問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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じいじマジ空気

 

 

 

 

「これは全ての以下略!『いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)』!!」

 

最早詠唱的な台詞を口にする余裕も無い。割とギリギリに展開されたマシュの宝具によって、白亜の城と紅の閃光が正面からぶつかり合う。

 

暫くの間、何とかティアマトの攻撃を耐え続けたマシュは、魔術の深奥などという何やら凄いっぽい支援魔術を行使し始めたマーリンの助力もあり、無事に俺達を守り切った。マシュ、守りだけならお前がナンバー1だ...。というかマーリンの魔術が地味に凄い。実体が有る幻術とか、俺、この目で見るのはこれでたったの2回目だぜ。

そしてこの男マーリン、なんと海を消したのだ。いや、正確には『消した』というより『花で埋め尽くした結果消えた』、だが。

見渡す限りの庭園。色とりどりの花々が咲き乱れ、俺達の背後には巨大な塔も出現した。幻想的、とはこの事だと思う。実際幻想(幻術)だしな。

 

「さあ。あの海、ケイオスタイドは封じた。これでキミ達があの泥に触れても大丈夫だよ」

「え、あの泥って触れたらマズかったのか?」

「えっ?知らないのかい?じゃあどうやってティアマト神と戦って...?」

「遠距離ブッパ」

「OK理解した」

 

マーリンによって明かされた新事実。あのラフム製造媒体としか認識していなかった泥──ケイオスタイドは、触れたらマズかったらしい。まあ確実に触れたであろうエルキドゥが無事なので、俺も大丈夫な気はする。対魔力でどうにかなるんじゃね?

 

「ッ!ラフム、来ます!」

 

マシュの弾けるような警告で、俺も再び魔力制御を開始する。まだラフムが此処に到達するまでに幾分かの余裕はあるので、そこまで焦って準備する必要も無いだろう。などと思っていると、俺達の最後方にいるマーリンの更に後方から、やたらデカイ魔力を感知した。サーヴァントクラスか?

 

「奔れ!『羅生門大怨起』ィ!!」

 

怒号と共に、燃え盛る巨大な腕が俺達の頭上を抜け、大量のラフムを巻き込みながらティアマトへと飛来する。しかし、大層な魔力の篭ったそれ()もラフムの数には勝てず、ティアマトに届く前に失墜した。てか今のって...。

 

「──許さん...許さんぞ!どこのどいつかは知らぬが、吾の山を消し飛ばすなど断じて許さん!酒呑にも見せてなかったんだぞ!?どうしてくれる?焼いてくれるわァアアア!!」

 

吾の...吾の居城をよくもォ!!と、若干涙目で訴えながら攻撃を続けるちっこい鬼──ギルガメッシュの元から逃げ出した(牛若丸が追い出したとも言う)、茨木童子の参上である。...うん、今更感半端ないな。

金時が若干微妙な顔をしているが、ここは抑えて貰おう。ややこしくなるからね。

 

茨木童子は、俺達とは別の勢力としてこの戦場を駆け巡る。敵は同じだが手を組むつもりは無いと、泣きながら暴れる茨木童子の背中が言っていた。...そんなに酒呑童子に見せたい城が出来ていたのだろうか?少し可哀想に思わないでもない。

 

「チッ。アイツが暴れてるってのに、俺が黙ってる訳にはいかないジャンよ!大将、俺っちもちょっくらベアー号を鳴らして来るぜ!」

「おー!やっちゃえ金時、骨は拾うよ!」

「フォウ...(何言ってんだこのマスター...)」

 

うーむ...。そろそろ低位の動物会話スキルも取得したのかな?(迷走)

てかフォウ君はいつの間にか居なくなってたけど、またいつの間にか戻ってきたな。なんなんだこの謎マスコットは。そして藤丸は金時に頑張って欲しいのか死んで欲しいのか...。ツッコミどころ多すぎだろ。パワーだけじゃなくボケのインフレも激しい件について。

 

「さて...、殺るか」

「おいマスター。毎度思うんだがお前、たまに変な変換してないか?」

「比喩は無い」

「...OK。そうだな、マスターはそういう奴だ。頼むから俺達をマスターの攻撃に巻き込むなよ?」

「是非も無し」

「どこか不安になる返答ですね...」

 

文句を口にしながらも、既に俺という存在に慣れてしまったモードレッドと静謐ちゃん。モードレッドに至っては、今の今まで戦闘態勢を取っていたのだが、俺の発言を聞いて即座に防御態勢を整えた。順応してやがるぜ...。

 

今、俺の手元には『天屠る光芒の槍(ダイシーダ・リヒト)』は無い。先程投擲したままなので、今頃ティアマトの足元辺り、最悪海底にでも転がっているだろう。エルキドゥが回収してきてくれれば良かったのだが、ないものねだりは良くない。今あるものだけでどうにかするしか無いのだ。

 

手持ちの武器は聖剣擬きとアッサルの槍。聖剣の方は既に魔力が切れてしまっているので、必然的に俺の装備はアッサルの槍のみとなる。しかし、槍を使っての近距離戦は今の俺には分が悪いし、この遠・中距離からの投擲もラフムに邪魔されて無理だろう。やはり魔術や権能中心で頑張るしか無いか。

 

「バフは必要かな?」

「要らない。というか使えない。俺には魔術全般効かないから」

「...対魔力の域を超えてるんじゃないのかい、それ?」

「だから(カンピオーネ)の対魔力ランクはEX(規格外)なんだよ」

 

言いつつ、聖杯からの膨大な魔力を用いて魔術式を構成していく。既に対ティアマトで使った魔力量は、封印を施される前の俺の全魔力の10倍以上になるのだが、未だ魔力の底が見えない。聖杯って凄いんだなぁ(小並感)

 

とりあえずはいつも通り、敵の行動を封じる為に千の蛇(シュランゲ)を発動させる為に雷槍を投擲する。ラフム達に妨害されないよう極めて乱雑的に放ち、意味の無い攻撃だと奴らに思わせながらそれぞれの配置に成功させ、念のため2重3重に張っていく。魔法陣さえ構成してしまえばこっちのものだ。後は俺が魔法陣に魔力を通すだけで発動する。

 

 

──ここからはずっと俺達のターン。この千の蛇(シュランゲ)という拘束魔術は、あの爺さんが唯一解けなかった技なのだ。時間があれば解かれていたかもしれないが、それでもガンドと同等かそれ以上の効果はある。ティアマト(原初の神)とはいえ、全く効かない訳が無い。

 

聖杯というバックアップを得た今の俺に、魔力暴走以外の敗因は無いに等しい。マーリンがいる事で俺以外の皆は回復しながら戦えるし、魔力制御さえミスらなければ負けるビジョンなど見えない。そう、魔力制御さえ、ミスらなければ。

...逆に言えば、魔力制御をミスった時点で負けなのだが、そこはほら、気合でなんとかしよう。

 

 

* * * *

 

 

「あ、ありのまま今起こった事を話すぜ...。まず凌太君の発動した魔術がティアマトと大量のラフムを拘束し、動きを封じたんだ。それだけでも『なんなのこの人...人?』と思ったが、それだけじゃ終わらなかったんだ。極光というに相応しい光体が上空に現れたかと思ったら、ギルの『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』もかくや、というレベルのナニカが振り降ろされ、そのナニカがマーリンの出した庭園だけじゃなく、その下の海すら半分消し飛んだんだ...。それで生きてるティアマトには流石に肝が冷えたけど、私達が戦慄していたらなんかゴーン...ゴーン...という鐘の音が聞こえてきて......。最後はまた例の極光がティアマトに命中して、ティアマトが完全消滅したんだ。塵も残らなかった...。頭がどうにかなりそうだったぜ...。催眠術とか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ...まあ凌太君といたら大体こんな感じだけど」

『そ、そうかい...。報告ありがとう...』

 

 

さっきの発言がフラグかと思った?普通に勝ちましたが何か。

 

 

聖杯からの無限とも思える魔力供給に頼りきり、尚且つ最終的に出張ってきたじいじのお陰でなんとかなったのだが、まあ勝ちは勝ちである。トドメを刺したのは俺だったし。

しかし、ティアマトに『あの御方』とやらの正体を聞けずじまいで終わってしまった。結局誰なんだよあの御方。爺さんか?それとも、俺に元から備わってるこの『力』とやらに関係ある誰かか?どっちにしても話だけは聞いときたかったなぁ。まあ後の祭りか。そのうち何処かで知ることも出来るだろう。たぶん、きっと。

 

「あぁ、全身くまなく()てぇ...」

「そりゃあ、あれだけ魔力を使えばね。聖杯に貰っていた魔力とはいえ、行使していたのは凌太君なんだ。なんの代償も無しにアレだけの力が使える訳が無いだろう?むしろ、それだけで済んだ事を喜ぶべきだと私は思うね」

「そんなもんか...。もう緊急時以外は聖杯なんて使わねぇ。心に決めた」

「それがいい。適度なバフならいざしらず、あれほどのドーピングを使い続ければ、いつか必ず身体が壊れる。それはキミでも変わりはないだろう」

 

マーリンの言葉を聞いて素直に頷く俺は今、身体中の力という力が抜け、しかも筋肉や神経がボロボロになるという重症を負っていた。これが“代償”というやつで間違いないだろう。本当に力が入らないしアホみたいに身体中が痛い。

ティアマトの完全消滅を確認したので聖杯とのパスを切った。そうしたらその瞬間に魔力枯渇で気絶し、痛みで跳ね起きるという体験をした俺は現在、普通に倒れている。立つ力もない、いやマジで。ドーピング、ダメ、絶対。というスローガンが頭をよぎった。

 

「おっ...?」

 

ティアマトを倒した事でこの特異点の異常が完全に修正され始めたのだろう。徐々に強制退去が始まりつつある。最後にギルガメッシュやシドゥリ達と、俺主導で製造したワインで1杯やりたかったんだが、それも無理か。...いや、シドゥリは俺に酒を飲ませてくれないかな。アイツにはなんか、正面きっては逆らいがたいんだよなぁ。

 

俺達カルデア組だけでなく、野良サーヴァントであるアナとコアトルの強制退去も始まった。ジャガー?奴は北壁に道満と一緒に置いてきましたがなにか。戦力的に道満1人じゃキツそうだったからな。ジャンケンで負けたジャガーが悪い。

適当な別れの言葉を交わし、アナとコアトルが消える。まあ藤丸の事だ。すぐにカルデアで召喚するだろう。再開の日は近いのかもしれない。

俺と仮契約を結んでいる牛若丸達も、俺が居なくなり次第座へと還るだろう。

 

というか待って欲しい。今、動けない俺の代わりにエルキドゥが槍を海底へ探しに行ってくれているのだ。戻ってくる前に退去してしまったら俺は自身の主武器を失うハメになる。それだけは避けたい。あっ、藤丸の強制退去が終了した。俺もそろそろ限界じゃね...?足元とか既に消えかかってるし。

 

...急げエルキドゥ、速さが全てだ...!

 

「おや、ギリギリになってしまったかな?」

「待ってたエルキドゥ!そういうのいいから槍は!?はよ、槍はよ!消えちゃうから!」

「えっ、あ、ああ...。はい、これ。しっかり海の底まで落ちてたよ」

「ありがとうエルキドゥ。この恩はたぶん忘れないかもしれない!」

 

エルキドゥから手渡された槍を急いで受け取り、礼の様なことを言う。すると、とうとう俺にも限界がきた。エルキドゥの苦笑、そして膝から崩れ落ちた茨木童子の悲愴感漂う表情を最後に、俺はその時代から弾かれるのだった。

 

...帰ったら、カルデアの茨木童子にパフェでも食わせてやろうかな...。

 

 

* * * *

 

 

「おかえり、凌太君。今回も大活躍だったね。うん、大活躍だったね」

「素直に言ったらどうだ」

「キチガイだったね!」

「オカン。ロマンの食事、今日から3日間粥だけな」

「酷いっ!」

 

カルデアへと帰還したのは俺が最後だったらしく、管制室には今回の特異点へ赴いた俺以外の全員が揃っていた。

 

「それで、凌太君。聖杯は?」

「ん?ああ、ほら」

 

ダ・ヴィンチちゃんの催促に応え、ギフトカードにしまっておいた聖杯をダ・ヴィンチちゃんの足元へと放り出す。

...言っておくが、俺はまだ立てないからね?今も管制室の床に仰向けで横たわっている状態だ。情けないことこの上ないが、立てないのだからしょうがない。

 

「まったく、聖杯の扱いが雑だなぁ。これ、本来は英雄達が必死に奪い合うレベルの物なんだけど......っと。よし、場所は特定できた。ロマン」

「ああ。立香ちゃん、凌太君。帰ってきて早々に悪いんだけど、次のオーダーだ。ソロモンの居場所が判明した。これより、最終オーダーを開始する。立香ちゃん達にはこれから1日...いや、2日の休暇を与えるから、それぞれ最終決戦の準備を済ませておいて欲しい」

「お前、俺のこの姿見てそれ言うの?」

「はっはっは!凌太君なら数時間程度でひょっこり回復するでしょ?」

「するかバカ。腕一本無いんだぞ」

 

まったく、仮にもドクター(医者)が言うセリフかよ。医学に携わる者というのは患者を絶対に助ける意思を持ってだな──

 

「患者は何処ですか!緊急治療を開始します!」

「えっ」

「貴方が患者ですね?これは酷い、外見だけでもボロボロではないですか!でも大丈夫、安心しなさい。私が貴方を救います。そう、例え貴方を殺すことになってでも!」

「...えっ」

「これは本格治療が必要ですね。今すぐに手術を開始します。ミス・メディアリリィ、手術室の用意を!」

「了解です!大丈夫ですよ凌太さん、貴方が苦しんでいるというのなら、まずはその痛みをぶっ壊します!」

「凌太君、達者でね...」

 

藤丸達に綺麗な敬礼をされながら、動く事の出来ない俺はナイチンゲールの肩に担がれて管制室から運び出される。

 

......婦長達には勝てなかったよ。

 

 

* * * *

 

 

あれから数時間という時が経った。

現在地はカルデア管制室。ソロモンの居城へ乗り込む為のレイシフトや、藤丸の存在証明の準備などを忙しなく行っているカルデア役員を横目に、俺はロマンに話をしに来ていた。

 

「ほら見ろ。やっぱり数時間で治ってるじゃないか」

「...婦長って、普通の治療も出来たんだなぁ。めっちゃ丁寧だった」

 

ロマンのジト目を軽く流しながら、そんな事を呟く。

婦長とメディアリリィによる傷付いた内臓の手術と、パラケルスス自作の怪しげな薬を服用、そして持ち前の回復力である程度までには回復した。軽い戦闘程度ならしても良い、と婦長からの許しも出たので大丈夫なのだろう。...婦長やメディアリリィが保証していたとは言え、あのパラケルススが作った薬っていうのは不安だよなぁ...。

っと、そんな事を言いに来たんじゃない。

 

「ロマン、確か休暇は2日って話だったな?」

「というよりも、こちらからあちらへレイシフト出来るのが2日後だけなんだよ。しかも滞在出来るのは短期間...そうだね、数時間程度じゃないかな。それを超えると戻ってこれなくなる」

「ほう...。まあとにかく、2日は時間があるんだな?」

「そうだね。正確には、後1日と16時間程度だ。けど、それがどうかしたかい?」

「いや、ちょっと腕を治そうかなって」

 

俺の左腕は未だ千切れたままである。俺が断面を焼いてしまったせいで、通常の手術では接合不可能だったのだ。まああの時止血してなければその時点で死んでいたので、俺が悪い訳ではないのだが...。

 

「治るのかい?君には魔術は効かないんだろう?だったらそれを治す手段なんてどこにも...」

「まあ、俺が飛ばされてたのは異世界だからな。こっちの世界の常識が通用しない事もあるさ」

「それもそう...って、え?ちょっと待ってくれ。まさか、まさかとは思うけど君、このタイミングでまた異世界に行くとか言い出さないよね?」

「大丈夫大丈夫、2日で戻るって」

「信用出来ないんだけど!?僕が留守電を入れてから1週間以上放置してた人の話なんてね!」

「でも、俺の腕はあった方がいいだろ?戦力的に」

「それはそうだけど...いや、キミが最終決戦に間に合わない事の方が問題だ。許可は出せない」

 

まあ許可とか無くても行きますけど、と思ったが、案外本気で怒られそうだったので黙っておいた。言わないだけで勝手に行くけど。

と、俺が適当に場を濁してさっさとこの場を去ろうと考えていたところ。突然、管制室の扉が開き、聞き覚えのある声が響いた。

 

「ふっふーん。心配いらないわロマン!今回、リョータにはアタシが付いて行くから!」

「余計心配なんですけど!?」

「なっ、なんでよ!?」

 

突然現れた、俺に一言も無く俺に同伴すると言い出した人物──玄奘三蔵はロマンのツッコミに不服そうな声を上げる。まあ確かに、三蔵の幸運値はEX。ロマンが不安に思う気持ちも十分分かる。

三蔵が若干涙目になっていると、またしても管制室の扉が開き、またしても聞き覚えのある声が響く。

 

「安心してください、ドクター。私も付いて行きますから」

「う、うーん...。キミがそう言うなら...いやでもなぁ...」

「あぁ〜!!アタシの時と反応が違うじゃない!なんなの!?本当になんなのよぅ!?」

 

次に現れた、またしても俺に一言も無く俺に同伴するという人物──ジャンヌ・ダルクは、聖女らしい朗らかな笑みを浮かべる。...なんだこれ。

 

「ううーん.........。凌太君、本当にすぐに戻ってこれる?」

「おう」

「神に誓って?」

「いや、俺はその神を殺す側だからそれはなんとも...」

「あっ、そっか...。うん、絶対に時間内に戻ってこれると約束してくれるなら、僕から許可を出そう」

 

...よく考えたら、俺はロマンに「ちょっと居なくなるけど治療に行ってるだけだから探さなくていいよ」と言いに来ただけなんだが。一体いつから許可を貰わなくてはならなくなったのか。まあくれるってんなら貰うけど。

 

「おう、任せとけ。上手く事が進めば必ず戻ってこれるから。じゃ、そゆことで」

「あっ、ちょっと待ってよリョータ!アタシも付いて行くからね!ねぇ聞いてる!?」

「ではドクター。失礼します」

 

俺はスタスタと管制室の外へ歩き出し、三蔵がそれに焦るように追いかけ、ジャンヌが一礼してから管制室の扉を閉める。

後方で「ちょ!上手く事が進めばって何!?ねぇ凌太君!?」という声が聞こえたが、俺は知らないフリをしてマイルームへと駆けた。時間が無いからね、仕方ないね。

 

 

* * * *

 

 

「それで、お前ら本当に付いてくんの?別に戦闘とかする気無いし、一応エミヤだけ連れていこうとは思ってたけど」

 

ロマンの追跡が無い事を確認し、歩きでマイルームへと向かう途中。

俺は、後ろをトコトコと付いてくる三蔵とジャンヌにそう聞く。

 

「付いていきますよ。凌太が向かう先で戦闘が起きない訳がありませんし」

「信用が無いって怒ればいい?」

「ある意味で信用の表れです」

 

凄い真剣な顔で言われたんだが。流石に落ち込むぞ。

 

「アタシは暇だったから!」

「...まあ、三蔵らしいと言えばらしい理由」

 

ハツラツと言う三蔵は、本当に砂漠を超えた聖人なのだろうか。時々疑わしくなるよな。まあそれと同じくらいに聖人らしいところも見せるんだけど。

 

「それに、彼なら元から付いて行けませんでしたよ、きっと」

「は?なんで?」

「つい1時間程前、このカルデアに数騎のサーヴァントが召喚されました」

「あっ」

「お察しの通りかと。...彼は...エミヤは、自室に引きこもってしまいました。心は硝子ですからね、仕方ありません」

 

エミヤの災難はまだまだ続くらしい。

頑張れエミヤ、負けるなエミヤ。いつかきっと、幸運値の壁を超えた幸せがキミを待っている──

 

...そろそろ本気でオカンの精神が心配になってきた。魔術王戦が終わって箱庭に帰ったら、キチンと療養してもらった方が良いかもしれない。

 

「そう言えば、まだ聞いていなかったのですが」

「ん?」

 

エミヤの事を割と真剣に心配していると、隣からジャンヌが疑問を投げかけてきた。

 

「これから向かうというのは何処なのですか?」

「あっ、それはアタシも気になってた!」

 

ジャンヌの発言に呼応するように、三蔵も俺を見てくる。行き先も知らないのに付いて行くとか言ってたのかコイツら、と思わないでも無かったが、それはそっと胸にしまった。言っても無駄だろうし。

 

「まあ、言っても分からないだろうけど...」

 

三蔵やジャンヌを召喚してから、俺はこの世界以外には出向いていない。なので、この2人と道満、そしてニトクリスは箱庭すら見た事が無いのだ。あ、箱庭はモードレッドも見た事ないな。

兎に角、この2人に地名を言ったところでピンとはこないだろうが...一応言っておくか。

 

「日本の駒王町。天使とか堕天使とか悪魔とか妖怪とかetcが住まう、ありふれた街だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 


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