問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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今回はちょっと短めです。


FGO 終局
決戦前の休息、という名のナニカ


 

 

 

 

『あ、ワシ不参加で!』

「ぶっ飛ばすぞ」

『やれるものなら』

 

 なんだかんだでカルデアに帰ってきて小一時間が経った頃。俺はとある電子シュミレーション演習場の片隅で爺さんに電話をかけていた。もちろん応援要請をするつもりだったんだが...速攻で断ってきやがったぞあのジジイ。

 

「理由は。正当な理由を述べろクソジジイ」

『んー...。まあ、強いて言うならワシの舐めプが招いた失態っていうか?』

「...もうちょい詳しく。意味が分からん」

 

 激しい衝突音が木霊する中、気を抜けば聞き取れないような電話越しの爺さんの声を拾う。周りがうるさい。

 

『まあぶっちゃけると封印されました』

「何やってんの? ねぇ何やっちゃってんのお前?」

『フッ──慢心せずして何が王かッ!』

「神だろお前、巫山戯んなよ!?」

 

 曰く。爺さんはその暴れぶりから“魔王連合”なる集団に目を付けられ、それを尽く返り討ちにしていたらしい。しかし相手も馬鹿では無かったようで、爺さんに武力で勝てないと判断するやいなや、あの手この手で爺さんを無力化させようとしたらしい。“魔王連合”としては、他の主な計画に爺さんが介入する事態を防げればいいだけらしく、ならその間だけ大人しくしておいて貰おうと考えた。で、その相手の策略にあっさり嵌った結果が封印だ、と。...やっぱり2,3発ぶん殴ろうかな。

 

『まあ封印っつっても、「このギフトゲームをクリアしない限り別のギフトゲームへの参加、及び現ギフトゲームからの撤退を禁ずる」的なやつだけどな。その気になれば2日で決着を付けられる。が、それじゃ遅いだろう?』

「遅すぎるわ」

『だよな知ってた。だからワシは不参加だ。他の連中は送ってやってもいいぞ?』

「......おい爺さん。お前本当に動けないんだろうな? 面倒臭いからとか、そんな別の理由で来ないんじゃなくて」

『...さて、とりあえず“ファミリア”の連中と、サービスで魔力もカルデアに送るか』

「オイ待てやジジイ」

『いや、封印されてるってのは事実』

「...もしかしてわざと封印された、とか?」

Exactly(その通り)!』

「テメェ本気でぶん殴るぞ」

『やれるものなら。というかだな、ワシが行ったら面白くないだろ。魔術王とかソロモンとか瞬殺ぞ?』

「まあ確かにそうかもしれんが...」

『それにな、神には神の事情ってやつもあるんだよ、小僧。今回の件、ワシはパスだ。分かったな?』

「...まあ納得は出来ないが、理解はした」

『物分かりがいいのは良い事だぞ小僧。じゃ、ヴォルグ達は1時間後くらいにそっちに送る』

「ん」

 

 そう言って電話を切る。

 しかし困った。爺さんが来れない事じゃなく、あのバグキャラを封印出来る奴が現れたという事がだ。確かに以前、白夜叉もギフトゲームで封印された事がある。それを考えると、爺さんが封印されるってことも条件次第じゃ有り得ない話ではない。しかもあのジジイ、わざと封印されたとか抜かしてたからな。

 それに“魔王連合”とかいう組織の事も気になる。爺さんは、その気になればその“魔王連合”が仕掛けてきたギフトゲームを2日でクリア出来ると言った。だがしかし、逆に言えば、あの爺さんがその気になってもクリアに2日はかかるという事だ。

 “魔王連合”かぁ...。打倒魔王を掲げている十六夜達“ノーネーム”は必ずぶつかる相手だろうし、場合によっては俺達“ファミリア”も参戦するだろう。

 

 ふぅむ......問題多すぎワロエナイ。

 

「こんの...ッ!」

「ハァッ!!」

「ははっ!いいぞ、そのいきだ。まだまだ果てるなよ!」

 

 ちょっとした諦念を抱きながら、俺はボケッと目の前で繰り広げられている稽古という名の死闘を傍観していた。戦いを繰り広げてるのは我らがスカサハ師匠と二天龍である。イッセーとヴァーリは既に禁手化しているにも関わらず、スカサハ師匠はまだまだ余裕を見せている。うん、やっぱおかしいわあの人。

 因みに、俺の隣には尊敬する青タイツの人が気絶して地に伏している。南無。

 

「ん? なんだ、連絡は終わったのか? だったらお主も入ってこい、凌太。お主も儂を楽しませてみよ!」

「いや、流石の師匠も3人がかりはキツイでしょ」

「なぁに、既に赤い方は沈んだ。それに、お主が入れば儂も本気が出せると言うものだ!」

「イッセーが死んだッ!」

 

 なんて事だ。いつの間にかイッセーが兄貴と同じ状態に...!

 見ればヴァーリも肩で息をしており、限界も近そうだ。

 ...仕方ない。まだ魔力が回復仕切っていないが、決戦の時間まではまだ1日程ある。俺も修行に励む事としよう。死なない程度に。

 

 

 * * * *

 

 

「し、死ぬかと思った...」

 

 スカサハ師匠との稽古を終え、シュミレーション電子空間から出てきたイッセーが最初に呟いた言葉がそれだった。うん、分かるぞイッセー。俺もたまにそう思ってるし。

 

「くっそぅ...あのおっぱいに見とれたばっかりに...ッ!」

 

 どうやらイッセーはいつでもイッセーらしい。一周回って感心すらする。まあ確かに師匠の全身タイツは体のラインをやけに強調する衣装であるし、グレモリーの乳をつついて禁手に至ったイッセーが反応しないはずもないか。

 

「アレが英霊か...強いな」

 

 ヴァーリがしみじみと呟く。

 俺が参戦した事で若干の本気を出した師匠相手に瞬殺されていたし、ヴァーリにも思うところがあったのだろう。

 てか、師匠も師匠で大人げないというかなんというか...。ルーン魔術で槍に対龍の措置を施していたのだ。そりゃ二天龍と言えどもキツイですわ。

 

「なぁ凌太。お前、いつもこんな無茶苦茶な修行してんのか?」

「まあ、基本そうだな。酷い時はもっと酷いが」

「...お前が化け物じみているのは必然な気がしてきた」

 

 イッセーがドン引きしているが、まあ実際俺自身引いているので何も言わない。

 実は、俺は師匠の言いつけで、修行の際は魔力放出を制限されるのだ。魔力放出をしなかったら俺のステータスは途端に下がる。するとどうだろうか。師匠相手に技術だけで乗り切らなければならないというのは非常に厳しい反面、どうにかしなければ死ぬという思いが俺の技術向上を促すという結果になったのだ。我ながらなんという脳筋修行。本当、良く生き残ってるなぁ、俺。

 

 

 俺達がカルデアに帰ってきてから約2時間が経過しようとしている。カルデア内は、来たる最終決戦を前に適度な緊張感に包まれ──てはいなかった。

 

 食堂では。

 

「おかわりっ!」

「シロ......アーチャー、こちらにもおかわりを。大盛りで」

「もっきゅもっきゅ......弓兵、次はテリヤキバーガー20個だ。急げ」

「あっ、こちらもお願いします!」

「も、もう無理......ゴフッ」

 

 カウンターに並んだアルトリア、アルトリア、アルトリア。総勢6名のアルトリア+モードレッド、そしてその隣にはアルトリアsに劣らない量を食べているルフェイと、腹をパンパンに膨らませて机に突っ伏しているアーサー(子孫)の姿がそこにはあった。

 

 見なかった事にした。

 

 

 

 とある研究所と化した1室では。

 

「これが俺の歴代最高傑作。UFOだァッ!」

「す、凄い...凄いわアザゼル総督さん!ええ、マハトマをヒシヒシと感じるもの!」

「ふぅむ。堕天使とやらの技術力も馬鹿には出来ぬ。それはそうと総督殿。このUFOには直流を使っているのかな?」

「戯けた凡骨め。ここまでの作品だ、当然交流に決まっているだろう」

「ああん?」

「おおん?」

「あー...。因みに動力源は魔力だ。電力じゃねぇよ」

「ねぇアザゼル総督さん! 他には無いのかしら。こう、マハトマを感じるものは!」

「ああ、あるぜ。マハトマは良く分からんがな。例えば...」

 

 見なかった事にした。

 

 

 

 とあるトレーニングルームでは。

 

「ハレルヤッ!」

「くっ...! これがかの有名な聖女マルタの拳かっ。進化したデュランダル、エクス・デュランダルが軋むとは...恐れ入るッ!」

「貴女もスジがいいわね。今は悪魔でも、元は主に仕える為の聖職者だったとか。いいわ、時間の許す限り、みっちり体の使い方を教えてあげる!」

 

「えっ!? 貴方がゲオルギウスさんですか!? 本物の!?」

「ええ。確かに私はゲオルギウスですが...貴女は?」

「あっ、私、紫藤イリナって言います! 転生天使で、ミカエル様のAをやらせてもらってますっ!」

「ほう。天使ですか。可愛らしい方ですね。1枚宜しいですか?」

「聖ゲオルギウスがデジカメ!? 現代風ですねっ!」

 

 ──見なかった事にした。

 

 

 

 とある通路では。

 

「落ち着いてっ! 落ち着いてMr.ムニエルっ!」

「HAHAHA!! こんな男の娘目の前にして、この私が落ち着いていられるとでも思っているのかい立香ちゃん!」

「ヒィッ! 来ないで下さいぃいいい!!!」

「ヒャッハー!!」

「変態死すべし慈悲は無い。えい」

「ゴバァッ!」

「Mr.ムニエールッ!」

「うゎわあぁぁあぁあんっ! ごわがっだよぉおお!!」

「よしよし、大丈夫だよギャーくん。半日は気絶させるつもりで殴ったから」

「ふ......ふふふ...フハハハハ!! 私がその程度で負けるとでも? 諦めるとでも!? 甘い、甘いな猫又少女! アストルフォきゅんやデオンくんちゃんに若干の距離を置かれている今ッ! 私には癒しが必要なんダブラァッ!?」

「働いて下さいMr.ムニエル。それとも、あの穀潰しの様に私の盾の錆になりたいですか?」

「...悪かった。反省する。だからその盾を下ろしてくれマシュ嬢。あとその凍てついた目もヤメテ。私はランスロット卿程心も体も頑丈じゃないんだ。まだ命は惜しい」

 

 ───見なかった事にした。

 

 

 

 とある別の通路では。

 

「あれがノブナガ!? あ、あっちはサムライやニンジャもいるわ!」

「あの新選組の羽織りを着ている人はもしかして...こっちの世界の師匠...?」

「うん? なんじゃ貴様ら、神殺しの奴が連れてきた連中か。儂らに用か?」

「ふむ...悪魔、と聞いていたのでもっと禍々しい容姿を想像してござったが...なんとめんこい。そう思わないか、風魔殿?」

「黙って下さい。僕は小次郎絶対殺すマン、マスターの静止が無ければ今にでもブリゲイってるところです」

「ん? そんなに新選組の羽織りを見て...どうかしましたか、少年? はっ! これはアレですね、私のファンという展開ですね!? 最近マスターも他の鯖に現を抜かしてましたが、これはこの美少女剣士である沖田さんの時代再来の予兆...? ヤッター! 沖田さん大勝利ー!!」

「夢は寝てみろ人斬り」

「ふっふーんだ! 羨ましいんですか? まあ所詮ノッブは配布星4サーヴァ(割愛」

 

 ────全力で見なかった事にした。

 

 

 

 我がマイルームでは。

 

「あらあら。姫島朱乃さんと言いましたか。今回、私の(・ ・)旦那様に色目をお使いになったとか。お覚悟、宜しいですか?」

「あらあら、うふふ。ご冗談を。凌太君はまだ誰のものでもないでしょう?」

「将来的に奏者が余の伴侶となるのは確定的に明らかではあるがな」

「「...ほう?」」

「珍しいですね静謐さん。貴女は真っ先に噛みつきそうな話題ですけど」

「別に...マスターの正妻ポジは私ですし」

「いつになく強気な発言だな静謐よ。それに救国の聖処女よ、お主もやけに大人しいではないか。...ハッ!? もしや先の異世界旅行で奏者に手を出した、もとい一線を越えたのか!? 聖処女から聖女にクラスチェンジしたのでは無かろうな!? くぅっ! 余だって一応奏者との経験はあるのだぞっ!!」

「まだ越えてませんよ。それに、そういう行為はちょっと生前の処刑前のトラウマが...。いえ、別に嫌という訳では無いんですけど。マスターが望まれるのであれば、私は一線も、そしてトラウマをも越えてみせましょう」

「それより聞き捨てならない台詞がありましたね、ネロ皇帝。旦那様との経験? ふふっ、世迷いごとを。『ぶいあーる恋愛しゅみれーしょん』とやらをダ・ヴィンチちゃんさんに作らせたのですか?」

「そんな事はない。余と奏者、そしてシャルロットは、3人で共に熱い夜をだな」

「シャルロット? ふむ、また新しい女ですか...」

「うむ。奏者のカリスマは留まるところを知らぬ故な。あと、ラウラという、これまた可愛い乙女もいて...」

 

 ──気配を消して全力で逃亡した。

 

 

 

 とまあこんな風に、皆は割とリラックスしているのである。まあ、ある意味での緊張感がある奴らも一部いたが。

 とりあえず、緊張して本来の力が出せないだとか、気負いすぎて空回りするだとかの問題は無さそうなので、一応は安心する。これから世界の命運を掛けた戦いが始まるというのにこの落ち着きようは流石としか言いようがないな。

 

「うわっ! なんだこれ!?」

 

 女性陣に見つかりたくない一心でマイルームから撤退した俺は、適当にカルデア内を歩いていた。だって見つかると面倒そうだからね、仕方ないね。

 そんなこんなで暇を持て余していると、偶然通りかかった管制室の中から聞こえるロマンの声を拾った。アイツいつでも驚いてんな。

 

「どうした?」

「えっ、あ、凌太君。いやちょっと有り得ない量の魔力が何処からか送られてきて...」

 

 なるほど。爺さんが魔力を送るとか言っていたな。それか。

 

「有り得ないって、どのくらい?」

「...今までの特異点でカルデアが消費した魔力の1.5倍くらいかな...」

「うーん、何やってんだあのモンスター」

 

 どんだけ魔力持ってんだあのジジイ。俺の魔力全部使ってもギリ足りるかどうか...待てよ? もしかしてあのジジイ、俺の魔力を封印してるとか言っときながら、別の場所に溜め込んでたんじゃないだろうな? それが今回送られてきた魔力だとか...。いや、流石に考えすぎか。爺さんがチートなのは今に始まった話じゃないしな。

 

「うわぁっ!?」

「今度はなんだ」

 

 再度叫び声を上げたロマンを、少し思案していて視線を落としていた俺は、顔を上げてロマンの方を見る。

 するとそこには、ぽっかりと空間に穴が開いている光景が。俺には既に見慣れてしまった光景も、ロマンにとっては驚くべき光景だったらしい。まあそれが通常の反応か。

 

「きゃぁあああぁぁぁあ!!!」

「怖い怖い怖い怖いっ!」

「あっはっはっは!」

「笑ってんじゃねえよオッサン! こっちは必死なんだぞ!」

 

 懐かしく騒がしい声が穴の中から聞こえてくる。俺も最初は怖かったなぁ、あの暗闇。

 暫くすると、空間から予想通りの4人が出てきた。まあ、放り出されてきたという方が正しいか。

 

「はぁ、はぁ、はぁ...こ、怖かった......」

「なんなんですかアレ...。というかなんなんですかあのおじいちゃん...。問答無用で放り込まれたんですけど...」

「あっはっはっはっ!」

「なんでアンタはさっきから笑ってんだ!」

 

 へたり込むペストとラッテンに、何故か笑っているヴォルグさん、そしてそれに突っ込むヴェーザー。

 良く考えれば数ヶ月ぶりの再会か。懐かしいと感じるのも無理はないのかもしれない。

 ...今後は偶に帰ろう、不意にそう思った。

 

「よっ。久しぶりだな」

「はぁ、はぁ...えっ?あ、あらマスター。久しぶりね」

「失態を隠そうとしても遅いですよ、ペストちゃん。まあそこも可愛らしいんですけどねっ!あ、それとご無沙汰ですマスター」

「久しぶりだね、凌太。いやホントに。タイミングが悪くて、キミが帰ってきてる時はおじさんがいない事が多いからね」

「ったく...。まあ、久しぶりだなマスター」

「おう」

 

 四者四様、というやつだろうか。皆相変わらずだった。

 

「えっと...凌太君の知り合い、って事でいいのかな?」

「ああ。“ファミリア”の奴らだ。戦力的にも頼りになるぞ?」

「この空間にってうわっ! きゅ、急に閉まらないでよ、びっくりしたぁ...。えっと、さっきの空間に開いた穴は?」

「爺さんの権能的な何かじゃね? 俺もよく理解してる訳じゃないけど、いつもそれ使って異世界間を行き来してる」

「突っ込まない...僕はもう突っ込まないぞ...ッ!」

 

 何やら一大決心らしき事を呟いているが、放っておいて大丈夫だろう。

 

 何はともあれ、これで準備は整った。決戦まであと残り20時間を切ったところ。スカサハ師匠にも体を休めろと言われているし、この前カルデア内に設置されたとかいう銭湯にでも浸かって、6時間程仮眠室で寝よう。マイルーム? 戻りたくないデース。

 

 

 

 

 

 

 

 




なお、『最強の女王』という評判に敏感に反応したコノートの女王様が、一方的にグレイフィアさんをライバル視し始めた模様。「王多すぎ問題って女王にも当てはまってない!? 女王は私だけで十分よっ!」などと供述しており...

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