季節は初夏。学年別トーナメントが終わってから1週間が経ち、現在は7月上旬となっている。
そんな、少し蒸し暑く感じ始めた初夏の朝。俺はシャルロットが女だと公言したことにより、再び1人部屋に戻っていた。
──まあ、この1週間1人で寝たことはないんだけれども。
「...今日もか」
目覚めた俺の隣、要するに同じ布団の中には現在ラウラが居る。ココ毎日、誰かしらが俺の寝ている間に布団に忍び込んでくるのだ。部屋の鍵はちゃんと閉めているのだが、どうやってか毎晩侵入してくる。酷い時は静謐ちゃん、ネロ、ラウラの3人が全員居ることもあった。というか、お前らよく寝ている間に静謐ちゃんと接触しなかったな。
寝ている間は夢の中で集中しているので中々侵入に気付けない。まあ気付いても止めはしないだろうけど。だってこのシチュは普通に嬉しいし。
隣で穏やかな寝息をたてて寝ているラウラの頭を軽く撫でる。補足だが、1週間前、つまり「お前は私の嫁」宣言をされた日に呼び方をボーデヴィッヒからラウラに変えろとの要望が本人から入ったので呼び方はラウラにしている。
と、そこでスマホの着信音が入った。ウザイ。
『もしm...』
「ウザイ」
最近恒例の即切り。嗚呼、今日も今日とて平和だなぁ。
「ひっどいな小僧」
「どこから湧いたクソジジイ」
急に目の前に現れた爺さんに文句を言いつつ、槍で爺さんを攻撃する。まあ普通に避けられたが。
「帰れジジイ。ウチの子が起きるだろ」
「ウチの子て...。なんだ、父性でも湧いたか?」
「うん、少し」
ラウラはこう、娘みたいな感じがするんだよなぁ。いや、子供持ったこと無いけど。
「...じゃあ小声で」
「おう」
「前々から言っていた異世界間を行き来出来る云々の話なんだが」
「ああ、例のタ○ムマシン擬きな。結局1度も使った事がない、あの」
「そうそれ。実を言うと、まだ完成してなかったんだよ。出口が安定しなくて、何処に出るか分かったもんじゃなかったんだ」
「お前それ今言う?もし俺が使ってたらどうしたんだよ」
「明日の事は明日考えよう、って格言を知ってるか?」
「要するにノープランか。まあ爺さんのことだし、今更驚きはしないけど。で?」
「それがやっと完成したから一応連絡にな。出入口の場所を書いた紙は此処に置いとくから、子育て頑張れよ」
「そこまでラウラを子供扱いしてねぇよ。まあサンキュ」
とまあ、比較的珍しい平和なやり取りを済ませると、爺さんが部屋の机の引き出しを開け、中に入って消えた。マジでタ○ムマシンかよ。
「ん...。なんだ、もう朝か...?」
「お、目ぇ覚めたか。おはようラウラ」
「ん...おはよう...」
ちょうどラウラも目を覚ましたので、俺達はさっさと身支度を済ませる事にした。
タ○ムマシン擬きの事は、まあ来週から臨海学校が始まるし、俺の専用機もまだ完成していないのでそれらが終わってからでも良いだろう。
「とりあえず、ラウラは次からちゃんとパジャマを着て寝ような。毎回言ってるけど」
「毎回聞かれるので毎回答えているが、夫婦というのは包み隠さぬものだと聞いている」
「これも毎回言うが、意味が違うからな?」
「そうか?でもまあ、目は覚めるだろう?」
別のものも起きるわ、とは流石に言えなかった。俺はそこまで変態ではない。仕方なくラウラの説得は諦めて着替えを始める。ラウラはこの部屋に自分の制服を置いていたようで、既に着替え終えていた。
暫くして支度を終えた俺達は、いつものメンバーで朝食を摂る。いつものメンバーとは、エミヤ除く俺達異世界組と一夏、箒、オルコット、鈴、シャルロット、ラウラの10人だ。食堂の大テーブルはちょうど10人用なので、大体はいつもそこで食事を摂る。余談だが、最近地道に人気を伸ばしてきた「今日のエミヤ定食」は今や看板メニューとなっている。流石に美味いよオカン。こりゃ当然人気も出るわ。
でもまあ、飯が美味いのとエミヤが作業サボってるのは別だよね。あの野郎、俺の専用機に行き詰まったからって生徒会長の妹のIS作りに協力してるらしいな。しかもソイツと良い感じになってるとか。あの女難の相持ちめ、こっちは静謐ちゃんから情報が入ってるんだぞ。これはお仕置き決定だな…。
──ということで、エミヤへの魔力供給を切りました。反省などする気もございません。
* * * *
「という訳で、行くぞ奏者!」
どういう訳かは知らないけれど、とりあえずネロ達に拉致されました。唐突すぎんだろ。
ネロ曰く、臨海学校間近だろう?それならば水着が必要だと思うのだが?ん?、とのこと。それとこの状況となんの関係があるというのだろうか。
とまあ、詳しい経緯は省くが、今俺達はIS学園を飛び出し、街へと繰り出していた。何気に学園外に出るのは初めてだな。
ちなみに今いるメンバーは俺、静謐ちゃん、ネロ、モードレッド、シャルロット、ラウラだ。なんでも、ネロが彼女らとも買い物がしたいんだとか。各人の服装は、俺とラウラは学園の制服。静謐ちゃんは箱庭であしらった服一式。シャルロットはライトグレーのタンクトップの上に半袖のホワイトブラウス、そしてスカート。ネロは安定の花嫁衣装。ここまでは良い。いや花嫁衣装もどうかとは思うのだが、まあ良い。問題はモードレッドだ。
「モーさんや、もうちょいマシな服装はなかったのか?」
「はぁ?別にこの恰好も普通だろ」
「ブリテンには羞恥心という概念が無かったのか...?」
モードレッドの今の服装。それは一言で表すと水着の亜種だ。いつもの鎧は脱ぎ、下半身は腰巻きのようなものとニーソックス。これだけでも十分恥ずかしい恰好なのだが、極めつけは上半身だ。なんとまあ、胸部を布1枚でぐるっと巻いただけである。少しズレたら見えるぞ、何がとは言わないけど。
普段女の子扱いすると不機嫌になるクセに、なんでそうもふしだらな恰好をするのか。今のお前はどこからどう見ても痴女の仲間だぞ?
「はぁ...。水着買うついでにちゃんとした服も買ってやらないとな...」
「まあマスターがそう言うなら。よろしく頼むわ」
「凌太。私の嫁として、私の私服も選んで貰いたいのだが。そうだな、まずは副長の言っていた『どうていをころすふく』から」
「その副長の言うことを信じるのはやめとけ。まあ欲しいなら買ってやるけど。とりあえずは水着だろ?」
「うむ!では行くぞ!」
やけにテンションの高いネロに引き連れられて水着売り場へと向かう俺達。面子が面子なので、道中色々な視線に晒されたが、とりあえず男共には殺気をくれてやった。慈悲など無い。
水着売り場の前に着き、各々が自分の水着を選んでいる時。女子連中は水着を選ぶのに時間がかかっているが、男である俺はさして時間はかからない。
なので自分の分の会計を済ませた後、店の外で暇を持て余していた。金銭面についてはさほど問題はない。俺の個人データを国に渡す事で高収入を得ているので、まあ女性陣の水着と服、あと今日の食事代くらいは大丈夫だ。それに、出費を渋るとネロが五月蝿いしな。
時たま俺に命令してくる女尊男卑思想の持ち主共が居たが軽く殺気出して追い払い、警備員も呼ばれたがソイツも殺気で萎縮させる。殺気って便利だよね。
そんな事をしていると、ネロが小走りでこちらまで走ってきた。
「奏者よ。ちと水着選びに悩んでいるので、奏者が決めてはくれぬか?奏者の趣味も知っておきたいしな」
「まあ良いけど。でも俺、自慢じゃないがセンス悪いぞ?」
「構わん。奏者の好きなものを買う」
そんな感じで始まった水着購入イベントだが、男の俺にとって女性水着売り場など完全アウェーである。まあその程度で萎縮する俺ではないが。
「んー...。やっぱネロは赤のイメージだし、赤色かな。柄はローマっぽく薔薇柄...。あれ?ローマっぽいって何だ?」
と、自分の良く分からない言葉に自分でツッコミを入れながらも水着選択を終える。
その後も度重なる「これなんてギャルゲ?」なイベントがあったのだが、長いので割愛。全員分の水着を買ったところで、同じ水着売り場に来て居た一夏達と遭遇したので、とりあえず皆で昼飯を食べに行った。そんでもって帰宅。海は長い事行っていないので普通に楽しみにしながら、臨海学校までの日々を過ごすのだった。
* * * *
「ははははは!楽しいぞマスター!波乗りいただきィ!」
「はしゃいでんなぁ」
待ちに待った臨海学校自由時間。
照り注ぐ太陽の下、真っ赤なビキニを着込んだモードレッドがはしゃぎながらサーフィンをしている。サマーモードレッド、略してサモさん、てな。
そして何処から持ってきたのか、ブリテンの宝物庫にでも置いてありそうな盾をサーフボード代わりにしている。アレを見たエミヤが 「アヴァロン柄だと...!?」 と軽く戦慄していたが気にしないでおこう。それにほら、モードレッドって何だかんだで父上マジリスペクトしてるから。
「あ、凌太。此処にいたんだ」
ふと、声に呼ばれて振り向くと、そこには黄色を基調とした水着を身に付けたシャルロットとバスタオルお化けがいた。
「ようシャルロット。で、ラウラは何してんの?」
「あー、ちょっと待ってね。ほらラウラ、出てきなってば。大丈夫だから、ね?」
「だ、大丈夫かどうかは私が決める...」
いつもの威風堂々としたラウラにしては珍しく、モジモジしながら弱々しい声を出している。何を恥ずかしがっているのだろうか?いや、恥じらいを持つということは良い事なんだけどさ。君、いつも裸で俺の布団に入り込んで来てるよね?
「ほら、折角水着に着替えたんだから、凌太にも見てもらわないと」
「ま、待て。私にも心の準備というものがあってだな...」
「もー。そう言ってさっきから全然出てこないじゃない。一応僕も手伝ったんだし、見る権利はあると思うけどなぁ」
そういえば、ラウラとシャルロットは同室になったらしい。先月のトーナメントでは文字通り死闘を繰り広げていた2人だったが、今では普通に仲が良いようだ。ラウラはまだ対人関係を苦手としている節があるので、シャルロットの様な社交的な子と居れば色々と変わるかもしれない。まあ、人生において対人関係に明るくなければならないなどという綺麗事は言わないけど。
「うーん、ラウラが来ないなら僕だけ凌太と遊んでこようかな〜」
「な、なに?」
「ふふん、そうだね、そうしようよ凌太」
「ま、待て!わ、わわ、私も行くっ!」
「バスタオル巻いたままで?」
「ええい!脱げばいいのだろう、脱げばッ!」
そう言ってばばばっと身に巻いていたバスタオルをかなぐり捨て、水着姿のラウラが陽光の下に現れる。
「くっ...。笑いたければ笑うがいいッ...!」
「いや別に。可愛いと思うぞ。似合ってる」
ラウラが着ていたのは黒のビキニで、レースをふんだんに使った1品だった。一見下着のようにも見えるその水着を着込んだラウラの髪は、いつもの飾り気のないストレートでは無く、左右で1対のアップテールとなっている。そして恥じらいからくる紅潮した頬やモジモジとした振る舞い。うん、可愛い(確信)
「しゃ、社交辞令なのだろう...?」
「逆に聞くが、俺が世辞でものを言うとでも?」
「うっ...、確かに...」
「僕も可愛いって褒めてるのに全然信じてくれないんだよ。あ、ちなみにラウラの髪は僕がセットしたの。折角だからオシャレしなきゃってね」
「グッジョブだシャルロット。ツインテールは良い文化。あ、遅れたけどシャルロットも似合ってるぞ、その水着」
「え、あ、うん。ありがと」
女の子が照れる姿って可愛いよな。などと思っていたら、急に魔力が持っていかれる感覚が俺を襲った。え、何事?
「『
「アレ宝具?もしかして宝具使ってる?なんか津波レベルの波を乗りこなしてるけど、あの波って魔力で生み出してるよね?」
穏やかな海水浴場の一角に津波レベルの高波が発生するという奇怪な光景を目の当たりにし、俺はまたもや無許可で宝具を使用したサモさんに施す罰を考え始めた。川神武闘会に続き、これで2度目だからな。エミヤと同じ魔力供給を切るでいいか。
今は楽しんでいる様なので目を瞑るが、夜からは魔力供給無しだ。慈悲はかけるが罰はしっかり与えないとな。
「奏者よ、余はスイカ割りというものをしてみたいのだが!」
「唐突に出てきて唐突な願いを言うね、君は。まあ用意してあるけど」
どこからともなく現れたネロの要望に応えるべく、あらかじめ(エミヤが)用意していたスイカをギフトカードから取り出す。やはりオカンは気が利く。褒美と言ってはなんだが、今から魔力供給を再開してやろう。単独行動スキル持ちでも、流石に1週間の間ずっと魔力供給がなければキツイものだ。俺の専用機調整を怠った事は十分に反省していたようだし、そろそろ許しても良い頃だろう。
ちなみにネロは俺が選んだ赤薔薇柄の水着を着てくれている。
「スイカ割り。それは、目隠しした挑戦者が周りの声だけを頼りに、手に持った棒でスイカを割る遊戯である。挑戦者は前もって回転し、平衡感覚を鈍らせてから開始することもある。一般的には砂浜などで行う競技だが、保育園や幼稚園、地域のイベントなど、数多くの場で行われており、日本の夏の風物詩として確立してきた。公式ルールも農〇共同組合(JA)が設立した『日本スイカ○り協会』が1991年に発表している。詳しくは『日本スイ○割り協会』HPを見てね!」(Wikipedia参照)
「アンタその協会の回し者か何か?」
急に現れた謎の女生徒にツッコミながら、ネロに目隠し用の手拭いを渡す。棒は手軽な物が無かったので、とりあえず
「うむ!目隠しもしたぞ!準備万端だ、いつでもこい!」
ヤケにやる気なネロ皇帝。何で?
とまあ疑問には思ったが、やりたいと言うのでやらせよう。周りにいた連中も結構ノリ気だし。
「ネロさんもっと右だよ右ー!」
「いや、左だって!」
「騙されないで!真実はいつも1つ。そのまま真っ直ぐよ!」
「斜め右に18度、約4.3m地点だよー」
最後ヤケに正確か数値まで言ったな。いやまあ、明後日の方向を指示されている訳だが。
「ふむふむ......。む、見切った!」
周りの声を全て聞き、そして自分の直感に従って聖剣を振り下ろすネロ。振り下ろした先には────
「ちょ、待っ!」
何故か一夏が。どうやらまた何かをやらかして鈴とオルコットに追われていたらしく、それから逃げていたら斬りかかられたとのこと。不幸か。