問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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賑わいの街・ウルク

 

 

 

 

 

「ふん。天命を帯びた者とは如何かと戯れてみたが、そこの小僧を除けば単なる雑種ではないか!」

『英霊達を差し置いて王様に認められるマスターって...』

「さすが凌太君、私達に出来ないことを平然とやってのけるね」

「嬉しくはない」

 

突然始まった戦闘で、こちらも成り行きで応戦した訳だが...。なんとまあ、俺以外認められないという事態が発生してしまった。いや可笑しいだろ。確かにね?ギルガメッシュが相手だし、ある程度の本気は出したよ?室内戦闘における例の如く、王宮の天井もぶっ壊したしね?...うん、風通しが良くなったんじゃないかな(現実逃避)

 

「我が手を貸す価値も無ければ、我に使われる価値も無い!玉座を壊した罪を問うのも煩わしいわ!」

「壊したのは凌太君です、王よ」

「おい」

「ふん!此度は見逃す、出直して来るが良い!」

「先輩先輩。ギルガメッシュ王、自身が認めた筈の凌太さんも追い出そうとしています。何故でしょう?」

「彼がキングだからさ...」

「もうちょい緊張感持てよお前ら」

「解体するよ!」

「フハハ!暗殺者如きが吠えよるわ!童は童らしく、我の治めるこのウルクで過ごせばよいものを!」

「あ、ちょっといつものギルの面影が...」

「ゴールデンじゃねえノットゴールデン野郎に興味はねえな。いつものゴールデンな鎧はどうしたゴールデン」

「ゴールデンゴールデン五月蝿いぞ坂田」

 

雷系サーヴァント、モードレッドと金時がなにらや話しているが無視。エウリュアレに関しては完全に興味を失ったのか、戦闘中からアナの方へ行ってしまっていた。アナのあの嬉しそうで尚且つ多少の恐怖を抱いている表情は気になるがそっちも今は無視。せめて俺だけでもギルガメッシュの話を聞かなければ、いつあの王がキレるか分かったもんじゃない。流石に本気のギルガメッシュを止められると思う程、俺の考えは甘くないのだ。慢心無しのギルガメッシュと戦闘とか、考えたくも無い。

 

『どういう事だマーリン!あの王様、カルデアに全然興味がないじゃないか!いや、凌太君には多少の興味を示していたけれど!』

「うーん、おかしいなぁ。やっぱり人理修復の事とか話してないからかなぁ」

『はぁ!?まさかマーリン、君は何も教えていないっていうのかい!?くっ、やっぱりマーリンなんかに期待したのが間違いだったのか!立香ちゃん、もう1度ギルガメッシュ王と話をしてみよう!いくら彼でも、きちんと説明すれば理解してくれる筈だ!』

「その必要はない。聞こえているぞ、姿なき者。我は全てを見通す。この通り、天命を全うする前の身ではあるが...“英霊召喚”についても理解している。...ふん、貴様らの霊基一覧とやらに、我の名が記されている事もな。フッ、まあそこの三流マスター如きに我を召喚出来るとは思わんが...」

「いるよ、王様。カルデアに」

「なにィ!?」

「大分前、第4特異点と第5特異点の間の期間くらいに来てくれましたぞ、王よ。ちなみに呼符と呼ばれるもので来ましたぞ」

「なんだとゥ!?」

 

思わず身を乗り出したギルガメッシュ。そして、そんな彼の座っていた玉座から1つの黄金色の高杯が転げ落ちる...。

 

えっ。

 

「ッ!先輩、聖杯です!」

「ギルめ、やっぱり隠し持っていたのか...。さすが世界最古のジャイアニスト、聖杯なんていう願望機を放っておく訳ないよね」

「...ふん、伊達に我を喚び出してはおらぬか。そうだ、この世も財は須らく我が物である!そして、貴様らの目的はコレであったな。...よもや、我に聖杯を寄越せなどとのたまわるつもりではあるまい?」

「ふぅむ。交換材料が足りないかなぁ...。あ、そうだ」

 

何かを考え付いたらしい藤丸が、真顔でギルガメッシュに提案する。嫌な予感しかしないのは俺だけではないはず。

 

「『三女神同盟』を倒す。それと引き換えは?」

「──ふ、ふは、ふはは、ふははははははははははははははは!!!倒すだと?貴様らが?あの女神どもを?ふはははははは!」

「ちょ、何さ!私だって真面目に話す時ぐらいあるんだからね!?」

 

心外だ、という風に講義してくる藤丸だが、実際馬鹿げた提案であることに違いはない。いや、俺も同じ考えには至ったのだが。

 

「水差しを持てシドゥリ!これはマズイ、命がマズイ!こやつらは我を笑い殺す気だ!未来における最高峰の道化師を連れてくるとは!」

「............」

 

黙るカルデア勢だが、こちらの発言が軽率だったことも確か。

だが忘れないで欲しい。こちとら神様と対峙するなど片手では足りない程に経験しているのだと。

 

しかしながら、ギルガメッシュが続けた言葉は、俺達を馬鹿にしたものでは無かった。

 

「──ふぅ、今のは中々だった。後で王宮詩に記しておこう。王、腹筋大激痛、と。だがな、我は全てを見通した上で述べたのだ。“貴様らは不要だ”と。ウルクは我の治める国、我が護るべき土地だ。カルデアの手助けなど受けるまでもない。良いか、その程度の手駒で女神どもに挑もうなどと、決して思い上がらなぬことだ」

 

暗に、お前達では女神に勝てないと言われてしまった。よし、力を見せつけようか(脳筋)

 

「ご歓談中失礼します、王!」

「ご歓談などしておらぬわ。どこに目を向けておる」

「え?...あ、いえ。王の笑い声がシグラッド中に響き渡っていたので、さぞかし愉快な話をしているものだと...」

「たわけ、箸が転がるだけで愉快な年頃もあろう!...いや、今はそれは良い。して、何用だ!」

 

全力で魔力を練ろうかと思ったその瞬間、玉座の間に1人の兵士が駆け込んできた。なにやら慌てているようだが...っと、なるほどそういうことか。こちらに向かってくる、感じた事のある気配を1つ感知した。

 

「は!ティグリス河の観察所より伝令!上空に天舟の移動後を確認、猛スピードでウルクに向かっているとのこと!『三女神同盟』の1柱──女神、イシュタルです!」

 

 

 

* * * *

 

 

 

「うん、あの時の胸が控えめな女の子だ。さて、と──...再審議の、時間だ...ッ!」

 

藤丸がおかしな事を口走っているが安定のスルー。現在、先の戦闘で見渡しの良くなった天井から見覚えのある女神様が降りてきている。

 

「め、女神イシュタルだぁ!総員退避、退避ー!酷い難癖を付けられるぞー!」

「どこのヤクザだよあのツインテール」

 

おおよそ自身の土地の神に出会った人間の発言とは思えない言葉を口にしながら兵士達が退避していく。末代まで呪われたくないとか、どちらかと言うと悪魔と遭遇した時のセリフじゃね?

 

「誰よ、控えめとか言った奴!末代まで呪うなんて生半可な神罰じゃ済まさないわよ!?」

「本当に呪うんかい」

 

女神とは...。いや、何も言うまい。俺の知る女神も大抵変な奴だし。エウリュアレとかステンノとかアルテミスとか。

 

「ねえ、あなた今、失礼な事を考えなかった?」

「秘匿事項です」

 

無駄に勘の鋭いエウリュアレの指摘を受け流し、とりあえず槍を2本構えて、続けて聖句も唱える。

『三女神同盟』の1柱、女神イシュタル。あの兵士は確かにそう言った。ならばコイツを倒せばギルガメッシュと交渉できるんじゃね?

 

「あら、あなた達は...。ふぅん、そういう事。まあいいわ、あんた達がそっちにいる事で最後の良心も吹き飛んだし、変な噂流されても面倒だし?そこの金ピカと一緒に撃ち殺してあげるわ!」

「む?貴様ら、イシュタルめと既に面識があるのか?...ふはははははははははは!!! 良いぞ、興が乗った!1度のみ、我と共に戦う不敬を許す! いくぞカルデアの!女神退治だ!」

「言われなくても」

 

戦闘準備が整っていた俺がまずは突っ込む。イシュタルとかいう女神は未だ空を飛んでいるが、特に問題はない。跳躍し、接近と共に“アッサルの槍”を投擲。当然ながら、空中を自由に移動出来るイシュタルには避けられてしまうがそれは想定済み。回避行動をとった後というのは案外隙が生まれやすいものなのだ。そこを狙い、かかと落としでイシュタルを、彼女が乗っていた天舟ごと地に落とす。そして“神屠る光芒の槍”に魔力を込め、イシュタルへ向けて投擲。しかし、すんでのところで避けられてしまった。くそ、流石は女神と言ったところか。

着地し、戻ってきた“アッサルの槍”を掴んで再度構える。この間、約7秒以下である。藤丸とか付いてこれてないよね。

 

「...王よ、共闘とか必要です?」

「....…........(なんとも言えない、という微妙な表情)」

「おかあさんの友達すごーい!」

「ま、俺達のマスターだからな!」

「ええ、マスターは既に人を辞めていますが素敵です」

「...僕もそろそろ驚かなくなってきたよ...」

『それが良いよ芦屋君。君のマスターはキチガイだからね』

「あれぞまさにゴールデン!...同じマスターなんだし、大将も出来るんじゃないか?」

「いや無理でしょ。私と凌太君を一括りにしないで。彼は文字通り次元が違うんだから」

「凌太さんはそろそろ霊基一覧に名前が載ってもおかしくないと思います。というか、載ってない方がおかしいです」

「フォウ!(特別意訳:それな!)」

 

なにやら騒いでいるがいつもの事なので今はスルーする。

 

「ちょ、ちょっとアンタ!な、なな、何いきなり殺しにかかってんのよ!死ぬかと思ったじゃない!」

「殺す気は無かったよ。まあ、身動き取れないように足や腕の1本や2本、それにその天舟は破壊しようと思ってたけど...」

「死ぬわよ!?それ、下手したら普通に死ぬわよ!?てか何よその槍!嫌な感じしかしないんですけど!?」

「機密事項です」

 

対神という効果の気配を勘的な何かで感じ取ったイシュタルが、未だ地面に突き刺さっている“神屠る光芒の槍”を指差しながら叫ぶ。...アレであの天舟くらいは壊しておきたかったな。折角イシュタルを地面へと落としたのに、もう空中に逃げている。トニトルスを展開しても良いが、アレはイマイチ小回りが利かないからな。天井が開けている(破壊済)とはいえ、室内で戦闘に使うのは些か不便である。

 

「これは権能の出し惜しみなんてしてる場合じゃないかも...。というか、もう私のものじゃないウルクなんかに気を使って出し惜しみとか、なんか自分で言っててイラッときたわ。うん、もうどうでもいい。シグラッドやギルガメッシュ諸共吹き飛ばしてあげ......ん?ねえ、そこの人間。アンタが庇ってる後ろのソイツ、誰よ」

 

なにやら不穏な事を口走りかけたイシュタルが、藤丸とその後ろへと目を向けた。

 

「へ?後ろって...アナとエウリュアレしかいないけど...」

「ふぅん...なんだか因果な事になってるのね...。気が変わったわ。そもそも私、ちょっと枕を取りに来ただけだし」

 

そう言って、イシュタルは天舟に乗って徐々に上昇していく。既にシグラッドを抜けている為、空中戦においてイシュタルに劣る俺が追いかけても無駄だろう。いや、ギルガメッシュや藤丸にやれと言われればやるが。

 

「なんと、女神イシュタルともあろう者が尻尾を巻いて逃げるのか?」

「はっ、何言ってるんだか。私は散歩がてらに少し寄っただけ。気ままにウルクを眺めて、気ままに弓を引いて、気ままに大地を蹂躙するのよ。じゃあね、裸のウルク王。精々北の魔獣共と仲良くやってなさい。それとシドゥリ、ギルガメッシュが死んだらウルクを助けてあげないこともないから、白旗の準備をしておきなさい」

 

それだけ言い残し、イシュタルは登場時同様、超スピードで去っていった。てか速いな、アイツ。トニトルスでも多分追いつけんぞ。

 

「白旗...?なんの事でしょうか?」

「チッ...頭を冷やしたか。悪運の強い女よ。もう少しで対愚女神捕縛ネットが展開出来たというのに...忌々しい」

「そのようで。天舟アマンナがある限り、女神イシュタルを捕らえるのは難しいようですね」

「まあいい、仕事の続きだ。随分と時間を無駄にした。励むぞ、シドゥリ」

「は。ではディグルス河の氾濫対策から」

 

時間にして10分も続かなかった対イシュタル戦を終え、ギルガメッシュ達は何事も無かったかのように業務へと戻ってしまった。もうちょい労いとかあっても良いと思うんだ。

 

「んー、これは仕方ない。今日は今夜の宿を探す事にしよう。王様は気分屋だからね。明日になれば話を聞いてくれるかもしれないよ?」

「聞かぬぞ、たわけ。ウルクは現在、未曾有危機にある。貴様らカルデアなんぞの遠足に付き合っている暇はない」

「遠足て...いやまあ遠足っちゃ遠足だけどな。時代を越えてまで遠くに足を運んでる訳だし」

「そういう事じゃないと思うよ」

「ギルガメッシュ王。君もそろそろ休んだ方が良いんじゃないか?第3者に任せる事も大事だと私は思うなぁ」

「いらぬと言っている。それにマーリン、貴様を召喚したのは誰だ?他ならぬ我であろう。であれば、我の為だけに働け」

「んー、それを言われると弱いなぁ」

『いや何を普通に流しているんだい!?え、マーリンを召喚したのがギルガメッシュ王!?ウルクの祭祀場じゃなくてか!?』

「おや?私はそう言ったつもりだが。そう、彼こそは『戦う者』から『唱える者』に装いを変えた賢王。ウルク市を、しいては世界を護る為、魔術師としてその神血を奮う、普段より何割か話の分かる、綺麗なギルガメッシュ王さ!」

「きこ〇の泉にでも落ちたか...?」

 

綺麗なギルガメッシュてお前...

 

「ふん。業腹だがな...。此度の災いは我1人が強ければ良い、というものではない。民を、国を、そして民の生活を。メソポタミアの全てを救う。その為には全てを使って戦うしかあるまい?故に王律鍵(ざいほう)は封じ、魔杖に持ち替えた。そこな半魔を召喚したのもその一環よ」

『カルデアとは別物の、正真正銘の英霊召喚ってやつかぁ...。なんか、自信無くしちゃうなぁ。いくら古代王だからって、そう簡単に英霊召喚を成功させちゃうなんて...』

「えっ、英霊召喚ってそんなに難しい事だったの?ごめん、普通に静謐ちゃんやモードレッド喚んだわ」

『...自信、砕け散っちゃうなぁ......』

「ドクター、お気を確かに!相手はあのギルガメッシュ王と凌太さんです、気にしない方が良いかと!」

 

古代王と同列視されたよ俺。でもまあ、出来ちゃったもんはしょうがなくね?

 

「そこの少年は本物の化け物だね。神代で幾らか難易度が下がっているからこそ、ギルガメッシュ王は英霊召喚に成功したのだから。神秘の枯渇間際な西暦で召喚を成功させる事は私でも難しい。ましてや21世紀なんて、困難極まるね」

「そういう事だ。貴様らの行いは傲慢極まるものではあるが、カルデアの召喚システムは神域の才が成したもの。その努力、研鑽、そして奇蹟を我は笑わぬ。そして、その細い糸のような希望に応える努力もな。フン───第6特異点までの働き、見事である」

 

ギルガメッシュが人を褒めた。なんて事だ、本当に綺麗なギルガメッシュじゃないか(驚嘆)

 

「だが、それと我の時代の話は別だ。我は貴様らを必要とせん。とうしても我の役に立ちたいと言うのならば、まずは下働きから始める事だ。シドゥリ!こやつらの待遇は貴様に一任する!面倒だろうが、面倒を見てやるが良い!」

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

「という訳で、追い出されてしまいましたね...」

「俺は見どころがあるって話はなんだったんだ」

「仕方ないね。彼はキングだから」

「フォウ!」

 

ジグラッドを追い出された俺達は、そんな事を愚痴りながらシドゥリと呼ばれた祭祀長に案内される事となった。

 

「そう言えばシドゥリさん!白旗っていうのは降参するって意味ですよ!」

「え?ぁ...お恥ずかしい、聞かれていたのですね。先程のイシュタル様のお言葉の意味が分からなくて...」

「白旗って、やっぱ古代じゃ使われない表現なのか?」

「そうですね。少なくとも私は聞いたことがありませんし...。イシュタル様の依り代になった少女の国と、貴方達の国は同じなのかもしれませんね」

 

...なんだろう。今、カルデアでエミヤが悲嘆に暮れた気がしたんだが...。気の所為だろうか?

 

「王は貴方達を不要と言いましたが、無価値、無意味とは言いませんでした。王に話を聞いて貰いたければ、功績を上げるのが一番かと」

「功績というと、魔獣退治等でしょうか?」

「任せろ、修行がてらに全滅させてやる」

「凌太君ステイ」

「唯一王に認められた貴方様ならば戦線加入も十分に可能でしょうが、それは兵士達の仕事です。そうですね...貴方達には市で行われている仕事を見ていただきたい。所謂、何でも屋というものですね。仕事の斡旋は私が手配致しましょう。とりあえずの所は、皆さんを専用の宿舎にご案内致します。どうぞ、付いてきて下さい」

 

という訳で、まずは下働きから始まりそうです。...どうしてこうなった。

 

 

 

* * * *

 

 

 

「皆さん、麦酒は行き渡りましたか?マシュと立香、それから凌太は未成年なので果実水を」

「すみません、私は水がいいのですが...。麦酒は苦くて...」

「俺は逆に酒がいいんだが」

「それはすみません。アナも英霊だと聞いていたのでてっきり...。ミルクでいかがですか?蜂蜜入で甘いですよ?それから凌太は水で我慢してください。未成年の飲酒はここウルクであっても禁止です」

「まさかの」

 

現代から約5000年前ですら未成年飲酒は違法だと言うのか。

 

「それでは、立香達のウルク赴任を祝して、ささやかではありますが歓迎の席を設けたいと思います。いいですね?...それでは、カンパーイ!」

「カンパーイ!......いやぁ旨い!この1杯の為に半日掛けて掃除したようなものだね!」

「ほとんど凌太君がやったけどね」

「オカン直伝の家事スキルだ。エミヤに至っては家事に本気で取り組んだからあの筋肉が出来上がったらしいが...。ま、今はいいや。とりあえず掃除の功績として今日は飲酒の許可をですね」

「却下です」

 

とまあ、有り体に言って宴が始まりました。もはやいつもの事だよね。

 

「今回は我慢しなよ、凌太君。ほら、果実水も結構美味しいよ?」

「そうだぜリョータ!俺っちも酒より果実水が好みだしな!」

「それはお前が酒に弱いからじゃね?」

「ゴールデン!それを言っちゃあいけねぇよ!」

「先輩!このお魚、香辛料も無いこの時代でどうやって味付けをしているのでしょうか!気になります!」

「マシュは楽しそうだね」

「はい!それというのも...」

 

心底楽しい、といった表情を浮かべているマシュが料理から目を逸らして視線を向けたその先には、とある3人の人物がいる。

 

「ささっ!どうぞ金時殿!お噂はかねがね、頼光四天王が1人、その活躍は勇名限りなく!あ、私も源でございますゆえ!」

 

何を隠そう、源義経こと牛若丸である。他にも弁慶やレオニダスといった、カルデアで見た事のある英霊達がこのカルデア大使館(藤丸命名)に集ってきたのだ。...このカルデア大使館にいるメンツで魔獣戦線に出れば魔獣なんて余裕で圧倒できそうだがそれはそれ。考えてはいけないのだ、きっと。

 

「お?なんだ、大将の子孫ってことか?...とりあえず飛び跳ねるのをやめろ」

「金時さんはいつも通りですね。牛若丸さんの服装にタジタジです」

「そりゃあんな軽装じゃなぁ...」

 

オフ時のモードレッドの服装(胸部布1枚)や静謐ちゃんより危なっかしい服装ではある。なにせ鎧が鎧として機能していないのだ。鎧とは身を護るための武具であるのに、彼女のそれは肩と上胸部、それから腰周りを少ししか防衛出来ていない。とりあえず鎧の定義から話し合った方が良さそうだ。

 

 

その後も宴会は続いたが、色々と長かったので割愛。重要な事と言えば、ギルガメッシュが7騎のサーヴァントを1人で召喚 & 現界維持をしているという事と、ウルクの現状、そして偽エルキドゥに関する情報だ。エルキドゥはやはり既に死んでいるらしい。ギルガメッシュ本人がその最期を看取ったとのこと。それ故に、ウルクの誰もがあのエルキドゥを語る何者かを、本物とは信じていないということだ。

 

 

とまあ、少し重い話もした翌日。シドゥリから早速仕事を斡旋され始め、俺達の労働の日々は始まった。

ちなみにマシュ、アナ、マーリン以外の英霊達と俺は交代制で戦線に出るよう、レオニダス大先生からお達しが下ったが、まあそれは別の話だろう。

 

 

 

1日目、羊の毛刈り

 

「............羊が.........」

「......目の前を通り過ぎて行きました......」

「ひどい事件だったね...」

 

羊のモコモコを楽しみにしていたマシュ、アナ、そして藤丸が絶望するという大事件(笑)が起こった。いや、確かに驚いたけどさ。

 

「まさか巫女所の方々がお金を払ってまで毛刈りをするとは思わないでしょ...」

「やはり貨幣制度は悪い文明。予約制とか良くないです...」

 

...まあ、女の子にも色々な楽しみがあったんでしょう(適当)

エウリュアレが項垂れるアナを見て極上の笑みを零すという、既に大分見慣れた光景が広がるなか、肩を落とした3人の影は夜のウルク市内に消えていく...。なにこれ。

 

 

 

5日目、浮気調査

 

「本日の仕事は、まあ有り体に言ってしまえば浮気調査です」

「ほう、浮気調査とな。それは犯人が気になるところだ。なあ?5日間行方を眩ませて遊び歩いていた人妻ニアの道満君?」

「はっは、何の事やら...。ちょ、そんな目で見ないでくれよマシュ嬢。大丈夫だって、その人には手を出してないから」

「その人には、ですか...。お父さんと同じニオイがしますね、芦屋道満さん」

「フルネームやめて、怖いから」

 

と、一応犯人では無いらしい朝帰りの道満と付いて行きたいと言った牛若丸を連れて浮気調査を開始したところ、とんでもない事になりました。

 

 

「た、たいへんな事件でした...」

「たいへんな事件だったねー......」

『まさか奥方が地下に住む謎の種族で、地上世界への進軍を目論んでいたとは...』

「しかも郊外に溶岩地帯が広がってたしな。大冒険だった...そう、一言で表すならハロウィンの時の様な...」

「マスターの為とあらば、再度溶岩を泳ぐ事も吝かではありませんが」

「静謐ちゃんステイ」

『でも悲しい事件でもあったよね...。彼女の愛は本物だった。その愛が世界を救うだなんて...』

「火を吹く愛とか、世界共通だったんだね...」

 

...恐るべきは溶岩水泳部と言うことか(違うことは無いかもしれないが多分違う)

 

「でもほら、だから言っただろう?僕は悪くない!さあマスター、無実の罪を被せた事への謝罪を願おうか。さぁ、さぁ!」

「くっ、イラつく...まあ、すまn」

「あ、道満さん!こんな所に!あの、突然でしかも差し出がましいようですが、出来れば今夜も...。その、旦那は戦線ですし、今夜は帰って来ませんから...。待ってますね!」

「............そう、僕は悪くないはずだ」

「ギルティ」

 

確かにスタイルの良い綺麗な人ではあったが、まさか本当にたったの5日で人妻に手を出していようとは。これは有罪判決待ったなし。

 

「明日からは魔力供給無しでタダ働きだ」

「そんな殺生な!」

 

 

 

15日目、兵士育成・100人組手

 

「真夏の裁定者直伝 ── ハレルヤッ!」

「ぐはァ!」

「悔いッ」

「うぐッ!」

「っ改めろ!」

「「「ぐはぁぁあぁあ!!!!」」」

「先輩、人が飛んでます」

「そうだねー」

「既に見慣れた光景ね。行くわよメd...アナ。私、表通りの屋台に行きたいの」

「えっ、ちょっ」

「アナ、エウリュアレに気を付けてねー」

「あらマスター、それはどういう意味かしら?」

「なんでもなーい。ま、レオニダスの講義は私達だけで受けとくから、夕飯までには帰ってね」

「ええ、分かったわ」

「...それでは、失礼します。...待ってください姉様」

「ふん、出直してきなシャバ僧共!」

「「「「い、いえす、さー...」」」」

「あ、終わったねー」

 

とまあ、権能無しでの100人組手を終えた俺は一息つき、改めてこう感じていた──

 

「──町娘の嗜み(ステゴロ)激強」

「それな」

 

夏場に遭難した影の国の南国島。そこで俺はステゴロの強さを垣間見たのだ。そして真夏の裁定者の戦闘をよく観察し、足捌き等を覚えたのである。なんかもう、彼女はステゴロ派という種類の流派を習得している気がしてならないが、聖人はみんなそんなもんだよなと思い直した。

 

「さてと。兵士諸君!凌太殿は大変(頭と身体能力が)おかしいが、普通は60人程度で限界がくる!だがしかし、そんな時にどうやって戦うかを諸君らには良く学んで欲しい!」

「「「「「うぉおおおーーー!!!」」」」」

 

何このウルク兵達の異常な士気の高さ。

 

「それではこれより頭の訓練です。元気な時程強い、というのは当然のこと。万全な状態の肉体に、出来ない事などないのですから。しかし、戦闘が始まれば“万全の状態”は秒単位で遠ざかっていく。ですので、ベストコンディションの維持より、バットコンディションとの付き合い方を学んで欲しい」

「「「「「うぉおおおーーー!!!!」」」」」

「なるほど、確かに」

「あ、凌太君がレクチャー受けてる。あれ以上強くなってどうするんだろ?」

「凌太さんの目指している場所は分かりませんが、私も講義を受けてきます!マシュ・キリエライト、一味違うシールダーとして帰ってきますのでマスターはそこでお待ちを」

「ほどほどにねー」

「戦場で『あ、やばいな』と感じたらすぐに下がる!そして休息を取る!敵が襲ってきたら即座に起きて反撃すれば良いのですから!」

「えっ、いやそれは...えっ?」

「なるほど、そういう手段もあるのか。勉強になる」

「マスターやレオニダスさん以外は出来ない芸当ですよ、それ。少なくとも私は出来ません」

「静謐ちゃんは出来るんじゃね?ほら、気配遮断とか...」

「出来ません」

「アッハイ」

 

...なんやかんやで俺の戦闘技術(精神面)が強化され、今日の仕事は終了。全く、レオニダス大先生のスパルタ式講義は最高だぜ!

 

『キチガイがキチガイから何かを学ぶと、一体何ガイになるんだ...』

「認識外」

『...なるほど。僕達が認識出来る範囲を超えるんだね、彼は』

 

失礼な、俺はまだ常識人の範疇だ。比較対象が爺さんだし。

 

 

 

 


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