問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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Twitter「禁書3期キタコレ!」
私「えぇ〜? ホントでござるかぁ〜?(疑心暗鬼)」
公式「ホントでござるよぉ〜」

禁書編、考えておこうかな...


カオスのるつぼ()

 

 

 

 

 

 

 

「無理だな、お手上げだ。私では直せん」

 

 カルデア内部のとある工房にて、我らがオカンが匙を投げた。なんでさ。

 

 

 俺達はつい昨日、崩れ去る終局特異点から命からがら(比喩なし)帰還した。昨日1日は俺は疲れやら魔力不足やらで完全にぶっ倒れており、他の連中は珍しく吹雪が止んだカルデアの外で仲良く雪遊びをしていたそうだ。仲間ハズレいくない。言われれば無理してでも起きてたのに。

 

 まあそれは兎も角。

 特異点から帰還する際、ISから聞こえた何かが切れる音の正体を確かめる為に、エミヤに点検してもらったのだが、返ってきた返事がこれである。というか壊れてたんかい。

 

「ダ・ヴィンチ女史はどうだ? どうにか出来そうかね」

「んー...ちょっと私もお手上げかなー。というかこれ、直すんじゃなくて新しくした方が早いんじゃないかい? この...コアっていうの? これは無事だけど、それ以外殆どの回線が切れてる。コアと回線を繋げようにも、このコアの解析が出来ないんだよね〜。本当になんなのさこれ。地球上にある物質なのかい?」

「さあな。そこは束に聞いてくれ。私もよく分からないのでね」

 

 ...要するに手詰まりらしい。おいどうしてくれんだ空飛べねぇじゃねえか。というか殆どの回線が切れてて良く飛べたな。奇跡だろ。ありがとうトニトルス、君の頑張りは俺達を救った...。

 

「あっ、ここに居たのねマスター! ちょっと匿って!」

 

 感謝と同時に本気でどうしようか考えていると、工房の扉が勢い良く蹴破られ、我らがロリであるペストが駆け込んできた。そして俺に了承を求め、俺が了承する前に俺の背後にあったトニトルス(残骸)の陰に隠れる。

 するとそれとほぼ同時。蹴破られた扉が再度意味も無く蹴破られた。なんなの、その扉に怨みでもあるの?

 

「「病原体(ペストちゃん)はここですか!!」」

「いいえ違います」

 

 飛び込んで来たのはお馴染み、婦長とラッテンである。この2人、理由は違えどペストを捕らえる事に躍起になっているのだ。

 婦長は純粋にペストを滅殺する為。「純粋」に殺そうとしているので本当に怖い。というかペストの事を病原体呼ばわりするのはやめて欲しい。

 そしてラッテンはその婦長からペストを匿う為。ならペストはラッテンに匿って貰えば良いじゃないかと思うかもしれないがそうは問屋が卸さない。ラッテンがペストを捕らえたが最後。保護という名の軟禁が待っているだろう。しかも2人っきりで。R18展開にならないという確証もない。そりゃあペストも俺の所に逃げ込んでくるというものだ。

 

 俺は学んだのである。別に他人の趣味をどうこう言うつもりは無いが、自分が標的にされるのは御免こうむると。ラッテンとペスト、どちらの味方をするかと聞かれれば俺はペストを選ぶ。ペストはノーマルなのだ。婦長? 渡す訳が無いだろう。

 

「ふむ...ここに駆け込んだと思ったのですが...。貴方達も気を付けて下さい。黒死病は凶悪です。腺ペスト、敗血症、肺ペスト。どれが発症しても数日で死に至ります。くれぐれも、発見したら近寄らず私に報告するよに。では」

「むーっ! だからペストちゃんはそんな誰彼構わず発症させる子じゃないんですぅ! 危ない子認定は改めて貰いたい!」

「何度言ったら分かるのですか! 菌・即・斬! 死んでからでは遅いのですよ!」

 

 ギャーギャーと言い合いながら再度ペスト散策を続ける2人。暫くして声が聞こえなくなってから、ビクビクしたペストが出てきた。

 

「ラッテンは結構真面目な事言ってたじゃん。案外本当にお前の安全確保が目的なんじゃねぇの?」

「だっ、騙されないで...! 私も最初はアイツを信じて匿って貰おうとしたら『喉が乾いたでしょう? はい、これお茶です』っていいながら惚れ薬飲ませようのしてきたのよ...? 誰が信用するかっての」

「ラッテンェ......」

 

 思っていた以上にラッテンはやらかしていたらしい。軽く犯罪だろ。

 

「それでマスター。ISの方はどうするつもりだ?」

「んー...。やっぱ飛行手段は欲しいしなぁ...。これを機に飛行魔術を覚えるのも手っちゃ手だが...ISの方がカッコイイしなぁ...」

 

 他人が聞いたらどうでもいいと言われそうではあるけれど、俺に取っては大事な事なんです。

 

「...やっぱ製作者に見てもらうのが1番手っ取り早いよな。よし、とりあえず一旦IS学園に行くか。あれ、学生証ってまだあったっけ?」

「っ!? どこか行くの!? なら私も連れてって! あの2人がいない場所に連れてって! 出来れば今すぐ!」

「あー......すまん。あと1日...あ、いや、半日ちょい待って。まだ疲れが取れきってないから」

「じゃ、じゃあとりあえずマスターのギフトカードに避難させて!」

「お、おう...。なんというか、必死だなぁお前。いや、気持ちは分かるんだけど」

 

 そう言って慌てて俺のギフトカードに避難するペスト。どんだけビビってんだよ...。あっ、ギフトカードに学生証入ってた。これギフト認定されてるんかい。最早ただの四次元ポケットになりつつあるな...。

 

「ねぇねぇ凌太君。私も行ってみたいなって」

 

 俺が学生証の確認をしていると、横からちょっと上目遣いのダ・ヴィンチちゃんが何やら懇願してきていた。うーん...美人なんだが中身おっさんなんだよなぁ...。

 

「えっ? いや...ダ・ヴィンチちゃんはダメでしょ」

「なんでさっ!?」

「そりゃあキミには仕事があるからだよ。遊んでる暇は無いよねぇ、レオナルド?」

「げっ、ロマニ......」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの背後に薄らと笑みを浮かべながら立っている男。そう、たった今テレポートしてきたDr.ロマンである。テレポートとか何それ凄い。

 

「いや聞いてくれロマニ。これは別に遊びとかじゃなくて私にも解析出来ないこの『コア』を作った奴に会いたくて、ちょっと話とかしたいなーって思ったりしちゃったりしてだね?」

「何言ってんのキミ? 今の状況分かってる? ねぇ分かってる? 魔神柱に破壊された施設の修復、マスター候補計47名の無許可コールドスリープ、マシュの問題。その他にも色々と問題がある......しかもその最高責任者がボクなんだぞ!? サーヴァントに戻った! このボクが責任者! 本当、近いうちに視察に来る時計塔の使者になんて言えばいいのさっ!?」

「はっはっは! ロマニは馬鹿だなぁ。だから全職員で必死にグランドオーダーのログを書き換えてるんじゃないか」

「馬鹿はどっちだ! キミがいなけりゃ終わるものも終わらないんだぞ! ほら仕事だ仕事! 立香ちゃんが封印指定されてもいいのかキミは!?」

「くっそぅ...IS製作者とか会ってみたかったなぁ。いやまあ、私が本気を出せば似たようなモノは作れるし、なんなら量産型ザ〇なら今すぐにでも作れるんだけどね!」

「くっ...! ちょっと見てみたいけど今は改変作業が先だ!」

「ちぇー」

 

 ロマンに先導され、少々不貞腐れながらも工房を後にするダ・ヴィンチちゃん。量産型ザ〇は俺もちょっと見てみたい...というか乗ってみたい...。赤くて3倍速いやつとかも作れるのかな?

 

「エミヤはどうする? 学園には一応辞表出してきたんだっけ?」

 

 ロマン達が退室した後、蹴破られた扉を溶接していたエミヤにそう声をかける。ってか簡単に溶接してるけどそれって難しいんじゃねぇの? ただの扉じゃなくて自動ドアだし。 前から思ってたんだけど、オカンスペック高すぎない?

 

「ああ。教員など私のガラでも無いしな。悪いが今回、私はパスだ。理由としては『今回はお前の番じゃない。大人しく飯を作っていろ』というお告げが聞こえた気がしてね。簪が心配ではあるが...まあそこはマスターに任せるとしよう」

「その天啓、もしかして爺さんからじゃないだろうな...?」

「否定し切れないのがあの老神の怖いところだな」

「否定してくれよぉ...」

 

 なんか爺さんの掌の上で踊らされてる感が半端じゃないが、ここで俺が流れに逆らう事すらもあの駄神は予想していそうなので特に考えない事にした。まあ本当に踊らされているとしても、それが俺にとって良い方向に事が転ぶなら別に構わないしな。ただ少々腹は立つが。

 

「じゃあ誰か暇そうな奴がいたらそいつ連れて......」

 

 と、そこまでいいかけたところで、俺はとある気配を感知した。

 なんか結構高めの神性がこっちに向かってきてるんだが。というかなんだこの神性? イシュタル? 似てるけどどこか少し違う様な気が...あっ。

 

「──フ、フフ、フフフ......見ぃつけたぁ!! なのだわ!」

「oh...」

 

 折角エミヤが直した扉は10分と持たずに破壊されてしまった。南無。

 慈悲もなく扉を蹴破って入室してきたのは何を隠そう、冥界の女主人様である。そういや藤丸が余ってる石を全部使うとか言ってたな...。なんで最終決戦が終わった後に来たんだこの女神は。召喚する方もする方だが応える方も応える方である。

 というかなんでこいつ怒ってんの? ちょっと身に覚えがありませんね。

 

「そこ! 坂元凌太! よくも私を騙したわね!」

「は? 騙したとは一体。俺が何をしたと?」

「こんの...しらばっくれないで欲しいのだわ! 貴方が地上に出してくれるって言ったから私楽しみにしてたのに、気付けば最終決戦まで終わってましたぁ!? ふざけないでくれるかしら! 怒髪天を衝くとはこのことなのだわ!」

「.........そんな事もあったね」

「完全に忘れてた!? ...フフ、いいのだわいいのだわ...どうせ私なんてその程度の存在なのよ...陰キャラならぬ陰神なのだわ...フフフフフフ」

 

 怒ったり凹んだり、なんとも感情の起伏が激しい神だ。...いや、主に俺が原因なんだけど。エレシュキガルには悪いが結構本気で忘れてた。言い訳させてもらうと、気にかけてるような余裕が無かった。だがまあ、悪い事をしたとは思ってるよ。忘れてたけど。

 

「これはひどい...」

「ん? ニトリ?」

「だから誰がお値段以上だと...まあ良いです。今の私にその事について怒る気力はありませんし」

「...なんかごめん」

 

 日頃オジマンディアスやギルガメッシュのスレスレのやり取りに神経をすり減らしているニトクリスは今日も今日とて神経をすり減らしているのだろう。本当、お疲れ様です。あの2人が激突したら折角平和になったカルデアが吹き飛ぶからな。俺とアーラシュ、あとエルキドゥの3人がかりでも鎮められるかどうか...。まあどっちにしろ絶対に無事では済まない事だけは目に見えている。

 

「それで、俺になんか用事?」

「部屋の隅で膝を抱えているあの神を連れてきたのです。坂元凌太の所へ案内をしてくれと言われたので、同じ冥界の神として手助けを、と。...まさかこうなるとは思ってもみませんでしたが」

「ああー...。まあ気にすんな。オカンが何とかしてくれるって」

「そこで私に丸投げか...まあ構わないが...。そこのキミ、マカロンでも食べるか?」

「何故ナチュラルにマカロンを取り出しているのですかあの弓兵は...ハロウィンでもないでしょうに」

 

 マカロンに若干の興味を示して一旦泣き止んだエレシュキガルは今は放っておこう。後で謝っとけば大丈夫だろ。今話しかけて変に腹を立てられたらかなわないしな。

 

「ああ、そう言えば凌太。貴方にオジマンディアス様達から伝言を預かっていますよ」

「伝言?」

「ええ。まあ直接聞いた訳ではなく、文が玉座に置いてあったのですが。...コホン。『無事人理が救われた祝いとして、我々愉悦部は南国の島にレイシフトしてキャンプなどに興じる事にした。本来部員は強制参加だが、余は偉大な王である。よって傷付いた貴様は、来れれば来る、というスタイルで構わん。参加したくなれば来るが良い。行先はロマニ・アーキマンに伝えてある。余の偉大さに平伏し、感謝するが良い!フハハハハ!』...だそうです」

「うーん...どうでもいいがニトリのモノマネが無駄に上手い」

「無駄とはなんですか、無駄とは!......えっ、そんなに上手いのですか? 偉大なるファラオ・オジマンディアスの真似が上手い...うぅん...誇って良いのか、それとも畏れ多いと思うべきなのか...うぅぅん......」

 

 何やら頭を捻りだしたニトリは一旦置いておいて、とりあえずキャンプは不参加だな。ってか俺以外の部員って確か乳上とかイスカンダルとかクレオパトラとかだろ? その他にもクセの強い奴らばっかりだし...うん、やめとこう。

 

「あれ? そういやニトリは不参加なのか? 真っ先に付いて行きそうだけどな」

「......いえ...その...ちょっと席を外したら...置いて行かれてて......」

「......とりあえず胃潰瘍の治癒から始めようか」

「...お願いします...」

 

 なんか本当にニトクリスが不憫に思えてきた。大抵はオジマンディアスと一緒にいるのに、なんでちょうど席を離れた瞬間にキャンプ計画の発案と決行がなされてるんだよ。不幸か。いや、それとも胃の負担が少しでも減ったと思うべきなのか...。

 

 そこらの判断に少し悩んでいると、ニトクリスがこちらに背を向け、その長い髪を前へと流し背中の肌を晒してきた。俺はその背に、正確には腰より少し上辺りに手を当てる。別に下心とかないんだからね。いや、ツンデレ仕様とかそんなんじゃなく、本当に。ただ単にニトクリスの胃潰瘍を治療するには、直接体に触れた方が圧倒的に効率が良いからだから。

 

「ふわぁあ......これは、いつ受けても気持ちの良いものですね...。こう、私の体の中に凌太の温かいモノが流れ込んできて...んふぅ......とても、気持ち、いいです...」

「お前それ狙ってるだろ。絶対周りの誤解を誘ってのセリフだろ」

「そんな事はありません。別に、凌太が周りから誤解されて問い詰められるのを見て日頃の鬱憤を晴らそうとか、そういった狙いは一切ありません。ええ、ありませんとも。......あっ、そこっ......んっ...いいです...気持ちいいですよ、凌太...」

「こいつ......もう治療してやらんぞお前」

「すみません悪ふざけが過ぎましたね反省しています」

 

 割と本気で謝ってくるニトクリスを見て、仕方なく治療を続行する。

 別に誤解されようが何をされようが構わないのだが、清姫の暴走が1番怖い。あいつら愛さえあればマグマの中をバタフライで泳いだりするからな...。俺もさすがにマグマに入った事は無いが、まず間違いなく焼けると思う。下手したら骨すら残らんぞ。体を魔力の膜で覆えばまだ耐えられるかもしれないが...あいつら素だからなぁ。愛、怖いなぁ...。...今更だけど、清姫のマスターって藤丸だよね? なんで俺も狙われてるわけ? 謎だわ。

 

「ですが、気持ちが良い、というのは本当です。それに今回はいつにも増して良いですね」

「ああ。ちょっと仙術ってやつを覚えてな。まだ使いこなせてるわけじゃないが、結構便利だろ?」

 

 子猫や黒歌を見ていて勝手に覚えただけだが、これが割と便利なのだ。仙術は魔術ではない。いや、似たようなものなのだが、俺にとっては大違いである。

 まず、この仙術というのは、所謂「気の流れ」というものを掴む事が大事だ。黒歌は仙術を攻撃に回していたが、それを体の内側に向ければいい。つまりは身体の気の流れを掴み、循環させる。

「気」は魔力とは若干違う。まあ説明するには長くなりすぎるし、俺自身正確に把握している訳ではないのだが、要するに仙術を覚える事によって俺がパワーアップしたということである。無茶をし過ぎて切れた筋細胞とか神経が1日半大人しくしているだけで回復しているのも仙術によって自己回復力を上げたからである。魔術や呪い系統のモノと違って、これはカンピオーネの体にも効果を示すのだ。ここが仙術と魔術の大きな違いだろう。勿論、いくら仙術であっても呪いは俺には効かないのだが。あくまでも「体に元から備わっている能力を促進する」事だけしか出来ない。まあ逆に、体内の気の流れを著しく乱されたら俺の身体能力も下がるのだが。その辺り、今後は注意していこう。仙術使いが現れない保証は何処にもないし、現に2人には会ってるわけだからな。

 

「ほい終わり。とりあえずは治したが、あんま負荷をかけすぎるなよ? 英霊の胃に穴を開けかけるストレスとか異常すぎるだろ。俺はお前のマスター...お前に言わせれば同盟者か。まあどっちでもいいけど、何かあったら治療以外で俺を頼って貰っても全然構わないからな。寧ろどんどん来い」

「...ええ、そうですね。今後はなるべくそうしましょう。では早速、少しお願いがあります」

「おう」

「先程少し聞こえたのですが、これから何処かに行くのでしょう? 私も同行させなさい。少し羽を伸ばしたい気分なのです。...いえ、オジマンディアス様と共にいる事が不満だとか、息苦しいとかではないのですが...」

「まあ、気持ちは分からんでもない。そうだな、見捨てられた可哀想なニトリを今回は連れて行こう。なに、ニトリのスペックなら危険なんてほぼ皆無な世界だ。安心して楽しめるだろうさ」

「そうですか! それは楽しみです。ああ、それから───誰がお値段以上ですかッ! 不敬ですよ! あと見捨てられた訳では無いですからッ!! 可哀想な子扱いなど不敬です! 不敬不敬!」

 

 そんなこんなでお供2人目も決定した。お供が必要なほど危険な世界ではないのだが、やはり1人よりも複数の方が楽しいものである。まあ、この考えには個人差があるだろうけどな。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 食堂にて。

 

「ああそうだ。ちょっと凌太、そう言えば私、思い出したのよ」

「何を」

「母さんが言ってた『あの方』かもしれない奴の話」

「詳しく」

 

 唐突に始まった極めて重要であろう話題。なにもこんな所で言うことは無いのかもしれないが、まあ場所など些細な問題だろう。とりあえずその話詳しく。

 

 IS学園に行く前に腹拵えでもするかと、とりあえず謝罪して機嫌を直して貰ったエレシュキガルとエミヤ、そしてニトクリスと共に食堂に向かい、そこでイシュタルと遭遇。エレシュキガルとイシュタルの間に若干不穏な空気が流れたが、そこは偶々近くにいた藤丸によって収集が付けられた。さすが人理を救ったコミュ力お化け。神の間を持つとか尋常ではない。

 

「で、誰なんだ『あの方』ってのは」

「ちょっと落ち着きなさいよ。それにまだ確定した訳じゃないし...あくまで『かもしれない』の話よ」

「構わないから早く」

「アンタ、こういう時は落ち着き無いのね...。まあ当然なんでしょうけど。気軽に聞き流すくらいが丁度いいくらいの信憑性なんだけど...まあいいわ」

 

 そしてイシュタルは語り出す。創世の神ティアマト、そしてその他のイシュタルより以前から世界に存在していた神々達から語り継がれ...はしなかったが、まことしやかに囁かれていた『伝説』を。

 ...唐突に始まり過ぎて何か裏があるんじゃないか、もしかしたら本当に爺さんの掌の上なのか、などという考えも一瞬()ぎったが、まあ深くは考えない事にした。なる様になるさ。

 

 

 

 

 

 

 

 イシュタル曰く。

 

 ───昔々...ん? ちょっと待って。よく考えたら創世より昔って何?......まあいいわ。どうせお約束の口上とかだろうし。じゃあ改めて。昔々、こことは違う別の世界に、1人の人間の少年がおりました。少年は周りとは明らかに違った、特異な力を有していましたが、聡かった少年は親以外にその事を知られる事なく、平和な日々を過ごしました。父親は少年が物心つく前に他界していましたが、優しい母の元ですくすくと育った少年は、いつしか青年になりました。

 

 青年には、幼少時から仲の良い友人、親友がいました。何がキッカケで仲良くなったのか、彼らは覚えていませんでしたが、兎に角仲が良かった事は事実です。

 青年の特異な力は日に日に増大していましたが、青年それを完全に抑え込み、必死に周りに合わせ、そしてやはり平和に過ごしておりました。

 

 しかし、ある日突然、青年の日常は崩れ去ります。親友が死んでしまったのです。青年は悲しみました。悲しくて悲しくて3日3晩泣き続け、1月以上塞ぎ込んでしまった程です。

 

 それから暫くして、青年の親友が死んでから1年が経ちました。青年は何とか平常を取り戻していましたが、冷静になる程に疑問を幾つも抱え込みました。

 

 何故親友は死んだのか。病気? いいや、親友は至って健康だった。ならば事故? それはもっと無い。なぜなら親友に外傷は無かったのだから。それなら何故? 何故? 何故...?

 

 考えて考えて、青年は1つの答えに辿り着きます。

 

 ...もしや、自分と同じ、特異な力の持ち主がやったのか?

 

 それは当たらずとも遠からず、といったところでした。しかし、当時の青年が憶測だけで原因を突き止める事は出来ませんでした。

 

 なので青年は旅にでました。母には直接告げずに、手紙だけを残して。

 宛はありませんでした。しかし、正体不明の元凶を探し出すということは、青年が本気を出せば十分可能に出来る事だったのです。

 

 青年は歩きました。山を越え、海を渡り、世界の果てと呼ばれる場所までひたすらに歩き続けました。

 

 そこで青年は、1柱の神と出会います。

 少年の勘が告げていました。目の前の神が犯人だ、と。

 

 青年は神に問いました。

 貴方が私の親友を殺したのか?

 

 その問いに、神は億劫そうに答えます。

 そうだ。

 

 更に青年は神に問います。

 何故、親友を殺さなければならなかったのか?

 

 神は尚も億劫そうに答えます。

 別に。偶々、特に理由も無く殺した...んだと思う。覚えてないけど。

 

 その後も何度か問答は続きましたが、神は終始面倒そうに答え続け、最後には答える事すらしなくなりました。その神にとって、目の前の青年やその親友など、どうでも良かったのです。

 青年は怒りました。親友を殺された時点でかなり怒っていましたが、神の態度が青年の怒りに油を注いだのです。

 

 

 だから青年は殺しました。目の前の神を。自らの手で。その特異な力で。

 

 

 これで青年の復讐劇は終わり。結局は悲しみと怒りしか生まなかった青年の旅は幕を下ろす。

 

 その筈でした。

 

 世界の果てからの帰り道。青年は幾多の神々に襲われ続けました。曰く、青年が殺した神の位は、その世界でも相当上位だったそうです。

 仇討ち、という訳ではないのでしょうが、位の高い神をたかだか人間に殺されて黙っている程、その世界の神々は温厚では無かったのです。

 

 青年に襲いかかる数々の天災。時には神本人が出向いてくる事もありました。

 しかし、神という存在そのものに辟易していた青年は、その悉くを蹴散らし、一掃しました。青年が抑え込んでいた特異な力は絶大でした。天災、異形、神獣、そして神。誰1人として、青年に挑んで勝てた者はいません。

 

 神々は考えました。あの青年(バケモノ)を倒すにはどうすればよいか、と。そして1つの結論に至ります。青年の体が壊せないのなら、心を壊せばいいじゃない。

 

 神々はすぐに行動に出ました。青年が帰り着くその少し前に、青年の母親を無惨に八つ裂きにしたのです。青年がより絶望するよう、ギリギリのところで殺さず、青年が彼女を発見したその瞬間に死ぬ呪いをかけました。

 

 神々の作戦は成功しました。思惑通り、青年を深い絶望の谷へと突き落としたのです。

 心が壊れれば、体もその影響を受けるだろう。そう思った神々は、たかが1人の、心の壊れた人間に、全勢力をもって突撃する計画を立てました。

 

 しかし、青年は神々の思惑を超えました。

 深い深い、絶望という言葉すら生温い淵に立たされた青年は、神を怨み、運命を恨み、自分を憾み...そして ──

 

 

 ──── 世界を殺しました。

 

 

 世界を殺した青年は虚無の中、1人塞ぎ込みます。

 

 どうしていれば親友や母親は死なずに済んだのか、どうしていれば自分は周りに災厄を振り撒かずに済んだのか、どうしていれば。

 そんな事を、青年はたった1人で悩み続けました。

 

 神の血を浴び過ぎた青年は、既にヒトでは無くなっていました。その為、青年は永遠に等しい命を持ちました。この何も無い空間で、たった独りの永遠を、絶望と悲壮に明け暮れながら過ごしました。

 

 それから百年経ったか、将又(はたまた)千年経ったか。青年は殺した世界を、自らで創り上げる事を決めました。自分が神となり、不安も絶望も悲しみも無い理想郷。そんな夢のような世界を創る事に決めたのです。

 

 斯くして青年は、神の座へと至ります。

 

 宇宙を創り、星を創り、生物を創り、そして、ヒトを創り。青年は理想郷を完成させました。争いも起こるし、死もある世界でしたが、青年()は決して、自らが創ったもの達を絶望させる事だけはしませんでした。

 

 暫くすると青年()は、世界の管理を絶対の信頼を置いている数人に任せ、旅に出る事にしました。

 世界の秩序も安定した軌道に乗った為、気晴らし程度に遊ぶ事にしたのです。息抜きは大事凄く大事ィ、とは青年()の談。とても長い間頑張ってきた青年()を止める者は居らず、寧ろ快く送り出された青年()は、ありとあらゆる世界へと遊びに出掛けました。

 

 青年の旅は未だ続いているようです。もしかしたら今、あなたの世界に居るのかもしれませんよ?

 

 

 完

 

 

 

 

 

 

 

 

「...って感じだけど、どう?」

「いやどうって言われても......とりあえずスケールがでかすぎない? 途中からよく分かんなくなったんだけど。何処だよ世界の果てって。いや、俺も見た事あるけどさ世界の果て。そして神も神だよ、急に出てきやがって。なんで親友殺したんだよイミワカンナイ。あと世界殺したって何?」

 

 イシュタルの話を一通り聞いたが、結果良く分からなかった。ただまあ、爺さんの過去話というのなら多少の可能性はあるのかもしれない。確証など皆無だが。

 

「まっ、そりゃそうよね。私だって意味分からないし。っていうか、この話自体つい昨日まで完全に忘れてたし」

「あっ、私も思い出したのだわその話。でも、私が聞いたのとはちょっと違うのだわ。私が聞いた話では、その青年の父親が実は全ての黒幕で」

「その話絶対に長いからいいや。どうせ最後にはその青年が世界殺すんだろ?」

「まあ、そうだけれど...ちょっとくらい聞いてくれてもいいのに......」

 

 すまない。けどさっきから食堂の周りの廊下を婦長とラッテンがウロチョロし始めたんだ。それに合わせて俺のギフトカードも震え始めたんだ。ペスト怖がり過ぎ。ってかあの2人は勘良すぎ。何、だいたいの居場所分かってんの?

 

 と、その2人とは別にもう1人。確かな足取りでこちらに向かってくる気配があった。

 

「ああ、ここに居たんだね凌太。マスターも。そちらは...エレシュキガル神か。お久しぶりです」

「あらエルキドゥ、久しぶりなのだわ」

「ねぇ私もいるんだけど」

「ところで凌太。キミに聞かせたい話があってね」

「コイツ...!」

 

 エルキドゥ、安定のイシュタルスルーである。まあ喧嘩吹っ掛けないだけマシか。

 

「俺に?」

「うん。以前ティアマト神が口にしたという『あの方』についてなんだけど、それに関係しているかもしれない話をついさっき(・ ・ ・ ・)思い(・ ・)出して(・ ・ ・)()

「......因みに、それはとある青年が世界を殺す話で合ってる?」

「ああ、そうだよ。なんだい、知っていたのか」

「奇遇ね。私も昨日思い出したのよ、その話」

「...なんか気に食わないね。イシュタルと同じなんて」

「よぉし、ちょっと表出なさいアンタ。昨日の雪合戦の決着つけてあげる」

「返り討ちだよ」

「まあまあ、落ち着いて2人とも。今外凄い吹雪だから」

 

 火花を散らすイシュタルとエルキドゥを藤丸が仲裁するという、割とよく見る光景を横目に見ながら、俺はエレシュキガルに問いかける。

 

「なあ。お前もさっき思い出したのか? その青年の話」

「えっ? まあ、イシュタルの話を聞いてるうちにぼんやりと。今まで(・ ・ ・)()完全(・ ・)()忘れてた(・ ・ ・ ・)()だわ(・ ・)

「へぇ...」

 

 ...これは、なんというか...。誰かが記憶を弄ってる可能性があるなぁ...。3人がほぼ同じタイミングで思い出す、という事はまああるのかもしれないが、3人ともが完全に忘れていたがほぼ同時に思い出した、という事が問題だろう。

 それに絡んでる話が話だしな。もし爺さんなら、例え相手が神や神造兵機であろうと記憶を弄るくらいは片手間でやってのけるだろうし。...このアホみたいな伝説、バカに出来なくなってきたなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




...風呂敷を広げ過ぎた感が凄い。


次のIS編は決めたのですが、その後の主人公に向かわせる世界についてのアンケートを、活動報告の方で取ろうかと思います。是非ご意見を(懇願)

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