問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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令呪

 

 

 

 

 

──いきなりだが、俺のここ1週間を振り返ってみようと思う。

 

まず今日から丁度1週間前。俺はこの世界に飛ばされた。それも1人で。そしてそれから5日。俺は魚などをヒット&イートして食欲を満たしていたのだが、色々あって魔力が底を尽き行き倒れてしまった。そして昨日、俺は松永燕に介抱され無事復活。その日の内に剣の英霊、叛逆の騎士・モードレッドの召喚に成功。何だかんだで彼女とは気が合いその日の内に意気投合した。今やお互い肩を組んで「俺達相棒!」とか笑顔で言えちゃうレベルである。良く考えるともう既にここから可笑しいのだが、スルーするとしよう。

そして現在、俺は川神院という武術の総本山を名乗る場所で修行をしていた。なんでさ...。

 

 

 

 

 

「まだまだ行くぞ凌太ァ!ヒャッホウ!」

「そんな掛け声で飛びかかってくんな!...おいちょっと待て、エネルギー砲は禁止だって言っただろ?なんで拳に気を溜めてるの?...おまっ、バカか!それだったら俺にだって考えがあるんだぞ!!」

 

既に出していた『天屠る光芒の槍』に加え2本目のアッサルの槍を取り出し百代が放ってきたエネルギー砲を弾く。

何故にこんな実戦訓練を行っているのか?俺も知らん。昨日この川神院を訪ねたら流れるように入門させられ、そして住み込みで稽古を受けて今に至る。

俺自身意味が分かってないが、今の俺と百代の力は拮抗しており、単純な腕力では百代に軍配が上がるかもしれないというこの条件。修行には持ってこいの状況ではあるので素直に戦っているという訳だ。それにしても百代さんテンション高杉ィ。

 

「両者そこまで!百代、そろそろ登校時間じゃぞ?」

「今いい所なんだ!邪魔するなジジイ!」

 

仙人風の老人──川神鉄心が声を掛けてくるが、興奮しきっている百代は聞く耳を持たない。お前はアレか、狂戦士と書いてバーサーカーと読む種類の生き物か?

 

とりあえず俺はまだやり足りないと駄々をこねる百代をなだめ、また続きは夕方にしようと言って学校へ行かせる。俺は学校に行かないのかって?学費を払えるような大金は所持してないわい。

 

「さて、と。じゃあやろうか、モーさん」

「おう!ま、どうせ俺の勝ちだろうがな!」

「言ってろ。俺は相手が誰であろうと本気で殴るぞ?」

 

そう言って俺達も川神院を出る。行き先は近所の山だ。丁度中腹辺りにいい感じの広場があるらしいので、今日はそこでモーさんことモードレッドと手合わせする予定なのだ。弱体化してから初のサーヴァント戦、しかも相手は最優と言われるセイバーだ。それに、良くは知らないが、モードレッドはあのアルトリアの息子で円卓の騎士だったらしい。息子?と疑問には思ったが、まあ偉人の性転換など見慣れたもので、特に驚きはしなかった。

 

そして俺vs.モーさんという、環境破壊と言う名の修行が始まるのだった。翌日の新聞に『消し飛んだ山!武神の八つ当たりか!?』とかいう見出しで大々的に報道されていたが、港ですら吹き飛ばした事のある俺にとっては些細な事だ。よって俺は見ないフリに徹した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川神院に強制入門されてから早1週間。

日課となっている昼間のモーさんとの手合わせを終えて休憩している途中、俺はとある事に気付いた。それは──

 

「どうしたんだマスター?手の甲なんか眺めて」

「いや...。令呪って、サーヴァントに対する絶対命令権とか言ってたよな、と思って」

 

そう、俺の手の甲に存在している3画の令呪の事である。既に4人の英霊と契約しているのに令呪が3画だけというのは謎だが、まあそれなりの仕様があるのだろう。例えばほら、1晩休んだら令呪が1画だけ復活してるとか。

 

「まあ絶対命令権とも言えるな、令呪は」

 

何を今更、という口調でそう言ってくるモーさん。

...絶対命令権、か...。試して見る価値は大いにある。

 

「...よし」

 

俺は腰を上げ、足を肩幅に開いて立つ。モーさんは俺の意図が読めていないのか、俺の行動を不思議がっているが、説明するよりやって見せた方が早いだろう。

 

「──令呪を以て命ずる。俺の下へ来い、アサシン、アーチャー、セイバー!」

 

令呪を使う事を意識しながらそう命令を下す。すると、令呪が赤く光りだし波動の様なものが広がっていく。そして──

 

「ぐっほ...!」

 

無言のタックルが2つ、俺を襲った。

 

「奏者、奏者、奏者!!遅い、呼ぶのが遅すぎるぞ奏者よ!余は...余は本気で泣くところだったのだぞ!?」

 

半泣きのネロと静謐ちゃんが凄い勢いで飛び付いてきたのだ。見るとエミヤの姿も確認出来る。よし、成功したな。クハハ、見たかジジイ!貴様を出し抜いてやったわ!

 

俺は先日気付いた事がある。それは、俺と静謐ちゃん達英霊とのパスが未だ通っているという事だ。だから現界するのに必要な魔力は俺から流れていたし、どうにかして静謐ちゃん達をこちらに喚べないかと考えていたのだ。

そして先程、令呪というモノの存在に気付いたという訳である。令呪を見てみると、手の甲にあった3画の令呪は全て消えていた。1人喚ぶのに1画と考えると妥当だろうが、これからは同じ手段が取れないと言うのは痛い。本当に1晩寝たら回復しないかなー。

 

俺は飛び付いてきた静謐ちゃんとネロの頭を撫でながらそんな事を考える。すると、今まで静かだったモーさんがワナワナと震えているのが目に入った。

 

「ち、ちちち、ちちちち父上ェ!?」

 

何を言っているんだこの娘は。父上ってアルトリアの事だろ?ここにアルトリアなんていな...ああ、そういう。

モードレッドが指指していたのはネロ。確かにアルトリア顔だしな、ネロって。

 

 

 

 

 

 

 

「また新しい女が...マスター、浮気...清姫さんにも報こk...」

「話し合おうか静謐ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事に令呪による強制召喚を終えた俺は、4人のサーヴァントを連れて山を降りる事にした。何をするにしてもまずは拠点を見つけなければならない。鉄心さんに頼んで全員を川神院におかせてもらおうかな。

あ、あとモーさんの誤解は解けました。でも、カルデアにならアルトリアが居るよ、と伝えるとあからさまにソワソワしだした事から、この娘はファザコンだと確信した。

 

「それにしてもそこの2人、ちょっと、というかかなりマスターに近付きすぎないか?」

「ふむ、静謐は大体いつもこうだが、ネロが常に抱きついているのは珍しいな。長期間マスターと会えなかった弊害か?」

「って事はそっちのアサシンはいっつもマスターに引っ付いてんのか...」

「おっ、なんだよモーさん、嫉妬か?」

「はぁ!?ちょ、おまっ、何言ってんだよバッカじゃねえの!?バァカ、バァカ!!」

「うむ。奏者よ、余はハーレムを作るのに反対はしないぞ。寧ろ勧めるドンドンやれ。そうすれば自然と余の周りにも可愛い女子達が...」

「やはり浮気...、報告...」

「やっぱり1回ちゃんと話し合おう。な?」

「やれやれ...」

 

女難の相持ちのバトラーが肩を竦めて呆れたようにこちらを見てくる。見てないで助けろよ、とは思うのだが、もし俺がエミヤの立場でも助ける方法が見つからないだろうと思い至り、声にはしなかった。

 

「あれ、凌太じゃない。何してるの?」

 

本気で話し合いを始めようとしていると、タイヤを引きずりながらランニングをしている少女──ワン子こと、川神一子と遭遇した。彼女とか川神院で何度も顔を合わせており、それなりの友人関係は結んでいた。まあ1週間ちょっとで結ばれる友情などたかが知れているが。

 

「修行の帰り。そっちはランニングの途中か?」

「ええ!沢山修行して、早くお姉様に追い付きたいもの!勇往邁進よ!」

「...そっか、頑張れよ」

「うん!じゃあ、また後でねー!」

 

そんな事をいいながらランニングを再開し、走り去っていくワン子。ふぅむ、言ってはなんだが、あの子が正規法で修行して百代に追いつく、というのは不可能に近い。どうしても才能の壁というのは存在してしまうのだし...。越えられない壁、というものが、百代とワン子の間には佇んでいる。まあ正規法以外の方法で、というのならば幾らか手段はあるのだが。例えばホラ、神殺しになるとか、魔法を覚えるとか。

まあ、懇願されればそういった方法を教えるのも吝かではない。

 

「ん?奏者、『また後で』という事は、今の娘とまた会うのか?」

「ああ。アイツは、今俺が世話になってる川神院って所の娘さんでな。飯時とか鍛錬中に顔を合わせるぞ。言っとくけど、アイツが俺に恋愛感情を向けてるとかないからね?ワン子には他に好きな奴いるらしいし」

 

少し俺の腕を握る強さを上げていた静謐ちゃんに言い聞かせるようにそう言う。ネロや清姫辺りまでは許容しているらしいのだが、それ以外は駄目らしい。最後にオカルト研究部の部室を訪れた時には、姫島に対して若干の敵意の様なものを向けていたし。

 

「ふむ、マスターが世話になっているのか。それでは、私が料理を以て礼でもしなければな」

 

腕がなる、と1人気合を入れているシェフは無視して、俺達は川神院へと続く道のりを歩いて行き、暫くすると川神院の門が見えてきた。

と、その時、俺達とは反対側の道から見知った顔ぶれの連中が歩いてくる。百代やワン子も属する『風間ファミリー』というグループだ。

 

「ん?おっ、凌太じゃないか。今帰ってきたのか?それじゃあ飯の前に軽くやろう!な!」

「落ち着け狂戦士」

「そうだよ姐さん。そんな事より、俺としてはそっちの人達に興味があるんだけど。...なんで花嫁衣装?」

 

百代が嬉々として闘気を開放してきたが、それを彼女の弟分である直江大和が仲裁に入る。そして、静謐ちゃん達に興味を示してきた。まあ先程のワン子がズボラなだけであって、普通は気になるよな。花嫁衣装で出歩くような輩、気にならない方が可笑しいし、明らかに一般人とは別格な奴が俺含め5人もいるのだから。

大和の言葉で、俺の周りに居る英霊達も強そうだと感じ取ったのか、百代が一層瞳を輝かせている。マジで戦闘狂だなコイツ。

 

「ふむ、余に興味があるのか。良い良い、分かっておる。察するに、余の麗しさに見蕩れたか!!」

「キミは少し、謙虚な心を持ってみたらどうなんだ...?」

「この皇帝にそんな事言っても今更って感じでしょ」

「...それもそうか」

「要するに強いのか?なあ、強いんだろ?」

「ステイ」

 

とまあ、良い感じに混沌としてきたのでとりあえず川神院に入る。百代や大和と一緒にいたその他複数名は話に付いてこれていないのか、呆然としながらも俺達に続き川神院へと足を踏み入れる。普通何も言えないよねこの状況。

 

 

 

 

 

「それじゃあとりあえず、凌太からやろう」

 

と言って聞かない狂戦士を落ち着かせる為、一旦模擬戦を行うことにした。エミヤは買い出しに出たので、オカンの帰りまではやるつもりである。

風間ファミリーの面々も、元々今日は百代達と一緒に食べる予定だったらしく、大人しくエミヤに御馳走になるそうだ。なのでエミヤと共に黛由紀江も買い出しに出ている。ただ御馳走になるだけというのは心苦しいので、との事らしい。良い子じゃ。

 

「戦闘中に考えて事かぁ!?ホラホラ、ドンドン行くぞぉ?ヒャッハー!!」

「お前の脳内は世紀末か」

 

馬鹿げた事を叫びながら放たれる百代のラッシュを捌きながら、とりあえずツッコんでみる。これでも結構ギリギリなのだが、それを悟られないようにする為だ。この子マジで馬鹿力なんですけど、さっきから腕が痺れてるんですけど!

 

「ふぅむ。奏者と互角に殴り合うとは、あの娘もキチガイか?」

「姐さんがキチガイなのは全世界の人間が知ってるよ。何せ、姐さんは世界最強の武神だからね」

「なんと。やけに強いと思ったら、あやつ神だったのか」

「い、いや、武神っていうのは所謂通り名ってやつで、別に本物の神様って訳じゃないんだけど...」

 

まあ、俺と一緒に旅してたら神様とか普通に出会うし、まず身内いるからね、武神。ネロが本物と思うのも仕方ない。

 

「川神流・炙り肉!」

「あっつ!!」

「ははは!!余所見してるからこうなるんだ!」

「あっつ、ちょ、マジ熱...、焼けるわボケェ!!」

 

俺の腕を掴み容赦無く焼いてくる百代の手を振り払い、一旦距離をとる。うわ、ちょっと焦げてるし...。俺に魔法系の神秘は効かないんだぞ。回復系も然りなんだから加減というものを覚えて欲しい。

 

「まだまだァ!川神流・無双正拳突き!」

「お前マジウザイ超ウザイ!」

 

そう言いながら全ての正拳突きを捌いて反撃に出る。百代は基本大振りなので隙が出来やすい。なのでそこを狙う。

百代の攻撃が止む一瞬に彼女の股下へと足を踏み込ませ、肘で腹を一発。そうすると百代の体が少し浮くので、両手掌底打ちで吹き飛ばす。

そこから俺の反撃が始まろうという所で、エミヤと黛が帰ってきたのが目に見えた。

 

「っ...。おい百代、今日はここまでだ」

「はあ!?今いい所なんだからもう少し...」

「ダメだ。エミヤ達が帰ってくるまで、って約束だろ?」

「むぅ...ケチ」

「へーへー。ほら、もう行くぞ」

 

ジト目で睨んでくる百代をスルーしながら室内へと上がる。鉄心さんにまだ静謐ちゃん達の居住許可を得ていなかったので、とりあえずはそれからかな。

 

 

 

 

 

 


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