問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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我は雷、故に神なり

 

 

 

 

 

“赤銅黒十字”を追い出されてから3日が経った。

俺は今のところ何の不自由も無く過ごせている。

昨日は1日かけてローマを観光してきたのだが、コロッセオが壊れていたのには驚いたよ。

最初は、言語が通じないのでは?という不安もあったのだが、カンピオーネになってからは不思議と外国語がすんなり理解出来るようになったので、その不安は杞憂に終わった。

 

現在の時刻は午前12時を回ったところで、ボチボチと昼食を取る人の姿が見え始める頃だ。

かく言う俺も、手頃なレストランに入って本場のピザに舌鼓を打っている。めちゃウメェ。

ピザを完食した後、しばらく珈琲を飲んでくつろぐ。

さて、これからどうするか...。

観てみたい名所などはほぼ行き尽くしてしまい、今日これからの予定が完全に空白となってしまったのだ。

 

「どっか、人のいないところに行くかなあ...」

 

誰もいない広場とかならなお良し。

何故かと言うと、権能を試してみたいからである。

何となくではあるが、使い方は頭の中に浮かび上がってきている。しかし、知っている、と、出来る、というのはやはり違うので、実践練習がしたいのだ。

ちなみに、“???”の方は全くと言っていい程に再発動の兆しを見せていない。

この前使った時はほとんど無意識下での発動だったし、頭もボーっとしていた為、発動の仕方すら分からない有様だ。

 

「海...は誰かが感電しそうで怖いし、山は山火事になる可能性が...」

 

そうなると、残り候補は無人島の浜辺とかか?

などと考えていると、どこからかは分からないが強い気配を感じた。

この感じ、最近感じたことあるような...

 

「おいアンタ!そこの日本人のアンタだよ!避難勧告が出た!アンタも早く逃げな!」

 

大声で俺に話しかけてきた人物はこの店の店主であるゴツイおっちゃんだ。

おっちゃんはそう言うと、慌てた様子で店仕舞いを済ませてどこかへと走って行ってしまった。

 

「避難勧告って、どこに避難すればいいんだよ...。

ん?避難勧告?」

 

この単語、最近どっかで聞いたような...。

ああ、そうだ。確かこの前、護堂達が雷神を相手にする時に出したとか言ってたな。

てことはアレか。

今感じてるこの気配は神様的なアレなのか。

......良し行こうすぐ行こう今すぐ行こう!

思い立ったが吉日と言わんばかりに、ダッシュで気配のする方角へと駆ける。

権能を試したいと思った矢先にコレだ。運が良いとしか言いようがない。

俺は戦えて、一般市民達は助かる。まさに一石二鳥。

どんな神様かは知らないが、首洗って待ってろよ!

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

3分程走ったところで、海の上に浮かぶ神様を目視で確認できる場所、漁港に出た。

いや、あれは浮いてるってより、水面に立ってやがるな。

大きさは目測で170cmちょい。俺と同じか、ちょっと低いくらいの人型だ。

さて、どうやってあそこまで行ったものか、と考えていると、後ろから護堂御一行が走ってやって来た。

 

「よう護堂、おひさー。護堂もアレ狙いで来たのか?」

 

軽く手を挙げ、護堂に向けて挨拶をする。

正直護堂以外の女性陣には苦手意識しかない、というより、現在進行形で敵意丸出しの目で見られ続けているので敢えて無視をしている。関わらないが吉、と俺の直感が告げているのだ。

というか、何でそこまで敵視しているのかが謎でしかない。

 

「いや、別に戦いたくて来たんじゃないんだけどな。ただ、今1番近いカンピオーネは俺かお前だけらしいし、お前は来ないかもって思ったから一応来たんだ」

「あっそ。ならアイツは俺が貰ってもいいよな?倒したのは護堂ってことにするから」

「まあ構わないけど...。1人で大丈夫か?まだカンピオーネになってから日も浅いだろ?」

 

心配してくれる護堂君マジ優しい。

そこの取り巻き女性陣、少しはアンタらの王を見習えよ?

 

「たぶん大丈夫。もしヤバそうだったら手伝ってくれると嬉しい」

「分かった。キツかったら早めに言えよ?」

「おう。ありがとさん」

 

なにやら女性陣の視線が一層強くなった気がしないでもないが無視。

とりあえず護堂達には一旦下がってもらって、ヤバそうだったら手を貸してもらう、ということで話がついた。

さてと、じゃあ始めますか。

 

「我は雷、故に神なり」

 

聖句を口にする。

発動キーのような役割を果たすこの言葉を口にすると、自分の体から自由に雷を出せるようになる。

これが雷神・ぺルーンから簒奪せし権能、“雷で打つ者”の能力だ。

 

「とりあえずの先制ブッパだ!喰らっとけ!」

 

雷を空高く打ち上げ、その後相手に落とす。

落雷のような技だ。

それを10発程打ち込んでいく。予告無しで。

 

「オラオラオラオラァ!!」

 

獰猛な笑みを浮かべてのその攻撃は、悪役じみていると自覚せざるを得ない。

だが、神様相手に体裁なんて気にしていられないのも事実。というか、そんなの気にしてたらこっちが殺られるっての。

水飛沫が立ち込める中、俺は次の大技の準備をする。

最初の攻撃で倒せると思っているほど俺は甘くは無いのだよ。

水飛沫が晴れてきて、神様の姿が浮かび上がる。

多少の傷は見られるものの、大したダメージが入っているようには見えない。

だが、そんな事は想定内だ。

特に気にすることも無く、俺は技の準備を続けていく。

あと少しで技を繰り出せるか、というところで、水面に立っている神様がこちらを見てきた。

 

「お前、神殺しか?」

「!?」

 

声が聞こえたことに驚きを隠せない。

俺と神様の間の距離は軽く約100Mを超えている。にも関わらず呟いた声が耳に届くのだから、そりゃ驚くわ。

 

「そうかそうか、お前が話に聞く神殺しか。ククク、面白そうだな」

「ハッ!笑ってられるのも今のうちだぜ?」

「む?」

 

驚きはしたが、時間は十分稼げた。

今の時間で溜め込んだ魔力で、俺の周りに数十本の雷の槍を作っていく。

これが今、俺が出せる最大級の広域殱滅技。名付けて、“雷槍の霧雨(ゴッツ・シャウアー)”。

そのまんまな技名だが、分かり易い方がいいんだよ!

 

「全雷槍、一斉発射!」

 

神様目掛けて、空中に作り出した雷槍を全て射出していく。

雷槍は文字通り光速で飛んでいき、海上の神様に吸い込まれるように命中していった。

轟音と共に大量の水飛沫が舞い上がる。

今のは確実に当たったが、これで終わったようには感じられない。残念なことに、こういう直感は良く当たるのだ。

ギフトカードから“天屠る光芒の槍(ダイシーダ・リヒト)”を取り出し、注意深く海上を見つめる。

 

「なかなかやるじゃないか神殺し。今のはだいぶ効いたぞ?」

「っ!?」

 

俺の右隣、手を伸ばせば余裕で触れる事のできる距離に、先程まで海上にいたはずの神様がいた。

一応傷は負っているようだが、致命傷には程遠い。

 

「ちっ!」

 

舌打ちと共に“天屠る光芒の槍(ダイシーダ・リヒト)”を横薙ぎに振るう。

しかし、槍は神様を捉える事は無く、神様の体をすり抜け、神様の体は霞の様に揺らめき消えてしまった。

 

「まったく、話しかけただけで攻撃してくるとはな。些か酷くはないか?」

 

今度は背後から声がした。

振り向きざまに再度槍を振るうが、結果は変わらずに、槍が虚しく空を切るだけだ。

 

「ちっ、どうなってんだ...?」

「ハハハッ!どうした神殺し、僕が笑っていられるのは先程までじゃなかったか?」

「オイオイ...。マジで何なんだよコレは...」

 

目の前に現れたのは20前後の神様の姿。

その全てが別々の動きをしているため、実体を持つ分身体であろうか?

 

「僕の名はモルペウス、夢を司りしギリシアの神である!

さあ名乗れ神殺し。お互い、戦う相手の名前くらいは知っておきたいだろう?」

「...坂元 凌太だ。覚えとけ」

 

名乗りながらも、状況を打開する方法を模索し続ける。

一気に全部の分身体を吹き飛ばすか?というか、それ以外思いつかねえ。

だが、あの中に本物がいるとは限らない以上、闇雲に攻撃してもこっちが消耗するだけだ。

...どないしましょ?

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

あれから1時間。

もうどうにでもなれという考えの元、俺は片っ端からモルペウスの分身体を屠っていた。

今のところ軽く200は消し飛ばしたのだが、未だモルペウスは健在だ。消しても消しても増えてきて、マジでキリがない。

そろそろ俺の魔力も半分を切ったところだ。

これはそろそろ護堂に出てきてもらわないとヤバイか?というか、この1時間よくずっと見ていられたな。俺なら我慢できねえわ。

 

「おい坂元凌太、僕はそろそろ飽きてきたぞ。まだ続けるのか?」

「ああ?巫山戯んなよまだやるに決まってんだろ」

 

また1体分身を消し飛ばす。

にしても、これだけ消し飛ばして本物に辿り着かないとかどうなってんだ?

 

「いくら消しても無意味だと何故分からない?時間を無駄に消費するだけだ」

「そうかよ。だったらそっちからかかってこいや。そしたらすぐ終わんだろ」

 

さらに3体を一緒に消し飛ばす。

何かないのか?本物を見つけ出す方法は。まさか、俺の前にまだ姿を表していないとかか?

 

「そうしたいのは山々だかな。近寄ったらその槍の餌食だ。それ、対神性の武器だろ?」

「いえ、そんな事実は御座いません。だから本体連れてこっち来い」

「クハハッ!そんな見え見えの嘘に引っかかる程僕は馬鹿ではない」

 

軽口を叩く余裕はあるのだが、如何せん退治方法が分からん。

もういっその事ここら全体吹き飛ばすか?

...ん?吹き飛ばす(・・・・・)

......そ・れ・だ。

 

「そうだそうだよ!最初(ハナ)っからそうすれば良かったんじゃねえか!おい護堂!聞いてんだろ!?1分だ!1分で女性陣連れてここから離れろ!」

「はぁ!?何する気だよお前!」

「ここら一帯を吹き飛ばす!」

「馬鹿か!?」

「いいから逃げろ!あと45秒だぞ!」

「くっそ!後で覚えてろよ!?」

 

文句を言いながらも離れていく護堂達を横目に見ながら、自分の魔力を全てつぎ込んで超特大雷撃爆発(スパーク)の準備を進める。

 

「お前本気か?」

本気(マジ)本気(マジ)、大本気(マジ)だ!本体ごと吹き飛ばしてやるぜモルペウス!」

「くっ!」

 

最初は本体を炙り出す為の虚勢だと思っていたのだろうか、余裕の表情を浮かべていたのだが、俺の魔力が高まっていくにつれて本気だと理解したのだろう。若干顔を青くしているモルペウス。

だがもう遅い。準備は整った。

 

「消し飛べ!“郭大せし雷撃(ゼア・ブリッツ)”ッ!!!」

 

俺を中心に、雷の塊が紫電を撒き散らしながら球状に広がっていく。

俺の残り魔力を全て詰め込んだ、正真正銘の捨て身特攻。

これで倒しきれなきゃ俺が殺られるが、その時はその時に考えればいいだろ。

 

「ク、クハ、クハハハハッ!まさかまだこんな馬鹿げた魔力を残していたとはな!流石に恐れ入ったぞ坂元凌太!うむ、飽きた、というのは撤回だ!存分に、心ゆく戦いであった!クハハハハハハハハハハッ!!」

 

笑いながら雷の塊に呑み込まれていくモルペウス。

その声を最期に、俺の体へとモルペウスの権能が譲渡されてくるのが分かる。

 

「ハハッ、俺も楽しかったぜ、モルペウス」

 

そう言い、俺は魔力切れで倒れ込む。

ああ、本当に楽しかった。それと...

 

ふと周りを見渡し、焦土と化した港を確認する。

 

...これは明日の朝刊の一面を飾るかな?

そう思ったところで、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 




今年も、残すところあと2日と数時間ですね。
皆さん良いお年を!


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