問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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多少どころじゃないくらい無理矢理感半端ない...。まあ今更だけど。
あと束やクロエのキャラがよく把握しきれてない気がしないでもないですね。......独自解釈です(逃げ)


文化財保護法って知ってる?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぉおおおおーー......!」

 

 時間は少し過ぎ、今日は皆が待ちに待っていただろう修学旅行初日である。空は雲一つ無い群青色で染め上げられ、良い旅行日和だと言える。

 

 そんな晴天の下、京都行きの新幹線が駆け抜ける。

 窓際の席に陣取ったニトリは高速で流れゆく景色を窓越しに見て目を輝かせ、溜息にも似た感嘆の声を漏らしていた。正直言うと自分らの足で走った方がこれより速かったりもするのだが、それはそれ。乗り物という事に興奮を覚えているのだろう。三蔵やジャンヌもそうだった。まあ彼女らはものの10分程度で飽きていたのだが。ニトリもきっとすぐに飽きるだろうな。

 

 それにしても、あの意思を持っているかのようにぴょこぴょこと動くニトリの頭部に付いている耳のようなモノは本当に何なのだろうか。凄くかわいい。()い(確信)

 などと思っていると、隣に座っていたペストが顔色を悪くし始めている事に気付いた。

 

「大丈夫か? だからこれに乗る前に酔い止め薬を飲んでおけとあれ程...」

「そんなもの、私には効かないわよ。...多分」

 

 まだ返事をする余裕はあるようなので、背中を摩ってやる。と同時にペストの体内の気の流れを調節し、乗り物酔いの症状を緩和させる作業に入る。乗り物酔いは、酔った奴のバランス感覚を正してやれば割と治るものだ。それでも治らなければ...荒療治(吐かせる)しかないかな(治療放棄)

 幸いにもペストは気の調節だけで何とか持ち直したようで、顔色も少しずつ朱色を取り戻してきていた。良かった、うら若き乙女を大衆の面前で吐かせるとかいう悲劇に陥らなくて。

 

 念のために回復してきてからも治療は続ける。しかしまあ、まさかこんな直線的な動きしかしていない乗り物で酔うとは思わなかった。この子三半規管弱すぎない? 酒とか飲ませたら一瞬で潰れそうだな。気を付けよう。

 

 と、そんな事をしていると、シャルロットがこちらに向かって通路を歩いて移動してきていた。おい、危ないから走行中の車内であんまり歩き回るんじゃない(唐突な常識思考)

 

「ねぇ凌太。僕とラウラ、キミと一緒の行動班になろうと思ってるんだけど、大丈夫かな?」

「行動班? ああ、別にいいけど...」

「やたっ! じゃあラウラにもそう言っておくねー!」

 

 パタパタと小走り気味に今来た通路を戻って行くシャルロットの背を眺めながら俺は思う。「そういうのって普通、当日じゃなくて事前に決めとくものなんじゃ?」と。まあ気にしてもきっと無駄だろうし流しておこう。

 

 ...一学生として然も当然のようにこの場にいる俺だが、傍から見たら修学旅行前と当日だけ来てる素行の悪い奴として映っているんじゃなかろうか。いや、もしかしたら失踪した後にひょっこり帰ってきた級友程度の認識なのかもしれないが。まあ今更他人の評価なんて気にしないけれど。身内は気にするよ? 多少は。

 

 そうだな、折角の京都だ。回るのはこれで2回目になるが、全く同じ街並みという事も無いだろう。しかもこの時期は紅葉がピークを迎える頃でもある。そんな時期に一学年全員分の宿泊部屋を用意することが出来、尚且つ結構な高級旅館を取れるとは、さすがIS学園と言ったところか。臨海学校の時も相当な高級旅館だったし、財力半端ないなこの学園。まあとにかく目一杯楽しませてもらおう。

 妖怪とか面倒事とかありませんように。...ああいや、束が絡んでくる可能性があるから面倒事は避けられない、というか避けちゃダメなのか...。

 

「ほぁあああぁぁ......!」

 

 ...まだ外を見てたのかニトリよ。かわいい(確信)

 

 

 

 * * * *

 

 

 

「新幹線...良い文明ですね...」

「まあ、楽っちゃ楽だよな」

「なによ、走った方が絶対速いに決まってるじゃない...。乗り物なんて...乗り物なんて...!」

 

 片方には感動を、もう片方にはトラウマを植え付けた新幹線の旅も終わりを告げ、俺達は京都の地に足を付けた。こちらの天気も大変良く、日に当てられた紅葉が輝いて見える。

 目に見えて浮き足立つ生徒達を統率するように、千冬が拡声器も無しに全体に良く通る声で指示を出し始めた。

 

「これからひとまず宿に移動する! 全員、荷物の置き忘れが無いように、順番にバスに乗り込め(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)!」

「─────」

 

 ...ペストの災難は続く。

 

 

 まあ走ったけどね。俺とペストだけ。

 バスなどに遅れを取る訳もなく、大勢の観光客や現地の人達に二度見三度見を繰り返されながらもバスと並走したもの。そりゃあ周りからも引かれるってもんですよ。...修行だと銘打って一夏だけでも巻き込むべきだったな(八つ当たり)

 

 そんなこんなで宿にも着き、各自自身の荷物を割り当てられた部屋へと運ぶ。一般生徒は自主的な班割りで部屋が決まっており、一夏は当然の如く色々な意味で最高の護衛がいる部屋へと配置されていた。最高の護衛とはもちろん千冬である。

 余談だが、一夏の部屋割りは最初、単なる戦闘力だけなら学園に留まらずこの世界最強と言っても過言ではない俺やニトリ、ペストと同室が良いと判断されていた。だが、それに異を唱えたのは何を隠そうニトリとペストである。別に男と同室な事を気にしたという訳では無い。彼女ら曰く「凌太(マスター)が護衛したら、万一護衛対象が襲われた場合、その護衛対象ごと消し炭になる可能性がある」とのこと。失礼にも程があるだろう。俺だって敵味方の区別くらいは付けるわ。

 だが、ニトリ達のその言葉に納得させられた俺以外の一同は全員一致で千冬の部屋に一夏を割り当てる事に賛成しやがった。俺はそんなに信用がないですかそうですか。

 少し不貞腐れてもみたものの、別に男と同室になる事に固執するつもりなどこれっぽっちも無かったので、俺もその案には賛成した。同じ宿に泊まるのだから、侵入者が現れればすぐに気付けるだろうし。

 

 

 荷物を置いた後は各自で自由行動、その後夕方に清水寺へ集合するという日程なのだそうだ。行動班とかは特に決められていなかった。ボッチに優しい制度である。まあ見た感じこの学園にボッチはいないのだが。イジメとかはあるのかもしれないけどな。まあ他人の幸不幸など俺には関係の無い事である。身内が良ければそれで良い。

 

「すまない、少し待たせたな」

「お待たせっ。じゃあ、行こっか!」

「ん」

 

 わりかし最低な事を考えていると、荷物を置き終えたらしいラウラとシャルロットが駆け寄って来る。俺達3人には特に手荷物は無い、というか全てギフトカードにしまっているので、自然と俺達がシャルロット達を待つかたちになっていた。

 

 無事合流し、まずは寺巡りからだと息巻くシャルロット達の後ろを付いて行く。どうでもいいかもしれないが、ニトリ達4人の仲が深まっているようで何よりだ。所謂ガールズトークとやらが目の前で行き来している光景を見ながらそう思った。

 そして気付く。俺に向けられている複数の視線に。両手に花どころの話では無いこの状況に、現地の人間らしき男達が嫉妬100%の視線を向けてきているのだ。なのでこれでもかという程のドヤ顔を返してやった。

 

「凌太、何してるの?」

「いや、ちょっと俗に言う勝ち組の余裕ってやつを見せつけてやろうかと思って」

「?」

 

 ふふっ、愉悦。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 ガイドマップ片手に寺という寺を巡り、めぼしい寺社を全て回りきった頃には既に午後4時を過ぎていた。少し小腹の空いてくる時間帯である。昼飯は一応食べたものの、京都に限らず観光地には食欲をそそる物が数多く陳列しているものだ。それに時期は食欲の秋。ついつい間食をしてしまうのも仕方の無いことだろう。

 

 適当な茶屋に入り、目の前に広がる景色に少なくない感嘆を覚える。

 真っ赤な紅葉の中に所々まだ緑が残っているという景色はとても見応えがあり、俺にもまだそのような風情を感じる心が残っているのだと安心させてくれた。

 

「それにしても、こっちの京都は平和だな」

 

 兎の形をした和菓子を摘み上げながら、ポツリと声を漏らす。いつも思うのだが、なんで最近の菓子類はこう、実際の生物に似せてくるのだろうか。この兎やクリスマスケーキでよく見るサンタの菓子など、食べるのに一瞬躊躇する形状をしている。ニトリやラウラなどはまだ食べるかどうか悩んでいる様子だ。 パティシエの皆さんは猟奇的なご趣味でいらっしゃるんですかね。

 

「凌太のいた世界の京都は平和じゃ無かったの?」

 

 兎の和菓子を諦めて三色団子を食べていたシャルロットが、俺の呟きに反応した。

 

「ん、俺の出身の世界の京都は知らんけど、この前行った京都は色々いたからなぁ。悪魔に堕天使に妖怪、あと英雄の子孫かっこ笑かっことじとか。こっちではまだ霊くらいしか見てないし、平和なもんだ」

「ちょっと待って幽霊いたの!?」

「おう。なんだ、霊と遭遇した時もやけに静かだと思ってたら見えてなかったのか。ほら、そこにもいるぞ」

「うひゃあ!?」

 

 シャルロットの背後を指差してやると、彼女は面白い様に肩を跳ねさせて席を立つ。反応が初々しいね。こちとら幽霊なんぞ見飽きてきたからなぁ...。

 

 シャルロットの反応に少し和みながら霊へと向き直る。シャルロットが食べる事を諦めて置いておいた兎の菓子に興味を示していたり、コック服らしき服装をしていたりと、生前は料理人、しかもパティシエといったところだろうか。何故にパティシエがこんなところに。昨今の同業者の趣味に興味でも引かれたか?

 まあこの人にも色々あったのだろうと思い、適当に話しかけて冥界におかえり頂くことしにた。ニトリの鏡ですぐだからね、冥界。お手軽である。

 

「いや、話の分かる人で良かった。すんなり冥界まで行ってくれたな」

「全く...私の鏡を便利な冥界行きアイテムか何かだと思っているのですか? 不敬ですよ」

「というかアレを話の分かる人、すんなり行ってくれた、って判断するのはどうかと思うのだけれど。暴れそうになってたのをマスターが殺気で黙らせただけじゃない。というか死人に殺気って有効だったのね、初めて知ったわ...」

「「 ─── 」」

 

 絶句しているシャルロットとラウラだが、直に慣れるだろう。悲しいかな、俺と関わりを持った奴は大体すぐに順応する。皆曰く「理解出来ないので逆に諦めがつく」のだそう。俺から言わせてみれば英霊や神といったものの存在とかの方が圧倒的に不思議なのだが、そこの所どうだろう。え、あんまり変わらない? デスヨネー。

 

 また1人彷徨える亡霊を丁重に(実力行使で)冥界へと送り届け、茶を啜る。抹茶が美味い。

 

「...嫁よ。今の様な奴らは私達でも、今後の頑張り次第では見たり退治したり出来るようになるのか?」

「また嫁呼び...まあいいけど。そうだな、どうにかなるとは思うぜ? 俺だっていつの間にか見えてる様になってたし。退魔の術とかが教わりたいなら、俺より道満の方が断然いいと思う。『生き残る』って事に重きを置くなら、俺が戦い方を教えよう。大丈夫、これでも生き残る事に関しては自信があるからね。まあどっちにしろ、まずは魔術なり仙術・気功なりを習得する方が先だよ」

「むぅ...先は長いようだ」

「だね...」

 

 若干遠い目をするシャルロットとラウラだが、別に焦る必要は無いと思う。少々言い方は悪くなるが、弱い仲間でも助けられる様に、俺は強くなるのだ。エゴ以外の何物でもない考えだが、やっと見つけた俺の居場所(“ファミリア”)だけは絶対に失いたくないからな。

 

 ──来たか。

 

「さてと。もうそろそろ集合時間だろ? 悪いけど、お前ら先に行っててくれ」

「え? いや、先に行くのは別に構わないんだけど...なんで?」

 

 不思議そうな表情を浮かべるシャルロットがそう聞いてくる。俺が今回京都に来た理由を知っているなら簡単に予想が付きそうなものだが...。

 

「束が来たからちょっと話してくる。どうせそっちに敵さんの刺客なり何なりが向かうだろうけど、一般人の護衛とかはニトリ達に任せていいよな?」

「はい、構いませんよ」

「気配察知というのは、なんとも便利なものだな...衛星からの映像を一々解析する必要もないとは」

「ラウラでもそのうち出来る様になるさ。意外と簡単だからね、これ」

 

 そう言って、茶屋の会計を済ませてから4人と別れる。

 

 京都に来てからその数を約3倍に増やした監視カメラ付き飛行物体のレンズのほぼ全てが俺を捉えていることから、束は俺の動向を把握しているだろう事は予想出来る。それでも束の気配は先程から一切動いていないということは、俺と会わない気は無いということだろう。それは好都合だ。サクッとトニトルスを直して貰って、あわよくばウチのコミュニティに勧誘しよう。新兵器開発やIS整備の為にも有能な技術者が欲しいと常々思っていたのだ。稀代の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチに負けずとも劣らない程の脳を持っている束ならば文句は何一つないというもの。頑張れば対神兵器とかも造れそうだし。あと超絶合体巨大変形ロボとかも...ドッキングとかホントに生で見てみたい(少年心)

 

 そんな夢と期待に胸を大きく膨らませながら、俺は束の元へと駆けるのだった。

 

 

 

 * * * *

 

 

 数分走り、現在地は醍醐寺の五重塔の天辺。五重塔の代名詞と言える東塔のモノより若干背は低いものの、ここから見る西日に染まった京都の街並みも中々良いものだ。

 

 一般人はまず足を踏み入れないその場所に、今は3つの人影が存在していた。

 1人目はこの古都には不釣り合いな不思議の国のアリス風の服装を着込む女性。鼻歌交じりにホログラム化させたキーボードを弄るその女性はもちろん、俺のお目当てである天災兎である。2人目はその隣に佇む少女。彼女に見覚えは無いが、どこかラウラと似ている気がする。容姿というよりも、その在り方が。まあただの直感だが。

 

「やあやあハロハロ〜! お久しブリーフだねりょーくん! 数ヶ月ぶりかな? 急に姿を消すから束さん、当時は柄にもなく焦っちゃったよ!」

 

 不意にホログラムを消した束が、足首まであるスカートを翻えさせながらこちらに振り向き、3人目である俺に向けて笑顔を見せる。某嵐を呼ぶ幼稚園児風の挨拶に突っ込むべきか一瞬悩んだが、束自身何も考えてもいなさそうだったので(すんで)で思い留まった。

 

「神出鬼没はお互い様ってな。ところで早速、今日会いに来た要件についてなんだが...」

「うんうんっ、分かっているともさ! トニトルスが壊れたんでしょ? トニトルスの使用履歴や機体情報は束さんのところに転送しておいたからね、すぐに直せるよ」

「仕事が早くて助かる」

 

 礼を言いながら、ギフトカードからトニトルスを取り出す。すると何処からともなく様々な機材を取り出した束が早速トニトルスを弄り始めた。

 

「うーん、まさか魔力量に耐え切れずにショートするなんてねぇ。大分余裕を持って上限値は設定してた筈なんだけどなぁ...。あっ、映像データはギリ復元出来そうだね。......ほうほうなるほど。ふぅん、異世界ね...だから通信すら一切届かなかったのか...」

 

 次々と部品を交換したり溶接したりする束の作業を隣から覗き込む。というか映像データとかあったのかよ。

 それに束の呟きを聞く感じ、魔力についての理解はだいぶ深まっている様に思える。流石に魔術を行使するまでには至っていないだろうが...あ、いや、隠蔽魔術使ってたな。自力で魔術行使にまでこぎつけるとか益々持って天才過ぎる。俺でさえ神という手本がいたのだが...束さんマジチートじゃないですかヤダー!

 

「なあ束よ」

「なんだいりょーくんよ」

「やっぱお前、亡国機業だかなんだかに協力するよりさ、俺の所に来いよ」

「おっ? それは愛の告白かな? かな? 全くもー、『俺のものになれ』だなんて、高校生の癖におマセさんなんだからー!」

「お前分かってて言ってるだろ。仲間にならないかって事だよ」

 

 わざとらしく体をくねらせる束に今回はツッコミを入れておく。隣の少女の視線に若干とは言えないレベルの殺意が込められたからな。一応の弁解というか、真意をちゃんと言葉にして伝えておかないと襲われそうだ。

 

「ふっふー! まあ束さんを手に入れたいのなら、もっとロマンチックでエキゾチックに、そして何よりエキセントリックに誘ってくれないとねー! っと、ほい終わりっ」

 

 束はケラケラと笑いながら軽快にキーボードで何かを打ち込み、全ての機材をまた何処かへとしまう。量子変換とかそんな感じの、ISの展開や武器の格納などに応用されているアレだろう。というかロマンチック(空想的)エキゾチック(異国的)、そしてエキセントリック(奇人的)な勧誘とは一体。それら3つは共存出来得るのだろうか...? あとそろそろ殺気を鎮めて貰っても構わないかなそこな少女よ。何をそんなに警戒しているんだ。

 

「そういうりょーくんこそさー、私の玩具(仲間)になりなよ! 魔術使い、こっちの世界には案外少なくてね? 魔術の研究も捗らないし、隣に居てくれると助かるかなって束さんはお願いという名の脅迫をしてみたり」

「脅迫? お前が? 俺を?」

「うんうんそうそう、そうなのだよ! 三食昼寝に加えて私とくーちゃんという2人の美少女付き! いい話だと思うけどなー、男の子なら入れ食い案件だと思うけどなー」

「いやそういうの間に合ってるんで。というかそれの何処が脅迫なんだよ...」

 

 何が楽しいのか、先程からずっとケラケラ笑っている束を呆れた目で見る。俺を脅迫しようなんざ1000年早い。今まで様々な状況を乗り越えてきた俺は何者にも屈さないという自信が...

 

「トニトルスを返して欲しくば大人しく私の仲間になるが良い!」

「卑怯...余りに卑怯...ッ!」

 

 一瞬で屈しかけた。人質ならぬ機質とは卑怯過ぎるぞあの兎...ッ! 今まで会ってきたどんな悪魔や鬼よりも悪に染まっていると言っても過言じゃない。

 

「束様。時間です」

「りょーかーい。 ほにゃらば行こうかポチッとな!」

 

 今の今まで黙っていた少女が口を開き、それに応えて束が怪しげなボタンを人差し指で押す。一瞬爆発に備えた俺は某アニメに毒されしまっているのかもしれない。最早手遅れ感すらある。

 

「ねぇりょーくん。私と1つ、ゲームをしよう」

 

 身構えていた俺に束がそんな事を言ってきた。

 

「...ゲーム?」

「うん、ゲーム。束さんが勝ったら私と一緒に来てよ」

「俺が勝ったら?」

「そうだねぇ...。この天才、束さんが直々に、何でも1つりょーくんの言う事を聞こうじゃないか! エッチな事でもいーよ? りょーくんも男の子だもんね、性的な意味で束さんを見るのも仕方ないよ...ポッ」

「ポッ、じゃねぇよ。何で俺の願いが性的な要求で確定されてんだ。というかさっさとトニトルス返せ」

「さありょーくん! キミはこの申し出を受けるかな!? 受けないかな!?」

「くっそ話が通じねぇ... バーサーカーかコイツ...!」

 

 良妻賢母な猫狐が一瞬頭を()ぎる中、今の状況を確認する。

 束が仕掛けてきているゲームはルールが一切不明。負ける気はさらさら無いが、ゲーム内容が科学的知識に完全依存するようなものだったら、俺は手も足も出ずに負ける可能性が非常に高い。やはりまずはルール確認からだろう。

 

「ルールは?」

「ゲームを受けるなら教えてあげる」

 

 事前にルール説明すら無いとかマジかコイツ。

 だが、ゲームを受けないという選択肢は十中八九間違いだ。科学的知識に偏らないゲーム内容に期待するしかないか...。

 

「分かった。受ける」

「そうこなくっちゃ! ではでは、ルール説明〜! まずはあちらをご覧あれ!」

 

 束はそう言い、街の中心の方を...正確には停車しているモノレールを指差した。しかもただのモノレールでは無く、IS学園が使用するモノレールだ。何故かこれからモノレールに乗って移動するらしく、モノレールの中にはIS学園の生徒達の気配が密集している。その中には当然ニトリのモノもあった。ペストは外で待機している。余程乗り物が嫌になったらしいな...。

 と、ペストの軽いトラウマについて考えていると、そのモノレールが動き出した。...おい、俺がまだ乗ってないんだが。まさか置いていく気か? 私は悲しい...。

 

「あれを今さっきハッキングして、メインシステムを乗っ取ったんだよ。あと時限爆弾も仕掛けてる。とびきり強力なヤツね!」

「時限爆弾とかまたベタな物を...」

「ちっちっち。ベタとは王道、王道こそ正義なのだよりょーくん! あとねー、そろそろだと思うんだけど...あっ、来た来た。お次は西の空をご覧あれ!」

 

 言われるがままに西の空へと目を向ける。と、そこには無数の影が西日を背にこちらへと飛んできている光景が広がっていた。数にして88個のあの影は...

 

「あれ全部ISか?」

「そうだよ! 束さん特性の新型IS、対りょーくん用に大量生産しちゃったんだー」

 

 つまりコイツは、世界に存在するISのコアとは別に新しく88個も増やした、と言っているのだろうか。しかもそれが対俺用だとは...。はて、対俺用とは一体? もしやコイツ、前から俺と戦う事を想定してやがったな? 2週間も監視だけして直接干渉してこなかったのはそういう理由なのだろうか。...何故?

 

「それからお次はあちら!」

 

 次に束が指差したのは新型ISの群れとは別方向の南の空。そこには複数のISの軌道が見て取れた。あれは...一夏と箒、オルコットに...あと何故か更識楯無もいるな。アイツ学年違うのになんでいるんだよ。

 まあとりあえずそれは置いておくとして、その知人4人が、見知らぬ奴らと京都の街を破壊しながらドンパチしていた。......ねぇホント何やってんのあの人達。馬鹿なの? ここに文化財やら何やらが何個あると思ってんだ。というか今オルコットの流れ弾が壊したのってもしかしなくても清水寺の舞台ですかね...。

 

「...で? 3つとも見たが、アレが何?」

「あれ? 思った程焦らないんだね? まあいいや。りょーくんの勝利条件は簡単。モノレールを止めて爆弾を解除、無人機88機+いっくん達と戦ってる亡国機業構成員の捕縛、或いは撃退、その2つともを達成する事。りょーくんが連れて来てた2人の協力も認めるよ。束さんの勝利条件は、りょーくんが勝利条件を達成出来なかったらだね。じゃあ制限時間は10分! 因みに時限爆弾の方は後5分しかないよ。それじゃあゲームスタートぉ!!」

「.........えっ」

 

 ...もしかしてこの兎、俺の事舐めてる? いや完全に舐めてますね...。ちょっと俺の力を見せしめる必要がありそうだ。

 

 モノレールの方はニトリが何とかするだろうし、もししなければ俺が行ってどうにかしよう。まずはあの大量の無人機からだな。

 

「我は雷、故に神なり──とりあえずぶっ飛べ、“雷砲”ッ!」

 

 五重塔から飛び降りながら聖句を唱え、着地してから雷の暴風を広範囲で西の空へとぶっ放す。折角俺が感動した街並みなのだ。出来るだけ街は傷付けない方向でやろうと思う。

 

 本物の天災が無人機を襲う。幾ら最新鋭のISとは言え全機が無事で済むわけが無い...と思っていたのだが。

 

「むっふっふー! 甘い、甘いぜりょーくん! 塩コショウと砂糖を間違えてふりかけた焼肉くらい甘々だぜっ!」

「例えが分かりずら過ぎる。というかそれは甘いというより不味いのでは?」

 

 勝ち誇ったかの様に塔の上で束が胸を張り、よく分からないことを豪語した。流石に焼肉に砂糖は合わないんじゃなかろうか? ...今度試してみよう(好奇心)

 

「りょーくんがこの世界に於いて最強なのは多分紛れもない事実だよ。でも、それはりょーくんの魔術...その雷に依存する。つまり雷さえどうにかすればいいんだよ。だからね。あの無人機は全部耐電仕様なのさっ! 自然界で発生する雷程度じゃあ、あの大軍は破れないよ!」

「...ふむ。お前の言いたい事は大体分かった。──やっぱり俺を舐め過ぎだ」

 

 確かに権能の威力は絶大だ。それを封じる手段があるというのならば、俺の攻撃力は下がるだろう事は間違いない。だが、俺の真髄はそこではない。それに、雷が効かないなんて事は大した問題ではないのだ。だって、雷以外で攻撃すればいいのだろう?

 

 腰を落とし、手刀の構えを中段で取る。ちょうど居合い抜きのような姿勢だ。そこに、魔力を凝縮させる。

 イメージは円卓の騎士・ベディヴィエールが扱う宝具、銀色の腕(アガートラム)。実際は全くの別物だが、アレをモデルにし、魔力で光輝くの剣を右手に造りあげ───横一閃。それだけで、伸縮可能な魔力剣は遥か上空の雲すら切り裂く。...調節ミスって無駄に長くし過ぎたのは内緒。

 

「なんっ...はぁ!?」

 

 束の張り上げた驚愕の声が木霊する。無理もない。絶対の自信を持って俺に差し向けたIS達が、たった一撃の下でその数を半分以下に減らしたのだ。サッと気配察知で残機数を調べると、残りはたったの26機のみ。ざっと4分の3くらい削ったことになるのか。流石に最新鋭ISも、機体そのものが切り裂かれれば壊れるらしい。自己修復機能とかついてたら面倒だったが、それも付いていないようだ。

 

 束は俺の力を過小評価していた、というよりは知らなかったと言った感じなのだろうか? 映像データを復元したとか言ってたから、てっきり俺の私生活全て筒抜けなのかと思ったていたのだが、そうでも無いらしい。精々がISを展開している時だけの映像っぽいな。

 

「さて、残りはあと9分と40秒くらいか? サクッと行ってみよう」

 

 俺を舐めたのが運の尽き。ここから先はずっと俺達のターン。全力で行くぞこれが手加減だっ!()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あれ? シャルロットとラウラの出番が少ない?
じ、次回からは出番を...増やせたらいいなぁ(願望)

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