問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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地の文多めです。


ローマ!

 

 

「見るがよい、そして感動に打ちふるえるのだ!これが余の都、童女でさえも讃える華の帝政である!」

「すごい賑わってる...!」

「見た感じ、みんな笑ってんなー。ホントに戦時中なのか?」

 

藤丸さんと俺がそう言い、他のみんなも同じような意見を持っているようだ。

 

「うむうむ、そうであろう、そうであろう!何しろ世界最高の都だからなっ!」

 

胸を張り、自信満々に語る第5代皇帝ネロ閣下。まあ、これだけの国を治めているのだから自慢したい気持ちは分かるけどね。

 

その後、少し歩いて王城らしき建物へと案内された。

 

「――さて。今、余のローマは危機に扮している。栄光の大帝国の版図は、口惜しくもバラバラに引き裂かれているのだ。かたや、余が統治する正当なるローマ帝国。この首都ローマを中心とした領域だ。かたや、何の前触れもなく姿を見せた、余ならぬ複数の皇帝が治める連合だ。連合ローマ帝国。奴らはそう自称し、帝国の半分を奪ってみせた。連合はその実態もよく分からぬ。斥候を送れども、いずれも戻って来ぬのでな。『皇帝』どもがいるであろう首都の位置でさえ分からぬ始末だ」

「複数の皇帝達、ですか」

「うむ。余とローマにとって、大逆の輩である。それに...」

 

なにやら暗い表情になるネロ。言い難い事でもあるのだろうか?

 

「...そうだな。お前達は既に見ていたのだった。先程戦った敵将・カリギュラ。余の軍団を単身で屠った男。あの男は...余の、叔父、なのだ...」

『既に死んでいる人間、ということですね?』

「ああ、あのバーサーカーのこと」

 

納得したように頷くカルデア一同。これは相手が聖杯を持っている可能性大ですね。その皇帝達も、おそらく全員が聖杯によって喚ばれたサーヴァントなのだろう。

 

「――正直なところ、連合帝国はあまりに強大だ。各地で暴虐の戦いを引き起こし、民を苦しめている。...余の手勢は少数だ。口惜しいが、思い知らされた。余1人の力では事態を打破することは叶わぬ、と。故にだ。貴公達に命じる、いや、頼もう!余の客将となるが良い!ならば聖杯を手に入れるというその目的、余とローマが後援しよう!」

 

ネロの提案に、俺達は一瞬目を合わせ、全ての判断は藤丸さんに任せる事にした。まあ、聞くまでもなく答えは決まっているのだが。

 

「願っても無い申し出だよ、ネロ皇帝。こちらこそ、よろしくね!」

「おお!そうか、快諾してくれるか!貴公達のうち、2人に総督の位を与えるぞ。それと、先刻の戦いの報酬もな。今日はもう休むがよい。それぞれ、総督に相応しい部屋を用意させよう。いや、休む前にまずは宴か。戦時故に普段通りとはいかないが、贅を尽くした宴を催そうではないか」

「宴...料理...贅を尽くした...。良いですね!」

「では私も腕を振るうとしよう。厨房まで案内してくれるかね?」

 

2名程宴という言葉に反応し、俺達も腹は減っていたのでお言葉に甘える事にした。

 

「おぬし達、酒はいける口か?東方より取り寄せたとっておきの物があるぞ」

「頂こう」

 

飲酒には興味があったところだ。遠慮なく飲ませて貰おう。未成年?カンピオーネに成人もクソもない。

 

「私は遠慮しとこうかな。まだ未成年だし」

「私もです」

 

藤丸さんとマシュは辞退した。なんて真面目なんだろう。人理焼却されても法律に従うとは。

結局、お酒は俺と静謐ちゃん、エミヤだけ頂いた。酒は美味かったんだが、酔えない、というのはちょっと残念だったな。

食事中に、先程の残党が攻めてきたとの報告が入ったが、食事を邪魔されてキレ気味だったアルトリアの宝具ブッパで一瞬にして片付いた。南無三。

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

翌日、藤丸さん達はエトナ山というところに向かった。いい感じの霊脈があるらしく、ターミナルポイントを設置するのだとか。

念のため単独行動のスキルを持つエミヤを藤丸さん達に着いて行かせ、俺はネロ達ローマ軍と共に、未だ襲い来る連合兵を相手にしている。

静謐ちゃんは連合帝国の首都捜索にあたらせた。前にも言ったが、静謐ちゃんの気配遮断スキルはA+。こちらから手を出さない限り、敵に気付かれることはまずないだろう。手掛かりは一切無いので、あまり期待は出来ないが、行動を起こさないよりかは幾分マシだ。

 

「それしてもおぬし、強いな。その雷は魔術の類か?」

 

戦闘も一段落ついて小休憩に入ったところで、ネロが話しかけてきた。

 

「あー、まあ魔術って言ったら魔術かな?」

「ふむ。その言い回しだと、正確には魔術では無いのか?」

「そうだねえ...。ネロはさ、神様って信じる?」

「むっ。皇帝である余を呼び捨てとは...。まあいい、今回は特別に許そう。ふむ、神か。余は信じているぞ。何を隠そう、このローマを建てた者は神祖であるしな」

「まあ神祖ってのがどういう括りなのかは知らないけど。俺のこの雷はね、神様から簒奪した力なんだよ。所謂、権能ってやつだね」

「なんと!そなたの力は神の力そのものということか!?」

「そうなるね」

「...ふむ...。凌太、と言ったな。どうだ?客将と言わず、余のものにならぬか?」

「皇帝陛下直々の勧誘とは、嬉しい限りだな。――でも、断らせて貰うよ。俺には、小さいながらも自分の居場所があるからな」

「むう、そうか...。残念だ。気が変わったら言ってくれ。余は何時でも歓迎するぞ?」

「ああ、ありがとな。っと、また敵が来やがった。アイツら残機底無しかよ...」

 

再び現れた敵軍に、俺達は腰を上げて攻撃態勢に入る。

どれだけ群れようとも雑魚は雑魚。サーヴァントでも投入してこない限り、俺とネロが居るこのローマ軍が負けることはありえない。

俺は聖句を口にし、再び雷の嵐を敵にお見舞いしていった。

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

「ガリアへ行くぞ。皇帝である余自らが出向く。遠征だ!疾く準備せよ!」

 

ネロがそう言ったのがつい30分程前の話。現在俺達はネロ率いるローマ軍と共に首都ローマを離れ、森の中をガリアに向かって進行中である。ローマ兵の準備早い。

藤丸さん達は既に帰ってきており、この遠征にも同行している。静謐ちゃんとはまだ合流出来ていないが、彼女の事だ。すぐに俺を見つけてくれるだろう。そういう確信がある。

 

1時間程馬を走らせたところでガリアに到着した。藤丸さんは馬に乗れないようだったので俺の後ろに乗せた。マシュは盾が邪魔で2人乗り出来なかったし、藤丸さんとエミヤ、もしくはアルトリアとの組み合わせだと清姫が怖かったので、消去法で俺との組み合わせになった。ちなみに、清姫はアルトリアの後ろに乗っていた。

 

 

「皇帝ネロ・クラウディウスである!これより、拝聴を許す!ガリア遠征軍に参加した兵士の皆、余と余の民、そして余のローマのための尽力ご苦労!これより、余も遠征軍の力となろう。一騎当千の将もここに在る!この戦い、負ける道理が無い。――余と、愛すべきそなた達のローマに勝利を!」

『ワァアアアア!!!』

 

ガリアに着くなり、すぐに演説を始めたネロ。さすがは皇帝といったカリスマ性だ。

 

「アルトリア顔はみんなカリスマ性高いのか...」

 

俺が知っているのはジャンヌとアルトリアとネロの3人だけだが、その3人とも高いカリスマ性を持っている。アルトリア顔は他にも存在するらしいので、実は会うのが楽しみだったりするのだ。

 

「青こそ原初にして王道、最強最優のセイバーです。赤など、所詮はポッと出の新人セイバー。青には敵いませんとも」

 

張り合う様にそんなことを口走るアルトリアさん。

なんだろう。今後いつの日か、彼女はセイバー&アルトリア顔絶対倒すウーマンとして現界しそうだ。そして何故かアサシンとして。

 

「やあ、君達がネロの言っていた客将かい?話は聞いているよ。見かけによらず、随分と強いんだってね」

 

俺が宇宙的な電波を受信している間に、赤髪の女性がこちらに近付いていた。気配からしてサーヴァントか?

 

「えっと、貴女は...?」

「私?私はブーディカ。一応、ネロ公陣営のサーヴァントだよ。クラスはライダー。よろしくね」

「ブーディカ!?」

 

ブーディカと名乗った女性に驚くマシュ。そんなに有名な人なのか?ごめん、俺そういう知識に疎くて...。

後で聞いた話だと、ブーディカという人物は、生前ローマと戦って負けたブリタニアの勝利の女王らしい。色々と卑怯な作戦等で自分の娘まで酷い仕打ちを受けているなど、とてもローマに協力するような経歴の持ち主でな無いとのこと。ブーディカ本人に、そこの所の心情などを聞いてみると、当時の皇帝はネロだったのだが、実際に手を出してきたのはその臣下で、ネロはブリタニアの件には関わっていなかったのだとか。まあ当然ネロに対して怒りは覚えるし、その怒りは消えていないが、今はネロより連合帝国の方が頭にくるのでネロの仲間になっているとか云々。

ついでにスパルタクスという筋肉(マッスル)も紹介された。何故か彼の言っていることの意味が理解出来たのは俺とエミヤだけだったが。

 

とまあ、そんなこんなでガリアの兵士達と無事合流し、ブーディカ達と話していると、敵斥候部隊を発見したという報告が入った。斥候部隊の速度は速く、追撃が難しいとか。

 

『まずいぞ。こちらの情報を持っていかれる。ここで叩いておいた方がいいだろうね』

「了解。エミヤ」

「分かっている」

 

エミヤを連れて、この周囲で1番高い崖の上に駆け上がる。

 

「見える?」

「ああ。北西約3kmから4kmの地点に後退する軍がある。おそらくアレが例の斥候だろう」

「やれる?」

「愚問だな。私を何のクラスだと思っている?」

 

フッ、とニヒルに笑って見せるエミヤ。ごめん、正直ハウスキーパーか何かだと...。掃除洗濯料理、家事全般はなんでもござれだもんなあ。

 

「じゃ、やっちゃって」

「了解した。――投影(トレース)開始(オン)

 

エミヤは黒い弓と、捻れた剣のようなものを投影する。こうして見ると、やはりアーチャーなのだと確認できるな。

 

「――偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!」

 

今までの弓矢とは比べものにならない量の魔力を含んだその螺旋剣は一直線に飛んでいく。

エミヤはそれを更に3本、敵斥候部隊のいる方角へと放った。

 

「敵の掃討、完了したぞマスター。残党も無しだ」

「...俺が言うのもなんだけど、容赦ねぇな」

「フッ、何を言う。敵に容赦をかけるなど、三流もいいところだ。それはマスターも分かっているはずだが?」

「違いない」

 

そんなやり取りをしながら崖から飛び降り、ブーディカとガリア兵士達に斥候部隊殲滅の報告を入れる。

 

「...全然働いて無いですね、私...」

「ま、まあ今回はアーチャーの方が合ってる仕事だったから!落ち込む事はないよ?ね?」

 

アルトリアが落ち込み、藤丸さんが励ますという光景も見て取れたが、俺が何を言っても逆効果だろうと思いそっとしておいた。

 

「さて、それじゃ始めようか」

「?」

 

ブーディカが突然そんなことを言い出した。何を始めるつもりだろうか。まさか宴とか言わないよな?いやまあ大歓迎ですけども。

 

「あの...始めるとは、一体...?」

 

マシュがとても不思議そうにブーディカに聞き返す。

 

「あんた達の腕を疑っているわけじゃないけど...。いや、疑っているのかな?ガリアの支配者――皇帝のひとり、アイツは強い。アレと真っ向から戦えるのか、それともちょっとした援軍だと思えばいいのか。その腕、ちょっと試させてね?あ、そこの少年とアーチャーは参加しなくていいよ。あんた達の強さは十分、あの皇帝と戦えるよ」

 

俺とエミヤは除外され、藤丸さん&マシュ&清姫&アルトリア vs ブーディカ&スパルタクス で模擬戦をやるらしい。

 

「良いでしょう。この戦闘を持って、私の名誉を挽回する!」

 

アルトリアが燃えている。藤丸さんとマシュもやる気だ。清姫?やる気を出してる藤丸さんを赤面しながら見て「ああ、凛々しいお顔も素敵です♡」とか言ってる。ここまで来るといっそ清々しいよね。

 

という訳で、模擬戦が始まった。

やはりと言うか、さすがは騎士王。戦闘が始まると同時に魔力放出でブーストしてスパルタクスに突撃し、吹き飛ばす。スパルタクスも立ち上がったが、あれ致命傷じゃないよな?模擬戦で大事な戦力失うとか止めてよね。

マシュや清姫も奮闘し、ブーディカとほぼ互角にやり合っている。

 

「マスター、ただいま戻りました」

「ん?ああ、おかえり。どうだった?」

 

戦闘を(いざとなったらスパルタクスを救助出来るように)眺めていると、偵察に出ていた静謐ちゃんが帰ってきた。決して周囲の索敵を怠っていた訳ではないのに静謐ちゃんの接近に全く気付かなかったあたり、さすがは気配遮断A+だと思う。

 

「敵の本拠地を発見しました。以前映像で見た、レフ・ライノールと思われる人物もそこにいます」

「へぇ...?戦力は?」

「レフ・ライノール、サーヴァント3騎、一般兵士数千。それは確認出来ましたが、それ以上いてもおかしくは無いと思います」

「ふむ...。まあ大丈夫かな...。うん、お疲れ様。この後は俺と同行してくれ」

「はい。...それで、その...」

「うん?どしたの?」

「あ、いえ、その...。あ、頭を...」

 

モジモジと呟く静謐ちゃん。

なんだろうか。何か言いたい事でも...。...ああ、そういう。

静謐ちゃんがして欲しいであろう事を想像し、そっと彼女の頭に手を置く。

 

「ありがとう、静謐ちゃん。助かったよ」

「っ!」

 

一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに顔を緩ませて身を任せてくる。かわいい。

しばらくこうしておきたかったが、模擬戦を終えた清姫がチロチロと火を吹き始めたので手を離す。あの子マジで燃やしてきそうで怖いんだもの。

 

 

 

その夜はプチ宴が開催された。ブーディカお母さんがブリタニア料理を振舞ってくれたり、それにエミヤが対抗して色々と料理を出したり、ブーディカ絶賛本場ローマの風呂に入ったり、バーサーカー(スパルタクス)はお湯に入れると大人しくなるという発見にロマンが騒いだり...。あ、あとオカン属性が2人になったり。

 

 

頭痛がすると言って寝込んでいたネロが起きてきたところで、食事を続けながらながら静謐ちゃんが入手してきた情報をみんなに話す。

レフ・ライノールがいる、という情報はカルデア勢を戦慄させ、同時に戦意を高揚させることにも繋がった。

 

今日のところはもう夜も遅いということで、簡単に今後の方針を決め、それぞれ寝床に着いた。

今夜は清姫は藤丸さんの方へと行っている。なので今は静謐ちゃんと2人きりだ。なんでさも当然のように静謐ちゃんと2人きりかって?理由は静謐ちゃんが俺の寝床に潜んでいたからだ。本来俺と同じテントで寝るのはエミヤの予定だったのだが、そのエミヤに頼んで交代して貰ったとのこと。

まあ別に一緒に寝るのが嫌だとか恥ずかしいとか、そういう事は無いので普通に寝るけど。むしろ嬉しいしね。

 

「...マスター...」

 

寝言でそんな事を言う静謐ちゃんはかわいい。そう確信しながら俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 


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