問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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明日はいよいよ卒業ですよ。
進路が決まってない状態での卒業とか本当に怖い...。
せめて大学の合格発表が終わってから卒業式をしてくれませんかねぇ...。


川神武闘会

 

『拝見、坂元凌太殿

 

令呪の存在にようやく気付いたか。

これは一応、お前の機転がどれ程きくかを試そうと思っての事だったんだが...。うん、遅すぎww

 

って事で英霊達はそのままそっちに残しておいてやるけど、もうちょい機転きかせれるようになれ。

あ、お前の力の封印は続行するから。この間お前に光の矢を刺した時、体内に直接刻印施した魔法陣があるから、強制解除したいなら体切って破壊するしか方法は無いぞ?まあ臓器と直結してるから、やったら多分死ぬだろうけどw

 

じゃあなーww

 

武神様より』

 

 

「キャラ変わってねえかこのジジイ...?」

 

手紙を読み終えた俺には、最早怒るという気力すら湧いてこなかった。もうそれすら通り越した呆れの領域へと入っているのである。というか何故一々手紙送ってくんのあの爺さん?電話で直接言えば楽なものを。

 

 

鉄心さんに静謐ちゃん達の居住許可を貰いに行くと、その鉄心さんからこの巫山戯た手紙を手渡されたのだ。

なんでも、川神流の郵便受けに投書されていたらしい。

 

とまあ、そんなイレギュラーな出来事はあったが、無事に鉄心さんからの居住許可を頂けた。そういう訳で、今夜は俺達の歓迎プチパーティをする、らしい。エミヤが張り切ってたから料理の方も楽しみだ。

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

翌日。

 

「ふむ、大惨事だなこりゃ」

 

昨日、というか今日の明け方まで騒いでいた俺達は、そのまま寝てしまっていたらしい。エミヤが作ってきてくれた料理や皿は全て片付いているものの、その後の酒盛り(川神水)の際に用意したつまみや空ビンなどが床じゅうに散乱していた。

そして、恐らく俺が一番最初に目を覚ましたのだが、もう既に太陽は空高く登っており、今は昼前後といった時間帯だ。

 

「川神水とやらでも、結局酔えなかったなぁ...」

 

昨日の出来事を思い出しながらそんな事を口にする。

俺は「酔う」という感覚を覚える前にカンピオかーネというチートボディになってしまった為、恐らく一生酔える機会を失ってしまっている。そこに後悔の念が無いと言えば嘘になるのだが、過ぎてしまった事を嘆いてもしょうがないと思い、部屋の掃除へと移行する。

すると、その掃除の音で目を覚ましたのか、モーさんが目を擦りながら体をムクリと起こした。というか、英霊ってのは本来睡眠や食事を必要としないはずじゃ...?

 

「おはようモーさん。悪い、起こしたか?」

「ん、いや別に構わねえよ。ふわぁ...」

 

欠伸を噛み殺しながらポリポリと頭を搔くモーさん。

ふむ。こうして見ると、言動はともかく、モーさんも立派なボーイッシュ系美少女なのだが、それを言うと怒りそうなので黙っておく。というか初日に性別の事に触れたらめっちゃ嫌悪されたし。よくもまあアレから仲良くなれたもんだと、我ながら不思議に思う。

ふぅむ...。俺、モーさんみたいなタイプは普通に好みなんだよなぁ。いや、好みの問題であって別に恋愛感情があるとかそういうのではないんだけれども。...それも言ったら怒られそうだな。モーさんだけでなく静謐ちゃんにも。

 

「...あの弓兵は?」

「ん?あれ、そういや見ないな。どこ行ったんだろ?」

 

言われてみれば、確かにエミヤの姿がない。

キョロキョロと辺りを見回していると、机の上に1枚の置き手紙があった。そこには今夜の晩飯の買い出しに出る事と、起きたら部屋の掃除をしておくように、という旨が書き記してある。うーむ、今日も絶好調で俺達の母親やってんなー。

 

「とりあえずこいつら全員叩き起して掃除すっか」

 

ぺしぺしと寝ている奴らの頬を叩いて起こしていく。数名程二日酔いなのか、「頭痛がする...」と言って水を飲みに行ったのだが、川神水ってノンアルコールだったよな?それでも二日酔いとかなるんだ。

 

「ふわぁぁあぁあ...。むう...もう昼か...。よし、目覚まし代わりに1戦やっとくか凌太」

「やんねーよ。さっさとここ片付けろ」

 

ぶつくさと文句を言いながらも片付けに入った百代を横目で見ながら、俺もゴミを片していく。

ふむ、こんな感じの日常も悪くない。転生(?)させられてからこの方、戦闘に次ぐ戦闘、時々修行というハードスケジュールだったからな。ゆっくり出来る事に越したことは無い。まあ力が半減以下になっているのであまりゆっくりもしていられないのだが。

 

「そういえば凌太は今度の大会には出場するのか?」

「大会?」

 

ペットボトルとそのフタを小分けしていた大和が俺にそんな事を聞いてきた。

 

「そ、毎年恒例『川神武闘会』。九鬼主催で、市と川神院が協力して行われる一大イベント。TV放送もされる大きな大会さ」

「ほう、所謂天下一武道会的な?」

「そんな感じ。で、どうするんだ?」

「んー...。修行の一環として出てみるのもアリかな」

「え、凌太も出るの!?うー...、ライバルが増えるぅ...」

 

俺達の会話を聞いていたらしいワン子が何やら項垂れているが、気にしない。誰かが言ってたよ、「世の中の理不尽は全て己の実力不足」って。まあその定義でいくと、爺さんの俺に対する理不尽は、主に俺の実力不足という事なのだろうか...。

 

「おっ、いいねぇ。その大会の優勝者には私とのエキシビションマッチを受ける権利が与えられるんだ。燕も出ると言っていたし、楽しみだなぁ!」

 

1人ワクワクし出した百代も安定のスルー。もしコイツと戦う事になったら全力で潰しに行こうとは思った。負けるのは普通に嫌だしね。

 

「マスターが出るなら俺も出てみようかなー」

「余も吝かではないぞ?」

「マジですか」

 

これは思った以上に壮絶な戦いになりそうだ。

静謐ちゃんとエミヤはきっと出ないだろうが、俺+この2人が出るというだけで大会は破綻したも同義だろう。ドンマイ、川神武闘会運営本部の皆さん。

 

「その、凌太。自分もその大会に出場するのだが、稽古に付き合って貰えないだろうか」

「あ!ズルイわよクリス!ねぇ凌太!私も一緒に修行していい!?」

「別にいいけど...。俺なんかより、この川神院で稽古付けてもらった方がいいんじゃないか?」

「それはそうなのだが...。お前とモモ先輩の戦いを見ていると、つい一緒に修行したくなるというか...」

「あ、それ分かるわ!こう、魅せられる?ってやつ!」

「マスターがカリスマスキルを習得...」

「皇帝である余の伴侶としては当然のスキルだな!」

 

なんと、俺はいつの間にか皇帝陛下の伴侶となっていたらしい。そしてカリスマスキルを習得、っと...。

...当人である俺自身が、一番理解が追いついてないってどうよ?それにカリスマスキルって本来そんな効果のスキルなのか?

 

 

とまあ色々頭を抱えたくなる案件はあるが、とりあえず皆で仲良く地獄の特訓をすることになったのだった。悪魔が音を上げた修行内容なので、地獄の、とつけても決して間違いではないだろう、うん。

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

さて、川神武闘会開催当日になりました。

 

『天候にも恵まれ、絶好の開催日和となりました今年の川神武闘会!強者達の気合いもヒートアップしておりまぁーすッ!』

 

実況の元気良いアナウンスが響く中、また1つの試合が終わりを迎える。大会は既に後半戦。残すは準決勝と決勝、そして武神・川神百代とのエキシビションマッチだけである。

え?今までの試合?カットです。

 

「うむ!やはり凌太は強いなぁ...」

「モーさんも大概だったわぁ...」

 

ボロボロに打ち負かされたワン子とクリスが揃ってそんな事を口にする。

それを見ていた風間ファミリーのキャップ、風間翔一が口を開いた。

 

「お前ら少しくらい粘れよなー」

「うるさいうるさいっ!仕方ないだろう!相手はあの凌太だぞ!?」

「モーさんも、その凌太と互角くらいの強さなのよねぇ...」

 

クリスは憤り、ワン子は項垂れながら観客席へと続く通路を歩いていた。もちろんその隣には俺もいる。本来ならば、俺は勝ち残っているので選手控え室に向かわなければならないのだが、自販機が観客席への通路にしかないので一緒に歩いているのだ。

 

「ま、クリスもワン子もいい線いってたさ。あんま落ち込むなよ?」

「むぅ...。自分を倒した本人にそんな事を言われてもな...」

「それもそうか。お、自販機発見。じゃ、また後でなー」

 

風間ファミリーに手を振って飲み物を買いに行く。早くしないと準決勝始まるな。

ちなみに、準決勝のカードは“俺 VS ネロ”・“松永燕 VS モードレッド”という組み合わせだ。今回はネロともガチンコ勝負なので、正直勝てる保証は何一つ無い。それに、仮にネロに勝ったとしても次は恐らく、というかほぼ確実にモーさんだ。こちらも厳しい戦いになるだろう。そしてそれに勝っても百代戦が待っている。キッツイですわー。

そう考えてながら控え室へと戻ると、スタッフが俺を呼びに来た。もう時間か。よっし、いっちょ気合い入れて行くか!

 

 

 

 

『さあさあ始まりました、川神武闘会準決勝!対戦するのはこの2人!今までの試合をほぼ一撃で決めてきたネロ選手と、こちらも圧倒的な戦闘能力を見せ付けて勝ち上がってきた坂元選手だぁ!!』

 

アナウンスのそんな紹介を聞きながら、目の前に対峙するネロを見据える。彼女も、不敵な笑顔を浮かべたままこちらを見返してきている。

 

「ふっふっふ。いよいよだな奏者よ。先に言っておくが、奏者が弱体化していようと余は手加減などせぬぞ?」

「当たり前だ。手加減したら嫌いになるからな」

「それは困る!!全力で戦うから余の事を嫌いにならないでくれ奏者!」

「お、おう...」

 

軽い冗談のつもりで言ったのだが、ネロにとってはそうでなかったらしい。どんだけ俺の事好きなんですか照れるじゃないですかそして嬉しいじゃないですかヤダー。

 

「両者共、準備はよろしいですね?」

 

審判が確認の為に聞いてきた言葉をしっかりと聞き、俺達は意気揚々とそれに答える。

 

「うむ!」

「応!」

「それでは、試合開始ッ!」

 

ゴーン!とゴング代わりの鐘が鳴り響くと同時に、俺は槍を、ネロは剣を構えて飛び出した。槍と剣が交差し、鍔迫り合いながら両者獰猛に笑みを浮かべ────

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

『それでは川神武闘会、いよいよ決勝戦の開始ですッ!それでは両者、入場して下さい!!』

 

アナウンスが流れ、ステージの上に登る。対面上にはモードレッドが口角を上げながら待ち受けている。

 

準決勝、俺とネロの試合は20分という長期戦になった。両者1歩も引かず、剣と槍がひっきりなしに火花を散らす。そんな戦いで、ネロに隙が多くなったのだ。ネロの性格上、長引く戦闘は余り得意ではない、と思う。戦争という事なら話は別だろうが、これは一対一の勝負だ。焦りもあり、不用意に飛び込んで来た所をカウンターで場外へと投げ飛ばした。

で、モードレッドの方は普通に勝っていた。松永も最後まで粘り、数発だけではあるがあのモードレッドに有効打を当てたのだが、力及ばず地に伏した。

 

という訳で、決勝戦のカードは俺 VS モードレッドとなり、その試合が今から始まろうとしている。

 

「よう、マスター。父上っぽい人を倒して良くここまで来たな」

「父上っぽい人ってお前...。あと何で俺が挑戦者側みたいになってんの?」

「いいんだよそんな事は。ノリだ、ノリ。それにお前さんがマスターではあるが、当然俺の方が格上だしな。文句あるか?」

「大アリだよこの野郎。良い機会だ、この試合で白黒ハッキリ決めようか」

 

おちゃらけた雰囲気を醸し出す俺達だが、実際どちらも油断など微塵もしていない。毎日のように手合わせをしているので、相手の手の内や攻撃パターンなどはお互い良く知っている。

ちなみに、この大会も今までの鍛錬も、修行という事で権能は使っていないし、この試合でも使う気は毛頭無い。俺は権能に頼り過ぎている節があるので、それを直す為の手段だ。

まあ権能無しで英霊、しかもその中で強い部類に入る奴らを相手にするのは凄くキツイし、普通に戦ったら俺が負ける。しかし、その地力差を埋めるのが技術だ。まあ圧倒的な暴力の前には技術なんて無意味なんだけどネ。

 

「それでは、試合開始ッ!」

 

試合開始の声と鐘が鳴る。と、俺は持ち前の速度でモードレッドの背後を取り、槍で一薙ぎ。それはギリギリで反応したモードレッドの剣に防がれたが、俺は最近二槍流になったのだ。

今鍔迫り合っている方とは逆方向を、もう1本の槍で穿つ。傷は回復魔術を用いて後で綺麗に治すので遠慮はしない。というか遠慮したらこっちが負ける。

 

「クッソが!」

「女の子がそんな下品な言葉遣いをしちゃいけません!」

 

剣の一閃を回避しモードレッドに注意を投げかけつつ、俺は後方に飛び退く。

しかしそこで攻撃の手を休める程俺は善人ではない。手負いの今を狙うのが俺ですよ。

 

「吹き飛べオラァ!!」

 

魔力を込めたアッサルの槍を、モードレッドに向けて投擲する。飛翔する槍を上手く剣で弾いたモードレッドだが、甘い。その槍は爆発するんだよ。

 

「なっ!?武器が爆発した!?」

「まだまだお前に見せてない技もあるって事さ。ほら、余所見してるとやられるぞ!」

 

爆発を直で受けてほぼ無傷で爆煙より姿を表したモードレッドに多少驚きながら、戻ってきたアッサルの槍と天屠る光芒の槍を構えて再び特攻する。

だが、モードレッドが剣を振るい、槍ごと俺を吹き飛ばした。そして、魔力が抜けて行く感覚が俺を襲う。

 

「...奥の手を見せてないのは俺だって同じだ。──これこそは、我が父を滅ぼし邪剣。」

 

モードレッドが剣を両手で構え、そこに魔力を集中させていく。というか俺の魔力も持っていってるんですけど。これ宝具じゃね?もしかしなくても宝具ですよね?

 

「ちょ、バっ、待て!」

「ハッ!誰が待つかよ!それじゃあ蹂躙するぜぇ!『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!!」

 

振りかざされた圧倒的な暴力の渦。電撃の様なビームが俺を襲う。

“地力差を埋めるのが技術。まあ圧倒的な暴力の前には技術なんて無意味なんだけどネ”。先程の自分の言葉が脳内で木霊する。

 

──あっ、これダメなやつじゃね?

 

一応魔力で防御壁を張ってみたが、そんなもの無いも同然という勢いで全てを飲み込んでいく。

そうして、モードレッドの宝具が俺の体を覆った。


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