問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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※この作品は、作者の偏見及び独自解釈が大いに組み込まれています。ご了承ください。



ラフムってキモイよね

 

 

 

 

 

「あ、凌太君お疲れ...ってその腕どうしたの!?」

「かくかくしかじか四角いムーヴ」

「ごめん何言ってるか分かんない。腕だけじゃなくて頭も殺られたんだね...可哀想に...」

「いややられてねぇよ、大丈夫だよ。何となくで察せよ」

「そうよ、マスター。この男の頭は元々やられてるわ」

「よぅし喧嘩だ。表出ろ下姉様」

「あら、ここは既に表では無くて?そんな事も理解出来ないなんて、やっぱり頭がやられてるんじゃないかしら?」

「......帰ったらアステリオスにある事ない事全部チクる絶対チクる」

「ちょっと止めなさいよ!?」

 

そんな風に北壁にて合流した藤丸達(主にエウリュアレ)とじゃれあいながら、レオニダス率いるウルク兵団とも合流する。

 

今揃えられる全戦力が集結したこの北壁。ここが本当の意味での最終(デッド)ラインである。

ここが落とされたらウルク、延いては世界・人理そのものが終わると言ってもなんら過言ではない。まあこの聖杯戦争に於いては「カルデアの敗北=人理終了のお知らせ」という図式が常に成り立っているので、今までの状況と余り変わりはないのだが。

 

それはそうと、この集まった戦力にギルガメッシュが下した命令はただ1つ。

 

『勝て』

 

何ともまあ、簡単に言ってくれるものだ。他にも色々と言う事があるだろうに。詳細な作戦とか。

しかしまあ、突き詰めれば何の道“勝たなければいけない”という事に変わりはない。その点で言えば、この命令は簡潔でしかも的を大いに得ているのだろう。にしても簡潔すぎやしませんかねぇ?

 

だがそんな事に文句を付けている暇はない。戦慣れしており、尚且つ戦術的な天賦の才を有している牛若丸が指揮を執り、約3万のウルク兵を布陣に付ける。正直こう言った戦術的な事に関しては牛若丸に勝てる気がしないのでそっちは完全に任せ、俺はとりあえず飯を食べる事にした。血が足りん。

非常食としてギフトカード内に常備している食料を取り出し、軽く焼いてからかぶりつく。暫く食べ続けると、漸く新しい血ができてきたのか、虚脱感が割とマシになってきた。と同時に、例の黒い生物──ラフムと呼称されたモノが目視で確認できるまでに近付いているのに気付いた。

 

「凌太殿!ラフム、約5万体、来ます!」

「分かってる」

 

牛若丸からの報告も受け、腰を上げる。

うん、大丈夫だ。いける。体力はほぼ戻った。

カルデアの魔術師(キャスター)勢特製の秘薬である『魔力回復薬』を一気に2本煽り、失っていた魔力も取り戻す。

 

「全員、加減・出し惜しみは一切無しだ。最初(ハナ)から全開で行くぞ!」

『オォォォオォオ!!!!!』

 

何これ耳が痛い。

士気を上げるにしては月並み過ぎる俺の台詞に応え、3万に及ぶ屈強な兵士達の野太い声が空気を震わせる。心無しか地面まで揺れている気がした。というか今の台詞、俺の契約してる英霊達に向けて言った言葉なんだが...マジかお前ら。

 

「カリスマなのか何なのか。とりあえず、さすがはマスターだ、といったところか。略してさすマス」

「くだらない事言ってないでお前も働けよ、道満」

「分かってるさ。何気に初めてだからね、マスターに僕の戦闘を見せるのは。まあ、サーヴァントになってマトモに戦闘出来た事自体が今回初めてなんだけど」

「今までお前を召喚してきた歴代のマスター達に軽い同情を覚える発言をありがとう」

「どういたしまして」

 

訳の分からない礼を言われた後、道満は自身の懐から長方形に切りそろえられた紙を取り出し、宙に放る。次は白砂を取り出し、同じく宙にばらまいた。

 

御薩婆訶(おん・そわか)

 

道満が呟くように唱えた呪文の様なモノを合図に、紙切れがその姿形を変貌させ、白砂は集結して幾つかの塊へと成っていく。紙は中型犬、白砂は燕の様な形へと変化したんだが...あの燕、もしやTSUBAMEじゃないだろうな。

 

「へぇ、これが噂に聞く陰陽道か。なんかテレビとかで見たことあるのと同じだな。つまらん」

「そんな神秘感の薄れる事を言わないでくれないかい?これでも、式神召喚とか高難度の技なんだからね?平安時代でも、日本では5人くらいしか使えなかったんだからね?」

「すごーい」

「馬鹿にしてるだろうキミ」

「いやいや、そんな事はない」

 

何やらジト目で見てくる道満だが、本当に凄いとは思っているのだ。ただまあ、目新しさという面では...ねえ?ドラマとか映画とかでよく見るし。

 

「...まあいいか。それじゃあマスター、宝具の使用も許可してくれるかな?」

「おう。魔力なら気にすんな。さっき回復薬飲んだし、全然余裕だから」

「それは僥倖」

 

ニコリと笑いながら、道満は少し後ろにある井戸へと歩み寄って行った。

 

ここで余談だが、道満が自身の力を解放、というか、あのクソみたいなスキルを無効化する方法は、あの井戸に関係している。

生前、芦屋道満という男が安倍晴明との決闘に勝てた試しは1度たりとも無い。それは変えることの出来ない事実だ。しかし、道満は1つ、清明との決闘で使用しなかった...いや、使用出来なかった(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)式神が在る。それは道満の奥の手であったが、同時に諸刃の剣だったという。よくある話、その式神が強力過ぎて生前の道満では制御が出来なかったのだそうだ。故に、道満はその式神を井戸に封じ、決闘へと臨んだ。

 

であるならば、史実とも言える道満の特性を打破するには、史実と違う事をするのが道理だろう。

よって、道満のスキル『我が利は人の和に如かず』を無効化するには、その式神を使用する事が条件なのだそうだ。

 

しかし、話はそこまで簡単ではない。単純ではあるが、簡単では無いのだ。

それは何故か。何を隠そう、その井戸に封印していた式神を使う為に、更に条件が課されているからだ。

 

式神の封印を解く方法。それがまあ面倒なのである。

まずは井戸を5つ、五芒星の型を取るように造る。もうこの時点で面倒極まりないのだが、更にここから、それらの井戸に魔力を注ぎ続けなければならない。時間にして約半年、短くても3ヶ月は続けなければならないそう。そんなの、準備が終わるより先に聖杯戦争が終わるわ。

今回は神代という空気中の魔力濃度がアホみたいに濃く、しかも強力な龍脈が流れている時代なので、僅か1ヶ月程度で終わったらしいが、普通の聖杯戦争ではまず間に合わない。

 

そして更にネックなのが、その式神の使用範囲である。何故かは知らないが、井戸に封印していた式神が活動できる範囲というのは、井戸でかたどられた五芒星を中心にして半径約3km程。その範囲を越えると消滅してしまうらしい。ついでに、5つある井戸のうちたった1つを壊されても消滅。本当に面倒なスキルを持ってしまったものだ。流石、ハズレサーヴァントを自称するだけはある。

 

今回、その5つの井戸はウルクと、ウルクに隣接する北壁を中心にして、直径約10km程で造られている。なので、道満の活動範囲はウルクや北壁周辺に限定されているのだ。

 

「汝、日ノ本最古の鬼にして、神さえ恐れぬ益荒男なれば。谷が八つに峰九つ、戸を一つで鬼八塚。あららぎの里に住みし鬼よ」

 

井戸付近まで辿り着いた道満が、そっと呟きながら井戸へと魔力を注ぎ込む。というか、思ったより魔力持っていかれるな。まあ問題は無いが。

 

「さあ、出番だ鬼八。存分に暴れてくるといい──『式神開放、前鬼招来』」

 

道満が宝具を開帳し、井戸の中で膨大な魔力の奔流が渦巻く。

暫くすると、井戸の底から人型のなにかが出てきた。それは──

 

「■■■■■■ーーー!!!!」

 

──ヘラクレスによく似ていて、肌も浅黒く、加えて極めて高い神性を持っている鬼だった。

 

「...待って。ちょっと待って」

「いや、それは無理だね。僕の前鬼──鬼八は、1度解き放たれたら、全てを狩り尽くすか、もしくは死ぬまで止まらない、生粋の狂戦士だから」

「いやそれ、最早ただのヘラクレスだろ!?」

 

これは突っ込まずにはいられない。だってヘラクレスのパクリなんだもの。あの巨大な斧は持っていないが、狂戦士、神性持ち、肌の色等、酷似している点が多い。

 

「まあ、あの大英雄と似ている、というのは認めよう。僕も最初見た時は驚いたさ。でも、やっぱりというか何というか。前鬼は、ヘラクレスの足元くらいのスペックしか無いよ」

「それでも足元くらいはあるのかよ...」

 

こんな会話をしている最中も、イシュタルでさえ1体屠るのに苦労しているラフムを、劣化ヘラクレス擬きである前鬼は既に10体以上は泥へと還していた。というか、アイツら死んだら泥になるんかい。キモッ。

 

「L@anrLnrー!!」

「何言ってるか分からないけど馬鹿にされてる事は分かった」

 

前鬼の戦果に感心していると、こちらにも数体のラフムが寄ってきた。

そのうち、何やら雄叫びを上げて襲ってきた1体のラフムを殴り飛ばす。さすがに素手の1発では殺りきれなかったようで、吹き飛んだ先で痙攣するだけだったが。...やっぱ素手で殺りまくってるあの前鬼おかしいって。

雷を使ってこちらへ来たラフムを全部泥にして、今度はヘラクレス擬きではなく戦場へと目を配る。

 

「...なんか無駄に強いな、コイツら」

 

思わずそう呟いてしまう程には、このキモ生物は堅牢だった。イシュタルの弓でも簡単に貫けないところを見ると、ウルク兵では手も足も出ないだろう。実際、5人1組で戦っているウルク兵達は、徐々に死体の山へと変わっていっている。

 

「凌太殿!このままではこちらはジリ貧です、どうにかなりませんか!?こう、超広範囲高威力な高位宝具並の必殺技とかで!」

「それはマスターに求める事では無いなぁ。まあ出来なくもないけど」

「自分で言っておいてなんですが、マジですか!?さすマス!」

「何それ流行ってんの?」

 

道満といい牛若丸といい、よく分からない略語を使わないで欲しい。何故か劣等感を感じるじゃないか。

まあそれは置いておいて、今のこの状況を打破する事が先決だろう。

...仕方ない。1度使ったら暫く使えなくなるが、ここで奥の手を出しとくか。出し惜しみは無しと言ったのは俺だし。

 

「牛若丸、3分やるから、前線の兵士達を一旦退かせろ。巻き添え喰らう」

「了解です!弁慶、貴様も手伝え!」

「御意!」

 

俺の言葉を聞き、前線へと駆けていく2人。彼らの背中を見ながら、俺はギフトカードから1振りの剣を取り出す。

 

「...マスター、それってもしかして...」

「おう。そのもしかしてだ」

「鬼八ーッ!鬼八ーッ!戻って、お願い戻って!そっちにいたら死ぬ!間違い無く!」

「■■■■■ーーー!!!!」

「ダメだ、やっぱり聞いちゃいねぇ!」

 

焦った様に声を張り上げる道満。無理もない、立場が逆なら俺でもそうする。

 

俺が手にしている剣、それは聖剣だ。詳しく言うとエクスカリバーが分割したモノの1つ、『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラビットリィ)』。何だかんだでスイカ割りにしか使われていない、哀れな聖剣である。

本来コレは、エクスカリバーの7分の1の威力しか無い剣であり、エミヤの投影する永遠に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)の方が断然強い。

にも関わらず、何故コレが俺の奥の手にまで伸し上がったのか。簡単だ。ダ・ヴィンチちゃんを始めとした英霊達、世界に認められた科学者だったり魔術師だったりが魔改造に魔改造を重ねたのである。最早この剣は聖剣と名乗って良いモノでは無くなっているのかもしれない。それ程までにぶっ飛んだ性能になっているのだ。

 

「よし、全員下がったっぽいな。3分経ったし、やるか」

 

そう言い、俺は剣を上段に構える。

英霊達も全員下がらせたので、現在は俺が最前線に立っている事になる。前鬼は強制的に還したらしい。

なので、ほぼ全てのラフム達が俺を狙ってくる。が、そんなもの全くもって関係ない。

カルデアの電力により、事前に極限まで詰め込まれていた魔力が唸りを上げ、可視化する程の高密度な魔力が剣から濁々と溢れ出る。

 

──時は来た。

 

「喰らえ──『魔改造されし元聖剣だったナニカ(オリジナルを超えちゃったんだよカリバー)』ァアア!!!」

 

剣を振り下ろすと同時に吹き荒れる、星の息吹を束ねた輝ける命の奔流を軽く超越したナニカ。世界に認められた英雄達の叡智が火を吹き、ついでに神代の大地も文字通り火を噴いた。つまり、放った俺ですら若干引くレベルのビームが地殻を抉り、色々と突破した結果、真っ赤な溶岩が湧き出してきたのだ。更に別の場所では、抉り取られた地面の下にぽっかりと空洞が開いている。てかあれもしかしなくても冥界じゃね?...マジ引くわー。

 

『どうだいどうだい、主に私が手掛けた最強と言っても過言ではないトチ狂った元聖剣の威力は!いやぁ、モデルは凌太君の“振り翳せり天雷の咆哮”なんだけどさ、使用者としての意見や感想が聞きたいなあ!』

「まじひくわー」

『その台詞を待っていた!凌太君にはいつも驚かされっぱなしだったからね。偶には天才として、この溢れんばかりの才能で君を驚かせたかったんだよ!』

 

無駄にテンションの高いダ・ヴィンチちゃんを当然の如くシカトし、貯蓄していた全魔力を失った聖剣をギフトカードにしまう。

その後、暫く漂っていた魔力の残滓が霧散し、溶岩の溢れ出る元平野が顔を出した。

 

「敢えて聞くわ。貴方、本当に生身の人間?破壊神とか言われた方が納得出来るんだけど」

「俺は悪くない。ダ・ヴィンチちゃんを始めとしたカルデアの英霊達が悪い」

 

呆れた様に質問してくるエウリュアレと、白い目で見てくる後ろの藤丸や英霊、加えて兵士達への弁解を図るが...まあ無駄だろうなぁ。

 

だがまあ、白い目で見られる代償というか何というか。ウルクへと迫ってきていた約3万体超のラフムはほぼ全滅した。何体か運良く生き残っている個体もいるが、なんら問題は無い程の量しかいない。

 

「エルキドゥ、ティアマトの方はどうなってんの?まだ出てこない?」

 

他と同様、白い目で俺を見ていたエルキドゥに声を掛ける。すると、エルキドゥは一瞬だけ集中し、口を開いた。

 

「...まだだね、動きはない。本来目覚めるのは2日後って話だったし、まだ完全に目を覚ましてはいないのかもね」

「ふむ...ふむ?つまり何だ。ティアマトは今、海底で眠ってるって事?」

「まあそうだね。恐らく、という言葉が頭に付くけれど」

 

確かに、マーリンがティアマトを夢の中で抑えてたとか、そんな事をロマンが言ってたような気がしないでもない。本来の予定より2日も早まった覚醒日。それ故にまだ目が覚めていない、即ちまだ夢を見ている可能性がある、と...。

 

眠ってる、眠ってるか...。

 

「...だったら夢の中で決着付けるのもアリか...?」

「おい皆ー、マスターがまた変な事言い出したぞー」

 

割と真剣に思案していたのだが、モードレッドには変な事だと判断されました。解せぬ。

 

 

 

* * * *

 

 

 

「夢の中にダイブする?ごめんちょっと意味分かんない。ナー〇ギアでも造るの?」

「夢の中は仮想空間では無いな」

 

ソードでアートなオンラインデスゲームは始まらないのだよ。

 

とまあ、俺が考えついた作戦は、当然の如く理解されなかった。まあ是非もないね。

俺が提示した作戦は、“寝ているなら、その夢の中に入ってそこで潰そうぜ”という、字面からでは全くもって意味不明なモノである。正直、俺にも成功するかどうかは分からないし、何より本当にティアマトが眠って夢を見ているのかどうかも分からない。

だが、このままラフム達と戦い続けて死人を増やしながらティアマトが顔を出すのを待つくらいならば、試す価値くらいはあるはずだ。

問題は、その夢の中には俺1人しか行けない事だ。マーリンが居れば2人で行けたのかもしれないが、ないものねだりをしてもしょうがない。それに、別に俺1人で倒し切らなければならないという訳でもない。叩き起して海面に引きずり出せばいいのだ。

 

「リョータ、結局俺達はどうすりゃいいんだ?正直、まだ話に付いていけてねぇ」

「ん、そうだな...。イシュタル、ティアマトを倒せるだけの火力ってお前に出せる?」

「無理。というか、母さんに弓を引くなんて出来ないわよ。精神的に」

「むぅ...コアトルは?」

「ティアマトと戦ったことはないし、何とも言えないわね。まあ負ける気は無いけれど。ちなみに、マルドゥークの斧も、神殿を吹っ飛ばした時点で神性も一緒に吹き飛んでるから期待できないわよ?」

「エルキドゥと私、それからケツァル・コアトルが協力すれば何とかなるかもしれないけど...」

「僕は嫌だよ、イシュタルと共闘なんて。それで100%勝てるなら考えるけど、五分五分だしね」

 

めんどくせえ、こいつらホントめんどくせえ。何をしたんだよイシュタル、エルキドゥにここまで嫌悪されるとか。

 

「...仕方ない。とりあえず、俺の護衛をしといてくれ。ラフムがきたら撃退するって流れで」

「護衛って...。凌太君には必要無くない?」

「むしろ私達が護衛される側だと思うのですが、どうでしょう」

 

藤丸とマシュが不思議そうに聞いてくる。

...藤丸は兎も角、マシュよ。お前(シールダー)だろ。守る事を他人に任せるなよ...。

 

「いいか?俺はこれから寝る」

「何言ってんだコイツ」

「イシュタルうるさい、黙ってて。わざわざ口にしなくても皆そういう目で俺を見てきてるから。...コホン。俺のもう1つの権能に『形作る者』ってのがある。これは夢を司る神から簒奪した権能で、自分で好きな夢を見れたり、人に見せたり、あとは他人の夢に入り込めたりする能力だ。これを使ってティアマトに接触、これ以上被害が出る前にティアマトを夢の中で倒すなり叩き起すなりする。ここまではオーケー?」

 

見渡すと、一応全員が頷いたのでそのまま説明を続ける。

 

「夢の中に入れるのは俺1人だ。よって、ティアマトを倒せる確率は極めて低い。というかそもそも夢を見てるのかどうかすら怪しいレベル。で、俺が倒せなかった場合は、海面から顔を出すであろうティアマトをほぼ全員で出撃して殴る。タコ殴りだ」

『さすがの脳筋作戦。安心したよ、やっぱり凌太君は凌太君だ』

「どういう意味だコラ」

 

ロマン失礼まじ失礼。

 

「兎に角、まずはティアマトの夢に潜ってみる。夢を見てたらそのまま殴り起こしてくるから、俺の護衛をしつつ、いつでも出撃できるように準備をしておいてくれ」

 

というわけで、ガバガバではあるものの、『対ティアマト戦 in 夢』と仮称される作戦は始動した。作戦名命名はロマン。もう少しどうにかならなかったのか。そんな事を考えながら、俺は瞼を下ろした。

 

 

* * * *

 

 

「さて...」

 

無事に眠る事に成功し、俺は今、夢の世界とやらにいる。戦場で即座に寝れた事は、(ひとえ)にレオニダスの指導があったからに違いない。やはりスパルタ的指導は役に立つ、はっきりわかんだね。

ちなみに、俺の左腕はしっかりとある。夢の中なのだ、そのくらい出来るさ。まあ現実世界では相も変わらずちょんぎれてるがな。

 

それはそうと、早速ティアマトの夢を探さなければ。

他人の夢とは、俺が今居る“夢の世界”の中に光球として無数に点在しているのだ。“夢の世界”が宇宙で“他人の夢”が惑星、と考えて貰えれば良いか。とりあえずそんな感じだ。

そんな星を、俺はふわふわと漂いながら探す。他人の夢とは基本、その夢を見ている奴が現実世界の俺に近ければ近い程、夢の世界でも俺の近くに存在している。現在、あの混沌とした世界で夢を見ている奴など限られているので、探す事自体は比較的楽だろう。

 

「あれか...」

 

いくつかの夢(瀕死の兵士達の走馬灯的な何か)をスルーしながら捜索を続けると、ソレはすぐに見つかった。

誰の夢であるのかを判断するのは俺の感覚だ。直感と言ってもいい。何となく、「あっ、あれは〇〇の見てる夢だな」と認識出来るのだ。

 

ティアマトが夢を見ていた事に対して軽い安堵を覚えつつ、早速その夢に潜る。時間的余裕は余り無いのだ。躊躇している暇など皆無である。

 

光球に触れてその中に潜ると、そこは海底だった。

息は出来るし、光も微量ではあるが届いているので本当に海底という訳ではないのだが。その海底で、俺以外の1つの人影を発見した。

 

青みがかった長い髪と、渦巻いた太い角のようなものを携えた何か。人型を取るソレは、目を閉じ、胎児の様に丸くなっている。

 

「......誰?」

 

あちらも、侵入者である俺の存在に気付いたようで、声を発しながらゆっくりとその瞳を開けた。

 

その赤い目から放たれるのは圧倒的敵意───などではなく、限りない“無”だった。俺の事など歯牙にも掛けていない、という訳でもないだろう。微睡みからくる意識の低下なのか、それともそういう性質の神なのか。それは分からない。だが、俺という人類(・ ・)()無関心(・ ・ ・)である事だけは事実だ。

 

おかしい。関心が無いのであれば、別にラフムなどというモノを生み出してまで人類を滅ぼす必要はない。邪魔だと判断したのなら話は別だが、そういう感じでもない。一体何なのだろうか?

 

──まあ、関係ないか。

 

「初めましてだ、ティアマト神。俺はまあ、人類救済の手助けをしている者と認識してもらって構わない。それはそうと、とりあえず起きてもらうぞ」

 

自己紹介とも言えない自己紹介と要件を簡単に、そして一方的に伝えて魔力を込める。日頃から夢の中でトレーニングしている俺にとって、夢の中で自由に動くなど、文字通り朝飯前だ。起きたら朝飯だしね。

 

「...この、感覚は...。...そう。貴方が、あの方(・ ・ ・)()...。確かに、その傍若無人の如き言動は似てる、かも......」

「あの方?何言ってんだコイツ」

 

スッ、と真っ直ぐに立ちながら何かを理解したかのようにそう呟くティアマト。「あの方」というのが誰を差すのかは分からないが、どうせロクでもない奴なのだろう。...それは遠回しに「お前ロクでもないな」と言われているってことだろうか?初対面の神にそこまで言われるいわれはない。まあ悲しい事に、そういった神の発言には慣れてしまっているのだが。

 

「...私を、起こすと言うけれど。私が起きたら、世界が、滅ぶ...。それは、理解している、はず...」

「その前に殺す」

「...そう。やっぱり、あの方に似てる...」

 

だから誰だよあの方。

 

「でも、今の貴方じゃ、私には勝てない。まして、あちらの私には...」

「あちら?何、お前って2人いるの?ゴルゴーンなら倒したが?」

「違う...。ゴルゴーンは、私の権能を、少しだけ譲っただけの、偽物。現実世界の、私は、ビーストの側面が濃い、から...」

「ビースト...なるほど、玉藻ですね分かります」

「...違う」

 

曰く、ティアマトには2面性があるのだとか。

1つは人類の母としての側面。もう1つが裏切られた事への復讐を望む側面。今回、現実世界を侵食しているのは後者、しかも人類悪として現界しているらしい。正直違いは良く分からないが、とりあえず強いという事だけは分かった。まあそれが分かったところで、俺達のやる事は何一つ変わらないのだが。

 

「どうでもいいんで、とりあえず起きてください。断るなら強行策も辞さない、というか寧ろそういう気概で来てるから」

「...自分勝手...」

「そういう性分なんで」

 

槍を創り出し、それを構えながら腰を落とす。

これで何時でも攻められる、というか今攻める。

 

「...分かった。起きる」

「へっ?」

 

水圧も水の抵抗も一切存在しない海底で、地面を踏み抜き突撃しようとした所で、思いもよらなかった言葉が俺の耳に届いた。...ホントなんなのコイツ。思わず間の抜けた声が出たじゃないか。

 

「起きる。どうせ、あの世界は滅ぶ、から。少しくらい早くても、変わらない...」

「ほほぅ。つまり俺達では手も足も出ないと...。舐めんなよこの駄神が」

 

絶対殺す。瞬☆殺する。

 

「...勝てる可能性も、0じゃない。ギルガメッシュか、貴方が、覚醒とかしたら、分からない」

「そんな運良く覚醒するかよ。このままの状態で、ビーストのお前とやらを穿ち抜いてやる」

「...貴方は、あの方と似てるから...土壇場での覚醒とか、普通にしそう......キチガイ、だし...」

「おい待て誰だあの方って。ねぇちょっと待って起きないでもう少し眠ってて俺に色々教えてから起きてねえってば!!!」

「...じゃあね。また、後で...」

「待てェェェェエエ!!」

 

俺の渾身の叫びも虚しく、夢の中からティアマトは退出して行った。どっちが自分勝手だよ、言うだけ言って消えやがって。それと消える寸前に少し笑ってたのが拍車をかけて腹立つ。「フフ、愉悦」とでも言いたげな顔だったぞアレ。

 

......落ち着け、落ち着くんだ俺...。大丈夫、現実世界でアイツをぶっ飛ばしてから聞けばいいじゃないか。そうだ、そうしよう。よし、とりあえず地上でアイツを倒すか(テキトー)

 

 

 

* * * *

 

 

 

「おはようございます、マスター」

「ん...」

 

目を開けると、俺の目の前には静謐ちゃんの顔と小さめだが確かに自己主張している双丘が。後頭部にはやわっこい感触。言わずもがな、静謐ちゃんに膝枕されてます。うん、実に素晴らしい。じゃなくて。

 

「おはよう。そして朗報です。ティアマトが起きた」

「ああ、僕も感知した。あと少しで海面に出てくるだろうね。どうするんだい、凌太?」

「全力を以て叩き潰す」

「...マスター、お前なんか怒ってないか?」

「ああ、怒っているとも。言いたいだけ言って消えるとか、これだから神って奴らは...」

「それいつものマスターじゃね?」

「モードレッド君、キミは帰ったらモードレッドちゃんの刑だ。ヴラド三世とメディアに頼んでフリッフリのドレスを着せてやる。大丈夫、元が良いからきっと似合うぞモードレッドちゃん」

「ガチギレかよ...てかやめろよ?ホントにやめろよ?そういうの似合わないから、マジで」

「大丈夫大丈夫」

 

モードレッドは本当に丸くなった。召喚当初は女扱いしただけでキレてたのに、今となっては殆ど嫌がりもしない。水着になった辺りから何か吹っ切れた感があるよな、アイツ。

と、そんな風にふざけながらも俺は立ち上がる。

覚醒する気配など一切ないし、何より馬鹿にされた感が否めず大変腹が立っているので、とりあえず全力で潰す事にする。

あの海に、他でも無いティアマト神の後悔と懺悔の涙を流し込んでやろうじゃないか。

 

 

 

 




夏イベ復刻か...
去年の水着ガチャ大爆死の悪夢が蘇る...

それにこの後、まだ本番が控えてるしなぁ。静謐ちゃん、ネロ、ジャンヌ、そして何よりエミヤの水着が...くるといいなぁ。

浴衣とかも良いよね!

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