「アーシアァアア!!」
バァンッ!と勢いよく扉を蹴破りながらアーシアの名前を叫ぶイッセー。それに続いて俺達も地下室の中へ入る。
おーおー、神父っぽい奴らがたくさんいますなぁ。ま、調べてた数と同じくらいだけど。気配遮断って本当に便利なスキルだよね。
「いらっしゃい。悪魔の皆さん?」
「...イッセーさん?」
「ああ。助けに来たぞ!」
イッセーが微笑みを向けるとアーシアは涙を流した。というか俺らは悪魔じゃないんだが。
「イッセーさん...」
「感動の対面だけれど、少し遅かったわね。今、儀式が終わるところよ」
堕天使レイナーレがそう言うと同時に、アーシアの体が光りだす。
ちっ、もう少し早く手助けに入っとけば良かったか...。
「あぁあ、いや、いやァアアアッッ!!」
「アーシア!」
絶叫をあげるアーシアに近付こうとするイッセーだが、その道を神父達が塞ぐ。数だけはいるからなコイツら。いくら悪魔の火力があろうとも、これはなかなかにめんどくさいぞ。
「これよ、これ!これこそ私が長年欲していた力!これさえあれば、私は愛を頂けるの!」
神父どもを屠っている間に、アーシアの
と、そこでようやくイッセーがアーシアの下へ辿り着く。
「...イ、イッセー、さん...」
「アーシア、迎えに来たよ」
「......はい」
あまりに弱々しい声。彼女の声からは全く生気が感じられない。
「無駄よ。
「ッ!なら
「アハハ!返すわけ無いじゃない!」
嘲笑を高らかにあげるレイナーレ。ほぼ他人の俺から見てもイラつくんだ。イッセーの心中は計り知れない怒りや憎悪で埋め尽くされているだろう。例えてみれば、“ファミリア”やカルデア勢などの誰かが俺の目の前で殺されかけている上に嘲笑を向けられているようなものなのだ。......100%殺すわ。徹底的に痛めつけた後でゆっくり殺す。最終的には塵すらも残さないだろうな。
「...夕麻ちゃん」
「うふふ、貴方を夕暮れに殺そうと思っていたからその名前にしたの。素敵でしょ?ねえ、イッセーくん?」
「レイナーレェェエエエエエエ!!!」
『Dragon booster!!』
イッセーの怒りに応えるように、左腕の籠手が動き出した。手の甲の宝玉から眩い輝きが放たれる。
「アハハハハハ!腐った糞ガキが私の名前を気安く呼ぶんじゃないわよ!」
レイナーレは嘲笑を浮かべながら光の槍をイッセーに向かって投擲する。槍は真っ直ぐに飛んでいき、イッセーの両太ももを貫いた。
「ぐぁああああぁああッ!!」
ジュウゥゥゥ、と肉の焼ける音と鼻を突く臭いが充満する。悪魔にとって光というのは猛毒そのものらしいし、相当痛いんだろうな。
...人の肉が焼ける臭いに慣れてる自分がいるよ。ほら、俺よく動物とか人とか雷で焼いてるから。
『Boost!!』
イッセーの籠手の宝玉から再び音声が響く。明らかに先程より力が増してるな。アレがイッセーの神器の能力か?
「うぉおおおおッ!!」
『Boost!!』
イッセーの力が更に上がり、無理矢理に光の槍を引き抜く。太ももの風穴から大量の鮮血が溢れるが、イッセーはそれを無視するようにレイナーレに向かって歩き出した。
「...大したものね。下級悪魔の分際で堕天使の作った光の槍を抜いてしまうなんて。でも無駄。私の光が貴方の体内に巡り渡り、全身にダメージを負わせる。治療が遅れれば死ぬわ」
「――こういう時、神に頼むのかな」
ポツリと、イッセーが言葉を漏らす。レイナーレは疑問符を浮かべているが、イッセーは構わずに言葉を紡いでいく。
「でも、神様はダメだ。アーシアの事で今神様嫌いだし。じゃあ、アレだ。魔王様なら俺の頼みを聞いてくれますかね?いますよね?聞いてます?俺も一応悪魔なんで、ちょっと願いを聞いてくれませんかね?」
「どうしようもないわね。こんなところで独り言を始めてるわ、この子」
「......」
呆れたような、馬鹿にしたような声を出すレイナーレとは反対に、俺は静かにイッセーの言葉に耳を傾ける。
「今から目の前のクソ堕天使を殴りたいんで邪魔が入らないようにしてください。乱入とかマジ勘弁です。増援もいりません。俺が何とかしますんで。ああ、足も大丈夫です。なんとか立ちますから。だから、俺とコイツだけのガチンコをさせて下さい。――1発でいいんで、コイツを殴らせてください」
そう言いながら、気合いや根性だけで立ち上がったイッセー。...ああ。いいな、いいね、いいなあオイ。こういう馬鹿は見てて楽しい、根っからの主人公タイプだ。だから――
「――その願い、確かに聞き届けた。神殺しの魔王、その一端として、お前の願いを叶えよう」
ドォォン!!と、俺を中心に魔力の波動が放たれる。それはイッセーを取り囲んでいた神父達を根こそぎ吹き飛ばしていった。
「行ってこい、兵藤一誠。誰にも邪魔はさせない。あのクソカラスに、最高の一撃をお見舞いしてやれ!」
「......ハ、ハハ!何が何だかさっぱりだけど、悪魔ってもの捨てたもんじゃねぇな!なあ、俺の
『Explosion!!』
イッセーの神器からより一層強い光が放たれる。...アレはヤバイ。単純な力だけを見るならば、アレは下手したら英霊クラスと同等のモノだ。
「...あ、有り得ない。何よ、これ。どうして、こんな...。な、なんで、どうして、貴方の力が私を超えるの?...この、肌に伝わる魔力...、魔の波動は中級...いえ、上級クラスの悪魔のそれじゃないッ...!」
「――覚悟しろよ。そして吹っ飛べ、クソ堕天使ッ!!」
ゴッ!と派手な音が鳴り響く。イッセーの拳はレイナーレの顔面に食い込み、そのまま彼女は後方へと吹き飛んでいき、壁へとめり込んでいった。
「ざまーみろ」
肩で息をしながら、イッセーはそう呟いた。
* * * *
結局、アーシアは戦闘中に息を引き取ってしまっていた。最後の力を振り絞りアーシアを抱き抱えたイッセーは相当悔しそうに口を結んでいたが、こればっかりはどうしようもない。爺さんならどうにか出来るのかもしれないが、先程から電話が繋がらないのだ。あの爺さん、大事な時に限って電話に出ないよな。
「お疲れ。堕天使を倒しちゃうなんてね」
イッセーの肩をぽんと叩き、賞賛の言葉を送る木場。見れば木場も大分ボロボロだ。
「無事に勝ったようね」
地面に魔法陣のようなものが展開され、そこからグレモリーと姫島が現れた。
「ぶ、部長...。ハハハ、なんとか勝ちました」
「ふふ、偉いわ。さすが私の下僕ね」
「ゴホッゴホッ!」
「ん?」
咳き込む音が聞こえたのでそちらを見ると、壁からずり落ちたレイナーレが意識を取り戻していた。まあ、辛うじて目を開けられるだけで、体の方は全く動く気配がないがな。全身の骨が折れているだろうし、当たり前と言ったら当たり前だ。
「ごきげんよう、堕天使レイナーレ」
「...グレモリー、一族...」
「初めまして。私はリアス・グレモリー。短い間でしょうけど、お見知りおきを」
笑顔で応対するグレモリーだが、その目は笑っていない。
「冥土の土産、という訳では無いけれど、貴女がイッセーに負けた原因を教えてあげる。この子、兵藤一誠の
曰く、その神器は10秒毎に持ち主の力を倍にすると言う。...なにそれチート?え、だって10秒毎に力が倍加するんだろ?そんなもん長期戦に持ち込むなり、戦闘が始まる1、2時間前から倍加させとくなりしてたらどんだけパワーアップするんだよ。俺の権能よりもチートじゃん。マジ引くわー。
「イ、イッセーくんッ!私を助けて!」
と、いきなりレイナーレが命乞いを始めた。声が若干高くなっているようだが、何を言っているんだコイツは?
「この悪魔が私を殺そうとしているの!私、貴方の事が大好きよ、愛してる!だから、一緒にこの悪魔を倒しましょう!」
ふーむ。ガチでアホなのかなこのカラス。でもまあいいや。こんな奴でも利用価値はある訳だし。
「グッバイ、俺の恋。部長、もう限界ッス...。頼みま」
「異議あり!」
俺はバッ!と手を挙げてそう言う。すると皆の視線が一気に俺に集まった。
「...何かしら?今からこの堕天使を始末しないといけないのだけれど?」
「そうそれ、ちょっと待って。コイツ、俺が貰うから」
「「「なっ!?」」」
複数の声が重なる。その中にはエミヤやネロの声も入っていた。静謐ちゃんも声こそ出さないものの、疑問には思っているような表情をしている。まあ、理由を話してないし是非も無いよネ!
驚く皆とは反対に、俺の言葉を聞いて笑みを浮かべるレイナーレ。先程の俺の魔力も感じていただろうし、助かりそうな道が見えて嬉しいのだろうか。
「あ、ありがとうそこの君!名前も知らないけれど、私を助けてくれるのね!?」
「...ああ、命は助けてやるよ」
「血迷ったのかマスター!?そんな奴を助けてなんになる!?」
エミヤが血相を変えて言い寄ってくる。こんなエミヤは初めてだ。根は正義感で出来ているような男なので、レイナーレのような外道を助ける事に少なくない抵抗があるのだろう。
「ちゃんと理由はある。今さっき思いついたからまだ言ってないけど。それについてはすまない。――おい、レイナーレ。お前の命を助ける代わりに、俺の要求を2つ受け入れろ」
「ええ、いいわ!」
最早助かりたい一心のレイナーレは食いつき気味にそう言う。...やっぱコイツ馬鹿だわ。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!これはこの土地の管理者である私の、敷いてはグレモリー眷属の問題よ!?貴方が口出ししていいとでも思っ」
「いいから黙ってて。...まず1つ。この教会を俺達に譲れ」
「分かったわ。それで、もう1つは?」
憤慨するグレモリーを他所に、俺は要求を突きつけていく。
「2つ目は、レイナーレ。こちらが指定するお前の権利、及び所有物の譲渡だ」
「なんッ!?」
さすがにコレを即許容は出来ないのだろうか。あからさまに動揺を見せる。
そして、この一言で俺の意図を察したのか、静謐ちゃん達は納得したような顔を浮かべる。
「...ちなみに、どんな権利を要求するの?」
不安そうに自分の体を抱きながら聞いてくるレイナーレ。何だろう、コイツは俺がエロい事を要求するとでも考えているのだろうか?そんな貴女には、馬鹿め、と言って差し上げますわ!
まあ確かに容姿やスタイルはかなり良いのでそういう自意識過剰な思想を持つ事も納得出来なくは無いけれども。
というかコイツ、アーシアの神器を使って徐々に回復しつつあるな。まあレイナーレ程度が全快になったところで俺達の敵ではないが。
「お前ら堕天使の頭。アザゼル総督への謁見を要求する。あ、所有物の方はアーシアの神器な」
「「はぁ!?」」
またもや驚きの声をあげるグレモリー眷属とレイナーレ。...え、これってそんなに驚くこと?
* * * *
「つまり、貴方はアザゼルがこの街に居ることをつきとめたから会いに行こうと?その時に戦闘になると色々マズイだろうと配慮した結果がレイナーレを通しての謁見だった、と。そう言いたいのね?」
「
グレモリーからの質問にそう答える。
あれから暫く、俺は事の事情を説明していた。
「はぁ...。というか、アザゼルがこの街にいることに驚きよ。私達でも今まで気付かなかったのに、よく気付いたわね、貴方達」
「え、いやだってこの街に2つ桁違いの気配がいるだろ?それの片方を辿って行ったらアザゼルの所に着いたんだよ」
何を当たり前の事を...あっ…(察し)。そうかなるほど、コイツら気配の察知が出来ないのか。もしくはただ単に危機感や責任感の薄い奴らなだけなのかだな。どっちにしろ、それでよくもまあ土地の管理者だなんて大口が叩けたな。全く管理出来てねえじゃん。管理者(笑)
「あの総督、マジで日本に染まってたぞ。部屋着は浴衣で、部屋の装飾も鎧一式とか富士山の絵とか...。あれ、富嶽三十六景だったら相当高価だぞ。堕天使総督って儲かるのかなぁ...。まあそれはともかく、アレは一朝一夕で用意出来るものでもないし、結構入り浸ってると思うぞ?」
「そんな...。そこまでの侵入を許していたなんて...。そ、それで、もう1つの気配の方も堕天使なの?」
焦るようにグレモリーがそう聞いてくる。本当にコイツが管理者名乗ってていいのか?
「もう1つは悪魔っぽかったぞ。アザゼルと一緒にいる所も目撃した」
「悪魔が堕天使の総督と密会...?」
「はーい、考えるのは後にしてねー。今からこの教会の大掃除を始めるから出てった出てった。ウチのオカンが目を輝かせて掃除用具を持ち始めたから急げよー」
「フッ。掃除するのはいいが、別に一晩で終わらせてしまっても構わんのだろう?」
行くぞ廃教会、ホコリの貯蔵は十分か!などと宣いながら、ハタキと洗浄スプレーを持って教会の奥へと消えていったオカン。エミヤってたまにおかしなこと言うよな。
「...まあ今日のところは帰るわ。ただし、明日も駒王学園の部室に来なさい」
「だがこ」
「拒否権は無いわ」
「...デスヨネー」
その後、グレモリー眷属達はアーシアの死体を持って教会から出ていった。アーシアは悪魔の駒で蘇らせるらしい。ここでやればいいのに、とも思ったが、つい先程すぐに出ていけと言った手前、そんな事は言えなかった。
いろいろと無理矢理なところがありますが、どうか暖かい目で見守って下さい。