温だったのだが、今では吐く息が白くなる程にまで低下した。周りを見れば、徐々に氷が張られていかれているのが分かる。
これは牽制だ。ここで大人しく止まらなければ敵として排除するぞ、という敵意一歩手前の警告だ。
だがそれは、俺に敵意を向けるというその行為は、俺に対してさして意味を成さない愚策である。
「我は雷、故に神なり」
久々の聖句を唱え、雷電を放出する。
それだけで氷は掻き消え、兵士達も吹き飛んだ。シャルロット達に当たらないようにする為に多少出力を抑えてコントロールに徹した為、ほとんどの兵士は死んでいないだろう。だがそれでも、俺が兵士を攻撃したことは変えようのない事実だ。それは俺が、帝国に牙を剥いたという事実の裏付けに他ならない。
「……フン。私はお前を、それなりに高く評価していたんだがな」
「…一応、忠告はしといてやるよ。そこをどけ、エスデス」
雑兵がいなくなったことにより姿を目視で確認したエスデスへと、俺は雷を散らしながら忠言する。
「この私に命令するとはな」
「忠告だっつってんだろ」
「どちらも似たようなものだろう。そして、返事はもちろんNOだ」
「そうかよ」
エスデスの返事を聞くと同時、俺は雷撃を飛ばした。だが、それは幾重にも重ねられた氷壁によって拒まれる。
「チッ」
「雷、か。ブドーの奴から帝具を奪ったか」
「あ? あんなよく分かんねぇモンと一緒にすんな。自前だ」
言葉を交わしながらも、雷と氷の攻防は続く。雷撃は氷壁に阻まれ、氷は雷に破壊される。お互いに攻めきれていないのが現状だ。
半端な雷撃じゃ意味ないな。けど、モードレッドはともかく、シャルロットとラウラがいるのに室内で本気を出す訳にもいかねぇし…。
「大臣の息子はこのまま真っ直ぐ進んで三番目の角を曲がれば見つけられるはずだ。お前ら、先行け」
俺の言葉を聞いた三人は無言で頷き、攻防の合間を縫って駆け抜ける。
「行かせねえよ!!」
「うるせぇ、邪魔だ!」
グランシャリオを装備したウェイブがモードレッド達の前に立ち塞がるが、相手が悪い。
クラレントすら抜かずに、モードレッドが前蹴りを叩き込む。なんとか反応し、両腕をクロスして防御したウェイブだったが、蹴りの衝撃に耐えきれずに吹き飛ばされた。壁に激突し、その壁を破壊して俺達の視界からウェイブが消える。
蹴り飛ばしたウェイブを気に留める事もせず、モードレッド達はシュラを殴るために走り出した。
先ほどのブドーと似た状況に陥ったウェイブは、いくらグランシャリオを装備していたといっても、馬鹿には出来ないダメージを負っているだろう。ただブドーとは違って、きちんと反応して防御もしていたので、割とすぐに動けるようになるかもしれないが。
ブドーはノーガードの状態で、しかも俺に顎を蹴り抜かれたからな。ウェイブがあれを受けたら即死だっただろう。
……さて。
「エスデス。お前が俺を高く評価していたように、俺も割とお前を評価してる。俺やモードレッドには及ばないが、それでもこの世界でお前は最強に近いんだろう」
「ほう? 随分と強気だな、リョータ。私がお前より
「そうだ。けど勘違いすんなよ? 俺は本当にお前を高く評価してんだ。帝具の能力もそうだが、なによりその戦闘センスが良いな」
帝国最強として君臨する絶対強者。他を寄せ付けない圧倒的な才能で頂点に居座るお山の大将。それがエスデスであり──爺さんと出会う前の俺の姿だ。
自分の才能に溺れて、どこまでも傲慢な態度で達観したつもりになっている愚者。
「お前は強い、それは認めよう。だけどそれは、この世界っていう小さな井戸での話だ。大海には、お前なんて片手で殺せるような魑魅魍魎どもがひしめき合ってる」
「………何の話をしている? この世界? まるで自分が違う世界から来たような口ぶりだな」
「その通りだ……つっても、お前は信じないんだろうなぁ。まぁいいさ、今は関係ない話だ。これで二度目だ、三度目はない。今すぐそこをどけ、エスデス」
「……ふん。何を言っているのかは知らんが、私の答えは変わらん」
「そうか。残念だな」
交渉はここに決裂した。
本当に残念だ。エスデスのことは、割と気に入ってたんだけどなぁ。
だけど、こいつが俺達の邪魔をするのなら、敵対するのなら仕方がない。
「歯ぁ食いしばれ、とは言わねぇよ。覚悟は決まってんだろ?」
「覚悟だと? それを決めるのはお前だろう、リョータ。確かにお前は強いが、自惚れるなよ?」
「そうかい。だったら──泣くほど後悔しやがれ」
言って、俺は地面を蹴る。
なんてことは無い、ただの直進。この程度の速度であれば、エスデスも付いてこれる。そう、速度だけならば。
「川神流、
小さく呟き、拳を振るう。俺の攻撃が見えているエスデスは、鼻で笑って防御の姿勢に入った。
「はっ、やはり口だけか。この程度の攻撃が──ゴブァッ!?」
それ以上の言葉は続かない。体内から溢れる血液が、それ以上の発言を許さない。
川神流、虹色の波紋。殴りつけた部分から波紋状に衝撃が伝わっていき、相手の体内を破壊する、川神流の奥義の一つ。川神鉄心や百代から直に食らったことのある俺が断言する。あれは相当痛い。でも俺泣かなかった。
「慢心は強者の特権だ。弱者の分際で慢心すればどうなるか……先輩として教えといてやるよ」
自分の事を棚に上げた発言を引っ提げ、俺はゆっくりとエスデスの方へ歩み寄る。
ドSの将軍の瞳には、既に恐怖と後悔の色が滲んでいた。
* * * *
「……思ってる以上に情が沸いてんのかな、俺」
足元に転がっているエスデスを見下ろしつつ、そんな事を呟いた。
血みどろになっていたり、腕があらぬ方向に曲がっていたり、骨が肉を破って突き出ていたりと、なかなかに重症ながらもかろうじて息をしているエスデス。 その姿に、十数分前までの強者の貫禄など一切無い。
「ま、いっか」
情が沸いていようがいまいが、エスデスがこれ以上動けないことに変わりはない。
帝国最高戦力である大将軍二人を早々に撃破したのだから、帝国へ対する警告としては十分すぎる戦果だ。 オーバーキル感が若干否めないが、まあそんなの誤差だろ誤差。 そんなことより、今はシャルロットだ。
意識を集中させ、シャルロット達の気配を探る。
どうやら、既にワイルドハントとの戦闘に突入しているらしい。 ちゃんとモードレッドも一緒にいるようなので、今回はあまり心配いらないかもしれない。 まあ油断してると痛い目をみるので、急いで合流しようとは思うのだが。
そしてもう一つ、俺にはやる事があることが分かった。 シャルロット達の気配を探る過程で見つけた者達への対応だ。
「おい、そこの
窓際にぶら下がっていた蝙蝠へ、俺は声をかける。
外見は完全に蝙蝠のそれだが、気配は人間のものだ。 恐らく帝具の能力なのだろう。 完璧な変態能力だな。
俺が声をかけたことに驚いたのか、蝙蝠の躰が若干強張る。 そしてすぐさま飛び去ろうとするが…まあ捕まえるよね。
「おいおい、逃げんなよ」
ジタバタと暴れる蝙蝠を片手で握る。 ふぅむ…感触も本物と変わりないっぽいな…。 重さも五キロ前後程しかないし、人間が変身しているとして、質量保存の法則とかどうなってんだろ? すげぇなぁ、帝具って。
「暴れんな暴れんな。 別に取って食いやしないから、とりあえず話を聞け」
「…………」
しばらくすると観念したのか、蝙蝠が大人しくなる。 そして、ポンッ、という音と共に蝙蝠から白い煙が出た。 白煙はみるみるうちに蝙蝠の躰を覆い尽くし、やがて人間大にまで膨らむ。
「………手、放してくれる?」
「ん? ああ、すまん」
聞こえてきたのは女の声。 逃げ出しそうな気配もないので、素直に手を放すことにした。
声を聴いてから待つこと数秒。 白煙の中に、一人の少女の姿を確認した。 赤いリボンの付いたヘッドフォンを付け、棒付きの飴を加えた明るい茶髪の少女だ。
「で? お前がナイトレイドの新メンバーってことでいいわけ?」
「…そういう君は、噂のリョータでいいのかな?」
「俺の質問に答えて欲しいんだが…ま、いっか。 どんな噂かは知らねぇけど、確かに俺がリョータくんですよ、っと」
どこか怯えているかのように話す少女に訝し気な視線を向けるが、すぐにその理由を理解した。
考えてみれば当たり前だ。 この少女は、俺がエスデスを一方的にリンチした事を知っているのだ。 いくら俺が軽い態度でいようと、帝国最強を凌ぐ化け物という認識を持たれてしまっているのなら意味が無い。
「あー…本当に敵対するつもりは無いぞ? お前らが俺達の邪魔さえしなけりゃな。 外で待ってる四人にもそう言っとけ」
「……聞いてた通り。 意味分かんないね、アンタ。 気配察知とか言ったっけ? タツミ達がいるのは宮殿の外なのに、なんで正確な数まで分かるワケ?」
「なんでって聞かれてもな。 文字通り、気配を察知してるだけだよ。 お前らもできるだろ?」
「そりゃあ、少しくらいなら相手の気配とか分かるけど」
「それの範囲がバカ広くなった感じだよ」
「ごめん、やっぱ意味分かんない」
別にどっちでもいいからさっさと行ってくれないかなこの人。
「おい、そろそろ行かねぇとイェーガーズの連中がここ来るぞ。 お前弱いんだから、ランにでも見つかったら逃げ切れないかもしれないぞ?」
「むっ。 確かに私は弱いけど、初対面の奴にそんな軽々しく言われるのは腹立つんですけどぉ」
「さっさと行けっつってんの」
「…………最後にこれだけ聞かせて。 リョータ、貴方は私達の味方? それとも敵?」
極めて真剣な面持ちで、少女がそう聞いてくる。
今日、わざわざ危険を冒してまで単身俺の下へやって来たのは、この質問の為なのかもしれない。
「…まあ、少なくとも敵じゃねぇな。 今のところは」
「………それは、今後裏切る可能性があるってこと?」
「ちょっと違う。 さっきも言ったけどな、お前らが俺達の邪魔さえしなけりゃ、俺らは敵対なんてしねぇよ」
これは本当だ。 既に帝国は敵に回したも当然だが、反乱軍と敵対する理由は今のところ無い。 ナイトレイドとはそれなりの関係を築いたはずであるし、なおさらだ。 まあそれはイェーガーズにも言えた事だったのだが、状況が悪かった。 もしシャルロット達に危害を加えていたのが反乱軍だったのなら、俺は何の躊躇もなく反乱軍を潰していただろう。
要するに、俺の琴線に触れたら即敵認定。 そんな簡単な話なのだ。
俺の返答に一応は納得したのか、少女は再度蝙蝠に変身して飛び去った。
「さて。 上官のこんな姿見たら、あいつらどんな反応すんのかね?」
シャルロット達にまだ余裕がある事を確認してから、今こちらに向かってきている三人の方へと意識を向ける。
無駄な死傷者を望んでいるわけじゃない俺としては、話し合いだけですんなり終わらせたいのだが……まあ、まず無理だろうなぁ。
そんな風に考えてしまい、俺は思わず溜息を吐いた。
できればあと一、二話で締めたい