「この縄ほーどーけー!!」
「却下」
戦闘を開始してから10分程。決着は着いた。
俺をただの人間だと思って油断する奴などに俺が負ける訳がない。初手で既に結果は決まっていたも同然だ。
だが、終盤になると、自分の不利を理解したモードレッドが、あろう事か山ごと自爆しようとしやがったのだ。
なのでそれを阻止した上での拘束である。クラレントも取り上げ、今はギフトカードに収納している。念には念を、だ。
「奏者よ、こちらも終わったぞ」
「ん、お疲れ」
「え、父上?」
「そのネタはもういいよ」
剣を振り、付いた血を振り払いながらそう報告してくるネロ。その後ろには、粛正騎士達が山積みにされている。一応殺してはいないようで、積まれた騎士達は小さな呻き声を上げていた。
「おーい!凌太君、遅れてごめ...、わお」
「これは酷いですね」
ようやく追いついた藤丸さん達が山積みの騎士とグルグル巻にされているモードレッドを見て若干引いている。殺していないのにこの反応、解せぬ。
「おっ、流石だな凌太。俺が出るまでもなかったか」
「これじゃあ、儂等がわざわざアーラシュ砲で来た意味がないの」
「本当よ...。もう2度とあんなのには乗らないわ...」
アーラシュ砲...?なにそれ面白そうな響きだね。
「あ!お前ら、ランスが逃がした叛逆者か!?それに、そっちのお前はチキン野郎!なんでテメェが叛逆者側にいやがる!?」
「...貴方に語りかける言葉はありません。恨み言があるのは私も同じです、この不忠者」
「んだとテメェ!!」
「...まあ、円卓の騎士で込み入る話はあるだろうけど、今は俺の話を聞けよモードレッド」
全身をグルグル巻にされてもエビのようにピョンピョン跳ねながらベディに噛み付くモードレッドと、アーサー王最期の原因とも言えるモードレッドを敵視するベディを宥めて、俺はモードレッドへと向き直る。
「モードレッド、お前が俺達の知るモードレッドでない事は分かった。だが1つ提案だ。この特異点だけでいい、俺のサーヴァントになれ」
「ハッ!そんなもんお断りだぜ!」
「...そうか。じゃあしょうがない」
ギフトカードからクラレントを取り出し、それでモードレッドを縛っていた縄を切ってやる。
「ちょ!凌太殿!?」
「何をやっているのですか、凌太!」
ハサンとベティが驚愕の表情で俺に迫るが、俺は彼らを無視して自由になったモードレッドへと向き直る。
「あ?なんだよ、どうして縄を解いた?」
不思議がるモードレッドを、無言で見つめる。
俺の行動が本気で分からない様子で、みんなが俺を見ている。
「...お前に記憶が無いとは言え、モードレッドは俺の仲間だ。縛られたまま殺されるのを見たいなんて思わない」
「そりゃどういうこった。俺を見逃そうってか?」
「違う」
俺は静かに槍を構え──
「お前を殺す」
明確な敵意をモードレッドへと向けた。
「先輩先輩。あれは、かの有名な生存フラグなのではないでしょうか?私、日本のテレビアニメの資料で見た事があります!」
「よく知ってるね、マシュ。そうだよ、あれは生存フラグ。あのセリフを言われた人は必ず生き残る」
「はいそこ、ガン○ムの話は他所でしてね」
マシュの無情な一言で場の空気は一気に緩くなった。
......シリアスな雰囲気など無かったんだ、いいね?
* * * *
「生存フラグ回収、お疲れ様です凌太さん」
「それなんにも嬉しくないから」
モードレッドに「お前を殺す」宣言をしてから数十分後、俺はマシュからそんな労いの言葉を頂いていた。本当に嬉しくないんだが。
結局モードレッドには逃げられた。せめて、ちゃんと戦闘の中で死なせようと思ったのだが、今度はこちらが油断した。宝具をブッパしながら後退していくあの姿は正しく英霊。つまりなんでもありだと言う事。いや、宝具の反動で後方に飛ぶとかなんなんだよ。予測なんて出来ないわ。
去り際にマシュを見て驚いていたが、まあマシュに力を貸しているのは円卓の騎士の1人らしいのでそれ関係だろう。
「まあ、撃退したと言えば聞こえは良いでしょう。実際、凌太殿のお陰で死者はゼロですし」
「フン!それでも私は砂漠で受けた辱めを忘れはしないぞ!あの後の部下達の冷たい視線...くっ!」
そうそう。さっき助けた百貌のハサンに共闘を申し出なんだけど、何故か敵視されてるんだよね。
「ふむ。あの百貌のがここまで嫌悪するとは...。凌太殿、一体何があったのです」
「昔砂漠でちょっとね」
「ええい、終わった事のように話すな!お前達のせいで私は散々だ!念入りに計画したニトクリス拉致計画を邪魔され、さらにはそんな怨敵に助けられたなどという屈辱まで負わされるとは...!初代様に知られれば間違いなく首を刎ねるられるだろう!私は絶対にこやつらとは共闘しない!貴様もどうかしているぞ呪腕!よりによって円卓の騎士どもを信用するなど!」
「ははは。まるで以前の自分を見ているようですなぁ。これは説得し難い」
はははじゃねえよ呪腕の。呑気に茶なんか啜りやがって。こちとら、あの円卓と戦う為に少しでも多くの戦力が欲しいんだが。
「よーし、じゃあ1回戦うか!」
「
藤丸さんが脳筋な思想を持つようになってしまった...。原因は俺達でしょうねすいません。
「ははは。まあそれはそれとして、百貌の。例の件はどうなっている?」
「...あれか。進展はない。最初は逃げ出したか円卓側に付いたのかと思ったが、アイツは違うな。私達の知っている方は未だ捕まったままだ。このままでは死を待つだけであろう」
「うむ。それは困った、実に困った。どこかに我々以上に強く、単独行動に向いており、しかもサーヴァントを使役できて、力になってくれる、そんな御仁がいればいいのだが...」
「そんな都合のいい助っ人がいるものか!バカも休み休み──いや。いたな、そんな愚者が。目の前に」
話を聞いた藤丸さんが無言でシャドーボクシングを始めた。なにそのアピール。
「先輩。私達でお力になれる事があるようですね」
「はい。率直に言いますと、山の翁の1人が敵に捕らわれているのです」
と、今の現状を説明してくる呪腕の。
そういや砂漠でも、百貌のが静謐ちゃんを見て何か言ってたよな。そう、確か拉致監禁がどうとか...。
「その話詳しく」
「えっ?は、はい。我らの仲間である山の翁の1人が敵に捕らわれていて...」
「名前は?」
「そちらにいる者と同じ、静謐のハサンです」
「よし殺そう。円卓の騎士は皆殺しだ」
今宵、1人の
* * * *
時は過ぎ、現在は昼。荒野の中を、俺達は静謐ちゃんが捕らわれているという円卓の砦へとむかっていた。
ベティは霊基がボロボロになっていたので、村で強制待機。よほど無理をしていたのだろうとは、ロマンの談。
「殺す」
「凌太君、一定の時間間隔で殺すって言い出すの辞めようよ」
「いいや。静謐ちゃんを拷問している奴がいたら徹底的に嬲り殺す」
1人で特攻しなかっただけまだマシと言えよう。とりあえず円卓は殺す(狂化済)
『おっと、これは...。前方に強力なサーヴァント反応だ。うん、なんとも面白い反応をしているな。カラフルというかなんというか...。円卓の騎士では無いと思うよ』
「それって色モノ...」
藤丸さんが別の意味で強敵である事を理解した瞬間、その面白色モノ枠であろうサーヴァントを目視で確認した。
「きゃああああああーっ!助けてぇー!誰か何とかしてぇー!」
こちらに向かってきているサーヴァントは、何やら龍種に追われているようだ。ワイバーンが数頭と、あとはドラゴンが1頭。あ、スプリガンも居る。
よし、円卓の騎士を相手取る前の肩慣らしだ。全員まとめてぶっ飛ばしてやる!
「我は雷、故に神なり。喰らえクソトカゲ!」
ひこうタイブにはかみなりタイブの攻撃で攻める。こおりタイブでも可!
「中々に荒れてるわね、アイツ...」
「そりゃあ、あの神殺しは仲間が死ぬ程大事らしいからな。静謐が捕まっていて、更には拷問されていると聞いたらああなるのは必然じゃろ」
「とりあえず皆も凌太君の餌食にならないようにあの女の人を助けようか」
「はい。マシュ・キリエライト、落雷に注意しながら行きます!」
俺に続いてマシュ達も攻撃に加わるが、もう既に8割方焼いた。あとはワイバーン2頭とドラゴン、それと1人の英霊だけだ。
「クハハハハハハ!死ね死ね死ね死ねぇい!」
「奏者が完全にバーサーカーになった...」
「私のせいで...。すいません...」
* * * *
その後も色々あったのだが割愛。
大事な事だけ言うと、面白い反応のサーヴァントは三蔵法師らしい。てっきり敵かと思って攻撃仕掛けたのだが、明らかにドラゴンから逃げ惑っていたのでとりあえず先にドラゴンを撃破。その後は泣きじゃくる三蔵を藤丸さんがあやし、仲間に引き入れていた。藤丸さんコミュ力高ェ。
三蔵法師の弟子も円卓の砦に捕まっているとかで、そっちも一緒に助けよう、という話になっていた。
そして現在。
「邪ンヌ、ネロ、凌太君を抑えて!」
「くっ!このっ...!大人しくしなさいよ!」
「落ち着け奏者!」
「離せ!アイツら殺せない!」
すっかり暗くなった時間に、俺達は円卓の砦へと辿り着いた。砦に着き、隣にいる静謐ちゃんとは別の静謐ちゃんの気配を感じ取り、俺の理性は限界に近付いていたのだ。
そして、俺の理性を打ち砕く出来事が先程起きた。
『先日捕らえた山の翁が、いくら拷問しても口を割らない』
『こんな夜中にアグラヴェイン卿が出向いて来るのは、山の翁の拷問かもう1人の捕縛者の処刑かもしれない』
先程、砦の巡回をしていた兵士達が話していた内容だ。
先日捕らえた山の翁、これは確実に静謐ちゃんの事だろう。そして、現在感じている捕まっている方の静謐ちゃんの気配は極めて弱々しいものだ。ウチの静謐ちゃんと比べると、およそ10分の1以下。それ程弱っているという事だ。拷問官殺すブチ殺す。
「落ち着かれよ凌太殿。今しがた、私の耳が多数の馬の足音を聞き取った。それはつまり、もうすぐアグラヴェインが来るということ。このまま砦へ入れば、帰り際にアグラヴェインめと鉢合わせるでしょう。そこで、ここは2手に別れるべきかと」
呪腕がそう提案してくる。そして、彼から提示された作戦は次の通りだ。
1、百貌を地上に残し地下牢へ潜入。
2、三蔵の弟子と静謐ちゃんを助け出し地上へ。
3、その間百貌は地上で陽動&俺達の退路を確保。
4、そして百貌の確保しておいた退路から逃げる。
というもの。特に反対意見がある訳でもないのでその作戦を採用。
闇に紛れ、俺達の救出劇が始まろうとしていた。
「侵入成功。静謐ちゃんの気配は...あっちか」
音も無く砦へと侵入し、地下牢へと入る俺達。
地上には百貌と、一応ノッブにも残って貰って、現在絶賛陽動中だ。いつアグラヴェインが来てもおかしくはない為、出来るだけ急いで静謐ちゃんとトータという三蔵のお弟子を連れて退散しなければならない。
最初は、静謐ちゃん(捕縛中)とトータを連れて砦から出たら、アグラヴェインや兵士ごと砦を消すつもりでいたのだが、それはダメだと藤丸さんに止められた。兵士の中には善良な人もいるのだから、巻き添えで殺すのはダメだ、とのこと。甘過ぎるぜ藤丸さん。
『凌太君がいると僕の案内なんて必要無くなるんだよなぁ...。ああ、どんどん役立たずになっていく...』
「元気出してロマン!」
ロマンがエコロケで地下牢の構造を把握して道順を教える前に、俺が静謐ちゃん(捕縛中)の気配を辿って進んでしまうのでロマンが拗ねました。いやだって、こっちの方が早いし。
「ん?あっちにもう1つ英霊っぽい気配が...。トータって奴か?」
「え!? ドコドコ!? トータはどこにいるの!?」
ポツリと呟いた俺の声に反応し、物凄い勢いで迫って来る玄奘三蔵。アンタ本当に坊さんなのか?
「えっと、多分ここら辺に...、おっ、隠し扉発見。この先だな」
「ホントに!? おーい! トーター!! そこにいるのー!?」
「...ん?この落ち着きの無い声は...もしや三蔵か!」
「トータ! ホントにいたのね! 流石は凌太、伊達に神様殺してないわね! あ、でもやっぱり神を殺すのはいけない事だと思うの。これからはしちゃダメよ? おーい、トーター! 今行くわー!」
玄奘三蔵を一言で言い表すと、嵐のような人。明るい性格と言えば聞こえは良いが、兎に角落ち着きがない。こりゃ、悟空や猪八戒などの生前の弟子達もさぞかし迷惑被っただろう。まあ、そういうところに惹かれたのかもしれないが。
「本格的にモヤシの出番が無くなって来たわね...」
「奏者はいつもこんな感じだからな。慣れるしかあるまい。まあ、Dr.ロマンにはドンマイという言葉をかけてやろう」
『ぐす...』
「げ、元気出して下さいドクター!」
俺はちょっと本気出して気配を辿っているだけなのに...。解せぬ。
「きゃああー!た、助けてー!凌太助けてー!」
なんで一瞬目を離しただけでピンチに陥っているんだあの坊さんは。まあ、三蔵自身結構強力なサーヴァントなんだから自分でなんとか出来るだろ。
「たーすーけーてー!」
「トラブルメーカーもいいところだッ!」
再三にわたる救助要請。そしてスプリガン2体という割と本気のピンチを迎えていた三蔵を助ける為に槍を構える。ああ、俺は静謐ちゃん(捕縛中)を助けて拷問官を屠る為にここに来たのに、どうしてこうなった。
スプリガンを迎撃し、トータとやらを無事に救助した。トータは日本の英霊で、真名を俵藤太。平安時代あたりに活躍した日本の龍殺しらしい。ごめん、日本は出身国だけど初耳だわ。何?藤原秀郷という名前で後世に伝わっている?藤原は日本史選択生の敵だ(違う) 日本史でどれだけ藤原氏の暗記に悩まされたことか...ッ!
「まあいいや。さっさと静謐ちゃんの方に行くぞ」
『ああ、そうした方がいい。今、地上で動体反応を検知した。そう、凌太君じゃなく僕が検知した!』
「そういうのいいから報告はよ」
『あ、うんごめん。えっと...、恐らく、地上で戦闘が起こっているんだろうね。アグラヴェインが来たと思って間違いないだろう』
面倒くさいが好都合でもある。ここで円卓ナンバー2を潰せば少しは優位になるだろう。
「百貌やノッブ達がやられる前にここを出る。急ぐぞ!」
そう言って駆け出す。藤丸さんはマシュに抱えられている為、ある程度は速度を出すことが出来た。
少し走ると、俺達は地下牢の最奥部に到着した。鉄の扉でガッチリと閉められた部屋が佇んでいる。静謐ちゃん(捕縛中)の気配はこの部屋の中から。ならば突き破るまでよ。鉄の扉がなんぼのもんじゃい。
『鉄の扉を殴り飛ばすなんて...』
ロマンが軽く戦慄していたが無視。というか、俺のバケモノ性とか今更過ぎるだろ。
部屋に入るとまずは濃厚な血の匂いが漂ってきた。そして、部屋の奥には静謐ちゃんが鎖に繋がれていた。
...おい、これは地下牢じゃなくて拷問室じゃないのか?
「......誰?...まだ、諦めていないの...?」
普段から言葉に余り抑揚の無い静謐ちゃんだが、今のは確実にいつもよりも弱っている声だ。俺はスグに静謐ちゃん(捕縛中)の元へ走り、拘束具を破壊する。
「...誰?私に触れても、死なない、貴方は...?」
拘束具を破壊した瞬間、足元がふらついてよろけた静謐ちゃんを支える為に、そして今までの拷問を耐えた賛美として静謐ちゃんを抱きしめる。
やはりというか何と言うか、こちらの静謐ちゃんに俺の記憶は無いらしい。だがまあ、それでも構わない。記憶がなくとも、俺の仲間である事に変わりはないのだから。
「...私ばかりズルイ...」
「自分に嫉妬とは、中々に稀有な体験をしておるな静謐よ。だが同感だ。余達にも構え、奏者」
「もう少しシリアスを続けさせてはくれませんかねぇ...」
『はっはっは。最強のシリアスブレイカーである凌太君が今更何を』
解せぬ。