問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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キャラ崩壊が著しい(もの凄い今更感)


詠唱は良い文明だと思うのだが、どうだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

「くッ! この...ッ」

 

 いつの間にか自分達の近くに接近していた俺に驚いたのであろう敵方の情報無しの青年その2が、右手を俺に向け黒いモヤのようなものを打ち出してくる。これは闇...いや、影か。

 

 それなりの技であるようで、少なくない魔力量を感じ取れる。が、速度も精度も甘すぎる。

 

「なんッ...」

 

 飛んできた黒モヤを片手で軽くいなした俺に再度驚愕する青年その2。驚くのは勝手だが、簡単に隙を作るというのは失格だ。

 次は気配遮断無使用で普通に地面を踏み抜き、その勢いそのままで頂肘を見舞う。そもそもの威力が高い肘打ちに高速移動による慣性も乗っている為、威力としては申し分ない一撃を腹部に受けた青年その2は、先の青年と同じように遠方へと吹き飛ぶ。違いといえば、苦悶の声すら上げられなかった事だろうか。肘がめり込んだ瞬間に気絶してたからなぁ。

 

「っ...。一体何者だ? 見ない顔だけど...新たな神器持ち? ...いや、これほどの実力なら俺の耳に入ってるはず...。まさかアザゼルの奥の手か? 今の肘打ちはともかく、初撃はまるで見えなかったぞ」

「そういう考察はいいからさっさと全員構えろ。本当に死ぬぞ、っと」

「グブッ!?」

 

 言いながら、背後から襲いかかってきていた男を回し蹴りの要領で蹴り飛ばす。先程の青年その2に喰らわせた攻撃と同等程度の威力で蹴ったのだが、その男はギリギリでガードをすることに成功した。まあガードの上からでも蹴りの振動は十分に伝わったようで、後ろの着物屋へと突っ込んで行ったが。

 確か今の男はヘラクレスの子孫だったか。さすがあのチート神話主人公の子孫を名乗るだけはあると言うべきか、ヘラクレスの子孫が今程度の攻撃で吹き飛ばされるなと言うべきか...。確実に後者だな、うん。

 

「お前ら練度低過ぎだろ。仮にも英雄の子孫を名乗るなら、せめて今のくらいは防ぎきれよ」

「...ははっ。これでもそこらの上級悪魔や天使より強いつもりだったんだけどな...。キミは人間...だよね、一応。本当に何者だ? もしかして、キミも英雄の子孫だったりするのかな」

 

 冷や汗を隠し切れていない曹操が、腰を落としながらそう聞いてくる。隣のジークフリートも剣を構え、その他も戦闘態勢に入った。

 

「特にそんな特別な先祖はいないはずだが。...英雄。英雄ねぇ」

 

『英雄派』を名乗る曹操連中。最初こそ仲間に引き入れられるかな、などと考えていたものだが...。

 

「なぁ曹操。お前は『英雄』を見たことがあるか?」

「うん? いや、どうだろうね。僕達みたいな子孫なら常日頃目にしてるけど?」

「なるほど分かった。──お前ら、『英雄』って奴らを舐めすぎだ。冒涜していると言ってもいいな」

「......まるで本物を見たことがあるみたいに言うんだな。キミに何が分かるっていうんだい? 見た感じ、俺達と同じでまだ20年も生きていないだろう?」

「分かるさ。きっとお前らにも分かるよ、今すぐにでもな」

 

 は?という声は聞こえなかった。代わりに、シャラン! という金属音と、ドンッ! という打撃音が静寂な京都の街中に響きわたる。

 

「御仏的に貴方達を放っておくわけにはいかないわ! 聞いた話じゃ悪い事を企んでるみたいじゃない! そういうのはダメって、お父さんやお母さんに習わなかったの!?」

「三蔵さんの言う通りです。それにそこの貴女、ジャンヌ・ダルクの子孫を名乗る貴女です! 本来このような感情は抱くべきではないのですが...なんか気に入りませんね貴女! なぁにが私の子孫ですか、魂を継ぐ者ですか!そんな事はその邪悪な心を浄化してから言いなさい! 或いはオルタを名乗なさい! それに私は生涯、子など産んだ覚えはありませんよ! 特定の男性などもってのほかですからねマスター! え? ジーク君? 彼は例外ですから! 好きとか嫌いとか、そういうのじゃなかったんですからねっ!」

「えっ、あっ、うん。...え? なんで最後俺に言ったの? ジークって誰だ。あと何でちょっとツンデr」

「流れです! 真意の程は察してください!」

「アッハイ」

 

 私服ではなく、魔力で編んだいつもの服装を戻った2人が、それぞれ錫杖と旗で地面を突いていた。

 それにしても、ジャンヌのキャラもイイ感じに壊れてきたなぁ。最初はちゃんと聖人らしく振る舞ってたはずなのに...どうしてこうなった。

 

「...『私の子孫』? 『子など産んだ覚えはない』? ...どういうことだ。その女性は一体何を言っている?」

「そのままだよ曹操。お前らの目の前にいるのは正真正銘、世界が認めた英雄だ。因みに俺という存在は、お前らの到達目標と言ってもいい」

「.........本当に何を言っているんだ? 世界が認めた英雄? 俺達の到達目標? つまりなんだ。そちらの女性2人は歴史に名を刻んだ英雄その人で、キミは人間の最高峰まで登り詰めたということか? ...バカバカしい。そんな事はある訳ッ!」

 

 理解が追い付いていない曹操を、横から白い軌道が襲う。直前で気付いた曹操はその一撃を槍で受け、バックステップをすることで威力を軽減し、同時に距離をとった。

 

「ふっ。俺達を忘れてくれるなよ、曹操。坂元凌太にばかりかまけているとあっさり殺られるぞ」

「ヴァーリッ...!」

 

 曹操を襲ったのは全身を白い鎧で覆ったヴァーリだった。

 アレが白龍皇の光翼の禁手化(バランス・ブレイカー)か。フルアーマーとか、赤龍帝の篭手と全く同じ仕様なんだな。形状(フォルム)が若干違うくらいか?

 まあ、強い事だけは嫌でも分かる。禁手化しことにより元々多かった魔力量は倍以上に跳ね上がっているし、性能の方もきっと上昇しているのだろう。今の攻撃は中々の速度だったし。

 

「イッセー。こっちは俺らだけで大丈夫だから、お前らグレモリー眷属はあの妖狐をどうにかしてこい。アザゼルも連れて行っていい」

「べ、別に構わねぇけど...。そっちは本当に大丈夫なのか?」

「なんだ、俺を疑ってんのか? ...いや、確かにお前らの前で爺さんに手酷くやられたからなぁ。信用が無いのかもしれんが...こいつら程度、なんなら俺1人でもどうにかなるさ」

「...言って、くれるじゃ、ねぇかッ! クソがァアア!」

 

 イッセー達に話しかけていると、ようやくヘラクレスが立ち上がってきた。人間としては十分に褒められるタフさだが、俺達のステージに立てるレベルではないな。

 

「オォオォオオォォ!!!!」

 

 ヘラクレスは頭部からだくだくと流れ落ちる流血を乱暴に拭い、自身を鼓舞するような雄叫びを上げながら、真っ直ぐに突進してくる。瀕死に近い状態だからか、行動が単調過ぎるな。まあ、あれだけ血を流しているのだし、仕方の無いことかもしれない。大量に失血しようとも戦闘中は冷静であれ、というのは、ただ(・ ・)()人間(・ ・)に求めるレベルではないだろう。

 

「ッ! やめろヘラクレス、短気を起こすな! 一度下がって回復してから──」

「俺を相手によそ見とは、随分と舐められたものだなッ!」

「くっ! 邪魔だヴァーリ!」

 

 ヴァーリの拳と曹操の槍が交差し、小さくない衝撃波が発生する。あちらは白熱しているようだし、曹操はヴァーリに任せとくか。同じ対神の槍の使用者として一度戦ってみたかったけど...まあヴァーリが出張ってるし是非もないよね。他を全員屠ってもまだ決着がついてなければ、その時は俺が貰おう。

 

「バランス、ブレッ!!」

 

 神器を発動させ、更には禁手化しようとして俺に迫っていたヘラクレスを、魔力放出で強化された筋力値を活用して殴り飛ばす。

 相手が格下だろうがなんだろうが、手加減や慢心をすれば一矢報われる。俺に殺られてきた神々や格上の存在達は、格下である俺にそうやって負けてきたのだ。俺が奴らと同じ過ちを犯す訳にはいかないだろう。

 

「ぐ、おぉぉ......」

 

 再度吹き飛ばされ、意識があるかすら怪しいヘラクレスは、それでも尚立ち上がる。

 ...ふむ。先程の感想は撤回しなければならないかな。ただの人間と、見下した言い方をした事は撤回だ。確実に格上の相手へと、明らかにオーバーキルじみた攻撃を食らっても立ち向かう。強大な力へと挑むのは勇気ある行動で、英雄と呼ばれる人間の前提だ。一歩間違えればただの蛮行となる行動は、だかしかし、どの英雄も通る道である。

 英雄とは、勇者とは、それ即ち愚者である。そう言ったのは一体誰であったか。

 

 ──まあ相手が英雄だろうが勇者だろうが、立ちはだかる限りは徹底して潰しますけどね?

 

「我は雷、故に神なり。喰らえ、“雷砲(ブラスト)”ォ!」

 

 ボロボロの体のヘラクレスを無慈悲な雷撃の渦が襲う。是非もないよネ。

 雷砲という追い討ちをかけられたヘラクレスは流石に耐えきれなかったようで、(すす)だらけになりながら白目を剥いて倒れ伏した。気絶しただけでまだ死んでいない辺り、相当にタフだと言わざるを得ないが...まあイッセーなら今のも耐えるだろうな。

 

「よくもヘラクレスを...! はッ!」

 

 ヘラクレスが倒されたのを見たジャンヌ(子孫)が、剣を十数本程創って俺に投擲する。

 確かジャンヌ(子孫)の神器は『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』とかいう、木場の魔剣創造に似た神器だったな。ってことはあれ全部聖剣ってこと?何それ強い。

 

 それなりの速度で飛翔する聖剣だったが、俺に届く前に空中で全て叩き折られる。

 

「貴女の相手は私ですよ、自称・私の子孫」

「くっ! なんなの貴女!? 急に出てきて自分はジャンヌ・ダルク本人だなんて(のたま)って! 更には私はジャンヌ・ダルクの子孫でないと、魂など受け継いでいないと豪語する! 本当になんなのよッ!」

 

 悲痛とも感じられる声を上げながら、更に数十本にも及ぶ聖剣を創り、投擲するジャンヌ(子孫)。しかし、その悉くがジャンヌの旗で防がれ、叩き落とされる。

 

「もし仮に貴女が本当に私の子孫であったとしても、貴女が自分の意思でテロ組織に加担している時点で私の魂を継いでいるとは認めません! とりあえずはお説教のお時間ですっ! ツインアーム・リトルクランチッ!」

 

 などと言いながら、その両手から赤と緑の光球を飛ばすジャンヌを見て俺は思った。

 

 やっぱり英雄って奴らにはこの何でもアリ感がないとね、と。

 

 いやそれにしてもまさか自分のオルタのリリィの技を使ってのけるとはなぁ...。邪ンタにあの技を伝授したサンタアイランド仮面も驚くことだろう。俺も驚いたよ。

 

「仏罰覿面! 行くわよ! 『五行山・釈迦如来掌』!」

 

 声のする方を見てみると、そこには無数の謎モンスターと対峙する三蔵、黒歌、アーサー、そしてルフェイの姿があった。

 あれが『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』か。何気に一番警戒していた神器だが、実際に目にするとそうでも無い。確かにモンスターの数は脅威になり得るが、個々の強さという面ではそれ程でもない。三蔵の拳法に加え、黒歌やルフェイの魔術、アーサーの戦闘力を見る限り問題はないはずだ。いざとなれば術者であるレオナルド少年本人を抑えれば良い話。あちらも任せておいて大丈夫だろう。

 ってことは、必然的に俺の相手はゲオルグとジークフリートか。前衛と後衛が揃っているのは面倒だが...まあ大丈夫だろ。

 

「もう一度言うぞ。こっちは大丈夫だから、あの妖狐をどうにかしてこい。あっちに暴れられると面倒だ。それに九重。あれはお前の母親なんだろ? だったらお前が責任を持ってどうにかしてこい」

「う、うむ! 心得た! 行くぞイッセー! 母親を救い出すのじゃっ!」

「お、おう...。俺達が苦戦した相手を圧倒とか、やっぱ凌太を心配するだけ無駄だったか...」

「まあ凌太君が異常だって事は分かってたけどね」

「神々を相手にして尚、勝利を据ぎ取る方ですからね、凌太さんは...。前回の敗北は相手のお爺さんが強すぎたのでしょう」

「...私は知らないのだが、主ではない神を殺したというのは本当なのか?いや、あの戦闘力を前にして疑うのもあれだが...」

「あの人って、あの赤いシェフの主人なんでしょ? 確かエミヤさんって言ったかしら、あの赤いシェフ。エミヤさんもコカビエルを圧倒する力を持っていたのだし、その主人である凌太君が強いのも納得といえば納得よね」

「あの力でオーディンのクソジジイも殴ってくれませんかね...」

 

 最後不穏な台詞があったんだけど。元護衛から「殴られればいいのに」とか言われる神話体系のトップって何者だよ。

 それはそうと早く行ってくれないかな。こちとらあの妖狐がいつ攻撃を仕掛けてくるかと気を張りっぱなしなんだが。

 

「クククッ。赤龍帝の相手を望んでいたんだが、まさか彼以上の実力者と手合わせ出来るとはな。僕も案外、運が良いらしい」

「運が良いジークフリートとか、それはもはやすまないさんじゃねぇ。幸運値Eになってから出直してこい」

 

 不敵な笑みを浮かべるジークフリートと、無言で何やら術式を練っているゲオルグに向き直り腰を落とす。

 俺達が睨み合っている間にイッセー達は妖狐の方へと向かったらしく、グレモリー眷属とイリナ、そしてアザゼルの気配が遠のいていくのを感じた。

 

「ははっ! ヘラクレスがやられたんだ、こちらも最初から全力でいかなければ手も足も出ないな! ──禁手化(バランス・ブレイク)ッ!」

 

 何が楽しいのか、笑いながらそう叫んだジークフリートの背中から、4本に及ぶ腕が生える。うーむ...。話には聞いていたが、実際目にすると中々グロい絵面だな。阿修羅とかそんな次元じゃないんだが。

 

「僕の神器『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』は亜種でね。その禁手もまた亜種、『阿修羅と魔龍の宴(カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)』。能力は単純、腕の分だけ力が倍加するだけが...技量と魔剣だけで戦える僕には十分過ぎる能力だとは思わないかな?」

「思わないね。不足だらけだ」

 

 地面を蹴り、ジークフリートへと一気に肉薄する。一瞬遅れて反応しようとしたジークフリートだったが、もう遅い。

 俺は、6本となったジークフリートの腕に持たれている5本の聖剣と1本の光の剣のうち、見覚えのある1本を持つ神器の腕を掴み、力任せに(・ ・ ・ ・ )引き(・ ・)ちぎった(・ ・ ・ ・)

 

 そして腕ごと剣を奪って再度距離をとる。ゲオルグも一応攻撃魔術を打ってきたが、その全てが俺によって撃ち落とされた。

 

「ジークフリート!」

「なんっ...がぁあぁぁッ!?」

 

 ゲオルグの声を聞き、一瞬遅れて自らの腕が千切られた事を認識したのだろうか。いくら神器の腕とはいっても、痛覚は確かに存在するらしい。血は出てないが。

 まあ、ジークフリートが叫び声を上げるのは何も激痛からだけではないだろう。腕が無くなる。それは思った以上に精神を抉るのだ。ソースは数刻前までの俺。まあジークフリートの場合は6本もあるので、少しは精神的ダメージも軽減されるだろうけどな。

 

「技量だけで戦える? 十分過ぎる能力? 何を慢心してるんだお前は。しかも格上相手に。アホか」

「ぐッ...! か、格上、だと...? お前が、僕よりかッ!?」

 

 なんともまあ驚いた事に、ジークフリートは俺とヘラクレスの戦いを見ても自分の方が格上だと思っていたらしい。お前マジか。

 

「んー...。とりあえず名乗りでもあげとくか。そういえばまだちゃんと名乗ってなかったしな。まあ戦闘に於いて名乗りとか本来必要無いんだけど」

 

 言いながら、どうせやるなら威厳を出そうと思い、紫電を迸らせながら気合いを入れる。

 

「曹操達も余裕があるなら聞け。俺は坂元凌太。箱庭第七桁コミュニティ“ファミリア”のリーダーにして、“神殺しの魔王”の1人。そして、お前らが目指す『人間の最高峰』、その一角だ。──さっきも言ったが、死ぬ気でこいよ。でないと死ぬぞ」

 

 過剰演出気味に、無駄に紫電や魔力を撒き散らした甲斐があったらしく。先程まで笑っていたジークフリートからは余裕が無くなり、聞いていたゲオルグ、そして曹操、レオナルドからも同じ様な反応が見て取れた。

 やはり『神殺しの魔王』という単語が効いたのだろうか。曹操に至ってはヴァーリと(せめ)ぎ合いながら何やらブツブツと言っている。

 因みに、ジャンヌ(子孫)の方は自分の先祖が出てきた事で既に頭がパンクしていたのだろう。まずもってこちらの話を聞いていなかった。

 

 それにしてもこの剣、普通にバルムンクじゃん。なんか見たことあるなー、と思ってたけどまさか本物とは。ジークフリートの子孫というのも、あながち全くのデマかせという訳ではないのかもしれないな。ん?いや、ジークフリートじゃなくてシグルドの末裔だったっけ?...まあどっちでも同じか。ブリュンヒルデ曰く、ジークフリートとシグルドはほぼ同じらしいし。

 

「さて、と。再度俺を警戒し始めたところで、コイツの正しい使い方を見せてやろう」

「...何だと?」

 

 千切られた腕を抑えながら、苦痛と疑念と警戒心の入り混じった顔を向けてくるジークフリート。ゲオルグは先程から魔術を放ってくるが、俺に届かせるには殺傷力が足りない。悉くが俺が薄らと張っている魔力障壁により無効化されていく。

 

 ふむ。詠唱から始めるか。何事も雰囲気は大切だ。それに、言霊というのは案外影響力が大きかったりする。俺の聖句が良い例だろう。ってことで。

 

「邪悪なる龍は失墜し、世界は今、洛陽に至る」

 

 奪い取ったバルムンクを構え、魔力を注入していく。この宝具は何度も見たし、一度この身で受けた技だ。龍殺しの効果は期待出来ないにしても、発動だけなら真似できる。威力も同等といっていいだろう。

 

「なん、だ、アレは...。あの剣に...バルムンクには、あんな力が...」

 

 色々と限界が来ているのだろうか。ジークフリートが惚けたように、バルムンクから溢れ出る色鮮やかな魔力を見つめている。...これ死ぬんじゃね? まあその時はその程度の奴だったと割り切るか。

 

「ッ! ジークフリート、避けろ! 早くッ!!」

「──撃ち落とす。『幻想大剣・天魔失墜(バ ル ム ン ク)』ッ!」

 

 ゲオルグが悲鳴のような叫びを上げながら防御魔法陣を形成するが、急造の魔法陣でどうにかなるレベルの攻撃ではない。ジークフリートを守る様に展開された魔法陣は容易く破られ、魔力の奔流がジークフリートに迫る。

 

「クソッ......クッソォォオオォォオ!!!」

 

 最期はヘラクレスと同じく、残りの聖剣でバルムンクという巨大に立ち向かおうとするが、奮起するのが遅すぎた。

 剣を握り、足に力を入れた瞬間。ジークフリートは魔力の渦に飲み込まれ、意識を容易に刈り取られた。原型を留め、生きているだけ儲けものだろう。奮起するのが遅すぎた、とは言ったが、もう少し遅ければ肉塊と化していてもおかしくなかった。その点で言えば、ギリギリで間に合ったと言えるだろう。

 

 しかし。これで英雄派は既に4人を失った。2人は気絶、もう2人は行方も生死も共に不明。

 魔獣は三蔵達がどんどん屠り、それに負けじとレオナルドも次々と魔獣を生み出す。3人がかりでも手数が足りないのか?...いや、よく見れば少しずつではあるが三蔵達の方が押してるな。流石にレオナルドの体力的な問題があるのだろう。

 

 ジャンヌ達の方も何か言い合いをしつつ、聖剣と旗を互いに振るっている。ジャンヌ(子孫)の方は禁手化したらしく、聖剣でできた竜を使役していた。「竜を使うとは、やはりオルタですか!」などとジャンヌが叫んでいるが、正直俺もそう思いました、まる

 

 曹操の方も、ヴァーリ相手に押されてはいないが押してもいない。互角ってところか。曹操の槍は聖槍、つまり悪魔であるヴァーリとは相性が良いはずなんだが...。それをものともしないヴァーリを称賛すべきか、それとも単に曹操にヴァーリを倒すだけの技量が無いだけか。

 どちらにしろ、ヴァーリが攻めきれていないのも事実だ。あれは長引く可能性も高いな。

 

「術式構築、空間標準固定、魔力装填完了...」

 

 他の戦況を観察していると、ゲオルグがぐんぐんと魔力を高めていき、空中に50に及ぶ多種多様な魔法陣を構築していた。見た感じ火、氷、風、地面、空気、雷、闇、光、etc.と、本当に様々な属性の魔法陣だ。魔術に関しては確実に俺より手練れであろう。まあ、関係ないけど。

 

「全魔術、フルバースト!!」

 

 ヘラクレスとジークフリート、そしてその他2人と、4人も仲間をやられたからだろうか。少なくない怒りが垣間見える怒濤の魔術連弾。火の玉が、氷塊が、風刃が、光と闇の槍が。その他にもありとあらゆる魔術が一斉に俺へと迫る。

 確かに、これ程の魔術は脅威となることもあるだろう。だが、異世界の魔術師や神とかいうアホみたいな連中とドンパチやってきた俺にとって、この程度の弾幕など合って無い様なものである。

 

「纏めて吹き飛ばす。“雷砲(ブラスト)”!」

「んなっ!?」

 

 迫り来る魔術連弾を、俺は雷砲の一撃で全て掻き消した。放たれた雷撃は魔術を相殺するのではなく、全てを呑み込んで更にゲオルグへと飛来する。

 

「くっ!」

 

 しかし、その雷撃が届く前にゲオルグが『絶霧』を使って空間転移を行いその場を離れた。

 雷撃はこの擬似京都の建物を幾多も巻き込みつつ、彼方へと消えて行く。ギリギリで空間転移を使用したゲオルグは、魔力消費が激しかったからか、或いは恐怖からかは分からないが、冷や汗をかき、肩で息をしている。

 空間転移、思った以上に厄介だな。

 

「くそっ、なんだ今のデタラメな魔力の雷撃は...。何なんだよお前ッ!」

「言っただろう。神殺しだ」

 

 縮地と呼ばれる奥義には未だ届かずとも、それに準ずるレベルにまで洗練された歩法でゲオルグとの距離を詰める。瞬間移動紛いの空間転移だが、それも絶霧あっての技である。ならばその絶霧が発動する前に仕留めるまで。初歩的なことだ。

 

 咄嗟に魔法陣を構成するゲオルグだったが、俺はその魔法陣ごと殴り飛ばす。魔法使いだというゲオルグは身体的にはそこまで強靭では無かったらしく、あっさりと意識を刈り取られた。

 

 これで5人目。思った以上に手応えがない。まあ時間もかからないし困りはしないのだが。

 

 ふと三蔵達の方を見てみると、あちらもレオナルドの生み出す怪物達を狩り尽くし、レオナルド本体を拘束していた。アザゼル曰く、『英雄派』の身柄はこの後冥界へ引き渡されるそうだ。俺達の味方になる気配もないし、ここは素直にアザゼルに任せておくか。

 

 残りはジャンヌ(子孫)と曹操のみ。ジャンヌ(子孫)の方も、そろそろ決着が着くだろう。問題は曹操 VS. ヴァーリの方だが...、曹操の奴が禁手化してからヴァーリが完全に攻めきれなくなっている。曹操の背に出現した光輪。アレが悪魔であるヴァーリを苦しめているらしい。悪魔ってのも案外不便な生き物なんだな。

 

 ヴァーリも一応、仲間に引き込もうと考えている候補だ。それも『英雄派』よりも優先度は高い。ここで死んでもらう訳にはいかないのである。

 

 え? 節操無さすぎだろって? 仕方ないじゃないか、こうでもしないと箱庭上層では生き残れないんだから。出会った強者は皆引き抜き候補だ。まあそいつの性格や俺の直感で「あ、こいつはないわ」と思ったら即座に敵認定、或いは無視するが。そういう目線で見たら『英雄派』はほぼほぼ失格だけどな。終始、俺という存在を理解出来ないというだけで困惑し、戦闘に集中しきれていなかった。その点青年その2とヘラクレスはまだマシだと言える。何も言わずに奇襲を掛けてきたのはあの2人だけだからな。曹操もまあ、妥協点ではあるか?

 

「おいヴァーリ、キツイなら俺がやるぞ」

「ははっ! 何を言っているんだ、やっと体が温まってきたところだぞ!」

「くっ...! ダメージは確実に入ってるはずなんだけどな。効いている気が全くしないよ...!」

「効いてるさ曹操! ああ、とてもな! だが、まだ手を隠しているだろう? 早く全力を出せ!」

「これでも全力でやってるつもりなんだけどねっ!」

 

 光輪に加え7つの光球を辺りに浮遊させている曹操が、その光球の1つをヴァーリへと飛ばす。が、それをヴァーリは半減させ、また半減させの繰り返しで最終的には光球を消滅させた。しかし即座に光球は復活し、また曹操の周りを浮遊する。さっきからずっとこんな感じだ。どちらかの体力が尽きるまで決着は着かないだろう。...正直、見てるのは飽きてきた。

 

「めんどくさい。どけヴァーリ! 一手で決める!」

「何!?」

「ちょっと待て、ヴァーリだけで手一杯なんだぞ...!」

 

 2人の驚愕した声を聞きながら、俺は『天屠る光芒の槍』を取り出して魔力を込める。曹操は別に神仏などではなく、正真正銘生粋の人間なのでわざわざこの槍を使う必要はないのだが......まあ、曹操の奴に本物の『神殺しを成した槍』というものを見せてやろう。『振り翳せり天雷の咆哮(ネメジス・アルピルク)』? あれはこの擬似京都を俺以外の全てを巻き込んで壊滅または消滅させそうなので却下です。というかそもそも、先程からの三蔵による宝具連発が原因で魔力が足りないのだ。確かに「戦闘になったら宝具とか自由に使っていいよ」と事前に言ったが、まさか連発するとはなぁ。流石にキツイですね。

 

「──唸り狂うは天を撞く玲瓏の紫光、瞬きの間に全てを貪れ。神雷招来、修羅滅殺! ブチ抜け、『天屠る光芒の槍(ダイシーダ・リヒト)』ッ!」

 

 言霊は割と大事だという事を最近学んだ俺。槍に雷撃の付与をする際、こういった言葉を添えるのは威力向上に繋がるし、何より俺の気分が上がるという事に気が付いてしまったのだ。フッ、またつまらぬ発見をしてしまった...。

 

 以前にも言ったかもしれないが、俺はこういう、いわゆる『厨二』系のものは好きだ。

 自分で考えた、というか自然と湧き出てくる言葉をそのまま詠唱としているだけだが、それがまた割と気に入っていたりする。自分自身、言ってる意味は良く分かってないけどネ!

 

 それはそうと。

 魔力と雷が十分に装填された紫紺の槍は目にも真っ直ぐに曹操の足元へと着弾し、魔力の膨張による爆発と雷の追撃が曹操を襲う。直接貫かなかったのは別に慈悲などではなく、単に曹操を試しただけだ。これで防ぎきるなり耐えるなりすれば、まだ仲間に引き込む余地はある。まあここまでされた相手に大人しく付いていくのか、という疑念はあるが。

 

「......おい坂元凌太。あれは俺の獲物だった。あと、情けない話ではあるが一瞬死を覚悟した。一応は味方なはずだろう。突然、しかも背後から攻撃をするな」

「でも無事じゃん? 俺は信じてたぜっ! あと曹操の件はほら、お前らの決着が長引きそうだったし。心配すんな、お前さえ良ければこの後曹操なんかより強い奴らの所に連れていってやるから」

「...本当か? 約束だぞ、違えるなよ」

「おう」

 

 どんだけ戦闘狂だよこいつ。などと思いながら漸く爆煙が晴れてきた槍の着弾点に目をやる。

 曹操は...っと、全身黒焦げだが死んではないな。けど意識は確実に飛んでるか。光球の能力で少しは防御したらしいが、それでも防ぎきれなかったらしい。確かに今の攻撃は『約束された勝利の剣』より高威力だっただろう。しかし、イシュタルやコアトルの宝具には劣る。コアトルのはジャンルが違うかもしれないが、今の攻撃に耐えられない、または避けられないのならば、所詮はそこまでの人材だったということ。証拠にヴァーリはちゃんと避けている。何だかんだで耐えることもできただろう。まあ無事では無かっただろうが。

 

「うわぁ...。前から思ってたんだけど、ホントに容赦ってものが無いわよね、リョータって。あれ、普通なら死んでるわよ? 無益な殺生はダメなんだからね?」

「容赦なんかしてたら死ぬ、って世界で生きてるからなぁ。三蔵も俺らと一緒に色んな世界に行けばすぐに理解するはずだぞ?」

 

 完全にレオナルドや彼の創造した怪物達を無力化した三蔵達が、俺の元へと寄ってくる。因みに、レオナルドは気絶させられた上に縛られ、今はアーサーに担いでいた。

 

「ふぅ。これでまた、1つの使命をやり遂げた気がします」

「...うん、なんというか...おつかれ」

 

 ジャンヌの方も無事勝利を収めたらしく、目を回しているジャンヌ(子孫)を担いできた。

 それにしてもジャンヌのやり切った感が凄い。スッキリした顔をしている。ストレスでも溜まっていたのだろうか。エミヤといいジャンヌといい、精神的な療養が必要な奴が多い件について。いや案外、ジャンヌは本来このような性格で聖女という概念が生真面目な彼女の性格を生み出していただけなのかもしれない、という疑惑はあるが。

 

 まあその辺りは置いておくとして。

 後は妖狐をどうにかすれば一件落着である。簡単なお仕事でした。この場に出てきていた『英雄派』は全滅。飛んでいった2人の回収は冥界の使者とやらに任せよう。気配が感じ取れない程に小さくなっていて、2人がどこに居るか分からねぇし。

 

 魔術王との最終決戦まで後25時間程。これは余裕を持ってカルデアに帰れるのではなかろうか。

 

「このまま何も起こらなければすぐにカルデアに帰りましょうね! あたし、エミヤさんの作った麻婆豆腐が食べたいわ!」

「フラグ発言するのはこの口か? なんで口にしちゃうの? なんでそんなぽんぽんフラグを建てちゃうの? ねぇなんで? あと何故に麻婆豆腐」

いひゃい、いひゃい(痛い、痛い)ほっへたひっはらはいてぇ(ほっぺた引っ張らないでぇ )!!」

 

 ...なんか一気に不安になってきた。

 

 

 

 

 

 


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