問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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円卓の騎士にロクなのはいない(偏見)

 

 

 

 

「ヒャッホー!」

 

世紀末臭漂う声を上げながらバギーで疾走する藤丸さん。バギーにはマシュ、邪ンヌ、ネロ、ダ・ヴィンチちゃん、フォウくんが乗っている。

 

「先輩、そろそろお疲れではありませんか?宜しければ運転をお変わりしますが...」

「んー。それじゃあマシュ選手、お願いね」

「はい!お任せ下さい!」

「お疲れ立香ちゃん。冷たい飲み物は如何かな?その他マッサージ等も取り扱ってるよー」

「なんかもう便利過ぎる...」

「ちょっとマシュ、次は私に変わりなさいよね!」

「何を言うか。次は余の番だ!」

 

これはもう軽い遠足なのではないだろうか。

 

「いやー、それにしてもこの機械は乗り心地が良いな!結構な速度を出しているというのに、ほとんど風を感じ無いとは驚きじゃ」

 

肩に乗るノッブからそんなお褒めの言葉を頂いた。

 

「そうであろう、そうであろう!」

「何でネロさんが得意気なのでしょうか?」

「突っ込んじゃダメだよ、マシュ。アメリカで十分理解したでしょ?彼女はローマなんだ...」

「なるほど」

 

何を言っているんだコイツら...。砂漠の暑さにやられたか?

 

「それにしてもその機械...、ISって言ったっけ?凄く解析したいんだけど、後で解体してみてもいいかい?」

「ダメに決まってんだろ」

「ちぇー」

 

解体されたら戻らないっていう恐怖があるんだよ、今の俺には。

 

「っと、そんな事を言っている間にもう砂漠を抜けるね。みんな、ジャンプの衝撃に備えてー。...よし、マシュ今だ!」

「はい!マシュ・キリエライト、跳びます!」

 

スピンクス号が宙を舞い、華麗に着地。

俺達はというと、普通に飛行したまま砂漠を抜けた。

 

砂漠を抜けた俺達の目に映ったのは、見渡す限りの死の大地。前方の死、後方の砂漠とは、どちらがマシか分からんな。

 

「...これは酷い。これが本当の中東の大地...?こんなの、人間が生きていける環境じゃないよ...」

 

藤丸さんが呟く。実際その通りだ。燃え盛る大地、灰色の空。地面は地割れを起こしており、草木など見る影もない。あるのは死んだ倒木くらいだ。

 

「...食い物だぁ!ヒヒッ、砂漠の人喰い獣から逃げてきたんだな...?ありがてぇ、ありがてぇ、俺達の為に生き残ってくれて...」

「肉だ、肉だ、肉だ!美味そうな女もいる!」

「...囲まれとるのぅ。こやつら...人間か?」

「これは...喰種化してる、元人間ってところかな。立香ちゃん、峰打ちで済ませるのはいいけど、それも最低限だ。こうなった人間は助からない。...童貞はここで捨てていけ」

「ッ!マスター、来ます...!指示をッ!」

 

数十人の喰種に襲われながらも尚、人を殺す決心がつかないのか、藤丸さんは。

それは彼女の良い所であると同時に、彼女の決定的な弱点だ。誰かを助けるということは、誰かを倒すことと同義である──そう、エミヤは言っていた。俺も同感だ。だから俺は、仲間を守る為に他人を殺す。

 

「静謐ちゃん」

「既に毒霧の散布を開始しています。時間の問題かと」

「分かった。──藤丸さん、今ここで決断するんだ。生かすか、殺すか。生かしても何の利益も無い。寧ろ殺して楽にしてやった方が、あいつらにとっては良い結末だろう。だが、藤丸さんがそれを許さないというのなら、人を殺さないというのなら、俺は出来るだけ配慮しよう」

「出来るだけとか言っちゃう辺り、オヌシらしいのぅ、神殺し」

「茶化すなノッブ」

 

...こんな決断を年端もいかない少女に迫るのは酷だろう。まあ、俺の方が年下らしいけど。俺の思想は大分カンピオーネの特性に感化されている。しかし、藤丸さんは普通の人間だ。いくら人類最後のマスターなどと言う肩書きを持っていても、中身は年相応の少女なのだ。人を殺す事に抵抗が無い筈がない。

 

「...ごめんみんな。やっぱり、峰打ちで...」

 

絞り出した声は弱々しく、自信の無いものだった。

殺す方が良いということは理解している。だが、それでも殺したくない。という事だろうか。

 

「...静謐ちゃん、毒霧の散布は中止。殺さずに無力化する」

「了解しました」

「ネロ、峰打ち出来る?」

「当然だ!」

 

という訳で、極力殺さない方向で行くことになりました。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

喰種達を皆峰打ちで無力化したあと、底無しの優しさを見せた藤丸さんにより、水を彼らに与えその場を去った。藤丸さんマジ慈悲深い。

 

暫く進むと、難民と思われる集団に遭遇した。そして彼らに何処に行くのかと尋ねると、聖都に向かうという答えが返ってきた。獅子王は難民を全て受け入れてくれる、月1で開かれる“聖抜”という儀式に参加すれば誰しもが理想郷に行けるのだ、ということ。何それ胡散臭ぇ。宗教勧誘でそんな手口使う奴ら居るよな。俺は体験したことある。というか、全員受け入れるクセに聖抜ってなんだよ。選ばれた奴しか受け入れない気満々じゃねえか。

 

「とにかく、まずはその聖都へ向かうしかないよね」

 

というダ・ヴィンチちゃんの一声で聖都へと向かう事に。

途中でロマンとの通信も回復し、夜になったが漸く聖都とやらに辿り着いた。

 

「凄い人数です。軽く1000人はいるでしょうか...?これが全員、聖抜待ちの難民...?」

「これは益々怪しいな。こんな人数、そう易々と受け入れられる数じゃない。確実に選別した後に、そいつらだけを受け入れてるんだろう」

『そうだね。恐らく凌太君の言う通りだ』

「ん?門から何人か騎士っぽい奴らが出てきたわよ」

「...うへぇ...。何アイツら、サーヴァント並の魔力量なんだけど。いや、そこいらの英霊より強いかもだ」

「砂漠の時から思ってたけど、ダ・ヴィンチちゃんのその杖便利だよね。魔力量も測れるんだ」

「ふっふっふー!何せ天才の持つ杖だからね。そりゃあもう万能さ」

 

などと話していると、なんの前触れも無く辺りが昼になった...。え、何事?

 

「ごめん寝てた!?」

「いや、藤丸さんは寝てないから安心して。...それよりなんだ、これ?幻術かなにか...?」

 

俺達だけではない。ここにいる全員が困惑している様子だ。...いや、騎士達は何事も無い感じだな。ってことは、これが例の聖抜か?

そんか憶測を立てていると、聖都の門から1人の騎士が出てきた。...もうヤダ、アイツ桁違いに強そうなんですけど。俺の直感が、絶対に戦うなと告げてるんですけど。

 

「落ち着きなさい。これは獅子王がもたらす奇蹟──“常に太陽の祝福あれ”という、我が王が授けて下さったギフトなのです」

 

...なんだろう。アイツとは絶対に気が合わない気がするのは気の所為だろうか。

 

「嗚呼、ガヴェイン卿!円卓の騎士、ガヴェイン卿だ!聖抜が始まるぞ、聖都に入れるぞ──!」

 

難民達がそう声を上げる。

てか、は?円卓の騎士?ガヴェイン?何それ話が違う。獅子王はリチャード1世じゃなかったのか?

 

「...有り得ない。そんな事があってたまるものか...」

『レオナルド?どうしたんだい?いつもの君らしくないぞ?というか聖抜は始まったのかい?』

「...みんな、早くここから離れよう。今すぐにだ」

「賛成。アイツはヤバイ。負けるとは言わないが、確実に勝てるとも思わない。それにほら、後ろからもっとヤバイ奴が来やがった」

 

クイッと、顎でガヴェインの後ろ、正確にはその上を見るよう促す。

正門の上に立つ、獅子を思わせる兜と真っ白な鎧に包まれたいかにもな人物。恐らくあれがオジマンディアスの言っていた“純白の獅子王”だろう。なるほど、確かに白いな。

 

「──最果てに導かれる者は限られている」

 

やっぱりか。ここで難民達を選別して、選ばれた奴のみ聖都へと導くって事かよ。

 

「人の根は腐り落ちるもの。故に、私は選び取る。決して穢れない魂。あらゆる悪にも乱れぬ魂。──生まれながらに不変の、永劫無垢なる人間を」

 

獅子王がそう言うと、難民達が眩い光に包まれ始めた。...いや、違うな。よく見ると、光を発しているのは1000人近くいるこの難民の中でたったの3人。それ以外に変化はない。つまり──

 

「聖抜は成された。その3名のみを招き入れる。回収するが良い、ガヴェイン卿」

「御意。皆さん、誠に残念です。ですがこれも人の世を後に繋げるため。王は貴方がたの粛正を望まれました。では──これより“聖罰”を始めます」

「クソが、やっぱりそう来たかッ!」

 

ガヴェインが言い終わると、文字通り“粛正”が始まった。そう、()()()()3()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「え、待って、嘘でしょう!?ねぇ、待って、殺さないで、殺さないで、殺さな...ッ!」

 

聖都から出てきた聖騎士、いや粛正騎士共はほぼ無抵抗の難民達を虐殺していく。これが聖抜、これこそが聖罰。どこの世界、どこの国でも、所詮はこんなものだ。いくら高潔を謳おうが、殺す時は殺す。たとえそれが、自分達を頼りにしてきた一般人であろうと、だ。

 

「くっ、完全に囲まれている。初めからそのつもりだったんだ、聖都の騎士は。...でも、私達だけなら逃げられる。立香ちゃん、分かっているね?」

「ええ、みんなの突破口を開く!」

「はい!何処でもいい、騎士達の円陣の一部を崩します!」

 

言って、特攻していくマシュと藤丸さん。

 

「...はぁ、ウチのマスターはお人好しの馬鹿ですね」

「まあ、マスターはそんな奴じゃよ。そして、それがあ奴の良い所じゃ。オヌシも分かっておるじゃろ?」

「...ええ、まあ」

 

藤丸さんを守る為、そして難民を救ける為に邪ンヌとノッブも騎士達に挑んでいく。

...はあ、人が良いってのは、思ったよりも疲れるんだなぁ。

 

「ダ・ヴィンチちゃんはバギーの用意。護衛にネロを付ける」

「うむ、了解した」

「静謐ちゃんは俺に付いて来い。敵はあのクソ騎士どもじゃなく、ガヴェイン卿。どうせ襲ってくるんだ、先に足止めするぞ。ダ・ヴィンチちゃんは突破口が開いたら出来るだけ多くの難民を連れて退避。俺を待つ必要は無い、全力でこの場から離脱する事だけを考えろ」

「構わないけど、君は大丈夫なのかい?」

「ハッ、俺を誰だと思ってる。稀代の大天才、レオナルド・ダ・ヴィンチを引かせた神殺しその人だぞ?」

「うん、なんだか安心したよ。頑張ってね!」

「おうよ。行くぞ静謐ちゃん!」

「了解しました」

 

ダ・ヴィンチちゃんとネロを残して、俺は門前で悠々と構えているガヴェインに突撃する。あちらも俺の存在に気付いたらしく、剣の柄に手をかけた。

 

「我は雷、故に神なり。...サーヴァントは殺してもいいんだったな。全力で行くぞ」

「ふむ。異教徒にもまだ、貴方がたのように“戦う者”がいたのですね」

 

ゆったりと、余裕綽々といった感じでスルリと剣を抜くガヴェイン。

そんな彼に、俺は紫電を迸らせながら突っ込んでいく。

相手は格上、しかも何かしらの恩恵を受けていて身体強化までされているっぽい。反則だろそんなの。

まあ、敵にそんな文句をつけても始まらない。まずはそのチートをどうやって足止めするかが問題だ。

 

「喰らえや、雷砲!」

「ッ!」

 

一点集中の貫通力マシマシの雷砲を放つが、ガヴェインは少し驚いただけで、剣を用いて無傷で雷砲を受け流す。だが、仰け反らせる事はできた。

 

「貫け──アッサルの槍ッ!」

 

脳天目掛けてアッサルの槍を投擲する。が、惜しくも避けられてしまった。

 

「川神流・星殺し!」

「くっ!」

 

俺は川神院でグータラしていた訳ではない。百代が頻繁に使っていた技の1つや2つ、既に習得済みだったりするのだ。まあ、剣の腹で止められたけど。

 

「──強いですね。...“異邦の星輝く時、白亜の結託はひび割れ、王の威光は陰り、神託の塔は崩れ落ちる──”......残念です。このような出会いでなければ、或いは共存の道もあったでしょうに」

「んなモンねぇよ。だって俺、多分お前と気ぃ合わねえし」

「そうですか。残念ですね」

 

残念とは言うものの、魔力の高まりが半端じゃないところを見ると殺る気満々なようだ。ヤダ怖い。

剣を中腰に構え、さらに魔力を高めるガヴェイン。

 

「短い間しか見ていませんが、スグに分かる。貴方は強敵だ。この聖剣を使うに値する程の、ね」

 

フッ、と不敵な笑みを浮かべるガヴェイン。うわ、気持ち悪っ。

 

「この剣は太陽の移し身。あらゆる不浄を清める焔の陽炎──」

 

不意に剣を上空へ放り投げ、そして落ちてきたそれを手にする。ガヴェインの足元には、彼を中心に数字の描かれた魔法陣が拡がり、さらに気温も急激に上がっていく。

 

「“転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)”!」

 

ガヴェインが横一閃に聖剣を振るうと、炎の波が俺に襲いかかる。

あれはマズイ。触れたら火傷どころじゃすまないぞ絶対に!

咄嗟に雷で何重もの壁を作り出す。1枚1枚がトラックの突撃にも耐えられる程の強度を誇る雷の壁が、ガヴェインの放った火焰に紙屑のように打ち破られていく。炎の波は壁を全て打ち砕き、俺を呑み込み──

 

 

 

「...これは驚きです。まさか、アレに巻き込まれて生きているとは」

「ははっ。頑丈なのが数ある取り柄の1つでな」

 

無事、とは言い難い程の火傷を負いながら、俺はギリギリ立っていた。まだ権能も使えるし、足も動く。

まだ、戦える。

宝具、転輪する勝利の剣。アレはまともに喰らってはいけない代物だ。アルトリアの使っていた“約束された勝利の剣”より数段上の威力。まともに受ければサーヴァントでさえ消滅するだろう。元々強力な攻撃なのに、恐らくガヴェイン達円卓の騎士は何かしらの恩恵を受けていると、先程ダ・ヴィンチちゃんが言っていた。ホントいい加減にしろ。

 

だがまあ良い。目的は果たした。

辺りの気配を探ると、既に藤丸さん達の気配は無い。無事に離脱したようだ。さて、それじゃあ俺達もそろそろ引き上げるか。

 

「じゃあな、サー・ガヴェイン。今回は引き分けだ」

「おかしな事を言うのですね。貴方の足止めでカルデアのマスター達はこの場を離脱した。それならばこの戦い、貴方の勝利でしょう?見事でした、異邦のマスターよ。だが貴方はここで死ぬ。次はな...い...?なんだ...意、識が...?」

 

抗弁を垂れていたガヴェインが、突然の目眩に膝をつく。ふむ、やはりこの手は有効だな。

 

「行くぞ、『トニトルス』」

 

ギフトカードからブレスレット状の待機中『トニトルス』を取り出し展開させる。そして飛翔。

 

「こんなこともあろうかと用意しておいた口径20mm M61 バルカンだ。喰らっとけ」

 

6砲身ガトリング式回転式キャノン砲に分類される口径20mm M61 バルカン、計6,000発の弾幕を張る。全ての弾に魔力を込めている為、1発1発の威力は格段に上がっている。まあガヴェインの野郎、無茶苦茶なくらい堅いから効かないだろうけど。一々腹立つな、アイツの高性能。

 

「静謐ちゃん、もう毒霧はいいから乗れ!退くぞ!」

「はい」

 

ふっ、と『トニトルス』の肩に飛び乗る静謐ちゃん。いやー、いくら頑丈でも毒は効くんだね。ガヴェインの奴、まだ膝をついてやがる。ざまぁ。

 

自分の強さに自信のある奴ほど慢心しやすい。それは明白だ。そして、そういった強者が俺と戦っていると、大体は静謐ちゃんがいなくなっている事に気が付かない。

まあ静謐ちゃんの気配遮断が働いているとは言え、流石に慢心し過ぎじゃないですかね、英霊諸君。




オリ鯖について、活動報告の方でアンケート的なものを取ろうと思います。
ご意見がある方は是非コメントをよろしくお願いします。

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