問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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ぎゃてぇ!

 

 

 

 

 

 

 

何だかんだで儀式が終わったので、俺は廟の外に避難していた皆を呼び戻しに行った。

 

『さっきのアレ、観測魔力値が上級宝具の10倍以上あったんだけど...』

「ダメだよ、Dr.ロマン。凌太君の蛮行について深く考えちゃダメ。感じなきゃ」

『考えるな。感じるんだ、か。なるほど、その通りだ。凌太君という規格外なキチガイの事は考えても答えなんて無いもんね』

「喧嘩売ってんのかお前ら」

 

規格外なキチガイとか、一体俺は何者なんだよ。

 

「次からあの技を使う時はあらかじめ一言かけろよ、奏者。でないと余達も巻き添えを喰らってしまうではないか」

「あ、うん。それは本当にごめん」

「すいません。もう1人の私のせいで...。本当にすいません」

 

責任を感じたのか、静謐ちゃんは平謝りを続けている。

呪腕は俺のした蛮行について、ただただ怯えていた。

 

 

 

「よくぞ我が廟に参った。山の翁、ハサン・サッバーハである」

「あ、それもう1回言うんだ」

 

みんなを連れて廟に入ると、山の翁がもう1度自己紹介をする。以外と良い奴なのかもしれない。まあ、静謐のハサンを精神支配した事は決して許さないが。

 

「剣士...?山の翁の初代が剣士なんて...」

『いや、驚くのはそこじゃないぞマシュ。そのサーヴァント、そのアサシンは...、まさかグラ──』

「無粋な発言は控えよ、魔術師。汝らの召喚者、その蛮勇の値を損なおう」

 

そう言って、山の翁はその大剣を一閃する。その斬撃は立体映像のロマンを真っ二つに斬り裂いた(・・・・・)

 

『あわわ、ごめんなさーーい!!...あれ?どうなってるんだ、映像がこないぞ!?』

 

...こりゃ驚いた。こいつ今、概念そのものを斬ったのか?もしかしてさっきまでの斬撃もそのつもりで放ってた?...死ななくて良かった...。

というか「汝らの召喚者」? ロマンは召喚される側じゃないはずだが...。

 

「...初代様。恥を承知でこの廟に訪れたこと、お許し頂きたい。この者達は獅子王と戦う者。されど、王に届く牙があと1つ足りませぬ。どうか...どうか、御力添えを。全ては我らが山の民の未来の為に」

「...2つ、間違えているな。以前と変わらぬ浅慮さだ、呪腕」

「...と、申しますと?」

「魔術の徒、汝らに問う。獅子王と戦う者──これは(まこと)か?汝らは神に堕ちた獅子王めの首を求めている。その言に間違いはないか?」

「それは...違う、かな」

「立香殿!?」

「...もう1人は?」

「別に獅子王の首なんかに興味は無い」

「凌太殿まで!?」

 

何やら戦慄している呪腕だが、本当に興味が無いのだから仕方が無い。敵として眼前に立ち塞がるのなら容赦なく殺すがな。

 

「牙が1つ足りぬ、と申したな。果たして、あと1つで良いのか?」

「...正直、ハサン達じゃ全然足りない」

「立香殿...!?」

「──汝らは、知らなくてはならぬ。獅子王の真意、太陽王の戯言、人理の綻び。そして、全ての始まりを。それが叶った時、我が剣は戦の先陣を切ろう。太陽の騎士、ガヴェインといったか。我が剣は猛禽となりてあの者の目を啄もう。我が黒衣は夜となって聖都を呑み込もう」

「ごめんなさい骸骨の人!全然言ってることが分からない!もうちょっと分かりやすく言って!」

「ちょ、三蔵ちゃん!骸骨の人て!せめてキングハサンとか...」

「先輩!キングハサンも失礼かと!」

「良い。好きに呼ぶが良い。我が名はもとより無名。拘りも、取り決めも無い」

「えっ...。じゃあ『じいじ』で!」

「どうします、信長?ウチのマスター、とうとう可笑しくなりましたよ?」

「落ち着け黒聖女。元よりマスターは可笑しいじゃろ」

 

...イマイチ締まらないなぁ。

 

「──砂漠のただ中に異界あり。汝らが求めるもの、全てはその中に。砂漠においてさえ太陽王めの手の届かぬ領域。砂に埋もれし知識の蔵。その名を、アトラス院と言う」

 

 

 

* * * *

 

 

 

「はぁー、やっと太陽の下に戻ってきたー!色々あったけど、皆無事で何よりだったわね!」

「うむ。初代様の協力は得られましたな。しかし、まさかこの首が繋がっていようとは」

「全くだ。危うくもう1ラウンドおっ始めるところだったな」

「凌太殿、あれは本気で寿命が縮むので勘弁して貰いたい...」

 

とまあ、現在皆で下山中です。

行きは2日かかったが、帰りは急げば日が暮れる前に下山出来そうだ。

 

『──ザ、ザザ...、あ、やっと通信が元に戻った!一体どうなったんだい!?立香ちゃんの状態はモニター出来てるんだけど、音も映像も拾えていない。事の顛末を教えてくれると助かるんだが』

「実は カクカクシカジカ...」

 

唐突に復帰した通信の向こうからくるロマンの要望に丁寧な説明で答えていくマシュ。

暫くすると説明が全て終わる。

 

『うーん、その時代のアトラス院かぁ...。いや、オジマンディアス王の砂漠は紀元前なんだっけ。だったら魔術協会が出来る前のアトラス院って事だよね。危険だろうなぁ...』

「先輩がアトラス院に行く事、ドクターは反対ですか?」

『え、何で?行こうよ、アトラス院。そこに行けば獅子王の真意、円卓の目的が分かるんでしょ?なら止める理由はない!』

「...意外です。極めて危険ですので、てっきりドクターは反対するものと思っていました」

『そりゃあ危険だろうけど、危険じゃない特異点なんて無いからね。それにそこには凌太君が居るんだろう?目には目を、歯には歯を、規格外には規格外を、ってね』

「やっぱお前喧嘩売ってんだろ」

 

もはや話し合いなど不要。帰ったらお仕置きだべぇ。

とまあ、そんな他愛もない話をしながら俺達は順調に山を下り、東の村へと向かう。

下ること半日。日も暮れて辺りが薄暗くなってきた頃、俺達は村のすぐ近くまで来ていた。帰りは楽だったと、皆が一息ついたところで藤太がある事に気付く。

 

「──待て、なんだあれは!どうなっている!?」

「藤太殿、何かおかしなものでも?」

「そうか、お主達にはまだ見えぬか!火だ!村から火の手が見える!あれは──聖都の騎士たちだぞ!?」

「ッ!」

 

藤太の指摘で、俺は両眼に魔力を込めて視力を上げる。すると、藤太の言う通り村に複数人の粛正騎士が確認できた。アーラシュが居たはずだが、彼の姿は今のところ確認出来ない。まさかやられた...?いや、アーラシュ程の大英雄がそう簡単に敗れるわけが無い...。となると、もしかして円卓の騎士が2人以上で攻めてきた?

 

「立香殿、御免!先行いたしまする!静謐は立香殿の護衛を!凌太殿、それにサーヴァントの皆、伏してお願いする...!村の者の救助を...!」

 

それだけ言い残し、呪腕は村へと駆ける。

え、てか1人で行ったら死ぬぞ呪腕。

 

「言われるまでも無いわ!行くわよ、トータ、リョータ!」

「うむ!我らは村の東に回ろう!」

「え、俺も?」

 

俺の師匠(仮)に強制連行され、俺も村の東に回ることに。ネロと静謐ちゃんも着いてきている。

 

走って5分程。漸く村に到着し、目に付いた騎士から順に屠っていく。

 

「ええい、アーラシュ殿は何をしている!?あの御仁が居ながら敵の侵入を許すとは!」

「この村からアーラシュの気配は感じない。どこか遠くに飛ばされたか、或いは消滅したか...」

 

俺達は着々と騎士を消していき、そんな愚痴を零す。

愚痴を零しながらも全ての騎士を消滅させると、丁度藤丸さんが村に到着した。

そして、彼女らを襲う複数の斬撃も見受けられる。

一応、全てマシュが防いでいるようだが...、なんで然も当然かのように斬撃を飛ばすんだ英霊ってやつらは。普通無理だろ、そんな芸当。

今斬撃を飛ばしているのは赤髪の男。竪琴のようなエモノを構え、弦を弾く事で斬撃を生み出しているっぽい。なんで楽器から斬撃が放たれるんだよ(憤慨)

 

「ほわぁちゃーーー!!」

「ぬぅん!」

 

何やらベディと話していた赤髪の男へ三蔵と藤太が攻撃を仕掛ける。別方向から呪腕も攻撃してきた。

周りを確認すると粛正騎士は全滅、残るはあの赤髪だけとなっている。

 

「──不甲斐ない。このような雑魚も足止め出来ないとは...。粛正騎士達の性能をもう一段階上げてもらわなくてはいけませんね」

「寝言は寝てから言いなさい!貴方、無事では帰さないわよ、トリスタン!」

「円卓の騎士、トリスタン。貴様だけは決して許さぬ...、石榴と散れ!」

「許さないのはこちらも同じです、山の翁よ。我が王はあなた達を赦しはしない。あなた達が邪魔だてしなければ、我らの計画は既に完遂されていたのだから。──時が来ました。見上げなさい、西の空を。その酬いを、無念と共に受け入れる時です」

「な、なんだと...。まさか、まさか...ッ!」

 

赤髪の騎士、トリスタンが西の空の方角を示す。すると、光の柱のような何かが落ちているのが確認出来た。そして──

 

「...そん、な......」

 

全員に戦慄が走る。

当たり前だ。だって、たったの一撃で西の村が消え去ったのだから。

...ごめん。皆驚いてるところ悪いけど、俺もさっきアズライールの廟で似たような事しようとしてた。

 

「これが獅子王の裁き。聖槍ロンゴミニアドによる浄化の柱。──悲しい。何の理由もなく、言葉もなく、ただそこに在るだけで美しいものは、こうも悲しい」

「卿──卿らは正気なのか!?これが、こんなものがアーサー王の所業だと、そう言うのか!?」

「無論!正気でなくて粛正が許されるものか!ヒトを残さんが為、我が王は聖断された!裁きに情があってはならない。彼の王は、ついに人の心を完全に切り捨てたのだから!」

「......!」

 

...なんか、俺を置いて勝手に盛り上がってるところ悪いんだけど、そろそろ攻撃してもいいかな?いいよね?よしやろう。

 

雷砲(ブラスト)ォ!」

「なっ!」

 

不意打ち上等。ベディとトリスタンが話している間に、トリスタンへと攻撃を仕掛ける。トリスタンもまさかこのシリアスなタイミングで攻撃されるとは思っていなかったのか、モロに攻撃を喰らった。

 

「...アンタ、本当に空気読めないわよね」

「奏者は空気が読めない訳では無いぞ? 空気を読んで、その上で空気をぶち壊しているのだ」

「余計にタチ悪いわよッ!」

『流石最強のシリアスブレイカー...。僕達に出来ない事を平然とやってのける。そこにシビれる、憧れるぅ!』

「喧しい」

 

ロマンに突っ込みながら槍を構える。雷砲が直撃したからと言っても、その程度で倒れる程円卓の騎士は甘くない。

爆煙の中から出てくるトリスタンを目にし、俺だけでなくその場の全員が一斉に構えた。

 

「...私は悲しい。まだ我らに抗うのか、異教徒」

「うん」

 

言いながらアッサルの槍を投擲。俺は頭を狙ったのだが、トリスタンは上手く避け、槍は彼の右腕を穿つ。殺り損ねはしたが、まずはトリスタンの右腕を吹き飛ばす事が出来た。次は左腕か。

 

「くっ...! ──痛みを歌い、嘆きを奏でる。『痛哭の幻奏(フェイルノート)』ッ!」

「ふん。──三千世界に屍を晒すが良い...。天魔轟臨!これが魔王の『三千世界(さんだんうち)』じゃあ!!」

 

竪琴から放たれる無数の斬撃と、種子島式改造火縄銃の銃弾がせめぎ合う。右腕が無いのにノッブと撃ち合っているあたり、トリスタンは相当な弓の腕の持ち主なのだろう。もしかしたらアーラシュとも撃ち合えるかもしれないな。

 

「そのまま持ち堪えなさい、信長! ──これは憎悪によって磨かれた、我が魂の咆哮。『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』ッ!」

「ぐぅ...!」

 

信長との撃ち合いで手一杯だったトリスタンは、邪ンヌの宝具を無防備の状態で喰らう。うわー、あれは痛いわ...。黒炎で焼かれた後容赦なく串刺して...。

 

「──...ああ。...少々長く、この世界に居過ぎたようだ...。...ベディヴィエール卿、いや、友よ。我らが、王を......」

「トリスタン卿...」

 

流石に限界だったのか、トリスタンは光の粒子となって消滅した。ベディが感慨深そうな表情を浮かべているが正直そんな場合じゃない。さっきの光の柱、俺達の方にも来てるぞ。

 

『1戦終えたばかりで申し訳ないけど、上空に高密度の魔力反応を感知!皆、一刻も早くその場から離れるんだ!』

「いやいやロマンよ。村人助ける為に騎士を倒したのに、その村人見捨てて逃げるとか有り得ないでしょうよ」

『うっ...、確かに...。で、でも!ここで立香ちゃんに死なれたら困るんだ!』

「...初めから分かってた事だろ?このままじゃ全滅だ。あちらさんが本気を出せばこうなるのは目に見えていただろう?」

 

背後から、そんな声が聞こえた。バッ、と後ろを振り返ると、そこには──

 

「ア、アーラシュ殿!?」

 

血だらけのアーラシュが立っていた。

 

「よっ。すまん、ドジをした。あっさりやられて谷底に落ちちまった。...はあ、2日は持たせると言ったのにこの始末だ。文句、苦情、叱責はじゃんじゃん言ってくれ。──まあ、それは後か。失態は見せたが、最期に見せ場は残っているな」

「おい。矛盾って言葉知ってる?後で説教してやるから、今はその傷治せ。ネロ、スキル使って回復」

「うむ、任せろ。ブーケごと受け取るが良い!」

「おっ...?」

 

ネロのスキル『人に愛を』。理論は全くの不明だが、何故か回復効果のあるスキルだ。他にも『天に星を』や『地に花を』といった補助スキルを持っているネロだが、その一切が俺に通用しないので今まで殆ど使った事がない。

 

「さて。察するに、最期の力であの光の柱を防ぐつもりだったんだろうが、別にアーラシュが死ぬ事はない。俺がやる」

「...死ぬ気か?」

「ちょ、え!? 死んじゃダメだよ!? 凌太君がここで居なくなっちゃったら、この後私達だけでどうしろと!?」

「俺の存在価値とは。戦う以外は必要とされてないのかね?」

「あ、いや別にそういう意味じゃ...」

 

そんな冗談を言いながら、自身の全魔力を一点に集中させていく。残り魔力全てを注ぎ込めばなんとかなるだろ。

 

「皆下がっとけ。マシュは村人が避難してるっていう洞窟を守るように宝具展開。飛ばされんなよ?」

「え?」

「ネロ。必殺技出すから、皆の避難誘導は頼んだ」

「任せよ!さあ皆の者、さっさと洞窟まで往くぞ。でないと谷底まで飛ばされるのでな」

「え? え?」

「急いで下さい、マシュ。マスターはやると言ったらやる御方。ここでは巻き添えを喰らう」

「え?ちょ、え?」

 

疑問を持つマシュを連れて洞窟へと向かう一向。藤丸さん達も疑問符を浮かべながらもネロと静謐ちゃんに付いて行く。

藤太とアーラシュは何故か残ったが、まあ見届人がいても良いだろう。飛ばされないようにと、しっかり釘を刺しておく。

 

「さてと、じゃあやるか。──迸るは閃光、神をも屠る我が紫電。来たれ神滅の雷、神苑の雷霆。天を駆けよ、地を穿て。我が敵を死の灰に」

 

迫り来る光の柱に向かって、本来上から放たれるこの技を下から撃つ。上から撃ったらここらの山ごと消え去るからね。

 

「これは...。この圧力は、一体...」

「とてつもない魔力が渦巻いてやがるな...」

 

後ろで何やら酒盛りをしながら話をしている藤太とアーラシュを横目で見ながら、更に魔力を練る。出し惜しみは無しだ。ぶっ倒れる覚悟でこの一撃を放つ。

 

「──奔れ。『振り翳せり天雷の咆哮(ネメジス・アルピルク)』ッッ!!」

 

轟音と眩い光を伴った人知を超えた暴力の渦。理論上は神すらも塵芥と化す必殺の一撃。まあ、爺さんは普通に耐えたので、必殺などとは言えなくなったのだが。封印的なアレで威力も以前より落ちているのだが、それでも十分な威力を誇っている。証拠に、聖槍ロンゴミニアドの光の柱を打ち消す事に成功した。相殺では無い。単純な威力という面では完全に勝った。

 

技の反動で村は半壊、余波で飛ばされないようにと釘を刺していたアーラシュと藤太も何処かへ飛ばされたようだ。これは酷い。

 

「でもまあ、いっかぁ...」

 

そう言い残して、魔力を使い切った俺は膝から崩れ落ち、そのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 




別に、アーラシュとオジマンを共闘させてしまっても構わんのだろう?

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