「ほい、これが屋敷のカギで、こっちが門のカギ。倉庫のカギはこれね」
「はあ」
そう言って、ヴォルグさんが三つのカギを渡してくる。
どうしても、こう、この人に「勝った」って感じがしないんだよなあ。
「畑とかは一応あるけど、ここ三年は何もいじってないから使う時は一度しっかり耕したからの方がいいよ?屋敷内もホコリ被ってる部屋が何部屋かあるだろうから、明日からでも掃除をした方がいいかもねえ」
「はあ」
「あとごめんなんだけどさ。今日までオジサンこの屋敷に居てもいいかな?荷物もまだ纏めてないし、今夜泊まる場所もないからねえ。野宿しろってんならそうするけども」
「はあ、別に構わないですけど。と言うか、ここに住んでたんですね。てことは、“天に輝く騎士団”のメンバーもまだ屋敷内に居るんですか?」
寝る場所が無いと言うヴォルグさんの申し出を断る理由も無いので、今夜まで留まることを許可する。
と言うか、“天に輝く騎士団”のメンバーが住んでいるのだったら、立ち退きに少なくとも数日はかかるんじゃないだろうか?物件探しもあるし。
「住んでるよ?まあ、今は“天に輝く騎士団”の構成員はオジサン一人なんだけどね」
「え?」
「昔はたくさんいたんだけどね。三年前、“魔王”にやられたんだよ。とんでもない強さの“魔王”にゲームを挑まれて、負けて。そんな中、生き残ったのはオジサンだけだった。幸か不幸か、名と旗印は取られなかったんだけどね」
どこか遠くを見つめるように語るヴォルグさん。
マジでか。ヴォルグさんみたいな強い人でも勝てないのかよ、“魔王”って...
「で、唯一の生き残りになってしまったオジサンは、一人じゃ魔王には勝てないと諦めちゃったわけだ。かと言って、一度コテンパンにやられたコミュニティに新メンバーが入ってくれるでも無し。そこで、昔の仲間には悪いけど、この土地を譲ることにしたんだよ。でも、ただ譲る訳じゃない。“天に輝く騎士団”リーダーであった俺より強い奴に譲ろうと思ったんだ。そして願わくば、そいつが俺達のコミュニティを潰した“魔王”を倒してくれれば、ってな」
「......ふむ」
やばいよコレ思ったより深刻な話きちゃったよコレどうするよ俺!
内心困惑していると、それに気づいたヴォルグさんが苦笑しながら俺に向き直った。
「ははっ。いやあ、すまないねえ。こんなオジサンの身の上話を一方的に聞かせちゃって」
「い、いえ。大丈夫ですよ。ははっ...」
とりあえずは愛想笑いで返しておく。
どう返事するのが適当なのか分からねえ。
「と、とりあえず、もう遅いですし、中に入りましょう?あ、晩飯ってもう食べました?」
「いや、まだだよ。今から食いに行こうとした所に君が来たからねえ」
「そ、そっすか。なら一緒に行きません?てか、俺金持ってないんで奢って欲しいんですけど...」
「なんだ、無一文だったのかい?いいよ、オジサンが奢ろう。今夜の宿泊費とでも思ってくれ」
そう言って歩き出すヴォルグさんの後ろに付いていく。
とりあえずはヴォルグさんの身の上話は置いといて、後でいろいろと話を聞こう。そう思った。
ちなみに晩飯は、昼に久遠たちがガルドと問題を起こした例の“六本傷”の店で食べました。美味しかったです。
* * * *
翌朝、俺は少し遅い時間に起き出した。
昨日は一気にいろんな事がありすぎて疲れていたのだろう。それはもうぐっすり眠っていた。
ベットから這い出て、外の井戸まで行き顔を洗う。
井戸水は冷たく、頭を完全に覚醒させるには十分だ。
「お、やっと起きたか。おはよう」
あらかじめ持ってきていたタオルを手に取り顔を拭いていると、後ろから桑を肩にかけたヴォルグさんが挨拶をしてきた。
というか、その農作業スタイル凄い似合ってますね。
「あ、おはようございます、ヴォルグさん。桑なんか抱えてどうしたんです?」
「ああ、折角“ファミリア”に入れてもらったからね。少しでもコミュニティの為に働こうかと。それにオジサンの趣味でもあるんだよ、こういう農作業は。今まで出来てなかったからここいらでまた始めようと思ってね」
「そうですか。何を育てる予定なんですか?」
「んー、とりあえずは基本的なものから...」
その後もそんなやり取りを少ししてから、ヴォルグさんは畑へ、俺は食堂へと向かう。
ちなみに、昨晩晩飯を食っている最中に、試しにヴォルグさんをウチのコミュニティに誘ってみたら二つ返事でOKが出た。
元々“天に輝く騎士団”は解散させるつもりだったらしく、だったら俺のコミュニティに入って下さいよ、と言ったら普通に入ってくれた。正直、ラッキー以外の何物でもない。
食堂に着いた俺は、台所にあった余りものの食材かき集める。
集まった食材はパッと見て傷んでるところは無いし、とりあえず焼けばいけるだろう。
そう思い、全食材をフライパンに放り込んで炒めて食べる。まあまあ美味しかった。
「よし」
腹ごしらえも終えた俺は再び庭に出る。
拠点を用意出来たので、爺さんを呼んでみることにしたのだ。
たしか、心の中で呼べば応えるとか言ってたよな...
(おい、爺さん!拠点の用意が出来たぞ!)
目を閉じて、心の中で爺さんを呼ぶ。
しかし、一向に返事が来ないので、もう一度呼ぶ。
(おい爺さん!爺さんってば!返事しろ!)
だが返事がない。
(聞こえてんのか爺さん!聞こえてるんだろ!?返事しろや!)
返事がない。
そこ後も何度か呼んでみたが返事は返ってこなかった。
あのジジイ、「たぶん」とかぬかしてやがったからな...
やはりテキトーなジジイだったか。
そう決定付け、諦めて目を開ける。
「もうちょい確実性のある連絡手段を用意しておけよな、あのテキトージジイ」
「誰がテキトージジイか」
突然の背後からの声に驚いて、バッ!と後ろを振り返ると、そこには例の爺さんが立っていた。
「おま、いつからそこに居た!?」
「『拠点が用意出来たぞ!』のあたりから」
「なら声かけろや!」
「いやだって目とか瞑っちゃってて面白いかったし?」
ブン!と俺の右ストレートが空をきる。
ちっ、全力で放ったのに避けやがった。
「まあそう起こるなよ小僧。にしても、これまた立派な拠点を見つけたもんだな。そこらの貴族の屋敷より広いんじゃないか?」
俺の攻撃を難なく避けた爺さんは、拠点となった屋敷を見てそう呟いた。
「神様に立派だとか言われてと嫌味にしか聞こえないんだが?」
「いやいや、本当に立派だよ。実際、ワシが住んでた家より広いしな」
「マジでか。爺さん以外と質素な生活してたのか?それとも神様って皆そんなもんなの?」
この屋敷が神である爺さんの家より広いということに驚きだよ。
「まあ、神にもよるな。主神クラスになるととんでもない豪邸建てる奴らもいるぞ?有名所だと、ゼウスとかな。アイツらには天使、所謂お手伝いさんみたいなのが大勢いるからデカイ家を建てる。しかし、ワシくらいのマイナー神はそこまでの家は建てんな。そんな広く造るほど天使らも居ないし」
「そ、そうなのか...」
なんか、神様も階級とかでいろいろ変わっていくんだなあ。
というか、爺さんは何ていう神なんだろうか?
「なあ爺さん。アンタはどういった神なんだ?」
「ん?ワシか?ワシは武神だよ」
武神。闘いの神、か。
...そりゃ瞬殺される訳だわ。勝てるかよ、んな
「ま、そこらへん、詳しくは今度でいいや。で?俺はこの後どうすりゃいいの?」
今後の方針を聞いておかないと、どう動いていいかも分からないしな。
「うむ。次は別の異世界に行ってもらう。拠点は今回手に入れたから、次はより強い“力”を手に入れろ」
「は?より強い力って?」
「それは自分の目で確かめて来い。武運を祈るぞ?」
そう言ってサムズアップする爺さん。
イラついたのでもう一度渾身の右ストレートを放つが、余裕で避けられた。
「ああ、そうだ。異世界に飛ばす前に二つ」
「あん?なんだよ」
「まず一つ。ワシ、この“ファミリア”に入るから」
「はあ?アンタ何言って......いや待て、いえ、どうぞ入って下さい歓迎します」
最初は「何言ってんだこの爺さん?」と思ったが、よくよく考えてみると、箱庭の上層のコミュニティには神霊もいるらしいし、何より単純に戦力が増えるのはありがたい。
「うむ、見事な掌返しだな。だが賢明だぞ?
そして二つ目だが、新たな世界へ旅立つお前への贈り物だ。神からの恩恵、ありがたく受け取れよ?」
どこから取り出したのか、爺さんの手には一本の紫色の槍と黒いスマホの様なものが握られていた。
「それは?」
「こっちの槍は知り合いの鍛治神に作ってもらったもので、名を『
割と本気で心配してるな、この爺さん?
「まあ、爺さんが敵対しなければ大丈夫だろ」
「そうか。なら一応は安心だな。
で、こっちのスマホが別の神に造ってもらったものだ。名前は特に付けてないと言っていた。機能は、このスマホ同士なら異世界でも通信可能、ってことだな。お前が望んだ、より確実性のある連絡手段だ」
ほう、それはいいな。
毎度毎度心の中で爺さんを呼ぶのとか、めんどくさいし。
まあ、神秘感とか吹き飛んでるけどな。神が造ったスマホて。
槍とスマホを受け取り、ギフトカードの中に入れる。
「ワシの番号はもう入ってるから。次の世界でやる事やったら連絡してくれ。それまでワシはこの箱庭で楽しませて貰う」
「お、おう。コミュニティのためにも頑張ってくれ。あと、この槍とスマホありがとな」
獰猛に笑う爺さんに若干引きながらもお礼を言う。
「あ、そういやまだヴォルグさんの紹介してないな」
そう言い、畑の方に目を向ける。
ここからじゃ見えないし、奥の方か、もしくはもう屋敷に戻ったのかな?
「ああ、そこは大丈夫だ。今朝のうちに顔合わせは済ませておいたから。ヴォルグのやつも、ワシが“ファミリア”に入ることには大した反対もしていなかったぞ。リーダーであるお前の判断に任せるそうだ。だから安心して行ってこい」
爺さんがそう言うのと同時に、俺の足元に魔法陣が展開し、俺の体が透けてきた。
「は!?おいちょっと待てやコラ!唐突すぎるだろ!?もうちょっと色々説明とか」
あってもいいんじゃないのか!?と、そう言い切る前に、俺の視界は黒で埋め尽くされた。
あのジジイ、帰って来たら絶対殴る!!
「天屠る光芒の槍」、思いっきりfateの「刺し穿つ死棘の槍」をイメージしてます。
因果逆転なんていうものはありませんが。
あれ、普通の聖杯戦争なら六回ブッパで確実に勝てますよね。
避けたり防いだりしたアルトリアとエミヤはおかしいとしか言いようがない。
次は「カンピオーネ!」の世界にしようと思います。
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