問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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真剣で私に恋しなさい!
ふざけんなよジジイ


 

 

 

 

 

 

マジで何を考えているんだあのジジイはホンマ殴ったろか?いや返り討ちだわ...。

などと考えていると、いつもの様に前方に光が見えてきた。体が光に包まれ、だんだんと景色が見えてくる。そう、とても綺麗な、上空からの(・・・・・)雄大か景色が。

 

「...ははっ。すっげーデジャブ」

 

薄い乾いた笑顔を浮かべながら、俺は地上へと落下して行った。

...諦めって重要ですわ。

 

と言っても、前回とは違い俺はこういう事に慣れてしまっている。

...よくよく考えると、俺が普通の生活を送っていたのは僅か2ヶ月程前なのだ。つまり、たったそれだけの期間でここまでキチガイじみてきている、という事だ。我ながら馬鹿じゃないのかと思う。

だがまあそこに嘆いても仕方がないし、全部あのクソジジイのせいだという事で結論づけて、俺は地面の方を見る。どうせアレだろ?また誰か戦ってるんだろ?分かるとも。

 

「...今、ヘリコプターとすれ違ったな...」

 

下を見下ろした瞬間、俺はヘリコプターの横を通り過ぎていた。なんかカメラ回してたんだけど、もしかして全国放送とかじゃないよね?違うよね?もしそうだったら俺、空から落ちてきた青年Aとかになるんじゃね?それは嫌だわ普通に。

それに地上でも予想通り、何やら合戦をしていた。何故か体操服の奴が多い気がするが、合戦は合戦だ。弓矢が飛び交い、刀や槍での打ち合いが行われている。魔法とかは使われていないっぽいので、今までのファンタジー全開な世界とは違うようだ。脳筋な世界である可能性は非常に高いが。

そして俺の予想着地点では、銀髪やら黒髪やらの女の子4人が激しく殴り合っている。

 

「川神流、星殺し!」

 

黒髪の女の子がそんな技名を叫びながら拳を繰り出すと、よく分からないエネルギー的な何かが放出され、敵と思しき女の子2人が吹き飛んでいった。ついでに地面もエグれている事から、相当の破壊力なのだろうと推測できる。英霊クラスの攻撃、と見て良いだろう。やはり脳筋の世界か。

 

「ちょっとそこ退いてねー」

 

まあ何はともあれ着地しなければならなかったので、とりあえず声をかける。俺に空を飛ぶという手段は今のところ無いので着地点を大幅に変えると言う事は出来ないのだ。そのうち空飛びたいなー。

と、俺の声に気付いたらしく、女性陣はそこから飛び退いた。

そして綺麗に着地。体操選手さながらの着地である。目測で上空2000m程からの落下にしては割と落ち着いて着地出来たのではないだろうか。俺ガンバッタヨ。

 

「んー?誰だお前?」

「通りすがりのしがない旅人です。どうぞ戦闘をお続け下さいな」

 

訝しむ周りの人達にサラッと嘘を付きながらその場から離れようとする。だって面倒そうだし。それに俺、まだ全快してないんだよ。力が半分も入らないしさ。

そそくさと退散しようとしたその時、空から1枚の手紙が落ちてきた。それは明らかにおかしい軌道で俺の元に降ってきたので、俺はその手紙を手に取る。宛名は俺だった。気になったので封を切って中身を見ると、そこにはこう書いてあったのだ。

 

 

 

『坂元 凌太 へ

 

よう、元気か?ワシだよワシ!お前をボッロボロに負かした武神様だよ!

で、唐突だけど今のお前の状態を伝えようと思う。

 

まず1つ目。お前の魔力と身体能力はある程度封印させてもらった!具体的な数字を言うと、魔力が10分の1、身体能力が3分の1程度だな。お前強くなり過ぎたから、その位しないと修行にならないだろうという、ワシからのサービスだ。心から喜べ。

 

そして2つ目。サーヴァント達は箱庭に強制送還したから、そっちにはいないぞ。1人で頑張って来い☆

 

そっちには戦闘狂も多いし、それなりに強い奴らもいるから、実践を踏んでこい。それじゃ、更に強くなる事を期待してるぞ!

 

無敵で素敵な武神サマ より 』

 

 

 

......。

 

.........。

 

...............。

 

 

 

「ざっけんな!!!!」

 

ビリビリッ!と手紙を破り捨て、更に踏みつける。この行き場の無い怒りを全て受けたその手紙はズタボロになり見る影もなく、地面には亀裂が走る。

冷静に考えると、地面に亀裂が走る程の馬鹿力を発揮しておきながら、これが本来の力の3分の1だというのだから、俺の本気とは一体どれ程の威力を持っていたのだろうか、と少し憂鬱になったりもするのだろうが今はそれどころではない。

あのジジイは1度殺さなければならない。俺はそう思った。

 

「ははっ!誰だか知らないが、お前だったら少し楽しめそうだな!此処にいるって事はこの川神大戦に参加してるんだろ?なら私と戦え!」

 

そう言いながら殴りかかって来る黒髪の女の子の拳を受け止めながら、俺はフフフと笑いを漏らす。

 

「ふ、ふふふ...。もうどうにでもなれってんだコンチクショウがぁああ!!!!!」

 

地面を踏み砕いただけでは物足りず、好都合だとばかりに俺は女の子と対峙する。手紙にもあったが、とりあえず強くならねばならない。そしてあのジジイを葬るのだ絶対に必ずabsolutely(是が非でも)!!

 

「喰らえ見知らん少女よ!雷砲(ブラスト)ォ!」

 

手に雷を纏わせ、それを拳と共に放出する。

明らかにいつもより威力が落ちている。これも爺さんの仕業かクソが!

 

「なっ!?電流!?」

 

驚いた少女はそのまま雷砲に襲われ、その身を焦がされた。...え?

 

「あれ...?もしかして俺、やりすぎた...?」

 

今までの怒りは何処とやら。冷静さを取り戻し、やっべー、殺しちゃった?などと思考を巡らす。今更人1人殺した所で何とも思わない俺ではあるが、それでもまだ、辛うじて女の子に暴力を振るい、あまつさえ殺してしまったという事に罪悪感の欠片くらいは湧いてくる。

どうしたものかと思っていたら、黒焦げ少女が少し動いた。

おっ、まだ生きてる!

 

「...しゅ、瞬間、回復!」

 

そう口にした少女の体は、見る見るうちに元の綺麗な状態へと戻っていき、その顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「あちゃー。やっぱりそう簡単にはやられてくれないかー」

「ふん、流石は百代だな。それでも、アレで大分力は削れたハズだ。ここで決めるぞ!」

 

もう1人の黒髪少女と銀髪お姉さんがそう言って今しがた黒焦げ状態から回復した少女へと殴り掛かる。

...途中参加の俺に何も突っ込むこと無く戦闘を続行するあたり、戦闘狂が多いってのは本当かもしれない。

ただまあ冷静になったと言っても、俺の怒りが完全に収まった訳ではないのだ。俺は静かにギフトカードからアザゼルに貰った槍を取り出し、空高く跳躍する。

 

「纏めて死なない程度に吹き飛べ──『アッサルの槍・レプリカ』!」

 

投擲された槍は百代と呼ばれた少女の足元に着弾し、爆発する。魔力を込めてそうなるようにしたのだ。そして役目を終えた槍は俺の手元へと戻ってくる。これは便利。

 

着地と同時に、百代がまたしても瞬間回復とか言って全快し、俺に殴りかかってくる。それチートじゃね?と思うが、チートの権化である爺さんを見てきた後だとこの程度ではチートとは言えないのか?とも思う。

そして俺と百代の拳がぶつかり、衝撃波が生まれた瞬間、パン!パン!と空砲が鳴り響く。

 

「川神大戦、終了!」

 

何処から現れたのか、いかにも仙人という風貌をした老人がそんな宣言をしたと同時に、百代は拳を収めた。

なんだ?川神大戦?そういやさっきもそんな単語を聞いたけど、なんだよ川神大戦って。というか、これって俺此処にいちゃ面倒くさいやつじゃね?ほら、俺って空から降ってきた身元不明の男だし、警察に突き出されたら絶対面倒だよ。逃げるのは簡単だけどさ。

などと考えながら、俺はそっとその場を後にした。

 

 

その5日後、俺は空腹やら魔力切れやらが原因で倒れるのだが、この時は知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─夢を見た。箱庭にいる夢だ。

ココ最近はずっと術式開発の為に自分の夢をいじってたから、自然と見る夢とか久しぶりだなー、などと思いながら俺は大広間のソファに腰かけていた。

周りには静謐ちゃんやネロがいて、エミヤが軽食を作ってくれて、ヴォルグさんとウェーザーが談笑しており、嫌がって逃げるペストをラッテンが追いかけている。とても穏やかで、心休まる空間である。...しかし、何かを忘れている様な...?

 

『やっはろー☆ いつもニコニコ貴方の傍にいるかもしれない、這い寄る混沌的存在、神サマでっす!』

 

 

 

 

 

「バルス!!!」

「うわっ!」

 

夢の中でヌッと這い出てきた爺さんの言動に腹が立ち、思わず滅びの呪文を全力で唱えてしまった。もちろん魔力込みで。

あの爺さんはクトゥルフ神話に関係していてもおかしくはないと思う。

ん?というか今、誰か知らない奴の声が聞こえたような?

 

「び、びっくりしたー...」

 

横を見ると、そこには自身の胸に手を当てて驚きを表現している1人の黒髪美少女が。あれ、この人どっかで見た気が...。

それに、ここ何処だよ。魔力の絶対量がどこまでなのか試してた所までは覚えてるんだけど...。

と、事のあらましを思い出していると、ぎゅるるるぅぅぅぅぅぅ...、と俺の腹が盛大に自己主張してきた。そういやここ数日まともに食ってなかったからなぁ。

 

「あ、お腹が減ってるのかな?納豆食べる?」

「...食べる」

 

聞きたい事はあるが、まずは腹ごしらえといこうじゃないか。昔の人は言いました。腹が減っては戦は出来ぬ、と。そういう訳で俺は遠慮なく白米と納豆+αを頂いたのだった。

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

「はーい、お粗末様」

 

出された白米を丼で5杯、納豆2つ。それに加え、漬物や干し魚などのオカズを完食して合掌する。

 

「ふう、美味かった...」

「そう言ってくれると嬉しいよ。これからも是非松永納豆をよろしくね!」

 

ニコッと明るい笑顔で実家の商品を薦めてくるこの娘はきっと商売上手なのだろう。可愛いし。というか納豆とか久しぶりに食ったわ。今後機会があれば買おう、松永納豆。

 

「ところで君、なんでウチの前で行き倒れてたの?それに君って、この前の川神大戦で百代ちゃんと互角にやり合ってた人だよね?どこであんな力を付けたの?あと、あの時の爆発した槍って何?自作の武器?」

 

一気に飛んできたマシンガンクエスチョンに、俺はテキトーに答えていき、とりあえずの説明は終わらせる。まあ爺さんの事とか異世界の事とか封印がどうとかは面倒くさいので省略したが。彼女には、俺は「武者修行中に道に迷って倒れた人」と説明しといた。嘘を言ってないことは無い。清姫がいたら確実に炎が飛んできているであろうが、此処にはいないので問題ナシだ。

 

「俺のことはもういいな?んじゃ、アンタの説明を頼むわ。飯まで御馳走になっておいてなんだが、俺はアンタの名前すら知らないからな」

 

松永納豆、と先程言っていたので、おそらく苗字は松永なのだろう。だがそれ以外の情報がまるで無い。それに彼女だけではなく、この世界の情報も圧倒的に足りていない。一応、ここが川神市と呼ばれる日本のどこか、という事だけは分かったのだが、それ以外はてんで分からない。やはり情報収集の為にも英霊召喚してみるかな?アサシンのサーヴァントが来れば俺なんかよりも有益な情報を集めてくれるかもしれないし。

 

「あ、自己紹介がまだだったね。私は松永燕。川神学園の3年生で────」

 

 

その後何だかんだで彼女の事やこの地の事を聞くことができた。詳しい事は省くが、とりあえず川神院とかいう道場的な場所がある事、川神学園という武術専攻のキチガイ学校がある事、九鬼とかいうよく分からん大財閥がある事を把握しておけば良いだろう。武者修行なら川神院に行けば良い、とは松永の談。どうせ行く当ても無いので、彼女の助言に従って俺は川神院へと足を向けることにした。

 

 

 

「──っと、その前に」

 

松永家を出て暫く歩き、丁度良さげな河原を見つけたところでとある魔法陣を地面に書いていく。1人では色々と面倒そうなので、とりあえず英霊召喚をする事に決めたのだ。長らく、と言っても1ヶ月ちょっと程だが、俺には常に英霊達が近くにいた。俺は基本脳筋であるという自覚がある。それ故に、先人達の知恵で助けて欲しい事も多々あるのだ。エミヤの存在とかマジで助かってた。主に飯とか。

 

「さて、と。こんな感じだったかな」

 

昔、ジャンヌが1度だけ書いてくれた魔法陣の記憶を辿り、英霊召喚の為の準備を終える。聖遺物とか触媒とか無いし、そして何より聖杯が無いのだが、とりあえず試すだけ試してみようと思う。

 

「詠唱は...まあこの間と同じでいいか。...うっし。

──素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」

 

魔力を込め、うろ覚えの詠唱を唱えていく。ちゃんとした英霊召喚はこれで2度目だ。正直言って成功するかは五分五分である。成功したらラッキー!くらいの気持ちでいこう。

 

「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」

 

詠唱を終えると同時に、魔法陣が眩く発光し始めた。そして段々と光が収まっていき、人影が視認出来る程になる。おっ、案外やってみるものだな。英霊召喚、成功だ。

 

「セイバー、モードレッド推参だ。父上はいるか!」

「......」

 

現れたのがフルアーマー完全装備の、恐らくファザコン入ってそうな英霊でも成功は成功だ。...成功だよね?ね?

 

 


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