問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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もうすぐセンター試験ですね。去年のセンター試験で失敗したのも、今ではもういい思い出に......いや、全然なってないですけど。その後二次試験でめちゃんこ苦労しましたし...

まあとりあえず。受験生の皆さん、頑張ってください!(直前期にコレ読んでるかは分からないですけど)


帝具? え、なにそれ強いの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星空を完全に覆い尽くした曇天の下。シトシトと小雨が降り注ぐ中、甲高い打撃音と銃声、そして獣の咆哮が木霊する。

 

「GRAAAAaaaa!!」

「嘘!? まだ再生するの!?」

「くそっ! 不死身なのか、こいつは!?」

 

 唸る獣──コロ、と呼ばれた謎生物を相手にするシャルロットとラウラは、悲鳴にも似た声を上げた。

 それもそのはず。謎生物コロは、既に4回、シャルロット達によってその頭を吹き飛ばされている。にも関わらず、未だにその強靭な顎で2人を喰いちぎろうと、その巨体に似合わない素早い身のこなしでシャルロットとラウラを追い詰めているのだ。

 

「おいマスター。こっちは終わったぞ」

「ん。気絶させたの?」

「おう。別に殺す事はねぇだろうし、こいつらから聞き出せる情報もあるだろ。『帝具』とかいうやつの情報とかな」

 

 そう言って、モードレッドは担いでいた2人の女性を地面に降ろす。五体満足で横たわるツインテピンク髪の少女と紫チャイナ服の女性をチラリと見、ギフトカードからロープを取り出してモードレッドに渡す。目を覚まし暴れられる前にそれで拘束しておけ、という意味だ。

 

「んだよ、そんくらい自分でやれよ」

「男の俺がやるよりも、モードレッドが縛った方が幾らか絵面がマシなんだよ」

「はっ、今更マスターが他人の目線を気にするのかよ。そんなもんはもう手遅れだぞ。それより、アイツら大丈夫なのか?」

 

 結局、紐で拘束することはせずに、俺とモードレッドはシャルロット達の戦闘へと視線を移す。ピンクや紫が復活して暴れても、まあ俺とモードレッドがいれば瞬殺出来るだろう。モードレッドも、十分に対処出来ると判断しての行動だろうし。

 

「ちとヤバイかもな。そろそろISの活動限界だ」

 

 戦闘が始まってから、既に10分以上が経過しようとしている。その間に、あのコロとかいう生物からシャルロットとラウラが貰ったダメージは決して少なくない。ポニテ少女は後ろで立っているだけなので、2対1と数の上では優位に立っているのだが、如何せんコロの再生能力が高過ぎる。普通、どれだけ再生能力が高くても、頭が吹き飛んだら死ぬものではないのか。緑肌の人もビックリの性能である。

 

「...仕方ないか。2人共! 一旦下がれ!」

 

 このままではジリ貧だ、俺はそう判断し、2人を下がらせる為に声を張る。

 その声を聞きつけたシャルロットとラウラは素直に従い、ISに搭載されている飛行用ジェットの逆噴射で俺の元へ帰ってきた。

 

「コロ、逃がすな!」

「こっちの台詞だ」

 

 俺達を逃がすまいと、ポニテ少女の指示を得たコロが地面を踏み込み、タックル紛いの攻撃を仕掛けてくる。

 だが、いくら素早いと言っても所詮は一般レベルでの話だ。音速を超えているらしい某一番隊隊長を始めとする数々の英雄英傑と渡り合い、そして何より、逆廻十六夜などという人類の域を超えた速度を叩き出すキチガイを知っているのが俺である。そんな俺にとって、正面から突っ込んで来るだけのコロなど歩いているのとほぼ変わらない。

 

 俺はコロの反応出来ない程度の速度でコロの懐に入り込み、右足でコロの腹部を蹴り上げる。

 

「Graa...!」

 

 短い苦悶の声にも聞こえる唸りを発しながら、その巨体は上空30m程にまで上昇。それに追随するように、俺は一気にコロの隣にまで跳躍する。

 

「ばいちゃ」

 

 軽くそう言いながら、ガラ空きだったコロの横っ腹に回し蹴りをお見舞いする。空中でまともに防御も出来なかったコロは、まるで風を切るかの様に遥か遠方へと吹き飛び、やがて夜の闇へと消えていった。

 

「コロ!」

「余所見してんじゃねぇ。てめぇはてめぇの心配してろ」

 

 俺の体が未だ空中にある中、地上から俺を見上げていたポニテ少女にモードレッドが接近する。

 完全に隙を付かれたポニテ少女は驚愕に目を見開き、咄嗟にモードレッドへと攻撃を仕掛けるが、そんなものが円卓の騎士に通用する訳もない。ポニテ少女より放たれた拳は、乾いた音を立ててモードレッドの掌に止められる。

 

「てめぇも飛んどけッ!」

「んなっ!?」

 

 片腕で人1人を持ち上げ、振り回し、俺がコロを蹴り飛ばした方向へとブン投げるモードレッド。為す術もなく投擲されたポニテ少女は、俺の視界からも、そして俺の索敵可能範囲からも徐々に消えていく。というかあれ、着地失敗したら普通に死ぬんじゃね?

 

「......僕達の奮闘って一体...」

「一瞬で片が付いたな」

 

 着地した俺とモードレッドを相互に見て、シャルロットは若干項垂れ、ラウラは感心したような顔を見せている。

 

「お前ら、オレやマスターを比較対象にしない方がいいぜ? オレ達は文字通り、今のお前らとは格が違うからな。実力もだが、実戦経験においてもオレらとお前らじゃ天と地の差がある。何、自分らの無力に打ちひしがれるこたぁねぇよ。オレ達...特に、マスターと一緒にいれば嫌でも強くなるだろうしな」

「そうそう。ゆっくりでいいんだよ。俺の周りには強い奴も多いし、そいつらの戦い方を見るなりなんなりして、ちょっとずつ強くなればいいさ」

 

 と、俺とモードレッドで励まし...とは少し違うが、そのような言葉をかける。

 別に焦る必要は無いのだ。誰だって最初は弱い。生まれながらの強者もいるにはいるが、そんなものは本当に一握りにすぎない。一歩一歩、地に足つけて進んでいけばいい。

 

 まあ、それは一旦置いといて。

 

「で、こいつらどうするよ?」

 

 俺達を勝手に敵認定する輩もいなくなり、地面を打つ雨音が良く聞こえる程に閑散とした夜道に横たわる2人の女性を見下ろしつつ、意見を求めるように呟く。

 

「とりあえずは雨の凌げる場所を見つけようぜ。デュノアやボーデヴィッヒもあんまし濡れたく無いだろ? あとはアレだな。食料と調理場。マスターのグラタンが食いてぇ」

「だからどんだけグラタンに飢えてんだよお前...」

「あっ、グラタンは僕も食べたいなって思ってたんだよね」

「むっ、2人共グラタンなのか。私はスパゲティが食べたかったのだが...嫁が作るならグラタンでも構わない」

「...まあ作る分には構わないけどさ。だったらまずは拠点探しだな。こいつらも連れていくか。大事な情報源だし」

 

 そう言って、俺は転がっているナイトレイドとか呼ばれていた2人を担ぐ。

 一先ずは雨を凌がなくてはならない。今夜のところは本格的な拠点ではなく、適当な宿泊施設を探すかと考えつつ、俺達は街道を歩き出した。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

「くそっ、傘も常備しとけば良かったな...」

 

 宿泊施設を求めて歩き始めた俺達だったが、雨足がだんだんと強くなってきたこともあり、シャルロットとラウラの体力が落ちてきていた。このままでは風邪を引いてしまうな、と本気で危惧し始めた時、モードレッドが俺に声をかけてきた。

 

「ん? マスター。アレ、民家じゃねぇか?」

 

 その声を聞き、俺はモードレッドの指差す方を見てみる。

 それは街道から逸れた森の奥。闇夜の中に揺らめく微量な光が見てとれる。

 

「ホントだ、薄らと光が見えるね」

 

 シャルロットもその光を捉えたようで、そう口にした。

 

「...気配が無いな。空き家...って訳でも無いだろうし」

「とりあえず行ってみようぜ。オレらはともかく、このまま雨に濡れ続けたらデュノアとボーデヴィッヒが風邪引いちまう」

「ま、そうだな。行ってみるか」

 

 モードレッドの意見に賛成し、俺達は整備された街道から外れて獣道の様なぬかるんだ小道へと足を踏み入れる。そんな足場の悪い道を歩くこと数分。俺達は民家と思われる建築物の前へと到着したわけだが...。

 

「っ...シャルロット、ラウラ。お前らちょっとここで待ってろ。あ、こいつら任せるぞ」

「え? う、うん。分かった」

「了解した」

 

 目の前の建築物、その室内から異変を感じ取った俺は、担いでいたピンクと紫の女2人を降ろしてから、モードレッドと共に室内へと上がる。

 

「チッ。なんか臭ぇと思ったらこういう事かよ...」

 

 入って室内を見回すなり、モードレッドが悪態をつく。俺も、モードレッドと似たような感想を抱いた。

 

 人が死んでいる。それも男女2人というところを見るに、生前は夫婦だったのだろうか。仲良く...と言うと不謹慎だが、男が女を庇うように、重なって血の海の中心で横たわっている。両者共に腹部が抉られ、中の臓物も食い千切られているという状況を見るに、腹を空かせた肉食獣に襲われたといったところだろう。

 

「これ、獣の仕業だよな」

「だろうな。外では雨に掻き消されてたが、中は獣の臭いで満ちてやがる」

「もしかしてさっきのコロみたいな奴らが野生動物として普通に跋扈してるんじゃないだろうな? だったらこの世界、シャルロット達にとって相当厳しい環境だぞ」

「マスターレベルが跋扈してる箱庭よりは全然マシだろ」

 

 そう言われると弱い。カルデアの英霊集団が可愛く見えるレベルだからな、箱庭は。爺さんに施された封印を解いたとしても、俺程度では良くて4桁並の実力しか無いだろう。3桁以上とか本当何なのさ。

 

 まあ、箱庭の異常性は置いておくとして。

 家主がいないのなら、この家を少しの間使わせてもらおう。まずは掃除からだな。義理はないが、家を使わせて貰う礼だ。この2人は埋葬してやろう。いや、この世界の弔い方が埋葬で合ってるのかは知らないけど。

 

「死体と血だけさっさと片して、シャルロット達も家に入れるか」

「んじゃオレは寝床の準備でも」

「モードレッドは外に穴を掘っておいてくれ」

「...ま、そのくらいはしてやるか」

 

 そう言い、モードレッドは夫婦らしき男女を担ぎ、裏口から外へと向かう。シャルロットやラウラに死体を見せない様に気を使ったようだ。

 

 そして部屋に残った俺がする事といえば、この部屋一面に飛散した血飛沫と鼻につく血と獣の臭いの処理である。本来それらの処理には時間がかかるものだが、今の俺にはちょっとした裏技があるのだ。

 俺は指先に魔力を込め、ツラツラと床や地面に文字を綴る。

 

 ルーン魔術。北欧神話にも登場する、文字を用いて神秘を発生させる魔術の一種。廃れた魔術として卑下に扱われていた時代もあるそうだが、はっきり言ってチート魔術の一種である。原初のルーンなるモノを習得し、それらを組み合わせれば大体なんでも出来るのがこの魔術だ。

 まあ『なんでも出来る』とは言っても、それはルーン魔術の究極に達した者、つまりはスカサハ師匠などのみであり、俺はまだその領域には立てていない。

 だが、それでも幾つかの原初のルーンを俺は修めた。血や臭いの処理程度であれば文字通り片手間で済む。

 

 綴ったルーン文字が輝きだし、それぞれが与えられた役目を従事する。ものの数秒で室内にこびり付いた血はもちろん、臭いまでもが綺麗さっぱり無くなった。

 多少齧っただけでこの性能。本気でルーン魔術を習得したら一体どうなってしまうのか。うーむ。これは師匠がルーン魔術を余り多様したがらない理由も分かる。これに慣れたらダメになるな、絶対に。どこぞの猫型ロボットに引けを取らない便利さだ。終いには「助けてルーンえもん!」などと意味の分からない発想に至りそうで怖い。依存しないように気を付けよう。

 

「さて、と。んじゃ、皆を呼びに行くかな」

 

 処理のし残しが無いか確かめた後、俺は外で寒さに震えているであろうシャルロットとラウラを室内へ招き入れる為、玄関へ足を向けた。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

「美味い。さすがマスター、安定の美味さだな。おかわり!」

「グラタンを米よそう感覚で作れると思うなよ...。5分待て」

「それでも5分で作れるんだ...物理法則とか色々無視してるよね、それ」

 

 掃除その他を終えた俺達は現在、仲良くテーブルを囲んで、モードレッド御所望のグラタンに舌鼓を打っていた。

 この家には電気もガスも通っていなかったが、そこは魔術の出番。火を出すなど容易なのである。薪は室内に備蓄されており無事だったので、それに火を灯して暖炉に()べ、シャルロット達が寒がらない程度に室内の温度を上げる。

 

 調理器具や食料を拝借して恙無くグラタンを作れる環境を整えた俺は、機密事項並のエミヤ流調理術で以って短時間でのグラタン作りに成功した。フッ、別に法則などに従わなくても良いのだろう?

 

「はいマイン。あーん、してください。あーん」

「やらないって言ってるでしょ!? っていうかこの縄解きなさいよーー!!」

「うっせぇぞマイン! 飯くらいもうちょっと静かに食えねぇのか!」

「名前を覚えられた!? ほらシェーレ! アンタのせいで変な奴らに名前覚えられちゃったじゃない!」

 

 俺がキッチンでテキパキとグラタンを作っていると、食堂からそんなやり取りが聞こえた。元気なのはいい事だと思うよ、俺は。まあエミヤなら黙ってなかったかもしれないけどな。あいつ、食事マナーにはうるさいところあるし。

 

 

 現状を掻い摘んで説明しよう。

 まず、俺とピンクツインテ少女、あとチャイナ服の女性を除く3人は、室内の掃除が終わった後にすぐ風呂に入れた。風邪でも引かれたら困るしな。で、その間俺は飯の用意をしていた訳なんだが...。そんな時、マインと呼ばれるピンク髪が目を覚まし、自分達を解放しろと暴れ出したのだ。まあ2秒で大人しくさせたが、その音でシェーレと呼ばれたチャイナ服の女性も目を覚ました。こちらも暴れるだろうと判断し、マインと同様縄で拘束したのだが、これが思った以上に抵抗が無かったのだ。何故誘拐犯紛いを相手にして敵対心を抱いていないのかは知らないが、そのような者を拘束しておく理由もない。よってシェーレのみ解放し、食卓に並んで飯を食う事も許可して今に至る訳である。

 

「ほら、グラタンおかわりお待ちどう」

「おっ、サンキュー!」

 

 きっちり5分で調理を終え、いい感じに焦げ目の付いたグラタンをモードレッドの前に置く。さて、皆には食後のデザートとして先日作ってギフトカードに保存していたプリンでも配るか。

 

「...やはり凌太は嫁だな。嫁力が高すぎる」

「嫁力ってなんだよ、主夫力的な何かか? 別にこのくらい、少し練習すりゃ誰でも出来るだろ?」

「いや、少なくとも世の理を無視した調理時間を実行するのは私には無理だ」

 

 美味い美味いと俺の作った飯を食べる皆(マイン以外)を見ていると、「ああ、作って良かったな」という気持ちになる。喜ばれるのは結構嬉しいかも。

 

 で、だ。

 

「さてシェーレよ。飯は食わせた。だからこっちの質問に答えてくれ」

「質問...ですか? ええ、いいですよ? 私に答えられるものであれば、ご飯のお礼として答えます」

「ちょっとシェーレ!」

「大丈夫ですよ、マイン。私も言っていい事と悪い事の区別くらいつきますから」

 

 尚もギャーギャーと騒ぎ、こちらを睨んでくるマインは無視する。そういうのには慣れてるし。

 

「じゃあ質問だ。さっきのポニテ少女が言ってた『帝国』、『反乱軍』、『ナイトレイド』、そして『帝具』に『臣具』。これらの単語について知ってる事を話せ」

 

 最早質問ではなく命令の様だが、立場的には俺達の方が上なので仕方ない。こっちは勝者、あっちは敗者なのだ。

 

「帝国を知らないのですか?」

「何かしらの国家だって事は分かる。それ以外の情報が欲しい。首都の場所に統治領土範囲、あとは出来れば戦力とかな」

「でしたら答えられます。まず首都の場所ですが──」

 

 その後、シェーレは反乱軍とナイトレイド以外の事を細やかに教えてくれた。まあポニテ少女の発言からするに彼女らがナイトレイドなる集団である事は明白だし、その組織が反乱軍の一部であろう事は容易に推測出来る。まあ自分らについて他人に教えたくないという気持ちは分からなくもないので、別に構わないのだが。

 

「で、これが帝具ねぇ。そんなに強そうには見えないけど」

 

 一通りの説明が終わり、帝具についても多少の知識を付けた俺はギフトカードから1丁の長銃を取り出し、まじまじと見つめる。見た目はISに搭載されてる銃と変わらない。どっちもビーム出るしな。

 

「ちょっとそれアタシのパンプキン!」

パンプキン(かぼちゃ)て。その始皇帝とやらのネーミングセンスを疑うな」

「返しなさいよ、この変態!」

「何故変態呼ばわりされるのか。解せぬ」

「女の子を縛るのが変態じゃなかったらなんだってのよ! しかも何か結び方がいやらしいし!」

「いやらしい結び方とは一体。亀〇縛りをしてる訳でもないだろうに」

 

 まあいいや。“ファミリア”内では何故か俺がドSだという噂が流れているくらいだ。今更気にしなくてもいいだろ。しかも、マインは所詮他人だ。身内以外から何と思われようが構わない。

 

「ま、帝具にはもっと色んな種類があるだろ。シャルロット、ラウラ。お前らはどう思う?」

「どう思うって?」

「強化素材として」

「ああ、そういう。いいんじゃないかな? 兵器って事はISとの相性がいいものもあるかもだし。僕は賛成だよ」

「私も異論はない。使えるモノは使う」

 

 という2人の意見も頂き、本格的に帝具入手を視野に入れる。炎とか水とか風とか...あとは雷なんかを扱う系の帝具はないだろうか? シャルロットとラウラの基本戦闘スタイルはISを用いるものだし、身体能力向上系は余り意味がないかもしれない。まあ見つけたら片っ端から回収していって、その中から2人の気に入った物を使えばいいか。

 

「ま、帝具云々は今後考えていけばいいだろ。とりあえず今日のところは寝とけ。そろそろ眠気も限界だろ?」

「あっ、バレてた? 実はさっきから凄く眠くて...」

「私はまだ大丈夫だが...そうだな。疲労を残すのは避けた方がいいか。次はいつ戦闘が発生するか分からないしな。それで嫁よ、私達の寝室は何処だ?」

「ああ、お前らの寝室は右奥の2部屋、モードレッドはその向かい側。俺とシェーレ、マインはここな」

「ちょっ!? なんでアタシ達がアンタ何かと!!」

「勘違いすんなバカピンク。頭の中までピンクかお前。俺は監視役に決まってんだろ。寝首かかれたら目も当てられねぇからな」

 

 ここまで攻撃的な奴を放っておけるわけが無い。俺やモードレッドは大丈夫だが、シャルロットとラウラは普通に危険だ。それにマインだけではない。シェーレも寝首をかきに来ないとは言い切れないし、ナイトレイドとやらがコイツらを取り返しに夜襲を仕掛けてくる可能性だってあるのだ。

 

 それを考慮すると、俺が起きておくのが1番いい。ハサン連中並の気配遮断スキルの使い手でも無い限り、俺に察知出来ない気配はないと自負している。もし仮にナイトレイド側にハサンレベルの奴がいたとしても、起きていればいくらでも対処は可能だ。一応、各部屋には防護のルーン文字を刻んでいるし、俺が駆けつけるまでは英霊だって足止めできるだろう。早速ルーン魔術に頼ってしまっているが、身内の安全を確保する為だ。仕方ない。

 

「監視役ならオレも手伝ってやろうか? マスターから十分な魔力を貰ってるし、英霊(オレ)に睡眠は必要無いからな」

「...そうだな。んじゃ途中からは頼むわ」

「おう!」

「それじゃあ2人には悪いけど、僕はもう寝るね? さすがに疲れちゃって」

「では私も。おやすみだ」

 

 欠伸を噛み殺すシャルロットが席を立ち、それにラウラが続く。まあこの世界に来る前から色々あったからなぁ。しっかり休んで明日以降に備えて欲しい。

 

「それでは、私はそこのソファをお借りしますね」

「ちょっとシェーレ! なんでアンタそんなにマイペースなのよ!? もう少し警戒心ってものをねぇ!」

「いいぞ、俺は椅子があるから。マインは床な」

「なんでよ!!」

 

 元気だなぁ。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

「ルーラルルーラルスーサスシムズー、ジームームズマシマホシハミゼン...」

「何よその奇妙な歌」

「受験生の味方になる歌だ」

「は?」

 

 夜中。シャルロットやラウラ、モードレッド、そしてシェーレも寝てしまい、すっかり静かになった部屋でテキトーな鼻歌を歌っていると、マインが話しかけてきた。というかシェーレが本当に寝るとは思ってなかった。大丈夫かこの人。

 

「それよりさっさと寝たらどうだ。夜更かしは美容の大敵だぞ? お前の相方は気持ち良さそうに寝息を立ててるし」

「...シェーレはちょっとズレてるのよ。普通は敵の目の前でなんて寝れないわ」

「敵て。別に俺達はまだお前らの敵じゃないんだけどな」

「はっ。人を拘束、誘拐しておいてよく言うわね」

「そりゃお前が銃口向けてきたからだろ。...にしても、コレの構造はどうなってんだ?」

 

 そう言って、俺は手に持っていた帝具(パンプキン)を机の上に置く。

 

 暇潰しがてら、帝具とやらの構造でも調べてみるかと没収していたパンプキンを手に取ったのだが、これが全くと言っていい程分からない。まず動力源が見当たらないし、かと言ってレボルバーの様な物があるわけでもない。一体どういう理屈でビームを出してるのだろうか?

 

「ふんっ! パンプキンはね、アタシの帝具なの。アンタなんかには扱えないわよ」

「ふーん。つまり使い手を選ぶ系の武器って事か...。ま、別に関係無いけど」

 

 椅子から腰を上げ、窓際まで歩いてからその窓を開ける。訝しげにこちらを見てくるマインを無視しつつ、未だ雨の降っている夜の森へとパンプキンの銃口を向け...引き金を引いた。

 

「────え?」

 

 マインの口から漏れる小さな声。

 その揺れる瞳の先には、パンプキンから放たれた光線により幹を焼かれた数本の木々が映っていることだろう。

 

「んー...なんか弱くね? さっきはもっと強かった気がしたんだけどな...」

 

 俺は煙を吹くパンプキンを見つつ、まあこんなものかと思い直して窓を閉める。

 この程度だったらシャルロット達が持ってる粒子砲の方が強力だな。パンプキンは強化素材候補から外すか。

 

「ちょ......」

「ちょ?」

「ちょっと待ちなさいよ!! なんっ、なんで!? なんでアンタがパンプキンを使える訳!?」

 

 気が動転したかのように、縛られたままで俺に詰め寄ってくるマイン。そこまで驚くことなのだろうか?

 

「なんでって...そりゃコイツ(パンプキン)が俺を使い手として認めたって事だろ? なんも不思議な事はない」

「そりゃ......」

 

 自分専用だと思っていた武器を簡単に扱われて焦ったのだろうか? まあいいや。次はこっち、万物両断エクスタスか。

 

「これは...硬いな。さっきクラレントと打ち合ってたってのに刃毀(はこぼ)れも無し、か」

 

 巨大なハサミの様な帝具を持ち、チョキチョキと切る仕草をして見せる。

 

「何かテキトーな物は...っと。これでいっか」

 

 試し斬り出来る物を探して室内を見渡すと壁に鉄製の斧が飾ってあったので、それを取る。

 

「ちょ、ちょっとアンタまさか...」

「そのまさかだ」

 

 屋根に当たらないよう気を付けながら斧を上に投げ、落ちてくるそれをエクスタスで斬る。

 正確に捕えられた鉄製の斧は、まるでバターか何かのように軽く斬られる。斬った瞬間に手へと伝わってくる感覚も殆ど無い。そして相変わらずの刃毀れ無しときたものだ。

 

「ほう...こっちはいい感じだ。これは候補入りだな」

「ちょっと待ちなさい。いえ待ってください」

「あん?」

 

 急に敬語を使い始めたマインを振り返る。

 

「なんだよ。みんなが起きるだろ、もっと声のボリューム落とせ」

「無理」

「即答かよ...何をそんなに騒ぐ事があるんだよ。エクスタスも俺を認めただけの話だろ?」

「だけの話だろ? じゃないわよ! 平然と帝具を2つ使うとか何なの!? アンタ何者よッ!」

「はぁ? 別におかしくはないだろ」

「おっかしいわよッ!! いい!? 普通ね、帝具を使えるのは1人1つまでなの! 2つも使うなんて、体への負担が大き過ぎて無理なのよ! 分かる!?」

「そうなの? でもさ、出来たもんはしょうがなくね? 認めたくはないけど、“俺だから”って理由で説明もつくだろ。認めたくはないけど」

 

 大事な事なので2回言いました。

 

 尚も騒ぎ続けるマインを恒例のスルーでやり過ごし、未だ降り続く雨音に耳を傾ける。てかシェーレはよくこの騒音下で起きないな。一周回って凄いわ。

 

 そろそろモードレッドが起きてくる時間だ。そしたら俺も一眠りしよう。そう思いながら、俺は暖炉へ新しい薪を()べた。

 

 

 

 

 

 

 

 




本当に今更なのですが、ティアマト神から簒奪した権能について少々。とりあえず権能はあります。ですが、ちょっと使うタイミングが無いと言うかなんと言うか。一定条件下でのみ発現、という設定にしたのが誤りだったか...。
権能の内容については追々。「アカメが斬る」では使う機会が無いかも知れませんが、出来るだけ早く出したいと思います。

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