問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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「芦屋道満は安倍晴明の妻を寝取った」という話を聞いたので、道満は人妻ニア、という設定にしました()


三女神

 

 

 

 

 

 

「なんなんだ貴様らは!何故その様な面白い出来事ばかり貴様らの身に降り掛かる!?スキルか?そういう呪いの類のスキルなのか!?」

「そんなこと言われましても...」

「凌太君がそんなスキル持ってるんだと思いますぞ、王よ」

「ふざけるな。どっちかっていうと藤丸の方が面白体質だろ」

「いやいや、そんなまさか。凌太君には劣るよ」

「いやいや、それこそまさか。自信を持て、藤丸立香。君のトラブル気質も大概だぞ?」

「ええい、どちらでも良いわ!」

 

とまあ、ウルクに滞在してから早1ヶ月。毎日、その日の労働報告をギルガメッシュの下へと報告に行っていた俺たちは、ほぼ毎回起こる珍事件をそのままギルガメッシュに話していた。そしたらこの有様である。まあ色々あったからね、仕方ないね。藤丸が引き起こした「羊肉が無ければ、豆を食べればいいじゃない」事件に始まり、「神殺しが征く、ドキドキ☆冥界探索!(首の)ボロりもあるよ、全員即刻退避せよ!」、「ウルク頂上決戦、最高のお菓子職人の座は誰の手に!?」、「VS.地底人〜前哨戦編〜」、そして「VS.地底人〜最終決戦編〜」など、それはもう色々な事があったのだ。

 

「...待て雑種...いや、立香」

「え?あれ、今名前を...?」

「呼んだが何だ?呼ぶ価値があるから呼ぶ、ただそれだけの事だ。それはそうと、貴様らに仕事をやろう。喜ぶが良い、我直々の王命であるぞ?」

 

 

と言う訳で、詳しく話せば軽く3日3晩は続く冒険譚を乗り越え、漸く王に認められたらしい藤丸達はギルガメッシュ直々の王命を受けウル市へと向かう事になった。

俺?俺はレオニダスに戦線に来るよう言われているので同行不可です。ウル市の調査も大事だが、戦線維持はそれ以上に大事なのである。だってここが崩れたら全てが終わるからね。

そして、マーリンとアナを引き連れた藤丸が意気揚々とウルクを出ていってから2時間後。俺はウル市にも行ってみたかったという鬱憤を晴らすかのように、牛若丸やモードレッドと共に全力で暴れております。

 

「いやはや、凌太殿が来る日はいつもの3倍以上、魔獣の討伐が成されますな。あれは逸材だ、やはりもっと筋肉を付けさせ、更に高みへ登らせなければ」

「それは何の使命感ですかな...?」

 

後ろでレオニダスと弁慶がそんな話をしているが、特に気にしない。気にしたら負けかなとも思っている。ただまあ、レオニダスの講義であれば前のめり気味で受けるかもしれないが。

 

 

 

* * * *

 

 

 

「── 以上がウル市の現状です。敵性サーヴァントを撃退出来ず、住民の保護も出来ませんでしたが...」

 

翌日、ウル市から帰ってきた藤丸達の報告を聞いた。どうにも面白い事になっているらしいね。

 

「ぐ、ぬ...!そしてむざむざ撤退してきたのか...ッ!記念すべき初の王命、その報告でまたもや馬鹿話を...ッ!」

「お、王よ、落ち着いてください。彼らは無事に帰ってきた、それだけで十分な成果では──」

「なんだその面白サーヴァントは!我も直に見たかったぞ!やはり貴様、そういう類のスキル保持者であろう!?ええい、次に我抜きでそのような面白い展開を迎えるなよ!?我にも我慢の限界はあるのだぞ!?」

「仲間外れにされた子供ですか王よ!?」

 

...このギルガメッシュ王、実は若返りの秘薬でも飲んでいるのではなかろうか。身体のではなく精神の。というかシドゥリさんも大変デスネ。

 

「それにしても、俺も見てみたいなー、そのサーヴァント。ジャガーマンだっけ?」

『やめろマスター。あれはジャガーではない、タイガーだ。迂闊に手を出すのは得策ではない。...そこまでにしておけよ冬木の虎...ッ!』

「...エミヤには何があったんだ...」

 

藤丸達がジャガーマンなる不思議面白サーヴァントと遭遇した際、偶然にもロマン達にコーヒーや毛布などを届ける為に管制室に赴いていたエミヤは、マンなのに女性であるそのバグサーヴァントの顔を見てしまったらしい。そしたらこうなった、と...。訳が分からん。

 

『義理の父、見知らぬ義理の母、見知らぬ義理の妹2人ですら頭がパンクしかけているというのに、更に増えるのか...!』

 

...なんか分かった気がするが触れないでおこう。それが優しさなのだと、俺は思う。

 

 

 

* * * *

 

 

 

ジャガーマンなどという謎に包まれた面白サーヴァントの存在が報告された1週間後。藤丸達が俺の知らない間に何処ぞの街へ赴き、天秤の粘土板なる物を回収しつつイシュタルと戦闘したという事件はあったが、比較的平和に過ごしていたとある朝。

カルデア大使館に思わぬ客が来訪してきていた。

 

「そろそろシドゥリの口上も飽きてきたころだろう?今日の任務は我が直々に言い渡す。光栄に思え」

「フォウ!?」

 

そう、ギルガメッシュ王その人である。王よ、暇なのですか?

 

ギルガメッシュが言い渡した仕事とは簡単なもので、シベリア湾の水質調査の為の海水調達だそうだ。通行券は2人分しか取れなかったとの事で、今回は藤丸とマシュの二人旅である。俺も偶にはウルクの外に出たいのだが、今日も今日とて北壁防備なのだ。

ギルガメッシュも(シドゥリに内緒で)付いて行ったというのに、何故俺はウルクから出る機会に恵まれないのか...。というかですね、俺に黙ってイシュタルと戦うとか何やってんだって話ですよ。神との戦いなら俺も混ぜろ。

 

 

 

* * * *

 

 

 

「喜べ凌太。貴様をウルクの外へ出してやろう」

 

水質調査から帰ってきたギルガメッシュは、シドゥリにまさかの腹パンを喰らいながらも俺達にそんな任務を言い渡した。シドゥリのパンチは腰が入っていてとても良いパンチだったのだが今は置いておく。気にしたらダメなのだ。

 

「先日、凌太や牛若丸達の働きで魔獣共を迎撃した。この後6日は魔獣共は現れまい。その機にニップル市から生き残りの者共をウルクへ避難させよ。それが成されたら貴様らを不要と言った事を撤回しよう。人理を修復するに値する者たちとして、この我の名代となるが良い!」

 

とまあ、そんな感じで特異点到着時以来、初のウルク市外散策である。めっちゃ楽しみ!

 

 

とか思っていた時期が俺にもありました。

 

「凌太さん、今日も頑張りましょう!」

「期待していますよ、凌太さん!」

 

ウルク兵達の賛美の声に手を振って返しつつ、深い、それは深いため息を零す。

だってそうだろう。「ウルクから出してやる」と言われたのだから、それなりに期待だってするだろう。なのに、なのに......

 

「凌太殿、作戦の確認を暫し。まずは私がこう、ガーッとやりますから、それに続いて私を巻き込まないようにドカァン!とやってください。あ、モードレッド殿も凌太殿と一緒にドバァン!と1、2発」

「牛若丸様、そう擬音ばかりでは凌太殿達も分かりにくいでしょう...」

「分かった...はぁ...」

「任せろ」

「えっ!?今のでお分かりで!?」

「うるさいぞ弁慶、凌太殿達なら分かるんだ」

 

牛若丸達と軽く確認事項を確認してからそれぞれ位置につく。

 

ギルガメッシュの言う「ウルクの外」とは、普段俺達が戦っている北壁付近から約5km離れた荒野。そこだったのだ。出す出す詐欺とかきっとこう言うものなのだろう。無事にこの特異点を修復したら出るところに出なければならないかもしれない。裁判長、及び裁判官はアルトリア一同で。

 

さて、いつもより少しだけ離れたこの地点で俺達のやる事といったら、もちろん魔獣退治である。藤丸達、そしてニップル市の住民達を安全にウルクまで避難させる為の道作り、と言った方が適切かな?

まあ目的はどうあれ、やることは同じ。襲い来る魔獣を屠る簡単なお仕事である。王とは聖剣をブッパするだけの簡単なお仕事をする職業なのだと、某太陽の騎士も言っていたり言っていなかったり。俺の場合は聖剣でなく雷だったり槍だったりなのだが、それはそれ。かの騎士の言い分は大体合っているのかもしれない。

 

「さてと。いつまでも恨み言を言ってても始まらんし、ちょっくら魔獣焼きでも......ん?」

 

牛若丸がガーッと殺り始めたので俺もドカァンといくかと思い至ったのだが、どうにも魔獣の数が多い事に気が付いた。

おかしい。魔獣共は一昨日までにあらかた駆逐したはずだ。しかし、現実はこの数...ざっと見て万単位で蔓延っている。それもただの魔獣だけでなく毒竜まで出てくる始末。これは...

 

「...まさか、新しい指揮官が現れた...?」

 

俺達がウルクに来る前、敵の将軍という役割を持つ個体は確かに存在していたらしい。しかし、そいつは俺達が来る前に死んだ、とも聞いている。ギルガメッシュが召喚した7騎のサーヴァントが1騎、巴御前と共に消滅したらしい。それで、魔獣共には頭となる個体が居なくなり、統率が雑になった。故に今回の作戦の前提となったような、ほぼ全体が一気に休暇に入る、などという事態がしばしば起こっていたのだ。しかし、新しい知恵のある指揮官が台頭してきたならば話は変わってくる。

というかこれ、絶対に指揮官がいるだろ...。

 

とまあ、そこまでは良かった。いや、良くは無いが、まだ対処できる範囲であったのだ。指揮官が現れたなら、まずはそいつを潰せばいい。戦争における必勝法の1つ、「敵の大将をまず討ち取る」を執行すれば良いだけなのだから。

 

しかし、事態は更に急変する。

 

「...まあ、いつかは来るかなと思ってたけど...なにもこのタイミングでこなくても...!」

 

北側より結構な速度こちらに向かう巨大な気配。否、神性(・ ・)。確実に『三女神同盟』の1角を担う女神だろう。

しかもこのタイミング。十中八九、この魔獣達の親である女神(ヤツ)だ。あー、やだやだ。今は藤丸達の援護っていう別任務があるし、何より周りのウルク兵を気遣いながら戦わなくちゃならないってのに。来るなら俺が全力出せる時に来いよ(憤慨)

などと思いながらも聖句を唱え、臨戦状態を整える。が。

 

「...............来ねーのかよ!」

 

まさかの素通りだった。

敵さんは地面の中を移動しているらしく、俺の真下を通過して行ってしまったのである。まさか見向きもされないとは。これは怒るべき?神殺しとして、神に無視されたのは怒るべき案件?

 

「な、なんだこれは!地震か!?それともエビフ山が噴火でも───」

「いや違う!ニップル市の方を見ろ!あれは、あれは──」

「アレは、ティアマト神だ...。恐ろしい、噂は本当だったのか...やはり北の女神はティアマト神だった!」

 

突如姿を表したのは、全長100mはあろうかという程の巨体。ここからは少し遠いが、それでも巨大だと言う事は分かる。というかティアマト神って何者だ?

 

「ッ!ヤベェぞマスター!あのデカブツが出てきた場所、多分藤丸達がいる!」

「さすがトラブルメーカー、女神自ら襲いに来るとは...」

「悠長な事言ってる場合かよ!」

 

元気良く俺にツッコミながら目の前の魔獣達を屠るモードレッド。

ちなみに、今回俺と共にいるのはモードレッドと静謐ちゃんだけだ。道満はその性質、というか、彼が持つ呪いにも似たスキルのせいで今回は不参加。ウルクで留守番しているのである。

 

道満──道摩法師が持つスキル『我が利は人の和に如かず』。簡単に言うと、戦闘において絶対に勝つ事が出来ないという、お前マジか、と言いたくなるスキルである。まあある条件を満たせばこのスキルを無効化出来るらしいが、今はまだ無理なのだそうだ。...なんで俺はアイツを連れて来たんだろうか...?いや、今回は連れていかなければならない、と俺の直感が囁いたので連れてきたのだが...失敗だったかもしれない。この特異点で道満がした事と言えば、マーリンと共に人妻漁りしたくらいだからな。

 

「とりあえず、周りの魔獣屠ってから藤丸達の方に向かうか」

 

そう言いながら雷をブッパし、手早くかたをつけて藤丸の下へと駆ける。

牛若丸は俺達より一足早くニップルへ向かっていたらしく、今は女神から逃げる藤丸達を庇いながら戦っているのが見て取れた。

 

「あ、凌太君!」

「おう。無事か?...って、アナとエウリュアレは?それにフォウも一緒にいたはずじゃ?」

 

藤丸達と合流し、とりあえず彼女らの安否を確認していると、エウリュアレとアナ、そしてフォウが居ない事に気付いた。まさか殺られたとか言わないよな?

 

「それなら心配ない、とは言いきれないが、2人とも一応現界はしているよ。偽エルキドゥに襲われてね。傷を負ったアナはキャスパリーグに転移させた。エウリュアレも付き添いでね」

「...転移?マジで何者なんだよフォウ...。まあ生きてるなら大丈夫か。で、その偽エルキドゥは?」

「あの女神──ゴルゴーンの元に居るよ」

「ほう...。ん?ゴルゴーン?兵士達はティアマトとか言ってたけど?」

「ああ。一応、ティアマト神の権能は持っているらしいがね」

「ふぅん。...良く分からんのは分かった。それはそうと、アイツは『三女神同盟』の1柱って事でいいんだな?」

「ああ、それは変わらない。彼女こそ『三女神同盟』が1柱にして、魔術王ソロモンがこの特異点に送った聖杯を持つ者だ」

「......とりあえず倒すか」

 

なんかもう情報が多すぎて良く分からなくなってきたので、1回何も考えないようにした。

 

「藤丸達はそのまま撤退、北壁を越えろ。マーリンもな。じゃ、静謐ちゃんはいつも通り毒霧散布、モードレッドは俺と一緒に接近戦な。てかそろそろ牛若丸もヤバそうだし急ぐぞ!」

 

ゴルゴーンの長い尾に潰されそうな牛若丸を見て、慌てて飛び出す。

尾をくぐり抜けギリギリで牛若丸を保護、そして離脱。完全に潰したと思っていたらしいゴルゴーンの驚いた顔を見ながら、モードレッドに魔力を回す。

 

「やれ!」

「おう!『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!」

 

もはやお馴染みとなりつつあるモードレッドの宝具ブッパ。大量の魔力と雷がゴルゴーンを襲い、その巨体を覆い込む。

が、さすがは女神というべきか。宝具の直撃を喰らって、ほぼ無傷の状態で佇んでいた。

 

「──またしても虫が増えたか。フン、目障りな」

「あ?虫だと?このモードレッドが?」

「落ち着けモードレッド。神なんて大体そんなもんだろ。油断慢心大いに結構、その隙を突かれて死んでいく奴らだ」

 

言いながら抱き抱えていた牛若丸を降ろし、槍を構える。偽エルキドゥの姿は見えないのが唯一気になるところだが、今はこっちに集中しよう。もし仮に藤丸達を追っていたとしても、あちらには金時やジャック、それにマーリンもいる。防御に関してはマシュより上の奴を俺は見たことがないし、多分大丈夫だろう。

 

「すみません、凌太殿。助かりました」

「おう、後で麦酒奢りな。あ、もちろんシドゥリには内緒だぞ?」

「...ええ、承りました。今夜は我らだけの秘密の宴会を催しましょう。それではその宴の前座に、女神退治と参りましょうか」

 

俺、モードレッド、牛若丸の3人でゴルゴーンの前に立ち塞がる。静謐ちゃんの毒霧がゴルゴーンに効果を及ぼすまで約5分...いや、ゴルゴーンの全長と屋外ということを考えると良くて10分ってとこか。まあいい。そのくらいであれば持ち堪えて見せよう。...別に、毒霧を待たずに倒してしまっても構わんのだろう?

 

「癇に障る奴らだ。特にそこの人間...人間?まあいい、そこの真ん中の男は特に気に食わない」

「まさか初対面の女神からまず最初に人間かどうかを疑われるとは」

「もうさすがとしか言いようがないな、マスター」

「仕方ないですね。私も若干疑っている節はありますし」

「マジでか」

 

まさかの味方(牛若丸)からも疑惑が浮上していたとは。一体俺が何をしたと......まあ、心当たりがない事はないかな、うん。魔獣相手にサーヴァント以上の戦果を叩き出したり、地底人を1人で撤退させたりしたしね、仕方ないね。

 

「お待ちください、母上」

 

話が若干逸れてきた中、今まで姿の見えなかったエルキドゥが姿を表し、ゴルゴーンに静止の提案をする。てか今どっから出てきた?

 

「なに?」

「ここでこの人間...?を殺すのは簡単でしょう。しかし、ボクらにとっての真の問題は他の女神でしょう?彼女らと戦う為の戦力補充、これがウルク攻めの第2の目的です。第二世代の魔獣(子供)達の誕生の為、人間はまだ利用する価値がある。それに、人間はもっと苦しめて殺さなくてはならない。...貴女は既にギリシャの神ではありません。メソポタミアの神、ティアマト神なのです。どうか母上、今一度お考えを」

「......ふん。我が息子の寛容さに感謝するんだな。だが滅びの運命は変わらぬ。これより10の夜の後、ウルクを滅ぼす。その時が貴様らの最後だ。恐怖に怯え、同胞を蹴落とし、疑心に狂え──人獣に身を堕とした後、惨たらしく殺してやろう!」

 

などと口走って再び地面に潜るゴルゴーン。...なんだろう、拍子抜けも良い所なんだが。てかエルキドゥの真意が分からん。先に述べた理由も本当なのだろうが、何か別の理由もありそうではある。まあ分かんないけど。

 

「...勘違いはしないでくれよ。確かにボクは君たちを助けたが、別に君たちの仲間になったとかじゃない」

「知ってる。どうせ何かあるんだろ?...いや、根は案外優しかったりするのか?」

「はっ、まさか。ボクや母上にとって、人間は駆逐すべき対象でしかない。...そうだね、ここらでそろそろ名乗っておこうかな。ボクの名はキングゥ。原初の女神、偉大なるティアマト神によって造られた新人類。神々の最高傑作であるエルキドゥをモデルにして造られた完全な存在、完璧な次の人間としてデザインされた。だから安心して欲しい。人理は終わらない、ここから始まるのさ!」

 

超ドヤ顔で名乗りを上げた偽エルキドゥ改めキングゥ。何をそこまで偉ぶっているのかは知らないが、こちらとしては好都合だ。そろそろ毒霧散布の時間も十分。ゴルゴーン...いや、ティアマト神は逃したが、キングゥだけでも殺っとくか。

 

「ああ、そうそう。毒霧なら期待しない方がいい。ボクが気付かない筈が無いだろう?」

「まさかの」

 

なんてこった。俺達の、文字通り必殺技であった毒霧がまさかバレていたなんて(驚愕)

あのガヴェインにすら気付かれずに膝をつかせたのに...。

 

「そういう訳だ、ボクはもう行くよ。じゃあ、母上の予言通り、10の夜が過ぎた頃にまた会おう。次はギルガメッシュも...いや、いいか」

 

そう言って飛行離脱していくキングゥを、俺達は眺める事しか出来無かった。いやだって速すぎるし。ISじゃあんな速度出ないって。

 

「...なんだかなぁ...」

 

色々と拍子抜けではあったが、今は残りの魔獣退治をするべきか。こうしている今も、ウルク兵達は死闘を繰り広げ、実際に死んだり連れていかれたりしているのだから。

 

 

 

* * * *

 

 

 

「イシュタル本体はこれっぽっちも使えんが、奴の従属である天の牡牛(グガランナ)は別だ。よって、まずはイシュタルめを仲間にする。契約は立香か凌太がせよ」

 

ゴルゴーン襲来の後、残っていた魔獣を駆逐もしくは撤退させた俺達は、ギルガメッシュにそんな事を言われてエビフ山に向かう事になった。まあ例の如く、道満はウルクで留守番中だが。

でもやったね、事実上初のウルク市外活動だよ!

 

 

 

そんな風に浮かれていた時期が俺にもありました。

 

「よし帰ろう。すぐ帰ろう」

「藤丸に賛成だ、嫌な予感しかしない」

「ダメですよ、立香、凌太。嫌な事から目を逸らしてはいけません」

「いやでもねアナ?俺は思うんだよ、何で逃げたらダメなのかって。逃げる事は立派な作戦の1つであり、逃げるからこそ見えてくる新しい答えもあるんじゃないかって」

「気持ちは分かりますが我慢してください。私だって姉様の嫌がらせを我慢しているんです」

「...なんか、ごめん」

「いえ」

 

襲い来る容姿の可笑しい動く石像を薙ぎ倒しながらようやく着いたイシュタルの寝床兼神殿。エビフ山の頂上付近にあるそれは、なんかもう見た目から悪い予感しかしないものだった。入り口に黄金の招き猫が鎮座してるんだぜ?面倒事になる予感しかしない。

 

「兎に角イシュタルに会おうか。何、いざとなったら私も手を貸すさ」

「最初から貸してはくれないんですね」

「まあマーリンだしな。仕方ねぇだろ」

 

円卓組の話を聞き流し、意を決して神殿へ足を踏み入れる。

...うわぁ...中も金ピカじゃん...。これ、ギルガメッシュの事を悪趣味とか言えないぞ。

 

「...ゴールデン...」

 

金時が何やら感銘を受けているが無視。悪趣味なのは2人だけじゃなかった。

 

「ふん。よくもまあ、ぬけぬけと私の前に出てこられたわね、カルデアのマスター?」

 

で、暫く進むと、玉座らしき部屋に出て、そこに居座るイシュタルに遭遇した。

 

「女神イシュタル、どうか話を聞いて下さい」

「は?何よ、私と戦いに来たんじゃないの?そっちの...凌太だっけ?彼はやる気みたいだけど?」

「俺の事は気にするな。神を目の前にしたら闘争本能が抑えられないだけだから。大丈夫、襲いはしない」

 

嘘である。話を聞かないようであれば、いつでも武力行使に出て強制的に話を聞かせる気満々である。問答無用で襲われたジガラッド(前回)の事もあるからね、仕方ないね。

 

「ふぅん?...で?何よ、話って。一応、撃ち抜く前に聞いてやろうじゃない」

 

そう言って、とりあえずは弓を下ろすイシュタルに安心しつつ、藤丸が交渉を始める。

 

「まずは凌太君、アレを」

 

藤丸に促され、仕方なくギフトカードから1つの王冠を取り出してイシュタルに見せる。

...何故俺がこんな役を...。いや、ギフトカードとかいう四次元ポケット擬きの便利グッズを持ってるからなんだろうけどさ。

 

「...え?ちょっと待って、何それ!え、そんなにラピス・ラズリが付いてる王冠って...え、なに、くれるの!?神か!?」

「フォウフォフォーウ!(特別意訳:チョロいぞこの女神!)」

「しっ、静かに」

「イシュタル、これは手付け金である。繰り返す、これは手付け金である。私の話を聞けば、こちらを差し上げるが...どうか?」

「えっ.......................。............................。.....................。」

 

続く沈黙。女神イシュタル、大分悩んでいるらしい。チョロいぞマジで。

 

「ちなみに、こちらの要求は私達に協力することなんだけど...その報酬としては、バビロンの蔵の財宝、その1割......いや、2割を提供するが、いかがかな?」

「えっ。いやちょっと待って、バビロンの蔵ってギルガメッシュが未来に向けて作ってる、完成すれば底無しとかいうアレでしょ?その1割or2割...い、いいえ!さすがに眉唾物だわ!」

「では2.5割で」

「2.5!?それってつまり、25%ってこと!?」

「言うなれば4が3になるようなものですね」

 

真顔でよく分からない事を言う藤丸。いや、確かに25%の説明としては間違っちゃいないが...。

 

「い、いえ!騙されないわ!どうせ裏があるんでしょう!?」

「そうですか...。では今回の話は無かった、という事で」

 

藤丸の視線に応え、王冠をギフトカードへと再収納しようとして...

 

「ちょ、ちょっと待った!」

 

金星の(赤い)悪魔から待ったがかかった。

............。

 

「ちょっと、ちょっと待ってね?絶対よ?やっぱり辞めたとか言わないでよね?.............................。....................................。..............................。..............................」

「.........」

「.........」

「......(ゴクリ)」

 

又しても続く沈黙。時間にして約2分後、イシュタルが口を開いた。

 

「...よし、決めたわ!貴女達に力を貸してあげようじゃない!よく考えれば、魔獣の女神なんかに人類を滅ぼされちゃ、私に宝石を貢ぐ奴らもいなくなっちゃう訳だし?私の美しさを後世に語り継ぐ奴も死んじゃうし?うん、大丈夫。世界が7回滅びるのと同じ位悩んだし、何も問題無いわ!」

 

チラチラと俺の手元の王冠を見ながらそう語る金星の(赤い)悪魔。俗物だなぁ。

 

 

 

 




『我が利は人の和に如かず』B-
実力的には安倍晴明にも劣らないにも関わらず、生涯勝つことが出来なかった、というものからきたスキル。こと勝負事において、相手が誰であろうと勝つことは出来ないという、もはや抑止力とか無辜の怪物などを疑うレベルのダメスキル。解消条件もあるにはあるが、通常の聖杯戦争では決して成し得ない条件の為、勝つことは不可能に近い。マスターが英霊を相手取れるレベルのキチガイならば話は別だが、基本そんなマスターなどいない。基本はいないったらいない。...どこぞの過負荷な先輩みたいだね、と突っ込んではいけない。

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