問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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最初に謝っておきます。
今回の話は、本当に酷いです。何が、というか、題名通り酷い事になってます。カオス祭りです。


これは酷い...

 

 

 

 

 

 

「これは酷い...」

 

目を覚ました俺が最初に見た光景は、俺達の到着が遅れて助ける事の出来なかった十数名の村人の死体と、ほぼ俺のせいで破壊された家屋の残骸だった。

何でも今から火葬するそうで、死体を1箇所に集めているのだとか。

 

「おはようございます、マスター」

「ん、おはよう...。他の皆は?」

「あちらで作戦会議中です」

 

静謐ちゃんが俺の起床に気付き近付いて来たので、現状を聞く。

マシュの宝具によって、俺の繰り出した技の余波から村人達を守る事には成功したらしい。何処かへと飛ばされたアーラシュ達も無事だったそうだ。

そして今は、アトラス院へと向かう為の話し合いをしているらしい。まあ俺は強制参加デスヨネ。良くは知らないが、アトラス院は危険らしいからな。藤丸さん達だけで行かせる訳にも行かないだろう。

 

静謐ちゃん除く3人のハサンとアーラシュを残して俺達はアトラス院へと向かう事にした。もう一度円卓の騎士が村を襲撃してきた時にアーラシュが自滅宝具を放たなければ良いが...。まあアーラシュ以外に村人を防衛出来る奴がいないのも事実。こんな事ならアルトリアズからエミヤを強奪してくれば良かったな。アイツなら単独行動で数日間は俺からの魔力供給を必要としないし、防衛戦も得意だ。まあ無いものねだりをしても始まらない。アーラシュが宝具を使わざるを得ない状況にならない事を願うばかりだ。

 

 

百貌の話によると、アトラス院周辺は魔物やスフィンクスも跋扈してるらしいし、気合い入れて行くか。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

「きゃあぁぁぁ!!な、なによアンタ達! ちょ、まっ!こっち来ないでよぉ! 獅子の体に人面とか、気持ち悪いわよ! ちょ、ビーム!? 目からビームとか反則でしょ!? ヤメテ、飛び道具はヤメテ! あたしキャスターなんだから! ちゃんと肉弾戦で来なさいよぉ! うぅ、リョータァ、トータァ!たーすーけーてー!」

「ええい、手のかかる師匠だな、チクショウ!」

「全くの同感だ!」

 

砂漠に入り、スフィンクスの姿もチラホラ見えてきた。というか三蔵が連れて来た。キャスターとは肉弾戦をするものなのか、初めて知った。

 

 

 

対スフィンクス戦も大分慣れてきて、今では俺1人でも倒せるようになった。基本、頭を打ち抜けば死ぬ。

襲い来るスフィンクスやゲイザー、キメラなどを悉く蹴散らしていくと、遠くにスフィンクスの群れが見えた。パッと見で約30頭。さすがに全部相手にするのはキツイ。どうしたものかと考えていると、後方から複数の馬の駆ける音が聞こえてきた。サーヴァントの気配も感じるので、円卓の騎士の遊撃部隊だろうか。何にしても今この状況で円卓とドンパチやるのは宜しくない。下手したらスフィンクスも一斉に襲ってくるぞ、これ。

だが、時間は待ってくれないものだ。隠れる場所もないし、第一、迷いなくこちらに向かって来てきるところを見ると、アチラは俺達の気配を察知しているのだろう。ならどこに隠れても無駄だ。静謐ちゃんは気配遮断を使えるが、他は使えない。俺も気配遮断を使えない事は無いが、ランクが低いし、不意打ち程度にしか使えない。

 

「追いついたか。諸君らと間見えるのもこれで3度目だが、リーダーを目にするのはこれが初めてだな。円卓、遊撃騎士ランスロット。王の命により、諸君らの身柄を拘束す、る...?待て、そちらに居られるのは、もしや我が王?それにベディヴィエール卿だと!?」

「余はそなたの王では無いぞ。余は皇帝であり、奏者の嫁だ!」

「召喚時、自分で嫁“王”って言ってた様な...」

「それはそれ、これはこれだぞ奏者よ。細かい事は気にするでない」

「...『奏者の嫁』、ですか...。どちらが正室なのか、そろそろこのローマ皇帝と雌雄を決さなければならないようですね...」

「落ち着け静謐ちゃん。ステイ、ステイだ」

「ほう、嫁ですか...。これは人妻ニアとしての血が騒ぐ」

「殺すぞランスロット卿」

「そうですね。私も何故か、あの騎士はボッコボコにしなければならない、そんな気がするんです。殺りましょう、凌太さん」

「マシュも落ち着いてねー。凌太君に感化されてるよー」

「突っ込まない...、私はもう突っ込まないわよ...ッ!」

「混沌としてきたのぅ。いや、今更か。あの神殺しがいる限りシリアス展開は有り得ない、という事か。是非も無し」

「ノッブとか、俺以上のシリアスブレイカーじゃないですか、ヤダー」

「何を言う。儂はシリアス成分だけで出来ているといっても過言では無い、第六天魔王こと織田信長であるぞ!そんな儂がシリアスブレイカーとか、有り得ないじゃろー?全く、最近の魔王は。まず態度がなっとらんよ、態度が。先輩魔王である儂をもっと敬わんか」

「そうよリョータ! トータもだけど、師匠であるあたしをちゃんと敬って!」

「...もう、何も言わんよ。後は頼んだぞ、弟弟子(りょーた)

「丸投げ!?」

 

 

まさに混沌(カオス)。もはや追いかけてきたランスロットまでもを巻き込んでの大混沌である。収拾なんてつかないよね。

 

そう誰もが、主に俺が収拾をつける事を諦めかけたその時、勝利の女神が降臨なさった。

 

「何をやっているのですか、この不埒者ども! ここが太陽王ご執心の地と知っての狼藉ですか!」

 

スフィンクスの群れの上空に、巨大ニトクリスが現れたのだ。魔術的なホログラムか何かだろうか?それでもまあ、これで流れが変わる筈!

 

「不敬ですよ!」

「きた、巨大ニトリきた!これで勝つる!」

「ふ・け・い! ですよッ! 誰がお値段以上ですかッ!」

「ファラオが日本の大手家具企業を知ってるの!?」

「くっ、ニトクリスならこの混沌も収めてくれると思ったのに、更にグチャグチャになる予感...ッ!」

「なんですか! 人がせっかく助け舟を出して上げようとしているのに!」

 

どうやら、無闇矢鱈と場を荒らしに来た訳では無いらしい。だったらそのお言葉に甘えて、さっさとこの場をおさらばしよう。

 

「全員走れ! 目標、スフィンクスの群れ! 襲ってきた奴は片っ端から沈めてやるから、何も気にせずアトラス院まで突っ走れ!」

 

俺の号令に従い、全員が一斉に駆け出す。もちろんランスロットも追ってきたのだが、何故かスフィンクス達がランスロットの足止めをしてくれている。さすがファラオ、俺達に助け舟を出したという言は本当だったらしい。今度会ったらお礼言っとこう。

 

「そのまま殺っちゃって下さい、スフィンクス!」

「何がマシュをそこまで突き動かしてるの!?ねえ正気に戻って、マシュ!」

 

...逃亡しながらマシュが危ないことを口走っていた。必死になってマシュを宥める藤丸さん。というか、マシュは本当にどうしたのだろうか?

 

と、そんな馬鹿な事をやっていたマシュと藤丸さんがきえた。というか落ちた。そして三蔵、藤太、ベディも落ちていく。

...気付かなかった。穴が、魔術で偽装されてたのか。

そう気付いた時には、地上に残っていた俺達も落とし穴へとフォールンダウンしていた。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

「いつつ...。お尻から落ちてしまいました...。み、皆さん、無事ですかー?」

「出席番号1番、藤丸立香、います...」

「華麗に着地しました。ベディヴィエール、ここに」

「...苦厄、舎利子色不異空...。はい...玄奘三蔵、ちゃんと出席してますー...」

「凌太、とりあえず無事だ。他の奴もちゃんと落ちてきてる」

「フォーウ...」

 

点呼確認をしつつ、真っ暗なこの空間で必死に目を慣らしていきつつ、敵がいないかと気配も探る。

...知らない気配が1つ。だが、悪い感じはしない。敵意はないだろう。まあ油断なんてしないが。

槍を取り出して構えつつ、知らない気配がする方へと向き直る。

 

「ふむ、全員無事だったらしいね。それは僥倖。今灯りを付けよう。目がチカチカするだろうが、そこは我慢してくれ」

 

知らない気配の人物はそう言って地下空間に火を灯していく。浮かび上がってきた地下空間はまるで迷宮(ダンジョン)。石垣の様な造りで、いくつもの通路が施されている。

そして室内の装飾等がハッキリと見えて来ると同時に、知らない気配の人物の姿も明らかになってきた。

 

「やあ、こんにちは諸君。そしてようこそ、神秘遥かなりしアトラス院へ! 私はシャーロック・ホームズ。世界最高の探偵にして唯一の顧問探偵。探偵という概念の結晶、“明かす者”の代表── 君たちを真相へと導く、最後の鍵という訳だ!」

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

いきなり俺達の前に現れた男、シャーロック・ホームズ。コナン・ドイルの推理小説の主人公、架空の探偵を名乗るこの男、とても胡散臭い。何を考えているのか分からないし、第一、シャーロック・ホームズって実在するのか?

 

そう思ったのだが、サーヴァント界では架空の人物が英霊となる事もあるらしい。藤丸さん達の話によると、4つ目の特異点ではあの連続殺人鬼である『切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)』が集合思念体という形で現界し、更には絵本までもが英霊化していたらしい。

それを考えると、探偵の祖とも言える程に知名度の高いホームズが英霊として存在していても不思議ではないのかもしれない。

 

その後ホームズが、バベッジからの依頼がどうとか、人類史最大の殺人事件がどうとか、その他にもなんか色々言っていたが、正直あまり理解出来なかった。というか誰だよ、ミスター・バベッジって。藤丸さん達は知ってる風だから大丈夫なんだろうけどさ。

そして、なし崩し的にホームズと行動を共にする事になった。ホームズはイマイチ信用ならないが、まあ裏切ろうものならばその場で殺せば良いか。

そう思い、アトラス院の中央部へと足を運ぶ事にした。道中自律型防衛飛行ゴーレムが俺達の進行を阻んだが、戦力差的に見ても俺達が負ける要素は無い。サーヴァント8人(ホームズ除く)+俺だからね、仕方ないね。

襲い来るゴーレムを蹴散らしながら進むこと数十分。随分長く歩いた末に、俺達はようやくアトラス院の中央部へと辿り着いた。

 

「ここがアトラス院の中央部...。先輩、見てください!地下なのに空があります!」

「ホントだ! それに、この部屋の感じ、カルデアの管制室に似てる?」

「中心にあるのはあのオベリスクがアトラス院最大の記憶媒体、擬似霊子演算器トライヘルメス。カルデアに送られた霊子演算器トリスメギストスの元となったオリジナル品だ。だから、カルデアと造りが似ているという訳だね」

「オリジナル...、これが...!」

 

何やら驚いている藤丸さんとマシュだが、正直どうでも良い。さっさと用事を済ませようよ。

そんな俺の思考を読んだのか、ホームズがツカツカとトライヘルメスへと近付いて行った。

 

「さて、アクセス権は既に入手している。本来ならスタッフに一声かけるところだが...、見ての通り、完全な無人だ。申し訳ないが、勝手に使わせてもらおう。──ではトライヘルメス、冥界を飛ぶ鳥よ!私の質問に答えてもらおう!あらゆる記録、記述から抹消されたある事件。2004年の日本で起きた、聖杯戦争の結末を!」

「聖杯戦争!?まさか、特異点Fの事ですか!?」

「ああ、そうだ。私が幾ら探っても、その聖杯戦争について出てきたのは7人のマスターとサーヴァントの真名だけ。勝者の名は分からなかった。──っと、そんな事を言っている間に回答が返ってきた。2004年、日本で起きた聖杯戦争。その勝者の名はマリスビリー・アニムスフィア」

「っ!?まさか、所長の...?ってことは、前所長は聖杯を手に入れていた?」

「Yes。そして不可解な事がもう1つ。彼には1人の助手が居たのだよ。その人物は翌年、特例としてカルデアのスタッフに招かれている。22歳で医療機関のトップとは恐れ入る」

「...Dr.ロマン...、ロマニ・アーキマンですね?」

「それもYesだよ、ミス・キリエライト」

 

...ふむ。雲行きが怪しくなってきたな。ロマンは悪人には見えないが、先日の初代ハサンの発言の事もある。ロマンは確実に何かを隠しているだろうな。それも、この『人理焼却』という大事件の核心に触れる様な何かを...。

 

まあ、ロマンが自分から言い出さないならばそれでも良い。俺の直感はロマンが悪人ではないと告げているし、もし仮に俺の直感が外れていたとしても、その時はその時だ。俺は目の前の敵を倒すだけ。ロマンが敵であるならば、その時は全力を以て叩き潰し、そして俺の経験値の糧とするまでだ。

 

 

 

 

 

「──さて、次の謎を解き明かす前に...。ミス・キリエライトへの回答も返ってきた。ついでのようで悪いのだがね」

「私への...ですか?あっ、もしかして私に力を貸してくれている英霊の真名ですか?」

「その通り! 確証が無いので明言はしなかったが...、今は事実として伝えられる。聞き止める覚悟はいいかな、ミス・キリエライト?」

「待ってください!それは本人が自分で気付くべき事柄です!我々が口を出す事ではない!」

「いいや私は打ち明ける!誰もが正解に気付いている以上はね!その上で真実から逃げるのは愚か者のする事。ミス・キリエライトは愚者なのかね?答えはノーだ!」

「ッ!しかしながら、我等円卓の騎士として...」

 

「グダグダやってないでさっさと言え」

 

ごちゃごちゃと口論するホームズとベディだったが、俺の一言で静まり返る。というかもうそろそろ長話は疲れたんだよ。言うなら言え。

 

「...色々と台無しだよ、凌太君...」

「お主、皆が思っていても言えなかった事をサラッと言いよったな。さすがシリアスブレイカー」

 

シリアスブレイカーでも何でもいいからさっさと済ませて欲しい。まだ俺達の位置はバレていないとは言え、いつランスロットが追いついてくるか分からないのだ。こんな狭い地下空間じゃランスロットに軍配が上がる。出来るだけ早く地上に上がりたい。

 

「...良いのでしょうか、マスター...」

「まあ、ロマンが足りないけど...良いんじゃない?」

「そう、ですね。もう少し、特別なものが良かったです...。教えてください、ミスター・ホームズ。私の真名を。この盾の、本当の名前を」

 

そう言ったマシュの目には決意が篭っている。まあ、これで宝具の解放が出来るかもしれないし、出来なかったとしてもそれは何の問題もない。この真名明かしにはプラスの事柄しかないのだ。

 

「──了解した。では探偵らしく、全ての種明かしといこう。そもそもカルデアはどのようにして英霊召喚を安定させたのかだが...」

「そういうのいいからさっさと言わんかい。こちとら急いでんだよ。チンタラ説明している間にランスロットが駆け込んできたらどうすんだお前」

「...探偵をなんだと思っているのかな、ミスター・サカモト。まあいい。確かに、ここでサー・ランスロットと戦闘になるのは避けた方が良さそうだ。本来私達探偵が種明かしの前に言うものではないが、結論を言おう。ミス・キリエライト。君に力を貸してくれている英霊、その真名はギャラハッド。円卓の騎士の1人にして、ただ1人聖杯探索に成功した聖なる騎士だ」

 

 

俺の催促により、ロマンもへったくれもなく真名が明かされたのだった。

...いや、マシュには悪いと思うけど、ランスロットが来たら本当にキツイし、何より長話は疲れたんだよ。俺だけじゃなく、この場にいる全員が。

 

 

まあ、ごめんね、マシュ。

 

 

 

 


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