「おら一夏腰入れろ、刀をテキトーに振るな。箒は
ゲーム開始から約8分が経った。開始1分足らずでISの大軍を鉄くずの山に変えた俺は、戦場を俺の傍にシフトさせてきた一夏達へと助言を投げかけている途中だ。だが、そろそろゲームの終了時間も差し迫っている。悠長に構えていては万が一がありそうだし、俺も戦闘に参加した方が良い頃だろう。
因みにだが、モノレールの方はニトリが何とかした。具体的にどうやったかと言えばまあ...メジェド神が頑張ったのだ。まずニトリが召喚した全長8m超の巨大メジェド神が何食わぬ顔でモノレールを止め、次に通常サイズのメジェド神の大軍がモノレールを隅から隅まで調べ上げ爆弾を発見、処理したのである。「ぬーん」という擬音がぴったり合う様な佇まいの巨大メジェド神が表情一つ変えずに直立不動のままでモノレールを止めた時は誰もが呆気に取られたものだ。いや、実際超シュールな光景だったからね。
とりあえず残り時間の確認をしようと束の方をチラリと見たのだが...。
「このままじゃりょーくんがあっさり勝っちゃうつまり私がりょーくんの言う事を聞かないといけなくなる訳でって事はやっぱりりょーくんも男の子なんだし目の前に餌が落ちてたら飛び付いちゃう狼だよねでも束さんも初めてだし初めてはやっぱり好きな人とっていうかちーちゃんとかいやでもちーちゃんはそういうのじゃないし別にりょーくんが嫌な訳じゃないけどやっぱりりょーくんもそういうのじゃないしでもでも......」
...何やらこことは違う場所を見ている様なのでそっと目を逸らす事にした。お花畑か何かなのかあいつの脳内は。馬鹿と天才は紙一重だとよく言うが、ダ・ヴィンチちゃん然り束然り、彼女らを見ていたらその言葉の信憑性が格段に上がる。まあダ・ヴィンチちゃんはただの頭がずば抜けて良い阿呆だが。
とにかく今の束では会話も儘ならないので、俺はクーちゃんと呼ばれていた少女の方へと視線を向ける。
「なあ、残り時間とか分かる?」
「残り1分と32秒です」
思っていた以上に正確な数字が返ってきた事に若干驚くが、まあ束と行動を共にしている様な奴なのだし、別段不思議でも無いかと考えを改める。
それにしても残り1分半か。一夏達が時間内に敵を倒せるとは思えないし、やっぱり俺が動いた方がいいだろうな。
そう考え、敵対している3人を順に見る。
オルコットと箒が戦っている奴は...まあ言動からして下っ端だろう。口が悪く動きに無駄が多い奴は大体やられ役だと相場が決まっている...と俺は思う。
で、次に一夏が戦っている奴だが...まあまあ強い。彼女自身もそうだが、ISの性能も他2人とは格が違う様に見える。正直、一夏1人で良く持ち堪えているなと感心しているのだ。これが主人公特性か...。
んで、ラストは生徒会長と戦っている奴。こっちも普通に強い部類に入るだろう。IS学園の生徒会長とは学園最強の称号だと以前聞いた覚えがある。そんな楯無が苦戦しているところを見ると、総合力では3人の中で1番上なのだろう。実際、一夏は楯無に勝てた試しが無いと言う話だしな。
強い方と弱い方、どちらを先に仕留めた方が楽かと言われれば弱い方と答えるのが俺である。だって強い奴と戦っている時に横槍入れられると面倒だからね。まああの3人程度なら纏めて相手をしても片手で事足りるのだが。
とまあ、そういう訳で。箒達が相手をしている奴から捕縛しよう。何、殴って縛ってポイするだけの簡単なお仕事だ。1人5秒で終らせてやる。
直線距離にして目測約50m。地面を抉る様に踏み砕き、空飛ぶ目標の背後へと1秒未満で到達する。
そして気付かれる前に所謂「首トン」というやつをして意識を刈り取り、ISの装甲を剥いで肢体をギフトカードから取り出したロープで拘束する。こんな事もあろうかとロープを収納しておいて良かった。もしもの備えは大事だね。
首トンから拘束までの間は僅か3秒、移動時間と合計で4秒である。目標である5秒を下回った事に軽い達成感を覚えますね、ええ。ん? ISの絶対防御? 貫通しましたが何か。
突如として目の前の敵が無力化された事に目を丸くしている箒とオルコットを横目に地面へ着地。拘束した女性を適当にそこらへ放り、続けて跳躍する。
次は一夏と相対している黒い奴だ。こちらは俺の接近に辛うじて勘付いた様だが、残念な事に速度が足りない。俺から逃げる事は不可能だった。先程の女性の時と同じく絶対防御を粉砕する威力の手刀を繰り出し、首に比較的優しく触れる。それだけで終わり。少女は声すら発すること無く意識を手放した。そこからまたISを剥ぎ取り、ロープで拘束し、着地。ぐったりとする少女をそこらに投げ置く。こちらの総合時間は5秒弱。まあ目標時間通りだ。順調順調。
「オータム! M!」
と、ここで楯無と戦っていた上司っぽい奴が声を上げる。戦闘中によそ見かよ余裕か、などと思ったのだが、見れば楯無の姿が無かった。サッと気配を探ってみれば、楯無は現在鴨川の水中に居る。やられたのか、
念のため気配を消して高速で背後に接近、からの手刀。全員同じ手であっさりやられてくれるから非常に楽だ。まあ見えてすらいないのだろうが。黒いISに乗ってた奴が俺に気付いたのも、恐らくはISの性能によるものだろう。生身で俺の速度を見切れるような猛者はこの世界には居ないかもしれない。だって世界最強と名高い千冬が見切れなかったからね。まあ、気の扱いや察知の仕方をマスターすればある程度は反応出来るようになるだろうが。
そんな事を考えながら最後の1人も拘束し、着地する。これでゲームクリアではないだろうか。確認の意味を込めて視線を束に...いやアイツはダメだ、まだメルヘン世界から帰ってきていない。という訳で視線を横にスライドさせてクーちゃんの方に向ける。目は閉じているものの、俺の視線とその意味に気付いたクーちゃん。しかし、そんな彼女は困った様な表情を浮かべるだけだった。まあ、ゲームマスターたる束があれだからなぁ。誰が見ても俺の勝ちでゲーム終了なのだが、自分が勝手に
「おーい、帰ってこーい」
束に近付き、彼女の頬をぺちぺちと叩きながらそう声をかける。ゲーム開始まで殺気紛いの視線を俺へと向けていたクーちゃんもこれには苦い表情を浮かべるしか無いようで、特にこれと言って敵意は見せていなかった。
「つまり最終的にいっくんとりょーくんがランデヴー...ハッ!? 私は何を!?」
「それはこっちのセリフだ、てめぇ今何考えてやがった...ッ!」
腐ってる奴が俺の身の回りに多い件について。非常に由々しき事態だ。俺の処女を守らなければならないと心に決める日も近いかもしれない。...おい冗談じゃねぇぞ俺にそっちの趣味はない!
「あっ.........もしかして...終わったの?」
「終わったな。ISの大軍の撃破、モノレールの静止に爆弾処理、んで敵の捕縛。完璧だ」
「あー......要するにいっくんとりょーくんがランデヴー?」
「ホント何言ってんのお前」
人類の宝である束の脳は本格的にショートしているのかもしれない。というかランデヴーって最早死語だろ。チョベリグとかと同世代くらいじゃね? その辺りは俺が生まれる前に流行ってた言葉らしいけど。
「りょーくん対策で2週間もかけて作った自信作達がこうもあっさりやられるなんて...あの子に譲ったISも、性能だけ見ればトニトルスの完全上位互換機体だったのになぁ...」
「あの子? ってどいつだ」
というか魔力で動くISを一般人に渡したところで使い物にならないだろ。普通に紅椿の方が強い。なんなら第2世代のISを使った方がマシまである。そこらへんは...考えてたけど面白そうだから無視した感じですかね。もしくは魔力源を別に用意しているのか。それだったらまあ...いややっぱり紅椿とか第4世代の方が強い気がする。
まあどちらにせよ、こいつは十六夜レベルの快楽主義者なのではなかろうか?
「ほら、あそこの黒髪の子。気に入ったからISの提供だけしちゃった。あ、因みに私、亡国機業と協力してる訳じゃないよ? ISを一機だけ作ってあげただけだから。りょーくんはなんか勘違いしてたみたいだけどっ!」
「えっ。...千冬ェ...」
千冬の提示した情報を安易に信じたのがいけなかったか...。やっぱ他人から得た情報は裏を取らないとダメかな。今回は特に問題は無かったが、今後間違った情報に踊らされないように気を付けよう。
とまあ、そんな俺の決意は置いといてだ。束が指差した方を見てみれば、そこには東洋人風の黒髪少女が気絶したまま拘束され放置されていた。...ふむ。年端もいかない少女を拘束した、という字面だけ見ると犯罪臭半端ないな。今はうつ伏せで倒れている為顔はよく見えないが、さっき少しだけ見た感じ大分整った容姿をしていたと思う。束が気に入ったって、もしかして顔が気に入ったとかそういう事だろうか?
「んー...まあ仕方ないかな。私がりょーくんの本気を見誤ってたって認めるしかないね、これは。うん、このゲーム、りょーくんの勝ちってことで!」
「おう。ああ、それとな、アレ全然本気とかじゃないから」
「...ほっほぉう? 因みに本気を出したらどのくらい強いのかな?」
「どのくらいかって聞かれてもな...神を殺すくらい?」
「あっはははは! 神を殺すくらいとか本気で意味分かんないねっ!」
確かに比較対象が神とか自分で言ってて意味が分からんな。半神どころかモノホンの神までもが身内にいるから感覚が狂っているのかもしれない。まあ神だからと言って必ずしも強いという訳ではないのだが。
「ところで勝利報酬の話だが」
「.........優しくしてね?」
「何時までお花畑な思考回路を続けてるんだ。とにかくトニトルスを寄越せ」
「えっ、あっはい、どうぞ」
何故か敬語になった束からトニトルスを無事受け取り、内心ホッとする。戻ってきて良かった。
「それで? あの3人どうするよ。まあ順当にいけば警察に引き渡しなんだが...」
「え?」
「え?」
敬語の次は何故か驚いた様な声を上げた束。思わず俺も聞き返す形になってしまった。
「いや、これは普通に警察預かりの事件だよな? 器物破損とか殺傷罪とか...てかそもそもコイツらテロリスト集団だし」
「...そうじゃなくて、えっと......勝利報酬の話は一体どこに?」
「は? トニトルス貰ったろ?」
「いや...トニトルスは確かに勝利報酬だけど...その、ほら。『なんでも言うこと聞く』ってやつ」
「えっ、それってトニトルスとは別報酬扱い?」
何それ聞いてない。いや俺が勘違いしてただけか。じゃあどうする? さっきから束が心配しているらしい束との肉体関係はまず無いとして、トニトルス魔改造計画でも立案するか? ISで戦う気は無かったのだが、そろそろ本格的に空中戦の対処も考えないとだし...。いやいっその事束に“ファミリア”に入ってもらう? 強制的に仲間にするっていうのは俺的にあまり好ましく無いのだが、束は嫌がらない気もする。
正直、束は非常に欲しい人材だ。全体的にハイスペックを通り越した根っからの天才だし、努力もしている...と思う。まだ全然未熟だとは言え、ほぼ独学で簡易な魔術程度なら習得出来るような奴だ。欲しくないわけが無い。あと普通にトニトルスの整備士要員として必須。エミヤじゃ限界があるからなぁ。...うん、そうしようか。
「じゃあアレだ。俺、“ファミリア”っていうコミュニティのリーダーをやってるんだけど、お前それに入ってくんね?」
「“ファミリア”?」
「そ。箱庭っていうthe・異世界にある俺達の本拠地。もしこの申し出を受けるなら、科学に化学に魔術に超能力、なんでもありな神々の遊技場やその他異世界での素敵生活がお前を待っている訳だが...まあ別に強制はしないよ」
「むぅ...それは私にとっての脅迫だって分かって言ってるでしょ。束さんが躍起になって研究してた魔術だけじゃなくて、それ以外にも色々と面白そうな単語が並んでたし」
俺の提案にウンウン唸る束。正直意外だ。てっきりすぐに食いついてくるものだと思っていたのだが...。
「えっと...束さんと何を話してたんだ? というかなんで束さんはここにいるんだ?」
と、ここで一夏が俺達へと近付いてきた。箒とオルコット、あとついでに生徒会長もいる。箒とオルコットは束に対して苦手意識があるのか、2人共一夏の後ろに隠れる様に立っていた。
「いや、ちょっとしたゲームを。あと朗報。束ってば別に亡国機業に協力してた訳じゃないんだとさ。まあISを一機提供してたみたいだけどな。ここにいる理由は...あれじゃね? 俺を倒す為とか、そんな感じ?」
「なんだその少年漫画の主人公のライバルみたいな理由...。っていうか束さんが亡国機業にISを流した時点でそれは協力と呼べるんじゃないのか?」
「一機だけなら何も問題ないだろ。それもさっき撃破したしな」
「...オレはもう驚かないぞ」
諦めたような表情でそんな言葉を溢す一夏。俺も初めて“サウザンドアイズ”に出向いた時くらいに同じこと言ったっけな。ああ、まだ比較的通常に生きていたあの頃が懐かしい。というかまさか俺が驚かれる側になるとは...何と言うか、感慨深いものだなぁ(遠い目)
「凌太くん。篠ノ之博士の事とか、亡国機業の事とか、聞きたい事は色々とあるのだけれど、とりあえずは置いておくわね。今織斑先生から連絡が入ったの。『一緒にいる馬鹿を何が何でも私の前に連れてこい』だそうよ」
と、何やら電子機器を弄っていた生徒会長がそう報告してきた。というか俺としては貴女がなんでここにいるのかを聞きたいんですが。いや京都に入ってきてたのは知ってたけど、なんで1年の修学旅行に付いて来たのこの人? 学校は? 千冬もまずは学校をサボタージュした生徒会長への説教を優先しようぜ。
「えっ、何それちーちゃんおこなの?」
俺の提案を聞いてからずっと唸っていた束だったが、千冬の伝言を聞いて正気に戻った。その顔は引き攣っており、少なくない恐怖を感じている様に見える。
「りょ。はーい、逃げないでねー」
「やめてりょーくん離して! 多分だけどこれちーちゃんすっごく怒ってる! このままじゃ脳が! 束さんの脳が飛び出るっ! 人類の宝がぁあ!!」
「大丈夫大丈夫。即死じゃなければ助けられるから。...即死じゃなければ」
「2回言った!? 大事な事だから2回言ったの!? ねぇそうなの!?」
ジタバタと暴れる束の襟を掴んで捕獲する。というかそんなに怖がるだったらこんなテロ紛いの事なんてしなけりゃ良かったのに。
「知的好奇心とか未知とか、そういうのには束さん逆らえないんだよ!」
「おいナチュラルに人の心を読むな」
「天才だからね、是非も無いよねっ! っていうかクーちゃん助けて!」
「良い機会なので1度怒られて来てください。潜水艦内の掃除とかをちゃんとしない件についても」
「まさかの裏切り!? クーちゃんは味方だと思ってたのに!!」
八方塞がりとはこの事か。
うん、なんて言うかまあ...生還を祈ってるぞ。
* * * *
「この頭か? この頭が余計な事を考えるのか?」
「ギブ! ホントギブ! やめてちーちゃんホント待って! これ洒落になってないよ!? めり込み方が今までの比じゃ無いんだけど! なんか握力強くなってない!?」
「安心しろ。今の私の握力は林檎を指2本でジュースに変えられる程度だ」
「安心出来る要素が全くの0! というか指2本で林檎ジュース作るとかそれ握力云々だけで説明できる事象なの!? ...あ、待って、ちょっと気持ち良くなって来た気が...」
所変わって、現在俺達は宿泊ホテルのとある一室にいた。簀巻きにした束を担ぎ、クーちゃん改めクロエ・クロニクルを肩に座らせながら無事に動き出したモノレールの後を追い、すっかり夜になった頃にこの旅館に着いたのだが...束を千冬に差し出した瞬間にこれである。まあ束の自業自得と言ってしまえばそこまでなんだけどな。あと何か新しい扉を開きかけてるぞあの天才...。
そう言えば、結局捕らえた機業構成員の3人は束がこちらの手に渡った以上特に用も無いのでテキトーに放置してきたのだが...まあまだ外も凍死する程寒くは無いし、自力で何とかするだろう。頑張れ。
「はぁ...それで? なんでまたこんな事をしでかしたんだお前は」
俺の指導により強化されたアイアンクローを解いた千冬が、蹲る束を見下ろしながらそう問いかける。それにしてもさっきのアイアンクローは痛そうだったな。こめかみから聞こえちゃいけない音が聞こえてきたぞ。束の足も宙に浮いてたし。
「待ってちーちゃん、流石の束さんもまだ回復し切れてない...」
「いいからさっさと吐けこのド阿呆が」
「今日ちょっと辛辣過ぎない!?」
本気で涙目になっているであろう束に若干の哀れみを向ける。まあ連行してきたの俺だけど。
因みにだが、この旅館にてニトリ達とも合流した。今は温泉に行っていてこの場にはいないが、合流した際に恙無くモノレール静止と爆弾処理を行ったニトリを褒めていたのだ。そしてその時、顔を合わせたラウラとクロエの間に何故か険悪な空気が始めたのである。いやまあクロエの一方的な感情のようだが。一旦2人を離してクロエに話を聞くと、何やら2人の生い立ちに触れる事が原因らしい。
曰く、2人は所謂試験管ベビーというやつであり、姉妹関係にある。が、クロエの方はラウラが妹であることを否定しているとか何とか。
...一応話だけは聞いてみたけど、これは俺にはどうしようも無い問題だよなぁ。
ラウラは“ファミリア”に入る事がほぼ確定しているようなものだし、クロエも束が“ファミリア”に入ったら付いてくるだろう。だったら和解の手助けくらいはしてやりたいが、本人達にその気が無いのであればどうしようもない。まあ、とりあえずこの問題は保留した。ラウラ達を不幸な目に合わせた奴らだけでも潰して来ようかとも思ったが、それらの組織は既に束が壊滅させたらしい。どうやら俺の出番は最初からないようだ。
「『ちーちゃんが楽しんでくれるかと思って』『りょーくんに勝とうと思って』...。まさかそんな理由でテロリストに専用機を提供し、更には生徒全員を巻き込んだ爆破テロまでしでかすとは...束の性格は相変わらずか...」
そんな事を考えているうちに束の拷問は終わった様で、束が物理的な、千冬が精神的な頭痛から両者共に頭を抱えていた。世界の頭脳と肉体のトップがこの有様である。大丈夫かこの世界。
「まあその専用機も完全に破壊したし、爆破もニトリが未然に防いだし、特に問題は無いだろ?」
「大アリだ馬鹿者。今回の爆破未遂テロの対処に国が動き、そして悉くが撃破された。そこの阿呆が提供した新型ISによってな」
「おうふ。てか国家軍隊がたった1人に全滅とか。それ日本大丈夫か?」
「軍の練度の低さは私も危惧している。だが、問題はそこではない。その爆発魔とIS提供者が私の手元にいるという事実が面倒なんだ。国は軍隊を動かす上で、衛星による監視も行っていたらしい。そしてそこに現れたのが国家指名手配中の犯人。しかも大勢の人間の命に関わる事件を引き起こしていたが、それも未然に防がれて犯人の身柄が私の元にある事を国は把握している。今は国からの連絡を山田先生が対処している最中だが、いつ軍隊がここに押し入ってくるかも分からん。そうすれば束は疎か、生徒達の安全すら怪しくなってくる」
「そんな事をすれば俺が黙っちゃいないが?」
「それも問題なんだ坂元。貴様、世界を滅ぼす気か? 軍がやられれば次は暗部が、それすらも退ければ次は他国、次は多国籍軍か? まあその様に、向かってくる敵を倒しても次々に貴様を襲う勢力は現れるだろう。そして現状、お前を止められる勢力はこの世界には無いと見ていい。しかもニトクリスやペストもいるのであれば、まず人類に勝ち目は無い」
「私が本気出せば少しくらい抵抗出来る...」
「貴様は黙っていろ束。それとも臨死体験でもしてみるか? 安心しろ、死にかけても坂元なら何とか出来るだろうさ」
「ギャアアアア!! 頭がぁああ!!!」
青筋を浮かべながらアイアンクローをする千冬と、女性に有るまじき悲鳴を上げて苦しむ束。というか頭捻り潰したら即死だぞ。それはフェニックスの涙でもどうにもならないって。
それにしても...確かに面倒だな。別にこの世界を滅ぼすくらいなら出来なくは無いだろうが、明らかに面倒臭い。そして世界を敵に回しても俺に何のメリットも無いとくれば、世界を滅ぼす意味など本当に無いのだ。俺の労力と死人が無駄に増えるだけである。
「まあ取れる選択肢としては2つじゃね?」
「ほう、何か策でもあるのか? 言ってみろ。ぶっ飛んだ作戦でなければ採用しよう」
「その前に離してちーちゃん! ホント死ぬから!!」
とりあえず千冬にアイアンクローを解除させ、束が落ち着いてから口を開く。
「まず1つ目は、普通に束をここから逃がす事だろ。全世界勢力から今日まで逃げ切ってるような奴だし、逃げられたところで誰も文句は言えないだろ」
「まあそうなんだが...こいつをここで逃がしていいのかと私は思う。今後また生徒に危害を加えないとも限らないのでな」
「さっすがちーちゃん、私の事分かってるぅ!」
「束ステイ。まあ、こいつがいつ暴走するかなんて分かったものじゃないわな。んで2つ目の提案。束を異世界に連れて行く事。ここから逃がしはするけど監視下には置けるようにする、って言い方の方が千冬的には安心出来る?」
「む...」
俺の2つ目の提案について少し考える千冬。実際それが皆が幸せになれる手段だと俺は思う。別にこの世界に2度と帰って来れない訳でもなし、千冬や箒に会いたくなれば何時でも帰って来れるのだ。その上で束が大好きな未知との遭遇も待っている。そして俺は多大な戦力を得る。win-winとはまさにこの事ではなかろうか。冴えてるな俺(自画自賛)
「問題は束が異世界行きを迷ってるって事だな。何を悩んでるのかは知らんけど」
「んー。確かに異世界には興味あるんだけど...私まだ宇宙に行ってないしなぁ」
「宇宙? ...ああ、確かお前がIS作ろうと思ったのって宇宙に行く為だったっけ? けど、束の科学力と実行力なら宇宙くらい今すぐにでも行けそうだけどな」
「まあ太陽系内くらいは行けなくもないだろうけど...それでも色々と課題も残ってるんだよ。宇宙、舐めたらアカンで」
「そんなもんか。まあ宇宙だしなぁ」
宇宙という未開地は何がある分からない。十二分に準備を整えてもまだ不十分、という一見矛盾したような事が普通に起こり得る場所なのだろう。怖いのは未知のウイルスや磁場などかな。ウイルスは言わずもがな、ISという精密機械に乗って行く以上、予想外の磁気などは致命傷になり得るのでは無いだろうか。その辺り詳しくは分からないけど。
「でもまあ、異世界にも宇宙はあるよね? だったら異世界に行ってみるのもいいかなー、って」
「おっ、マジでか。正直来てくれると非常に嬉しい」
「むっふっふー。りょーくんがそこまで言うのなら束さんも黙っちゃいないよ! なんなら各異世界の謎とやらも束さんが明らかにして上げようじゃないか! うん、そう考えるととってもドキがムネムネだねっ!」
「世界の謎とか規模大き過ぎてちょっとよく分からないけど、もしそれを完遂出来たならありえないくらい凄い偉業だって事は分かる。頼もしいな」
「でっしょー!? ふっふっふ、遂に束さんも異世界デビューする日が来たのかぁ。異世界が存在するって事は知ってたけど、実際に行く日が来るなんて思って無かったよ。楽しみだなぁ」
まだ見ぬ異世界へと思いを馳せる束。良かった、何だかんだで新戦力ゲットだぜ。
「なんなら千冬も来るか? 勿論、一夏も連れてな。お前らはこれから強くなるだろうし」
「......いや、遠慮しておこう。今の私は教師だ。そう簡単に生徒達をほっぽり出せはしない。まあ、異世界とやらに興味が無いと言えば嘘になるがな」
「そっか。まあ気が変わったら一声掛けてくれればいいから」
「心に留めておこう」
「ねぇりょーくん。勿論クーちゃんも連れて行っていいんだよね?」
「おう、元からそのつもりだよ。まあラウラとの折り合いに難航しそうだけどな」
「りょーかーい! じゃあ話も纏まったし束さんも温泉行ってこよーっと! ほらほらー、ちーちゃんも一緒に!」
「今は生徒の使用時間だ。また後でな」
「えっ。...ちーちゃんが...拒否、しない...? こっ、これってまさかまさかのデレ期来た!?」
ぃやっふぅ!! と束は小躍りでもしそうな程に喜びを体で示す。そんなに嬉しいか。
これで、我がコミュニティ“ファミリア”に新たなる戦力が加わった。技術面ではカルデアの技術開発局にも劣らない成果を上げてくれるだろうと大いに期待している。まあガンド並の快挙は無理かもしれないけどな。英霊だろうが神だろうが問答無用でスタンとか本当におかしいからねあの術式。
まあ兎に角。本来の目的であるトニトルスの修理は完遂し、更に新戦力まで手に入ったのだ。今回は良いこと尽くしだと本気で思う。
俺は確かな満足感を覚え、気分良く旅館の露天風呂へと足を運ぶ事にした。
Q. 爺さん(神さま)に勝てるのって誰がいるの?
A. 全力の白夜叉(白夜王)、ドラゴンボールキャラの上位陣、ORT、殺生院キアラ、初代山の翁、正義感とか周りへの配慮とかを全部かなぐり捨ててガチの本気を出してきたウルトラマン。まあその辺りならワンチャンあるんじゃないですかね? あとは化け物の巣窟である型月作品から魔法使い、真祖、死徒二十七租などを始めとする変態達ならある程度の勝負にはなるんじゃないでしょうか(白目)
結論を言えば、爺さん(神さま)と渡り合えるキャラは探せば居ます。物理的にだったり、特殊能力的にだったりの違いはありますが。まあその殆どが「どうしようもないもの」、或いはそれに準ずる存在ではあるんですけどね。
え? 爺さん強過ぎワロエナイって? ...大丈夫、作者である私自身が一番引いていると思いますから()