「さあキリキリ登れ!修行はもう始まっているのだぞ!」
「ひー...ひー...」
クワッ!とした顔を作り喝を飛ばすエミヤ。その先には息も絶え絶えなイッセーの姿が。
現在俺達はとある山に来ている。なんでもここら一帯の山々はグレモリー家の所有地らしいので、ここで山篭りの修行を行うそうだ。それに俺達も頼まれて同行しているわけなのだが...。山が所有地とかなにそれどこの貴族だよ。
「あの、イッセーさん。やっぱり私も手伝いましょうか?」
「いいのよ、アーシア。イッセーはあれくらいやらないと強くなれないわ」
アーシアとグレモリーの会話が聞こえる。ちなみに、イッセーの背中には2mはあろうかという程の荷物が背負われている。自分の荷物+グレモリーと姫島の分もあるそうだ。...何をそんなに持ってきたんだ?
「エミヤさん、山菜を摘んできました。今夜の食材にしましょう」
「ふむ、よもぎか。それなら今夜のオカズの1品はよもぎの天ぷらにするか」
木場が涼しい顔でイッセーの隣を通り過ぎてくる。木場もイッセーと同じくらいの量の荷物を背負っているのだが、汗一滴かいていない。
「全く、だらしが無いなイッセー。ほら、小猫ちゃんだって平気そうに登ってんだぞ?頑張れ」
「...お前に言われら頑張るしか無くないか?」
そう言ってイッセーはとても情けなさそうな顔を俺に向けてくる。
「意味が分からん」
「いや、だからさ...。登山開始時からずっと逆立ちでここまで登ってきてる奴より疲れてるとか、こう、情けないから頑張るしかないっていうか...」
「ああ、そういう。まあとりあえず頑張れ」
「くっ...!うぉりゃああああ!!」
叫びながら一気に山道を駆け上がるイッセー。そんだけ根性があるなら大丈夫だろ。さて、あと一息頑張って登りますかね。
登山開始から約2時間程してから、俺達は木造の別荘に到着した。これもグレモリー家の所有物らしい。普段は魔力で風景に紛れて人前には現れない仕組みになっているらしい。人払いの1種だろうか。
「はあ...はあ...はあ...。や、やっと着いた...」
「休んでいる暇はないぞ兵藤一誠!」
へたり込むイッセーにエミヤの喝が飛ぶ。ヒィッ!というイッセーの悲鳴も聞こえる。南無三。
* * * *
流石にイッセーが動けないということで、暫く休憩を挟んでから修行に入ることにした。今は全員動きやすい服装に着替えている。
俺達は一応、今回の修行のコーチとして呼ばれている。堕天使やライザーの1件もあり、俺達4人がとんでもない強さだと理解したので修行をつけてもらおうという事になったらしい。なので、俺は快くその依頼を受けた。あの焼き鳥を俺が殴れないなら、コイツらに殴ってもらえばいいじゃない、という魂胆だ。
「さて、これから本格的な修行を始めるわけだが...。まず木場」
「なんだい?」
「お前はひたすらエミヤと模擬戦な。エミヤがいいと言うまで続けること」
「うん、了解したよ」
木場はそう言ってエミヤの近くに行き挨拶をする。木場は剣を使うし、エミヤが適任だろう。え?エミヤは
「木場以外は俺やネロ、静謐ちゃんと模擬戦。グレモリーの戦術についての講義等は夜にでもエミヤかネロに聞くように」
「よっしゃ、やったるぜ!」
イッセーの声と共に、各人が頷いたところで修行を開始する。エミヤと木場は少し離れた場所でするらしく、森の奥へと歩いていった。
「さて、それじゃあ始めるか。あ、イッセーは最初は不参加。2回目から出てこい。あと例の籠手は発動させとけ」
「あ、ああ。分かった。ブースト!」
『Boost!』
籠手から出る音声と共に、イッセーの力が倍加する。前回見た時も思ったが、あれはチートだ。やろうと思えば世界最強になれるレベルの。ただし、それは使用者の度量が伴ってこそ実現することでもある。必ず限界というものが存在するはずだ。今のイッセーでどこまで耐えれるか知っておかないとな。
「じゃあ女性陣方。遠慮は要らない。全力で、俺を殺すつもりでかかってこいや」
「じゃあ私から。えい」
別に全員でかかってきてもいいんだけど。そう言おうとしたら、ブンッ!と小猫ちゃんの大振りな拳が俺を襲ってきた。彼女は『
「大振りすぎ。そんなんじゃ当たらねえし、少し上のレベルの奴には攻撃自体がきかねえよ」
「なっ!」
放たれた拳を俺は片手で受け止める。全力の攻撃が容易く止められた事に驚いたのか、小猫ちゃんから声が漏れた。
「力に振り回されてる様なパンチは意味がないぞ。威力を一点に絞るとか、フェイントを入れるとか工夫しないとな」
そう言って、俺は小猫ちゃんの腕を掴み投げ返す。上手く着地したようだが、未だ驚愕しているようで、再び攻撃してこようとはしていない。
すると次は姫島が動いた。
「あらあら。女の子を投げ飛ばすなんて、乱暴な男性ですね。雷よ!」
悪魔の羽を広げて空中に翔んだ姫島が、両手から紫電を撒き散らし俺に雷を落としてくる。
ドゴォン!という轟音が響き、雷が俺に直撃した。
「あらあら、死んでいませんわよね?」
あらあらうふふ、と微笑みを浮かべる姫島。あの人は確実にドSだと、後にイッセーは語った。
「いい感じだけど、まだ威力が弱いな」
「...あら」
舞い上がる土煙の中から無傷の俺が姿を表すと、姫島は驚いた顔を浮かべる。小猫ちゃんと同じく、自身の攻撃に多少なりとも自信があったのだろう。
「我は雷、故に神なり。少し手本をみせてやろう。雷ってのは、ここまで威力が上がるんだぜ?」
ズドォォン!という爆音と共に、隣の山の上半分が
「不死身を倒すってんだから、せめてこのくらいは余裕で出来てもらわないとな」
「............」
もはや姫島の顔に笑顔はない。ただただこの状況に対して引いていた。解せぬ。
続くグレモリーも、滅びの魔力とやらを弾いたら姫島と同じような顔をした。まことに解せぬ。このくらいやらないと勝てねえってばよ。
「...も、模擬戦もいいけれど、その前に各自パワーアップが必要じゃないかしら?ええ、スポーツでも練習試合の前には練習をするものでしょう?」
冷や汗を垂らしたがらそう提案してくるグレモリー。姫島と小猫ちゃんも首を縦に振っている。
「ふむ、それもそうか...。よし、じゃあ次イッセーと試合したら各自の修行に入るってことで。イッセー、さっさと始め......イッセェェ!!」
見るとイッセーが泡を吐いて倒れていた。クソッ!やけに静かだと思ってたら気絶してたのかよ!思ったよりも限界が低過ぎるな。まだ5分も経っていないぞ。これは早急に対処しないと10日後のゲームが本当にヤバイかもしれない。
* * * *
Lesson① イッセーと小猫の場合
「Graaaaaaaa!!!」
「うわぁああああああ!!!!」
イッセーが目を覚ましてから、俺はすぐさまイッセー改造計画に乗り出した。コイツが強くならないと話にならない。イッセー、詳しく言うとイッセーの中にいるものの力は今後も絶対に必要になる。そこでこれだ。題して「疾走!驚異のINOSISIからの逃亡 in 山」である。
「ほらほら、死ぬ気で走れよー。じゃないと踏み潰されるぞー」
「チックショオオオオ!!」
絶叫を上げて走るイッセーをウリ坊が追いかける。これだけ見てるとギャグ漫画みたいだが、実際追いつかれたら瀕死という、非常に厳しい修行だ。とりあえずこれを5分×3セットと予定している。4日目あたりからは10分×4セットに切り替えようかな。
「凌太君、ランニング20キロ終わったよ。次は何をすればいい?」
イッセーに声掛けをしていると、汗をかいて呼吸も乱れている小猫ちゃんがやってきた。彼女にはとりあえず走ってくるように言ったのだが、ここまで早く終わらせるとは思っていなかった。さすがは悪魔と言ったところか。
「次は組み手をするか。もうすぐイッセーの走り込みが終わるからそれまで休んでてね」
「うん」
小猫ちゃんは素直に頷き、持っていたリュックから水を取り出して飲み始めた。
さて、あとはイッセーか。小猫ちゃんと一緒に、イッセーとも組み手をしよう。どっちも素手で殴る系だから、一緒に修行をつけたほうが効率いいしな。
「ほらイッセー、あと1分だぞー。走れー」
「しぬぅううううう!!」
Lesson② 姫島の場合
「なに?魔力が切れた?へぇ、そう。だったら明日の分を絞り出せ」
「...は、はい!」
魔力が切れてもう雷が出せないと言ってきた姫島に、無理矢理雷を発生させる。必死に魔力を練って雷を出そうとしていると、ようやく火花程度の雷が出てきた。
「なんだ、できるじゃないか。自分の限界を自分で勝手に決めるなよ?限界を超える、なんて事を言い出す奴もいるが、限界は超えられないから限界なんだ。まだできるってことは、そこがお前の限界じゃないってことだ。自分の限界を知るいい機会だし、今日この場でとことん絞り出せ。気絶したら連れて帰るから」
「はい!」
最初は年上のお姉さんという雰囲気を醸し出していた姫島だが、途中からそんな雰囲気は霧散した。限界に近付き、自分を取り繕うことが出来なくなってきているのだろう。
現グレモリー眷属で最強なのはおそらくこの姫島だ。イッセーや木場が土壇場でどこまでの力を発揮するのかは分からないが、普通に戦ったら姫島に軍配があがると思う。それに彼女はグレモリーの「女王」だという。いわゆる切り札らしいので、彼女のパワーアップは欠かせない。
俺の中でのパワーアップ優先順位はイッセー→アーシア→姫島→木場→小猫ちゃん→グレモリーの順だ。アーシアという最大の回復役は絶対に強化しないといけないからな。彼女には各人の修行場所を駆け回ってもらい、手当り次第に回復させていかせている。それしか方法思いつかなかったし。
「も、もう、無理...」
「まだまだァ!明日の分が切れたのなら、明後日の分を絞り出せぇ!」
「は、はいぃッ...!」
結局、この修行は昼過ぎに姫島が気絶したところで終了した。今日だけで姫島が限界と言ったのが6回。そのうち再び立ち上がれたのが5回だった。幸先がいいな。明日はどこまで耐えれるのか楽しみだ。
イッセーは、姫島だけでなく俺も相当なドSだと後に語った。
Lesson③ グレモリーの場合
グレモリーも姫島と同じ方法で修行をつけようと思っていたのだが、どうも彼女は自身の戦闘力向上よりも戦略的知識を増やしたいらしい。なのでネロに頼んで講義をしてもらう事にした。なんだかんだ言ってネロは「暴君」だけでなく「名君」とも言われる古代ローマ皇帝だからな。戦術については俺なんかより何倍も詳しいだろう。
* * * *
すっかり日も落ちた頃、全員が今日のメニューを終わらせて別荘に帰ってきた。
既に夕食の用意は済ませてあり、帰ってきた人から順にガッツいていく。今日の夕飯はエミヤ作のカレーと山菜天ぷらだ。美味い。
「ウマッ!なにこれマジで美味い!」
「...おいしいです」
「ああ、これはお店でも通用するどころじゃないね。それ以上だ」
「ふっふっふ。そうであろうそうであろう!ウチのシェフは一流だからなッ!」
「誰がシェフか」
エミヤの手料理を初めて食べるグレモリー眷属達は驚嘆と賛美の声を上げる。うむ、やはりウチのオカンは最強。
「あら、朱乃は?まだ帰ってきていないの?」
「そういえば見てないですね?」
グレモリーが夕食を食べている最中に姫島の不在に気付いた。もう時刻は既に8時を回っている。心配するのも無理はないか。
「姫島なら部屋で寝てるよ。修行中に気絶したんで運んどいた」
「なにィ!?オイ凌太!お前朱乃さんが気を失っているのをいいことに変なことしてないだろうな!?」
「するかバカ。イッセー、お前明日のトレーニングメニュー3倍な」
「な、そりゃねえよ!」
アハハという笑い声が部屋に響く。こういう雰囲気は割と好きだ。
「ところで凌太。貴方から見て、今の私達に勝機はあると思う?」
「ないな。確実に負ける」
「...そう」
「だけどまあ、イッセーの仕上がり次第では光は見えるだろ」
「え?俺?」
まさか自分に話が飛んでくるとは思っていなかったのか、イッセーがあからさまに驚く。
「そ、お前。この少ない日数でどこまで成長が出来るのかによるな。あ、そういやオカン。木場はどうだった?」
「筋はいい、才能もやる気もある。ハッキリ言って嫉妬すら覚える程だ。だが残念ながら時間が足りないな。たった10日では飛躍的なパワーアップは叶わないだろう」
「んー。じゃあやっぱり次のゲームの鍵はお前だ、イッセー。お前の神器、それはマジのチートだぞ?お前が耐えられる倍加のキャパシティを増やせば、本当に神だって殺せるさ」
そう言てわれて、イッセーは自分の腕をマジマジと見つめる。そこに籠手はないが、何かしら思うところもあるのだろう。
「あ、そう言えばずっと気になってたんだけどさ。凌太がこの前言ってた『神殺しの魔王』ってなんなんだ?お前、悪魔じゃないし本当に魔王ってわけじゃないんだろ?異名か?」
「ん?いやそのまんまの意味だけど?神を殺したから神殺し。魔王ってのも、まあそのまんまの意味だよ。悪魔の王じゃなくて悪魔のような王って事だと思うけどな」
何でもないようにそう言う。この世界にも神様って居るらしいし、俺みたいな奴も前例はあるんじゃないのか?
「はぁ!?神を殺したとか、え、マジか!?いやでも凌太だからなぁ......」
「そ、そんな...主を、殺した...?いえでも凌太さんだったらありえる...?」
「...ありえない、と言い切れない。だって凌太君だもの」
「ああ、少しだけ納得したよ」
「お前ら言いたい放題か」
何故毎回神を殺したと言ったらここまで驚かれるのだろうか?俺の周りには結構いるけどな、神を殺せそうな奴。十六夜とか護堂とか英霊とか。白夜叉とかいうバグキャラも入れれば、知ってるだけで10人は超えるぞ?
とりあえずいつも通り説明して納得させる。アーシアはジャンヌのように熱心な信仰者だったので、納得させるのにだいぶ時間がかかったのは言うまでもない。