問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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⚠注意─この作品は、作者の独自解釈が含まれています。




アッくんとじいじ。

 

 

 

 

 

『みんな、早くそこから出た方が良い。上にはアグラヴェインも待ち構えているんだ。急がないと百貌のハサンと信長が危ない』

「そうだね。凌太君、静謐ちゃんは任せていい?」

「おうよ」

 

俺は未だ足元がふらついている静謐ちゃんを担ぎ、その場を後にしようとする。するとそれを見た静謐ちゃんも俺に擦り寄ってきてそれに静謐ちゃんが対抗し更には静謐ちゃんがそれに対抗し...etc.

 

...もう自分で言っていて何が何だか分からない。

 

「あ、凌太君の頭がショートした」

「奏者ー!!」

 

カオスすぎる。ただただカオスすぎるぞこの状況。

 

『大分面白そうな状況だけど急ぐんだ凌太君。百貌のハサンと信長公だけではいつまで耐えられるか分からない。すぐに合流して、休めるところまで一気に退散しよう』

「それは急性というものだ。休息ならばここで取っていけばいい」

「...!」

 

俺が殴り飛ばした扉の方から、1人の黒い騎士がやって来た。彼の後ろには複数人の粛正騎士の姿も確認できる。察するに、あいつがアグラヴェインなのだろう。静謐ちゃんズの事で頭がいっぱいだった為、敵の接近に全く気が付かなかった。というか、こういう時こそロマンの出番だろ。

 

「こんにちは諸君。そしてようk...」

「アッサルの槍!」

 

アグラヴェインが何かを言い終わる前に、俺の放った槍がアグラヴェインの肩を貫く。

敵が口弁を垂れる前に不意打ちの先制槍投擲。これ常識。

 

「走れ!一気に抜けるぞ!」

 

粛正騎士を3人纏めて殴り飛ばしながら、皆の退路を切り開く。

アグラヴェインからは特別強い力は感じられない。恐らく獅子王からの“恩恵(ギフト)”とやらを受けていないのだろう。それが己の力量に対する過信から来ているのか、それとも他の理由があるのかは知らないが俺達にとっては好都合だ。しかし、如何せん此処は場所が悪い。地下で俺が全力で闘おうものならば、俺達は仲良く生き埋めだ。俺だけなら別に構わないのだが、今は弱っている方の静謐ちゃんと藤丸さんがいる。なのでそんな無茶は出来ない。

 

「邪ンヌ、そっちの奴ら全員焼け!」

「はぁ!?なんで私がそんなこと。あんたが自分でやりなさいよ!」

「バッカお前、俺はこっちの奴らをやるんだよ!手伝えっつってんだ!」

「邪ンヌ、凌太君の手助けお願い!」

「チッ...。貸し1つですよ、坂元凌太!」

「おう。マスターの命令には素直なのな、お前」

「うるさいッ!」

 

最初の槍で肩を貫かれたアグラヴェインは未だ動かず、部下である粛正騎士に指示を出すに留まっている。

アグラヴェインさえ動かなければ、こちらも全力で戦わずに済む。生き埋めにはならないだろう。

 

「藤丸さん達は離脱出来た?」

「ええ、今は既に砦の外へ出ているそうよ!」

「分かった、俺らも退くぞ」

 

煙幕と時間稼ぎの為に拷問室の唯一の出入口を破壊し、出口を無くす。これである程度は時間稼ぎが出来るはずだ。いくらアグラヴェインが“恩恵”を受けていないと言っても、円卓の騎士というだけで相当の実力者だと分かる。このまま地上で戦っても勝てるだろうが、こちらに被害が出ないとは限らない。それに、藤丸さんの方針でここからすぐに離れなければならないのだ。

 

俺と邪ンヌが急いで地下牢を抜けると、外では既に馬を用意し終えている藤丸さん達が待っていた。

 

「急げ奏者!」

「邪ンヌは馬に乗って!静謐ちゃんズは毒があるから凌太君が連れて行ってね!」

「了解。行くぞ『トニトルス』」

 

そうしてアグラヴェイン達が上がって来る前に砦を離脱。一気に山まで駆ける。いや、俺は飛んでいるけど。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

「サルゥ、酒を持てぇい!! 宴じゃぁー!!」

(おれ)はサルではないが...、まあいい。さあ、呑め呑めぃ!」

 

という事で宴が始まった。楽しい。

 

 

一晩中馬を走らせて西の村に辿り着いたら、藤太殿が自身の宝具で米を大量生産したのである。藤太殿マジリスペクトっす!!

米を炊き、そこらにいた動物を狩って肉料理を用意し、そして米を発酵させた酒、米酒も大量に用意した。これはもう宴待った無しである。

 

「いやはや、天晴れな飲みっぷり!1升を一息とは、アーラシュ殿と凌太殿も中々イケる口ですな!」

「いやいや、藤太殿こそ!なんと気持ちの良い食べっぷりか!」

「ワハハハ!2人とも、流石は歴史に名を残す大英雄!その名に恥じぬ飲み食いっぷりだ!」

 

女が3人寄れば文殊の知恵、男が3人寄れば酒盛りのバカ騒ぎである。アーラシュと藤太は完全に出来上がっており、酒に酔えない俺は空気に酔った。

 

「うむ!宴とあらば盛り上げ役が必要であろう。奏者よ、ここは余の美声で盛り上げるべきだと思うのだがどうだろうか!?」

「おう!やれやれぃ!」

「ストップ音テロ!」

 

藤丸さんがやけに必死でネロの独壇ライブを止めに入り、ネロは不満そうにそれに逆らう。マシュと邪ンヌも止めに入ってようやくネロが大人しくなった。藤丸さん達はホッと安堵し、ネロは不貞腐れてヤケ食いし始めた。まあ、勢いで許可を出した俺が悪かったのかもしれない。

 

「凌太様、どうぞ」

「マスター、こちらを」

「お、おう...」

「いやはや。すっかり懐かれましたな、凌太殿」

「まあ片方は昔から懐いてくれてたから、この状況を予想していなかった訳じゃないけど...」

「はっはっは。静謐はその特性ゆえ、生前も英霊となった今も、人と触れ合う事が出来なかった。それが今や、好きなだけ触れ合える者がいる。舞い上がるのも仕方ない事でしょう」

 

呪腕の言う通り、特に捕まっていた方の静謐ちゃんボディタッチが多めだ。というかずっと俺の腕などを触ってきていてる。それだけ触れても死なない相手が珍しいのだろう。なら好きなだけ触らせてやろうと思う。静謐ちゃんに触れられて悪い気はしないしな。

 

「まだまだ行くわよ!おにぎり百連如来掌 !」

「「「おぉーー!!」」」

 

子供たちの歓声が上がる中、三蔵の中国拳法擬きも炸裂し、更に宴は盛り上がっていく。

この宴の騒ぎや灯り、そして食料を求めてやって来た動物達がいたが、奴らには運がなかった。アーラシュや藤太といった狩りが得意な弓兵によって返り討ちに遭い、今では皆仲良く鍋の中である。やはりワイバーンは美味。

そうして夜はふけていき、村全体でのバカ騒ぎは東の空が白んでくるまで続いたのだった。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

「アズライールの廟?」

「はい。我らハサンの祖、初代“山の翁”ハサン・サッバーハ様がおられる場所です。あの御方にかかれば、ガヴェインなど恐るるに足らず」

「なにそれ怖い」

 

宴を終えた朝。俺達は今後の話をしていた。

呪腕の話によると、その初代ハサンが力を貸してくれれば、聖都の門番であるガヴェインもどうにか出来るとのこと。

更にロマンの補足では、そのハサンは死を告げる大天使アズライールとも呼ばれるらしい。天使て。

まあ戦力が増えるならば問題はない、寧ろ大歓迎だ。呪腕以外のハサン一同はやたらと反対していたが、最終的にはその初代ハサンに助けを求める事になった。

 

そして現在。

 

「高い高い高い!え、ちょっと待って、こんなに高いなんてあたし聞いてないんだけど!」

「ええい、暑さも寒さも地下も高所もダメときた!お主、それでも三蔵法師か!?その調子でよくぞ天竺までの魔境を越えられたものだ!」

「あれは事前に気合い入れてたの!頑張ったの!功徳全開だったの!!でも聞いてないのはダメ!あたし、何事もいきなりはダメ何だってばーー!!」

 

とまあ、賑わってます。

 

「...フッ。あの廟の礼拝が、これほど賑やかになる時が来ようとは...」

「もはや遠足だよな」

 

断崖絶壁。

まさにその言葉通り、俺達が歩いている道は崖だ。しかも道幅は非常に狭い。確かに落ちたらタダでは済まないだろう。

 

「ふ、ふふふ、ふん!こ、こここんな高さで悲鳴を上げるなど、せ、聖人と言ってもその程度のようですね」

「そ、そそそ、そういう邪ンヌも声が、ふ、ふふ、震えてるよ?」

「お主も声が震えとるぞ、マスター」

 

死を告げる大天使とやらに会いに行くのに、なんとも賑やかである。俺が言うことでもないかもしれないが、緊張感皆無ですね。

 

「リョータ!腕、腕貸して!あたしの弟子でしょ!?なら貸して!」

「弟子になった覚えは一切ないんだが」

「こいつはいつもそうなのだ。(おれ)の時もそうだった」

「ぎゃてぇ!あたし高いのダメなの!肩でもいいから貸してー!」

 

元々俺にあった玄奘三蔵のイメージは既に跡形もなく消え去った。歴史とは、なんと残酷な事よ...。

 

 

 

 

絶壁を歩くこと2日。一晩休んで、翌日にアズライールの廟とかいう場所についた。出入口で幽霊系エネミーが待ち構えていたが、まあ瞬殺ですよね。村の警護として残ったアーラシュと、決戦の準備をする為に兵を集めに行った百貌以外の全味方サーヴァントがいるのだ。幽霊ごときに負ける訳が無い。

 

『ここがアズライールの廟か...。特に変わっているようには見えないけど...』

「いえ、ドクター...。これは現地にいないと分からない重圧です」

 

マシュの言う通り、この空間には途轍もないプレッシャーがある。まあ爺さんの方が数段上の圧力をかけてくるがな。それでも、サーヴァント1騎が放つ圧力としては破格のものだ。ガヴェインなどとは比べるまでもない。戦力として多いに期待出来るだろう。

と、警戒しながら進んでいた藤丸さんを不可視の攻撃が襲った。

 

「っ!マスター!」

 

咄嗟にマシュが防御したが、攻撃の出処が分からない。

一応聖句と共に“天屠る光芒の槍”を構え、周囲に気を巡らせる。

 

『どういう事だ!?そちらにはサーヴァント反応どころか、動体反応もないぞ!?それに、今立香ちゃんの反応が消えた!こちらの観測では、立香ちゃんはもう死んでいる!』

「なにそれ怖い!?」

「───魔術の徒よ」

「はぁー!」

「...!」

 

なんだなんだ。藤丸さんが死んでるとかいう観測結果が出たかと思ったら、どこか麻婆豆腐大好きそうな声が聞こえてきて、そしたらハサン3人が同時に平伏したんだが。な、何を言っているのか(ry

 

と、そこで俺も気が付いた。

目の前に、『何か』がいる。

 

「───魔術の徒よ。そして、人ならざるモノたちよ。汝らの声は届いている。時代を救わんとする意義を、我が剣は認めている。だが──我が廟に踏み入る者は、悉く死なねばならない。死者として戦い、生をもぎ取るべし。その儀を以て、我が姿を晒す魔を赦す。静謐の翁よ、これに。汝に祭祀を委ねる。見事、果たして見せよ」

「ぁ───ああ、ああああ!?ひぃ!やぁ......!?」

 

麻婆神父のような声の主、恐らく初代ハサンが言い終わると、黒い炎の様な何かが静謐ちゃんを包み込む。あ、やられてるのは特異点の方の静謐ちゃんです。

...文字だけだとどっちがどっちだか分からんな。あだ名的なものを付けるか。俺と契約している方の静謐ちゃんは「静謐ちゃん」、この特異点で出会った方の静謐ちゃんは「静謐のハサン」か「静謐の」でいいかな?いいよね、うん。

 

「この気配...。精神を乗っ取られたか!」

「初代様!お使いになられるのでしたら私を...!静謐には荷が重すぎまする!」

「戯け。貴様の首を落とすのは我が剣。儀式に使えるものではない。静謐の翁の首、この者たちの供物とせん。天秤は一方のみを召しあげよう。過程は問わぬ。結果だけを見定める」

「そうか、なら死ね」

「!?」

 

一瞬。まさに一瞬の出来事だ。

初代“山の翁”がいるであろう場所が塵と化した。

 

「ちょ、凌太殿!?」

「なにやってるのよアンタ!なんか重要な話してたしょう!?」

「だから?」

 

慌てふためく周囲を見ずにそう返す。

そうすると、俺の声を聞いた全員がすくみ上がったのが分かった。いや、声というより、俺が出している殺気に反応したのかもしれない。これはいつも牽制程度に使っているレベルのモノではない。純度100%のシンプルな殺意だ。

 

「...どういうつもりだ、人ならざる者よ」

「黙れクソ天使擬きが。供物はお前の首に変更だ」

 

勝機など皆無。真っ当な手段で勝てるなどとは思わない。それほどの相手だ。爺さん程ではないだろうが、それでも俺より強い事に変わりはない。だが、その程度の理由で静謐のハサンを助けない訳が無い。

 

「おい、神殺しの奴マジギレじゃないか?もしかして、この場所も危ないんじゃ?」

「そうですね。マスターが本気を出すと半径2キロは消し飛びます」

「奏者が箱庭で使った技を出すとなると、まず間違いなくここら一帯は底無し穴になるであろうな」

『それはもう人として達してはいけないレベルだよ...』

 

後ろでなにらや喋っているが関係ない。というか、気にしてたら俺の首が飛ぶ。さっきから地味に不可視の斬撃みたいなものが俺の首目掛けて飛んできているのだ。今のところは全て避けるか受け止めるかしているが、気を抜いたら死ぬ。

 

「晩鐘は汝の名を指し示した」

「だからどうした」

 

未だ姿を見せない山の翁を、気配だけを頼りに攻撃していく。

『教祖』という事実や、『死告天使(アズライール)』といった天使の名を冠するからだろうか。微小ではあるが神性を感じるので、俺の基本ステータスが上昇するだけでなく、“天屠る光芒の槍”の特攻対象として認定されている。勝機があるとすればそこだけだ。

 

「──迸るは閃光、神をも屠る我が紫電」

「っ!皆逃げろ!アレ(・・)がくるぞッ!」

 

ネロが声を張り上げる。爺さんが施した封印的な何かのせいで、この技の威力は以前の3分の1程度となっている。皆への被害は最小限にするよう、極めて細い一撃にするつもりだが、このアズライールの廟が消し飛ぶのは不可避だ。建物ごと消え去るが良い。

 

「来たれ神滅の雷、神苑の雷霆。天を駆けよ、地を穿──」

「熱く、熱く、蕩けるように。あなたの体と心を焼き尽くす。『妄想毒身(ザバーニーヤ)』」

 

俺が技の準備を終える前に、邪魔をしてきたのは山の翁ではなく静謐のハサンだった。先程ベディが言っていたが、やはり精神支配を受けているようだ。それで俺を殺しにかかった、と。だが、俺に毒は効かない。たとえそれが宝具であってもだ。

 

「チッ...。ごめんな静謐の。ちょっとだけ眠っていてくれ」

「ぅ...」

 

宝具『妄想毒身』は敵に接触してこそ真価を発揮する宝具。というかぶっちゃけキスだ。粘膜接触が1番毒が効くからキスという形式をとっているらしいが、俺は男相手にこの宝具を使わせる気はサラサラない。女相手でも若干躊躇する時がある。

だが、今回はその宝具が幸をそうした。体が接触しているので、その接触面から軽い電流を流して気絶させたのである。

 

「...ふむ。結果だけを見ると言ったのはこちらだ。過程の善し悪しは問わぬ──これもまた、解なりや」

「は?」

 

静謐のハサンを気絶させ、再び山の翁へと向き直ったらそんな事を言われた。何を言っているのだろうか?まさか、これで儀式は終了だとでも?

 

「よくぞ我が廟に参った。山の翁、ハサン・サッバーハである」

「......は?」

 

声と同時に、今まで姿の見えなかった山の翁が自身の姿を俺の前に現した。骸骨の面を持つ、大剣を構えた剣士風の大男。これが初代“山の翁”、『死告天使』の姿。

 

...どうやら儀式は終了したらしい。

気合い込めて向き直ったのに、何だか肩透かしを喰らった気分だ...。

 

 

 


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