『塵も積もれば山となる』
小さなモノでも、積もり重なればそれは大きなモノになる。そのような意味合いである上記の諺を聞いた事のある人は多いだろう。
斯く言う俺も、小中学生時代には教員達から良く言い聞かされたものだ。学業が若干どころではない程に悪かった俺は、他と比べて特に言われた方だろう。放課後、わざわざ職員室に呼び出されてまで言われた。もうそれはうんざりする程言われ続けたものだ。
確かに、言葉の意味は理解出来る。塵という極小のモノであっても、何億何兆と積み重なっていけば、そのうち山レベルに到達する事もあるだろう。
だがしかし。今一度、皆も考え直して欲しい。
──塵だぞ?
積み重なるとは言っても、それは所詮、どこまで行っても塵にすぎないのだ。吹けば飛ぶ。だって塵だもの。集めた落ち葉が風で飛ぶよりも簡単に、山になる予定だった塵は儚く飛び散り、そして霧散するだろう。捻くれた、良く分からない事を宣っているのは重々承知しているが、そう思わずにいられない事も事実。教員達にそう言い返したら、もれなくお説教されましたけれども。
まあ要するに、だ。
『GRAAAAAAA!!!!!!』
「ヤバい、魔猪ヤバい!超強い!」
「見てください先輩!ラフムがまるでゴミの様です!」
──そういう事である。
* * * *
「うぅっ...ちょっと酔った...」
「先輩、大丈夫ですか?すいません、酔い止めは今手元に無くて...」
「身体に魔力巡らせとけば大丈夫だろ」
まあ、お察しの通りである。
流石、その気になれば神とか勇者とか竜種とか迷いを抱いた槍使いとかをも倒すケルトの獣。向かってくるラフムを強靱なヒヅメで蹴散らし、飛んでくるラフムを何故かルーン文字が刻まれている牙で穿ち、ティアマトの姿が見える海岸まで一直線に駆け抜けるとかまあまあ常軌を逸している。これも俺の影響だ、などと言い放ったロマンには帰ったらO☆HA☆NA☆SHIをしなければならないと思いました、まる
ウリ坊に乗っての直線強行突破、とても楽でした。藤丸は顔を青くしているが、まあそのうち治るだろう。
それはそうと、現在俺達の目の前に広がるのは黒く染まったペルシャ湾。現在進行形でラフムが湧き出ているが気にしない方向でいこうと思う。何故か俺達を避けているのだ。まあ「何故か」と言っても理由は大体分かるのだが。というか、そろそろラフムの言語が理解出来るようになってきてしまった。奴らの使う言語はロマン曰く、地球上に存在しないモノで、尚且つラフム同士でしか疎通の叶わない言語らしい。...それが分かっちゃうとかカンピオーネの能力便利すぎ。でも、今回ばかりはあまり嬉しくないなぁ。
「
「
「
...色んな意味で嬉しくないなぁ。
「どうしたマスター、顔が引き攣ってるぞ?」
「いや...ちょっと聞きたくない会話がな...」
「は?」
疑問符を浮かべるモードレッドだが、まあこれもスルーしよう。
「エルキドゥ」
「分かってるよ。あと30秒程で顔を出すはずだ」
「相変わらず正確スギィ。...あれ?そういやキングゥは?」
「逃げたよ。僕を見たら何故か狼狽えてね」
「あぁ...何となく想像できた」
エルキドゥの体を使っているキングゥには、微かにだがエルキドゥの記憶も残っているっぽい。藤丸やマシュから聞いた、岬でのギルガメッシュに対する態度から考えても、それは信憑性が高い。であるならば、目の前に現れたエルキドゥから逃げるのも思い描けはする。予想はしていなかったが。
「で、聖杯は?キングゥと戦ってた時に感じたんだが、聖杯持ってるのってアイツだろ?」
「聖杯も持って逃げられたよ。まあ、そこは追々どうにかすればいいさ。それよりほら、ティアマト神のお出ましだ」
エルキドゥが顔をペルシャ湾の方へと向け、俺達もそちらに目線をやる。
最初に出てきたのは、あの大きな角だった。それを皮切りに、顔、胴体、足と、すぐに全身が海の中から出現し、更には海の上に立った。...なんだろう、あの立ち姿にデジャヴを感じる。分身とかしないだろうな?
『LAAAa a a a a !!!!』
その口から発せられた咆哮は大気をも揺らす勢いで、波紋のように周囲に広がる。
「くっ...!凄い威圧感です...!これが...原初の神...ッ!」
マシュが驚愕の声を上げるが、俺も別の意味で驚いた。
──アイツ、理性飛んどるやんけ。
これがビーストか。やはり
「ビーストっていうからハロウィンマシュ的な感じかと思ってたんだけど...まあ似たり寄ったりだね、あの服装。スタイルもいいし。スタイルもいいし!」
「2回言ったな藤丸のやつ...。というかあれは服なのか...?」
「どっちでもいいですが、さっきから金時殿は何故顔を背けているのですか?」
「何故って...アイツの服装がさぁ...ゴニョゴニョ...」
「いやだからアレは服と言っていいのか?」
モードレッドが不思議そうにしているが、まあ、アレを服だとは俺も思わない。秘部と腕しか隠していないモノなど、俺は服とは認めない。まあ着る奴によっては目の保養になるかもしれないが、少なくとも今のティアマトには「一泡吹かせる」という気持ちの方が強いので、いやらしい目を向ける気にはなれ無い。
「とりあえず、恒例の先制ブッパだ。それが終わったら皆で攻めるぞ」
「皆でって、アンタ、ラフムはどうすんのよ。今は何故か襲ってこないけど、戦闘になったらさすがに襲ってくるでしょ?」
「そこは大丈夫だろ」
「何を根拠に言ってるわけ?」
「まあ...ちょっと...」
奴らの会話が聞き取れた、とか言ったらまた非人間扱い...いや、それ以上の異物として認識されそうだし黙っとこ。
「とにかく!襲ってきたら倒せばいいだろ、倒せば!それとも何か!?お前はあんなよく分からん生物に
「はぁ!? “も”って何よ“も”って!分かったわよ、ラフムを全部無視すればいいんでしょ!?いいじゃない、やってやるわよ!」
「...チョロい」
静謐ちゃんちょっと黙ってて。
まあそれはともかく。顔を出したティアマトをずっと放っておく訳にもいかない。そろそろ仕掛けるか。
「モードレッド、宝具使用を許可する。さっき道満にも言ったが、魔力の方は気にするな。全力で行け」
「はっ!そういう払いがいいところ、好きだぜマスター!任せろ、海ごと全部消し飛ばしてやる!」
「おう。んで藤丸。イシュタルと、とりあえずエウリュアレにも宝具を使わせてくれ」
「ちょっと、とりあえずって何よ。オマケみたいに言わないでちょうだい」
「私は無理なんだけど。ラフムはともかく、母さん本人に弓を引くなんて出来ないってさっきも言わなかった?」
「藤丸、令呪」
「了解ー。令呪を以て命ずる。宝具を使用せよ、アーチャーズ」
「「アーチャーズ!?」」
「2人だけでいいの?」
「ああ、この場からティアマトを狙えるのは2人だけだろ。エルキドゥ、お前も頼む。魔力は俺が渡すから」
「分かったよ。僕は兵器だ、存分に使っておくれ」
という訳で、円卓の騎士に女神2柱、神が作りし“意思持つ宝具”、そして神殺しの5人で先制ブッパをかますという割と悪夢な光景が広がろうとしていた。...これで決まれば楽なんだけどなぁ。
「じゃあ行くぞー。4人とも、準備はいいな?...よっしゃ、行くぞゴラァ!!」
見渡すと、女神どもを除き、モードレッドと藤丸、そしてエルキドゥが頷き返してくれた。準備が早いのは良い文明。
怒号とも呼べるような咆哮を上げ、俺も一気に魔力を高め、その全てを“天屠る光芒の槍”へと注ぎ込む。加減など無い。一撃で殺す勢いで攻める。
「吹き飛べ、『
「仕方ないわね。やるわよ、やればいいのでしょう?──『
「ああもう!どうなっても知らないからね!?私は悪くない世間が悪い!もっと言えばそこのリョータが全部悪い!──『
「ブチ抜け『
「五月蝿いな、イシュタル。少しは静かに出来ないのかい?優雅(笑)に華麗(笑)に大胆にやりなよ。──『
エルキドゥ辛口ェ。俺はスルーしたのにお前が反応するんかい。本当に何があったの、この2人?
まあそれは兎も角。
俺達の放った宝具連発は予想通り、喰らう側からしたら地獄以外の何物でもない光景になっていた。いや、俺のは宝具じゃないけど。
まずモードレッドの放った魔力&電撃がティアマトを襲い、続いてエウリュアレの弓矢が胸付近に直撃。ティアマトは女性認定なのでエウリュアレの男性特攻は効果が無いが胸に当たれば少なくないダメージがあるはずだ。
そしてその弓矢に追随する様にイシュタルの弓矢も直撃。さすがは対山宝具とかいう規模のおかしい宝具なだけがある。直撃したと同時に噴火の如く地面から溶岩が火柱の様に溢れ出す。下は海なのにどうなっているのだろうか、とも思ったが、英霊でしかも女神という、その存在自体がチートの様なモノなので無視することにした。
続いて、俺の放った槍がティアマトの左胸、つまり心臓のあるであろう位置を穿つ。藤丸をもってして「ゲイなんちゃら」と言わしめた槍の直撃、しかも対神武器に加えて対神魔力とも呼べる質の魔力を盛りに盛りまくった一撃である。効いていないはずが無い、というか効いていなかったら俺は泣きそうだ。対神とか
それだけでも相当なダメージ量だろうが、トドメとばかりにエルキドゥが黄金の鎖となって既に2回貫かれたティアマトを再度貫く。
......もはやイジメ現場ではなかろうか、この状況は。
だがしかし、相手は曲がりなりにも原初の神などという存在である。それに俺は今まで、何柱かの神々と
「っと。2度もやられてたまるかってんだ」
「ちっ」
ティアマトへの追撃を考えていると、背後から何かが来そうな感じがした。幾度となく俺を助けてきた直感に素直に従って、若干バランスを失いながらも横に跳ぶ。すると、一瞬前まで俺が居た場所を、ついさっきティアマトを貫いた黄金の鎖と全く同じモノが通り過ぎ、ついでに舌打ちも聞こえた。てか直感マジ便利。これからも頼むぜ俺の直感。
「エルキドゥが居なくなったのを見計らったかのようなタイミングだな。というか気配消すとかマジでヤメロ」
「
不意打ちが失敗した攻撃主、キングゥが素直に姿を現した。面倒なタイミングで来たな、本当に。油断してた訳じゃないんだが、アイツの気配に気づけなかった。エルキドゥなら気づけたのかもしれないが、エルキドゥは今ティアマトに突っ込んで行ったしなぁ。...とりあえずあっちは任せよう。大丈夫、エルキドゥはギルガメッシュと正面から打ち合うような英霊だ。ティアマト相手でもそう簡単には負けないだろう。
「暗殺者並なわけあるかよ。俺の気配遮断なんて精々Cランクくらいだろ」
『凌太君、それは暗殺者並と言っていいレベルだよ...』
「え?いやだって暗殺者ってA+くらいあるはずじゃ...」
『比較対象がハサンだよねそれ。そんな暗殺者のモデルみたいな人達と比べちゃダメだって。暗殺者なのに気配遮断スキル持ってない娘もいるんだよ?』
「ああ、あの自称セイバー他称アサシンのカルデア屈指ギャグ要員サーヴァント?」
『そうそう、あのユニバースな...』
『私はセイバーですからッ!!』
『うわっ!きゅ、急に出てこないでくれよアサトリア君!』
『アサトリア!?アサトリアですって!?私はセイバーですし、何よりあの強くて綺麗な型月のドル箱、無敵で素敵な青セイバーとは全くの無関係ですよ!?ええ、あの元祖ヒロインのアルトリア・ペンドラゴンとは全くの無関k』
「ええい、うるさいッ!!オカン!」
『はぁ...。行くぞX、皆の邪魔をするんじゃない』
『離して下さいネームレスレッド!私にとって譲れないモノがここにあるッ!』
『食事の用意が済んでいるぞ』
『すぐ食堂へと向いましょう。譲れないモノ?ヤツは死んだもう居ない』
...ギャグ要員の本領を存分に発揮していったな、あのセイバーの皮を被ったアサシンという名のバーサーカー...。
っと、話が逸れた。というか逸らされた。
「で?お前はなんなの?逃げたり自分から向かってきたり、何がしたいわけ」
「ふん。キミ達が母さんに攻撃なんてするからだよ。大人しく自分達の最期を震えながら待っていたなら、僕が動くことも無かったのに」
「逆に聞くが、正義感の塊の様な藤丸達や、神殺しである俺が黙っているとでも?」
「...まあ、そうだね」
なんだろう。今、何かを諦めたような目を向けられた気がする。い、言っとくけど俺は戦闘狂じゃないからね?単に神が相手だと本能に似た何かを奮起させられるだけであってね?ホントだよ?まあ強い奴と戦うのは修行にもなるし嫌いじゃないけとね?どちらかと言えば好きな方だけど、狂ってる程じゃないよ?
「ふん。全開のキミ相手なら僕とも互角にやり合うんだろうけど、今のキミでは役不足だ。さっきの跳び退き方からして、片腕を失ったのは相当大きかったみたいだね。まだバランスが取れてないんだろう?」
「よく見てるじゃないか」
そう、俺はまだ片腕を失ったことによる重心の傾きを調整しきれていないのだ。ある程度は慣れてきたが、接近戦となれば俺が不利になるのは火を見るより明らか。
──だが、それは
「──凌太殿、ここは拙僧におまかせを。拙僧の奥の手をご覧ぜよう。敵将・キングゥよ。 貴殿のその宝具、この拙僧が貰い受ける」
「は?」
素っ頓狂な声を上げるキングゥの前に立った弁慶は、その薙刀を地面に突き刺してそう宣言する。今までマジで空気だったし、そろそろ目立ちたくなったのだろうか?
「我が所有する七ツ道具。薙刀・鉄の熊手・大槌・大鋸・さすまた・つく棒・そでがらめ。それに加える八ツ目の武器、即ち──『八つ道具』」
弁慶がそう呟き、何やら魔法陣にも似た曼荼羅の様なモノ、要するによく分からない紋様が弁慶を中心に広がり、キングゥの足元にも達した。そして薄らとその紋様が光りだしたかと思えば──次の瞬間、
「..................は?」
それは誰の声だったか。そんな事も分からない程に、場が困惑した。
...落ち着け、大丈夫。弁慶も普段巫山戯ているとは言え、世界に認められた英雄の1人だ。理解不能な事柄の1つや2つやらかしても可笑しくない、可笑しくない...。いや、やっぱり可笑しいわ。
「ふむ。クラスは同じランサーでも、やはり武器は違ってくるものだ。いや、今は
「いいから早く行け」
牛若丸に足蹴にされる天の鎖を持つ弁慶。うん、なんだこれ。
「...ちょっと...ちょっと待ってくれ。.........えっ? 何?何なんだい?武器を奪う宝具?」
「正確には宝具を奪う宝具ですな」
「............えっ?」
気持ちは分かる、分かるぞキングゥ。英霊って理不尽だよなぁ...。
「さてと、こんな感じですかな...。『母よ、始まりの叫をあげよ《ナンム・ドゥルアンキ》』!」
「...え?いや、そんな...だって...え?それは、
...............(傍観)。
............。
......。
「凌太殿!聖杯を手に入れましたー!」
「牛若丸様、それは拙僧の手柄という事をお忘れなグバラッ!?」
──......俺達は何も見なかった、いいね?
* * * *
「......何があったんだい?」
「俺は何も見ていない」
「...そうかい...」
無事にティアマトの元から帰ってきたエルキドゥの第一声に、牛若丸と弁慶以外の全員が顔を背けた。現実を受け止めきれていないのだろう。無理もない。まさかあんな出鱈目な方法でキングゥを倒すとか一体誰が予想できるよ?少なくとも俺は予想出来なかった。
まあ予想外ではあったが、無事(?)聖杯を奪取する事に成功した俺達。
しかし、やはりというかなんというか。この特異点が修復される気配は未だ感じられずにいる。今回の特異点も聖杯を取っただけでは終わらないらしい。やはり人類史滅亡を現在進行形で進めている元凶を叩かなければならないのか。
「エルキドゥ、ティアマトは?いや、だいたい想像出来るけど」
「生きてるよ。僕が突撃した時に、周りにいた大量のラフムを壁代わりに使われてね。トドメを刺すには
「海をどうにかしろって言われてもなぁ...」
「凌太殿ならいけそうですけどね」
「いや、無理だろ。湖とかならまだしも、相手は海ぞ?太陽を落とすとかしないとどうにも出来ねぇって」
まあ太陽か、もしくはソレと同等の熱量&質量を持つモノが落ちようものならば、海だけでなく地球そのものが消えて無くなりそうではある。色々な意味で現実的では無い。
ならばどうするか。
──どうしよう...。
「ラフムを全滅させるとかは?」
不意に声を発したのは、人類最後の希望である藤丸立香。人類最後の希望も遂に頭が狂ったらしい。ラフムの総数分かってんのかコイツ?
「......因みに聞くけど。いやホントは聞きたくないけど。今のラフムの総数ってどのくらい?俺が感知出来るだけでも軽く万単位なんだけど」
『こちらで検知出来たモノは相も変わらず約1億体だ。ここに来るまでに、数にして10万体程倒してきたけど、単純計算で1,000倍ってところだね』
「だ、そうだが。藤丸さんや、これでもラフム全滅作戦を実行する気かな?」
「......なんか...ごめん...」
そう、ラフムの全滅など、土台無理なのだ。ラフムやティアマトごと海を消し去るのも不可能、ラフムの全滅も不可能。ラフムはティアマトを自分の命を賭してでも守る。あの黒い生物達に『命を大事に』などという思考があるのかは知らないが、ティアマトを守る事に関しては自らをただの防御素材として身を投げ出す事は分かった。ラフムは今までの扱い(ウリ坊による軽い討掃など)で、一見雑魚にも見えてしまうが、実は非常に強固な生物なのである。イシュタルの弓にすら耐えるのだから、その強度は折紙付きだ。そんな奴らが重なり合った壁として立ちはだかった場合、破るのにはそれなりの労力を用する。正直言ってコチラのジリ貧以外の何物でもない。ティアマトの方もダメージは負っているであろうが、時間があれば回復するのが神というモノ。奴はただのサーヴァントではない。正真正銘、神なのだ。...いや、ビーストなんだっけ?もうどっちでもいいか。とりあえず強いんです。
「何か、何か手は......何か...!」
藤丸が思わず口に出してしまう程に熟考するが、良い方法は出てこないらしい。かく言う俺自身も、何一つとして良い案が浮かばない。もういっその事、この世界は諦めてカルデアのみんなで箱庭に帰るか、などという逃げの思考が出てくる程だ。俺らしくもない...という訳でもない。勝てないなら逃げるぞ俺は。まあ修行をして強くなって、いつか絶対に勝ってみせるが。
しかし、今回は俺単体でどうにかなる問題ではない。
圧倒的戦力不足。「こっちの戦力過多すぎワロタ☆」などとほざいていた今朝までの自分をぶん殴ってやりたい。いやそれが出来たからといって何の解決にもならないんですけどね?
「あっ、そうだじいじ!じいじがまだ居るはずだよ!」
藤丸がバッ!と顔を上げてそう言った。
じいじってまだ居るのかなぁ...。
「居たとして、あの人...人?とりあえず、じいじ1人が増えるだけじゃなんの解決にも.........いや、なるか?仮契約でも何でもして、じいじに魔力回しまくって晩鐘鳴らしっぱなしにすればワンチャン...?」
「それはマスターが魔力の枯渇で死にます」
ふむ...。どのみちジリ貧には変わりないらしい。
というか、じいじにやって貰うならば、俺が雷槍を創ってラフムの壁を突破しつつティアマト本体も貫くという作戦に出た方が早そうだ。どのみち俺の魔力が持ちませんけど。
...いや、じいじだったらラフム無視してティアマト本体を殺れるのか?まあないものねだりに変わりはないか。
「ちょっといいかい?」
俺達が本気で行き詰まっていると、エルキドゥが不意に手を上げて発言の許可を取ってきた。特に拒否する理由も無いので許可を出す。
「どうぞ」
「ありがとう。じゃあ1つ質問なんだけど...凌太が今持ってるモノって何?」
ピッ、と人差し指で俺の手元を指差すエルキドゥ。人に指を差すのはマナー的によろしくないが、そんな事を気にしている場合ではないし、そもそも気にする性格でもない。
導かれる様に、エルキドゥの指と視線の先である俺の手元を見てみる。
「...信じたくはないが、聖杯だな」
「どれだけ現実が受け止められていないのさ...。本当に何があったの?」
「『知らぬが仏』という諺が極東には存在する」
「.........。」
あれは知らない方が良いモノだと、俺は思う。宝具を奪ってその宝具でトドメを刺す、だけならまだしも、それ以外にも色々と信じられない事をしていたからな。敢えて詳しくは言わないが。
「で?聖杯がどうした?」
「えっ...あ、ああ。その聖杯、魔力はまだ残っているだろう?」
「そりゃあもう。俺じゃ測りきれないくらいにはな」
「そうだろう?じゃあここからは提案なんだけど...凌太、聖杯にパスを繋ぎなよ」
「......やだ、エルキドゥってもしかしなくても天才...?」
そうして、若干頭の可笑しい作戦擬きが、エルキドゥの口から言い渡されたのだった。
* * * *
「うわっ...なんだこれ、魔力量半端じゃない。気を抜いたら爆発しそう...」
と、いう訳で。俺は早速、聖杯とパスを繋ごうと奮闘していた。普段やっている英霊とのパスの繋ぎ方とは真逆の、俺が魔力供給される側としてのパス。これが意外と難しかったりする。まあ出来ない事はないが。
「っと...ふむ、こんな感じか。...ちょっと引くくらい魔力が溢れてくるんだけど。てかこの流れてくる魔力を外に出さないと俺の
「そんなに」
藤丸の驚きの声を聞きながら、俺は聖杯から止めどなく溢れてくる魔力の制御を必死に試みる。割と冗談抜きで制御ミスったら身体の内側から爆発しそう。それ程に強大な魔力がこの聖杯には内蔵されていたのだ。まあそう簡単に魔力に喰われる俺じゃありませんけどね!(強がり)
というか、この『魔術王の聖杯』の放つ魔力に喰われたら、恐らく魔神柱擬きになるぞ。俺が。
「さて...とりあえず1万体から──」
最悪の未来を一瞬思い浮かべたが、ある程度制御が出来る様になったので、まずは小手調べ程度に雷槍を空いっぱいに創り出してみた。数はぴったり1万本。普通ならこれで俺の保有魔力の4分の3以上は持っていかれるのだが、今は全然余裕だ。聖杯マジパネェ。
──これはいける。
そう確信した俺の行動とは、実にシンプルなモノだった。
秒間百単位で雷槍を高速創造し、出来上がった
ただそれだけで──ラフムの総数は、既に
『いやぁ...“圧巻”の一言だねぇ...。一撃でラフムを仕留めるだけじゃなく、文字通りの瞬殺を続けるとか』
「やっぱり私、要らなくない?もう凌太君だけで魔術王とやり会えるでしょ。今まで集めた聖杯全部渡すから、軽く魔術王殺ってきて欲しい」
『それが無理と言い切れないのが怖いなぁ...』
その魔術王とやらを見た事が無いから何も言えないが、単騎はおそらく無理だ。封印無しですら勝負は分からないし、何より今は片腕を失っている。
聖杯のバックアップもおそらく次は使えないし使いたくない。聖杯から強制供給される魔力量が俺の容量を超えているのだ。さっきから頭痛が止まらないし、内臓にもダメージがきている感覚がある。こんなのを自身の心臓、もしくは魔術炉として利用していた魔神柱やキングゥ達はやはり何処か可笑しいのだろう、間違いない。それに下手したら本気で内側から爆発するか魔神柱になりそうで怖い。
「確かにこの光景は色々と凄ぇが...さすがのマスターもそろそろ限界か?鼻血が出てきてるぞ」
そんなモードレッドの指摘で、自分が思った以上にボロボロなのだと初めて気付いた。脳に不可かけ過ぎたのかね、鼻血が止まらん。そりゃ頭痛もするわ。
「まだ大丈夫。限界ってのは超えちゃいけないライン、つまりは死ぬ間際だろ?だったらまだ余裕ある」
「マスターの限界の定義は人間の域じゃねぇよ」
モードレッドもおかしな事を言う。限界なんぞ、元来そういうモノだろうに。限界を超えるとか言っちゃってる奴らは真に限界に至り、そしてソレを超えたんじゃない。まだ限界じゃ無かったというだけ......なんだ?今ティアマトの目が紅く光ったような...?
「ッ!?」
危険を察知した俺はすぐさま身をかがめる。それとほぼ同時、一瞬前まで俺の頭があった場所を紅い一条の光が過ぎ去った。
...なんでみんながみんなヘッドショットを狙ってくるのか。普通に怖いんだが。
と、何とか避けきれたティアマトからの攻撃らしき光線は遥か後方の山脈へと衝突し、
「パワーインフレェ...」
思わずそんな事を口にしてしまう。ビーストヤベェ超ヤベェ。
皆が消滅してしまった山脈を呆然と眺めていると、エルキドゥが突然声を張り上げる。
「ッ!また同じのがくる!次は1発じゃない、何発か来るよ!」
「マシュ宝具、早く宝具!」
「いや防ぐとか無理ですよあんなの!?」
「諦めないで!諦めない心が世界を救ったり救わなかったりするのよっ!」
「凌太さん、その口調気持ち悪いです!あとどっちですか!?」
「おっ、落ち着いてマシュ!落ち着いてひ〇りマントを探して!」
「落ち着くのは先輩ですよ!?現実から目を逸らさないで下さい!」
某SF人情なんちゃって時代コメディの様なノリになる程に場が混乱する中、ふと聞き覚えのある声が俺達の耳に届いた。あとついでに本能的に恐怖を覚える音も聞こえた。
「落ち着きなさい、マシュ・キリエライト。キミのその盾は絶対に崩れはしない。キミの心が折れない限り、
「あ、あなたは──」
『マーリン!?そんな馬鹿な!? お前はあの時死んだはず!』
そう、俺の知らないところで勝手にくたばったらしいマーリンがそこにいた。というかロマンよ、そのセリフはフラグだよ。主に敵キャラに使うやつ。
「感動の再開はまた後でね。今は早急に対処すべき問題が目の前にあるだろう?マシュ、早く宝具を使用しなさい。じゃないと私達、全滅するからね」
「で、でもっ...あんな出鱈目な攻撃、私では防ぐ事なんて...」
「大丈夫だ。キミに力を貸しているギャラハッド、それに自分自身を信じなさい。こと守るという面で、キミ以上の者を探す方が難しい。──グランドの名において保証しよう。
マーリンの言葉に同調するかの様に、彼を中心として広大な花の庭園が構成されていく。これが噂に聞く
「私も全力でサポートしよう。大丈夫、呪文は苦手だけど、噛まない様にすればそこらの
次で第7章を終わらせます。...思った以上に長かった...。