問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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忙しい時期もあと一週間程でようやく終わりそうです。本当キツかった...。更新速度が著しく落ちてからも読み続けて下さった皆様、本当にありがとうございます。感想や評価等頂いた時にはそれはもう嬉しかったです。書く励みでした。

来週か再来週からは更新速度を上げていけるので、どうぞこれからもよろしくお願いします!


Sデス...?ちょっと名付け親出てこい

 

 

 

 

 

 

 

「ォォオオオオオ!!」

「よっ、と」

「ヘブラッ!?」

 

 なんとも奇妙な悲鳴を上げて、少年──タツミが孤を描いて空を飛ぶ。十m程吹き飛んだ後、俺に蹴られた腹を押さえてピクピクと痙攣していたタツミは、やがてパッタリと動かなくなった。南無。

 

 

 俺達がナイトレイドのアジトへ住み込み始めてから、早五日が経った。初日こそナイトレイドのメンバーから警戒されていた俺達だったが、その日の夜に俺が夕飯を振る舞ったらなんか懐かれ、二日目からは仲間同然の扱いを受けるようになったのだ。唯一マインからはまだ若干避けられている気がしないでもないのだが、まあ彼女にしでかした所業が所業なので、マインの反応も無理はないだろう。鬼畜だったな、という自覚はあるのだ。まあ改正する気はないけどネ。

 

 因みにだが、先日モードレッドが壊滅させた森の周辺には人払いの結界とやらを形成しておいた。以前道満に習った陰陽術の一種とルーン魔術を併せた擬似結界なので、そうそう破れはしないだろう。あのままにしておくと、帝国側にナイトレイドのアジトを発見される危険性があったからな。自分らの尻拭いくらい自分でやるか、と思い立っての行動だ。まあそれをしたらラバックが「俺の糸結界の立場! 俺の存在意義!」と叫んでいたが、俺は気にしない。

 

 そして現在。先程まではシャルロットとラウラの修行を行っていたのだが、二人の体に限界がきたので今は休憩中。暇を持て余した俺はタツミの修行に付き合っていた、というわけである。それにしてもこの少年、奇怪な悲鳴はともかく、中々に見所がある。これはタツミの指南役であるブラートも育て甲斐があるだろう。

 

「おっ、やってるな」

 

 タツミが倒れて暇になった俺が少しばかりここ数日の事を回想していると、いつもの鎧を外したラフな格好のブラートがこちらに手を挙げながら歩いてきた。

 

「噂をすれば影がさす、ってか。ようブラート。任務帰りか?」

「おう。てか噂? なんだ、俺様がハンサムだって噂か?」

「違う。そして近付いてくんな。顔が近い」

「照れるなよ...」

「照れてない。寄るな顔赤らめるな本気で蹴るぞ」

 

 やけに距離を縮めようとしてくるブラートを押し返す。タツミにも言い寄っている所は既に目撃済だ。これは本気で距離を取っていかないと俺が危ない。このままではジャンヌ達の養分になってしまう。俺の精神衛生上、それだけは阻止しなくてはならない。俺は最近、本当の意味でペストの苦悩を理解した。

 

「ああ、リョータ、ここに居たか」

 

 無駄に強い力で俺に迫ってくるブラートと互角の(・ ・ ・)力比べをしていると、ナイトレイドのボスであるナジェンダが声を掛けてきた。それを聞き少しだけ気を逸らしたブラートを横薙ぎに蹴り飛ばし、俺はナジェンダに向き直る。

 

「ナイスタイミング」

「あ、ああ...そうか...」

「俺に何か用事か? ならちょっと待っててくれ。アレ(ブラート)埋めてくる」

「程々にな......」

 

 大丈夫だ。埋められた程度であの筋肉達磨は死にはしない。一昨日の昼に埋めたが、その日の晩飯の席には元気に着いてたからな。ギャグ補正でもかかっているのだろうか? 以前カルデアで聞いたことがある。この世には世にも奇妙な粒子が存在している、と。ぐだぐだ粒子とかそんな感じのアンノウン粒子を生成しているんじゃなかろうか、あの筋肉。

 

 そんな事を考えながら気絶したブラートを埋める。顎を蹴り抜いたので、一瞬死んだかなーと思ったのだが普通に生きてた。頑丈だなコイツ。

 

「よし、これで半日は出られないだろ」

「もはや遺体遺棄案件だぞソレ」

「死んでないからセーフ」

「それはそれで生き埋め事件なんだが...まあいい。ブラートなら大丈夫だろう。それよりリョータ、三十分後に集会がある。お前達にも参加して欲しい」

「はいよ。...そういやブラート埋めちゃったけど、それ参加させなくていいのか? いや、埋めた張本人が心配する事じゃないんだけどさ」

「......まあ、ブラートには夕食時にでも報告すればいいだろう」

 

 それでいいのかボス、とも思ったが、それこそ俺が言える立場ではない。俺は大人しく頷き、気絶しているタツミを大広間にまで運ぶ作業へと移る事にした。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 ブラート生き埋め事件からきっかり三十分後。俺はモードレッド、シャルロット、ラウラの三人を連れて、アジトで一番広い部屋にいる。集合場所を聞いていないのに気付いたのが十分前の事だが、集会・報告会・作戦会議等は大体この部屋で行うと言っていたので間違ってはいないだろう。

 

 一番乗りでこの部屋(以後会議室と仮称する)に着いた俺達。修行の疲れから一時ダウンしていたシャルロットとラウラは既に回復しており、先程まで昼寝をしていたモードレッドも眠そうに瞼を擦っている。

 俺達の次に現れたのはマインとシェーレ。この二人組はよく見るな、などと考えていると、マインがあからさまに威嚇してきたので視線を外す。相変わらず嫌われてるなー、俺。

 その後もアカメ、タツミ、レオーネ、ラバック、ナジェンダと続々と集まってきた。驚いたのはブラートが何事も無かったかのような顔で会議室に入ってきた事だ。ホントなんなのこいつ。不死身か。

 

「それでは報告会を始めよう。レオーネ」

 

 ブラートの姿を確認して慄いていたナジェンダだったが、すぐに気を取り直してレオーネに発言を促す。ナジェンダの精神力も中々侮れないものがあるのかもしれない。まあただ単に考える事を止めただけかもしれないが。

 

「はいよ〜。今日帝都に偵察に行ってきたんだけど、やっぱりマインは顔バレしてた」

「...そう。あーあ、これじゃオフの日にショッピングも出来ないじゃない。......ん? ちょっと待ってレオーネ。アタシ『は』?」

「そうそう。マインの想像通りだよ。マインの手配書は街中に出回ってたけど、リョータ達のは全く無かった。敵認定されなかったっぽいな」

 

 おお、それはありがたい。別に今更俺が指名手配される事については何も思わないが、シャルロットとラウラは嫌だろうしな。

 というかそもそもの話。俺らはナイトレイド構成員でもなけりゃ革命軍所属って訳でもない。唯の居候グループだからね。指名手配される方がおかしい。だからマインさんや、無言で俺の脛を蹴ってくるのやめませんか。いや痛くは無いけどさ。

 

 それにしても、マインが指名手配されたということは、モードレッドが投げ飛ばした例のポニテ少女は無事だったということだろう。良く生きてたなあの子。あの投擲速度から考えて、普通の人間なら着地に成功したとしても挽肉だろうに。もしかしてあの少女、案外普通じゃなかったりしてな。実は改造人間でしたー、とか。ははっ、無いな。

 俺の投げた犬なのか熊なのか分からない謎生物コロの安否は不明のままだが、まあ気にしなくてもいいだろう。生きてたら生きてたで、特に俺達の不利益になることはないだろうし。もしまた敵対した時はシャルロット達にリベンジさせてみようかな。コロを自分達だけで倒せれば、きっと二人の自信に繋がるだろう。

 

「蹴るのはそれくらいにしておいてやれ、マイン」

「フンッ!」

 

 ナジェンダの仲裁で漸く蹴る事を止めたマインだが、不満はまだ残っているらしい。鼻を鳴らしてそっぽを向き、あからさまな「私、怒ってます」オーラを出している。なんなのこの子めんどくさい。

 

「さて、次は悪いニュースだ。エスデスが北の勇者率いる北方の反乱勢力を蹂躙し、帝都に戻ってきたらしい」

 

 極めて重々しく、ナジェンダはそう告げる。それを聞きブラートやアカメ、ラバックなども体を強ばらせた。なんだ? エスデスって奴、そんなにヤバイのか? まあ確かに自己主張の激しい名前だとは思うけど...。いや、まだそのエスデスって奴がサディストだと決まった訳じゃないか。決めつけいくない。

 

「あのドS将軍、もう帰ってきやがったのかよ...ッ!」

 

 結局Sなんかい。しかもドの付くSとな。因みに凄く無駄な知識かもしれないけど、この『ド』って英国戦艦ドレッドノートに由来してるらしいな。ってことはこの世界にもドレッドノートが...?

 

 そんな無駄に偏った知識で意味のわからない考察をしていると、ナジェンダが新たに口を開く。

 

「レオーネ。帝都へ行き、エスデスの動向を探ってきてくれ。無理はするな、最低限の偵察だけだ。決して戦おうなどと思うなよ」

「オーライオーライ」

 

 テキトーに返事をするレオーネだが、その顔を見ればエスデスに手を出そうと考えているのは丸分かりである。それを心配そうに見るナジェンダが再度忠告するも、レオーネの態度は変わらない。まあレオーネは自分の腕に自信が有るようだし、自由にやらせてやればいい、と俺は思う。失敗しようが成功しようが、それは彼女の成長に繋がる可能性が高いからだ。まあ死んだらそこまでなんだけども。

 

「はぁ...まあいい。エスデスの帰還と時を同じくして、帝都で文官の連続殺人事件が起きている。被害者は文官四名とその部下複数。問題は、その現場にこの紙が残されていたことだ」

 

 そう言って、ナジェンダは一枚の紙切れを俺達に見せてくる。そこには、ナイトレイドのトレードマークがデカデカと描かれ、その下には解読不能の文章が羅列していた。ふむ、言葉は日本語とほぼ同じなのに、文字は全く違うのか。面倒だな。

 

「『ナイトレイドによる天誅』...? 俺達に罪を擦り付ける気か」

「でもさ兄貴。こんなの普通、偽物だって分かるだろ? 犯行声明なんてわざとらしい」

「最初はそう思われていた。が、今ではナイトレイドの仕業だと断定されている」

「はぁ!? なんで!」

「殺された文官達を護衛していたのは皆一流の戦士だった。彼らが簡単に殺せるとなると、我らナイトレイドしかいない。そう思われているんだろう」

「クソッ!」

 

 .........。これ、俺達いる意味ある? ほぼほぼ関係なくね?

 

「犯人は恐らくエスデス配下の三獣士。これ以上奴らの好き勝手にはさせん。次に襲われるであろう文官を、こちらで三人に絞った。彼らの護衛が今回の任務になる。リョータ、すまないがお前も協力して欲しい。お前の戦闘能力の高さはブラートやタツミ達から聞いている。是非、力を貸してくれ」

「ああ、なるほど。だから俺も呼んだのか。いいぞ、引き受けよう。家賃代わりにゃ安過ぎるくらいだ」

「助かる」

 

 にしても護衛か...。殺しじゃないならシャルロットやラウラも連れて行こうかな? 実戦も適度に取り入れていった方がいいだろう。アレだ、現場に慣れるってやつ。やっぱり訓練と実戦は細々としたところで違ってくるからな。

 

 そんな事を考えていると、ブラートが目を輝かせてナジェンダにこんな提案をし始めた。

 

「そういう事なら、チーム分けは俺とタツミとリョータの三人で...」

「「却下」」

 

 ...タツミと俺は、なんだか仲良くなれそうである。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 翌日。早速その護衛任務とやらに駆り出された俺は、頬を撫でる(ぬる)い風を感じながら、ゆっくりと流れる景色をぼんやり眺めていた。...まあ霧が深くて景色なんて殆ど見えないんだけどね。霧うぜぇ。

 

 俺は今、河川上を遊覧する豪華客船に乗り込んでいる。今回俺が宛てがわれた護衛対象サマがこの客船に乗っているからだ。それに伴い、俺達護衛も豪華客船に相応しい変装して船に乗り込んだのである。護衛されてる文官本人にすらバレないようにしながら、だ。まあ普通に考えて、国家転覆を計っている暗殺集団に護衛させる訳ないしな。それにしても燕尾服とか初めて着たわ。

 

「むっ、このケーキは中々美味いな...。凌太、これを食べるがいい。嫁の作ったモノには多少劣るが、美味いぞ。...おお、そうだ。ふふん! 喜べ嫁、私が『はい、あーん』をしてやろう! どうだ、夫婦っぽいだろう?」

「とりあえずラウラの俺に対する呼び方が未だ統一してないの、突っ込んだ方がいい?」

「むぅ.........はい、あーん」

「.........」

「あーん!」

「はいはい......ん、なんだ本当に美味いな」

「だろう?」

 

 ニコニコと頬を弛ませるラウラかわいい、とかはとりあえず置いといて。本当に美味いな、このケーキ。知らない味もいくつか入ってるし...この世界特有の食材や調味料か? なにそれ超気になる。後で暇があったらここのシェフとちょっと話しよー。

 

 因みに、ラウラは黒を基調としたドレスを身に纏っている。肩を大胆に晒す作りであるそのドレスはラウラよく似合っているし、ワンポイントで左胸と鎖骨の間に付いている紫の薔薇も良く映えていると俺は思う。それにしてもどっかで見たことある服装だな...あっ、某女神だ。ラウラのコーディネートのテーマは『片田舎のご令嬢』なのだそうだが...フッ、あの女神の服装が田舎の令嬢をイメージした衣装とほぼ同じとか愉悦だな。俺は忘れない、あの怒りを。次に会ったら意味深な笑顔を向けてやろう。

 

 それはそうと、そのドレスが醸し出すご令嬢感を相も変わらず彼女が付けている眼帯が半分程打ち消している。医療用の白いヤツならまだしも、大佐とか軍曹とかが付けてそうな黒いヤツだからな。嫌でも目立つというものだ。まあそれでも、ラウラの可憐さにやられて言い寄って行く男も数多くいたのだが。

 そいつらはまあ、今現在は倉庫の中で仲良く眠ってもらっている。ラウラにいやらしい目を向けてたからね、是非もないよネ。

 

 あとついでだが、俺の変装のテーマは『ラウラお嬢様の側近執事』である。ラウラが提案してきたこのコンセプトだが、イマイチ良く分からない。まあラウラは満足しているようだから、俺としては別に構わないのだが...俺は結局、ラウラの何なのだろうか? 現状としては元クラスメイトでありコミュニティの同士であり嫁であり執事である。...ふむ、分からん。

 

「なぁにイチャついてんのよアンタ達。今は任務中なのよ、バカじゃないの?」

 

 俺とラウラが主従関係(偽装)の枠を越えたやり取りを見ていたらしいマインが、そう言いながら近付いてきた。

 

 因みにマインも田舎上がりのご令嬢役である。絶賛指名手配中の奴が何堂々と顔を晒しているんだと思わないでもないが、手配書が出回ってからまだ時間が経っていないからか、マインの正体に気付く者は今のところ現れていない。まあ現れたら現れたで俺が対処する事になっているのだが。主に記憶を消す(物理で殴る)、という方法で。

 

 そんなマインお嬢様の着ている服は、やはりピンクを基調にしたドレスである。普段から着ているドレスっぽいモノより大分煌びやかに飾り付けられたそのドレスは割と似合っており、余り違和感はない。外見もそうだが、中身もだ。ほら、お偉いさんとこのご令嬢って馬鹿みたいに我儘なイメージがあるじゃん?(偏見)

 

「何を言う芋虫ピンク。私と嫁は夫婦だ、いついかなる時も仲睦まじいのが普通だろう?」

「ねぇラウラ。色々と突っ込みたいところはあるんだけど、とりあえずそろそろその呼び方やめてくれない?」

「む、そうか? すまなかったな芋虫」

「それもうただの悪口だからね!?」

「冗談だ、そう怒るなマイン。ほら、このケーキをやろう」

「こんなものでアタシを買収しようだなんて百年早......美味しいわね、これ」

「だろう?」

 

 怒れるマインも甘味の前では無力だった。やはり女の子ってのはそういう生き物なのだろうか? だったらやれ太っただの、やれダイエットだのと一々騒がないで貰いたいものだ。男からしたら違いなんてほとんど分からないと言うのに。寧ろ少しくらい肉が付いていた方が(ry

 

「あれ、そういやシェーレは?」

 

 女の不思議な習性的な何かについて考えていると、ふとシェーレが頭を()ぎった。その事について他意は決して無いが、そこでシェーレの姿が見えない事に気が付いたのだ。まさか船内で迷ってるんじゃないだろうな、あの天然ドジっ子娘。

 

「ああ、シェーレならさっき客室に戻ったわよ。船酔いしたんですって」

「シェーレェ......」

 

 大丈夫なのかあの人は。人としてもだが、暗殺者として。護衛任務中に船酔いで部屋に籠るプロの暗殺者とか聞いたこと無いぞ。まったく、ウチの静謐ちゃんを見習って欲しい。

 

 

 

 今回、この豪華客船にて、帝国のわりかし偉い文官である小太りのおじさんの護衛の任に着いたのは、俺、ラウラ、マイン、シェーレの四人だ。チーム分けは結局くじ引きで決められた。俺達の他はモードレッド、シャルロット、タツミの三人と、ブラート、アカメ、ラバックの三人、その二チームに分かれている。ブラートが肩を落としている隣で、俺とタツミが揃って安堵したのは記憶に新しい。

 

 適当にクジ引きで決めたにしては良い感じにパワーバランスが取れていると思う。ブラート班が少し心配ではあるが、まあブラートとアカメがいればそうそう正面から負けることは無いだろし、ラバックの帝具『千変万化クローステール』は索敵にも特化している。奇襲されてあっさり殺られる、という事もないだろう、きっと。

 

「それにしても...アタシ達の護衛なんて意味あるのかしら? あのおじさん、ずっと肉のカーテンの中なんだけど」

「さぁな。まあ襲われないならそれに越したことはないんじゃないか? 私としては美味な料理に舌鼓を打てているので、今この状況に関して何の文句もない」

「アンタねぇ...ま、それもそうよね。別の文官の所に行ったか、それとももう襲撃をやめたのか...どっちにしろ、何も無いならそれがいいわ」

 

 なんだろう、それ絶対フラグだと思うんですよマインお嬢様。これは少し気を引き締めた方が良さそうですね...。

 

 と、改めて俺は周りに注意を向ける。正直護衛対象のおじさんなどどうでもいいが、今回はラウラがいる。慢心してラウラがやられましたー、などという状況を作る訳にはいかないのだ。

 

「ん...ふぁ...」

 

 怪しい奴はいないか、と周囲に気を配っていると、隣からそんな間の抜けた音が聞こえてきた。目を向けてみればそこには、口元を手で抑え、瞳には若干の涙を浮かべているピンクお嬢様の姿が確認できる。

 

「おいピンク」

「マインよ」

「お前まで任務中に気を抜いてんのか。欠伸なんかしてんじゃねぇっての。死ぬぞ」

「アンタ本当こっちの話聞かないわよね...。別に気を抜いてる訳じゃないわよ。ただ、何故か突然眠気が襲ってきて...」

 

 そう言いつつ、マインはもう一度欠伸をもらした。本当に大丈夫かコイツ? 何、ナイトレイドってそういう集団なの? まともな奴いないの?

 ナイトレイドという暗殺集団について多少の疑念を抱いていた俺だったが、どうも今回はマインが悪いという訳ではなさそうだ、という事に気が付いた。

 

「ん...凌太、すまない...私も、眠気が......」

「ラウラも? ...ってなんだこれ、乗客全員眠りかけてる...?」

 

 周りを見渡せば、欠伸を噛み殺している者や、既に眠りに落ち床に倒れている者など、とにかく眠気に襲われている者がほとんどだった。なんだ、どういう事だ? 気体状の睡眠薬でも撒かれたか? え、それって現在進行形で奇襲されてるってこと? やっぱりさっきのはフラグだった...?

 

「ラウラ、IS展開。マインも気張れ、眠んなよ」

 

 とりあえず、二人を襲う眠気をどうにかしなくてはならない。薬ならISを展開して外気を遮断すればどうにかなるだろう。マインにも魔力の防御膜を作って纏わせてやれば問題は無いはずだ。シェーレは...もうダメだろうなぁ。今頃は心地よさそうな寝息をたてていることだろう。

 

「ッ...ダメだ...眠気が、引かない...!」

 

 辛抱ならず、ラウラが膝を付いた。見ればマインも限界が近そうだ。なんとか立ってはいるものの、目は虚ろで焦点が合っておらず、頭はこっくりこっくりと船を漕いでいる状態だ。

 

「チッ、原因は薬じゃない...ってことは、帝具か」

 

 気付けば、周りは俺以外の全員が倒れていた。ラウラとマインも遂に限界を迎えたようだ。

 

 と、そこで俺は、俺以外に動く気配を察知した。

 

「あぁ? なんだ、起きてる奴がいるじゃねぇかよ。ったく、大人しく眠っとけば殺さずに......って、オイオイ...お前の後ろで眠ってる奴、ナイトレイドのマインじゃねぇか? ってこたぁお前もナイトレイドか! うはっ! いいねぇいいねぇ、今日はついてるぜぇ!」

 

 そういいながら出てきたのは大柄の男。その手にはこれまた大きな斧を携えている。大きい以外は普通の斧に見えるけど...もしかしてあれも帝具?

 

 それにしてもなんだこいつ。頭に付けてるあの黒いのは...もしかして猫耳か? え、マジ? しかも白目剥きながら笑ってるとか...。何ソレ怖い。てかあれ、最早三白眼とかいうレベルじゃないぞ、黒目が一切無い。意識ちゃんとあんのか? 実は寝てて、今の台詞全部寝言とかだったりして...それ何て悪魔憑き(エクソシスト案件)

 

「よぉし、決めた。お前達は俺の経験値にする!」

 

 なんだ唯のバトルジャンキーか。

 

 そう結論を下すとほぼ同時、目の前のバトルジャンキーは何の変哲もない両手剣を俺の方へと放ってきた。

 

「さあ、武器を取れ。そして俺と戦え!」

 

 そう言い、帝具と思わしき斧を構えるバトルジャンキー。こいつが例の三獣士である事は容易に予想できる。別にここで瞬殺してしまってもいいのだが、それではわざわざラウラを連れて来た意味がないしなぁ...。とりあえずラウラ起こすか。ついでにマインも起こしてやろう。

 

 投げ渡された剣を拾うでもなく、かと言って戦闘態勢を取ることもしない俺に痺れを切らしたのか、白目バトルジャンキーが苛立たしげに声を上げ始めた。が、俺はそれを総スルー。立ったままに電流を甲板へと流す。

 

「「ぴぎゃっ!?」」

 

 スタンガン程度の電圧で放電したところ、そんな声が静寂な船上に響く。うん、雷の出力調整も大分上手くなったな。

 

「いっつつ......」

 

 頭を軽く振りながら、ラウラとマインが起き上がる。雷で起こそうという俺の目的は達成された。あとは二人に任せよう。

 

「起きたな二人共。早速だが構えろ。敵さん、もう準備万端っぽいぞ」

「え?」

「ッ! ちょっとバカ! さっさとアタシのパンプキン渡しなさい!」

「誰がバカだ」

 

 ラウラよりも先に状況を理解したマインは、俺に預けていた得物を要求してきた。即座に戦闘準備に入れる辺り、さすが殺し屋稼業だと言える。それに一拍遅れ、ラウラも肩に装備されてあるレールカノンの砲口を白目男に向けた。咄嗟の判断や順応力に多少欠けるか...。早速今後の課題を見つけたな。

 

「ほう? 三対一か? いいぜいいぜぇ! 来いよ、纏めて俺の経験値にしてやらぁ!!」

 

 何を勘違いしているのか想像に(かた)くないが、とりあえずはラウラの実戦経験を積ませる良い機会に恵まれた事に感謝だ。白目男の言葉を借りるなら、奴にはラウラの経験値になってもらう。

 目の前の男は、今のラウラで互角か少し上程度の実力だ。まずはマインとタッグを組ませて戦わせてみるか。三獣士って言うくらいだし他に二人仲間がいるのだろうが、そっちは放置でも構わない。襲ってきたらラウラとマインに忠告だけはするが、基本は二人に任せよう。

 

「ラウラ、マイン。基本俺は手を出さないから。自由にやっていいぞ」

「了解した」

「言われ無くても!」

 

 しっかりと相手を見据え、構える二人の姿を見るに、眠気はすっかり飛んだようだ。しかし、まだ突然襲った眠気の原因が分かっていない以上、それの警戒は必要である。俺だけが何も感じていないとなると、やっぱり帝具の可能性が一番高いな。眠気を強制してくるのは厄介だ。原因を特定し次第、速急に対処する必要がある。そっちは俺がしておくか。ラウラとマインには白目男の相手に集中してもらおう。

 

 ...ふむ。ついでだ、マインにも少しは助言してやろうかな。別に、ナイトレイド陣営の全体的な戦力強化に携わっても構わんのだろう? タツミの稽古はもう付けてるんだし今更ではあるが。

 

 ともあれ、これで本来の目的は達成出来そうだ。シャルロットの強化がラウラより遅れる結果にはなりそうだが...まあその分、シャルロットには別の機会を与えれば良いだけのこと。今はラウラの修行に集中すべきだ。油断大敵、慢心ダメ絶対。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作から逸脱し過ぎてしまった......

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