「すいませんっっしたぁぁぁぁ!!!!!」
全力全開の土下座。
まさかあれだけ偉そうに魔王と名乗っておきながら土下座なんぞをするとは微塵も思っていなかったのだが、この状況下ではそうするしかなかった。
黒甲冑、改めランスロットを倒した後、暫く歩いて廃棄された砦まで行き、彼女らが現在置かれている状況、即ち人理焼却という事実と、それを打破する為に動いているカルデアという組織についての説明を受けて先程の俺の行動を振り返ってみると、俺はなんて事をしていたんだと心の底から思う。
危うく人理焼却の片棒を担ぐところだった...。
「いいよ、そんな土下座までしなくて!こっちも全員無事だったし、ジャンヌを助けようとした結果だったんでしょ?」
そんな寛大な対応を見せてくれたのは、人類最後のマスターである藤丸立香さん。
「それはそうだけど...、君たちを殺そうとしてた事には変わりないし...」
「倒そうとしてたのはこちらも同じでしたし、ここはおあいこという形でどうでしょうか?」
そう言ってくれたのは藤丸さんのサーヴァント、正確にはデミ・サーヴァント、であるマシュ・キリエライト。
他にも、先程の金髪旗持ち少女、改めジャンヌ・ダルク。
魔力弾を打ってきていた2人の内の1人であるマリー・アントワネット。
ほぼ瀕死状態のジークフリート。
この3人も気にしていないと言ってくれている。
もう1人のアマデウス・モーツァルトは特に何も言わないのだが、敵視している感じは無いので気にしてはいないのだろう。
なんとも優しい人達だ。
それからもう1度謝罪をし、お礼もしてから今後の話に移る。
俺も妨害した罪滅ぼしとして作戦に参加する事にした。
その後色々と話していたが、内容を整理するとこうだ。
1、ジークフリートの呪いを解くために聖人を見つけ出す。
2、“竜の魔女”ジャンヌ・ダルクとその仲間を見つけたら可能な限り打倒。
3、アマデウスはマリーの事を愛している。プロポーズ済。
という上記の3つ。
俺達はまず1つ目の目的を果たす為に、このフランス領を二手に別れて虱潰しに聖人を探すらしい。
グループ分けはマリーの提案によりくじ引きで行われ、Aチームが藤丸さん、マシュ、アマデウス、ジークフリートの4人。
Bチームは俺、ジャンヌ、マリーの3人だ。
俺たちは早速別れて聖人捜索を開始した。
別れる前、アマデウスから、マリアには手を出すなよ的な事を言われたのだが、テキトーに聞き流した。
* * * *
「ねえ、魔王さん?さっきの雷はどうやって出してたのかしら?貴方、サーヴァントではないのでしょう?」
グループごとに別れて捜索を開始してから数分。
マリーが俺にそう尋ねてきた。
その目はまるで純粋な子どものようだ。
ジャンヌもこちらを見てくるあたり、気にはなっていたのだろう。
「ああ、あれは権能だよ。神殺しを成し遂げた副産物的なもの」
「神、殺し!?神を...、主を殺した、と言うのですか!?」
ジャンヌが信じられないものを見るような目でこちらを見てきて、さらに詰め寄って来る。
ジャンヌ・ダルクと言えば、かの有名な“聖処女”。神の声を聞いて戦場に向かったという英雄である。
神の声が直接聞こえるレベルの信仰者には、その“神”を殺す、というのはやはり信じられないのだろうか?
「お、落ち着けって。神って言ってもアレだぞ?“まつろわぬ神”だ。人間に危害を加える系の神様」
そう説明して納得させるまでに軽く10分はかかったのはまた別のお話。
「まあ!とても楽しそうな旅をしてきたのね!羨ましいわ!」
「まあな。そんなことよりさ、英霊って他にも沢山いるんだろ?
今ここで呼んだり出来ないの?」
一通り説明を終えて、ジャンヌがなんとか落ち着いた後、英霊というものに興味を引かれた俺はそう質問した。
「まあ、出来ない事はないと思いますよ?やってみますか?」
「やるやるぅ!」
無駄にテンションを上げていくスタイル。
ジャンヌは俺の願いを快く受け入れてくれ、何やら地面に魔法陣を描いていく。
ほんまええ人や。
1分もしないうちに魔法陣は描きあげられた。
それから英霊召喚に必要な呪文的なものを教えられ、俺は人生初の英霊召喚を始める。
聖遺物とかは無いので誰かを狙うことは出来ないが、特に狙う英霊もいないので問題ない。
まあ、これで聖人のサーヴァントが来たら今行っている聖人捜索も終わるのだが、それはそれ。
「それでは、魔力を込めて詠唱を始めてください」
「おう!
―――素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出て、王国に至る三叉路は循環せよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる時を破却する。
―――
告げる。
汝の身は我が元に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世全ての善と成る者。
我は常世全ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
魔力を注ぎ、詠唱を完了させる。
すると、魔法陣が眩く光りだし、辺りがその光に包まれていく。
魔法陣の発光し始めてから少しすると、その光が収まって行き、魔法陣の上に1人の女の子が立っているのが俺の目に入った。
「サーヴァント、アサシン。静謐のハサン。
私は貴方に仕えます。すべて、すべて、
骸骨の仮面らしきものを付けた紫髪の女の子。
それが俺の呼びかけに応えてくれた、俺の初めてのサーヴァント。
アサシン、とはクラス名だろう。
基本、サーヴァントは真名を人に教えないらしいのだが、ジャンヌ達も既に名乗っているので、今はあまり関係がないのかもしれない。
「良かった。成功ですよ、凌太さん」
ジャンヌが笑顔で俺に言ってきてくれる。見れば、マリーも笑っている。
お前らアリアンナさんかよかわいいな。
「ああ。よろしく、静謐のハサン。
長いから静謐ちゃんでいいかな?」
そう言い、無駄にテンションの上がっていた俺は無神経にも静謐ちゃんの頭を撫でてしまった。
別に下心があったとかではなく、単純に頭が撫でたくなったというかなんというか。
まあそれがいけなかったのだろう。
静謐ちゃんはバッと俺の手から逃れてしまった。
...いや、そんなにダメだった?
「...?なんとも、無いんですか?私に、触れたのに...?」
「え、別に何ともないけど...?」
その場に居た全員が困惑する。
触れても何ともないのか、とかどんな質問だよ。
まるで自分の体が毒か何かみたいに言うんだな。
「私の体は毒の体。肌も、粘膜も、体液に至るまで猛毒そのもの。
肌の接触では即死こそしないものの、それなりに毒が回るはず何ですけど...」
...マジで毒だったー。
いやまあ英霊とかいうくらいだからそういう人がいてもおかしくないよな、うん。
「毒が効かない、ねぇ。アレじゃね?俺の体ってもう普通の人間とは違うらしいし、毒に対する耐性が付いてるとか、そんな感じ」
「人間とは、違う...?」
「まあ、色々あってね。歩きながら話そうか。
ジャンヌありがとう。お陰で戦力が増えたよ」
「いえ、どういたしまして。では行きましょうか」
「ねぇ魔王さん?わたしも魔王さんの話をもっと聞きたいわ!いいでしょう?」
再び聖人捜索を開始し、歩きながら静謐ちゃんとマリーに箱庭での出来事と、その後の神との戦いについて話す。
話の途中、静謐ちゃんとジャンヌは時たま驚き、マリーは終始はしゃいでいた。
* * * *
あれから暫く歩いていると、前方に街が見えてきた。
それと同時に、マシュから連絡が入る。
どうやら、あの街にゲオルギウスという聖人がいるらしい。
そうと分かれば善は急げだということで、俺達は街へと向かって行った。
「そちらで止まってください。何者ですか?」
街の入口付近に辿り着くと、鎧を着た男性がそう声をかけてきた。
ジャンヌ達と同じ雰囲気、即ち英霊の雰囲気を漂わせていることから、おそらくこの男性が聖人ゲオルギオスだろう。
「わたしはサーヴァント、クラスはライダー。真名をマリー・アントワネットと申します」
「俺は、まあマスターってとこかな?坂元凌太だ。で、こっちが俺の契約サーヴァント」
「アサシン、静謐のハサンです」
ジャンヌ以外が自己紹介をする。
ジャンヌは“竜の魔女”がいるからか、自ら名を言わなかった。
「...なるほど。狂化されてはいないようですね」
「ええ、彼らと戦う側です。それからこちらが―――」
「なるほど、かの聖女ですか。...名は伏せておいた方が良さそうですね。この街も“竜の魔女”に襲われました。1度は私がなんとか退散させましたが、次は不可能でしょう」
「...では、私達と共に来てくれませんか?仲間の“竜殺し”の呪いを解かないといけないのです。ですが、複数の呪いが入り混じっている為、私と貴方が揃っていなければ...」
「...なるほど。事情は理解しました。街の人間の避難が終わり次第出発しましょう」
「ありがとうございます!」
俺達の要求を引き受けてくれたゲオルギウスもマジええ人や。
...まあ、こんな時にトラブル発生とかお約束だよね。
「Graaaaaaaa!!!!」
響く咆哮。
この声はワイバーンか?いやでも、ワイバーンとは別の気配を感じるような...。
「この所、ワイバーンの襲撃が多いですね...」
「いえ、この感じは...、“竜の魔女”ッ...!」
「何ですと!」
これが“竜の魔女”や邪竜の気配。確かに威圧感はあるな。
まあ、俺が今まで戦ってきた奴らが奴らなので恐怖とかは無いが。
「撤退しましょう!今の私達では太刀打ち出来ません!」
ジャンヌが焦ったようにそう言うが、そこまでか?
みんなでかかればなんとかなりそうだぞ。なんなら俺だけでもいいまである。
聖人2人が盛り上がっている中、俺は静謐ちゃんに耳打ちする。
「なあ、俺が1人で足止めするって言ったら怒られるかな?」
「はい、私が怒ります」
「えー...」
「私は貴方のサーヴァント。貴方がどれだけ強くても、1人で敵陣に送ることは出来ません」
「えっと、じゃあ静謐ちゃんと2人で足止めするって言ったら?」
「マスターに従います」
「っ!」
即答だった。
なんかこう、こういう対応は困るというか嬉しいというかなんというか...。
なんとも言い表せない気持ちを胸に、ゲオルギウスが残るとか街の人がどうとか話しているジャンヌ達に提案しようと1歩前に出る。
しかし、俺が言う前にマリーが先に発言した。
「ゲオルギウスさまったら、頭も体も、おひげもお硬い殿方ですのね。
でも、そんなところがたいへんキュートです。わたし、感動してしまったみたい。
ですので、―――その役目、わたしにお譲り下さいな」
「え...?」
ジャンヌが信じられないといった風にマリーを見る。
確かにマリーだけじゃ厳しいだろうな。
「俺と静謐ちゃんも残るぜ。足止めだけなら十分な戦力だ」
「まあ、魔王さん達も残るの?それは心強いわ」
「よっし、じゃあ俺はあの竜の群れの相手な。マリーと静謐ちゃんはサーヴァント頼むわ」
「了解しました」
「ええ、分かったわ」
「んじゃ、ジャンヌとゲオルギウスはサクッとジークの呪い解いてきてくれ。後で追いつくから待っててね」
「ちょ、待ってください!」
「待ちませーん。適材適所ってやつだよジャンヌ。大丈夫、誰も死なせねえよ。マリーに至ってはアマデウスに任されてるし。ゲオルギウスもそれでいいよな?」
「貴方達がそれでいいのならば。私はこの役目を伏してお譲りしましょう」
「...マリー...。待ってますから!」
「ええ、すぐに追いつくわ」
「凌太さんと静謐さんも、どうかご無事で!」
「任せろ」
「はい、ありがとうございます」
とまあこんな感じに話はまとまり、ジャンヌとゲオルギウスがこの場を離れて行く。
「じゃ、あの男は頼んだぜ、2人共。俺も竜を倒し次第加勢に来るから」
「お任せ下さい、マスター」
「ええ、こちらは任せてちょうだい。それに、彼とは少しお話もあるの」
そう言って、こちらに向かっていた男のサーヴァントの方に向き直るマリー。
まあ、1対2だし大丈夫だろう。
「無理はするなよ。危なくなったらすぐに逃げるか俺を呼べ」
そう言い残し、俺は竜の群れに突っ込んで行った。
槍を出し、4頭のワイバーンと5体のゾンビらしきものを屠っていく。
“竜の魔女”はまだこの場に着いていないが、こちらに向かっているのは気配で分かる。
「さあ、早く来い“竜の魔女”。藤丸さん達には悪いかもしれないが、別にここで敵の大本を叩いても構わんのだろう?」
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