問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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英霊

 

 

 

 

 

暗闇の中を彷徨うこと2,3分。

3度目の俺はだいぶ慣れたものだが、転移をするのが今回初めての静謐ちゃんは不安そうで、ギュッと俺の手を握ってきた。何このかわいい生き物。

 

「あ、ほら静謐ちゃん。光見えてきたよ」

 

俺の言う通り、前方からは一条の光が差し込んでいる。

すると少しは不安が取れたのか、手を握る力が少し弱まった。

だんだんと光に近づいて行き、間も無く俺達は光に呑まれた。

 

 

 

光から出て目が慣れてくると、そこは地球の模型のような物と、どこか地下研究室を思わせる機械類が置いてある空間が広がっていた。

 

「やあ、坂元凌太くん。こうして直接会うのは初めてだね。では、一応自己紹介を。僕はロマニ・アーキマン。臨時ではあるが、このカルデアの最高責任者を任されている者だ。本職は医者だから、Dr.ロマンとでも呼んでくれ。よろしく頼むよ」

 

そう言って、手を差し伸べてくるロマン。特に拒む理由も無いので、素直に握手に応じる。

 

「ああ、よろしく頼むよ、Dr.ロマン。俺の自己紹介もいる?」

「いや、大丈夫だよ。オルレアンでの出来事はこちらでモニターしていたからね。君の事情は大体把握しているよ。まあ、最初は信じていなかったけれどね。レイシフト無しで時空遡行をやってのけるんだから、それを信じるには十分さ」

「助かる」

 

藤丸さん達は既に部屋に戻って休んでいるらしいので、改まった挨拶などは明日にしよう。

 

その後はロマンや職員達と他愛のない雑談を繰り広げ、途中で世界的大天才、ダ・ヴィンチ女史を紹介され、その場は解散した。

いやー、彼の大天才がまさか性転換しているとは。モナ・リザが好きすぎて自分がモナ・リザになるとか...。やはり英霊とは何でもありか。

 

そう思いつつ、ロマンが用意してくれた俺の私室へと向かう。

静謐ちゃん用にも私室を用意してくれていたので、彼女はそちらに向かっていった。

用意された私室はわりと広く、綺麗な部屋だった。

まあ、簡素、と言ってしまえばそこまでなのだが。

とりあえず部屋の間取りなどは後日考えることにして、まずは寝ることにした。

カンピオーネというチートボディになったとは言え、徹夜からの戦闘というのは正直キツい。先程から眠気が襲ってきていたのだ。俺はその睡眠欲に従い、備え付けのベットに倒れ込み、そのまま深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、マスター」

「...ああ、うん。おはよう、静謐ちゃん」

 

起きると隣に静謐ちゃんがいた。な、何を言っているのか分からな(以下略

 

まさか朝チュンドッキリを俺がされるとは思ってなかった。まあ、普通に嬉しいんですけどね?

何か夢を見ていた気がするが、寝起きの出来事で内容が飛んでしまった。

 

「マスター。先程、Dr.ロマンが貴方を呼んでいましたよ?なんでも、英霊召喚をする、とか」

「ん、おっけー。すぐ準備するから待っててね」

 

そう言って、手短にシャワーと着替えを終えて部屋を出る。シャワー付きの部屋とかどこのホテルだよ、という思いもよぎったが、今はそれどころでは無いのでスルーした。

 

 

時折すれ違う職員の人達に軽い会釈をしながら足早に管制室へと向かう。

管制室に入ると、既に藤丸さんとマシュの姿があった。

 

「おはよう、みんな。もしかしてもう召喚しちゃった?」

「あ、おはよー、凌太くん。召喚はまだだよ。私も今来たのところだし」

「おはようございます、凌太さん」

「おはよう、凌太くん」

 

みんな律儀に挨拶を返してくれる。

これぞ日本人の心。まあ、藤丸さん以外は名前からして日本人かどうか分からないけれど。

 

「え、でも既に英霊がそこに...」

 

チラッと、藤丸さんの後ろを見る。そこには、昨日消えたはずの清姫がさも当然のように佇んでいた。

 

「おはようございます、安珍様」

「いやだから俺は安珍って人じゃなくてね?」

「またまた。嘘はいけませんよ?燃やしていまします」

「俺にどうしろと...」

 

嘘吐き絶対燃やす系女子、清姫。何故にここにいるの?

 

「ああ、清姫の事は気にしなくていいよ。なんか、私と結んだ仮契約を辿ってここまで来たんだって」

 

藤丸さんが諦めたように呟く。

自力で座からカルデアまで来たと?可能なのか、そんなこと。

ま、まあ藤丸さんが気にするなと言っているし、気にしないでおこう。

 

「さて、それではお待ちかね。英霊召喚を開始しようか!」

 

ダ・ヴィンチちゃんも現れたことで、俺達は守護英霊召喚システム・フェイトと呼ばれるものの前に案内された。

どうやら、静謐ちゃんを召喚した時の様な英霊召喚ではなく、アレをもっと簡易化した儀式らしい。

そのため、触媒として聖晶石という石3個が必要なんだとか。石は特異点で複数個拾えるらしい。

加えて、この召喚では必ず英霊がくる、というのではなく、礼装と呼ばれるものがくることもあるそうだ。

もうこれ、普通に召喚した方が楽じゃね?とも思ったのだが、折角なので運試しにフェイトで召喚してみることにした。

今回は特別に藤丸さんが石を3個くれたので、それで召喚する。

 

まずは藤丸さんから。彼女は石を15個持っているので、計5回召喚するらしい。

まずは1回目。石を放り込むと、光輪が発生し、それが人型になっていく。そして現れたのは、1人の少女。金髪で、どこかジャンヌを思わせる顔立ちの少女だった。

 

「問おう。貴女が私のマスターか?」

 

そう言う少女を目の前にして、藤丸さんとマシュは少し怖がっているように見える。なんでだ?

 

「た、確かに私がマスターだけど...。...もしかして、あの時の騎士王...?」

「あの時?よく分かりませんが、私が騎士王だというのは合っています」

 

藤丸さんが恐る恐ると言った感じで召喚された少女に問いかける。

話を聞いてみると、なにやら青い騎士王は以前戦った相手と似ているとか。ダ・ヴィンチちゃんが言うには、冬木というところで戦った相手は所謂オルタ化しており、この騎士王とは別人だとのこと。

それを聞いて、藤丸さんは安心したように胸を撫で下ろし、騎士王と軽い挨拶を交わした。

よく分からんが、確執的なものが無くなって良かった。

 

続いて藤丸さんの第2投目。

次は光輪が人型にはならず、黒鍵が出てきた。

3回目はライオンのぬいぐるみが出てきて、藤丸さんはこれ以上してもダメだろうと判断して、3回で召喚を止めた。

 

さて、次は俺の番だ。

貰った石を3個放り込み、結果を待つ。

すると光輪が発生し、光が人型になっていった。

 

「サーヴァント、アーチャー。召喚に応じ参上した」

 

現れたのは褐色肌の男性。髪は色が抜けたように白く、その身には赤い外套を纏っている。

 

「ああ、よろしく、アーチャー。真名はエミヤでいいのかな?」

「ああ、合っている」

 

頭に彼のステータス的なものが表示され、そこに名前もあったので一応確認してみる。

静謐ちゃんの時も同じようにステータスが見えたので、契約したサーヴァントの能力は自由に閲覧出来るようだ。これは便利。

というか、そんな筋肉あるのに筋力ランクは静謐ちゃんと同じとか。見せ筋?

まあ何はともあれ、俺も無事英霊召喚を終える事が出来たようで良かった。

 

「うーん...。凌太くん、カンピオーネというのはみんなそんなに馬鹿げた魔力を持っているのかい?」

 

ロマンがわりと本気で不思議そうに俺を見てくる。

ダ・ヴィンチちゃんも興味を示しているあたり、大事な事なのだろう。

 

「いや、どうだろう?俺以外のカンピオーネの魔力とか測ったこと無いし...。というか、俺の魔力ってそんなに異常?」

「異常だね、主に魔力量が。君は今、2騎の英霊の現界を1人で、しかもカルデアの補助無しで担っている。にも関わらず、2騎のサーヴァントに対する魔力供給量は1騎のサーヴァントを使役している時となんら変わらない量だ」

 

ダ・ヴィンチちゃんがそう言ってくるが、イマイチ実感がない。魔力だって、カンピオーネになって初めて存在を知ったのだし、他人の保有量とか知ったことじゃない。

 

「んー...。やっぱり“神殺し”なんて事をやっちゃうキチガ...、もとい超人は次元が違うのかなぁ...」

 

ロマンがなにやら失礼な事を言っているが、否定も出来ないのでスルー。

とりあえず俺はおかしいと言うことで話がついた。

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

所変わって、俺達は現在カルデア内の食堂に来ている。

騎士王のお腹が盛大に鳴ったので、急遽朝飯を食べる事になったのだ。

調理担当は俺とエミヤ。だが、基本エミヤが1人で作った様なもので、俺は手伝いをしただけである。

エミヤはまるでシェフの如く、色とりどりの料理を完成させていく。エミヤさんマジ上手い。そして美味い。これ、高級ホテルで出せるレベルじゃね?

 

「とても美味ですね!しかしなんでしょう?以前にも食べた事があるような...?あ、おかわりお願いします」

 

そんなことを言っているアルトリアさんは、今ので5回目のおかわりだ。騎士王、さすがッス。

エミヤも「やれやれ」みたいに言っているが、顔は嬉しそうだ。料理を振る舞うのが楽しいのだろうか?

結局、アルトリアは計8回のおかわりをして、ロマンが真剣に今後のカルデアの備蓄を心配し始める結果となった。

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

翌日。

まだ次の特異点までは時間があるようなので、各自自由時間となった。まあ、ロマンとダ・ヴィンチちゃんは仕事なのだが。

俺は折角なのでエミヤと実戦訓練をすることにした。カルデアには立派な訓練ルームがあり、そこは英霊同士が戦闘しても耐えれる強度を誇るらしい。

ということで、なんの遠慮も無くエミヤと剣を交えていた。俺は剣ではなく槍だけどね。

というか、エミヤって弓兵(アーチャー)だよね?なのに戦闘は剣メインて...。

 

「はぁ!!」

「くっ!」

 

エミヤの剣術は洗練されており、俺如きのにわか槍術では対抗出来ない。

権能を使えばまだ勝負は分からないのだが、今回は権能無しでの訓練と、始める前に決めたので権能には頼れない。正直キツい。俺がどれだけ権能に頼っていたかが目に見えて分かるのだが、今ここで嘆いてもエミヤに勝てる訳もないので一旦その思考を捨てる。

 

そういえば、この槍、“天屠る光芒の槍(ダイシーダ・リヒト)”の新能力が発覚した。

今までは単に突いたり投げたりしていただけなのだが、魔力を込める事で淡く発光し、威力と、投擲時には速度が上がるのだ。まあ正直言って雷槍の方が速度はあるし、威力面でも対神以外なら雷槍の方が上なので、普段の戦闘ではあまり関係ないのだが。

それでも権能が使えない状況では十分なパワーアップなので、権能無しの状態では重宝する能力ではある。

 

「甘い!」

「ちょ、まっ!」

 

とうとうエミヤの双剣が俺を捉え、俺は壁まで勢いよく吹き飛んだ。

てか、今の普通に殺しに来てなかったか!?

 

「死ぬわ!」

「いやなに、マスターならこの程度の攻撃、耐えるという確信があったのでね。現に死んでいないだろう?」

「くっ!事実だから何も言い返せない!」

 

そんなこんなで今日の訓練は終えて、エミヤと共に食堂へ向かう。

エミヤ特製スタミナ料理を完食し、途中からエミヤが騎士王アルトリア相手に調理を始めてしまったので、エミヤにお礼を言ってから食堂を出た。

 

「行くぞ騎士王。腹の減り具合は十分かッ!」

「――最後まで私が食べ尽くす。この剣の誇りに懸けて」

 

なんか燃えてんな、あの2人。

去り際に食堂から聞こえてきたエミヤとアルトリアの声に少なくない熱意を感じながら廊下を歩いていく。

マジでカルデアの備蓄は何日持つんだろうか?まあいざとなればレイシフト先で食料調達してくればいいし、何なら爺さんに頼んで箱庭から送ってもらってもいいかもしれない。今度ロマンに提案してみるか。

 

そんなことを考えながら、気ままにカルデア内を歩いて回る。特に何かすることがあるわけではないので、とても暇だ。

静謐ちゃんは朝から見かけないし、藤丸さんとマシュはトレーニングをすると言っていたのでわざわざ邪魔をすることも無いだろう。清姫に関しては気配は感じるのだが、こちらに話しかけてくるでもなく、しばらくストーキングしてから離れていくのだ。あの子は何がしたいんだろうか?

自主トレでもするかな、と思い始めた頃に、俺のスマホが鳴り響いた。

電話相手は爺さん。もう出なくてもいいかな、などという考えが一瞬頭をよぎるが、もしかしたら重大な事かもしれないと思い電話に出る。

 

「もしもし?」

『あ、もしもし?ワシだけど』

「おう。なんか用事?」

『まあそんな感じだな。ついさっき、この異世界同士でも通話出来るスマホの新作が届いたんだよ。それで、お前の仲間達にも渡しとくかな〜、と思ってな』

「マジで?何個届いたの?」

『今のところ2つだな。どうだ、いるか?』

「いるいる、超いる」

『分かった。じゃ、お前の部屋に転送しとくからな。あ、あとついでに言っとくけど、“ファミリア”本拠のお前の部屋と、カルデアのお前の部屋の机の引き出し間を繋げる予定だから』

「それなんてタ〇ムマシン?」

『まあそこは気にするな。それじゃ』

 

そう言って電話は切れた。何気に爺さんが電話で終始真面目に話してたのって初めてじゃね?成長したんだな、爺さん...。

まあそれはそうと部屋に戻るか。仕事の早い爺さんのことだから、部屋に着いた頃にはスマホの方も届いてるだろう。

 

 

部屋に戻ると静謐ちゃんと清姫の2人が俺のベットに潜り込んでおり、尚且つベットの中で牽制し合うという場面に出くわして頭を抱えることになるのだが、それはまた別のお話。

 

その後、「マスターとの添い寝同好会」なるものが出来上がり、俺と藤丸さんが頭を抱えることもまた別のお話。

 

ちなみに、届いたスマホは藤丸さんとロマンに渡した。

俺が箱庭に戻ったり、別の世界に行っても連絡がとれるようにするためだ。

爺さんが言うには、登録した世界には“ファミリア”本拠の俺の部屋の机の引き出しから自由に行き来可能らしい。登録ってなんだろうと思わないでもないが、まあ爺さんのする事なので疑問を抱いたら負けかなと思い、その疑問はそっと胸にしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エミヤとアルトリアさん召喚。
毎回言っている気もするけれど、後悔はしていないです。

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