問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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焼き鳥

 

 

「マスター、風呂の掃除が終わったぞ。私は壁や床の補修をしてから食事の用意をするので、今のうちに入っておくように」

「はーい」

 

もう補修という言葉が無ければ完全に日常の中の母親との会話のそれである。

というかこの教会風呂まであるのかよ。地下部屋に風呂、キッチンやトイレもあるらしい。奥には寝室のような部屋が3つ程あり、各部屋にベットも備え付けてあるとの事。最早ちょっと豪華な家じゃん。

 

「レイナーレはどうする?先に入るか?」

 

ネロや静謐ちゃんの姿は見えないので、何処かで掃除をしているのだろう。そこで、唯一目に入ったレイナーレに声をかける。

コイツも一応女性だしな。風呂くらいは入らせてもいいだろ。

 

「...いい。後で入るわ」

 

元気なく答えるレイナーレ。まあ、当然と言えば当然か。コイツの役目はアザゼルへの手土産みたいなものだからな。レイナーレの引渡し、という名目でアザゼルに接近するわけだし、コイツが処罰を受けるのは目に見えている。今回の計画は独断だったらしいからな。

 

「あっそ」

「...」

 

レイナーレは先程からずっと聖堂の隅っこで体育座りをしている。パッと見可哀想にも見えるが、やった事が事なのでフォローの余地もない。まあする気もないのだが。

そんなレイナーレを横目に、俺は風呂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほー、結構デカイな」

「そうですね」

 

風呂場に入ってみて気付いたが、浴槽がだいぶ広い。3、4人くらいなら一緒に入れそうな大きさだ。

.........。

 

「...なあ静謐ちゃん。なんでさも当たり前かのように俺の背中を流してるの?いや、嬉しいんだよ?嬉しいんだけどね?」

「♪〜」

 

質問に答えようぜ静謐ちゃん...。何この既視感。

風呂場に入って頭を洗っている最中に、突然背中を洗われ始めたら普通ビビるよ。

 

「前回は流す事が出来なかったので、その、リベンジ、というか...」

「なるほど」

 

納得して良いのかは分からないが、嬉しいことには変わりないのでそのまま続けてもらうことにした。どうせ甘い空気になったらオカンが止めにくるんだから大事には至らない、いや、至れないだろ(諦め)。

そんなことを考えていると、静謐ちゃんの手が止まった。

もう終わりか。名残惜しい気がしなくは無いが、まあずっと洗ってもらうわけにもいかないしな。

 

――そんなことを考えていた瞬間が、俺にもありました。

 

ふにゅん。と、俺の背中に、手とは違う更に柔らかな感触が伝わってくる。...ゴクリンコ。

 

「き、気持ち良い、ですか?マ、マスター?」

 

そっと首だけを回転させて、後ろから抱きつくようにしている静謐ちゃんの顔を覗き込む。すると、そこには彼女の真っ赤に染まった可愛らしい顔が...。

 

「......えっと、うん。気持ち良いけど、恥ずかしいんだったらやめようよ」

 

精一杯の痩せ我慢で理性を保ちつつ、冷静なフリをする。内心、本当に獣と化しそうなくらいドキドキというかムラムラというか、そんな感情(劣情)が入り乱れているのだが、ここで我慢出来なければ以前の二の舞だ。エミヤに止められてまた恥ずかしい思いをする。

 

「というか、急にどうした? いつも擦りついてはきてるけど、今日は何というか...大胆?」

「先程、各寝室の掃除をしていた時に、その、えっちな本が出てきて...」

 

オイ聖職者、なに教会にエロ本持ち込んでやがる!別に性欲を抱くなとは言わないが、場所は考えろよ場所は!お前らに聖職者を名乗る資格はねぇ!

 

「それで...男の人は、こうされたら喜ぶって書いてあって...」

「...なるほど」

「えっと、その...どうで、しょうか...?」

「......我慢ってなんだっけ。理性?ナニソレオイシイノ?」

 

我慢ならない。と、勢いで静謐ちゃんを襲おうとした時、悪夢は再びやって来た。

 

「だから風呂での行為はのぼせると言っただろう。そこら辺にして上がってきたらどうだ?夕飯も出来ているぞ?」

「分かった、分かってたはずなのにッ...!」

 

ダンッ!と拳を地面に叩きつける。ちくしょう、途中までは我慢出来ていたのに!そして何故エミヤはちょうど良いタイミングで乱入してくるんだ!?

 

「いいから早く上がりなさい。今夜はシチューだ。冷めないうちに食べることをオススメする」

「ちくしょう!」

 

俺達はまたしても、耳まで真っ赤にしながら風呂を駆け出たのだった...。

その時の俺の瞳に心の汗が少量溢れ出ていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の夕方。俺達は素直にオカルト研究部部室へと向かっていた。なにせ俺達に拒否権は無いそうだからな。

 

ちなみにアザゼル総督との対談は2週間後という事になった。え、何故2週間後かだって?それはね、今日の昼に会いに行ったらシェムハザとかいう堕天使副総督がやって来てアザゼル総督を連れて行っちゃったからだよ。そのシェムハザに事情を話したら2週間後にまた来いって言われた。その時にレイナーレの引渡しも終了している。

部下に耳を引っ張られながら連行される堕天使総督を見て、堕天使にも色々あるんだなあ、と思った。

 

「良かったのか、マスター?あの堕天使を渡してしまって。相手が必ずしも約束を守るとは限らないぞ?」

「ん?ああ、大丈夫だよ、たぶん。勘だけど」

「マスターの勘は良く当たりますし、大丈夫なのでは?たぶん直感BかB+くらいあると思いますよ?」

「なんと!」

 

雑談を繰り広げながら木造校舎へと入る。

すると、部室の方に若干強い気配が存在していることに気付いた。レベル的にはおそらくレイナーレより数段上。英霊レベルには到達してないくらいか。

 

「なんでこう、毎日がイベントデーなんだろうな?少しはゆっくり出来ないものか...」

 

はあ。と嘆息しながら部室の扉を開く。どうせ面倒事なんでしょう?分かるとも。

 

「以前にも言ったはずよ、ライザー!私は貴方と結婚なんてしないわ!」

「ああ、以前にも聞いたよ。だが、そういうわけにもいかないだろう?キミのところの御家事情は切羽詰まってると思うんだが?」

「余計なお世話よ!」

 

扉を開けると、そこにはグレモリー眷属以外にホスト風の男とメイド姿の女性、そして15、6人程度の少女がいた。

いや、いくらこの部室が普通のものより広いからってこれは詰め込み過ぎでしょ。人口密度高ッ!

 

「あら、あなた方は...?」

 

目の前の口論にどう反応すれば良いのか迷っていたところ、メイド姿の女性がこちらに気づき声をかけてきた。その事で他の連中も俺達の存在に気付いたようで、一気にこちらに目を向けてくる。

 

「あら凌太。今頃来たの?」

「そっちが呼んだくせに酷い言われようだな。終いにゃ帰るぞ」

 

グレモリーがこちらを見てそんな事を口走る。今頃ってなんだよ。まだ日も高いし遅いってことは無いだろう。

 

「お嬢様、こちらの方々は一体?」

「そうだぞリアス。この場に人間なんて連れ込むんじゃない」

「...こちら、坂元凌太とその仲間達。左からアーチャー、ローマ、アサシンと名乗っていたわ」

 

おい、あの自己紹介を間に受けてたのかよ。いやまあ嘘じゃないけどさ。

 

「凌太?まさかこの方が堕天使の件の...?」

「ええ、そうよ」

 

メイドの人からの視線が突然警戒の色を濃くした。なんだ?どんな説明したんだよグレモリー。

 

「まあ、今はそんな人間どうでもいい。リアス、俺はフェニックス家の看板を背負った悪魔なんだよ。この名前に泥を塗るわけにはいかないんだ。こんな狭くてボロい人間界の建物なんかに来たくなかったしな。というか、俺は人間界があまり好きじゃない。この世界の炎と風は汚い。炎と風を司る悪魔としては、これは耐え難いんだよ!」

 

ボワッ!とホスト風の男を中心に炎が巻き上がる。コイツここが木造校舎だってこと忘れてねえか?火事になったらどうするんだよ。主に修繕費とか。

 

「俺はここにいるそちら側の奴全員を燃やしてでもキミを冥界に連れかえ」

 

言い終わる前に、ドォン!という音と共にホスト風の男の右腕が消し飛ぶ。

 

「ガッ!?」

 

突然の出来事に疑問と苦痛の声を上げながら、自身の腕を吹き飛ばしたものをみるホスト男。そこには紫紺の槍が紫電を帯びながら存在していた。そしてその槍の持ち主である俺は、崩れ落ちたホスト男を見下ろしている。

 

「りょ、凌太!お前一体何を!?」

 

叫ぶイッセーや驚いている周囲を無視して、俺は男に言葉をかける。

 

「オイ色男。お前、自分の言葉に責任を持てよ?」

「な、何を――」

 

腕を再生しつつ、そう聞いてくるホスト男。コイツ、再生能力持ちかよ。

 

「『全員燃やす』、だと?やれるもんならやってみろ。その場合、次に消し飛ぶのはお前の命だがな。俺は、俺の仲間に手を出す奴は許さないって決めてんだよ」

 

明らかに殺気を向けられた事に加え殺害宣言までされたのだ。それも俺だけでなく俺の仲間にまで。舐められたものだな。

というか会った直後からウチの静謐ちゃんとネロに下賎な視線を向けていたので、今の攻撃はそれの制裁も込みである。慈悲などかけぬ。

 

「そこまでです、坂元凌太。武器を収めなさい」

 

音もなく俺に近付き、そう言ってくるメイドさん。とても静かで迫力のある声だ。おそらく、今この場にいる悪魔の中で一番強いのはこの女性だろう。この人何者だ?

 

「......もう1度俺を怒らせたら殺す」

 

そう言って槍を収める。ギフトカードには仕舞わず、いつでも殺れるように手に持っておくことにした。

とりあえず殺意だけは抑えたので、それを確認してメイドさんが話し出す。

 

「...婚約話に決着がつかない。このことは旦那様もサーゼクス様も、そしてフェニックス家の方々も重々承知でした。そこで、最終手段を取り入れます」

「最終手段?どういうこと、グレイフィア?」

「お嬢様、ご自身の意思を押し通すのでしたら、ライザー様と『レーティングゲーム』にて決着を付けるのは如何でしょうか?」

「――ッ!?」

 

メイド改めグレイフィアさんの意見に言葉を失うグレモリー達。というか『レーティングゲーム』?ギフトゲームみたいなものか?それはもちろん俺も参加出来るんですよね?ね?

 

「...つまり、お父様方は私が拒否した時の事を考えて、最終的にゲームで今回の婚約を決めようってハラなのね?どこまで私の生き方を弄れば気が済むのかしら...ッ!」

「では、お嬢様はゲームも拒否すると?」

「...いえ、まさか。こんな好機は無いわ。いいわよ、ゲームで決着をつけましょう、ライザー」

 

こうして、グレモリー眷属の修行期間を設けた10日後にレーティングゲームなるものを開催することが決定した。「修行期間とか要らないから今から殺ろうぜ」と言ったら、グレイフィアさんから「あなた達の参加は認められません」とか言われた。曰く、眷属しか参加出来ないのだとか。そのルール今すぐ改編して、そこの焼き鳥(ライザー)殴れないッ!

 

 

 


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