「さて。じゃあ探索にでも行きますか」
翌日。昨晩降り続いた雨は上がり、空では太陽が激しい自己主張を行っていた。体感温度的には初夏くらいだろうか? 昨日の雨の影響もあり、蒸発したジメジメとした空気が鬱陶しく肌に纒わり付いてくる。
「探索ねぇ...。で? なんでアタシは簀巻きにされて担がれてるのかしら? 暑いんだけど」
「そりゃお前、か弱い女の子を一人で留守番させとく訳にもいかないだろ?」
「ふーん? ...ちょっとはまともな言い訳をする気は無いの?」
「折角の人質をそう簡単にほっぽり出す訳にはいかないだろ?」
「余計酷いわよッ!」
ジタバタと俺の肩で暴れる芋虫ピンクことマインとそんな漫才を繰り広げながら、大きな水溜りを跳び越える。因みに、シェーレはモードレッドの見張り付きとはいえ、一応は拘束無しでの行動を許している。どうして2人の扱いにここまでの差があるのか。まあマインが一向に大人しくならないからに他ならないんですけどね。試しに今朝、一度だけ拘束を解いてみれば真っ先に俺に殴りかかってくるという暴挙に出たのだ。俺だったから良かったものの、もしシャルロットやラウラに攻撃を加えていたら簀巻き程度では済ませていない。モードレッドだったら? マインが返り討ちに遭って重症を負うという結果は目に見えてますね。
「ねぇ凌太。探索ってさ、街にでも行くの? 例の帝都ってとことか」
数ある水溜りを飛んだり跳ねたりして避けながら、シャルロットがそう聞いてきた。どうでもいいけど、そんなに跳ねたら泥も跳ねるから気を付けた方がいいと思う。
「いんや、まずは帝都以外だな。昨日俺達がやり合ったのが帝都の軍人だったらしいし、万が一にも国家転覆罪とかで指名手配されてたら面倒だろ?」
「あ、そっか」
かと言って、どこを調査するのか未定なのは事実である。反乱軍、出来ればナイトレイドとやらに会って交渉や情報の搾取など色々としてみたいところだ。帝国は既に敵に回した可能性があるからな、コンタクトを取るなら反乱軍関係の方が楽だろう。一応人質もいるし。
「なあ、芋虫ピンク」
「芋虫ピンク!?」
「騒ぐなって。じゃあマイン。因みに聞くけどさ、ナイトレイドの本拠地ってどこ?」
「はぁ? そんなの教えるわけないでしょ!? バッカじゃないの!?」
「まあそうだよなぁ」
予想通りに騒ぐマインから一度視線を切り、後ろを歩くシェーレへと向ける。
「シェーレ」
「すみません。それは私も答えられません」
「そっかー」
まあ予想通りの事ではある。さすがにこの2人が素直に答えるとは俺も思ってなかったし。
「仕方ない、ここは勘だな。モードレッド。俺は東か南の方が怪しいと思うんだけど、お前はどう思う?」
「どっちかって言うと南だな。つかマスター、お前も直感持ちなんだし一々オレに聞かなくてもいいんじゃね?」
「俺よりモードレッドの方がランクが高いからな。それに、二人の意見が一致した方が気持ち的にも楽だろ?」
「ふーん。そんなもんか」
「そんなもんだよ」
興味を失ったかのように俺から視線を外すモードレッドと入れ替わりで、次はマインが俺に声をかけてきた。
「東は崖よ。その崖の下も危険種の巣が多くある森だからオススメはしないわ」
「おっと。なら南を目指すか。ご忠告どうも」
「はぁ!? ちょっ、馬鹿なの!? 普通そういうのは東を目指すモンでしょ!? 少しはアタシを疑いなさいよ!」
「ウンウン、ソウダネー。じゃあ南に進むけど、シャルロット達もそれでいいだろ?」
「うん、いいよ。っていうか、絶対南側にナイトレイドとかいう人達の隠れ家があるよね」
「そうだな、私もそう思う。分かり易くて助かるぞ、芋虫ピンク」
「なっ...!?」
「今のはマインが悪いと思います。帰ったらボスに報告ですね」
「ちょっ、はぁ!? 何意味分かんないこと言ってんのシェーレ!?」
一周回って面白く感じてきたやり取りを聞きつつ、太陽の位置などから割り出した南の方角へと足を向ける。それにより尚のこと焦り始めたマインを見るに、この世界での方角はどうやら俺達の常識と一致しているようだ。
* * * *
「...ん? 全員ストップ。それ以上前に進むなよ」
歩くこと数十分。
森の中という唯でさえ歩きにくい地面が、昨晩の雨により出来た
「どうしたの凌太? 何かあった?」
止まれ、と言い放った俺の顔を隣から不思議そうに覗き込んでくるシャルロットに、目の前を指差して彼女の視線を誘導する。
「そこ、よく見てみろ。すっげぇ細い紐が張ってある。索敵用の仕掛けだろうな」
「チッ」
俺の肩に担がれている芋虫ピンクの舌打ちが聞こえる。ってことは、やっぱりこの紐は罠か何かなのだろう。
ワイヤー系の罠と言えば、ポピュラーなところで索敵用や切断用。毒を塗っている、なんてモノも考えられるか。だとしたら無闇に触れる訳にもいかない。俺は大丈夫だろうが、他がアウトだ。
「マイン...は答える訳ねぇか。シェーレ、このワイヤーって何の為の罠なんだ?」
「ノーコメントでお願いします」
「そっかー...。だったら、この先にいる奴らがナイトレイドで間違いないか?」
「ノーコメントで...って、この先に誰かがいると分かるのですか?」
「余裕。大体五、六人ってとこか? 強いのが二人くらいいるが...まあ俺達の敵じゃない。それにその反応を見るに、アレがナイトレイドで間違いなさそうだな」
驚きを隠せずに目を見開いて、シェーレと芋m...マインは俺を見る。この世界では気配察知は珍しいのだろうか。エルキドゥのような高い気配察知スキルを持っている奴を知る俺としては、この程度のアバウトな気配察知では自慢にもならないのだが。エルキドゥなら相手の正確な位置までピンポイントで察知し、俺には分からない色々な情報を手に取るように把握する。アレと同じくらいのランクにまで上げるのが俺の目標の一つでもある。
まあとにかく。今は目の前の事に気を
「さて、どうするか...」
この罠を解除するのは簡単だし、そんな事をしなくても空を飛べば問題はない。だが、それは何だか味気ない。かと言ってわざと罠に掛かるというのも華が無い。もっとこう、派手で面白可笑しい方法はないものか。
「なぁマスター。なんならオレが斬ろうか?」
「それだ」
手を顎に当て悩む仕草を見せる俺に、モードレッドがそう提案してくる。うん、それなら派手だ。マインやシェーレ、まだ見ぬナイトレイド達の驚く顔を見るのも面白いだろう。あ、シャルロットとラウラも驚くかな?
「よし、それでいこう。モードレッド。魔力は気にすんな、宝具使って全力でいけ」
「よっしゃ! 任せとけ!」
宝具の使用許可を貰ったモードレッドが意気揚々とクラレントを構える中、近くに居たシャルロットが俺に話かけてきた。
「宝具ってアレ? 英霊って人達が使える必殺技、みないな」
「そう、それ。そういや宝具見るのは初めてだっけ? モードレッドのは特に強力だからな。見ておいて損は無いだろ」
言って、シャルロットとラウラ、ついでにシェーレを庇うようにして俺の背後に誘導する。マイン? まだ俺に担がれた状態でジタバタしてますが何か。
「これこそは、我が父を滅ぼし邪剣!」
全員を守れる位置に移動させると、それを待っていたかのようにモードレッドがクラレントから赤雷を走らせ始めた。それを中心にして魔力の奔流が巻き起こり、赤雷の放電で周りの木々や地面が乱雑に穿たれる。...これ、後処理しないと火事になる可能性もあるな。まあその時はその時になってから考えよう。明日は明日の風が吹く、っていう諺もあるくらいだし。
「なっ、何よあれ!?」
「帝具ですか!? 帝具ですね!?」
「赤い雷...雷...凌太とお揃い...。いいなぁ。僕も電撃系の魔術覚えたいなぁ...。雷系の帝具って無いのかな?」
「というか、何故こんな至近距離で見ている雷が赤いんだ? どういった原理で赤く見えている?」
順にマイン、シェーレ、シャルロット、ラウラがそれぞれの感想を口にする。若干シェーレのキャラがブレている気がしないでもないが、まあそれ程までに目の前の状況に驚いているのだろう。今日のモーさんはなんかいつもよりノッてるし、是非もないネ。
思った通りに俺達の方にまで迫り来る赤雷を、魔力で作った半透明の防御壁で防ぐ。これがなかったら俺以外全員感電死確定だっただろう。愉悦型魔術礼装が使っていた魔法陣をほぼそのまま再現したこの防御壁。初めて使ってみたけど、コレ結構優秀だな。これからもちょくちょくお世話になるかもしれない。
「よっしゃ、行っくぜぇ!? 『
獰猛に笑いながら、モードレッドはゆっくりとその極光の剣を振り上げ、そして容赦なく振り下ろす。
「──
荒れ狂うは暴力の具現。一切を薙ぎ払う無慈悲の奔流。
.........ちょっとオーバーキルすぎやしませんかね。
「ははっ! おい、見てたかマスター? 多分オレ史上最高出力だったぜ、今の!」
「そうだね」
「いやー、今の一撃に宝具三回分くらいの魔力を無理矢理突っ込んだってのもあるけど、やっぱオレとマスターの相性がいいんだよな。マスターのアホみたいな魔力量は勿論、魔力系統が雷に寄ってるってのがデカイな、うん」
どうやらモードレッドは自身の放った一撃に満足してるらしく、腕を組み上機嫌にウンウンと頷いて何かを納得していた。
それとは真逆に、俺の肩と背後では顔を青く染め上げたマインとシェーレが小刻みに震えているのだが...まあ当然なのかもしれないな。周囲直径約五十メートル内で無事なのは俺の背後のみ。俺を起点として扇状に広がった部分だけなのだ。モードレッドがクラレントを振り下ろした方向に至ってはキロ単位で更地と化している。全く、環境破壊もいい所だ。まあ山脈レベルで自然破壊を犯した事もある俺が言える立場ではないのだが。
だがしかし。さすがにここまでやればナイトレイドも大人しくはしていまい。帝国軍が出張ってくる可能性も無きにしも非ずだけど、まあその時はその時。どっちかに付くか、第三勢力として大盤振る舞いするか、その時の状況と俺達の気分で決めればいいだろう。目下、今はナイトレイドだ。
「おっ。動いた動いた。真っ直ぐこっちに向かってるな」
前方に気を配ってみれば、七キロ程遠方にあったナイトレイド(暫定)の気配がこちらに向かってきている事が分かった。人間にしては中々の速度だ。まあそれでも、人間の域は出てないか。
「どうすんだマスター? 戦うのか? 戦うんだな?」
「なんでだよ。まずは話をしよう。こっちでの定住地も欲しいし、ナイトレイドに転がり込む方向で」
「えー! そんなのつーまーんーねーえー!」
「何お前、欲求不満なの? フラストレーション溜まっちゃってんの? 後で相手してやるからちょっと大人しくしてて」
「もう手遅れ感あるけどね、これ。モーさんちょっとやり過ぎじゃない?」
「んだよ、いーだろ別に。マスターから思いっ切りやっていいって言われたし」
「俺が悪いってか」
「まあ嫁の判断ミスと言えなくもないな。派手さならテキトーに加減しても十分だったろうに」
「おう、なんだなんだ。寄ってたかって俺へのイジメか? よぅし、いいだろう。ならば全面対決だ。今夜の食事は無いと思え」
「「「すいませんでしたッ!!」」」
俺を非難しておらず、しかも自炊出来るシャルロットまで一緒に謝ることはないと思うんだが。
とまあ、そんな漫才のような会話をしていると、例のナイトレイド(暫定)達の姿が目視で確認できる所にまで近付いて来ていた。シャルロット達もそれに気付いたようで、弛緩していた気持ちを多少引き締める。まあ荒野を真っ直ぐに突っ走って来てるからね。気配察知が出来ずとも発見は容易だったのだろう。え、マインとシェーレ? 二人とも産まれたての小鹿、もしくは虎を目の前にしたチワワみたいって言えば分かる?
さて、そんなガクブルな二人は放っておくとして。
「そこの透明な奴ー。居るのはわかってる、大人しく出て来なさーい」
目先二十メートル程の地点にいる、姿の見えない相手に声をかけることにした。モードレッドは勿論気付いていたが、他は全く分かっていなかったようだ。俺の指摘に驚いて周りをキョロキョロしていることからそれは容易に推測できる。
「俺達は別にお前らナイトレイド(暫定)と敵対する気はない。そっちから手を出して来なければな」
「......はっ。よく言うぜ、森をこんなにしやがったクセによ」
続いて透明な相手に声をかけると、今度はちゃんと返事が返ってきた。そしてバチバチと放電があった後、一人のフルアーマーで固めた、恐らく男が姿を表す。あの鎧が帝具で、透明化はその能力なのだろうか。それともアイツ個人の能力?
「ブラート!」
そのフルアーマーの人物の姿を視認したマインが、何やら嬉しそうな声を上げた。チラリとシェーレの方も見ていると、そちらもどこか少しだけ安心したような顔を浮かべている。
「よぉマイン。シェーレも無事だったか」
「これが無事に見える!? さっさとこいつら倒してこれ解いて! この中すっごく蒸れてて気持ち悪いの!」
「こら、暴れんな芋虫ピンク、大人しくしてたらすぐ解いてやるから。......で、お前の事はブラートって呼べばいいか?」
「ああ。もしくはハンサムと呼んでくれ」
ブラートと呼ばれたフルアーマー男は、キランッ! という効果音が似合いそうなサムズアップを決めてそう言った。またキャラが濃いのが出てきたな...。顔が見えないからハンサムかどうかも分からん。が、ここはとりあえず相手に合わせてみよう。
「じゃあハンサム。さっきも言ったが、そっちから手を出してこない限り、俺達はお前らと敵対するつもりは無い。俺達が帝国に目を付けられてる可能性がある以上、そっちの味方にもなり得るんだが......って聞いてる?」
交渉にでも入るかと話を始めたのだが、どうやら目の前のハンサム、ブラートはこちらの話を聞いていないように見える。どこか上の空っぽいんだよな...なんでだ?
「ハンサム......初めて...呼ばれ......はッ!? くっ、初っ端から精神を揺さぶってきたか...ッ!」
「何言ってんのコイツ?」
自分で呼べって言ったくせに。じゃあいいや、ブラート呼びで統一しよう。
と、そんな割とどうでもいい事を考えていると、ブラートの後ろから複数の人影が走って近付いて来る。そしてブラートとほぼ横一列になるように位置取った後、全員がこちらに敵意を向けてきた。まあこちらは人質を取ってるし、是非も無い対応ではある。
「後続の連中も到着したな。さて、こちらとしては、とりあえずそっちと話し合いがしたいんだが...お前らの頭って今いる?」
「私だ」
ぬるっと会話に入ってきたのは眼帯銀髪の女性。ちょっとだけラウラとキャラが被ってる感があるな。まあ容姿だけかもしれないけど。
自らをナイトレイドのボスだと言った女性と、その周りには、自称ハンサムだがそう呼ばれると何故か動揺するブラートという男、黒髪ロングの刀を持った少女、片手剣を背に担いだ少年、緑色とかいう珍しいような見慣れたような髪色の少年、どこか野生を感じさせる露出度高めの女性、というまあまあ濃ゆい連中。皆一様に戦闘態勢を整える中、ボスを名乗った女性が再度口を開いた。
「...話し合いに応じよう。場所や日程はどうする?」
「あ? あー...場所はお前らの住処がいいな。まあ嫌ならここでも構わないけど。日程は今すぐだ」
「......分かった。我々のアジトへ向かう」
「ちょ、ボス!?」
「うるさいぞ芋虫ピンク」
「芋虫言うなッ!」
と、言う訳で。その後ナイトレイドの連中から多少の反論が上がったものの、結局俺達はナイトレイドのアジトにまで足を運ぶことになった。ちょっと警戒心薄すぎて心配にならないでもないが、まあ折角上手く事が進んでいるのだ。野暮なツッコミで台無しにする必要はないだろう。
俺達を先導するようにボスと呼ばれる女性が踵を返す。ナイトレイドのほぼ全員に警戒されながらも、俺達はそれに続いて歩き出した。
思った以上にトントン拍子に進むこの状況に若干警戒しながらも、俺はナイトレイドとの交渉まで漕ぎ着けることに成功した。シャルロットとかラウラとか、あとモードレッドですらも置いてけぼりにしているこの急展開下ではあるものの、まあそこまで政治的要因とか堅苦しい事が絡んでくる話でもないし、気楽にいこうと思う。
あと、道中ブラートがチラチラと俺を見てくるのが凄く印象的でした。見られるたびにちょっと寒気が...。
* * * *
「では早速こちらから質問だ。お前達は何者だ?」
ナイトレイド隠れ家。その大広間にあたる一室にて、俺達とナイトレイドは長机を挟んで対面していた。というかこのアジト、思った以上の豪華な内装をしている。いつぞやの魔術結社と赤い悪魔を思い出すくらいだ。廊下にあった壺一つで一体いくらするのだろうか? お前ら本当に反乱軍なの?
「何者か、ねぇ...」
唯の通りすがりの魔王とその一向だ、というのは簡単だが、その後が絶対に簡単では無いので口にはしない。だが...さて、俺が何者か、という問いに俺はどう答えれば良いのだろうか? 哲学チックな話、つまりはヒトの定義についてでも議論していくか? ......いや、面倒過ぎるし脱線にも程があるな、それは。
「ま、旅人ってのが妥当だな。修行の旅の途中、ってとこだ。あ、あとそこの緑少年。今お前がせっせと張ってる糸だけど、もしこっちに少しでも危害加えたらさっきの森みたくここも潰すから。そこら辺気を付けろよ?」
「ちっ...気付いてたのかよ......」
俺の指摘を受けた緑髪の少年は小さな舌打ちをした後、その手に持つ篭手のようなモノでこの部屋に張り巡らせている途中だった糸を回収し始めた。
「...すまなかった。こちらとしても、自分らの本拠地に得体の知れない相手を招き入れるのは少しばかり怖い。それなりの対処をさせてもらっていた」
「それは別に構わないよ。警戒するのは当たり前だろ。ただ、それでこっち側に被害が出るようなら、俺は容赦なんてしないからな」
割りかし本気の殺気を向けながらナイトレイド全員に忠告する。実際、その気になればこのアジトごとナイトレイドを抹殺するなど容易いのだ。まあ理由が無いのならそんな事はしないけど。
「......肝に銘じておこう。それでは質問の続きだ。お前と帝国との関係は?」
「また随分とストレートに聞いてきたな」
俺の放つ殺気に一瞬たじろいだものの、即座に気を取り直したナイトレイドのボスは話を続ける。さすがは一組織のトップに立つ人間だといったところか。てかこいつらの名前なんだ。未だ三人しか分からないんだけど。
「帝国との関係なんて無いに等しいぞ? 帝国と絡んだのだって、昨日帝国軍の奴ぶっ飛ばしたくらいだしなぁ。敵認定されてるか、そうじゃなきゃ無関係だ。...つっても、どうせ信じれないだろ?」
「まあ、簡単に信じるわけにもいかないな」
「だろ? で、俺達をここに置いとくのはどうか、ってのが俺達からの提案だ」
「...ほう?」
「俺達は雨風凌げる場所が欲しい、お前らは信用ならない俺達を監視できる。どうだ?」
これはいい提案なのではなかろうか(自画自賛)。
まあナイトレイド側としてもアジトを見られた相手をむざむざ返すわけにもいかず、かと言って俺達を倒せるかと言えば100%ノー。であるならば、俺の提案は悪くないはずである。そして、ここで更に追い討ちをかけることにした。
「で、お前らが俺達を信用できると判断したら、俺がお前らの手伝いでもしてやろう」
「..................分かった。その提案に乗ろう」
長考の末、ナイトレイドのボスは俺の提案を受け入れた。よし、少し簡単過ぎて手応えが無かったが、これで拠点となる場所の確保は出来た。それだけで修行の方も捗るだろう。安心して休める場所があるっていうのは精神的にも良い。そしてもちろん、約束通り申請があれば俺もナイトレイドの手伝いに出るつもりだ。これぞwin-winの関係というやつではなかろうか。
「...ねぇ、この際アンタがウチに転がり込むのはいいわ。でもね、アタシからちょっと言っておかないといけない事があるのよ」
「あ? どうしたマイン」
せっかくいい感じに話が纏まりそうなところで、マインが口を挟んできた。まあ俺達がここに居座る事には反対していないみたいだが。
そう思い、多少ドヤ顔で意気揚々と返答してやろうと準備していたのだが、マインの主張はそれとは少し違ったらしい。
「さっさとコレ解きなさいよーーーッ!!!!」
──天井から吊るされた簀
「ってか! なんで誰もこの状況に突っ込まないワケ!? 誰か助けなさいよッ!」
「いや、なんか雰囲気的に突っ込みづらくて......」
ギャーギャーと怒り散らすマインに、片手剣担いでる方の少年が申し訳なさそうな顔をして近付いて行く。が、どう解けばいいのか戸惑っているようだ。......ふむ、もういいかな。
「ほら、動くなよマイン。下手に動くと怪我するぞ」
「は? ちょ、アンタ何する気──きゃ!?」
言い終わる前に、マインを縛っていた縄がハラリと切れる。そして縄という彼女を空中に留めていたモノが無くなれば、自然の摂理として地面に落ちて行くわけで。
「ヘブッ!?」
「いたっ!」
マインの下にまで来ていた少年と、額を仲良くごっつんこ。唇じゃなくて良かったね、とだけ言っておこうか。
「...アイツ、今何したの? 俺には何も見えなかったんだけど...」
「右手を振るったように見えた。だが、早過ぎて残像程度しか視認出来なかった」
「ああ、俺もアカメと同じように見えたな。ありゃ手刀か?」
「アタシもギリ見えたくらいだ。......いやぁ、おっそろしいなぁ。こりゃ仲間に引き入れるまではいかなくても、敵対だけは絶対にしない方が良さそうじゃない? ねぇボス」
「...そうだな。エスデスやブドーだけで手一杯なんだ、これ以上帝国側に大戦力が増えるのは我々の不利にしかならん」
...おいマジか。今のほとんど見えてなかったの? ちょっと真空波作って縄を斬っただけなんだけど。
「なんつーか、拍子抜けだな。こんなんだったらマスターだけで十分だったんじゃねぇの? こんなのしかいないんだったらマスターだけで二人とも守りきれるだろ」
「それはちょっと思った。けどまあ、備えといて損するって事は無いだろ」
「...いや、普通今のは見えないよ。何したの?」
「ちょっとばかり真空波を」
「わお」
「嫁達の感覚は狂っているのだろうが、将来的には私達もそのステージに立つ必要があるのだろうな...」
「まあそのうち何とかなるさ」
とまあ、こんな感じでこの世界における拠点は見つかった。ナイトレイドとの接触もわりかし好感触だ。よぅし。凌太、
主人公の主観だけじゃなくて、第三者目線の語り部も入れていった方がいいのだろうか......