「1,997...1,998...1,999...」
「うん、やっぱお前アホだわ。いや、頭がとかじゃなく存在そのものが」
「2,000...っと。なに、馬鹿にしてんの?喧嘩なら言い値で買うぞ?伝説の龍がなんぼのもんじゃい」
「絶対勘弁」
修行開始から8日。やっぱり見ているだけではつまらないということで、3日目あたりから俺も一緒に修行をすることにした。
現在はイッセーと共に筋トレ中。イッセーにはどこぞの野菜人よろしく、50kgの重りを付けて腕立て伏せ・腹筋・スクワットを各100×5セット、ウリ坊からの逃亡という名のダッシュ15分×4本を課している。それに加えて魔力向上や接近戦闘の訓練も相当量しているので、普通だったら過労死してもおかしくない程の量のトレーニングメニューをこなしていた。本来予定していた量の倍近くはこなしている為、その分成長もしている。いや、正直イッセーの根性には驚かされているよ。
そして俺がこなしているメニューはと言えば、重り100kgで、ダッシュは同じ量だが筋トレ回数はイッセーの20倍程である。確かにアホみたいな数字ではあるが、ここまでしないと負荷が掛からないのだから仕方が無いじゃないか。
「そんじゃ組み手始めようぜ」
「よし来た!行くぞドライグ!」
『応ッ!』
あ、そうそう。修行開始2日目にしてイッセーの中にいたもの――「赤い龍の帝王」、ドライグが目を覚ましました。ついでに修行開始6日目にはイッセーが「禁手」とやらに至りました。というかもうあれだよね。ドラゴン強ぇ。
「よっしゃ、カウント終了!輝け、ブーステッド・ギアァァ!!」
『Welsh Dragon Balance breaker!!!』
イッセーの叫びに呼応して、赤く輝く鎧がイッセーの体を包んでいく。
「赤龍帝の鎧」。これが「
「最初から全力でいくぞ、ドライグ!」
『ああ、出し惜しみは無しだろう?今までの組み手で十二分に理解したさ。坂元凌太はバケモノだと』
「おい、
そんな軽口を叩きながら俺達は殴り合う。まあイッセーの攻撃は当たってないけど。
「―――我は雷、故に神なり」
『ッ!来るぞ相棒!』
「ああ、分かってる!だが敢えて、全力で迎え撃つ!」
『ハハッ!いいぞ相棒!それでこそ赤龍帝を名乗る者だッ!』
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』
「いっけェェ!!」
超々倍加の魔力砲弾。それは英霊達の宝具となんら遜色のない代物だ。下手をしたら
「全力で行くぞ、
全力全開の雷砲を放ち、イッセーの魔力砲弾を打ち破る。威力は4分の1程度まで下がったが、俺の雷砲は消えること無くイッセーに襲いかかった。ま、鎧纏ってるし死にはしないだろう。
やがて土埃が収まって来て、鎧も無くなり、倒れ伏すイッセーの姿が視認できた。あ、でもまだ意識あるっぽい。
「はあ、はあ、はあ、はあ...。あー、クソ!また負けた!」
イッセーは悔しそうに、仰向けになりながら天を仰ぐ。
「やっぱり『赤龍帝の鎧』の展開時間が問題だな。今のところ、何もしなければどのくらい保てる?」
『オーラを使わなければ30分程度、普通に戦うなら20分程度といったところか。だが、先程のような全力出力は3分と持たないだろうな』
「3分か...。相手があの焼き鳥ってことを考えると、ちと厳しいか?」
「はあ、はあ、はあ。な、なあ。ライザーの野郎はそんなに強いのか?」
息を整えつつ、イッセーが俺にそう聞いてくる。ふむ、ライザーの強さか。
「強さ、という面だけを見ればイッセーの方が上。けど厄介なのが、アイツらフェニックスの不死性だ。聞いた話じゃ、アイツらの再生能力は精神力に比例するらしいから、何回も殺して心を折れば勝てると思うんだが...」
『今の相棒では出来て10回殺せるかどうか、といったところだろう。その程度で心が折れてくれれば良いのだがな』
「多分無理、なのか?...だーッ!クッソ!まだまだ修行不足ってことなのかよ!?」
「いや、お前は十分頑張った。というかたった8日でその成長ぶりは可笑しいと思う。ようこそ、バケモノの世界へ」
「それってお前と同類ってことか!?」
おい、なんだか嫌そうじゃねえか。え?俺ってばそんなにバケモノ?一緒にされたくないくらいの?
全く失礼な。俺だってちょっと神様殺したり、漁港や王宮や山を吹き飛ばしたりするだけだってのに...。うん、確かにバケモノですわ。
「マスター、少しこちらへ」
そんな事を考えていると、静謐ちゃんがスッと音もなく現れ耳打ちをしてきた。彼女にはここ数日間、駒王町に居た数人の堕天使達の監視をさせていたのだが、何か進展があったのだろうか?
「おいイッセー。もう昼過ぎだし、今日のところはもう休め。いいな?」
「ああ、分かった」
そう言い残して静謐ちゃんと森の方へ向かう。暫く歩きイッセーが見えなくなったところで静謐ちゃんが話を切り出した。
「彼らに動きがありました。決行は4~5日後、駒王学園を中心にして駒王町を破壊していく、との事です。今回の計画は堕天使総督の指示ではなく、完全な独断であると言っていました」
「なるほどねぇ」
「あと、コレ。駒王学園のオカルト部部室を襲おうとしていた神父から奪ったものです」
そう言って、静謐ちゃんは1振りの剣を取り出す。黄金色のそれは、明らかに聖なる気を発していた。
「名を『
「エクスカリバーって、あのエクスカリバー?え、勝利が約束されてるアレ?」
「アルトリアさんが持っていたアレです」
「マジか...。そういや神父はどうしたの?殺した?」
「はい。襲ってきたので刺しました。あの、ダメだったでしょうか?」
「いや、別に構わないよ。うん、偵察お疲れ様。今日からはこっちにいてもいいから」
そう言ってお礼と共に彼女の頭を撫でる。そうすると静謐ちゃんは目を細めて気持ち良さそうにするので、見ているこちらも癒される。ああ、尊い...。
――さて、俺の方も準備を始めますかね。
* * * *
その日の夜。各自明日の下山の準備を始めだしたころ、俺の部屋に姫島が訪ねてきた。
「凌太君、少しよろしいですか?」
「ん?ああ、いいぞ?」
「ありがとう。失礼しますね」
そう言って、姫島は俺の対面に腰を下ろす。風呂上がりなのだろうか、頬がうっすらと上気し、髪はしっとりとしている。正直、非常に目を引かれます。
「今回の修行、付き合って頂いて本当にありがとうございました。お陰で、私や他の皆も目覚しい成長を遂げましたわ」
「ん、別にいいよ。俺にもメリットのある事だし」
「あら、何かメリットが?」
「まあな。ま、今はその話はいいや。それで?ただお礼を言いに来ただけじゃないんだろ?」
「...はい」
俺が質問すると、姫島は俯いた。何か思い詰めている雰囲気だが、何かあったのだろうか?
「...凌太君は、堕天使をどう思っていますか?」
決心したように、姫島は泣きそうな顔でそう聞いてくる。堕天使?それってそんな泣きそうになるくらい重要な話なの?
「堕天使、ねぇ...」
少し考えていると、姫島がどこか不安そうにこちらを見てくる。やはり相当重要な話っぽいのだが、ここで気を使って嘘を言っても仕方が無いしな。まあ基本、俺が他人に気を使う事は無いけどな!だって魔王だし、しょうがないよネ!
「正直言って、特に何もない。空飛べていいなー、くらいにしか思ってないかな」
「――っ!...堕天使よ?イッセー君やアーシアちゃんを1度は殺したし、街を破壊しようとした事もある、あの堕天使ですよ?嫌悪感を抱いたりしないの?」
破壊しようとした事がある、というか現在進行形でその計画練ってますけどね。
「『この前人間が殺人や爆破テロをしたらしいぜ。やっぱ俺、人間の事嫌いだわー』とはならないだろ?それと同じ。別に堕天使が何をしても、それはただの個人としての堕天使であって、それが堕天使全体の考えとは限らないし。堕天使が悪い事したから堕天使全部を嫌いになる、なんて事は無いな。俺が好いたり嫌ったりするのは、あくまでもそいつ個人だ」
一通り話すと、それを聞いた姫島が泣いていた。
......what!?何故!?why!?俺、そこまでの事を言ったか!?
突然の事に俺は多少驚いたが、姫島は涙を拭って微笑みを浮かべる。
「...急にごめんなさい。嬉しかったものだから。...私は、人間と堕天使の間に生まれた者なんです」
そう言いながら、姫島は背中から翼を広げた。片方が悪魔の、もう片方が堕天使の翼だ。
「汚れた翼。悪魔の翼と堕天使の翼、私はその両方を持っています。...この羽が嫌で、私はリアスと出会い、悪魔になったの。でも、生まれたのは堕天使と悪魔、その両方の翼を持ったおぞましい生物。汚れた血を見に宿す私にはお似合いかもしれません」
そこで姫島は1度話を切り、俺の方に微笑みを向けてきた。
「ですが、貴方は...ふふっ。ああ、なんだが救われた気分だわ。凄く、心が軽い。ありがとう、本当にありがとう、凌太君。私、ようやく決心がつきましたわ」
満足そうな、そして嬉しそうな声と表情の姫島。正直俺としては何がなんだがさっぱりなのだが、本人が満足そうなので良しとしよう。
「それでは、おやすみなさい、凌太君」
「おう、おやすみ」
そう言って、姫島はいつもの笑顔を浮かべながら俺の部屋を出ていった。
パタン、と扉が閉まり、姫島の足音がだんだんと遠くなる。
「...それで?そっちも何か俺に用事?」
姫島の足音が完全に聞こえなくなってから、俺はそんな事を声にする。
「......気付いていたんですか?」
すると、俺のベッドの下からもぞもぞと静謐ちゃんが這い出てきた。まさか本当にいるとは...。直感ってスゲー...。
「いや全く。なんとなく居そうだな、って思ったから」
「...やっぱりマスターは高ランクの直感スキル持ちだと思います」
「そうかもなー。で?本当にどしたの?最近の添い寝は堂々と正面から来てたのに、いきなり忍び込んでくるなんて真似をして」
テキパキと下山の準備を進めながら静謐ちゃんにそう声をかける。まあ準備と言っても明日使わない物をギフトカードに収納していくだけなのだが。
「その...」
ベッドの下からベッドの上に移動し終えた静謐ちゃんは、どこかぎこちなく1つの枕を取り出し、それで口元を隠す。そこには“Y”,“E”,“S”の3文字が......。
それからの俺の行動は早かった。
「(周囲に気配...無し。台所辺りにエミヤとイッセーがいるが、まあ大丈夫だろう。部屋の鍵は...ちっ、閉まってない。後でさり気なく閉めて...。次、カーテンと窓は...よし、こっちは閉まってる)」
この間、僅か約0.06秒である。
俺はゆっくりと立ち上がり、部屋の鍵をしっかりロックしてから静謐ちゃんの方へ振り返る。
「えっと...その枕の意味、分かってる?」
コクン、と声も無く頷く静謐ちゃん。その顔は真っ赤だが、悪くない。いや寧ろそれが良い(混乱)
「...兵藤さんが読んでいた本に、これをやると、男の人は喜ぶって...えっと...」
イッセーの野郎、こんな所にまでエロ本を持ち込んでやがったのか。この前グレモリーと混浴して、その時に彼女の乳を突いて『禁手』に至ったと言っていたが、アイツのエロ魂は底知れないな。色々な意味で。
「で、監視の為に街に下りた時にその枕を買ってきた、と」
「いえ、これは手作りです」
「なん...だと!?」
「エミヤさんに裁縫を教わって作りました」
「オカン...あいつ本当に何してんの...?」
まさか手作りだったとは。しかもエミヤ直伝の裁縫と来たもんだ。さすがは我らがオカン兼
「それで、その、3日分の魔力供給も必要ですし...ダメ、でしょうか?」
上目遣い+潤った目。それの破壊力は計り知れない。いやもうヤバイですね、ハイ。
――その晩、俺が1匹の野獣と化したのは言うまでもない。