問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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もう遅れたとか、そういう問題では無いくらい遅いですが、一応載せときます。
ちなみに、モードレッドはいない時の時間軸です。
バレンタインを書いた時はまだいなかったから...


ホワイトデー

 

 

 

 

 

ホワイトデーがやって来た。

もう聖ウァレンティヌスとか全く関係無く、宗教的な意味合いも一切無いお菓子業界発案の陰謀渦巻くイベントだが、来てしまったものはしょうが無い。

 

そしてご都合主義として、俺は現在箱庭の7桁外門に帰ってきていた。

 

「さて、どうするか...」

 

商店街にて腕を組み考え込む男。俺です。

バレンタインにチョコを貰ってしまったので、彼女達にお返しをするべく買い物に来たのだが、何を渡せばいいのか全く分からん。

 

「俺はテキトーに菓子買って渡すわ」

「私も香辛料だけ買って本拠に帰る。まだ下準備しかしていないのでね」

 

そう言って俺を置いて行くウェーザーとエミヤ。いや、エミヤはバレンタインにチョコ渡した側じゃなかったっけ?チョコを上げてお返しもするの?

 

「...うーん......」

 

エミヤの様に1からの手作りは俺には無理だ。出来ないことは無いだろうが、今からじゃ時間が足りない。かと言ってウェーザーの様にテキトーに選んで返すのも違う気がする。昨日の俺よ、何故手作りという手段を思いつかなかった。

 

「おっ、凌太じゃねえか。お前もホワイトデーの買い物か?」

「ん?ああ、十六夜か...。まあそうなんだけど、中々良い物が思い付かなくてなー」

 

1人で商店街をふらついていると、十六夜とエンカウントした。彼も俺と同じく、ホワイトデー用の買い物をしに来たらしい。

 

「どうもこういうイベントは慣れないな。凌太は静謐とか皇帝殿とかがいるから慣れてるかもしれないが…」

「そうでも無いぞ?というか、お前も黒ウサギとかレティシアとかいるだろ」

「......」

「無視すんな」

 

あからさまに視線を逸らしやがって。仕方ない、今日春日部に会った時にでも黒ウサギ達との色恋話を聞くか。

 

「おっ。なんかいい感じの売り出ししてるぜ!」

 

話を逸らすな、と言いたかったが、十六夜が指差した方に「ホワイトデー限定グッズ売り出し中!」という看板が見えたのでとりあえずはそちらに向かう。

 

「へいらっしゃい!お、アンタは耀ちゃんところの坊主じゃねえか。なんだ、耀ちゃんにお返しでもするのかい?羨ましいねー」

 

店に入るなり、愛想の良い笑顔を浮かべるゴツイおっちゃんが十六夜に話しかける。十六夜達“ノーネーム”は今やここの“外門の支配者(ゲート・ルーラー)”であり“地域支配者(レギオンマスター)”らしいからな。知名度はそれなりに高いのだろう。

まあ今回の場合、おっちゃんと春日部の間で友好があるっぽいが。

 

「まあ、そんなところだ。ちなみに春日部には俺以外に本命がいるから、本人の前でそんな事言うなよ?この店が吹き飛ぶぜ、ヤハハ!」

「へぇ、そうなのか。耀ちゃんもやっぱり年頃の女の子なんだねぇ。まあそういう事なら多少まけてやるよ!耀ちゃんには何度も救われてるからな!」

 

春日部が何をしたのかは知らないが、なんか割引きしてくれるらしい。ラッキー。

という訳で、俺と十六夜は別々に店内を物色。各々が買う物を買って店を後にした。

 

そして俺は十六夜と共に“ノーネーム”本拠へ向かった。

距離的には“ノーネーム”の方が近いからな。“ファミリア”の本拠は辺鄙な所にあるし、1度戻るのはとても面倒なのだ。

 

「よっ。久しぶりだな」

「あら、凌太君。箱庭に戻ってきていたのね」

「あ、凌太だ。久しぶりー」

 

広い“ノーネーム”本拠の居間へと入り、そこに居た春日部と久遠に挨拶をする。黒ウサギは別棟で作業をしているらしく、十六夜はそちらに向かった。やはり2人はでぇきてぇるぅ?

 

「とりあえず、ほれ。バレンタインのお返し」

 

俺はギフトカードから箱を2つ取り出す。赤い箱は久遠に、緑の箱は春日部へと渡した。

 

「あら。凌太君にもお返しをするという考えはあったのね」

「どういう意味だそれは」

「さあ?別に貴方が野蛮な非常識人だから、なんて思っていないわよ?」

「...問題児には言われたくねぇな」

「何か言ったかしら」

「別に何も」

 

素直じゃねえな、このお嬢様。

...いや、案外本当にそう思っているのかもしれないが。

 

「ありがとう凌太。開けていい?」

「おう。もちろん」

「じゃあ。......わあ、綺麗...。これ、首飾り?」

 

含んだ笑みを浮かべて俺をからかう久遠とは違い、春日部は素直に喜んでくれたようだ。こういう反応をされるのは悪くない。

 

「まあ安物で申し訳ないけどな。一応、精霊の加護も付いているレアアイテムらしい。装備しているだけで速力アップ!だってさ」

「ふぅん」

 

春日部に渡した首飾りには翠色の宝石が付いている。恐らくだが、アレが何かしらのギフトなのだろう。ドラ○エとかでもあるよね、ああいう装備品。

 

「じゃあ私も...。あら、私のも首飾り?」

「そだな。春日部のとは色違いで効果違いだ。久遠の方の効果は耐久力アップ。どうだ、使えるだろ?」

「ええ、まあ、そうね。私は生身ではとても弱いから、便利ではあるかしら」

 

久遠に渡したのは紅色の宝石があしらってある首飾り。春日部のものと同じく自身のステータス上昇効果が付いているギフトだ。

 

「黒ウサギのも首飾りなんだ。正直、3人とも首飾りってのはどうかと思ったんだが、全員同じものなら当たり障り無いかなって」

「まあ無難ではあるわね」

「...凌太らしいといえば凌太らしい、のかな?とりあえず、ありがとう。お返しをくれた事は嬉しい。大切にする」

「ええ、それは同感よ。ありがとう、凌太君」

「おう」

 

その後、俺は2人と世間話をしてから、黒ウサギの分を2人に渡して“ノーネーム”を後にした。いやだって、黒ウサギに渡しに行って十六夜との時間を邪魔しちゃ悪いし?春日部と久遠から情報は入った。何でもバレンタインの日に黒ウサギと十六夜はくっついたらしい。最近はレティシアも十六夜に対する好意が見え隠れしているらしいので、次会う時が楽しみである。他人の恋路って、見てる分には楽しいよね。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

「どうしましょうマスター。ペストちゃんがチョコを受け取ってくれないんですよ」

「まだ諦めてなかったのか...」

 

“ファミリア”本拠に帰ってきたら、なんかラッテンにそんな相談をされたんだが。というか、バレンタインであれだけ拒否されたというのに、なんという鋼の精神の持ち主なんだ...。

 

「今回は惚れ薬なんて入れてないですよー。まあ隠し味として性欲剤は入れましたけど...」

「ストレートに体の関係を求めるんじゃないよ」

「...ちゃんと隠してますもん、性欲剤の味...」

「味て、お前...。効果はあるんだろう?別に百合を否定する訳じゃ無いが、相手の了承は得ろよ?」

「うぅ...」

 

膝から崩れ落ちて項垂れるあたり、了承を得ることは非常に難しいらしい。ま、頑張れよ。

 

「それはそうと、そら。バレンタインのお返しだ」

 

ポイ、と項垂れるラッテンに1冊の本を投げ渡す。

 

「これは?」

「だからお返しだって」

「何の?」

「バレンタインの」

「......私、マスターにチョコあげましたっけ?」

「泣くぞ」

 

なんて事だ。こいつ、チョコを渡した事自体忘れてやがる。

 

「え、あ、いや!ちょーっと待って下さいね...!えーと、えーっとぉ......。あっ!そう言えば渡しましたね、ペストちゃんに渡せなかった惚れ薬入りチョコ!」

「なんだと!?」

 

なんて事だ。まさかアレが惚れ薬入りチョコだったとは。

 

「効果は無かったんですねぇ。失敗作でしたか」

「成功してたらどうしたんだお前」

「その時はホラ、マスターが私に惚れるので結果オーライっていうか?」

「意味が分からん。なに、お前俺にも気があるの?ペスト一筋じゃなかったのか」

「もちろんペストちゃんは大好きですけど、まあマスターも悪くないかなぁ、って」

「なるほど。つまり俺はペストの代わり要員だということか」

「そういう訳じゃないんですけど...、まあいいです。とりあえず、このお返しはありがたく頂きますねー」

「おう」

 

ラッテンはそう言って笑顔で本を持って何処かへ行く。本の内容を確認して行かなかったが、あの本の題名は「あの人を振り向かせる十の方法~ねっとり百合編~」という、何でホワイトデー限定グッズ売り場に置いてあるのか謎に包まれた1品だ。まあアレを見てペスト攻略を頑張って欲しい。お幸せにね。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

「奏者よ、これは婚約指輪と受け取って良いか?良いな?うむ、そう受け取ったぞ!」

「落ち着け」

 

春日部達に渡した首飾りの指輪Ver.をネロに渡したらこうなった。嫁王テンション高ぇ。

ちなみに、その指輪には白の宝石があしらってある。赤色と迷ったのだが、今のネロの衣装カラーは白だし、何より久遠と被るので白にした。効果は体力アップだ。まあ英霊であるネロにどこまでの効果があるのかは知らないけど。

 

「む、違うのか?だが奏者からの贈り物、余は嬉しいぞ?いつか婚約指輪もくれるともっと嬉しい!」

「...うん、まあ...うん...」

 

別にネロからの好意を拒む気は無いが、婚約とか全然想像つかねぇわ。いや、結婚したくないとかじゃなく、ただ単純に俺が誰かと結婚する未来が想像出来ねぇ。

 

「そうだ。折角指輪があるのだし、式の予行練習でもするか!?余は何時でも準備万端だぞ!」

「そりゃあ、花嫁衣装常備ですからね」

「うむ!」

 

何だろう、ネロを見ていると心がとても温かくなる時がある。こういうのを『癒し』と言うのだろうか。...なんか違う気もするが、まあそこまで重要な事でも無いだろう。とりあえずネロ可愛い。

 

式の予行練習とやらは後日暇がある時に、という事になった。式の予行練習って、どうせそれが本番になるんだろう?と思わないでもないが、まあその時はその時かと思い、後日やるという約束をした。まあ、その後日っていうのが何時になるのかは俺も分からないけど。というか、「いつかやろうね!」という発言はフラグだと思うのは俺だけだろうか?

...いや、煙に巻くつもりは無いですよ?本当ですよ?

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

という訳で、お返しをする最後の人物、静謐ちゃんの番になった。

ここで重大発表です。実は静謐ちゃん、俺が買い物に出掛ける前からずっと俺の近くにいました。時たま俺に触れてくるが、それ以外は少し離れた所で俺を見ているという、確実に清姫の悪影響を受けた行動を取っていたのでる。何故にストーキングなどというスキルの真似事をするのか、不思議でならない。気配遮断を使わずに敢えて俺に気配を察知させているあたり、更に意味が分からない。

 

「...そろそろ飽きた?」

「...少し」

 

俺の自室でそう声を発すると、ベッドの下から静謐ちゃんが答えた。最近、俺のベッドの下が静謐ちゃんの正位置になりつつある件について。

ベッドの下から這い出てきた静謐ちゃんはそのまま俺の腕に抱き着いてくる。もはやこの一連の動きに違和感を感じ無くなったよ。これが無ければ静謐ちゃんが本物かどうか疑うまである。...思考が毒されて来てるなぁ。静謐ちゃん(毒身)だけに。

 

「買い物してた時も俺を見てたから知ってるだろうけど、はいこれ」

 

そう言って、俺はギフトカードから取り出した箱を手渡す。中身は紫色の髪飾り。例の如く、精霊の加護付きアイテムである。効果は魔力上昇。ネロ同様、英霊である静謐ちゃんにどこまでの効果があるのかは分からないんだけどね。

 

「ありがとうございます、マスター。...あの、付けてもらってもよろしいでしょうか...?」

「髪飾りって他人に付けてもらう物なのか?まあいいけど」

 

静謐ちゃんの差し出した彼女の頭に、俺はパッと渡した髪飾りを付ける。髪飾りとは言ってもそこまで豪華絢爛な造りではない。ヘアピンの様なそれは簡単に付ける事が出来た。

 

「ほい出来た、っと。うん、我ながら静謐ちゃんに似合うものを買ったと思う。可愛い」

「ッ!ありがとうございます!」

「お、おう...。そんな声を張るのは珍しいな。それだけ気に入ってくれたのかね」

「もちろんです。我が主からの贈り物...。大切にします、いつかこの身が朽ちるその日まで」

 

...少々重い発言だが、まあ静謐ちゃんって何時もこんな感じか。気に入ってくれたのなら嬉しいし。

 

 

 

 

 

 

 

とまあ、そんな感じでホワイトデーは終わりを迎えようとしている。

静謐ちゃんに渡した後はエミヤに最新の調理器具をプレゼントした。暗に、これからも美味い飯をよろしくね! という意図で渡したのだが、まあ喜んでいたので良しとしよう。

 

問題は清姫だったが、爺さんに頼んだら物だけ届けてくれるとの事だったのでお言葉に甘えて爺さんに頼んだ。お菓子詰め合わせを20袋程まとめて贈って、「カルデアの皆で食べて下さい」という手紙を添えた。

 

 

 

ホワイトデーとは何なのか。そんなもの、お菓子業界の陰謀だと断言出来る。バレンタインデー以上に宗教性のないイベントなのだし、実際始めたのが日本の某お菓子会社なのだからしょうがない。それがリアルだから。

でもまあ、お返しを渡した相手が喜ぶ様を見るとこちらも嬉しくなる、と言うことを今回学んだ。それだけでも、ホワイトデーという行事の意義はあるだろう。

...バレンタインデーにチョコを貰ってなかったら、まあ忌々しいだけのイベントだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、ホワイトデーの翌日。ペストが「身の危険をヒシヒシと感じる!」と俺の下へ駆け込んできた。ラッテンは俺が渡したものを有効に使用しているようだ。あの本の内容は知らないが、題名からして碌でもない方法が書いてあるのだろう。

...まあ、強く生きろよ、ペスト。

 

 

 

 


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