問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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学年別トーナメント

「............」

「............」

 

所変わって現在地は保健室。ボッコボコにされた鈴とオルコットが、ベッドの上で何やら不貞腐れていた。

 

「別に助けてくれなくて良かったのに」

「あのまま続けていれば勝っていましたわ」

「それは無い」

 

一夏(惚れた相手)にカッコ悪い所を見られたからだろうか、よく分からない強がりを言い放つ鈴とオルコットだったが、無慈悲にも俺のツッコミが入る。だってあの状況から逆転勝ちとか無理だろ。ISだって活動限界だったんだし。

 

「はい、烏龍茶と紅茶。とりあえず飲んで落ち着いて。ね?」

 

デュノアが買ってきた飲み物をひったくるように受け取り、中身を一気に飲み干す。そんなに喉乾いてたのか。

 

「それにしても凌太。前から思ってたんだけど、君の身体能力は一体どうなってるの?」

「どうって...。見たまんまだが?」

 

不思議そうに質問を投げ掛けてきたデュノアにそう返答する。が、彼女だけでなく他の面子も興味を持っているようで、そんな曖昧な答えでは納得出来ないという視線をいただいた。

どう答えたものかと悩んでいると、遠くから複数の足音が聞こえてきた。それは地鳴りとなり、どんどんこちらに近付いて来ている。そして保健室のドアが吹き飛ぶように開けられ、数十人程の女子が保健室に雪崩れ込んできた。

 

「織斑君!」

「坂元君!」

「デュノア君!」

 

保健室に入ってくるなり我先にと俺達に手を伸ばして来る女子達。見ると、それは全員1年の女子だった。

 

「な、なんなんだ!?」

「「「「「これ!!」」」」」

 

一夏が叫ぶと、女子生徒一同は1枚の申込書のようなものを突き出した。一夏がそれを受け取り朗読する。

 

「なになに...?えー、『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦を行う為、2人1組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』」

「ああ、そこまででいいから!とにかくっ!」

 

そしてまた一斉に伸びて来る腕、腕、腕。もはやホラーの域だ。お化け屋敷とかこういう演出あるよね。

 

「私と組もう、織斑君!」

「私と組んで、デュノア君!」

「是非私と、坂元君!」

 

どうしていきなり学年別トーナメントの仕様が変わったのかは知らないが、とにかく今この場に来てきる女子連中は学園に3人しかいない男子と組もうとここまで勇み迫っているのだろう。めんどくさっ。

 

「えっと、悪いな!俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

「あ、オイ一夏!俺を見放すのか!?」

「だ、だってしょうがないだろ?こんな状況でシャルルを女子と組ませる訳にはいかないし、お前はホラ、静謐とかネロとかいるだろ?」

 

すまんと頭を下げる一夏だが、そんな事どうでもいい。一夏とデュノアが選択肢から消えた今、女子生徒の狙いは俺だ。これはヤバイ。

という訳で退散しようか。

 

「デュノアッ!そこの窓開け!」

 

一番窓に近かったデュノアに窓を開けさせ、そこからダイブする。ここは3階だが、俺にとってはそんな高さは関係ない。最高で上空4000mを経験してますからね。

 

「あっ!坂元君が逃げた!」

「ターゲット、着地後中庭を激走中!」

「良し。者共、往くぞ!」

 

などという会話が聞こえてきたが無視。それに、たかだか一般人に捕まる程俺は落ちぶれていない。俺を捕まえたければ静謐ちゃんクラスの気配遮断保持者を連れてきな!

 

 

 

* * * *

 

 

 

逃走を終えて、俺は自室へと帰ってきていた。デュノアはシャワーを浴びているらしく、シャワーの水音とデュノアの鼻歌が部屋まで聞こえてきている。

 

「どうすっかなぁ...」

 

どうするのか、とはもちろん学年別トーナメントのパートナーである。最初は静謐ちゃんやネロに頼もうと思ったのだが、それだと俺は片方としか組む事が出来ない。それだと確実にどちらかが機嫌を損ねる。それは面倒だ。やっぱここは当たり障り無くモードレッドで行くか?モードレッドは今の所俺に対する絶対的な好意は見られないし、何より彼女の中で俺という存在は「異性」という前に「マスターであり友達」というカテゴリーに入っている。若干異性として俺を見てくる事もあるが、それは本当に稀だし、特に問題は無いだろう。良し、明日にでも誘いに行くか。

と、自己完結した所で脱衣場の扉が開かれた。そこには当然の如く、タオル1枚を纏ったデュノアの姿が。

 

「...なんで男と同室なのにそんな無防備な格好で出てくるんだよお前」

「え?凌太!?い、いつから居たの!?」

 

まさか気付いていなかったと申すかこの娘は。そろそろ帰ってきそうだと分かりそうなもんだけどな。

 

「とりあえず、服着てこいよ」

「う、うん...」

 

デュノアはしずしずと自分の服を取り、再び脱衣場へと入っていく。そろそろ千冬に願い出て、現在一人部屋のネロかモードレッドの部屋に移動させた方がいいかもしれない。静謐ちゃんも一人部屋だが、静謐ちゃんと同室と言うのは死人が出るかもしれない。あの子、偶に寝息が毒ガスになることがあるからな。そうなるとやはりネロかモードレッドの部屋だろう。いやでも周りはデュノアが女だって知らないし、それだと世間体的にダメなのか?

暫くそんな事を考えていると、いつもの寝間着のジャージ姿に着替えてきたデュノアが顔を赤くしながら脱衣場から出てきた。

 

「...えっと、見た?」

 

何を、とは聞くべきでは無いのだろう。大体予想つくし。

 

「まあ、チラリと」

「っ!......凌太のえっち...」

「おいちょっと待て。さっきのは不可抗力だろう?いやまあ眼福だなあ、とは思ったけど、見ようとして見た訳じゃ無いぞ?」

「ま、まあ僕にも非はあるけど...」

 

そう言ってとりあえずこの件は流すことになった。と言うか俺は悪くないのに何で、どっちも悪かったよね?という雰囲気になっているのだろうか。解せぬ。

 

 

 

* * * *

 

 

 

そして時は過ぎ、学年別トーナメント本番当日。俺は無事モードレッドとペアになることに成功したのだが、予想外の事態に見舞われていた。

 

「──で?弁解は?」

「すまない、本当にすまない」

 

腕を組んで仁王立ちする学生と、正座する教員。そんな異様な光景が、エミヤの工房と化したこのラボで広がっていた。

 

「予定では昨日の夜までには仕上がると聞いていたんだが?」

「すまない、本当にすまない」

「お前はジークフリートか」

 

申し訳なさそうに俯くエミヤ。こうなったのにも訳がある。実はこの男、俺の専用機を解体した挙げ句にスグには元に戻せないなどと口走り、更に納期を過ぎても完成させていないのだ。

 

「いや、思った以上に耐電機能の取り付けに苦労してね。今のままではマスターの最大電圧は疎か、半分程度の電圧にも耐えられない」

「...まあ、それが理由なら仕方ない、か。俺の権能が原因だし、エミヤを責めるのはお門違いだな。...はぁ、しゃーない。今回は『打鉄』でどうにかするかね」

「本当にすま」

「もういいよそのネタは!」

 

 

 

とまあこんな事があり、俺とモードレッドは『打鉄』で今大会を乗り切ることとなった。まあ俺がISに求めているのは戦闘力よりも機能性、「そーらを自由に、飛びたいなー。はい、IS〜(ダミ声)」というものである。常々願っていた飛行手段が手に入ったのだ。これで上空4000mからの紐なしバンジーも怖くない。

 

「...なあマスター。お前さんとペアになってから、やけに視線を感じるんだが...」

「気にすんな」

「いやでも、明らかに一般人が放つレベルじゃない殺気が...」

「...気にすんな。大丈夫、もし短刀が飛んできても何とかするから」

「それって静謐が見てるって事だよな!?え、それヤバくないかマスター!?俺死なない!?」

「大丈夫、大丈夫。さすがに静謐ちゃんも仲間を殺る事は無いと思う。...多分」

「多分!?」

 

そんな会話を繰り広げていると、アリーナでは織斑&デュノア VS ボーデヴィッヒ&箒の試合が始まっていた。俺とモードレッドの試合は次なので、アリーナのIS出入口で待機しつつ、一夏達の試合を観戦する。

 

「ほう。一夏とデュノアは良い連携だな。まあデュノアが一夏に合わせてる感はあるけど」

 

試合開始直後、一夏とデュノアはボーデヴィッヒ達を各個撃破する作戦に出ていた。

シュヴァルツェア・レーゲンのAICは厄介だ。AIC、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。慣性停止能力。これは一夏の様な猪突猛進の奴には相性最悪なのではないだろうか?

案の定、一夏はスグに停止させられる。だがそこはデュノアがフォローし、良い感じにボーデヴィッヒを追い詰めていく。しかし、ボーデヴィッヒのパートナーである箒も黙ったままではない。彼女は専用機持ちではないので、俺達同様『打鉄』を纏っている。

果敢に攻める箒だが、ボーデヴィッヒがそれを邪魔に思ったのか、箒を押し退けて一夏との鍔迫り合いに入る。そしてその隙にデュノアが箒を制圧、試合は1対2の状況へと以降した。

 

で、なんだかんだあり、終始デュノア一夏ペアが優勢になりながら試合は終盤へと入った。

一夏が囮となってボーデヴィッヒに隙を作り、そこにデュノアが六十九口径パイルバンカー《灰色の鱗殻(グレー・スケール)》、通称『盾殺し(シールド・ピアース)』を打ち込む。それは確実にボーデヴィッヒへとダメージを与えシュヴァルツェア・レーゲンの残量エネルギーを根こそぎ持っていく。

更に3発程撃ち込まれ、機体も限界を迎えたのか、ISに紫電が走り始めた。

 

──そこで、最初の異変が発生した。

 

 

「ぁあぁああぁあ!!!!」

 

ボーデヴィッヒの張り裂けんばかりの絶叫が響き、同時にシュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃が放たれ、デュノアがISごと吹き飛ばされた。

 

「おいマスター。アレ、ちょっとヤバくねえか?」

「ああ。ISの暴走か?」

 

訝しげに見ていると、シュヴァルツェア・レーゲンが変形していっている。いや、あれは変形なんて生易しいものじゃないな。原型も残さずに変わるというのは変形の域を超えている。

 

「ちっ。行くぞモードレッド!静謐ちゃんはエミヤと一緒に生徒達の避難経路確保!」

「おう!」

「了解」

 

あ、本当に静謐ちゃんいたんだ。

と、少し驚きながらも、俺とモードレッドはISも着けずにアリーナへと飛び出す。まあ俺達の場合、ISそのものが戦闘の邪魔になるのだから着けないのは当たり前なのだが。

 

「場合によっちゃ宝具使用も許可する。まあ必要無いだろうけど」

「了解した。久しぶりの戦闘だ、派手に行くぜ!」

「設備を壊すなよー。修繕費とかバカ高そうだからなー」

「保証はしねぇ!」

 

テンション高っ。ココ最近実戦なんて無かったからかなぁ。俺もISにかまけてばかりで手合わせもして無かったし。でも設備の修繕費は国からの報酬じゃ賄えきれないしなぁ...。万が一の場合はエミヤに給料分けてもらおうかな。

 

「Take that , You fiend!!」

 

ノリノリで暴走ボーデヴィッヒ(仮)に斬り掛かるモードレッドを放っておいて、俺は一夏とデュノアに駆け寄り状況確認をする。というか、いつの間にか一夏がやられてるんだが。ISも強制解除されている。

 

「おいお前ら、無事か?」

「凌太!う、うん。僕は大丈夫だけど、一夏が...」

「アイツ...絶対ぶん殴ってやる...ッ!」

「何興奮してんのコイツ?」

 

生身で暴走ボーデヴィッヒ(仮)へと立ち向かおうとしている一夏。何?何でそんなキレてんの?

 

「ラウラのあの姿。なんでも織斑先生の姿を模してるらしいんだ」

「ああ理解した。さすがシスコン。でもまあ、今回は俺らに任せとけよシスコンハーレム野郎」

「あ゙!?」

 

並々ならぬ怒気を含んだ一夏の声を無視して、現在モードレッドが戦っている所へと駆ける。

と、そこでアナウンスが響いた。

 

『非常事態発生、トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定、鎮圧の為教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!』

「ハッ、関係ないな!」

 

警告など聞いてやる義理はない。何気に俺も最近戦っていないし、欲求不満ではあるのだ。槍で人型の動くものを穿つだけでも結構な不満解消になるだろう。

 

「って事で覚悟しろガラクタ!」

「あっ!おいマスター、そいつは俺の獲物だぞ!」

「知らん!こういうのは早い者勝ちだろ!」

 

吠えるモードレッドと競いながら暴走ボーデヴィッヒ(仮)を相手取る。

何気に強いので中々攻めきれずにいるが、どんな奴にでもやはり隙というのはあるものだ。そしてやっと隙を見せた暴走ボーデヴィッヒ(仮)の頭を俺の槍が捉え、モードレッドが宝具を開帳する。

 

「ぶち抜け、『天屠る光芒の槍(ダイシーダ・リヒト)』!」

「『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!」

 

...え?いやいやいやいや、ちょっと待て。ちょっと待ってよモーさんや。ヤベェんじゃねコレ。ボーデヴィッヒの奴、ヘタしたら死ぬんじゃね?俺はまあ雷が効かないから良いけど、機械相手に電撃ってどうよ?

 

「ぎ、ぎ......ガ...」

 

バチバチと紫電が走るシュヴァルツェア・レーゲン。その後、黒くなったそのISは崩れ落ち、中にいたボーデヴィッヒが視認できた。彼女が気を失うまでの一瞬、俺とボーデヴィッヒの目が合う。眼帯が外れて顕になった金色の左目。

...ヤバイカッコイイ!オッドアイとか!しかもカラコンとかじゃなくガチの!カッコイイ!

 

弱々しいその眼差しをしっかりと受け止め、崩れ落ちるボーデヴィッヒを抱き抱える。まあ宝具の直撃を喰らったのだから弱っているのは当たり前なのだろうが、何やらそれだけではなく、助けを求めているような瞳のボーデヴィッヒ。それを見て助けてやりたいと思った俺は、どうやら自分の思っている以上にこの少女のことを気に入っているらしい。

 

 

 

 


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