今年もどうぞよろしくお願いします!
モルペウスと戦った翌日。
俺の予想通り、昨日の破壊跡は朝刊の一面を飾った。カラーで。それはもう大々的に。
朝からその話題がよく耳に入るのだが、そんなの知らん。アレは事故だ、俺は悪くない。悪くないったら悪くない。
だからそこらの人が被害総額の話とかしてても気にしない。ウン千万とか聞こえてもぜっんぜん気にならないんだからね!
俺は現在、“赤銅黒十字”本拠へとお呼ばれしたのでそちらへ向かっている。
まあどうせろくな事が無いんだろうけど、アリアンナさんからの電話だったので素直に出向くことにした。
俺は今のところ、この世界で出会った人の中ではアリアンナさんと護堂に対してだけ素直に接するようにしている。だってあの人達マジでいい人達だし。アリアンナさんに至ってはこの世界唯一の癒しだし。いっその事、護堂とアリアンナさんには“ファミリア”に入ってもらいたいまである。
まあそんなことをすればあの紅き悪魔達が黙っていなさそうなのでしないが。
そんな事を考えている間に“赤銅黒十字”の正面に辿り着いた。
さて、どうするか...。
このまま無言で侵入しようものなら確実に不審者扱い。既に地に落ちている信頼度的な何かは地面を抉って更に下がるだろう。
かと言ってインターホン等は見受けられない。
このままここで誰か来るのを待つしかねえかなー。
...暇。
「あ、もういらしてたんですね!おはようございます!」
「はいかわいー」
「?どうかしたんですか?」
「あ、なんでもないでーす。ちょっと本音が漏れたと言うか何と言うか...」
「??」
屋敷の中から出てきたアリアンナさんの不意打ちの笑顔につい本音が漏れる。
困り顔ですらも可愛いなこの人は。ああ、癒しだ。
この世界での癒しは大事だよ?神様と戦って護堂取り巻き女性陣の敵対的視線に耐えて多大な被害総額から目を逸らして...。というハードスケジュールなんだから。
「まあ、今のは忘れてください。それで?今日の要件は何ですか?」
「あ、はい!昨日の件について、エリカ様達が話があるそうです!」
あー、やっぱりそれかー。
別にいいのにな、そんな話は。前回みたいに護堂が全部やりましたー、でいいじゃん。
...いや、今回は流石に被害がデカすぎるか。
早々に諦めが出てきた。
その後、アリアンナさんの案内の元、とある応接室に通された。
中には護堂とエリカ、リリアナ、万里谷が座っている。
アリアンナさんがお茶を淹れてきてくれて部屋を出ていった後、エリカが厳しい声色で俺に話しかけてくる。
「それじゃあ早速だけれど、昨日の不始末の経緯を教えてもらえるかしら?」
これまたやけに高圧的だなこの女郎。不正規とはいえ、俺も一応お前らの言うところの魔王なんだけど?
「いや、経緯も何も、全部見てたんだろ?そのまんまだよ。というか挨拶ないし会釈くらいしたらどうなんだ?」
「いいから質問に答えなさい。私達が退去した後、何をどうしたら平和な漁港が焦土と化すのかしら」
「平和なて...。神様が現れた時点で平和じゃねえだろうよ。いやまあやり過ぎたかなとは思わなくはないけれども。まあその件はすまなかったな、護堂」
「いや、俺は構わないんだが...」
「それではダメよ、護堂。この男には1度キツく言っておかないと」
ねえ、この扱い本当に何なの?怒るよ?俺にも限界はあるんだからね?
「それで?昨日は何であんな事をしたのかしら?」
「何でって、そりゃモルペウス倒す為だろうよ」
「それにしても、あんな過剰攻撃をする必要があったの?そもそも、あの場には護堂や私達が居たのよ?素直に私達に任せておけばあそこまで悲惨な被害は出なかったわ」
「いや、俺でもあのくらいはしたかも」
「護堂は黙ってて」
...イラァっと来ましたよ今のは。
何なんだコイツ。丸焦げにしてくれようか。
他の2人は微妙な顔をしているあたり、護堂でも多大な被害は出ていたのだろう。
それなのにこの女ときたら...。
「さあ、早急に、私達が納得出来うる説明を」
「うるせえな」
「!!」
少し、とは言えない程の殺気を込めて言葉を口にする。
護堂を含めた4人が警戒態勢に入るが、知ったこっちゃない。
確かに昨日はやり過ぎたかもしれない。金銭面での補助も受けた。それでも、この苛立ちは抑えきれなかった。
俺だって若干15歳の子供なもんでね。まだ自分の感情を上手く制御出来ない部分もあるんだよ。
「俺が今まで少なからず下手に出ていたのは護堂やアリアンナさんがいい人だったからだ。決してお前らに気を許しての行動じゃない。勘違いしてんじゃねえぞ?
何でそんなに俺を敵視してんのかは知らねえが、喧嘩売ってんなら高値で買ってやるよド畜生が」
ありったけの殺意と凄みを効かせて言葉を紡ぐ。
護堂は難なく耐えているようだが、他の3人は違った。
恐怖に顔を歪ませ、地面に膝を着いている。
「ッ!王よ、どうか怒りをお鎮め下さい。エリカの無礼はどのような手段を使ってでも償います。ですので、どうか命だけは...!」
恐怖に震えながらも、リリアナが決死の表情で俺にそう行ってくる。
...ふむ、エリカ以外の奴は今日はあまり敵意の篭った視線や態度を向けてはいないし、ここらで解放してやるか。
そう思い、殺意を収める。
すると、3人は呼吸をすることを思い出したかのように息も絶え絶えにこちらを見てくる。
しかし、そこに敵意などは感じられず、ただただ畏怖の念だけがあった。
「...すまないな護堂、つい頭にきてやっちまった。後悔はしてない。殴るなら今のうちだぞ」
「いや、今のはこっちも言い過ぎた。俺の方こそすまない。エリカが失礼な事を言ってしまって。でも、今後は殺意はやめて欲しい。実際に殺す、なんてことはなおらさらな」
「...ああ、分かってる」
ここでエリカを殺してしまうのは簡単だが、護堂の手前そんなことをする訳にもいかない。それに、人を殺すのは後味も悪いだろうしな。
「...この話はここまででいいか?
被害総額を払えと言うのなら、今後ローンで返せるようにする」
「いや、金なら心配しなくていい。こっちで処理する。というか、表向きは俺がやった事になってるからな」
笑いながらそう言ってくれる護堂には感謝しかない。
...こんな事でキレてるようじゃ、トップに立つ人間としてダメなんだろうな。
「ありがとう、護堂。心から感謝する」
「いいっていいって!」
結局この場はこれで話が終わり、エリカ達の俺に対する感情が敵意から畏怖に変わっただけで、今日は解散になったのだった。
* * * *
その後、何事も無く2日という時間が流れた。
この2日は特に何をするでも無く、ふらっと出歩いて夜になったらホテルに帰ってきて、風呂入って飯食って寝るだけだったが、気持ちを落ち着かせるには十分な時間だった。
今日も風呂から上がって一息ついていると、俺のスマホから着信音が響いてきた。
急いで電話に出てみると、相手は爺さんだった。
『もっしもーし!ワシよ、ワシワシ!』
「アンタはちったァまともに電話くらい出来んのか!」
『無理だな。キリッ』
「堂々と否定すんなあと擬音を自分の口で言うな」
『はあ...。全く、お前は本当に注文が多いな』
「おい、何呆れてやがる。呆れるのはこっちだと思うんだが?」
『まあそんな事はどうでもいい。次の行き先が決まったぞ』
「行き先?ああ、次行く異世界の事な。てかそれどうやって決めてんの?」
『箱庭以外はクジ引き』
「マジでか!」
『ウッソ〜!引っかかってやんの〜ww』
「ようし戦争だ。首洗って待ってやがれよクソジジイ!」
『ハッハッハ!ご生憎様、こっちは現在進行形で戦争中だよ。今回はヴォルグとワシの2人がかりで4層の大コミュニティと正面からやり合ってる』
「ねえ、何でリーダーが居ないのにそんな好き勝手やってんの?」
『神だから?』
「...ああ、なんか納得いったわ」
『うむ、理解が早いのはいい事だぞ?
っと、準備終了だ。今回ワシは忙しいからその場からお前を送るぞ?』
「あ〜、はいはい。あ、そうだ。質問いいか?」
『ダメ、嘘、いいぞ』
「それ1回十六夜がやったからもういいよ...。
あ、それでな?この世界って今後はもう来れねえのか?」
『いや、行こうと思えば行けないこともないぞ?その世界を登録しとけば、好きな時に行く事も可能だ』
「マジ?だったら登録頼むわ。まだお世話になった人達に恩義を返せてないし」
『ん、分かった。じゃあ登録しとくぞ。
それじゃ、新世界に行ってこい、若人よ。そのうち、このワシを超えることを期待してるぞ?』
その言葉とほぼ同時に、俺の足元に魔法陣が構成されて眩く輝き出す。
「おうよ。それに、俺はどの道アンタを殴り飛ばすって決めてるからな。言われなくても強くなって見せるぜ」
そう言って、俺は再びあの暗闇へと放り込まれた。
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