問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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それでいいのか総督よ

 

 

 

 

 

目を覚ますと、そこは駒王町で拠点にしている教会の寝室、そのベッドの上だった。同じ布団の中では静謐ちゃんが規則正しい寝息をたてながら添い寝をしている。

何故俺は此処に...?

と考えていると、ノックも無しに寝室の扉が開かれた。

 

「む?おお、目を覚ましたのか奏者よ。3日も寝たきりだったので大分心配したのだぞ?」

 

ズカズカと入って来たのはネロ。ノックという素晴らしい文化を理解して欲しい。じゃないといつかラッキースケベに巻き込まれるぞ皇帝殿。俺やエミヤの着替えシーンとか誰得だよ。

 

「ん、すまんな...。って3日?そんなに寝てたのか?感覚的には数時間くらいだったんだけど...」

「あと2時間程で丸3日になるな。血塗れで穴だらけの奏者が運ばれて来た時は、あの場にいた皆が度肝を抜かれたぞ。というかよく生きていたな。いや嬉しいのだが」

「あー、思い出してきたわ...。はぁ、結局俺は負けたんだなぁ...」

 

手で顔を覆いながらそんな事を口にする。ああ、記憶がハッキリしてきたからか、余計悔しい気持ちが湧き出てきた。命令に逆らって立ち上がったのはいいが、結局最後は負けた。それも完膚無きまでに、だ。負けたくないなどとタンカを切って起きながら、なす術無くあの矢に貫かれた。ゲームが終わるのがもう少し遅ければ俺は確実に死んでいただろう。ああ、あのタイミングで決着付いて本当良かった(シミジミ)

 

「で、その奏者って何?」

「奏者は奏者だが?」

「アッハイ」

 

少し気になったので聞いてみたが、まあまともな答えが返ってくる訳も無く、もう考えない事にした。あれだよね。清姫の『「旦那様」と書いて「ますたぁ」と読む。その心は愛一色です!』というのと同じだろ?狂化してるなら仕方ない(暴論)

 

「それはそうと奏者よ。そちらはものすごい戦いだったようだな。特にあの落雷。大分離れていたのに、余達も衝撃波だけで飛ばされたぞ」

「あー、あれなー。一応俺の必殺技だったんだけど、あのジジイ五体満足で耐えてやがった。俺なんかよりよっぽど化け物だろ」

 

寝る間も惜しんで完成させた俺の必殺技。まあ寝る間を惜しむ、というか寝てる間に完成させたんだが。

 

俺のもう1つの権能『形作る者』は、夢に干渉する能力である。自分が見たい夢を見れたり他人の夢に入り込んだりできる、まあぶっちゃけ戦闘では一切役に立たない権能だ。正直に言うと俺も分身とか使いたかったのだが、発現した力がこれだったのだから仕方ない。

それにこの能力も使い方によっては役に立つ。夢の中の記憶はしっかりと残るし、夢の中で自由に動き回る事もできる。よって、俺は寝ている間、夢の中でずっと術式開発に勤しんでいたのだ。“千の蛇”と“振り翳せり天雷の咆哮”の2つしか作れなかったのだが、それでも十分だと思っていた。これであの爺さんも倒せると...思ってたんだけどなぁ...。

 

「まあ、流石は神と言ったところだな。奏者も十分な化け物だが、あの老人もなかなかな化け物っぷりだ」

「...いつか絶対勝つし」

「うむ、それでこそ余の奏者だ」

 

少し不貞腐れたように呟くと、ネロは何故か満足そうに笑って胸を張った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、2週間ぶりだな小僧」

「久しぶり、ダメ総督」

 

目を覚ました日の夜、俺達は駒王町内のとあるマンションの一室で堕天使の総督と会っていた。通されたリビングのテーブルにはエミヤが淹れた紅茶が湯気を上げている。...最初、「紅茶が紅茶を淹れてきた」とか思ったのは秘密です。

 

「この前はウチの馬鹿共が世話になったな。お前が連れてきたレイナーレ以外全員死んでやがったぜ」

「いや、そっちは知らない」

「ふん、まあいいさ。それで?何か話があるって事だったが?...うまっ」

 

紅茶を啜りながらそう聞いてくる堕天使総督・アザゼル。最後の一言で尊厳的なものは霧散したな、という言葉を俺はぐっと飲み込んだ。

 

「ああ。本当は別の事を言おうと思ってたんだが、ちと事情が変わってな。アンタ、コカビエルの動向は把握してたのか?」

 

コカビエル。先日、俺が意識を取り戻す前に学園で暴れ回ろうとした結果、俺は出る事が出来なかったので、代わりに出向いたエミヤが無双して屠ったカラス幹部である。

 

「ああ、その件か...。すまない、正直全く把握してなかった。何せ昨日までシェムハザに拘束されてたからな。あの野郎、執務室で俺を2週間もずっと監視してやがったんだぜ...?」

「寧ろ何故そうなるまで遊び惚けてたんだよ」

「いや人間界の文化が面白くてなぁ」

 

ハッハッハと笑い声を上げるアザゼル。さてはこいつ反省してねぇな?まあいいや。

 

「コカビエルは、まあ俺の仲間が殺した。それは知ってるな?」

「ああ。そこの紅茶淹れてきた兄ちゃんが殺ったんだろ?ヴァーリから聞いてるぜ」

「ヴァーリ?...ああ、あの白龍皇か。とりあえずコカビエルの件について、お前はどう思ってんの?」

「まあ、あんな奴でも古くからの仲間だったからな。少しは残念にも思うが、生きて帰ってきても俺がコキュートスにでもぶち込んでただろうよ。あ、紅茶おかわり」

 

アザゼルはそう素っ気なく言葉にする。というかどんだけ紅茶の紅茶を気に入ったんだよ。

 

「そっちが何とも思ってないならそれでいい。でもその件で少なからずお前には責任を取ってもらうぞ」

「まあ、それが妥当だろうな。この街から出ていけ、ってところか?」

「いんや、別にどっかに行けなんて言わねえよ。あれだ、俺達と同盟組め」

「は?」

 

悲しいかな。何言ってんだコイツ、みたいな目で見られる事に慣れてきた俺がいる。

まあそれから箱庭とか俺とかの事情を話し、んで、とりあえず俺が申請したら増援として俺達と戦線を張って欲しいという旨を伝えた。もちろん、俺達も堕天使側から申請があれば人材を送る、とも。

 

「...まあ、コカビエルを圧倒出来るような奴が何人も派遣されるってのは悪い話じゃないかもな。だが生憎と、俺はもう戦争をする気は無いんでね」

 

その話には乗れない、と遠回しに言ってくる。

 

「だが、何らかの形で責任は取らんと面目が立たないな。そうだな...。あ、そうだ」

 

そう何かを思い出したようにリビングを出ていき、奥の部屋からダンボール箱を3箱程持ってきた。

 

「それは?」

 

俺が聞くと、アザゼルは目を輝かせて、よくぞ聞いてくれました!的な顔を向けてくる。

 

「これはグリゴリが開発した人工神器モドキだ」

「ほう、人工とな」

 

堕天使が作ったのに人工とは一体?それにモドキとは?

 

「ああ。それで、この中から好きなものをお前らにやろう。それで今回の件はチャラにして欲しい。ほれ、これなんてオススメだ」

 

などと言いながら1つ宝玉を手渡してくる。緑色に輝くそれは、何やら強い力を宿しているっぽい。

 

「お、こっちの剣もいいぞ。それにこの盾とか、こっちの弓も良い出来だな」

 

ポイポイと様々な人工神器を取り出すアザゼルの姿は一瞬某猫型ロボットに見えたりもしたのだが、なんかもうそれにツッコミを入れるのも面倒くさいのでスルーする。というか武器も特には要らないんだが。

などと思っていると、俺の足元に1本の槍が転がってきた。明るい黄色のそれは、何処と無く兄貴のゲイ・ボルグに似ている気がする。

 

「なあ、この槍は?」

「ん?ああ、それは昔アッサルの槍の複製品を作ろうと思って作った失敗作だな」

「失敗作?」

「そんなんだよ。アッサルの槍は呪文を唱えれば必中するっていう代物なんだが、そいつは必中しなくてな。代わりに、投げても手元に戻ってくるって効果が付与されてんだよ。全く、どこで間違えたらそんな効果が付くのかね?いや作ったの俺だけど」

「必中じゃなくても戻ってくるってだけで十分凄い能力じゃね?」

 

まあ要するに投げボルグの必中抜きって事だろ?そんなもの、こちらの技量で当ててしまえば何の問題も無い。

 

「俺この槍がいい」

「そんなんでいいのか?他にも伝説の生物を封印したやつとかあるぞ?」

「この槍がいい」

「そ、そうか。お前さんがそれでいいならいいんだが...。そっちの兄ちゃんやお嬢さん方は何がいい?」

「ん?私は特に欲しいものは無いな。ただ少しそこらのものを解析させてもらうだけでいい」

 

そう言って床に散らばっている武具を見たり触ったりしていくエミヤ。アイツ、全ての武器を解析して投影出来るようにする気だな?せっこいわー。

 

「余も要らぬな」

「私も、特には必要ない、です」

 

静謐ちゃんとネロは興味なさげな反応を見せる。ネロに至っては鼻を鳴らしていた。

 

「そうか...。俺の自信作も沢山あるんだがなぁ...」

 

そんな2人の反応を見て、どこか哀愁を漂わせる堕天使総督殿。アザゼルって、実は結構いい人なのでは?いや人じゃないけど。堕天使だけど。

 

 

その後、何やらエミヤの投影魔術に興味を示したアザゼルが色々とエミヤと話し込み初めたのはまた別のお話。ただまあ、彼らがロケットパンチの話題に入った時は俺も会話に参加した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルと別れてから数十分後。まだ日を跨いで少ししか経っていなかったので、俺達は駒王学園旧校舎オカルト研究部部室へと赴いていた。

それというのも、例のゲームの罰ゲームを執行する為だ。俺は爺さんに負けたが、ゲーム自体はこっちの勝ちなんだし、権利はあるだろ。

 

「入るぞー」

 

3度のノックの後、扉を開き部室に入る。そこには見馴れたグレモリー眷属達と、もう1人、知らない青髪の女性がソファに腰掛けていた。

 

「お、凌太じゃねえか!生きてたんだな!」

「ようイッセー、ムカついたから殴るぞ」

「なんでだよ!?」

 

再開早々何やら失礼な事を言ってきたイッセーに握り拳を見せて脅しつつ、グレモリーに目を向ける。

 

「あら、久しぶりね」

「おう。コカビエルの時は動けなくてすまんな」

「別に構わないわ。イッセーだけでも互角以上に殺り合えたし、エミヤがいたもの」

「むっ。よく見れば、そちらの赤い御仁はこの間の...」

 

グレモリーの言葉に反応した青髪の女性がエミヤを見つめ、そして立ち上がり深く頭を下げる。

 

「先日は私の友人共々、助けていただき感謝する。あの夜、行き倒れていた私達に夕食を恵んでくれた事は一生忘れない」

「ああ、構わんよ、あれくらい」

 

何してんだよオカン。コカビエル戦で助けたとか、そんなんじゃないのかよ。

 

「...俺、まだ本調子じゃないし正直もう寝たいから要件だけ言うぞ。罰ゲーム執行しに来た」

 

もはや考えることも面倒になってしまい、淡々と要件だけを突き付ける。グレモリー側も、まあ負けたのだから仕方ない、といった雰囲気で俺の言葉を待っていた。若干1名、青髪の子だけが状況を把握出来ずにいたが、構ってやるのも面倒だ。

 

「罰ゲームの内容は、俺の要求を何でも1つだけ聞くこと。OK?」

「ええ、構わないわ」

「よし。んじゃお前ら俺らのコミュニティの傘下な」

 

さらりと、何でもない様に告げると、グレモリーは理解が追いついていない様で、首を傾げている。

 

「コミュニティの傘下?それは私達に貴方の下僕となれ、と言っているの?」

 

私はそれでも構いませんわ...。などと姫島が呟いていたが敢えてスルー。本当に面倒なんです。まだ血が足りていないのか知らないが、目を覚ましてからずっと力が抜けている感じがするのだ。

 

「厳密にはそうじゃないんだが…。まあアレだ。お前らはこのまま此処に滞在していていいが、俺が申請したら俺の元まで来い、って事だ。俺の仲間になる、と解釈して貰っても構わない」

「そんなもの、グレモリーの名を冠する者として、そして1人の王として願い下げ」

「拒否権は無いぞ」

 

いつかの仕返しとばかりにドヤ顔でそう告げてやると、グレモリーの顔が曇った。相当なお嬢らしいし、他人から命令されることに少なからず抵抗があるのだろう。まあ俺には関係無いが。

不満そうなグレモリーに、俺は1枚の羊皮紙を見せる。

 

「...それは?」

 

訝しげに羊皮紙に書いてある内容を見るグレモリー。

ここに書いてある内容はこうだ。

 

『ギフトゲーム“紅の悪魔と神殺し”

 

・ 勝者、“ファミリア”

・勝利報酬、リアス・グレモリー以下“グレモリー眷属”への絶対命令権

 

“ファミリア” 印』

 

「前回のギフトゲームでの勝利報酬。負けた方が罰ゲーム、ってのは覚えてたよな?その罰ゲームってことで、俺達“ファミリア”に対する、1回限りの絶対服従権(首輪)を俺は要求した訳だ」

「そんなもの、私達は把握して無かったわ!無効よ、無効!」

 

俺の仲間になるのはそこまで嫌か。いやまあ見ようによっては俺達の下僕っていう立ち位置に見えなくはないが。

 

「把握してなかった、知らなかった。そんなの箱庭じゃ通用しないんだな、これが。不死を殺せと言われても殺せない方が悪い、空を飛べと言われても飛べない方が悪い、ってな。罰ゲームの内容を確認しなかったそっちが悪かったって事で」

 

そう言い残し、羊皮紙をヒラリと投げながら俺は部室から退出した。まあグレモリーもそのうち、この内容は悪くは無い、と気付くだろう。何故なら、俺達の仲間になるという事は要するに、俺達の力も借りられるという事だ。ぶっちゃけ、先程アザゼルに要求して拒否された内容とほぼ変わらない。俺達の優先度が少し上がっているだけだ。

 

と、そんな事を考えながら教会への帰路に着くと、急な倦怠感が俺を襲った。力が吸われている様な、そんな感覚が広がり、俺は思わず膝を着く。

 

「む、どうした奏者よ。やはりまだキツかったか?」

「無理もない。アレだけの血を流したのだ。今日のところはすぐに帰って寝ると良い。明日の朝にでも美味い飯を大量に用意しておいてやるさ」

「キツイのでしたら、私が肩を貸しましょうか?」

 

3人が心配そうにこちらを見てくる。

大丈夫、と言おうとすると、突然俺達の足元を見た事のある魔法陣が覆った。

 

「ちょ、馬鹿かあのジジイ!?」

 

目を潰す勢いで広がる光が俺達を襲い、静謐ちゃん達の姿も視認出来なくなる。と、軽い浮遊感を感じる。これはいつも異世界間の移動時に感じるものだ、と思い至った時には、俺はもう暗闇の空間に放り出されていた。1人で。

 

 

 

 

 

 

「ふっざけんなぁああああ!!!」

 

 

 

 

俺の悲痛な叫びは誰に届くでもなく、暗闇に消えていったのだった。

 

 

 


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