問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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女神ロンゴミニアド

 

 

 

 

 

無事に城内へ侵入した俺達は、獅子王のいるであろう最上階を目指していた。

ハサン達は一旦外に出て、現場の指揮を執っている。アーラシュは消滅、オジマンディアスとニトクリスも随分消耗しているらしく、粛正騎士を相手取れる者が居なくなった為だ。ウリ坊は正門を抜ける際に回収しているしね。

ハサン達と別れ、城内の階段を駆け登っていると、後方から強い気配を感じた。この感じは...、ガヴェインか?

 

『ッ!皆、後ろからサーヴァント反応だ!これは...、』

「ガウェインでしょ、知ってる」

『デスヨネー』

「モヤシも本格的に役立たずね」

「今更じゃろ」

 

イマイチ緊張感が無いが、まあしょうがないネ。

とにかく今はガウェインだ。正直もう時間がない。手っ取り早く片付けるか。

 

「藤丸さん、獅子王は任せた。ガヴェインは俺達が受け持つ」

「OK。すぐ追い付いてね!」

「おう」

 

迷いも無く階段を駆け上がる藤丸さん一向と三蔵、そして藤太。だが、ベディがまだこの場に残っている。何してんだ?

 

「凌太...、私も手を貸しましょう」

「は?」

 

何を言ってるんだこの馬鹿は。

 

「ガヴェイン卿は強い。凌太がいくら強くても、彼をたった3人で抑えるのはキツイでしょう。ですので私も加勢する」

「もう一度言うぞ。は?」

「いえ、ですから。ガヴェイン卿は強いのです」

「だから何」

「...え?」

 

この馬鹿は、俺達がガヴェインに負けると思っているらしい。全く失礼な。

 

「余り俺達を舐めるなよ、ベディヴィエール。ガヴェインくらいすぐに倒して藤丸さんに合流するさ」

「...凌太よ、貴殿は強い。しかし、ガヴェイン卿を倒せると言うのなら、それは驕りだ。私の銀の腕を全力で酷使して、4人でかかっても尚勝算は低い」

「だから、舐めるなと言っている。それに、お前の目的は何だ。打倒・ガヴェインか?違うだろ。獅子王の誤ちを正しに来たんだろうが。だったらガヴェイン如きに足止めを喰らうな。露払いは俺達に任せて、お前はお前の目的を果たせって言ってるんだよ、この馬鹿が」

「なんっ...!」

「疾く往くが良い、銀腕の騎士よ。奏者は負けぬし、余も静謐も付いておる。それに、奏者のなけなしの気遣いする心を無駄にするでない」

「おいネロさんや。なけなしってなんだよ、なけなしって」

「マスターが珍しく気を遣っていらっしゃるのです。ここは素直に好意に甘えるべきかと」

「静謐ちゃんも、珍しくってなんだよ」

 

本当に失礼な奴らだな。というか、俺はどんな奴だと思われてるんだよ。

 

「ですが...」

 

ここまで言われても尚食い下がるベディ。本当面倒な奴だな。いや、優しさから来ている面倒さなんだろうけどさ。

こうなりゃ強硬手段に出るしかあるまい。幸い、ここから最上階までは階段の一本道の直線だ。距離はあるが、出口はうっすらと見えている。

 

── 唐突だけど、アーラシュフライトって楽しそうだよね。いや、俺は乗った事ないけど。

 

「口を開くなよ、ベディ。舌を噛む」

「はい?」

 

言っている意味が分からない、という風なベディを無視して、彼を槍投げの要領でしっかりと持ち上げる。

 

「えっ、いやっ、ちょっ...えっ?」

「吹っ飛べ!『人間投擲(サカモトスローイング)』ッ!!」

「デェェジャァァァヴうぅぅッ!!」

 

時速は...大体200km/h程だろうか?人間ならとっくに息が出来なくなる程度の速度でベディヴィエールは飛翔していった。既に藤丸さんには追い付いているか、もしかしたら追い越している頃か。

 

「ふぅ...、良し!」

「良しではないぞ、カルデアのマスター...!」

 

ベディを投げ飛ばした方向とは逆の階段から、必死の表情のガヴェインがやって来た。

全く、じいじめ、本当に最低限の手助けしかして行かなかったな。ま、正門を素通り出来ただけマシか。

 

「よう。遅かったじゃないか、太陽の騎士様?」

「...ええ、お陰様で...。久しぶりですね、異邦のマスター。そう言えば、貴方の名前を聞いていなかった。改めて名乗ろう。私は円卓、獅子王の騎士、ガヴェイン」

「ほう?獅子王の、ねえ。...まあいいや。俺はカルデア...、いや、“ファミリア”がリーダー、坂元凌太だ。良く覚えとけ」

「“ファミリア”...?カルデアのマスターでは無いのですか?」

「ま、兼カルデアのマスターってとこだな。本業は“ファミリア”のリーダーだよ。正当なカルデアのマスターはもう1人の女の子の方」

「...なるほど。だが、どちらにしろ貴殿を倒さなければならない事に違いはない。我が王の目的の為、あなたにはここで死んでもらうッ!」

 

言い切ると共に、ガヴェインは手に持つ聖剣ガラティーンを一振りする。その余波で彼の回りの空気が霧散し、短期決戦の為に撒いている途中だった毒ガスも払われた。

 

「チッ、気付いてやがったのか」

「二度と同じ手は喰らわない。ハァッ!」

 

毒霧を払った事で調子付いたガヴェインが、低い姿勢のまま突っ込んで来る。だが、こちらも毒霧が防がれた時の場合を想定していなかった訳ではない。槍でガラティーンを受け流し、1度距離を取る。

 

「敵は奏者だけではないぞ、太陽の騎士よ」

 

俺と対峙するため、一瞬ではあるがガヴェインがネロから視線を外し、そこをネロが狙っていく。そして、それに反応しようとして生まれたガヴェインの死角から、今度はクナイの様な短刀が数本迫る。何とかそれにも対応しようと、ガラティーンを持っていない方の鎧の籠手だけでクナイを受け止めようとして生まれた隙を、俺の権能が強襲する。

3人同時攻撃。普段なら、これにエミヤの全投影一斉掃射やモードレッドの宝具なども加わるのだが、今は居ないので仕方がない。それに、あの2人が居なくても、この3人同時攻撃ですら、並の英霊どころかトップクラスの英霊でも全てに対応するのは難しいのだ。神霊ですらも相手取れる同時攻撃を、毒霧を防いだ事で少なからず調子に乗っていたガヴェインにどうにかできるはずも無く。

 

「ごあっ!」

 

無理に全てに対処しようとした結果、ほぼ全ての攻撃を一身に受けた。普通ならこれで終わり、英霊なら消滅しているだろう。だが、ガヴェインは立っていた。獅子王の恩恵とは恐ろしいものだと、常々思わせる。

 

「...威力だけなら、今の攻撃は、我が身に受けた獅子王の聖槍とほぼ同等かそれ以上だ。素直に驚いた」

「あっそ。こっちもお前の異常な硬さに舌を巻いてるところだ」

 

無傷とまではいかないが、想定していたダメージの半分も喰らっていないように見える。本当に頑丈だな、この3倍ゴリラ。

だが、俺の姑息な戦闘方法は変わらない。正攻法でも負けはしないだろうし、時間をかければ勝てるだろう。しかし、今は時間が無いのだ。よって、この戦いは早期決着で済ませる、という最初の目標を完遂する。

 

「ネロ」

「うむ!春の陽射し、花の乱舞。皐月の風は頬を撫で、祝福は(ステラ)の彼方まで。開け!ヌプティアエ・ドムス・アウレアよ!」

 

『招き蕩う黄金劇場』。生前のネロが自ら設計し建設したローマの劇場『ドムス・アウレア』を魔術によって再現したものであり、固有結界とは似て非なる大魔術。己の願望を達成させる絶対皇帝圏であり、1度展開すれば、中にいる者は誰であろうと抜け出せない。別名『世界最古のジャイアンリサイタル』。要するに超我儘空間なのである。ネロらしいね。

 

「最近は歌う暇が無くてストレスが溜まっていたのだ!戦闘中でありながら、そんな余の為にステージ展開を許可してくれるとは。さすがは奏者!」

「...まあ、いいや。やっちゃえ、ネーローカー!」

「うむ!しかと聞き惚れよ!」

「...耳栓、持ってくればよかったかな...」

 

静謐ちゃんが耳を塞ぎながらボソッと呟く。そんな事言ったらダメだよ、静謐ちゃん。ネロに聞こえたら泣いちゃうから。それはとても面倒だ。

 

『世界最古のジャイアンリサイタル』。その名に恥じぬ、立派と言えば立派なネロ単独ライブは、ものの数分でガヴェインがダウンしたため終了した。...ネロって、もしかして音波攻撃系の宝具も使えるんじゃね?ほら、エリザベートみたいなやつ。藤丸さんの話だと、カルデアにいるエリザベートはネロの事をライバルだと言っているらしいし、あながち使えない事も無いのかな?

 

 

 

あ、俺は偶にネロの歌唱練習に付き合わされているのでネロの歌に対する免疫は付いてます。大丈夫、全然聞いていられる。最近は寧ろとても良い歌声だなって感じてきた(末期症状)

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

「憐れガヴェイン、音波に沈む...。アーメン」

「うむ、余の美声に打ちひしがれたか。無理もない。何せ、この余が歌ったのだからな!ふふ、奏者よ、惚れ直しても良いのだぞ?」

「そうだねー」

 

超音波的な歌で三半規管をやられたらしいガヴェインの霊核を槍で穿ち消滅させた後、俺達は藤丸さん達に追い付く為に階段を駆け登っていた。

フラフラになって、顔を真っ青にしたガヴェインを倒すのは簡単でした。

 

それはそうと、あと数十秒で最上階に出る。藤丸さん達や獅子王の気配は既に感じ取っているし、何より戦闘音が聞こえる事から、今現在戦っている事は明らかだ。

...不意打ちで、一気呵成に畳み掛ける?

 

「──じゃ...を......な!に...げん!」

 

微かに聞こえる、獅子王のものらしき声。何処かで聞いたことのあるようなその声の主を、最上階に入る扉の影からこっそりと見る。敵は獅子王、女神にまで登り詰めた存在である。どんな顔をしてるのか、藤丸さん達には悪いがコソコソと拝見させて頂こう。

 

「...ん?」

 

気配を消し、誰にも気取られぬようにそっと最上階を覗く。静謐ちゃんはもちろん、ネロも『皇帝特権』で気配遮断を使用させている。

そして、初めて拝む獅子王の素顔。それは、何処と無く隣の皇帝に似ていて、尚且つ体付きも似ていた。ひょっとしたら体付きの方はネロより凄いかもしれない。

 

薄々勘づいてはいた。獅子王は、俺の知るアルトリアでは無いという事を。円卓の騎士が出てきた時点で獅子王=アルトリア・ペンドラゴンだというのは分かっていた。だが違う。圧倒的に違う。

 

「......乳...上?」

 

兜と共に鎧も一部外したその姿、というよりその胸部に目が行った。行ってしまった。それ程の存在感、それ程の圧力。

 

かつて第5代ローマ皇帝は言った。「女の王ならば、胸は大きく無くてはならぬ」、と。...正確には違うかもしれないが、そんな感じのニュアンスだった。

ネロの暴論を適用させるのならば、彼女は正しく“王”である。

 

 

───要するにお胸が大変ふくよかでいらっしゃる。

 

 

「ロンドンの時も思ったんだけどさぁ...」

 

ポツリ、と藤丸さんの呟いた声が、辛うじて俺の耳に入る。その声には少なくない怒りが込められていた。...何故?

 

「──アルトリアに胸があってたまるかぁ!!」

 

俺の思考が少しズレ始めていた時、藤丸さんのそんな悲痛な叫びが木霊した。...なんだろう、胸にコンプレックスでもあるのだろうか?藤丸さんも小さい方では無いと思うんだがなぁ。

 

それはそうと、今は不意打ちの件である。あのネロに己の存在を隠せなどと言う無茶をさせているのだから、出来るだけ早めに攻撃を加えたいところだ。

そう考えていた時に、丁度邪ンヌが炎で目眩しをし、ノッブが火縄銃で弾幕を張った。これは好機。

 

まるで影の様に、俺と静謐ちゃんが獅子王の背後に回る。ネロにはそんな芸当は無理そうだったので、彼女には乳上に気付かれないように藤丸さんと合流するように伝えてある。

獅子王は聖槍の一振りで邪ンヌの炎を掻き消し、散弾をものともせず馬上に構えている。こちらには気付いていないみたいだな。

ならば、このタイミングを逃す手は無い。

 

「なんッ!?」

 

獅子王の死角から襲い掛かる雷撃、そしてその逆方向から迫る槍の強襲。どちらもまともに受けた獅子王は体勢を崩す。俺の放った槍は彼女の右肩を穿ち、肉を抉り取る。獅子王が右手で持っていた聖槍を落とさなかったのは、素直に誉めるべきだろう。

だが、まだ俺達のターンだ。というか、ずっと俺達のターン。

貫かれた肩を抑え、苦悶の表情を浮かべる獅子王に、今度は短刀が襲い掛かる。それは寸分違わず獅子王の右肩、俺の槍に貫かれた部分を捉えた。そしてトドメだと言わんばかりの『妄想毒身(ザバーニーヤ)』。ほぼ無抵抗で静謐ちゃんの宝具を受けた獅子王は、耐えきれずに馬から落ちた。

馬に乗っているってことは、クラスはライダーか?いや、聖槍を持っているしランサーかもしれない。とりあえず馬は潰しとくか。

という訳で馬とその周囲に雷槍を計12本打ち込み、馬の動きを封じる。

これで残るは獅子王のみ。馬の方が宝具であったとしても、既に馬は使えない。

 

「ふっ...。見たか、俺と静謐ちゃんの不意打ち2連撃。これは立てまい。さあ覚悟しろ獅子王...、いや、乳上!」

『乳上!?』

「アンタ、また馬鹿みたいなあだ名付けたわね...。そんなに大きいのがいいの?」

「違うそうじゃない。胸の大きさなど、まあ少しは判断基準になるかもしれないが、大事なのは中身だ。誰かがこう言っていた。『中身より優れた外見に価値は無い』と。つまりはそういう事だ」

「どういう事よ」

「まあ、吾も女好きだからな。言いたい事は分かるぞ」

「一緒にすんなよ、藤太」

 

倒れ付す敵を前にしてこのダベりである。慢心にもほどがありゃしないかね?いや、事の発端は俺だけど。

 

「聖槍、抜錨──ッ!」

 

一瞬。眼前の敵から本当に一瞬の間だけその場の全員が目を離した、離してしまった。だが、それが致命傷となる。強者との戦いとはそういうものだと知っていながら、俺はまた油断し慢心し...そして、驕った──

 

 

 

───訳ではない。

 

「遅延術式『千の蛇(シュランゲ)』、解放」

「これは──! くッ、離れろ!爬虫類風情がッ!」

 

使い物にならない右手ではなく、左手で聖槍を構えていた乳上に、文字通り千匹の蛇が絡みつく。あの爺さんですら解除に手間取った拘束術式。いくら女神と言えども、そう易々と抜け出せるものでは無い。

 

「ふん。何の為にわざわざ12本も雷槍を投げたと思ってんだ」

「奏者よ、普通そこまでは予想出来ないぞ?」

「気持ち悪い!リョータ、アレ気持ち悪いわ!」

「...爺さんにもそんな事言われたなぁ。そんなにキモい?」

「気ッ持ち悪いわよ!何が嬉しくてあんな大量の蛇を一身に受けなきゃいけないわけ!?こればっかりは本気であの獅子王に同情するわ!」

「えぇ...」

「私は割と好きだよ、蛇。クリクリした目とかよく見たら可愛いよね」

「先輩!?」

「マスターの趣味は理解出来ない部分があるの。ま、儂も別に嫌いでは無いがな」

「理解者がいてくれて助かる。ま、その話は置いといて...。おい、ベディ」

「...なんでしょうか、凌太」

 

蛇の中に沈む獅子王を、割とマジで心配しているような顔のベディに声を掛ける。

 

「なあベディ。俺さ、ずっと考えてたんだけど...、その腕って何?」

「ッ!!」

「?何を言ってるんだい?彼の右腕はマーリンが預けたアガートラム、ヌアザの右腕だろ?」

「違う。何となくだけど、アレは違う気がする。アレから感じる気配は...そう、まるでエクスカリバーだ」

 

はぁ!?、と一斉に声を上げる。まあ、当たり前といえば当たり前だ。

聖剣エクスカリバー。アーサー王の所持する、星が生み出した『約束された勝利の剣』。俺はその本物を見た事があるし、その聖剣を7つに分けたものの一振りも所持している。間違えようがないだろう。

 

「──やはり貴方は鋭い。確かに、この右腕はエクスカリバーです。私が、3度目すらも湖に返せなかった聖剣そのものだ」

 

彼は語る、己の愚かさを。自身が成してきた1500年にも及ぶ旅路の果て、最果ての地にて再開したマーリンの話を。

 

──そして、自身の目的を。

 

「王よ。今は話すことも出来ないが、この剣を返す時がきたようです。貴女は覚えていらっしゃらないでしょうが...、私は騎士王、アーサー・ペンドラゴンの騎士だ。私は貴女を討つ。その過ちを正す為に──ッ!!」

 

騎士は戦う、かつて己の王だった者を討つ為に。

騎士は剣を摂る、自身の罪を償う為に。

 

 

忠節の騎士は、己の生命を代償に、己の生涯を意味あるものへと昇華させた。

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

「...ベディヴィエール卿、消滅。聖剣返還を...確認、しました...」

 

手先から泥土へと変わっていきながら、その生命を燃やしてサー・ベディヴィエールは目的を果たした。獅子王に巻きついていた蛇ごと聖槍を破壊し、かつて果たせなかった王の命を果たしたのだ。

 

『...こちらも特異点の崩壊を確認した。時代を呑み込もうとしていた重力変動は消滅。聖槍の消失によって聖都も消えようとしている。時代の乱れも無くなった』

 

ロマンの言う通り、聖槍の破壊によってこの特異点は復元されようとしている。だが、聖槍を失い、その呪縛から解き放たれた獅子王、アルトリア・ペンドラゴンが戦意喪失しているかと聞かれれば、答えはノーになる。

 

「────。」

「おっと、まだやる気かい?聖槍は破壊され、キミはその呪縛から解放された。もう私達と戦う理由も無いのでは?」

「...王に歯向かう者を生かして帰す道理はない。それに、これを未だ振るっていないにも関わらず、私に勝ったなどと吹聴されるのも心外だ」

「ヤダ、負けず嫌いにも程がある!そこはやっぱりアルトリアなんだね!」

 

カルデアのアルトリアも、余程の負けず嫌いなようだ。まあ、王様なんてどこもそんな感じでしょ。勿論俺もね。

俺も、そして他の皆も臨戦態勢に入った瞬間、三蔵と藤太が消えかけ始めた。

 

「えっ!ちょっと、まだ終わってないんだけど!これからなんだけど!?」

「その通りだ!魔力もまだある。消えるには早かろう!」

 

叫ぶ2人だが、よく考えればこの強制退去は当然の事だ。何せ、聖槍を破壊し、こちらは既に聖杯を取得しているのだから。

程なくして俺達の強制レイシフトも始まろうとしていた。足元から徐々に薄くなっていっている。

だが、アルトリアだけは別だ。彼女は消えない...否、後には消えるが、そのタイミングは今ではない。

 

「──彼女は自力でここまで来た神霊だ。だから、聖槍を失えばそこで終わり。あの獅子王は“ここで終わる”んだ。次に槍を持ったアルトリアと出会っても、それは彼女ではない。聖槍の獅子王は、この聖都と共に滅びるんだよ」

「...そんな...。じゃ、じゃあベディヴィエールさんの行為は、...無駄、だったと...?」

 

「無駄ではない」

 

マシュの疑問に、今までと比べて多少は晴れ晴れとした表情の獅子王が答えた。

 

「かの騎士の行為は無駄ではない。卿の思惑通り、私はこうして解放された。そして私という過ちも、決して無駄ではなかった。嵐の王に成り果てた私にのみ、知り得る真実があったのだから」

 

獅子王は全てを語った。自分が見たもの、ソロモンの偉業、そして、最後の特異点の話を。

 

...ぶっちゃけ頑張らないといけないよ、という事実しか分からなかっただけだが、まあいいだろう。

 

「さて、じゃあ俺達は帰るか。ありがとな、獅子王。そしてすまなかったな。不意打ちなんて、騎士にとっちゃ最悪の戦闘手段だろ」

「構わない。それに、私は騎士王ではなく獅子王だからな」

「そっか」

「リョータ!カルデアに帰ったら、絶対にあたしを喚んでよね!」

「吾も頼むぞ、弟弟子」

「三蔵は大丈夫だろうけど、藤太は保証しない」

「なにィ!?それはどういう意味だ!?」

「聖遺物とか無いし」

「それは三蔵も同じ事であろう!?何故吾だけ!」

「へっへーんだ!残念だったわね、藤太!あたしはちゃーんと、リョータに髪の毛を渡してあるんだから!」

「なんだとぅ!?くっ、このダメ師匠め!そういうところだけはしっかりしよってからに!」

 

そんなグダグダした会話をしながら、三蔵と藤太は消滅した。

...うーん、三蔵達も割とシリアスブレイカーなところがあるよなぁ。

 

「ちゃっかりしねるわね、アンタ。なに?ネロや静謐だけじゃ飽き足らないわけ?」

「何言ってんのお前。飽く飽かないじゃないぞ?俺は、自身のコミュニティの戦力強化が出来るなら躊躇いはしない。それに、三蔵がカルデアに来たいって言ったんだよ。別に俺のところって訳じゃない」

「あっそ。まあそういう事にしておいてあげましょう」

「英雄色を好む、というのじゃし、凌太がはーれむを築いても不思議はないのぅ」

「築きたくない事は無いが、まあ面倒そうだよなぁ」

 

今でさえ静謐ちゃんが暴走しそうな時があるのだ。ハーレムなんて作ったら死人が出てもおかしくない。

まあ、既にハーレムみたいな状況にはなってるんだけどね?

 

 

話が大分逸れたが、これにて第6特異点は終わりを迎える。

 

俺達は、カルデアに帰るのだ。

 

 

 

 


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