オルレアン
今回も長い暗闇の中の航海だ。
例の如く、体の自由は効くが、進行方向などは変更出来ないと言った感じだ。
まあ、下手に動いて変な世界に出るとかなっても嫌なので大人しく流されているのだが。
しばらく流されていると、前回同様、進行方向から光が差してくる。
「さて、次の世界では周りに敵視されないといいんだが...」
そう願いながら、俺は光の中へと吸い込まれていった。
* * * *
光を抜けたその先は、広大な草原だった。
“???”を発動したときに顕現したあの草原のような場所に出て、あたりを見渡す。
「今度は何処だよここ。なんか空に竜が飛んでるし...。まあ、異世界だよなあ...」
そう、今まさに蒼天の空には、何頭もの竜が飛び交っているのだ。
見た感じ、ワイバーンと言ったところだろうか?
とりあえず、龍王、とかそんなのじゃ無さそうなので一応安心するが、それでも相手の戦闘能力は不明だ。
だがまあ、襲っては来ないので無視してても大丈夫だろう。
再度周囲を見渡してみる。
すると、遠くの方でワイバーンが群れをなしている場所を見つけた。
さらに、そこには複数人の人影。
もしかしなくても襲われてんじゃね?
そう思い、様子見も兼ねてそこに近付いて行く。
すると案の定、兵隊のような団体と、デカイ旗を持った女の子がワイバーンと交戦中だった。
いや、実際に戦っているのはあの女の子だけか。
兵隊達は何かしら言いながら見ているだけだ。
そして、旗を持った女の子と、棺桶を背負った女性が対峙しているのも見て取れた。
旗を持った方の女の子は結構ギリギリな感じだ。
これは、一応助けに入った方がいいのかな?
うん、そうだな。見捨てるのは後味悪いし。
そう思い、俺はワイバーンの群れへと喧嘩を売ることにしたのだった。
「我は雷、故に神なり」
聖句を口にして紫電を纏う。
「ひこうタイプにはでんきタイプの技が効くって、昔から相場が決まってんだよ!“
拳に纏った雷を、右ストレートにのせてワイバーンへと飛ばす。
これぞまさに雷の大砲ってな。
女の子に襲いかかっていた数頭のワイバーンを消し炭に変える。
竜も案外脆いようで助かった。
「っ!今のは!?」
女の子が驚嘆の声を上げてこちらを見てくる。兵隊達や棺桶背負った女性も、突然放たれた雷に驚きこちらを見てきた。
ヤダ恥ずかしい。
まあ、軽く自己紹介くらいはしとくか。
「魔王・坂元凌太。ただ今より、そこの金髪の旗持ち少女の助太刀をする!」
堂々と、かつ紫電を散らしながら名乗りを上げる。
第一印象は大事だからな。
「ま、魔王...?」
「おうよ!」
誰かの呟きにサムズアップで応答する。
そこで、再度雷を腕に纏わせて“
雷撃を喰らったワイバーンは黒焦げになって墜落していった。
やはりひこうタイプにはでんき技だな。
他にも数頭を焦がしながら金髪旗持ち少女に近付いて行く。
「助っ人とーじょー!ってな。とりあえず、襲われてるっぽいから助太刀するぜ?君はあの棺桶背負ってる方頼むわ。俺ワイバーンの方殺るから」
「は、はあ...?えっと、貴方は一体...?」
困惑顔を向けてくる少女。
まあ、当たり前か?素性の分からん奴がいきなり味方してくるんだもんな。
「詳しい話はこの状況を打破してからな。じゃ、頼んだぜ!」
「あ、ちょっ!」
少女の声を無視してワイバーンの群れに突っ込んでいく。
紫電を振り撒き散らし、片っ端からワイバーンを焦がす。
「ワハハハ!ワイバーン狩りじゃあ!!死にたい奴から前に出な!」
もう悪役そのままである。
そんな自覚はあるが、こういう性分なのだからしょうがない。
土台、俺が正義の味方風に振る舞う事など無理なのだ。
10分もしない内に、30はいたワイバーンは全滅し、地へと伏した。
それらの中には、完全に黒焦げになったものや、いい感じに焼けているものもいる。
...ワイバーンって美味いのかな...?
ま、検証は後だな。
見ると棺桶の女性が撤退を始めているところだった。
別の場所に仲間が2人ほど居たようで、そいつらと共に逃げようとしている。
しかし、その仲間の内、黒甲冑を着た奴が奇声を上げながら金髪少女の方にダッシュしてきた。
何あれ怖い。
「Arrrrrrrrrthurrrrrrrrr!!!」
「っ!」
金髪少女が黒甲冑とせめぎ合う。
その間に棺桶女性ともう1人の男はワイバーンに乗って退去していった。
てかまだ居たのかよワイバーン。全滅させたと思ってたのに。
そんな事を考えながら、少女の援護に向かおうとする。
すると、ワイバーンが飛び去った方向から数人の人影がこちらに向かってきているのが目に入った。
ありゃ増援っぽいな。
金髪少女の方は黒甲冑と互角に戦えてるし、先にあっちをやっとくか。
そう思い、こちらに駆けてくる奴らへと雷撃を飛ばす。
しかし、その雷撃は盾を持った少女によって防がれてしまった。
「盾役がいるのか。面倒だな」
とりあえず再度雷砲を放つが、先程と同じく防がれた。
もう1発放とうとしたところで、あちらから魔力弾のような攻撃が飛んできた。
俺はそれを難なく弾き飛ばすが、その隙に相手の接近を許してしまう。
「やあァァァ!」
というかけ声を伴い、先程俺の攻撃を防いだ盾の少女がその盾を俺に振り下ろしてきた。
おいちょっと待てその盾の使い方正しいんか!?
まあ、接近されたところでこの程度の攻撃なら問題ない。
魔力弾と同じく、振り下ろされる攻撃を難なく捌き、受け流しの容量で盾少女を投げる。
「マシュ!」
オレンジ髪の少女が叫び、それに応えるように盾少女が立ち上がる。
なんだその青春。
盾少女達に気を取られていると、横から魔力弾が飛んできた。
威力的にはそこまで高く無いが如何せん数が多いし、盾少女の守りも思った以上に硬いのでなかなか攻めきれない。
「邪悪なる竜は失墜し、世界は今、洛陽に至る。撃ち落とす―――『
突如として放たれた巨大な暴力の渦。
そうとしか言い表し様のない力の波動が俺に襲いかかる。
「な!?おい待てよそりゃねえだろ!」
不意打ちによる特大攻撃。よく考えれば、それは俺がモルペウスにやった事なのだが、そんな事は棚上げしてこの攻撃を放った誰かに文句を言う。
気付けば、先程まで近くに居た盾少女は撤退しており、攻撃の延長線上には俺しかいない。
「くっそがあああああ!!!」
ヤケクソ気味に雷の防御璧を展開する。
二重三重と壁を重ねて攻撃の威力を削っていくが、完全に防ぐ事は叶わない。
削り切れなかった分が俺を呑み込んでいった。
「っ〜!ぷはぁ!あ〜、効いた...。まあでも、思ったほどじゃなかったな。雷神の雷の方がキツかった」
立ち込めていた土埃が晴れ、俺の姿が顕になる。
服こそ所々破けてはいるものの、目立った外傷はない。
「っ!そんな!あのファブニールを退けた攻撃を受けて無傷だなんて...!」
相手陣営は驚きを隠せずにいるようなので、追い討ちとして、次はこちらが特大のを放つことにした。
「お返しだ、しっかり味わえよッ!“
ワイバーンを屠った時よりも大量の雷をのせて相手方に放つ。
単純な威力なら、先程俺を呑み込んだ攻撃よりも高いだろう。
「っ!マシュ!宝具展開急いで!」
「はいっ!宝具、展開します!」
盾少女、改めマシュが自身の盾を地面に突き立て、俺の雷砲を防ぐ。
くっそ、結構本気で打ったんだけどな。
双方の攻撃が防がれた事から、無言の睨み合いが始まった。
こっちから攻撃に転じてもあの盾に防がれる。
かと言って、相手の攻撃は俺に通じない。
そのまま無言の時間が流れる。
「Aruuuuuuuuuuuu!!!!!」
そろそろ動こうかと思った矢先、黒甲冑の雄叫びが響き渡った。
見れば、旗持ち少女が黒甲冑に押されている。
「ちっ!」
俺は舌打ちと共に旗持ち少女の方へ駆け、黒甲冑に横から飛び膝蹴りを喰らわせる。もちろん、足に雷を纏いながら。
主に雷の威力で黒甲冑が吹き飛んでいく。
「っと。大丈夫か?」
「え、ええ。ありがとうございます」
律儀にもペコリと頭を下げてくる旗持ち少女。
すると、吹き飛んだ黒甲冑が雄叫びと共に再度突進してくる。
「Arrrrrrthurrrrr!!!!」
「なんだアレ。完全に暴走してんじゃねえかよ」
雷砲を放ち、黒甲冑の突進を止めようとする。
しかし、黒甲冑は止まることをせず、自ら雷に突っ込んできた。
「Aruuuuuuu!!!!」
雷に呑み込まれてなお衰えを見せない黒甲冑の突進に、少なからずの驚きを覚える。
しかし、驚いてそこで終わる、なんて愚行は決して犯さない。
続いて3発の雷砲を黒甲冑目掛けて放ち、なおかつ“雷槍の霧雨”の準備を始める。
あの技は雷槍を作る為の魔力を練るのに時間がかかるのがネックだ。
さすがの黒甲冑も、3発の雷砲をまともに喰らうと少しはダメージが入ったようで、多少スピードが緩んだ。
しかし、微妙に“雷槍の霧雨”の発動に必要な魔力が十分でない。
このままじゃ間に合わないか?と思ったところで、マシュ達が一斉に黒甲冑へ攻撃を加えていく。
...え?お前らその黒甲冑の仲間じゃねえの?
「Ar...thur...」
そう言い遺し、黒甲冑は消えた。
...そう、消えた。死んだとかじゃなく、消えた。
こう、スーっと、光の粒みたいなものになって消えたのだ。
...もう意味が分からん。
結局分からず終いのまま、旗持ち少女に連れられてその場を離れる事になった。先程戦ったマシュ達も一緒に。
...正直、気まずいです...。
43連で武蔵ちゃん狙ったんですけど、来たのはランスロット(剣)、メドゥーサ・リリィでした。
...いや、十分嬉しいんだけど、君たちじゃないんだ...。
特にランスロット(剣)の時、俺がどんだけ期待したと...!
あ、感想等よろしくです。