問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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ヴァーリ「曹操達が京都で何か企んでいるそうだ。最近はあいつのちょっかいも目に余るからな。俺達も行ってお灸を添えてやろう」
美候「あぁー......ワリィ。おれっちはパスだぜぃ」
ヴァーリ「なに?」
美候「なぁんか嫌な予感がするんだよなぁ。こう、会いたくない奴に2人も会って、最終的にボコられる未来が見えるぜぃ...」
ヴァーリ「...何だそれは?」

という会話が、ヴァーリ一味が京都に行く前にあったような無かったような。



英雄派

 

 

 

 

 

 

「ジャンヌ・ダルクに玄奘三蔵...だと?」

「...これは一体...?三蔵法師はまだしも、ジャンヌ・ダルクの子孫は別にいるはずですが...」

「あー...。なんか変な気の流れをしてるなー、って思ってたら、なるほどそういう...。世の中まだまだ不思議がいっぱいだニャー...」

 

三者三様、というか男女別の反応を見せるヴァーリ達。というかジャンヌの子孫もいるのか。...あれ?ジャンヌって確か19歳で死ぬまで処女だったはずじゃ?確かに捕まった後誰かしらに犯される、というのは中世における女性死刑囚の定番ではあるのだろうが...。その短期間で子供が...?いや、これは突っ込んだら負けのパターンだろうか。きっとそうなのだろう。この世界のジャンヌ・ダルクはウチのジャンヌと違う可能性も浮上してるしな。

 

「んでまあ、俺が坂元さんですよっと。それで?俺に何か用事でもあるのか白龍皇」

「ん?あ、ああ。いや、用事という程でもないんだがな。曹操達を追ってきてみれば、以前コカビエルを屠った赤い剣士の仲間、そしてグレモリー眷属や赤龍帝・兵藤一誠を育てた張本人を偶然見つけたものでね。声をかけたくなるのは自然だろう?」

「何言ってんだこいつ」

 

どうやら戦闘狂という噂も間違ってはいないらしい。闘気が満ちている、とでもいうのだろうか。さっきまでジャンヌ達の名前に少なくない驚きを見せていたヴァーリだったが、今は怪しげな眼光で俺を見据えている。...もう一度言うが、俺は今は片腕が無いんだぞ。戦闘とかやめて欲しい。雑魚相手ならまだしも相手は白龍皇。英霊クラスといって過言じゃない。後ろの2人も同様である。仮に俺が万全でない状態でやり合うとなると、単純に頭数が足りていないのだ。

 

それと、曹操ってもしかしなくても三国志のヤツか。呂布で間に合ってんだよ帰れ。

 

「...どうでもいいけど、赤い剣士ってエミヤの事?一応言っておくと、あいつ弓兵だぜ?」

「何?いや、そんなはずが無い。アレが弓兵?双剣を使いこなし、木場祐斗の様に剣を精製して戦っていたぞ。あれはどうみても剣士だろう」

「まあその意見自体には俺も概ね賛成だ。弓兵(アーチャー)...“弓”兵とは一体何なのか」

 

最早普通に弓を使っているアーチャーの方が少ないのではないだろうか?剣を投げたり石を投げたりダーリンを投げたりして「アーチャーですが何か」と言い張る連中ばかりだからな、俺が会ってきたアーチャーは。最近は銃を使ってる奴はまだマシ、とまで思えてきた。

 

「ん?なんだ、イッセー達の気配が...」

 

昨今大して問題視されていないアーチャーの定義について少しばかり考えに耽っていると、突然としてイッセー達の気配が現れた。しかも今度は相当強い気配になっている。例えるなら、戦闘が終わった直後でまだ熱が冷めきってないみたいな?ふーむ...確実に何かが起こってるよなぁ。外を取り囲んでる連中も、微妙だがさっきより増えてるし...。これはますますヴァーリ達に構ってる暇はないぞ。

 

「おい白龍皇。戦いたいならまた今度にしてくれ、いやマジで。ほら、俺今左腕ないじゃん?完治してからの方がお前も楽しめると思う」

「ほう?俺は今回、行方不明だったお前を偶然見つけたから声をかけたんだが...そうか、戦ってくれるのか」

「えっ」

 

あっ、これ墓穴掘ったやつ──

 

そう気付いた時には既に遅し。めっちゃ嬉しそうに口角を上げるヴァーリと呆れた様な他の連中の顔を見ながら、俺は近い将来この戦闘狂と戦うハメになってしまった事実に打ちひしがれるのだった。

...いや、別に戦うこと自体は嫌いじゃないんだけどね?

 

 

 

* * * *

 

 

「喰らえリア充!そして死ね!ドラゴンショットォオオオ!!!」

「ウザイ」

 

血の涙を流すイッセーのドラゴンショットという魔力弾を時に受け流し時に避け時に相殺しながらやり過ごす。つか地味に威力上がってんだけどこの技。もしかしたら思った以上にイッセーは強くなっているのかもしれない。

 

ヴァーリの対応は後々考えることにして、とりあえずイッセー達に合流したらこれだ。因みに理由としては、「なっ!?お、お前また新しい美少女を侍らせやがってぇ!?ぶっ殺してやる!しかも全員もれなく巨乳だと!?ふざけるな、ふざけるな!バカヤロォオオ!!」との事だ。ヴァーリやアーサーもいるのだし、俺だけに当たるのは違うと思う。というかお前も人の事言えねぇだろ。アーシアに加えて青髪短髪少女と茶髪ツインテ、酔いつぶれてる白髪の人、しまいにゃ狐幼女が一緒にいるんだぞ。俺より酷いわ。

 

因みに、今俺達が居るのは桂川にある嵐山公園中之島地区。黒歌による人払いの術式によって人っ子1人いないこの場所でイッセー達と合流したのだ。ついでにヴァーリの仲間であるらしいルフェイというアーサーの妹にも出会った。

 

「よぉヴァーリ。お前さん、よくもまあこんな所に来れたな。しかもその小僧と一緒とは...。おい坂元凌太、お前、まさか『禍の団』に組みしてたりとかしないよな?」

「する訳ないだろアホか。というかお前こそなんでイッセー達と一緒にいるんだダメ総督」

 

ナチュラルにイッセー達グレモリー眷属、悪魔と行動を共にしている堕天使総督を若干のジト目を以て見る。それに茶髪ツインテの子は天使っぽい気配がするし...。三大勢力の対立とやらはどうしたんだお前ら。

 

「なんだ、知らなかったのか?...ああ、例の『箱庭』とやらに帰ってたのか?」

「まあそんなところだよ。で?」

「ああ、実は少し前にな──」

 

曰く。長年睨み合いを続けてきた三大勢力は、これ以上の牽制は互いに無意味だと悟り、加えて『禍の団』という共通の敵が出来た事から同盟を結んだらしい。しかも各勢力のトップ組は割と仲が良いのだとか。そしてアザゼル本人は現在、駒王学園で化学教師兼オカルト研究部顧問を勤めているらしい。

 

「まあそれはともかく」

「お前、自分で話せって言ってきてそれはないだろ...」

 

俺はアザゼルに話すだけ話させて適当にその話を切り上げ、本題に入ろうとする。いやだってそこまで面白い話でもなかったし...。

 

「誰でもいいからさ、『フェニックスの涙』持ってねえ?持ってたらちょっと譲って欲しいんだが。というか寄越せ」

「だからどこの賊ですか貴方は...」

 

ジャンヌが諌めてくるが気にしない事にした。俺だからね、仕方ないね。

 

「ああ、それなら俺が持ってるぞ」

「でかした総督」

 

ぱっと手を上げたのは予想していたイッセーではなくアザゼル。まあ顧問らしいし、物の管理をするならコイツなのだろう。イッセーとか、なんか無くしそうだしな。

 

「ふむ...。別にくれてやってもいいが、1つ条件がある」

「OK分かった要件を呑もう。曹操だっけか。そいつだったら全力を以て潰してやるからさっさとソレを寄越してくれ。腕が無いのはなんかムズムズするんだよ」

「お、おう...。案外すんなり、というか要件を言う前に聞き入れたな...」

 

別に人間の1人や2人、今更どうと言うことではない。英雄の子孫だろうが所詮は英霊でもないただの人間である。相手が神殺しの魔王(カンピオーネ)とか、そのレベルに達しているのであれば話は別だが、それでもこの英霊2人に二天龍、堕天使総督にアーサー王の子孫、そして俺というメンツで負ける様な敵ではないだろう。慢心もせぬ。全力で最速で倒す。もしくは可能ならば仲間に引き入れる。人の身でありながら、全力でないとは言え聖書にも記されるレベルのアザゼルと正面からやり会える様な人材だ。箱庭や異世界で鍛えれば『箱庭』でも通用するくらいに強くなるかもしれない。

 

そう密かに“ファミリア”戦力増強計画を練っていると、アザゼルがその懐から1つの瓶を取り出し、俺に投げ渡す。初めて見るが、恐らくこれが『フェニックスの涙』なのだろう。

腕を接着させる為に早速上着を脱ぎ、ギフトカードから俺の左腕を出してジャンヌに持ってもらう。

茶髪ツインテ──確かさっきイッセーがイリナと呼んでいた少女とアーシア、そして狐幼女が「ヒッ...」と短い悲鳴を上げたが気にしない方向で行く。まあ普通、生首ならぬ生腕が突然出てきたら驚くわな。

 

右手で持った瓶の蓋を口を使って開け、数滴を切断された方とそうでない方の左腕の断面へ垂らし、残った分を一気に飲み干す。

 

「そっとだぞジャンヌ。そーっとだ。方向間違えるなよ...?」

「分かっていますから黙っててください。集中してるんですから」

「えぇ...」

 

胃袋を中心に、フェニックスの涙の効果が身体中へと巡るのを確認してから、俺はジャンヌにそう言う。まあ何故か怒られたが。

 

腕の接着というのは想像以上に難しい。まずもって接着方法自体が難しいのだが、それより厄介なのは方向だ。腕の方向を1ミリでも違って接着してしまうと、それは殆ど取り返しのつかない自体になってしまう。掌を外側に向けて着けるなど尚更だ。

意外と、と言ってしまうと失礼かもしれないが、意外と手先が器用で几帳面なジャンヌなら多分大丈夫だろう。というか大丈夫じゃないと困る。

 

「えっと...今更だけどさ。あの人達誰?」

「それは私も気になってました...うぷっ」

 

今回が初対面であるイリナと、漸く酔いが醒めたらしい白髪女性が、青髪少女にそう問いかける。てか俺、あの青髪少女の名前知らねぇや。確かエミヤが飯を恵んでやった的な事を言っていた気がするけど...。

というか白髪女性の方は水でも飲んできて下さい。まだ夕方だぞ?なんでもう酔い潰れた上に二日酔い気味なんだよ。

 

「ああ、イリナとロスヴァイセはあった事が無かったな。九重も聞いておくと良い。奴こそは──」

 

ゴクリ...という音が聞こえそうな程に緊張感が走る。その話題の対象は未だ腕の接着が終了せずに焦ってるんですけどね。あ、ちょっとくっついてきた気がしないでも無い...。すげぇなフェニックスの涙。

 

「ご飯をくれる親切な人の主人(マスター)だッッ!!」

「なっ、なんだってー!?」

「いや合ってるけど違うから」

 

白髪もといロスヴァイセと狐幼女もとい九重が疑問符を浮かべる中、イリナだけが驚愕の表情を浮かべる。

 

...青髪の中で、エミヤという存在は飯を恵んでくれる存在として固定されているのだろうか。エミヤからは、空腹だけでなくコカビエルとかいう堕天使幹部からも救った、と聞いていたんだがな。

 

...まだ完全にくっつかないなぁ。まあ少しずつくっついて来ている感覚は確かにある。時間の問題だろう。...ヤバイ、なんか切断面が痒くなってきた。回復している証ではあるのだろうが...ああ!超掻き毟りたい!

 

「何を悶えているのですかマスター!手元がズレます、動かないでください!」

「お...おう...いやでもめっさ痒くて...」

「でもじゃありません!腕を逆向きにくっつけますよ!?」

「何その新手の脅し、すっげぇ怖いんですけど!?」

「あの...、凌太さん。私も手伝いましょうか?ご存知でしょうが、回復なら私、結構得意なんです」

「ん?ああ、いやいい。気持ちは有難いが、アーシアの力は俺が弾いちゃうからな」

「そうですか...」

 

しおらしい表情を浮かべ、1歩前に出てきたアーシアがその1歩を下げる。やはりこの子は優しいのだろう。

アーシアが下がったのを見て、次はアザゼルが俺に問いかけてきた。

 

「なんだお前、魔術や呪いの類が一切効かないとは聞いていたが、支援系の魔術も効かないのか?難儀な奴だな」

「まあな。けど、これは俺が戦える力を手に入れた代償だし、別に後悔はしてねぇよ?確かに面倒な体質だけどな」

「ほう?つまりお前は回復や身体能力向上系の支援が無くとも神を殺せる程の戦闘力を持っているという事だな?俄然やる気が出てきたぞ、坂元凌太」

「...いや、自分で魔力放出とかして身体能力は上げるぞ?素の状態で神々なんかと戦ってられるか。瞬殺されるわ」

「つまり強いという事だな?」

「何なの、お前のそのポジティブ思考っぽい考え方。怖いわ」

 

などとヴァーリを若干引いた目で見ていると、左腕の感覚が少しずつ戻ってきた。漸く神経も繋がり始めたか。未だ相当痒いが、我慢だ。ここで再び悶えたらジャンヌが何をしでかすか分からない。聖人怖い。

 

「よっし。まあ大体はくっついたな。ありがとうジャンヌ、もう離していいぞ」

「えっ?もうですか?」

「え?...うん、もういいよ?」

「...そうですか...」

 

なんで少し名残惜しそうなんだよ意味分かんない。聖人怖い。

 

「ふむ...。エミヤさんもそうだったけど、凌太君、キミも良い体付きをしているね」

「キモイ発言は控えろよ木場。俺にそっちの趣味はない、そういうのはイッセーとかヴァーリとかに言え」

 

確かに俺は、ケルト式鍛錬やらスパルタ式肉体改造などの影響で大分引き締まった体になっている。「細マッチョ」などという矛盾した体型をしているのだ。

でもさ、男にそれを褒められるってさ......なんか...ねぇ?

 

「いや、なんで俺達なんだよ!ヴァーリは知らねぇけど俺は女の子が好きだ!もっと言うならおっぱいが大好きだ!」

『やめろ相棒!そういう発言が「おっぱいドラゴン」や「乳龍帝」の認知に繋がるんだぞッ!』

「俺も特に同性愛の趣味は持ち合わせていないし、普通に女性が好きだ。尻に女性の魅力を感じる」

『何を言っているんだヴァーリ、やめてくれ!アザゼル達から密かに「ケツ龍皇」と言われたく無いんだ私は!そういう役はドライグにでもやらせておけ!』

『俺だって望んでこの呼び名で呼ばれてる訳じゃないんだぞ白いの!俺だって二天龍だ、不名誉にも程があるッ!なにが「おっぱいドラゴン」だ、なにが「乳龍帝」だ!これも全部、相棒がこんな性癖(性格)だから......俺だって...俺だって...天下の二天龍なんだぞ!?うぉぉおおおおおん!!!』

「な、泣くなよドライグ!確かに俺が悪いけどさ!」

 

カオス過ぎる。なんだこれ。

 

「アハハ...。まさか僕の何気ない一言でここまでの自体に発展するなんてね」

「そうだぞ木場。元はと言えばお前の良い体付き発言が原因なんだ。あとでドライグとアルビオンに謝っておきなさい」

「そうするよ。でも、良い体付きっていうのは本音だよ?」

「誰か助けて!木場(イケメン)に襲われるッ!」

「何ですって!?マスター×イケメン...それはアリなのでは...ハッ!そうじゃないそうじゃない...。マスターの身は、守護聖人の名の元に私が守りますとも!」

「ダメだ、この聖女腐ってやがる...ッ!」

「まだ引き戻せるラインギリギリに立ってます!大丈夫、まだ大丈夫!それにまだ普通に男女の関係の方が好きです私」

「それも聖女としての発言としてどうかと思うぞ...。三蔵、同じ聖人としてちょっとコイツに説教を──」

「そう言えば、ダ・ヴィンチちゃんが『凌太君 × クー・フーリン』とか『凌太君 × アストルフォきゅん』とか、あとは『子ギル × 凌太君』とかいうタイトルの本を書いてたなぁ...」

「よぅし説教の時間だッ!お前ら全員正座しろゴラァアアア!!!」

 

俺はこの時学んだ。

百合とかホモとか、そういう他人の趣味を否定する事はほぼほぼ無いが、自分がそれに巻き込まれたらその限りではない、という事を。

 

とりあえず、カルデアに帰ったらダ・ヴィンチはお仕置き確定ですね。

 

 

 

* * * *

 

 

そんなこんなで2時間程の時間が過ぎた。

時刻は午後6時過ぎ。空は薄紫色に染まり、カラスの鳴き声が山の方へと遠ざかる。いつも思うんだが、カラスって夕方になると山に帰るけど、夜はまたゴミを漁りに街まで戻ってくるよね。鳥目とはなんだったのか。

 

「ふむ...よし、もう大丈夫だな」

 

そんなカラスの事を考えながら、軽くジャブなどをしてみて、腕に違和感が無いことを確認する。

もうどこから見ても、数刻前まで腕がちょん切れていたなどと言われても大体の者は信じないであろう程に綺麗に繋がった腕を擦る。

たったの半日程度ではあったが、片腕が無い事への不安が半端じゃなかった。ちゃんと繋がって良かったと、心の底からそう思う。

 

イッセー達学生組は修学旅行中だという事で、今は他の学生達と合流させている。折角の修学旅行なのだ。楽しまなければ損だろう。俺も行きたかった、高校の修学旅行。

 

アザゼル教諭の話だと、そろそろ自由時間も終了し、全員宿泊先のホテルに帰っている頃らしい。

なので、イッセー達にはその時間にホテルから抜け出して貰い、曹操らの討伐に参加してもらう。それまでは俺も休息しておけと言われたのだ。

 

で、その約束の時間になり、イッセー達と再合流を果たした。

 

「では早速、曹操ら『英雄派』の討伐に向かおうと思います」

「はい、凌太せんせー!」

「何かねイッセーくん」

「英雄派の連中をどうやって見つけるんですかー?」

「うむ、良い質問だ。三蔵くん」

「ん?なーに?」

「──適当にそこら辺散歩してきていいよ。俺達後ろから付いていくから」

「え?ホント!?やったー!!あたし、まだ気になる場所あったのよね!」

 

とまあ、漫才紛いの会話を繰り広げ、三蔵を先行させるという作戦に出る俺達。アザゼルとかヴァーリには冷たい目というか引いている目というか、なんか無性にイラつく視線を向けられ、残りのイッセー達は「何やらせてんだコイツ?」という視線を向けられているが、まあその理由は分からないでもない。

だが亜空間に居るという相手の気配が感じ取れない以上、こうするのが一番手っ取り早いのだ。

 

『EX』とは『規格外』という意味である。即ち、スキルランクがEXだからといって、必ずしもAより上とは限らない。規格外とはその言葉通り、規格された枠の外側に在るということ。良くも悪くも、色々とぶっちぎっているという事なのだ。

 

そして再三になるが、三蔵の幸運ランクはEX。確かに三蔵の運の良さは神がかり的なモノを感じる。良くも悪くも、である。

 

要するに何が言いたいのかというと──

 

「キャアア!!リョータ、助けてリョータァ!なんか変なのある!変な空間の狭間っぽいのがある!いやぁ!?なに!?なんか吸い込まれるんですけど!怖い!たーすーけーてー!!」

 

──こういうことである。

 

「よぅし、でかした三蔵!さすが、水を求めたら何故かファフニール擬きを召喚したとかいう最早伝説級の逸話を持つだけはある!あのファフニール擬き、割と強かったんだからなこの野郎!」

「お前ら一体どんな経験してきてんだよ...」

「ふむ。要約するとあの玄奘も強いという事だな、理解した。後ほど手合わせ願おう」

「何言ってんだコイツ」

 

アザゼルの言葉に皆が頷くなか、ヴァーリだけは何故か目を輝かせていた。ホント何なのお前。

 

「とりあえずあの中に入るぞ。こちとら時間が余り無いんだ、サクッと決めて帰るぞ」

 

そう言い、既に体の半分が消えている三蔵の元へ駆け、三蔵と共にギルガメッシュの「王の財宝」の様な空間の歪みへとダイブする。

歪みを抜けたその先は、先程までとなんら変わらない景色が広がっていた。唯一違うのは、今まで感じていた気配が一斉に消えた事だろうか。どうやら本当に現世から隔絶されているらしい。固有結界的な何かか?

 

俺と三蔵に続いて、ジャンヌ、アザゼル、ヴァーリ、イッセー、etcと、次々にこの空間に入ってくる。

 

「まさか『絶霧(デイメンション・ロスト)』なしでこの別空間に干渉するとはな...。その女、何者だ?人間...じゃ無いよな?」

 

全員がこの空間へと入った辺りで、アザゼルが思案顔で三蔵を見ながらそう聞いてくる。

 

「だからさっきから言ってるだろ。玄奘三蔵、言わずと知れた三蔵法師だよ」

「...はぁ。まぁた英雄様の子孫かよ。まるでバーゲンセールだなぁオイ」

「いや子孫とかじゃなくて本物の。リアル初代三蔵法師」

「は?...いやいやいや、そんな訳あるか。俺は会ったことねぇけど、玄奘三蔵は人間だったって話だぞ?生きてる訳ねぇだろ常識的に考えて」

「そこは俺も気になっていた。そちらの金髪の女性はジャンヌ・ダルクだという話だが...まさかこちらも本物か?」

「モチのロン。なんだお前ら、信じてなかったのか」

 

というかイッセー達が話についてこれてないな。アザゼルとヴァーリへと俺の返答を聞いて疑問符を浮かべている。黒歌だけはそうでも無いという顔をしているが。ふむ...。この世界に聖杯というものは確かに存在するらしいが、『聖杯戦争』、或いは『英霊』という概念は存在しないのだろうか?

 

「まあ、そこら辺の説明は後日暇があればするとして。とりあえずアイツらの相手でもしとくか」

 

言ってから手短に聖句を唱え、コソコソと建物の物陰に隠れていた曹操達へと軽く先制攻撃を加える。

ジャンヌとアザゼル、そしてヴァーリ一味は気付いていたらしく、俺が言う前に既に臨戦態勢を取っては居たのだが、イッセー達は俺の突然の攻撃に驚いた表情を浮かべていた。うーむ、イッセー達も気配の察知くらいはできるようになった方がいいと思うんだがなぁ。

 

「──これまた急に攻めてきたな。どうやってここに入ったんだ?それに...何故ヴァーリ達がここにいる?」

 

崩壊し、砂埃の漂う廃墟から、1人の男の声が聞こえる。声からしてまだ若い、俺とそこまで変わらない年齢だろうか。まあ年齢(そんなもの)はそいつの強さを計る場合の宛にはならないけどな。

 

男の発言から間もなく立ち込めていた砂埃は霧散し、数人の姿が目視で確認できるようになった。

...なんか口の周りにきな粉や餡蜜っぽいのが付いてる奴がいるんだが。食事中だったの?

 

「ルフェイに聞かなかったのか?お前が俺達にちょっかいを出すのでな。直々に潰しに来たんだよ、曹操」

 

ヴァーリが白い羽──『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』を展開させながら曹操に殺気にも似た闘気をぶつける。

 

俺はアザゼルから、事前に曹操ら『英雄派』について説明を受けている。さすがに戦力差も知らずに奇襲をかけることはしないし、そこまで愚かではない。

 

廃屋の上に立つ先頭の学生服を着込んだ青年が曹操。その隣にレオナルド、ヘラクレス、ジャンヌ、ゲオルグ、そしてジークフリート。写真付きのアザゼルの説明は大変分かりやすく、全員の神器の性能まで頭に入っている状態だ。もちろんまだ謎を含む神器や敵の実力もある。しかし、それを加味しても、俺とイッセー、ヴァーリ、アザゼル、保険で木場とジャンヌ、三蔵が居れば圧倒できるだろう。初対面の奴の実力は把握し切れていないが、ヴァーリ一味は言わずもがなで、ロスヴァイセは元オーディンの護衛戦乙女、イリナは天使のA(エース)だというので、それなりに強いと予測する。

 

つまり、単なる頭数だけでなく、戦力的にも負ける要素は見つからないという事だ。

 

ただ気になるのが、資料に無かった3,4人と遥か後方に見える金色の狐である。アザゼルに問いかけの意味で視線を送るが、あちらも分からないといった表情を向けてきた。まあ人間の方から感じられる気配は微々たるものだ。神器にさえ気を付ければどうという事はないだろう。

問題は狐の方だが...あれ九尾じゃね?え、伝説級の妖狐じゃん?

 

「母上!」

「母上?」

 

イッセーの影に隠れていた九重が、九尾を目にした途端に叫び出した。てか母上て。お前九尾の娘だったんかい。それにしては気配が弱過ぎるような...。子供ならこんなものなのか?将来強くなるのかね?まあ、今はどっちでもいいか。

 

「二天龍、グレモリー眷属、堕天使総督、ミカエルのA、それから...そっちは人間かな?とにかく、またとんでもない戦力を連れてきたものだね。これもドラゴンの特性ってやつかい?」

 

槍を取り出し、肩でトントンとやりながら俺達を値踏みしてくる曹操。というか今、俺やジャンヌ、三蔵がイッセー達二天龍の元に集まった人間として一括りされたんだが。人間という判断は間違ってないが、完全に舐められた感がある。ちょい癪に障るな。

 

「──ガッ!?」

 

という訳で、気配遮断からの某聖人式徒手空拳をお見舞いした。攻撃の対象であった見知らぬ青年は視界の及ばぬ遠方へと吹き飛んでいった。資料に無かった奴なので先に潰しておく。厄介な神器とか持ってたら面倒だしな。

 

気配遮断というのは、見える見えないの問題ではない。よって、速度的にはそこまで無かった俺の移動も、周りから見たら瞬間移動のように感じられるだろう。

証拠として、英雄派の連中だけでなく、味方であるイッセー達も唖然としているのが見て取れた。ヴァーリだけはなんか楽しそうに口角を上げていたが、もう既に慣れたものである。

 

「──こっちは時間が限られてるんでな。出来るだけ遊びは無しで行くつもりだ。生きたきゃ死ぬ気で耐えろよ、『英雄』」

 

 

 

 

 

 




ティアマトの権能についてのたくさんの案や助言、本当にありがとうございました。何個かは運対で消されてしまいましたが...大変、権能を持たせる場合の参考になりました。
活動報告の方にもティアマトの権能について載せていますので、今後権能などについてまた何かあれば、そちらにお願いします。

...とりあえず、どの案を採用してもチートじみるのは避けられないかなぁ...。

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