襲い来るワイバーンを焦がし、這い寄るゾンビを貫く。
市民の避難は恙無く終了したらしく、この街に俺達以外の人影は1つも見当たらない。
マリーと静謐ちゃんはサンソンと名乗った男を相手にしている。今のところは優位に立っており、怪我を負うことも無さそうだ。
あちらに雑魚を向かわせない為にも、街を覆う大量のワイバーン&ゾンビを片っ端から倒していると、先程から感じていた“竜の魔女”の気配が街のすぐ側にまで到着していた。
「ようやくお出ましか、“竜の魔女”!」
急いで残りの敵を倒して、“竜の魔女”の気配がする方向へと駆ける。
マリー達も無事サンソンを倒したようで、俺に続いた。
“竜の魔女”の方も俺達を感知し、こちらに向かっていたようで、思ったよりもすぐに鉢合わせた。
「サンソンはやられたのですか。...これで3人。見込んだ者程早く脱落していくとは、皮肉ですね」
アイツが例の“竜の魔女”か。マジでジャンヌと似てるな。細部は少し違う所があるけど、これは同一人物って言われたら信じるかも。
まあ、容姿だけならな。
「ええ。案外、最後に残っているのは貴女が嫌っている吸血鬼2人なのかもしれませんわね。ごきげんよう、“竜の魔女”さん。随分と遅い到着でしたのね?」
「
“竜の魔女”が蔑むような笑みを浮かべると同時に、1本の雷槍が彼女の乗っていたワイバーンを貫いた。
「なっ!」
咄嗟にワイバーンから飛び降り、こちらを睨みつける黒ジャンヌ。
だがそんなもん知ったことかと言わんばかりに、更に雷槍を放つ。
大半は彼女の出した炎で防がれたが、それでも攻撃は通ったし、例の邪竜とやらは今のところ見当たらない。
これならいける。
「貴方は...、カーミラの報告にあった雷を纏う異邦人...。サーヴァント、というわけでは無いようですね」
「お初にお目にかかる、“竜の魔女”ジャンヌ・ダルク。早速で悪いが、ここでご退場願おうか」
薄い笑みを浮かべながら雷を走らせ威嚇する。
今はこれでいい。こちらに気を引ければ、それで。
「ハッ!少しはできるようですが、人間がサーヴァントである私に勝てるとでも?」
「それはどうかな?俺は普通じゃないという自覚があるが?まあそんなことより、1つ忠告をしてやるよ黒ジャンヌ」
「忠告?随分と余裕があるようですね」
「そう言わず聞いておけよ。きっとためになるぜ?
―――お前、隙多すぎ。戦闘中はもっと周りに気を配れよ?」
そう言うと同時に、黒ジャンヌの背中にクナイのような武器が3本突き刺さる。
「がっ!」
更に俺からの雷槍も加わり、黒ジャンヌに多大なダメージが入る。
あさはかなり、黒ジャンヌ。
しかし、世の中そう上手くはいかない。
トドメに、あと数本の雷槍を飛ばそうとしたところで、空から大量のヒトデのような生物が投下されてきた。
「っ!下がれマリー!」
「きゃ!」
近くにいたマリーを抱えて後方に跳ぶ。
静謐ちゃんはヒトデマンを屠ろうと武器を投げるが、如何せん数が多くてキリがない。
俺の雷で全部まとめて吹き飛ばそうにも、そんなことをすれば街が消し飛ぶ。まだ雷の強さの微調整が出来ないのだ。
どうしたもんかと悩んでいると、増援らしきワイバーンの群れの中から、眼球が飛び出しそうな男が出てきた。
「おお、ジャンヌ!大丈夫ですか!?」
「ジルッ...!ええ、助かったわ」
ジル、と呼ばれたその男は、魔導書のような本を使い、更にヒトデマンを増やしていく。
「ジャンヌ、ここは一旦引きましょう。今の貴女の傷ではこの場は厳しい」
「......ええ、そうね。次はポチ...じゃなかった。ファヴニールも連れてきます。首を洗って待っていなさい、そこのマスター」
「ねえ今ファヴニールのことポチって」
「首を洗って待っていなさい!」
そう言い、黒ジャンヌとジルはワイバーンに乗って退去して行き、街には大量のヒトデが残された。
いやコイツらも連れてけよ!
まあ、ヒトデマンは個体としては弱かったので、3人で手分けして殲滅しました。多かったです(小並感)。
何度街ごと吹き飛ばそうと思ったことか...
* * * *
全てのヒトデマンを駆逐した後、俺達は急いで藤丸さん達と合流した。黒ジャンヌが回復しきる前に叩こうという算段だ。
ジークフリートの呪いも無事解除されたらしく、俺達が着いた時には大量のワイバーン相手にバルムンクが火を吹いていた。
全力のアレ受けてたら、俺絶対無傷じゃ済まなかったってマジで。まあ致命傷は受けないでしょうけど?
「マリー!よく、よく無事で...!」
「ええ、魔王さん達が手助けしてくれたもの」
「なんだ、帰ってきたのかいマリア」
「これで貴方のピアノが聴けるわね、アマデウス」
ねえ、俺も無事に帰ってきたんだけど。この空気感、久しぶりだなー。いや別に構って欲しいとかじゃないよ?...ホントだよ?
「凌太君もよく無事だったね。隣のその子が例の英霊?」
「ありがとう藤丸さん」
ガシッと彼女の手を取って、割と本気でお礼を言う。
いや、構って欲しかったわけじゃないけど、それでも構ってくれると嬉しいじゃん?
「えっと...どうしたの?」
「あ、いや、何でもない。それと、この子が俺のサーヴァント、静謐のハサンだよ」
「よろしくお願いします」
ペコリと会釈する静謐ちゃん。
ちなみに、今は当初付けていた骸骨の仮面は外している。
なんだろうか、英霊は美男美女だという前提条件でもあるのだろうか?そんな疑問を持つには十分な程に、みんな容姿が整っている。
静謐ちゃん、ジャンヌ、マリー、マシュ、ジークフリート...etc。
まあ、マシュはデミ・サーヴァントらしいが。
「...ああ、どうしましょう。安珍様が2人も...」
先程から近くでそんな事を呟いている少女がいるが、こっちは気にするなと藤丸さんに言われたので敢えて無視。
『これで十分な戦力が揃ったね』
「そうですね。マスター」
「よし、オルレアンを攻めよう」
「ふん、そういう事なら手伝って上げてもいいわよ、子リス」
「あら、エリザベート。わたくしの
「...アンタ今とんでもない変換しなかった?ま、まあいいけど」
エリザベートというドラゴン娘も加わり、もうカオス以外の何物でも無くなったこの場をしきる藤丸さんは本当にすごいと思う。コミュニティのリーダーの1人として、そういう所は素直に見習いたい。
* * * *
「今夜は明日の決戦に備えて、ここで野営をとりましょう。その前に周囲の安全を確保しないといけませんね。皆さん、戦闘の準備を。囲まれています」
日も落ちた森の中、ジャンヌがそう提案した。
が、まあ問題は無い。
「敵の排除、終了しました、マスター」
「ん、ありがと」
「へ?」
敵に囲まれている事などは既に気づいていた。なので、アサシンの英霊である静謐ちゃんに、敵の闇討ちを頼んでおいたのだ。
闇の中から現れた静謐ちゃんは再び骸骨仮面付けている。何でも、戦闘中や隠密行動時は仮面を付ける事で集中力が上がるとか何とか。それ以外では仮面を外しているのを考えると、スイッチ的な役割を果たしているのだろうか?
気の抜けたような声を上げるジャンヌを横目に、一仕事終えてきた静謐ちゃんの頭を撫でる。
人に触れる事や触れられる事があまり無かった、というか、自身の体が猛毒そのものなので自分からそういう事を避けていた静謐ちゃんは、人と接触出来ることが嬉しいようで、こうして撫でてあげると気持ち良さそうに目を細めるのだ。かわいい(確信)。
「さてと。じゃ、藤丸さんは先に寝てて良いよ。俺ら見回りに行ってくるから」
「え?それはさすがに悪いっていうか...」
「大丈夫だよ、気にすんな。俺ももう少ししたら寝るからさ」
手をヒラヒラと振り、静謐ちゃんを連れてこの場を去る。
しばらく森の中を歩き、目に付いた敵を駆除していく。
あらかた駆除し終えたのでベースキャンプ場まで戻ると、藤丸さんはそれはそれは気持ち良さそうに寝息を立てていた。
きっと疲れが溜まっていたのだろう。そう思い、起きた時に驚くよう、わざと隣で横になることにした。所謂添い寝である。
羞恥心?むしろ俺くらいの年頃でこういうシチュを逃すとでも?
藤丸さんは紛う事無き美少女。役得だと思い、彼女の隣に陣取る。
ちなみに、藤丸さんの隣には清姫、俺の藤丸さんとは反対側には静謐ちゃんが添い寝してたりするのだが、それも含め役得である。
まあ、さすがにこんな夜中の森で寝ていられる程警戒を解いた訳では無いので目は覚ましているが。静謐ちゃんは寝ちゃったけど。
ジークフリート達男性陣は見回りに出ており、残っているのは女性陣と俺のみという、軽いハーレム状態を楽しみつつジャンヌやマリーと話しながら、夜が開けるのを待つのだった。
エリザベートが「肉が食べたりないわ!」などと言って森に出ていってしまい、それをジークフリートと俺で迎えに行ったのはまた別のお話。
* * * *
「やあ、おはよう。いい朝だね」
俺はキメ顔でそう言った。そう、藤丸さんの隣で。朝チュンシチュで。
「へ...?え、えっとぉ...え?」
困惑する藤丸さん。まあ、朝起きたら昨日出会ったばかりの男が朝チュン的シチュで隣にいたら普通驚くよな。むしろ叫ばないだけマシと言える。
俺は叫んで錯乱する方を期待していたのだが、まあこちらも面白いのでOKだ。
「おはようございます、先輩。昨晩は良く眠れましたか?」
「へ?あ、ああ、マシュ...。うん、ぐっすりだったんだけどね?今のこの状況に理解が追いついてないっていうか...。昨日の夜、私何かしたっけ...?」
「いえ、特には。先輩はとても気持ち良さそうに眠っていらっしゃいました」
「そ、そっかー...」
クククッ、と、とうとう笑いが堪え切れずに漏れてしまう。
藤丸さんは更に不思議そうにしていたが、どうせマシュがちゃんと説明してくれるだろうし、このままにしておこう。
俺は隣で寝ていた静謐ちゃんを起こし、決戦の準備を粛々と始めた。
途中で事の顛末を知った藤丸さんが何か言ってきたがスルー。
清姫は「わたくしの安珍様に添い寝なんて...。いやでもあの方も安珍様なのだしむしろ2人に挟まれて...」などとぶつくさ言っているがこちらも安定のスルー。安珍なんて人知らないし是非もないよネ!
さて、いよいよ決戦の開幕だ。気合い入れて頑張って行こうか!
はい、自己満ですねすいません。
でも後悔はしていないッ...!
感想等、ありましたらよろしくお願いします。