問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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シリアス展開を期待していた方々に本当に申し訳ないと思っています。しかし、私の文才と作風ではこれが限界だったんです。シリアス展開なんて書けなかったんです。...すまない。


冥界探索

 

 

 

 

 

 

 

「──ガンド!」

「ホワッ!?」

 

藤丸の放った魔力弾は見事コアトルに命中し、紫電の様なものがコアトルを覆う。

 

『突然だが説明しよう!今立香ちゃんが放った“ガンド”とは、我がカルデアで開発されたカルデア戦闘服に内蔵されている魔術式の1種なのだ!効果は単純、喰らった者は誰であろうと一定時間スタンする!』

「なにそれ強い」

 

確信を得て強いと断言できる藤丸の奥の手「ガンド」。問答無用でスタンとは恐ろしや。

 

「今だ、ジャック!」

「うん!──此よりは地獄。“わたしたち”は炎、雨、力...殺戮を此処に──『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』!」

 

ジャックの体を黒い霧のようなものが覆い、一瞬で身動きの取れないコアトルに接近。からの滅多斬り。昨晩のイシュタル擬きが言うには、コアトルには善属性の英霊の攻撃は全くと言って良いほどに効かず、逆に悪属性ならば効果的なのだそう。金髪少女がどこからそんな情報を入手し、どう言った心境、及び理由でその事を俺達に伝えたのかは知らないが、一応は真実であるらしい。先日、金時が負けたのが良い証拠だ。金時の攻撃が全無効化されていたのならば、彼が負けたのも頷けるというもの。

だがしかし、相手は腐っても女神。確実に攻撃は通っているが、それでも倒れない。まだスタンの効果は持続しているので、その隙に藤丸は神殿最上層部“太陽石”を破壊しに向かう。

そして、藤丸が神殿の中腹あたりを越えた頃、コアトルがスタンから解放された。見ている俺の気分はまさに、TV番組「逃○中」におけるハンター放出のそれである。

 

それからは早かった。

こちらの悪属性はジャックのみ。一応静謐ちゃんも悪属性だが、戦闘には参加していないのでノーカンだ。

ジャック以外の攻撃が効かない状態で一体何秒持つのか。結論から言おう。1分ちょっとしか持たなかった。

サーヴァント達を蹴散らしたコアトルは猛スピードで藤丸を追いかける。だがこのタイミングでは藤丸が“太陽石”を壊す方が早いだろう。この勝負はギリギリ藤丸の勝利で終わるかと思われたその瞬間。何を思ったのか、藤丸が突然立ち止まったのだ。いや本当に何してんの。

何だかんだで藤丸の隣に移動していたイシュタルと数回言葉を交わした後、「やはり高さが必要だ!」などと叫んだ藤丸をイシュタルがイナンナで上空100M以上まで持ち上げ、そして離す。結果、藤丸の天空ペケ○拳の様な何かがコアトルに炸裂、勢いよく転がる2人。そして起き上がったら何故かコアトルがデレッデレな顔でこちら側に寝返るという珍事。最早俺の思考処理能力の域をマッハで超えている事態が頻発している件について物申したい気持ちでいっぱいだが、物申したら物申したで面倒そうなのでスルーする事にした。

世の中諦めも大事なのだと、俺は最近心底思っている。

 

 

 

 

 

 

 

『えっと...』

「何も言うなロマン、コアトル以外誰1人としてこの状況には付いていけてないから。というかもう疲れたんだが」

『あのキチガイの権化にここまで言わせるとは...。さすが神代、さすが女神と言ったところか...』

「俺だって少し前までは普通の一般市民だったからな。許容範囲の限界も近い」

「『だった』というあたり、マスターの自覚が伺えますね。自身がキチガイだという現実の」

「だな」

 

静謐ちゃんとモードレッドがウンウンと頷いているがスルー。最早何も言うまい。

 

それはそうと、先程から自己紹介やら何やらをしている藤丸たち一同とコアトルの方は、コアトルに無視され続けているジャガーが今にも暴れそうな雰囲気を醸し出している。ちょっと目を離しただけなのに、あの虎は何故こうもすぐに問題を起こそうとするのか。やはり仮とは言え俺と契約したからなのだろうか。...俺は悪くないよね?ね?

 

「そっちの不穏な雰囲気の貴方もよろしくネ!」

「不穏て...いやまあ神にとっちゃ天敵みたいな存在なんだろうけどさ。まあよろしく」

 

暴れそうなジャガーをブッ飛ばしたコアトルが笑顔で手を振ってくるのでとりあえず会釈だけ返しておく。遠くでジャガーがピクピクと痙攣しつつ蹲っているがそちらは無視。ジャガーが悪い、きっと、たぶん。

 

「さて、話を戻しまショウ。アナタたちの目的は私の排除よりも、マルドゥークの斧の回収ではなくて?」

「その通りだ。ゴルゴーンを倒すにはあの斧の破壊力が必要となる。凌太君の“天屠る光芒の槍”でもいけるかもしれないが、何事も備えというものが大事だ。大事なんだが...どうしようか、アレ」

 

困った様な口ぶりのマーリンが目を向ける先にある斧──推定で100mを軽く超えた巨大な斧を、俺達も見上げる。ちなみに番人代わりの巨体レスラー擬きは排除済だ。神性特攻などという特性を持っていたが、静謐ちゃんから戦闘する許可を得た俺が藤丸たちとコアトルが話している間に一体残らず粉々にした。イマイチ理解が及ばない事へ対する良い鬱憤晴らしになりました。

...はいそこ、静謐ちゃんと俺、どっちがマスターか分からないとか言わない。

 

「斧があんなに大きいなんて聞いてない。これでは僕たちだけでは運べないぞ」

「それはそうでしょう。アレはエリドゥと同じ重さですし」

 

街1つと同じ重量って何なんだ、どういう基準だ。というか街の重さって何を基準に測って(ry

だがまあ、単に運ぶだけならば特に問題は無いだろう。

 

「なあコアトル。アレって誰の所有物なんだ?」

「え?えっと、元々は神々の所有物だけど、今はもうほとんど放棄されてる様なものだし、番人を倒したのは貴方だから凌太サンのものってことになると思いますケド...」

「おっ、マジでか。なら手間が省けた」

 

俺の発言を不思議がる一同を残してサッサとマルドゥークの斧に近付き、ペタペタと触れてみる。うん、多分大丈夫、いける。

 

「何をしているの?いくら貴方でも、ソレを運ぶのは無理よ?」

「まあ筋力値で言えば俺は貧弱だし、普通に考えたら無理だろうな」

『それで貧弱とかどの口が...』

「いや本当だって。俺の筋力値とかせいぜいD、魔力放出全力でD+かCくらいだろ。権能使ってもC+に乗るかどうかくらいだ」

『生身の人間が英霊基準の能力値を持ってる時点でそれは貧弱とは言わない』

 

ロマンのツッコミを聞き流しつつ、俺は1枚のカードを取り出し、斧へと近づける。すると、その巨大な斧は吸い込まれる様にそのカードへと入っていった。やはりギフトカードは有能、十六夜や黒ウサギ曰く、超素敵アイテム。その名に恥じぬ便利さだ。

 

『「「「「「「わぉ...」」」」」」』

 

見渡せば、既に見慣れた辺り一面の呆れ顔。

今回は俺じゃなくて箱庭の技術の問題なのに...解せぬ。

 

 

 

* * * *

 

 

 

「じゃあ俺、先に帰ってるわ。魔獣戦線の方も一応参加しとかないとだし」

 

マルドゥークの斧を回収した後、コアトルが藤丸に是非見てもらいたい場所があると言い出したので、俺と静謐ちゃん、モードレッドは一足先にウルクへ帰還する事にした。魔獣の攻撃が少なくなっているとはいえ、全くの0でも無い。ウルクにはレオニダス大先生達がいるが、マーリンの言葉を借りると「何事も備えが大事」なのだ。

 

とは言ってもそこまで急いで帰る必要は無いし、俺達3人は徒歩で帰る。だがそれは間違いだと気付いた時には既に遅かった。

1日半かけて帰ってきたウルク、そして報告へと向かったギルガメッシュの玉座で見たもの。それは──

 

「王!!しっかりしてください王よ!!」

 

ギルガメッシュの死体だった──

いや何故に。え、死んだの?あのギルガメッシュが?そんな馬鹿な。

 

「おいシドゥリ、どういう訳だ説明プリーズ」

「えっ...あ、凌太...帰ってきていたのですか...」

 

必死にギルガメッシュを叩き起こそうとしているシドゥリに問い詰める。彼女は俺に気付くまでずっと、ギルガメッシュの胸倉掴んで往復ビンタをしていたがそんなの気にしない。

 

「...王から目を離した私が悪いんです...。ここ数日、王はご多忙でした。あの王が目眩がする、という程ですから想像を絶する疲労が溜まっていたのでしょう...。ああ、気絶させてでも王を一時休ませるべきでした...!」

「......えっ、要するに過労死?」

「...はい」

 

祭祀長とは思えぬ暴力的発言を聞いて一瞬惚けてしまったが、要するに過労死したらしい。...人って、本当に疲労でしぬんだなぁ...。いや論点そこじゃねえわ。

 

「...いや待て、少し待て。確かここって、魂の死と肉体の死は別物なんだろ?」

「ええ、確かにそうですが...。しかし、冥界に落ちた魂が自力で這い上がってくるなど、いくら王でも有り得る話ではありません...」

「つまり、誰かの助力があればいいと?」

「...そうですね。冥界に赴き、王の魂を見つけ出し、地上へと送還する。それが出来れば、王は蘇る事も可能でしょう。ですが、今の冥界にはエレシュキガル様が居られます。ただでさえ冥界では如何なる英霊も神性も無力と化す上に、あの方まで居られるのでしたら、何人たりとも生還する事は極めて困難です」

 

ふむ...。なんだかんだ言ってもどうにかする手段はあるらしい。だったらそれを行う他ないだろう。ここでギルガメッシュに脱落してもらっては困る。最後には彼の“天地乖離す開闢の星”でとりあえずブッパとかしなきゃならない状況になりそうな気もするし、何よりキングゥ対策としてもギルガメッシュには居てもらわないと困るのだ。

 

「じゃあ俺が行ってくるわ。あ、牛若丸と弁慶も連れて行くから、北壁の兵士を多めに投入しといてくれ」

「え!?ちょ、話を聞いていなかったのですか!?冥界に行っては生きて帰ってこれる保証などどこにも無いのですよ!?」

「余り舐めるな。そのエレ...なんとかには勝てないかもしれんが、別に負ける気もない。それに、そいつと戦う必要ってあるの?」

「それは...。で、ですが!エレシュキガル様に認めて貰わなければ冥界から死者の魂は持ち帰れません!かと言って、神がそう簡単に、しかも人間の言うことを聞いてくれるはずも無い!」

「まあ、そこら辺はよく知ってるよ。神ってのは大抵、人間を格下に見るからな。まあその時はその時。大丈夫、1度は冥界から生還した事もある俺だ。前回は冥界でも問題無く権能が使えたし、案外英霊の方も無力化されないかもよ?けどまあ、念の為にレオニダス大先生も連れていきたいところなんだが...」

 

さすがに守備の要であるレオニダスを戦線から外す訳にもいかない。というかそれをしたらウルクを守る英霊が居なくなるのでどの道ダメだ。ふむ、やはり5人で攻め入るしかないか。くそ、天草四郎と風魔小太郎(ツインアーム・ブリゲイド)が生きていてくれればなぁ。若しくは、現在ボイコット中のイバラキンがこのタイミングで帰ってくるとか。

 

「なら彼も連れて行くといいよ、マスター。戦線は僕が受け持とう」

 

と、悩んでいる俺の背後から聞こえてくる軽薄そうな声。何を隠そう、我らがタダ飯食らいで人妻ニアの道満だった。何してんだコイツ。

 

「何、ウルク兵達は既にレオニダス殿なしでもやっていけるだけのメンタルはついている。それに、今朝方、僕の方の準備も終わったからね。今日からは僕も戦えるよ、マスター」

「ならお前が来いや」

「ははは!それは無理な相談だ。何故なら、僕が戦えるのはこのウルク周辺だけだからね、仕方ないね」

「んだよ役に立たねぇなあ!」

「...やはり道満さんは役に立たない」

「グハッ!」

 

今まで黙っていたモードレッドと静謐ちゃんの無慈悲な口撃が道満を襲う!

まあ俺もほぼほぼ同意見な訳だが。しかし、レオニダスを連れていけるというのは大いに助かる。そこは素直に感謝しよう。...いや、今まで全然働いてなかったからやっぱり感謝出来ねぇわ。

 

「で?魔獣相手にレオニダス達なしで本当に大丈夫なのか?自称ハズレサーヴァント」

「そこは問題無い。こうなった僕は強いよ?うん、結構強い」

「...まあ、そこまで言うなら信じよう」

 

何処からそんな自信が湧き出ているのかは知らないが、嘘は多分言っていない。その実力をこの目で確かめられない事は残念だが、魔獣戦線は道満に任せて冥界に向かうか。

 

「という訳で話はまとまった。牛若丸、弁慶、そしてレオニダスは借りるぞ。というか俺が仮契約しとく。ギルガメッシュが死んだ今、アイツらの現界する魔力が無いだろうしな」

「............分かりました。それでは凌太、頼みましたよ」

 

という訳で、神殺し一同による第2回冥界探索が開始される事となったのだった。

 

 

 

* * * *

 

 

 

「ほう、ここが冥界ですか...。若干寒いくらいで、他は普通の洞窟なんかと変わらないですね」

「こんな彷徨う亡霊の渦巻く洞窟が普通であってたまるか」

 

襲い来る亡霊達を薙ぎ払いながら、つまらなそうにそう呟く牛若丸。なんだ、お前が生きていた時代の洞窟は普通に幽霊が蔓延ってやがるのか。嫌だなそんな洞窟。

 

前回、俺が冥界に落ちたルートで冥界へと赴いてから数分。既に倒した亡霊は20を超えている。まあさすが冥界といったところだろうか。数が半端じゃない。

 

「おや?凌太殿、前方に大きな門が。アレが例の『七つの門』でしょうかね?」

「ん?あ、ホントだ...。んー、まあとりあえず進むしかなくね?」

「ならば私めにおまかせを!如何なるトラップにも、この筋肉で以て回避、或いは耐え抜いてみせますとも!」

「おお、先生がやる気だ...!」

 

いつも通りの熱いレオニダスが先陣を切り、門へと近づく。さて、一体何が起こるのか。もしヤバそうだったら即座に助けに入れるよう、全員が身構えるなか、レオニダスが門の下へと辿り着いた。

 

『答えよ── 答えよ──。冥界に落ちた生者よ、その魂の在り方を答えよ──』

「筋肉ですッッッ!」

 

間髪入れずにそう答えるレオニダス大先生、さすがです。

 

『──そうか。だがしかし、この問いは二択である。故に、その二択から選べ──。では罪深き者、坂元凌太に問う』

「えっ、俺?」

 

なんか急なご指名が来たんだが。ナニコレ。

 

『美の基準は千差万別のようで絶対なり。黒は白に勝り、地は天に勝る。であれば────エレシュキガルとイシュタル、美しいのはどちらなりや?』

「えっ」

 

何その質問意味が分からん。そして向けられる殺気。言わずもがな、静謐ちゃんである。...イミワカンナイ!!

 

「凌太殿お早く!ギルガメッシュ王の命がかかっておる故!」

「牛若丸様、お言葉ですがギルガメッシュ王は既に死んでいます」

「ええい黙れ弁慶!こういうのは気持ちだ!ですよね凌太殿!?」

「...ソダネ」

 

ヤバイ、人選ミスったかもしれない。というかもう俺とモードレッドとレオニダスだけで来た方が良かったのでは?

 

『答えよ──答えよ──』

 

なんか催促してくるんですけどこの門。え、この状況で俺にどうしろと?

 

「くっ...ええいままよ!エレシュキガルで!...待って、本当に待って静謐ちゃん。2人ならどっちが美しいかって質問だから、2人以外に選択肢が無かっただけだからッ!」

 

泣きそうな顔で迫ってくる静謐ちゃんを宥めながら門の返答を待つ。というかこの質問設定したヤツ出てこいぶっ殺してやる!

 

『イシュタル、B─U─Z─A─M─A─!よ─ろ─し─い─!』

 

...なんだろう、イシュタルに対する私怨を感じる。

それはそうと、門からの返答と『ピンポンピンポーン!』などという陽気な音が聞こえたと思ったら突如現れた下位の霊を即座に穿つ。

そして(身体的には)無事に門をくぐり抜け、先を急ぐ事にした。静謐ちゃん?俺に張り付いてますが何か。

 

 

暫く歩くと、またもや門が建っていた。もう嫌になる、まだ2回目だけど。

 

『答えよ── 答えよ── 。財の分配は流動なれど、相応の持ち主は1人なり。地に在りし富、その保管は一方に委ねるべし。即ち──財を預けるにたるのはエレシュキガルとイシュタル、どちらなりや』

「「「エレシュキガルで」」」

 

俺、静謐ちゃん、モードレッドの声が重なる。いやだって、目の前でイシュタルの金や財宝に対するあの態度を見たら...ねえ?

 

『S─A─F─E─!ま─か─す─の─だ─!』

 

又しても出てきた亡霊を難なく屠り、次こそは精神的にも無事に先に進む。今回はかなり易しい問題で助かった。

 

そして続く第三の門。また変な質問が来るのかと身構えていた俺の耳に届いたのは際ほどまでの門の声では無く、既に聞き慣れつつある高笑い。姿を確認するまでもない、こんな高笑いをする者を俺は2人しか知らないのだから。...いやそれだとやっぱり確認必要だわ。

ってことで声のする方に目をやると、やはりというかなんというか、ギルガメッシュ王がそこにいた。

 

『答えよ──こt』

「フハハハハハハハ!出迎えご苦労!む?さては冥界のあまりの寒々しさに怯えているな一見さんめ!冥界に詳しい我の案内は必要か?」

『答えy』

「ちょっと待って。別に怯えてる訳じゃ無いとか、ただ呆れてるだけだとか、案内なら是非お願いしますとか、色々言いたい事はあるけどさ。これは真っ先に聞きたい。冥界に詳しいってなに」

「フッ、言葉のままよ。冥界なぞ我の庭だ。何度も来ているからな」

「マジでか」

 

この世界は残す所なく我が庭よ!

などとカルデアのギルガメッシュは豪語していたが、まさか冥界までその範疇だったとは。もう助けとか要らなかったんじゃないかな。

 

「だがまあ、今の我は死者だ。それ即ち、エレシュキガルめの法律下にあるということ。ヤツの許可無くして地上に出る事は叶わん。よって王たる我が命じる。凌太よ、我の為に冥界の門を抜け、エレシュキガルめを懲らしめるが良い!」

「元からそのつもりだよ王様。んじゃ、さっさと先に進むか」

 

勝てるかどうかなどは分からない、などと口にしたらキレられそうなので黙っておく。大丈夫、戦力的には十分に戦えるはずだ。...たぶん。きっと。

 

『......答えよ〜...ねえ答えて〜...』

「チャンスだマスター、門が精神的に弱った」

「門が精神的に弱るとはこれ如何に」

 

ギルガメッシュに気を取られてスルーされ続けた門の声は弱々しく、なんかもう悲壮感漂っていた。...ごめん。

 

「おっと、忘れておったわ。良いぞ、第3の門よ。述べよ」

『.........共に戦う仲間......親愛、敬愛、そして勝利に相応しいのは.........どちらだと、思いますか?』

 

敬語、自信喪失の果てに敬語である。...すまない。

にしても、今回はエレシュキガルとイシュタルの二択では無いらしい。いや、単に言い忘れているだけかもしれないが。

 

「二択じゃないなら、“ファミリア”だな」

 

という訳で戦闘開始。そして終了。ギルガメッシュも加わった俺達にとって、最早彷徨う亡霊など敵ではない。

 

 

続く第4、第5、第6、第7の門も難無く乗り超え、俺達は宮殿らしき建築物の前に来ていた。ギルガメッシュ曰く、これがエレシュキガルの住処らしい。ふむ、中から知ったような気配がするんだが。

 

『恐れよ、祈れ、絶望するがいい、人間ども...いや、この場に真っ当な人間がいないのかしら?』

「俺俺、英霊でも半神でもない人間がここにいるって」

『嘘なのだわ。私にもそれくらい分かるのかしら』

「そろそろ諦めて下さいマスター。貴方は人間の域では無いのです」

「くっ...確かに一般人の域は超えたと思っていたが、まさか人間と疑われすらしなくなるとは...ッ!」

「身から出た錆だぞマスター」

 

宮殿という名の荒野に入ると、いきなり現れた巨大な幽霊っぽいヤツが現れた。そしてこの言い様である。酷いとは思わんかね。...思わないですかそうですか。

 

『コホン。気を取り直して......我こそ死の支配者。冥界の女主人。霊峰を踏抱く者。『三女神同盟』が1柱、女神エレシュキガルである!』

「あ、はい。3日ぶりッスね」

『「「「「.........は?」」」」』

 

なんとまあ、綺麗に揃った声である。俺を仲間外れにして練習していたのかと言いたくなるほどにはタイミングもバッチリだった。

 

『...ど、どういう事かしら。私は......じゃなくて、我は貴様とは初対面のはずだが?』

「いやさっきまで俺もそう思ってたけど、ほら、目の前で見て気配を感じたら分かるというか。イシュタル擬きの金髪少女だろ、アンタ」

「ああ、あの夜の...」

 

静謐ちゃんも一応面識はあるし、1人なるほどと頷いている。他は尚も首を傾げっぱなしだが。

 

『えっ、気付いてたの!?何時から!?どうやって!?』

「エビフ山を下山した日から、普通に見た目で」

『なっ...なっ...なっ...ッ!』

 

何やら言い淀んでいるエレシュキガル。逆に気付かれていないと思っていた方が驚きだ。というか藤丸も会った事があるとか言ってたし、この女神、やはり相当ドジなのだろう。イシュタルの半身らしいし是非もないかな。

すると、今まで巨大な幽霊の姿だったエレシュキガルが淡く光りだし、徐々に人型を取っていく。そしていつもの金髪少女の姿になった。

ふむ、だがしかし謎は解けたな。さっきまで忘れてたが、この金髪少女の正体が気にはなっていたのだ。

 

「し、知っててあんな恥ずかしいこと?アナタや彼女に話してたの、私?」

「まあ藤丸も気付いてたっぽいし、そうなるな」

「い、い───いやぁああああ!!こんな筈じゃない、こんな筈じゃなかったのにぃ!」

 

悲鳴を上げ、頭を抱えながら膝から崩れる金髪少女改めエレシュキガル。そんなにショックだったのだろうか?

 

「将来、確実に敵なる予感...今のうちに」

「何をする気だ」

 

スッ、と足音を消してエレシュキガルに近付こうとする静謐ちゃんをとりあえず止める。さすがにこんな状況下で殺る訳にもいかないだろう。

 

「い、いえ!そうはいかないわ!予定は狂ったけど、それはそれ、これはこれ。アナタ達をここで殺す事に変更はありません。ゴルゴーンの襲来まであと3日。その前に私がウルクを落として大杯を手に入れる。それで、この世界の人間はおしまいよ。そこは坂元凌太、貴方や藤丸立香でも遠慮なんてしないわ」

「ふむ。横から失礼するぞエレシュキガル。空気を読まぬ王を許すが良い」

「あら何よ、殺す気も無かったのに勝手に過労死した王様。貴方はゴルゴーンにでも殺されるといいのだわ」

「フハハ!言うではないか。だがしかし、これは問うておかねばなるまいて。──エレシュキガル、貴様はクタ市の都市神である。それにも関わらず『三女神同盟』に加担したその罪、理解しているのであろうな?」

「はっ!何を聞くのかと思えばそんな事!私は冥界の主よ。地上全ての魂を冥界へと納める事こそ我が使命。そこに何の後悔もないわ!」

「──良く言った。ならば罪には問わぬ。だが首を出せ。敗北を以て貴様の罰としよう!」

 

罪には問わないが罰は与える。さすがギルガメッシュ、暴君だ。

 

「凌太殿、我らはいつでも行けますよ!仮契約とは言え、今の主は凌太殿。敵の首、指示1つでもぎ取って参りましょう!」

「首取りオバケ怖い...。まあ殺られる前に殺るってのは賛成。じゃあいっちょ、やりますか」

 

対神武器“天屠る光芒の槍”の矛先をエレシュキガルに向け、魔力放出も使って臨戦態勢を整える。ギルガメッシュとの対話の途中で気配遮断からの不意打ちも狙っていたが、冥界はエレシュキガルの支配下だという事を思い出して留まった。言うなれば冥界全てがエレシュキガルの知覚範囲なのだから、俺程度の気配遮断などすぐに見破られておしまい。最悪、エレシュキガルがキレて手が付けられなくなるまである。それは避けたかったが為の断念だ。

 

「──その前に、凌太。1つ聞きたい事があるの」

「...俺?」

 

特に構えもせずに俺を見据えるエレシュキガルに、一応返事はする。警戒は解かないが。

 

「ええ。...私は気の遠くなる時間、ここで死者の魂を管理してきた。自分の楽しみも、喜びも、悲しみも、友人も──何もないまま、自由気ままに天を翔る半身を見上げてきた。そんな私を罪に問うの?今更、魂を集めるのは間違いだと指摘するの?ずっと1人で──この仕事をこなしてきた私の努力を、誰も褒めてくれないの?」

 

...何かと思えばそんな事。

 

「...はいはい、おつかれさん。がんばったがんばった」

「ちょっと、何よそれ、何なのかしら。馬鹿にしてるとしか思えないのだけれど?」

 

不服そうに睨んでくるエレシュキガルだが、別段気にする事は無いし、今の態度を訂正する気も無い。それにこれはチャンスでもある。ここで一発、俺はそう簡単に女性を口説かないのだと周り...特に静謐ちゃんに示す必要があるのだ。

 

「アンタのしてきた偉業は認める。というか認めざるを得ないさ。俺みたいな10年そこらしか生きてない若輩者には理解できない程、アンタは頑張ってきたんだろうが...。アンタを褒めるかって聞かれたら別だろ。ここまできたのに逃げるな、エレシュキガル」

「ほう、分かっておるではないか凌太。やはり貴様は愚かでは無いらしい」

「...ちょっと、勝手に納得しないでくれるかしら?」

「なんだ分からんのかエレシュキガル、冥界の女主人よ。凌太はこう言っているのだ。『認められるべきは貴様の偉業であり、貴様ではない。己の不遇に嘆くも良い、別の道を模索するも良い。だが、自らの行いから逃げるな』と」

「だいたい合ってる。さすが王、話が分かる」

「フッ、当然よ!」

「...そう。そういう事。まあいいわ。......──じゃあ、行くわよ」

 

そう言って、エレシュキガルが登場時と同じ霊の姿に戻る。それと同時、俺を懐かしい感じが襲った。これは──

 

「おいちょっと待て、じいじ並の死の気配とかなにそれ怖い」

「フン、その『じいじ』が誰かは知らんが、相手は冥界の女主人、死を司る女神であるぞ。この程度、造作も無かろう──来るぞ凌太、死ぬなよ?」

「えっ、それフラグ?死亡フラグだったりする!?」

 

そうして、割と真剣な死の危険が俺達を襲うなか、対エレシュキガル戦は幕を開けた。

 

 

 

 

 


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