無事(?)イシュタルを仲間に取り入れる事に成功したその帰り道。結局は藤丸と仮契約をしたイシュタルに今までの鬱憤を晴らすかの如く襲いかかる謎生物、ゴーレム、そして悪天候を申し訳ないと思いながらも全て薙ぎ倒しつつ、俺達はエビフ山から脱出していた。
日が傾きかけ、さすがに夜間の移動は危険だという事で、放棄された民家で1晩明かしていた時、外で見張りをしていた俺の下へイシュタルと同じ気配のイシュタルじゃない金髪少女が来るというよく分からない出来事は起こったが、比較的平和にウルクへと帰還した。
そして現在。
「うぉおおおお!!!」
「んー、真っ直ぐ向かってくるその意気や良し、と言ったところでショウカ?でも、貴方には高さが足りまセーン!」
「えっ...うわぁああああ!!」
とまあ、人が舞ってます。ナニコレ。
ウルクに戻ってきて間もなく、南門に女神が攻めてきたという一報が届いたのだが、駆けつけて来てみればこの有様である。もう一度言おう、ナニコレ。
「おやマスター、帰ってきてたのか」
「え、道満?何故にここにいらっしゃる?」
「いや、ちょっと用事があって近くに来ていたんだけど...まさか女神様が直々に攻めてきているとはねぇ...。よし、僕は何も見なかった」
「逃げんなよ...」
そうこうしている間も、ウルク兵達は次々と宙に舞っていく。
そんな惨事を生み出しているのは南米風の女性。イシュタル曰く「翼のある蛇」、ケツァル・コアトルという女神、だそうなのだが...何してんだあの
「ちょ、凌太君なにぼんやりしてるの!?さっさと行って!」
「え、俺が?」
「凌太君以外だれが相手取れると...」
「ふっ、オレに任せろ。相撲なら負けねぇ」
「えっ」
そして何故だか金時が挑むという珍事。
「高さが足りまセーン!」
「免停だけは勘弁じゃんよォオ!!」
「金時ぃいい!!」
そして当然の如く負ける金時。そりゃそうだろ、相手はおかしいくらい強力な神格を持ってる神だぞ。素手で勝てる訳が無い。てか免停ってなんだ、お前今ベアー号乗ってなかっただろ。
上空高く舞い上がった金時をアナが鎖を上手く使って助ける中、俺もとりあえず臨戦態勢に入った。
「あら?アナタ達は...例のマスター達デスカ?」
「その通り!そして問おう、何故こんな事をするんだ、ケツァル・コアトル!」
気合いを入れる時は何故か雰囲気の変わる藤丸の一喝を受け、ケツァル・コアトルが押し黙る。
...いや何故に?
「──あはは!いやぁ、マスターさん、私の好みだからちょっと驚いちゃいましたヨー!秩序で正義で一生懸命とか、お姉さんのツボすぎて反則デース!」
「えっ?」
...何言ってんだあの女神。百合?
「マスターさんが私と婚約するなら、私、そっち側についてもいいネー!」
訂正、彼女は百合です。
「よし、婚姻届作ってくるから待ってろ」
「何言い出してんの?バカなの?」
「失礼な、本気に決まってんだろ。婚姻するだけであれだけの戦力が仲間になるって言ってんだぞ?乗らない手は無い」
「私にはマシュがいるんだよ!?」
「先輩!?」
なんてこった、藤丸も百合側だったか。大丈夫、こちらにはその道の
「まあ残念デスが、それは大人げないわよね。女神げはあるけれど。さて、何故ウルクを滅ぼすのか?その質問に答えましょう。それは私達が、人間を殺す為に母さんに喚ばれたから。こればかりは変えられない前提なの。私も、他の2柱もこれを全うするわ。でも、方法自体は私の自由デショ?太陽を落として全滅なんてつまらない、そう、私は楽しみたいのデス。憎しみで戦いたくないのデスヨ。なので──私は1人1人丁寧に殺していって、人類を絶滅させると決めたのデース!」
「1人1人ステゴロで!?」
「アホなのか?いやアホなのか」
だがしかし、彼女はそれを本当に達成しそうで怖い。なんせあの金時がやられてるからな。金時の筋力値はA+、それで力負けするとか単なるチートじゃないですかやだー。
「さて、それでは、私はそろそろ帰りマース!」
俺達がステゴロ最強定説を提唱しかけていた間に数人のウルク兵を投げ終わったケツァル・コアトルが突然そんな事を言い出した。なんだ、気でも変わったか?
「試合は1日100人まで!それ以上やると相手のコト忘れちゃうから!戦闘は作業にしてはいけまセーン!」
「野菜人の類か?戦闘を心から楽しんでるっぽいな、お前」
「当然デース!貴方も似たような感じだと思うけれど、違う?」
「む...」
コアトルの言葉を否定し切れないのが現実。実際、戦闘を楽しんでいる節は多少ある。だがまあ野菜人並ではないな、うん。
「また明日、太陽が昇ったら100人ぶち殺しにきマース!それでは皆さん、アディオ〜ス!」
笑顔で手を振りながら、ワイバーンとはまた違った翼竜に乗ってウルクを去っていくコアトル。どうやら本気で1日100人組手を繰り返す気らしい。なんたる脳筋。やはり神ってのはロクなのがいないのか。
「...どうして私に視線を配るのかしら?」
「私にも一瞬目を向けたわね?なに、死にたいの?」
「いえ別になんでも。ただまあ、神ってのはロクなのがいないんだなって再確認してるだけ」
ジト目、というか若干の殺気が篭った目でこちらを睨み返しているイシュタルとエウリュアレは一時放置し、俺は目下の問題にあたる事にした。
目下の問題、それは──
「なるほど、アレがジャガーマンか」
「えっ!?」
驚いた様に俺の視線が向いている方向を見る藤丸。その先にはえっほえっほと先程コアトルに投げられたウルク兵達を荷台に詰め込む虎の着ぐるみ。なるほど、確かに
だがまあ、そこは問題ない。あの虎はこちらを全く意識していないのだ。圧倒的に格下である人間を相手にもしないというのは分かるが、そういう慢心が自分の死期を早めるのだと、神々はそろそろ理解した方が良いと思う。
「全く、ククルんってば神使いが荒いよねー。結構手間なんだけど、人間運ぶのってヴニャーー!!!!」
何やらぶつくさ言いながらウルク兵達を担ぐジャガーマンの背後に気配を消して接近し、人はもちろん下位の英霊ならば即死するレベルの電圧を纏った拳を脊椎に叩き込む。これも田舎の町娘流ステゴロの1つ、『鉄拳聖裁』だ。この拳を受けると、
だがそこは腐っても神。若干焦げてはいるが意識はまだ保っているらしい。無駄にしぶとい、さすが神無駄にしぶとい。
「いきなり何してけつかるか!!死ぬよ?私じゃなかったら死んでるよ!?」
「いやほら、本能的に?」
「ふむ...ならば仕方ない。本能を前にしては、時に神すらも無力よ...」
チョロいとかの次元じゃないぞこの女神。あれだ、きっとバーサーカーなんだ、コイツ。何処と無くキャットに似た雰囲気あるし、それだったら説明がつく。そう信じよう。
『ロマン、コーヒーを持ってきた...また出たか冬木の虎!いい加減にしろ!』
「さすが幸運E、タイミングが良すぎる」
ピンポイントで管制室を来訪するエミヤの幸運値に軽く驚嘆しつつ、金時と道満以外の英霊と共にジャガーマンを取り囲む。金時さんはやられて間もないので待機、道満は気付いたらもういなかった。マジでなんなんだアイツ。戦えるようになったら目一杯こき使ってやる。
『気を付けて、皆!この前も言ったけれど、そのサーヴァントは神霊だ!凌太君がいるからまだ大丈夫だろうけど、気を引き締めてね!』
「英霊より先にマスターを頼りにするなと心から言いたい」
「ははっ、何を今更。長らく人類を眺めてきた私が保証する、君は人間の枠を余裕で超えているよ。あの円卓ですら生前からここまで馬鹿げた者は居なかったさ!」
マーリンうるさい、などと思いながら戦闘態勢を整える。
彼らは俺なら問題ない、みたいな事を言うし、恐らく藤丸達もそう思っているのだろう。しかし、別に俺は最強という訳じゃない。俺と爺さんの戦闘を見ていた静謐ちゃんやエミヤ、そしてネロなら分かるだろうが、負ける時は普通に負けるのだ。しかも今の俺は、神殺しとしての特性が働いているとは言え、あの時より幾分か能力が下がっている状態なのである。相手にもよるが、正直に言って単騎で神に勝てるなどとは思えない。
オジマン戦で無双しただろって?それは相手が神性がバカ高い神のなり損ないである魔神柱だったからです。純度ほぼ100%の神霊相手とか勝てる保証は無いです。だから、一応取り囲みはしたけどその場で観戦に徹しようとしている皆さん、お願いだから手伝って下さい。
『はぁ...。正直関わりたくは無いが仕方が無い。マスター、耳をかせ』
画面の向こう側から心底嫌そうな顔のエミヤがそう言うので、そちらに聴覚を集中させる。
『いいか?一言一句違わず、とまでは言わないが、────と言え』
「...えっ、それ俺が言うの?マジで?」
『いいから早く。あの虎がこれ以上辛抱強く待ってくれると思うのか?』
「その通り。囲まれたのに無視されるっていう珍しい対応を受けている私だが、そろそろ我慢の限界。というかお腹の限界。人間食べちゃう系女神だからね、私って。という事で雷パンチのお返しです、死ねニャア!!」
どこからともなく取り出された猫の手のような棍棒を振り回すジャガーマン。お前本当はジャガーでもなければ虎でもなく猫なんじゃないか、やはりキャットか、などと思いながらも意を決してエミヤの言葉を復唱する。
「な、なんて綺麗なんだ!実は美神なのでは!?」
「...ワンモア」
ピタッ、と振り上げた棍棒を止め、真剣な目付きでこちらに聞き返してくるジャガーマンと、「お前何言ってんの」的な目線でこちらを見てくるカルデア一同+
「...な、なんて綺麗...なんだ...。実は美神...なのでは...?」
もう色々な感情が入り混じって今にも消え入りそうな声で、しかしハッキリと相手に聞こえる様に再度復唱する。...もうやだ周りからの視線が痛い。というか静謐ちゃんからの視線が本当に怖い。
「...アナタ、名前は?」
「...坂元、凌太...です...」
思わず敬語になるほどに動揺していた俺を更に追い討ちが襲う。
「...召喚されて見ればマスターのいないはぐれサーヴァント。だがしかし、我がマスターここに見定めり。うん、要するに寝返ります!よろしくね凌太サン!」
『イシュタルの時から薄々思っていたけれど、チョロいな女神!?』
ロマンうるさい。もうチョロいとかそんな問題じゃないんだよ本当に。俺的には動きが鈍ってくれれば御の字って感じだったのに、まさかの寝返りである。このような状況になるであろう事を理解した上で俺にあのセリフを言わせたエミヤ絶許。
『すまないマスター。だがそれが一番手っ取り早い方法だったんだ。藤ね...冬木の虎は神霊なのだし、性格は兎も角戦力的には申し分ないだろう...。すまない、本当にすまないと思っている。だからそんな目で私を見るなマスター。画面越しでも怒気が伝わって......リン!? リンナンデ!?』
「は?」
俺からの非難の目を受け謝罪を入れていたエミヤが、何故か急に取り乱す。なんだなんだ、誰だリンって。
エミヤが見ているであろう方向に目線をやり、リンとやらの正体を確かめようとする。だが、そこには未だ呆れ顔で俺を見ているイシュタルしかいない。
イシュタル=リン?なんだそれは意味が分からん。確かにイシュタルはどこの時代の人間の体を依り代にしているのかは分からないが...あっ(察し)
「...なんかまあ、ドンマイ?」
『なんでさ!』
その後も何だかんだあり、主に俺とエミヤの精神をガリガリ削りながらも話は進んでいき、とりあえず南のジャングルへ向かう事となった。目的は『マルドゥークの斧』。かつてティアマト神に致命傷を与えたと言われる大きな斧だそうだ。マーリン曰くそれはウル市、ひいてはコアトルの神殿にあるらしい。ギルガメッシュの命でそれを取りに行く事になったのだ。
そして現在。
「テメェら、カタギの皆さんには手ぇ出すなっつったよな?」
「ス、スマネェ姐サン!ダガ、姐サンハ裏切ッタ!」
「ソ、ソウダ!俺タチヲ言イクルメタクセニ裏切ッタ!」
「そうか...最早分かり合えぬ。どっせぇい!!」
「「「「グワァァアァア!!!」」」」
...なんかよく分からない漫才を見せつけられています。
「フッ、ジャガーは全てを知っている──さて、進もうか皆さん!」
「「「「「..................」」」」」
最早誰1人としてツッコミ無しである。それも当然、何だかんだで適応力が高いのだ、このメンバーは。
森林の謎生物が人語を喋っていたり、何故かジャガーマンの事を姐さんと呼んでいたり、ジャガーマンの着ぐるみの下が現代マフィア風の黒服だったりしても、決して突っ込んだりしないのだ。...まあ正直整理が追いついていないというのもあるのだが。
そしてそんな漫才じみた戦闘を観戦しながら歩くこと半日。俺達は漸くウル市に到着した。
ジャガーマン曰く、コアトルはウルク兵達に即死級の攻撃を喰らわせた後、強力な
流石に日が暮れてしまったので今日の所は一旦休憩を取ることにし、コアトル戦は明日に持ち越す事になった。その晩もイシュタル擬きの金髪少女が出てきて何やらアドバイスを残していったが、アドバイス以外は気にしない事にした。というか俺が
* * * *
翌日。ウル市からの移動で半日を要してしまった俺達は、太陽が天高く昇りきった時間帯になって漸く神殿へと辿り着いていた。
マヤの神殿を思わせる造りのそれには巨大な斧が突き刺さっており、神殿の最上部には宝石のようなものも確認できる。アレがマーリンの言う『太陽石』、コアトルの神格を支えている物体だろう。
一旦、神殿を見渡せる草陰に隠れて気配を消しながら様子を伺う。まあイシュタルやエウリュアレなど、気配を隠す気0な奴らもいる訳だが、そこは気にしない。アサシンでもない女神に気配を消せなどといっても無駄だろうし。
すると、丁度コアトルが翼竜に乗って帰ってきた。恐らく、本日分の100人組手を終わらせて来たのだろう。
「私の考えた作戦では、まず凌太君がケツァル・コアトルの気を引いて、次に凌太君がケツァル・コアトルの足止めをし、そして凌太君がケツァル・コアトルと死闘を繰り広げている間に私達がケツァル・コアトルの神性の元である宝玉を壊す...って流れなんだけど」
「9割方俺の仕事じゃねえか巫山戯てんのか死ぬわ俺が」
「だよねー...。ていうか今のその状況で戦える?」
「...正直厳しい」
今のその状況、とは、未だ俺の腕から離れようとしない静謐ちゃんの事だ。とりわけ、今回の相手がまた女性だという事で警戒の色をより一層強めている。
「今回マスターは不参加です。相手の女神をまた口説くかもしれない」
「いや俺別に口説いたことなんて」
「『なんて綺麗なんだ』」
「いやだからあれはエミヤが」
「『実は美神なのでは』」
「.........」
とまあ、こんな感じである。ここ最近は余り構ってやれなかった事も関係しているのか、今回の静謐ちゃんはややしつこい。別に嫌とかじゃないが、密着して離れようとしないので戦闘は厳しいだろう。雷を出したら静謐ちゃんが感電するし。
「んー...。仕方ない、私も奥の手を出しますか」
「えっ」
そんなものがあるならエジプトとかでも使って欲しかった。そう思っていると、藤丸がおもむろに服を脱ぎだす。なんだなんだ、女神相手に色仕掛けか?それが奥の手だとでも?そんなバカな。
そろそろ本当に頭がパンクしそうになっていると、藤丸が着ていた白いカルデア制服の下から出てきたのは肌や下着ではなく、黄色と白を基調とした全身タイツ。より一層意味が分からん。いや待てよ...タイツ...全身タイツか...
「分かった。ケルト式神殺しか」
「違う」
なん...だと...。俺が導き出した答えが間違っていたというのか...。まあ藤丸はスカサハ師匠から本格的な戦闘指導を受けてはいないので当たり前といえば当たり前か。では一体その全身タイツにどんな秘策があるというのか。
「まあ見てなよ。今回は凌太君が観戦する側って事で。マシュ、皆、行くよ!」
「はい!」
「うん!」
「了解じゃんよ!」
「しょうがないわね。アナ」
「はい、姉様」
「やれやれ、戦いは苦手なんだけどね」
「あっ、ちょっと!私を置いていかないでよ!」
と、何故今までコソコソしていたのか分からなくなるほど元気良く草陰から飛び出し、コアトルに対峙する藤丸達。...ジャックによる不意打ちとかを考えていた俺にとって正面からやり合うというのは余りオススメ出来ない戦闘方法だが、バカが付くほどの真面目である藤丸には不意打ちより正攻法の方が性に合うのだろう。それに戦力的には勝てる見込みも十分ある。だがまあこれは言わせてもらいたい。アサシンに正面からの戦闘をさせるな、と。
「ハーイ!ようこそ私の太陽神殿へ!脇目も振らずに一直線、とっても素敵デース!もちろん今日の事だけじゃありまセーン!私の襲撃からここまで、シークタイム無しの超特急!予想通りでウキウキしてきました!立香さんならそうだろうと信じて待ってた甲斐がありマース!ほんっとうに、なんていうか───」
藤丸の登場を満面の笑みで迎えていたコアトルに、初めてみる凶悪と言って良い程の笑みが現れ、チラリと俺の方を見てくる。えっ。
「エリドゥの外で時間潰しとか、不意打ちとか、そんな事されなくて良かったわ。そんな腑抜けたマネをしていたら、主義に反して
「ッ!敵サーヴァント、物凄い圧力です...!」
「凌太君が戦える状態じゃなくて良かった、本当に良かった!」
...藤丸の言う通り、俺が前線に出るとなったら気配遮断からの雷パンチ、もしくは問答無用で“天屠る光芒の槍”の一閃も有り得た。というかほぼ確実にそうしていた。一撃で仕留めきれなかった場合、俺即刻ゲームオーバーだったわ...。うん、案外俺の幸運値も捨てたものでは無いのかもしれない。ありがとう、静謐ちゃん。
「おっと、私とした事が大人げない。後ろの彼の雰囲気と、そっちにいてはいけないお馬鹿さんの顔が見えたから、ちょっと野生に帰ってしまったわ」
「あ、ヤバ。戦闘になったら真っ先に殺されるわ、私。そんな未来を予知したわ、確実に。助けてマイマスター」
「強く生きて下さい」
「わっははは!ここでまさかの見切り!」
「アナタには常に手加減抜きデース。3枚に下ろしマース!」
「ねえガチで助けて凌太サン、これ本当に死ぬやつ。ククルんの目がガチで殺る目だもの、飢えた肉食獣が獲物を見つけた時並の殺気だもの」
「明日を信じて下さい」
「マジでか!?」
悲嘆に暮れるジャガーマンからそっと視線を外しつつ、俺は手頃な岩に腰掛けて静謐ちゃんの頭を撫でる事に専念する事にした。今回は観戦に回ると決めたのだ。いや、本当にヤバそうだったら流石に参戦するけど。
藤丸にも奥の手があるっぽいし、まずは様子見って事で。
久々に頭を撫でられて気持ちいいのか、目を細める静謐ちゃんに和みを感じながらも、俺と静謐ちゃん、そしてモードレッドは完全に観戦モードに入る。嗚呼、観戦のなんと楽な事か。今までほぼ戦闘づくしだったし、少しは良い休憩になるだろう。
「あら、そっちの彼は戦わないの?醸し出す雰囲気は少し苦手だけれど、強そうだし、楽しみにしていたのに。...まあいいデス、それじゃあ戦いを始めましょう、立香さん!方法はどうあれ、私を倒しに来たのでしょう?その勇気と行動力に敬意を表します。いかなる闘争、いかなる挑戦からも退きません。だって、私はそれが楽しいから!人間は隅々までいじり甲斐のある生き物です!殺してよし。生かしてよし。脅してよし。庇護してよし。私にはもう第一世代の記憶はありませんが、代を積み重ねた情報種子がこう言うのです!人間たちを愛している。人間たちと共存したい。この生命種こそ、私たちの生き甲斐だと!」
...うん、ヤベェ
「その主張は破綻してるよ!」
「はい!生き甲斐である人間を、アナタは滅ぼそうとしているではありませんか!」
「え、えへへ...。正面から叱られるの、くすぐったいデスネ!癖になりそうです!」
「ドM!?ごめんM体質は間に合ってますから!」
「そんなんですか!?」
赤面するコアトルに突っ込む藤丸、そしてその突っ込みに突っ込むマシュ。ジャックをはじめ、イシュタルとマシュ以外のサーヴァントは平然と今の会話を聞き流しているあたり、藤丸の奇行は日常茶飯事だというのが推し量れる。実際、俺も慣れつつあるしな。
「立香、これ以上コイツと話しても無駄よ。この土地にも色々な神がいるけど、コイツは別格!ここまで愛情の出力方法がズレてる神性は他に無いわ!」
「ヤー!照れるネー!なぜ私が立香にラブラブだと分かったネー!」
「デ・ナーダ。ムーチョムーチョ!」
「結構シリアスな雰囲気でいきたいので!先輩は覚えたてのスペイン語は控えて下さい!」
やはり真のシリアスブレイカーとは藤丸ではなかろうか。カンピオーネとなった今だからこそ理解出来た先程のスペイン語、訳すと「どういたしまして。もっともっと!」ってところか。何が言いたいんだ奴は、文意が全く分からん。
「さて、アナタ達の狙いは太陽石でしょう?私を止められた時間だけ、マスターにチャンスが与えられる。いいわ、その試合形式でいきましょう。でも、その前に1つだけお願いがあるの。──立香さん、どんな戦いであれ、喜びを忘れないでネ?私は楽しいから戦うのです!人間だって楽しいから戦うのです!憎しみを持たなければ相手を殺すまではいかないわ!それがチャリブレの醍醐味、美点だわ!だからアナタもこのピンチを楽しんでね?そうすれば、もっと分かり合える筈なのデース!」
ケツァル・コアトルの属する神話体系は、宇宙から来訪した生物が神としてその地に根付いたモノである。
確かそんな話をマーリンから聞いた気がする。あながち『ケツァル・コアトル某野菜人説』も間違いじゃないのかもしれない。
コアトルの言い分に僅かな間葛藤した藤丸は、先程までの巫山戯た雰囲気からは想像出来ない程の真剣味の篭った目でコアトルを見据え、こう言い放つ。
「──アナタとは...ケツァル・コアトルとは分かり合えない」
もう一度言うが、巫山戯た雰囲気は全くない。シリアスそのもので言い放たれた言葉を受けたコアトルが固まるのも無理はないだろう。
それに、コアトルはあそこまで自信満々で語ってたからな。当然同意がくると思っていたというのもあるだろう。笑顔のまま、約10秒程固まっている。
「──ハッ!?え、戦いを楽しめないとか、それ、私の全否定デース...。後ろの彼は先日同意してくれたのに...。いいわ、なら逆に聞いてあげる!立香さんにとって、戦いとは何なのかしら!?」
「その後の『楽』の為に、全力で乗り越えるものです」
...ふむ。よくは分からんが、何となく俺の観念と似た部分はあるかもしれない。俺にとっての戦いとは、強くなって箱庭で上を目指す為、仲間を守る為、そして爺さんを倒す為に行う修行の1種。それ以上でもそれ以下でもない、って感じだ。 ...いや、やっぱり根本的な所で違っているのかな?まあ今はどっちでもいいか。別に聞かれてるの俺じゃないし。
「──そう、貴女はそういう人間だったのね。素敵な答えだわ。捻り潰してあげたくなっちゃうくらい、素敵。いいわ、なら見事、私を乗り越えていきなさい!ああ、楽しいわ、楽しいわ!アナタの世代まで育ってくれれば、私達が夢見た人類が生まれるなんて!」
いいながら棍棒のような物を構えるコアトル。藤丸側も、俺達3人は参戦していないが、それ以外は全員構えをとる。そう、
「...何してんだ?藤丸も戦うのか?んな無茶な」
そう、藤丸も構えているのである。まさか藤丸自らの肉弾戦が奥の手のは言わないよな?だったら流石に本気で止めるぞ?
「さあ、いきマース!楽しみまショウ!?」
この神代において常時カンピオーネとしての特性で能力が向上している今の俺の能力値、及び闘争本能が更に上昇する程の闘気と神性。そんなバカげたオーラを纏った女神が、一直線に藤丸達へと突っ込む。
「生きているなら──」
コアトルの突進をマシュが受け止める中、藤丸がゆっくりと手を掲げた。その手は銃の様な形を作っており、微弱ではあるが藤丸の魔力が集中しているのが分かる。
「生きているなら、神様だって止めてみせる───」
銃の形を作っている手の指をマシュを押しているコアトルに向け、狙いを定め...
「──ガンド!」
魔力の塊を放つのだった───
ガンド(ほぼ確定のスタン付与)って実際の戦闘の中で使えるならほぼ最強じゃね?思っているのは私だけではないはず...