問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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オリジナルが多めに入ってきます。
は?と思うところがあるかもです。


拠点を見つけよう

「とまあ、ざっくり話すとこんな感じだな、俺については」

 

所変わって、現在地は白夜叉の私室だ。

先程の女性店員さんが全員分のお茶とバームクーヘンを持ってきてくれたので、それらを口に運びながら俺の過去の話をしていた。

まあ、過去っつっても爺さんに殺された事とその理由、あとはその爺さんが俺を箱庭に送った事しか話していないのでたいして時間はかからなかったけど。

 

「大体の事は分かった。で?お前が“ノーネーム”に入らない理由はなんだ?」

 

一段落着いて茶を啜っていると、十六夜が俺にそう言ってきた。

 

「あー... まあ理由としては四つくらいあるかな。

まず一つ目は、俺が今後どうなるかが分からないから。爺さんによれば、俺は他にも異世界に行くみたいだしな。いつ居るのか、いつまで居るのかも分からない奴がいても迷惑なだけだろ?」

「まあ、一理あるな。で?あとの三つは?」

「あんま焦んなよ十六夜。ちゃんと話すから。

二つ目は、“ノーネーム”現リーダーであるジン坊ちゃんの事が信用出来ない、というかイラついたから」

「なっ!?ど、どういう事でございますか凌太さん!ジン坊ちゃんが信用出来ないなんて!凌太さんはジン坊ちゃんの事をよく知らないでございましょう!?」

 

黒ウサギが声を張り上げる。

当たり前だよな。ほぼ初対面の相手、しかも自分の仲間を悪く言われたらそりゃ怒るわ。

 

「怒る気持ちは十分分かるが、落ち着け黒ウサギ。

俺がジン坊ちゃんに対してイラついた理由は『努力もせずに、自分は何も出来ないと決めつけて行動を起こそうとしなかった』事だ。

さっき聞いたんだけど、十六夜達の招待状だって、黒ウサギ、お前が調達したんだろ?それだけじゃない。生活費だってお前が稼いでたって話じゃねえか。お前が必死こいて金を稼いでいた時、ジン坊ちゃんは何をしていた?ジン坊ちゃんはギフトゲームに参加出来る、言い替えれば戦えるだけの力を持っているのに戦いもせず、かと言ってゲームに必要な知識を蓄えていた訳でもないんだろ?そのクセ、口だけはご立派だ。まあ、普通の子供ならそれでもいい。でもアイツはリーダーだ。仲間の為に死ぬ気で頑張る義務がある。なのに、その義務を果たさず、ただ他人に泣きつくようなリーダーに、俺はついて行きたくない」

「でもっ...!」

 

言い切った俺に黒ウサギは言い返そうとするが言葉に詰まる。

そんな黒ウサギを放っておいて俺は話を続ける。

 

「で、三つ目は、新コミュニティを創って“ノーネーム”と“同盟”を組もうと考えてるから。

同盟を組んでおけば、もし魔王にギフトゲームを挑まれてもそのゲームに介入出来るんだろ?さっき黒ウサギに聞いた。

それに、俺のコミュニティと同盟を組んでいる“ノーネーム”だ、という身分証明にもなるんじゃないか?さっきみたいに、名と旗印が無いから信用出来ない、だから入店お断り。なんて事態も回避できるだろ」

「まあ、そうじゃの」

 

白夜叉が答えてくれました。

さっきのジン坊ちゃんへの事で怒ってるないし、機嫌損ねたかなー、と思っていたのだがそうでもないらしい。

 

「で、最後なんだが...これは爺さんの言いつけとか、“ノーネーム”の為にと思っての事じゃない。でも、今の俺にとって最重要な事だ」

 

もったいぶる俺をみんなが見てくる。

俺は十六夜、久遠さん、春日部さん、黒ウサギと順番に顔を見てから口を開く。

 

「――“ノーネーム”と戦いたい。今は敵わないけど、でもいつか、色々な世界を回ってもっと力をつけて、仲間も見つけて、最高の状態でお前らに挑み、そして倒す。あ、もちろん白夜叉もな!

笑っちゃうかもしれないけど、馬鹿馬鹿しいと呆れるかもしれないけど、俺はそれがしたい。それが俺が決めた目標であり、“ノーネーム”に入らない最後の理由」

 

少々熱っぽくなってしまったが、それが俺の最大の理由なんだから仕方ない。正直、最初の三つは後付けだ。

さて、どんな反応をされることやら。

笑われるか呆れられるか、はたまた肯定してくれるのか。

期待半分にみんなの反応を待つ。

すると、十六夜が静かに口角を吊り上げた。

 

「...ハッ、いいぜいいねいいなあオイ!面白いじゃねえか!その挑戦、乗ったぜ凌太!」

 

十六夜の顔はみるみると獰猛な笑みに変わっていき、最終的に、とても愉快そうに、嬉しそうに笑った。

そんな十六夜に続くように久遠さんと春日部さんの表情にも笑みが現れてきた。

 

「ええ、いいでしょう。私も十六夜君に同意だわ」

「異論は無い。絶対負けない」

 

二人に続き、黒ウサギも口を開いた。

 

「正直、先程の事に黒ウサギは憤りを覚えています。

しかし、こちらとしては凌太さん方にオモシロオカシクこの箱庭で過ごして貰う事は本望でございます。

つまりは、凌太さんのしたいようにする事が、黒ウサギの望みです」

 

四人の意見を聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。

 

「...ありがとう、俺の我が儘を聞いてくれて。この礼は今度返すよ。『俺達の勝利』ってカタチでな!」

「ハッ!言ってろよ。勝つのは俺らだ!」

 

俺の挑発に、十六夜達が再び獰猛な笑みを浮かべ、それに俺も笑みで返す。

これはあれだな。

オラ、ワクワクすっぞ!

ってやつだな、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、コミュニティってどうやって創ればいいの?」

 

いい感じに盛り上がったのは良いんだけど、重要な事が分からなかった。

勝手に名乗ればいいのかね?

 

「それなら、名の旗印を教えてくだされば黒ウサギが箱庭の中枢に申告しますよ?」

 

黒ウサギがウサッ、とそのウサ耳をピンと伸ばしながら言ってくる。

そういや黒ウサギの目と耳は箱庭の中枢に繋がってるとかなんとか言ってたな。

それにしても名と旗印か...

今テキトーに良い感じのやつを考えるか。

うーむ...............

 

「...“ファミリア”とかいいと思う。ちょっとクサいかもしれないけど」

 

なかなかいいものが考えつかずにいたら、春日部さんがポツリと呟いた。

“ファミリア”か。家族みたいな意味だったよな。

 

「いいな、それ。うん、それにするよ。ありがとう春日部さん!」

「そう?役に立ったのなら良かった。

あと、さん付けはしなくていいよ。私も凌太って呼び捨てで呼ぶから」

「それなら私も呼び捨てで構わないわよ、凌太君。同盟者なんですもの。仲良くやりましょう?」

「ああ、分かったよ。久遠に春日部。これからヨロシクな。十六夜と黒ウサギも」

 

そう言って、俺は四人と握手を交わす。

 

「ああ。ヨロシクな、凌太」

「Yes!ヨロシクなのですよ、凌太さん!

あ、名の方は承認されましたので、あとは旗印を申告すればコミュニティ“ファミリア”新設でございますよ!」

 

いつの間にか申告してたのか。

 

「旗印は、そうだな。こんな感じでどうだ?」

 

そう言って、俺は店員さんに貰っておいた紙に考えついた旗印を描いていく。

 

「旗の中心に大きな輪っかが一つ、でございますか?」

「ああそうだ。シンプル イズ ベストってやつだよ。家族で一つに纏まりたいって意味でこれにしたんだけど...可笑しいかな?」

「いいえ、素晴らしいと思いますよ?では、この旗印で申告しておきますね。

..................承認されました。これでコミュニティ“ファミリア”新設完了なのですよ!」

「早いな!?いや、早くて助かるんだが...ま、まあいいか。ありがとう、黒ウサギ」

 

箱庭の中枢って暇なのか?

さすがに早すぎると思う。

 

「いえいえ♪それで凌太さんはどこに本拠を構えるのでございますか?というか、今晩寝る場所ございます?」

「あっ」

 

やっべ。何も考えてなかった...

こういう考えの甘さは、十六夜達とゲームする時に命取りになりそうだし、そういう所も改善していかないとな...

てか、今晩マジでどうしよう?

 

「よろしければ、本拠を構えるまで“ノーネーム”にお泊まりになって貰っても良いのですが、どうなさいますか?」

「んー。あれだけ啖呵切っといて今更泊めて下さいってのもなあ...」

「それならちょうど良い物件があるぞ?」

 

俺が悩んでいると、今までほぼ空気だった白夜叉が俺に一枚の紙を見せてきた。

えー、なになに?

『俺に勝てたら、俺の所有地である広大な土地と屋敷を譲ります。自分の腕に自信のある奴らはかかってこい。強者求む』?なんだこれ。

 

「それはとある馬鹿が開催しておるギフトゲームでな。三年くらい前からやっておるのだが、未だにクリア出来た者がおらんのだよ。まあ広大な土地と言っても七桁外門の外れにあるんじゃがな」

「ふうん、ギフトゲームか。白夜叉は挑戦したのか?」

「いや、私は挑戦しておらんよ。私どころか、五桁以上の者は一人も挑戦しておらん。私達にとって、七桁の外れに土地を持ってもそこまでのメリットは無いしの」

「へー。でも三年間クリアされてないってことは、主催者はそれなりに強いんだよな?」

「まあ、そうだろうのう」

「そうか。そりゃ面白そうだな。よし、このギフトゲーム受けてみる!サンキューな白夜叉!」

「構わんよ。それに、おんしは仲間を集めて私にも挑むのだろう?ククッ、面白そうじゃないか。我ら神仏はほぼ無限の年月を生きる為、常に道楽を求めている。おんしが挑んでくるその時を、楽しみに待っておるぞ」

「おう。首を長くして待っててくれ。絶対勝つ」

 

呵々と笑う白夜叉。

そうして、日も暮れてきて外も薄暗くなってきたので、この場は解散することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなと別れた後、もうすっかり太陽は落ち切り、辺りが真っ暗になった頃に、白夜叉に教えてもらったギフトゲームの開催場らしい屋敷の前に辿り着いた。

 

「ここか。頼もぉう!誰か居ませんかー!ゲームしに来ましたー!」

「んー?なんだ、まだ挑戦しに来るやつがいたのか」

 

とりあえず叫んでみると、暗闇の中から中年っぽい男が出てきた。

この人が主催者っぽいな。

 

「はい!挑戦しに来ました!」

「おうおう。これはまた元気なのが来たねえ。オジサン嬉しいよ。なんせここ一年誰も来てなかったからねえ」

「え、マジですか」

「マジなんですよ、これが。ま、世間話はここまでにして、ちゃっちゃとゲーム始めようか。もう暗いし、オジサン正直帰りたいんだよね」

 

な、なんなんだこの人は...

のらりくらりとしてるっていうか、なんというか...

嬉しいと言った直後に帰りたいとか抜かしたぞこのオジサン。本当に強いのか?

そう思っていると、俺の目の前に一枚の紙が現れた。

 

 

『ギフトゲーム名 “ファイティング”

 

・プレイヤー一覧 坂元 凌太

 

・クリア条件 ヴォルグ=シルグレンドに有効打を一撃与える。

・クリア方法 ホスト側が有効打と認める一撃を与えること。武器使用可。

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

“天に輝ける騎士団”印』

 

 

ふむ。これがルールか。

打倒、じゃなくて有効打を一発喰らわせられれば勝ち。思ってたより楽そうではあるけど、三年間(ここ一年は誰も来なかったようなので、実質二年間)は負け無しなんだ。油断大敵だな。

 

「有効打、ってのはそっちの偏見で決まるんですか?」

「基本そうだねえ。まあ安心しなよ。オジサン嘘は言わないから。有効打だと判断したら素直にそういうよ」

「OKです。じゃ、始めましょう、かっ!」

 

言うと同時にオジサン改め、ヴォルグさんに突撃する。

全力で地面を蹴り、十六夜のトップスピードに迫る速度でヴォルグさんの懐に入り込み、胸に拳を叩きつける。

 

「うおっ!君速いねえ。オジサン驚いたよ」

 

だか、その拳は直撃する前にヴォルグに片手で止められた。

 

「くっ!」

 

バックステップで距離を取る。

今のは間違いなく、俺史上最速の一撃だった。

けど止められた。

驚いた、と言っているが、ヴォルグさんにはまだ余裕があるように見える。

 

「君、強いねえ。今までの挑戦者の中ではダントツで強いよ」

「ありがとうございます。でも、そんなこと言う割にだいぶ余裕ありそうですけど」

「まあ、これでも死線は超えてきてるからね。上の方で君位のヤツとなら何度も戦ったことがあるんだよ」

 

俺並のヤツらと戦ってきた、か。

...ヤバイ、頬が緩む。

心の底からワクワクすっぞ!

てか、転生してからというもの、闘争心が溢れ出てくるのはなんでだろう?

ま、考えても仕方ないか。今はこの感情に従おう。

 

「じゃ、第二撃、行きますよ!」

 

そう言ってもう一度突進する。

 

「いくら速いといっても、馬鹿の一つ覚えに真っ直ぐ来るだけじゃオジサンは倒せないよ?」

 

ヴォルグさんは言うと同時に、体を半身にして俺の攻撃を避ける。

そして、ガラ空きだった俺の腹に一発の蹴りを打ち込んだ。

 

「ギッ!!」

 

変な声を出しながら吹き飛ぶ俺。

ヤベエ、腹がめちゃくちゃ痛え!

 

「威勢は十分、素質もある。でも、経験が圧倒的に足りてないねえ。まあ、君くらいの歳なら当たり前なのかな?」

「くっそ!」

 

腹の痛みを堪えて再び突っ込む。

 

「だから、そんなんで倒せるほどオジサン甘くないんだけど?」

 

先程と同じように半身になるヴォルグさん。

でも、さっきの俺とは違うんですよ!

 

「ゥオラァ!」

「ッ!」

 

避けられた瞬間に、俺は体を無理やり捻ってヴォルグさんの脇腹に蹴りを入れる。

ヴォルグさんもこれには驚いたようだが、ギリギリのところで両腕を使ってガードされた。

けど、俺もこれがすんなり決まるとは思っていないし、もちろん次の一手も考えている。

 

「もういっ、ぱつ!」

 

俺はガードされている方の反対側に殴り掛かる。

ヴォルグさんは両腕で蹴りの方に対応しるから、こっちのガードは間に合わないハズだ!

 

「ぐっ...」

 

俺の拳はヴォルグさんの脇腹に勢いよく入り、ヴォルグさんは小さく声を漏らして吹き飛んで行く。

蛇神サマの水柱を爆散させた時と同じか、それ以上に力を込めて殴ったので、少なくないダメージを与えたはず!

警戒は解かずに、ヴォルグさんが吹き飛んで行った方を見つめる。

轟々と立ち込めていた土埃がだんだんと薄れていって、目視で立っているヴォルグさんを確認出来た。

 

「ッ!マジですか。今のは過去最高の一撃だったと思ったんですけど、全然効いてないんですか」

「いいや、効いたよ?だいぶ効いた。今のは有効打と言ってもいいんじゃないかな」

 

何事も無かったかのように、スタスタとこちらに歩いてくるヴォルグさん。

いや、全然効いてるようには見えないんですが。

...ん?今「有効打と言ってもいい」って言わなかった?

 

「えっと、それは、このゲームは俺の勝ちってことでいいんですか?」

 

確認するように聞き返す。

 

「うん、そうだよ。君の勝ちだ」

「......なんだか釈然としないんですけど。全然効いてるふうには見えないし」

「いやー、ホントに効いたよ?気を抜いてたら多分意識飛んでたと思う。それに言ったでしょ?オジサン、嘘は吐かないよ」

 

そう、ヘラヘラと答えるヴォルグさん。

なんだか納得出来ないが、今晩泊まるところは欲しかったし、早く拠点も欲しかったので、しぶしぶではあるが俺の勝ちを認めた。

 

 

 

 

今度また挑もう。そして次こそ納得出来るカタチで勝つ!

そう、心に決めた。

 

 

 

 




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