問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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な、なんとか年内に出せた......


チートのインフレほど恐ろしいものはない

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、凌太。今から風呂だろ? 待ってたんだよ、一緒に行こうぜ!」

「ホモォ...」

 

 とまあ、そんなやり取りがあったのが10分程前の話。

 現在俺と一夏は共に高級旅館の男露天風呂で星空を眺めていた。...一応、一夏とは常に1m以上の距離を維持している。万が一があってからじゃ遅いからね。

 

「そういや、前もこんな事あったよなー。ほら、臨海学校の時」

 

 俺がボーっとしていると、一夏が突然に口を開く。

 

「あー、確かにあの時も露天風呂だったっけ」

「オレ、温泉って好きなんだよな」

「ジジくせぇ、と以前なら言ってただろうけど、今は同意。温泉はいい文明だ。疲れが取れる」

「さすがの凌太でも疲れることはあるのな」

「俺だって一応は人間だぞ。そりゃ疲れる事も沢山あるって」

「“一応”な」

「そう、“一応”」

 

 というか実の話、俺がまだ人間なのかどうかは怪しかったりする。 神殺しの魔王(カンピオーネ)になった時点で体の構造は変化してるからな。今の俺は半神半人に近い。ゲーティアも言っていたが、俺には人間と神の気配が共生しているのだ。《人間》というカテゴリに居ながら権能を得た影響で《神》のカテゴリに片足突っ込んでいる、どっち付かずの状態なのが今の俺なのだろう。

 

「あっ、そうだ凌太! ちょっとこれ見てくれよ!」

「んー?」

 

 少し思考に耽っていると、一夏がテンション高めに俺を呼んだ。その声に応え、顔だけを一夏に向ける。

 当の本人は俺を呼ぶだけ呼んで、今は目を瞑っている。せめて何の用事なのかくらい教えて欲しい。

 

 一夏の行動を多少訝しんでいると、一夏の気が徐々に膨れ上がっているのに気が付いた。おお、こやつ気の扱いを覚えたと申すか。

 

「──っと。どうだ!? ちょっとだけだけど、“気”ってやつのコントロールが出来るようになったんだ!」

「そうっぽいな。おめでとう、千冬に続いて2番目のスタートライン到着だ」

「おう! ってまだスタートラインかよっ!?」

「当たり前だろ? 何もかもここからだぞ」

 

 しかしまあ、一夏の成長は目覚ましい。俺が見てきた中で一番成長が早かったのはダントツで兵藤一誠(イッセー)だが、あれは少なからず『悪魔の駒』やドライグの影響があった。それに比べ、一夏には何も無い。そこからたった2週間で気の扱いを多少は覚えたのだから、それは十分凄い事だと思う。恐るべきは織斑の血か。血統云々で言うなら箒も期待出来るな。

 

「そうだな...。一夏、次の目標を提示してやろう」

「おう! どんと来い!」

「ん、意気込みは十分」

 

 そんな気合い入れまくりの一夏の目の前で、俺は右手を真っ直ぐ突き上げた。自然、一夏の視線は俺の右手へと注がれる。俺が何をするのかという疑念と、何を見せてくれるのかという期待の両方が篭った眼差しを受けながら、俺は右手に気を集め、固定し、全長100mを超える程度の極大の光剣を作り出す。

 

「.........」

「おい、なんだその『ああ、やっぱこいつダメだわ...』みたいな目は」

「いや、だって......えぇ...? 無理だろこんなの。一般人に出来る所業じゃねぇよこの逸般人め」

「え、なんで今俺ディスられた?」

 

 解せぬ。俺はただ次の目標を提示してやろうとしただけなのに。誠に解せぬ。

 

「てかこれ、見た目程困難な技じゃねぇよ。そもそも技ってレベルじゃない。ただの気のコントロールだ」

「いや簡単だとか難しいだとかの問題じゃなくて。オレにここまでの量の気は無いと思うんだが、そこのところどう考えてるんだ?」

「そこはほら。気合いと根性」

「根性論だけで全てをどうにか出来ると思うなよ!?」

 

 そんな事を言われても困る。実際、修行などについては根性論が一番良いのだから。強くなるにはどう足掻いても頑張るしか道は無いんだって。

 

「頑張れ一夏。これ、極めれば星だって斬れるから。理論上は。これで千冬とか箒とか、その他諸々も全部守っちゃえよYou!」

「星を斬ってどうやって守るんだよ...というかスケールがデカすぎてもう何も言えねぇよ...」

 

 まあ俺でも星を斬るとかは出来ないけどな。単純に光剣の硬度が足りないし、星を斬れる程の長さの刀身を振り抜く筋力も無い。あくまで理論上はの話だ。いやまあ? 将来はどうなるか分かりませんけどね?

 

「...でもまあ、刀くらいの長さに調整したら使えるよな、それ。よっし。とりあえず、手の周りに気を固定させるってところを目指してみるか」

「なんだかんだで頑張る奴って好きだぜ。...あ、性的な意味じゃないからな? 勘違いすんなよ?」

「しねぇよ!!」

 

 とまあ冗談を交わしながら、俺は光剣を霧散させ、再度湯に浸かった。一夏は一夏でうんうん唸りながら手に気を集めようと努力している。いや今やるのかよ。

 

 

 

 結局一夏が気を具現化させて剣を創造する事は出来なかったが、その行動力と努力は非常に評価出来るし、何より今後の成長に見込みがある。

 そこで一応、一夏個人にも“ファミリア”(うち)に来ないかと誘ってみたが、返事は千冬のそれと同じだった。千冬が行かないのであれば自分も行かずに姉を守る、そう言って首を横に振ったのだ。なんたるシスコン。だがまあ、これは素直に尊敬できる。

 

 また気が変わったら声をかけてくれ。一夏にそう言い残して、俺は風呂から上がろうとした。

 立ち上がり、湯船から片足を踏み出したその時。

 

「「「「きゃああああああ!!!!」」」」

「アッハハハハハ!!!」

 

 4つ程の悲鳴と、1つの笑い声が貸切状態だった男湯に響き渡り、空から何やら蜘蛛の様な物体が露天風呂へとダイブした。

 

「なっ、なんだぁ!?」

 

 巻き上がった水柱...いやこの場合は湯柱と言うべきか。とりあえず突然降ってきた物体を前に、一夏が素っ頓狂な声を上げる。無理もない、正直俺も状況が分からない。

 数メートル程の高さにまで至った湯柱はすぐに収まり、蜘蛛の様な物体の全貌がハッキリと見て取れるようになる。

 

「...何してんだ? 束さんよ」

 

 背中に背負ったランドセルの様な機械から5本のアームを展開させている我がコミュニティ新メンバーがそこにいた。いやホント何やってんだこの人。

 展開されたアームはそれぞれ人を1人ずつ掴んでおり、順番にクロエ、ラウラ、シャルロット、ニトリ、ペスト。先程の悲鳴はクロエを除いた捕獲組、笑い声は束とみてまず間違いないな。というか束以外もれなく全裸なのは何でなんでしょうかね? アームで大事な所は隠れてるけどさ。まあ唯一全裸じゃない束もタオル1枚を巻き付けているだけの半裸状態なのだが。...本当に理解が追いつかない。

 

「何ってそりゃあ異世界に行くんだよ! さあレッツゴー異世界! 摩訶不思議が束さんを待っている!」

「俺からすればお前も十分摩訶不思議だよ」

「りょーくん程じゃないから安心しなよ」

「何を安心していいのか全く分からねぇな」

「そっ、そんなのどうでもいいので服を! せめてタオルをください!」

 

 平気で会話をする俺と束に、捕まっていたニトリが勢いよく叫んだ。よくよく考えれば、この場にいるほぼ全員が産まれたままの姿であるという、日本、しかも京都の温泉では中々お目にかかれないであろう光景が広がっている。いや全裸だとか半裸だとかそれ以前に、束の背負っている機械が既に珍景なのだが。

 

 その後もギャーギャーと騒ぐ女性陣を、束は仕方なさそうに下ろした。だがまあ、それで彼女らの秘部を隠す物が無くなった訳で、その事で更に悲鳴を上げる女性陣。そんな中、一夏は女性陣の裸を見ないようにと、律儀にも体ごと後ろを向いて目を逸らしていた。耳まで真っ赤にしているところを見るに、別段異性の裸体に興味が無いとかそういう訳では無いようだが...真面目か。

 

 とりあえず常に携帯しているギフトカードから適当な衣類を人数分取り出し、彼女らに渡す。男物ばかりだしサイズも合っていないが、全裸よりはマシだろう。というかニトリは魔力で服を編めば良かったのに。

 

「んで? 結局なんで男湯にまで強行してきたんだ? しかもそんな格好で。...とりあえず服着ろよ」

「ん、ありがとりょーくん」

 

 予備で持っていたエミヤ支給のユ○クロのシャツとズボンを束にも渡す。湯船から上がってから大きめのサイズの服をモゾモゾと着込み、再度俺へと向き直る束。

 非常に場違いな感想かもしれないが、女性が大きめの男物の服を着てるのって、なんて言うかこう...グッとくるものがあるよね。

 

「ひ、酷い目に遭ったわ...」

「不敬です不敬です不敬ですっ! 不敬極まってますよ篠ノ之束!」

「アッハハハハ!!」

 

 ニトリに詰め寄られつつも、何が面白いのか束は笑い続ける。それにしても...

 

「お前、よくその2人を捕まえられたな? 他は兎も角、ニトリとペストはそう簡単に捕まる様な奴じゃないと思うんだが」

「ふっふっふ。そんなの基礎的な事なのだよワトソン君」

「誰が助手だ」

「まあぶっちゃけね、お風呂入ってるところの不意を打ったら見事に釣れたんだよ」

 

 束は自慢げになる事もなく、淡々とそう言ってのけた。いや、いくら不意をついたとしても反撃くらいはしそうなんだが...いや待て。確かニトリは第6特異点の時、砂漠で百貌らに捕まってたな。

 

「『私仲間になったよー! よろしくねっ! という訳で裸の付き合いといこうじゃないか盟友諸君!』って言いながら近付いてきて、実際普通に喋ってただけだったのに突然...不覚だったわ」

「未熟とは言え私とてファラオの一端。その(ファラオ)を捕らえるなど不敬極まりないですが...かと言って『仲間』というのは本当のことでしょうし、手を出す訳にもいかず...」

「ああ、なるほど。それで今に至る、と」

 

 ニトリ達の甘さが出たと言うことか。まあ事前に「束は仲間に引き入れるかも」と2人に言ってたしな。束の言葉を信じてしまうのは仕方の無い事だし、実際仲間になったというのは事実だ。今回はニトリ達が手を出し、束との間に軋轢が生まれなくて良かったと思うべきか。流石の束と言えども、ニトリ達が武力行使に出たら勝てないだろうし。

 

「それより急ごうよりょーくん! Hurry up!」

「なんでそんなに焦ってんだよ」

「これが焦らずにはいられないって! さっきちーちゃんがね? 『日本軍だけじゃなく、日本に潜入していた大国の小隊もこっちに来てる。更に悪い事に、既に多国籍軍も動き出している』って血相変えて報告してきたんだよね。なんか、昔私がシステムをハッキングした国が総出でここに向かってるらしいよ? 白騎士事件の件はバレてないはずなんだけどなぁ」

「ほう? 因みにだけどお前、その白騎士事件とやらの時、何カ国ぐらいにハッキング仕掛けたんだ?」

「んーっとね、ミサイル持ってる国は全部かな」

「多国籍軍は日本を沈める気なんですかね...?」

 

 ミサイルを所持している国ってどのくらいだ。20カ国くらい? 別に撃退もやってやれない事はないけど...関西全土くらいはもれなく更地になりそうだな。

 

「『坂元が災厄の魔王として歴史に名を刻む前にさっさと異世界に行け』ってちーちゃんがうるさくってさー」

「心配されてるのは俺達の安全じゃ無かった件について」

 

 まあ俺らの心配などするだけ無駄か。今更機械程度に遅れを取る俺達ではない。というか、天災こと篠ノ之束がこちら側に着いている以上、機械の類で俺達に挑むなど自殺行為もいい所だ。そこのところ、多国籍軍とやらはちゃんと考えているのだろうか? というよりなんでもう多国籍軍が動いてんの? 俺まだ何もしてないよね? もしかして京都破壊の主犯格俺だと思われてる? 冤罪もいいところだ、俺は逆に止めてた側の人間だっての。

 

「でもま、日本を火の海にするのは俺も本意じゃないしな。何でか知らないけど攻めて来てる敵さんと遭遇する前に、さっさとここから撤退しますか」

 

 そう言って、ギフトカードからタイムマシン擬きを取り出しポチポチと操作を始める。操作と言っても行き先の設定をするだけなのだが。

 

「あー、そういや結局クロエは付いて来るの?」

「はい。束様が行くのなら何処までも」

 

 なんだろうその絶対的忠誠心。ちょっとデジャヴ(自身の某契約サーヴァントを思い出しながら)

 

「んじゃ一夏、後は頼んだ」

「えっ。後ってなんだよ?」

「んー...軍の相手とか?」

「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが本当に馬鹿だなお前は! なんだよ軍の相手って!? 出来るわけ無いだろこの馬鹿!」

「ここにきて我が弟子の口が悪くなってきた事を、俺は非常に悲しく思う」

 

 とまあ、そんな一夏の罵倒をBGMにマシンの設定も恙無く終え、今更ながらに体を拭いて服を着込む。割と本気で忘れていたが、俺と一夏は腰にタオルを巻き付ける事もせず、ずっと裸の状態だった。いや、一夏は未だ素っ裸だけど。

 

 そんな一夏の全裸を、そして少し前までは俺の全裸をも、自身の顔を覆った手の指の隙間から興味深げにチラチラと見るというテンプレ行為をしている金銀コンビの女子(おなご)らが......ん?

 

「そういや束よ、どうしてシャルロット達も連れて来たん?」

 

 そう、ほかの衝撃等が強くて軽く流していたが、何故に束はシャルロットとラウラもひっ掴んで来たのだろうか? たまたま居合わせただけ、じゃ無いよな多分。

 

「え? なんでって...だってこいつらも一応はコミュニティの同士なんでしょ? 一緒に行くんじゃないの?」

 

 俺の問いに、束は「何を言ってんだろうこの人?」 とでも言いたげにそう返してくる。

 

「ああ、なるほどそういう。けど、こいつらがウチに来るかどうかってのは2人が卒業してから決めるってこの前...」

「いや、それは撤回させて貰いたい」

 

 束にシャルロット達の事情を説明しようとすると、それにラウラが待ったを掛けた。

 

「撤回?」

「ああそうだ。私も、そして当然シャルロットも、お前達に...凌太に付いて行くぞ。シャルロットと話して決めた」

「決めたって...今? そりゃまた随分と直截だな」

「ううん、そうでもないよ? この数ヶ月、僕とラウラが考えた結果なんだ」

「へぇ? なんだ、故国を捨てる覚悟でも出来たのか?」

「捨てる、というとまた違ってくるが。以前、凌太達が居なくなってから今後の事、主に卒業後の事についてクラリッサ...黒ウサギ隊の副官や隊員達に相談したら背中を押されてな。そこから自分でも考えて、やはり私はお前に付いて行きたいという想いが強かったから、この結論に至ったんだ」

「僕は元々、本国に帰るつもりは無かったからね。それに前にも言ったけど、僕は居場所の無い故国なんかより、好きな人の隣を選ぶような女の子なんだよ」

 

 ラウラとシャルロットはそう言い、その瞳には少なくない決意やら覚悟やらを浮かべていた。俺達と一緒に居たら死ぬかもしれないというのは理解しているだろうに、それでも付いて来たがるとはなぁ。それを喜んだ方がいいのか、自分の命をもっと大事にしろと叱るべきか...。どっちもかな。エミヤも交えてみっちりと叱ってやろう。そしてその後、暖かく迎えてやればいい。勿論、束やクロエも同様に。

 

 

 

「確かに、凌太は比較的整った顔をしていると思いますし、身内に対してのみではありますが、性格も問題ないでしょう。...ですが、それにしても些かモテすぎなのでは? “ファミリア”内だけでどれほど凌太に惚れている、無いしそれに準ずる気持ちを持った女性がいるのですか。これはある種の呪いの力を感じます。赤いアーチャーに渦巻くアレと同じ方向性の力を」

「マスターもあのシェフ兼弓兵と同じで罪な男ってことでしょ? ま、そのくらい魅力的でないと私のマスターなんて名乗らせないけれど」

 

 軍との正面衝突、及び関西の更地化を回避する為にマシンに乗り込む際、背後からそんな会話が聞こえたが無視した。ニトリの感知が本当なら、俺はエミヤと同じく女難の相を持っているという事になる。だが、そんなの俺は認めない。俺はただ向けられる好意に出来る限りで応えているだけだ。女難の相なんて持ってない。

 

 というかそもそもの話。 “女難” とは “男が女に関する事で災いを受ける” という意味合いの事であって、モテるからといってそれが女難に直結する訳では断じて無い。

 それに俺は女に対して甘いのでは無く味方全員に対して甘いのであり、それならば女難では無く仲間難とでも言うべきではなかろうかと強く提唱したいのだがどうだろうか。...はて、俺は一体何を言ってるんだろう?

 

 まあ兎に角だ。第2の人生を自由気儘に生き抜いている俺が女難の相持ちであるなど決してあるはずが無い。現実逃避だなんだと言われようが認めない。認めないったら認めない。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

「ほほぉう? これがIS...インフィニット・ストラトスの設計図かぁ。......ふむ、なるほどそうなってたのか」

「へー。設計図(ソレ)見るまでISの構造を把握出来て無かったんだ? レオナルド・ダ・ヴィンチ、稀代の大天才なんて言われてても所詮はそんなものか」

「むっ。言ってくれるねぇ、小娘。おいロマニ! 私ちょっと休憩貰うよ! 天才の名はどちらに相応しいかこの小娘に教えてやろうじゃないか!」

「レオナルド、キミは科学専門じゃないんだからそんなに張り合わなくてもいいんじゃ...?」

「そうはいかない。才能で負けるなんて天才たる私のプライドが許さないからね。さあ見てろよー、とにかくすっごいの造るぞぅ!」

「ふぅん...ま、楽しみにしてるよレオナルド・ダ・ヴィンチ。でも本物の天才である束さんは更にすっごいのを造って...って、あ! こらネコ科動物! その回路はそっちに繋げるんじゃなくてこっちだって!!」

「いやしかしだね束くん。そっちに繋げてしまうと直流にならなくてだね...」

「往生際が悪いぞ凡骨。篠ノ之嬢は交流を所望しているのだ。フッ、やはり交流こそが正義!」

「あぁん?」

「おぉん?」

 

 なんだこれ。......えっ、なんだこれ?

 

 あ、ありのまま、今...というかこの数分で起こった事を話すぜ...。

 箱庭に行く前にとりあえず静謐ちゃん達を拾う為にカルデアに寄ったんだが、全員を探して連れて来るまでのたった2、3分という短時間で科学者勢が何やらエヴァ〇ゲリ〇ンの様な巨大ロボらしき物の製造を始めており、尚且つ同時進行でレオナルド・ダ・ヴィンチ(天才)VS. 篠ノ之束(天才)という勝負が始まっていて、そして毎度の如く直流と交流が喧嘩腰になっているという構図が出来上がっていたんだ...。超能力だとか、そんなチャチなもんじゃない。時系列へと干渉する魔法の域に達しているとしか思えないスピードでトラブルを起こしてくれたぜウチの新メンバーは...。

 

「あー...束? 盛り上がってるところ悪いんだけどさ、全員連れてきたから早いとこ箱庭に行きたいんだよね。そこら辺を婦長が彷徨(うろつ)いててペストがビビってるし」

「あっ、りょーくん? ごめんなんだけどさ、私とクーちゃんは一旦ここに置いてってよ。ちょっとやらなきゃいけない事ができたから...!」

 

 そう言って工具片手、そして良く分からない機械を背にした束が、闘争心剥き出しの目で俺の方を向き、そう言った。

 燃えてんな、こいつ。いや、案外自分と張り合える奴らと生まれて初めて出会ってテンションが上がっているだけかもしれない。

 

「はぁ...仕方ないな。じゃ、満足したらロマンに言って俺に連絡寄越してくれ。迎えにくるから」

「ほいほいりょーかーいっ! ほらネコ科動物! そっちは直流で繋いでいいから落ち込んでないでさっさと手を動かす!」

 

 過労死者を量産する勢いで人を働かせるブラック企業推奨者であるエジソンが扱き使われてやがる...。

 

「あっ、凌太さん。お疲れ様です、終局特異点以来ですね。その節はお世話になったみたいで...ありがとうございました!」

 

 束とクロエは一旦置いて、とりあえず箱庭まで行こうかとしていると、背後からそんな声がかけられた。振り返ればマシュが立っており、満面の笑顔を俺に向けている。

 

「マシュ? なんだお前、もう動けるようになったんだな。寿命がどうとかって話はどうなったの?」

「......デリケートな部分に土足で踏み入ってきましたね...。いえ、私が私自身の出生について思い悩んでいる、という訳ではないのですが...。流石は凌太さんといったところでしょうか」

 

 マシュは一瞬だけ苦い表情を浮かべたものの、すぐにいつもの表情に直す。

 

「まず言うと、私は無事です。寿命も問題ありません。この先約6、70年は私の寿命が無くなる事はないと思います」

「その辺り、詳しい事はボクから説明しよう、凌太くん」

 

 マシュの言葉に続き、次はロマンが俺の背後からそう言う。何なのお前ら、人の背後から話しかけるのが流行ってんのか。

 

「マシュは...言い難いんだけど、1度死んだ。キミがいなくなって2日ともたずにね」

「は? いやでも現に生身で目の前に...」

「うん、マシュは生きている。生き返らせたって言い方が1番適切かな?」

「oh...。流石は魔術王、不可能を可能にするなぁ」

「いや、流石のボクでも生物の完全な蘇生は無理かな。まあ試した事はないけど」

「じゃあ今俺の目の前で生きてるマシュは何なんだよ。お前じゃない誰かが生き返らせたとか?」

「まあ、当たらずとも遠からずってところかな。ほら、この前まで悪魔の子らがいただろう? ボクとしてはあんなに可愛いグレモリーがいる世界があるなんて、と驚きだったんだけど今は置いておくとして。重要なのはリアス・グレモリーの眷属達が転生時に使用したという悪魔の駒(イーヴィル・ピース)だ」

「ほう」

 

 何となく察せたが、まあ一応続きも聞くことにしよう。寿命が数十年に抑えられてるのにも訳がありそうだし。

 

「本当に偶然なんだけど、時間神殿での戦闘時に彼らのバイタルチェックとして身体状況をスキャニングした際に悪魔の駒も解析されててね。そのデータを元にして、カルデアの総力を上げて作ったのが...これさ」

 

 そう言ってロマンがポケットから1個の将棋の金将の駒を取り出した。......おい待てまさかお前!?

 

「名付けるなら、少し安直だけど『人類の駒』かな? コレを使ってマシュを人間へと転生させた。因みにマシュに使ったのはこれと同じ『金将』の駒だよ」

「まさかと思ったけどマジでかお前ら」

 

 やはりカルデア技術開発者の連中はおかしい。とうとう蘇生にまで手を出しやがった。そんなんチートや、チーターや!

 

「まあ不完全な品なんだけどね。急造だし、何よりボク達には完全に未知の領域だ。素材も謎、製造方法も謎。分かってるのは構造だけ、っていう状況だったから、もう四苦八苦なんてレベルじゃなかったよ。職員だけじゃなくてサーヴァントの皆にも協力してもらってなんとかなったけど...。この駒をマシュに使ったのも賭けだったんだ。いやぁ、成功して本当に良かったよ」

「か、賭けだったんですか......初耳です...。いえ、結果的に助かっているので文句は無いのですが...」

 

 まあ死人に了承なんて取れないからな、仕方ない。

 にしても人類の駒ねぇ...。本当、えげつない物を作ったもんだな。

 

「キング...いや王将か? それはやっぱり藤丸?」

「............うん、本当にすまないと思っている」

「は?」

 

 え、なんでこいつ謝ったの? 俺が不思議そうな目線をロマンに向けていると、マシュがなんとも言えない微妙な表情で口を開いた。

 

「駒の存在が英霊の皆さんに露呈した結果、その......第1次眷属枠争奪戦争が、開始されてしまったんです」

「なるほど理解した」

 

 何やらカルデアに居る英霊達が少ないと思ったらそんな事してたのか。まあ、藤丸は英霊達に愛されてるからなぁ。藤丸がここにいないのもそれが理由か。

 英霊陣も英霊陣で成功するかも分からない眷属化を巡って戦争まで起こすとは...流石です。

 てか人類の駒を英霊に使ったらどうなるんだ? 受肉的な感じ? いやでも神性持ちや半神の奴らは生物としてのランクが下がるんじゃないのか? ギルガメッシュやオジマンといった奴らもカルデアに居ないから、彼らも戦争に参加してるんだろうけど...そこら辺どう考えてるんですかね。

 

「まあいいや、とりあえずマシュが無事ならそれで。束とクロエは置いていくから、取り扱いに十分注意してくれ。もし束がダヴィンチちゃんを初めとした英霊陣と協力して面倒事起こしたら連絡よろ。俺が責任を持って対処する」

「ははっ。彼女、もう既によく分からないロボットを造ってるじゃないか。これ以上の面倒事が起こる可能性もあるのかい? 本当、心底勘弁願いたいね。全く、こっちは時計塔とかへの誤魔化しで大忙しなのになぁ」

 

 乾いた笑みを浮かべるロマンは、相も変わらずやつれて見えた。先日、ロマンお気に入りのネットアイドル「マギ☆マリ」の正体がマーリンだという悪夢のような現実を突き付けられた事も、ロマンの心労に拍車をかけているのだろう。ご愁傷さまです(合掌)

 

「強く生きろよ、ロマン。んじゃあ俺らは行くわ。そろそろマジで婦長がペストの存在に勘付きそうだし」

「分かった。気を付けて...なんて、キミに言うだけ無駄かもしれないけどね」

「では、さようなら。凌太さん、それに静謐さん達も。また今度」

 

 ロマンやマシュと各自挨拶等を交わし、俺達“ファミリア”は束とクロエを残してマシンに乗り込む。

 まさか束達がカルデアに残るとは思っていなかったが、まあやりたい事があるなら自由にやらせてやろうと思う。折角異世界にまで足を運んだのに抑圧されるなんてのは息苦しいだろうからな。

 

 全員が乗り終え、そのままマシンを発進させる。行き先は箱庭が“ファミリア”本拠。何気に箱庭に行くのは今回が初めてだ、という奴が多い。それに爺さんに会うのも。

 爺さんと会えば、彼ら彼女らは理解するだろう。あのチートの翁の規格外性を。皆が皆俺のことをチートの権化の様に言うが、アレが本物のチートなのだと。

 

 まあその辺りはどうでもいいか。箱庭自体チートの集まりみたいなものだしな。それよりまずは、戦闘になったら真っ先に死にそうな2人、シャルロットとラウラの育成から始めよう。別に箱庭でなくても、他の異世界でもいい。とにかく対魔王戦で死なない程度には強化しなくては、安心して箱庭に置いておけない。ウチのコミュニティは(主に爺さんのせいで)多数の魔王やその他勢力から恨み辛みを買っている。そいつらにいつ襲われてもおかしくないし、“魔王連合”なんていう物騒な連中もちょっかいを出してきているらしい。まずは、言い方は悪いが、“ファミリア”最弱の2人の強化は必要不可欠なのだ。

 

 さて、どんな修行を付けてやろうかな。

 

 この時の俺の顔を見た者は後に、口を揃えてこう語った。

『これが愉悦部か...』と。

 

 そして俺はこう思った。

「お前らそれ言いたいだけだろ」と。

 

 

 

 

 

 




次話からようやくシャルロットとラウラの強化に入れそうです。2人の強化の方針については、次に行く世界に沿ったものになりそうですね。ありがたい事に、皆様からたくさんの案を頂いているので、その中からあみだくじで決めようと思います。是非是非お楽しみに。

では皆さん、良いお年を!

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