問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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4週連続で模試ってなんなんですかね...


ロマニ・アーキマン

 

 

 

 

 

 

 

『物事は全て、できるだけ単純にすべきである』

 

 彼の天才、アルバート・アインシュタインはそう言ったそうだ。

 なるほど確かに。普通に考えて複雑なものより単純なものの方が良いだろう。少なくとも俺はそうだ。まあ、アインシュタインはこの言葉の後に『単純にしすぎるのもいけない』とも言っているのだが、まあいい。

 で、だ。今、俺の目の前で起こっている至極単純な状況を説明しよう。

 

 

 ───撲殺天使がご降臨した。

 

 

「あなた方魔神柱はこの世界を、そして我ら人類を毒するもの。私が殺すべき存在、 私が滅すべき害! ──(キル)(キル)(ジャーム)!!」

 

 などといいながら魔神柱を狩るクリミアの天使。看護婦とは一体? という疑問を持たずにいられない光景である。まあ狂戦士だからね、仕方ないね。...それににしても強い。婦長だけでなく、ベオウルフや狂王を初めとしたバーサーカー連中がその猛威を存分に振るっている。アンデルセンや玉藻、アイリといった支援系サーヴァントの回復技に加えてアーシアの神器、そしてジャンヌの無敵効果付与という加護を受けた彼らは、それはもう鬼のようだった。本物の鬼を見たことがあるから間違いない。それと、しれっと狂戦士の中にマルタさんが混じってるけれど、まああの人もある意味狂戦士だから。

 

 そして狂戦士連中に負けず、異世界組、特に二天龍が奮闘している。イッセーは『真紅の赫龍帝』、ヴァーリは『覇龍』の進化版である『白銀の極覇龍』の状態に至っており、両者共に英霊にも劣らない戦闘能力を魅せつけている。

 木場もエミヤと並んでほぼ無限といえる聖魔剣の雨を降らせ、イリナとゼノヴィアは魔剣&聖剣ブッパ(イリナにはジークフリートの末裔から剥ぎ取った数本の魔剣の内の一振りを渡した。天使が魔剣って何それ堕天? とも思ったが使いこなしているようなので無問題)を繰り返し、ロスヴァイセとルフェイ、黒歌は多彩な魔術をほぼ絶え間無く発動させ、姫島は雷光、グレモリーは滅びの魔力を惜しげも無く披露していた。彼女らの魔術は神代の魔術師であるメディアも、多少だが認める程のレベルなので、威力的には申し分ない。グレイフィアと子猫はバーサーカー組に混ざって物理で殴り、ギャスパーは敵の時を止め...時を止めるとか何それチート?

 まあいいや。で、残りの堕天使組だが...。

 

「ヒャァッハァーー!!!」

「いいわ、いいわよアザゼル総督! それでこそマハトマよっ!」

「もっ、もう止めて...戻しちゃう、さっき食べたラーメン戻しちゃう...っ! ア、アザゼル、さ、ま......うっぷ」

 

 UFOが2機、特異点の空を舞っていた。ちょっとキラキラしたものも見えた気がしたが見なかった事にする。てかアレで藤丸達送れば良かったんじゃね?...まあ後の祭りか。

 

「にしても...これはちと不味いかもな」

 

 適当に雷撃を放ちながら、俺はそう愚痴る。

 

「全くだぜ、クソッ。さっきからもう何十体倒したと思ってんだ。キリが無いにも程ってもんがあんだろ」

 

 俺の近くで棍棒の様な笛を振り回し暴れていたヴェーザーも、俺の小言を聞いて同意を示した。

 ヴェーザーの言う通り、俺が認知しているだけでも既に50柱を超える魔神柱を倒しているのだが、未だ敵の数は減る兆しすら見せないでいる。今はまだ優勢なのでマシだが、この状況が続くようなら全体の士気に関わるだろう。減らない敵、というのは思った以上に精神的にくる。

 

「やっぱり、大元を叩くしかないんじゃないかい? それにほら、()も例の玉座とやらに向かってるよ?」

 

 大剣を担いだヴォルグさんも俺の近くに来てそう言う。

 というかこの人、さっきから短剣や槍、長銃に二丁拳銃、ワイヤー、蛇腹剣、果てはトランプなど、多種多様な武器を全て使いこなしているんだが、本当に何者なのだろうか。というかトランプで魔神柱にダメージを与えるとか神業にも程がある。もしかしたら俺はとんでもない人を仲間に引き込んだのかもしれない。爺さんといいヴォルグさんといい、ジョーカーじゃなきゃいいんだけどな。

 

 それはそうと、ヴォルグさんの指差す方を見てみる。

 玉座へと至る正門の様な場所。藤丸達はその門の上を飛び越えて行ったが、その男はちゃんと正門を(くぐ)ろうとしていた。というかちょっと待て。あれって...

 

「......おい。あれ、もしかしてロマンじゃね?」

「そうだねぇ。カルデアとやらに居たドクター君だ。彼、戦えるのかい?」

 

 呑気にそんな事を言うヴォルグさんだが、今の論点はロマンの戦闘能力以前の問題である。

 

 ロマンが何かを隠している事には薄々気付いていた。それがこのグランドオーダーの最重要項目に関わっているであろう事も。しかし、結局ロマンが自らその隠し事を明かさないという事は、俺達にすら明かせない程の重要な事柄か、或いは別の意味があるのか、その2つだ。だから深くは追求しなかったし、知る気も余り無かった。

 だが、ここでロマンが出てくるという事はつまり──

 

「マスター! いま玉座の方にロマンらしき人影が向かっているのだが!」

 

 少し考え込んでいると、エミヤも俺の下に駆けてきてそう報告してくる。

 

「ああ。俺も今気付いた。くそっ、ロマンの気配が感知出来ないとか、魔力濃度濃すぎだろここ...。やっぱり俺も魔術王の方に行くか。丁度いい。エミヤ、お前も付いてきてくれ」

「了解した」

「よし。ジャンヌ!」

 

 遠くで各員に対して無敵状態を付与しているジャンヌに向かって、俺は声を張り上げる。

 

「はい! 何ですか!? こっちは結構忙しくて手が離せなのですが! 『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』! マスター、魔力下さい魔力! あの人(バーサーカー+α)達、ちょっと特攻し過ぎじゃないですかね!? ああもうまたっ! 『我が神はここにありて』ッ!」

「お、おう...。まあ頑張れ...? ああいや、そうじゃなくて! ジャンヌ、ここの指揮は任せていいな!?」

「この戦場で、彼らのマスターである立香以外の指揮が意味を成すと思ってるんですか!? 皆が皆自由に暴れまくる渾然一体の超混沌空間ですよ!?」

「ごもっともで! でもまあ頑張って手網を取ってくれ! 誰も死なすなよ! 魔力は好きなだけ使っていいから!」

「まあやれるだけはやりますっ! 『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』ゥゥッ!」

 

 ...念のために『魔力回復薬』飲んどくか。下手すりゃ俺の魔力が枯渇しそうな勢いだな。

 

「じゃあヴォルグさん、ヴェーザー、こっちは任せた」

「任された。おじさん、ちょっとだけ本気を出してみようかな」

 

 今まで本気じゃなかったと申すかこのおじさん。底が知れねぇなぁ...。

 

「俺もやれる事はやるが、さっさと敵の頭を取ってくれよ? じゃないとこっちがジリ貧だ」

「分かってる。行くぞエミヤ」

 

 言って俺はトニトルスを展開し、肩の装甲にエミヤが飛び乗る。

 

「行かせるかッ!」

 

 道中、やはり俺の行く手を阻む魔神柱。情報局フラウロス。その他にも数柱の魔神柱が俺を叩き落そうと攻撃を仕掛けてくるが、空中を自由に飛ぶ術を手に入れた俺にとってそれらの攻撃を躱すことは容易い。

 

 それと、先程気付いた魔神柱らの弱点がある。いや、弱点というよりは特徴と言った方が適切かもしれないが。兎に角、その弱点もしくは特徴とは、奴らはその場から殆ど動かない、或いは動けない、という事である。根を張っているのかは知らないが、奴らはその場から動かずに攻撃を仕掛ける。例外として三蔵が宝具でぶっ飛ばした時などは地面から離れるが、それ以外は全くと言って良い程動かないのだ。だから、所謂固定砲台状態の攻撃を空中で避けるなど容易い、という訳である。是非も無し。

 

 避けるついでにバルカンを展開し、魔力を込めた弾幕を魔神柱らに見舞いする。ギフト持ちのガヴェインには全て防がれたこのガトリング砲だが、魔神柱相手なら通る。やはり昼間のガヴェイン卿はチート。

 

 蠢く魔神柱達の頭上を飛翔し玉座へと続く門に到着、そしてそのまま全速力で通り抜ける。門を抜けてからというもの、ビーストの気配がより一層濃ゆくなったが気にせず、時速にして約120km/h程で飛行し玉座へと向かう。

 案外距離があり、玉座の足元、藤丸達が居る位置が見えてくるまでに3分程かかってしまった。

 

 俺がそこに着いた時、見馴れたロマンの姿は既に無く、居るのは藤丸、メディア・リリィ、金時、ヘラクレス。そして倒れて伏すマシュとそれを庇うように立っている資料で見たソロモンと瓜二つな人影、最後の1人が「人型の鹿」と形容出来そうな個体であった。

 正直状況が良く理解出来ないが、とりあえずはあのヤケにごつい鹿人間が敵の親玉、魔術王を名乗っていた者と考えて良い筈だ。ソロモンの方からはロマンと同じ気配も感じるし。

 

 目視で確認出来るとはいえ、距離はまだ大分ある。敵とロマンらしき人物が何かを話しているが、さすがに聞き取れない。しかし、こういう時の為にという訳では無いが、俺には多少、読唇術の心得がある。まあ戦闘中に役に立つから、という理由でケルト勢(主にスカサハ)に叩き込まれた観察眼を応用しただけの猿真似だが。それでも的中率は高い筈だ。多分。きっと。

 

 それによると、ロマンらしき人物の方が「ああ、初めからそのつもりだった。ボクはボク自身の宝具で消滅する。ゲーティア、お前に最後の魔術を教えよう」と告げている。

 

 

 ......ほう?

 

 

「エミヤ、降りろ」

「む? まあ構わないが...何故だ?」

「いいから早く」

「...了解した」

 

 途中でエミヤを降ろし、トニトルスにありったけの魔力を注ぎ込んで速度を上げる。

 その間も、ロマン達は俺の接近に気付くことなく、或いは気付いた上で無視しているかの様に事を進めていく。

 

「第三宝具『誕生の時来たれり、其は全てを修めるもの』。第二宝具『戴冠の時来たれり、其は全てを始めるもの』。そして──神よ、あなたからの天恵をお返しします。第一宝具、再演。『訣別の時来たれ」

「はいドォオオンッ!!」

「リブラッ!?」

 

 時速200km超の速度から繰り出されるライダーキック(鉄)がロマンの横腹を強襲した。英霊であるなら死にはしないだろうが、それでも身悶えする程の激痛が襲うことは必至である。

 

「ぐぉおぉぉぉ......」

 

 真横に吹き飛んで岩に直撃したロマンは、瓦礫と化したその岩の下で蹴られた横腹を抑えながら苦悶の声を漏らしている。無理もない。無防備であの蹴りを喰らえば俺だってああなる。並の人間は言わずもがな、中級悪魔程度でも五体がひしゃげて死ぬだろう。

 

「ちょ、えっと......凌太君...? 突然現れて何をしてるのかなーって、私気になってみたり。いやそれはロマンにも言えた事だけど...」

 

 藤丸が困惑仕切った様子でそう聞いてくるが、懇切丁寧に説明してやる気はない。というかその前にマシュをどうにかしなければ。

 

「これ、フェニックスの涙。あと魔力回復薬。マシュに飲ませとけ」

「え? あっ、うん...ありがと」

 

 ISを解除した後、ギフトカードから英雄派の連中から戦利品として回収したフェニックスの涙と魔力回復薬、その2つの瓶を取り出して藤丸に渡す。フェニックスの涙で傷を癒して魔力を補給させれば一先ずは大丈夫だろう。それ以降は俺がどうこう出来る問題ではない。それこそドクターであるロマンの領分なのではなかろうか。まあそのドクターは未だ(うずくま)っているのだが。

 

 ...にしても、敵の攻撃でマシュが倒れるってのは考え難いな。マシュの守りが破られた時はこちらが全滅する時だと思っていたのだが...見る限りマシュ以外はほぼ無傷だ。メディア・リリィが回復魔術を掛けたのだろうか? なら何故マシュは倒れている? ...相も変わらず状況がイマイチ分からないが、今はそっちに構ってばかりいる訳にもいかないか。

 

「...貴様は...、確かフラウロスの報告にあった人間だな。急に現れたと思えばすぐに居なくなり、そして又もや現れた...。何者だ」

 

 ゲーティア、と呼ばれていた個体が俺にそう問いかける。魔術王は過去と未来を視る千里眼の持ち主だと資料には書いてあったが、俺の登場は視えなかったのだろうか? それとも奴はそんな能力を持っていないとか?

 まあ今はどちらでもいい。それに、知られていない方が好都合である。こちらの手の内も知られてないのだから。

 

「そういうお前は魔術王...でいいのか? ソロモンの容姿をした奴は今蹴り飛ばしたが」

「...あの無能な王と我々は違う。いいだろう。無慈悲な王(ソロモン)を足蹴にし、結果として我々を救った褒美、という訳では無いが、貴様にも我々の名を語る。我が名はゲーティア、人理焼却式・魔神王ゲーティアである!」

 

 高々と名乗るゲーティアだが、気になる台詞があったな。人理焼却“式”とはなんだ? それに自ら魔神王を名乗ってはいるが、こいつから神特有の気配は感じられない。それどころか人の気配ですらない。なんだろう、確実に感じた事のある種類の気配なんだけど...。

 

「我々は名乗った。ならば次は貴様の番であろう。坂元凌太、という名は知っている。だが、貴様の正体は何一つ分からない。人ではある...だが、神に似たモノも混ざっている。ふん、我々の理解が及ばぬ存在など、実に不愉快なことである」

「俺が何者かって、なんだそりゃ。哲学的な問題なら他をあたれ」

 

 言いながら、魔力を練りに練っていく。

 相手が神の類ではないので、魔力と身体能力の爆発的な向上がない。だから地道に魔力を練っていくしかないのだ。神を相手にする時は魔力が湯水のように溢れ出てくるから楽なんだけど...まあ嘆いても仕方が無い。今やれる事をやるしかないのだ。

 

「マスターの正体など、それこそ神ですら分からないかもしれないがな」

「お前は到着早々何言ってんだ」

 

 要らない一言もあったがエミヤも無事に到着し、ロマンとマシュ、藤丸以外が戦闘態勢を取る。...ちょっと強く蹴り過ぎたかな。まあじきに回復するだろう。何気なくメディア・リリィが治癒魔術を掛けてるし。

 

「──気に入らないな。坂元凌太よ、貴様は何故我々に楯突く? 何故ヒトを助ける真似をする? 私には分かる、貴様は自身以外の人類など気にも止めぬ人間だろう。それに、その気になれば我々の偉業の影響が及ばぬ場所まで行く事も出来るだろう。なのに何故、人類を救うのだ、坂元凌太」

「知らん」

「......なんだと?」

 

 意外そうにするゲーティアだが、別に意外でもなんでもないだろう。奴の言った通り、俺は他人に興味が無い。もはや完全にカンピオーネという生物に染まってしまったのだろう。俺の身内が巻き込まれないのなら、人類が滅びようが栄えようがどちらでもいい。

 勿論、藤丸達が死ぬのならば俺は全力で敵を排除する。だが、今回は藤丸達全員を箱庭まで運べば良い話なので、俺が躍起になってゲーティアという人類の敵を倒す理由にはなっても動機としては不十分だ。

 なら、何故俺が今ここに立っているのかだが──

 

「まあ強いて言うなら、修行の一環だな。カルデアの連中には悪いが、今回の戦い、このグランドオーダーは俺にとってそれ以上でも以下でもない」

 

 だからこそ、そんな修行程度の出来事で大事な仲間を死なせる訳にはいかない。まあ修行だろうが聖戦だろうが、俺の身内を死なせる気は一切無いのだが。

 

 それに何度か言ってきた事だが、俺は紛れもないクズである。自覚があるだけまだましかもしれないが、それでも俺が生物を殺す事にも躊躇しない、時と場合と相手によっては楽しんでさえいる異形である事に変わりはない。

 

 そこでガラガラと瓦礫が崩れ落ちる音が聞こえてきた。

 

「ぐっ...ゲホッゲホッ...し、死んだかと思った...。視界が急にブレるって中々の恐怖なんだね...。初めて知ったよ。っていうか、ボクはなんでいきなり蹴られたのさ...」

 

 見れば、ロマンが漸くヨタヨタと立ち上がっていた。良かった生きてた。

 

「誰も死なせないって、お前の前で言ったのにお前が自殺するような真似するからだ。自業自得」

「そんな理不尽な...。それに、今のでボクの奥の手はゲーティアにバレた。もう通用しないだろう。...君は最後の希望をその手で消したんだ。その自覚はあるのか?」

「うるさい黙れ。仮に今のでゲーティアに勝てたとして、お前が死んでたら話にならねぇっつってんだよ。俺は強欲なんだ。落ちてくる実は全て拾う。お前が死ぬ以外の手段でゲーティアを倒すさ」

「なっ!?......はぁ。まあ、君はそういう奴だったね。それで、具体的な作戦は?」

「今から考える」

「.........Pardon(パードゥン)?」

「今から考える。神殺しの魔王(カンピオーネ)っていうのは『強者』の称号じゃない、『勝者』の称号だ。敵が何者であろうが勝ち方を見出す。それが俺達なんだよ。どうにかする」

「...まあ、いいか」

 

 諦念を抱いたロマンは渋々ゲーティアの方に向き直る。俺、人生諦めって非常に大事だと思うんだ。

 

「良かった、ロマン生きてたッ! っていうかロマン、さっき死ぬ気だったでしょ!? 私、そういうの結構分かるんだからねっ! 何度アーラシュと素材集めに行ったと思ってるの!」

「おいちょっと待てや」

 

 藤丸の日々ステラってる発言を聞き多少の悶着はあったものの、今は敵が目の前にいる為に追求は後からする事にした。だがこれは言いたい。いくら再召喚出来るからと言って、あんなに気のいい大英雄を使い捨てみたいに扱うな、と。お前は間違ってる...っ。

 

「で、マシュは? 正直アイツが居てくれた方が勝率が上がるんだが」

 

 槍を2本構えながらそう聞く。フェニックスの涙の効果は俺が実証済みだ。マシュならそろそろ回復してきそうなものだが、未だ戦線に復帰してきていない。

 

「...マシュはもうダメだよ。そういう運命なんだ」

「どうにかしろやドクター。一応はカルデアの医療トップだろ」

「君は本当に勝手だな。...まあ、手段が無いことは無い。でも今は時間が足りない。この戦いが終わってからじゃないとなんとも...」

「だったら余計早目に決着つけなきゃな。んじゃもう一つ質問だ。ゲーティアってなんなんだ(・ ・ ・ ・ ・)?」

「なんなのか、か...。簡単に言えば、ボクの死体の中で独自の思想を持った72柱の魔神の集合体。『正しい道理を、効率的に進めるシステム』として生前のボクが創り出した、意思を持つ魔術だ」

 

 自責の念に駆られているのか、少し暗い顔をして語るロマン。まあやってしまった事は仕方ない。前を向こうぜ。

 

「魔術って事は...お前の、ソロモン王の宝具の1つって事?」

「いや、宝具ではない。宝具に似てるけど、全くの別物。奴は魔術に、人に使役される存在にすぎない。だからこそ、奴は神になろうとしたんだ」

「要するに今のゲーティアは魔術そのものが意思を持ってるだけの存在だって認識でOK?」

「まあそうだね。でも、それがどうかしたのかい?」

 

 これは...勝ったか?

 

「...活路が見えた。とりあえず敵の注意を引いといてくれ。金時とヘラクレスも少しの間頼む」

「えっ? まあいいけど...」

「任せろ。あのクソ野郎に地獄を見せてやる」

「■■■■■ーーッ!!」

「わっ、私も支援を頑張りますっ!」

「おう。神代の魔術、期待してるぜ? 藤丸はマシュに付いといてやれ。マシュにとって、お前が近くにいるって事が1番の心の支えだろうよ。あ、フォウもな」

「う、うんっ...」

「フォウ!フォーウッ!」

 

 そう言い渡し、各人が動き出す。勿論、俺も。

 

「エミヤ、投影。分かるな?」

「ああ。ただ、少し時間が欲しい。あれだけの敵だ、投影する武器の質を出来るだけ上げておきたい」

「分かった。何分いる?」

「3分...いや、万全を期するなら5分と少しだな。質だけじゃなく数も必要だろう?」

「まあ一応な。じゃ、終わったら声をかけるなりしてくれ」

「了解した。では、私は一旦下がる」

 

 そう言って、エミヤは霊体化して後方の岩陰まで下がった。

 こういう時に念話が使えれば便利なんだが...やはりというか何というか、令呪を通した念話であっても俺の体はそれを無効化してしまう。こういう時はカンピオーネの特性が煩わしいな。まあそれ以上の恩恵があるし、贅沢は言っていられないのだが。

 

 しかし、何故念話はダメなのに令呪の使用は出来るのだろうか。もっと言えば俺が英霊と契約出来ている事自体、驚くべき事なのかもしれない。まあ出来てしまったのだし、今も問題無く、各英霊達とのリンクは繋がってるので気にしない方向でいこう。気にしたら負けなのだ、きっと。

 

「さて、俺も少しハメを外すか」

 

 下で魔神柱と戦っている俺の契約サーヴァント逹による宝具連続使用やエミヤの投影により、俺の魔力は絶賛垂れ流し状態だ。また1本、魔力回復薬を呷る。...予備は残り1本。ギリギリ持つかどうか、と言ったところか。

 

 ───まあ、別に魔術だけが俺の戦闘手段ではないわけで。

 

 最低限の魔力解放を使用し、黄と紫の軌道を奔らせる。

 この数ヶ月、どれだけ鍛えてきただろうか。最初の頃は吐くまでやるのが当たり前。慣れてきてからも死と隣り合わせの日々。しかも修行中に許されているのは今と同じ最低限の魔力解放のみ。もはやこの戦闘が楽とさえ思える程の濃ゆい修行内容だった。

 その結果。身体能力の方は兎も角、今の俺の近接戦闘技術は生半可なものではなくなっている。以前にも増して化け物じみてきた事に俺自身が1番引いている状態だ。

 

 

 ありがとう師匠、ありがとう俺に修行を付けてくれた英霊の皆。でも、俺はもう2度と、本当にもう2度と、あんな修行はしたくないというのが、心からの本音です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




マシュについては、ゲーティアの第三宝具を防いで消滅する前に寿命的というか身体的というか、そういう理由で倒れた、という事にしています。アメリカからの帰還後に起きたアレと同じです。

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