「うわー、見るからに高価そうな物がいっぱい...。魔術結社ってのは儲かるのかね?」
俺は部屋を出てウロウロと建物内部を歩き回っていた。
壺や絵画、甲冑などいろいろな物が廊下に飾られてある。
これ1つでいくらくらいするんだ?
物珍しそうにそれらを見物しながら廊下を進んでいると、不意に話し声が聞こえてきた。
この声は...、エリカさんか。
声のする方へと近づいていくと、話の内容が聞き取れる距離にまで来た。
エリカさん以外の声。これは護堂か?他にも2人ほどの声が聞こえる。
エリカさんたちは部屋の中で話しているらしく、俺は今、その部屋の前、扉を1枚挟んだ所にいる。
立ち聞きなんてするつもりは無かったのだが、偶然聞こえた会話の中に、耳を傾けるには十分な単語が出てきたので、扉の前で気配を消して聞き耳をたてる。
「やはりあのカンピオーネにはご飯を食べさせた後に、すぐにでも出ていってもらうのがいいと思うわ」
「エリカ、そんな風に言うなよ。俺たちはアイツのおかげで助かったんだぞ?」
「まあ結果だけを見ればそうなるわね。でも護堂、よく考えなさい。もし坂元様がサルバトーレ卿と似た考えを持つ魔王だった場合、必ず面倒な事になるわ」
「それは...、確かに」
「私も、今回はエリカに賛成です。魔王の中で、貴方の様な考えの方は少ないのですよ?彼が貴方と同じ日本人だからと言って、必ずしも温厚だとは限りません」
「リリアナまで...。仮にドニみたいな性格でも、同郷のよしみで何もしないかもしれないじゃないか。1度話してからでもいいんじゃないか?」
「いいえ、今回はむしろ、“同郷”であることが問題ね。いい、護堂?1つの国に2人の神殺しが同時に存在するということは、その国を統治する者が2人いるということ。良くて戦争、悪ければ日本が滅ぶわよ?」
「そんな極端な」
「現在、正史編纂委員会は既に護堂さんを王として迎え入れています。しかし、委員会も一枚岩という訳ではありません。中には坂元様側に付き、護堂さんに抵抗しようとする輩が出てくる可能性もあります。その場合、護堂さんの意思は関係無く、下の者だけで争いが起きかねません」
「そ、そうなのか...」
「そうなると、このまま帰すのも問題ね。いっそのこと、今日ここで潰してしまう?」
......表じゃあんなに恭しくしてても、裏じゃこんなもんだよなー。知ってた。
てか最後、潰すってなんだよ怖いじゃねえか。
その後も、4人はああでもないこうでもないと議論を続け、最終的には護堂と俺が話してみて、護堂の判断で俺の処遇を決める、という事で一段落着いた。
途中、エリカさんが「これから出す料理に毒を盛ろう」とか言い出した時は堪らず飛び出しそうになったが、護堂がそれだけはダメだとやらせなかった。
ありがとう、護堂。
* * * *
あれから暫くして、俺は見つからないように元の部屋へ戻り、再びベッドの中に潜り込んでいた。
いやだって、聞き耳たててたとか気付かれたくないし。
するとそこへアリアンナさんが食事の用意が出来たと報告に来てくれて、そのまま一緒に食堂へと案内してもらった。
案内された部屋には、たくさんの料理が所狭しと食卓の上に並んでいた。
どれもこれも美味しそうではあるのだが、脳裏に先程のエリカさんの言葉が響く。
...護堂に黙って毒とか仕込んでないだろうな?
「おう、昨日ぶりだな」
料理を訝しげに見詰めていたところに、護堂達が揃って入ってくる。
「あ、ああ」
「?どうしたんだよ、そんなに怯えた顔して」
「い、いや、気にすんな。生まれつきこういう顔だ」
誤魔化しとは言えないような誤魔化し方をして席に着く。
護堂達もそれに続き各席に付いていった。
「それじゃ、とりあえず飯食べるか!」
護堂がそう言って料理に手をつける。
良かった、普通に食べてるところを見ると毒は入っていないみたいだな。
ひとまずは安心して、合掌した後に箸をとる。
「食事中申し訳ありません、坂元様。私はリリアナ・クラニチャール。魔術結社“青銅黒十字”に属する騎士でございます。先日は御身が私の身を案じて頂いたとのことで、深くお礼申し上げます」
そう言って頭を下げるリリアナさん。
頭を下げるくらいなら暗殺計画なんて立てないで欲しい。
もちろんそんなことは言えないので、出来るだけ笑顔を作って対応する。
「いいっていいって。俺のとばっちりがそっちに行っただけだし、むしろ俺が謝る方だろ。すまなかったな」
「いえ、勿体ないお言葉」
もう1度頭を下げるリリアナさん。
もうやだ人間不信になりそう。
「ところで凌太。お前、あの時なんであんな所にいたんだ?事前に避難しろって言われてただろ?」
護堂が肉をパクつきながら俺に聞いてくる。
ここは正直に言わないと、護堂と決闘するハメになるな。権能がどの程度まで使えるのかが分かるまでは、コイツとの決闘は避けたい。
だって雷神と殴りあってたし、あの十六夜(モンスター)感も感じたんだぜ?力が使えなかったら普通に負けるわ。
「あー、その事なんだけどな。ちょっと長く、というか意味不明な話になるかもだけどいいか?」
「?まあ、俺は構わない。皆は?」
護堂が、エリカさん達に了承を求めると、皆静かに頷いた。
「よし、じゃあ話すか」
そして、箱庭で十六夜達にした話と同じ内容を話し始める。
* * * *
「信じられないわね」
話が終わった瞬間、エリカさんが急に敬語を使わなくなった。
そしてこの一言だ。とうとう本性さらけ出したなこの女狐め!
「ところがどっこい。本当なんだなあ、これが」
おちゃらけて返してみるが、この静寂な空気は壊れない。
俺はどうにも、こんな重苦しい空気は苦手であるようだ。
「証拠はあるのかしら?あるのだとしたら、一考の余地はあるのだけれど?」
「証拠?証拠、んー、証拠なあ...」
なんかあったっけ、証拠になるもの。
ギフトカード見せたってたぶん信じないだろうしな。
ちなみに、先程爺さんに電話を掛けてみたのだが留守電に切り替わったので、爺さんに来てもらうという手段は消えている。
何してんだよ爺さん。
「あ、戸籍とか調べてみてくれたら分かるかも。この世界に俺の戸籍なんてないからな。なんなら、これまでの経歴を洗ってくれても構わない。どうせ何も出ないんだし」
「そんなもの、いくらでも情報抹消できる。確固たる証拠には足りえないわ」
「んなこと言われてもなあ。他に証拠と言える証拠なんてないし...」
睨んでくる女性陣(アリアンナさん除く)に対し、困り顔を向ける。
「まあ、当人が異世界人だって言ってるんだから、ひとまずのところは信じようぜ。この状況で嘘を言う必要もメリットもないだろ?」
そんな護堂の鶴と一声で、その場は一応収まった。
護堂マジありがとう。
* * * *
『は〜いもしもし〜?素敵で無敵な神様で〜っすぅ!』
「くたばれクソジジイ」
速攻で電話を切る。本当にあの爺さんは毎回毎回ピンポイントで俺のイラつく事をしてくるな。
今度はあちらから電話がかかって来たので、渋々電話に出る。
『もう凌太君ったらヒッド〜イ!そっちからかけてきたのに急に切っちゃうなんてぇ』
「良し分かったアンタは埋める絶対に」
『ハッハッハ!やれるもんならやって見ろよ小僧』
「よぅし、言ったな?首洗って待ってろ駄神」
神殺しの力、とくと見せてやんよクソジジイ!
いやまあどのくらいの権能なのか分からないんですけどね?
「ま、その話は置いといてだな。爺さん、今こっち来れる?」
『無理だな。今、というかこれから忙しくなる』
「なんかするのか?」
『ちょっと5層のコミュニティにカチコミにな』
「なにそれ超楽しそう俺も行きたい!」
『ダメだ、これはワシが楽しむべくして行う勝負。誰であろうと邪魔だては許さん。もちろん、ヴォルグのやつでもな。それに、お前はそっちで既に楽しんだ後だろう?』
「そりゃそうだけどさあ。
てか、やっぱりあの雷神がいるって知っててここに送りやがったな?危うく死ぬところだったんだが」
『でも生きてるだろ?それで十分だ。
もうしばらくはそっちにいろ。数日後にでも迎え寄越すから。事前に連絡はするからスマホは常備してろよ?』
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
ハッハッハ!と笑って誤魔化す爺さん。
どうせ言及してもこうやって躱されるだけなので、この話題は終了。電話を切ってギフトカードにしまう。
「お電話終わりましたか?」
「あ、はい。すみません、お待たせしちゃって」
声をかけてきたのはアリアンナさん。
絶やさぬ笑顔で俺に接してくれる、良い人だ。
現在、俺はイタリア内で宿探しをしている。
何故そんなことをしているかというと、まあ率直に言って赤銅黒十字から追い出されたのだ。
あの紅い悪魔ことエリカ・ブランデッリによって。
一応、1週間分程の生活費とアリアンナさんを借り受けたのだが、俺が護堂の近くにいると都合が悪いとか言われて追い出された。
それというのも、俺が神殺しであることを隠匿することにしたからだ。
異世界人がいきなり出しゃばってきて日本を巻き込んでの戦争の火種になるとか、俺も本意じゃないし。
雷神・ぺルーンを倒したのは護堂ということして、俺は護堂に助けてもらった通行人Aとして扱うそうである。
エリカ(もうさん付けとかやめた)の言い分は分かるのだが、何も追い出すことは無いんじゃないかと思う。
というか、追い出すなら連れて来るなよ。いや助かったけれども。あのまま瓦礫のなかに倒れてるよりかは万倍マシだったけれども。
「もう少しでホテルに着きますので」
笑顔でそう言ってくるアリアンナさん。
ああ、今は貴女だけが俺の癒しです。さっきから運転がヤバイですが、それでも貴女は癒しです。
程なくしてホテルに着いた。
見た感じ豪華なホテルで、清潔感もある。
キョロキョロと辺りを見回していると、チェックインを済ませてくれたアリアンナがこちらに向かってきた。
「こちらが坂元様のお部屋の鍵になります」
「あ、ありがとうございます」
鍵を渡してくるその姿にデジャブを覚えながらも、ありがたく鍵を受け取る。
「それと、こちら私の携帯と“赤銅黒十字”の電話番号です。なにかお困りの事がございましたら、こちらにおかけ下さい。数日は私や草薙護堂様も
「なにからなにまで、本当にありがとうございます」
番号の書かれた紙も一緒に渡しきたので、そちらも受け取ると、アリアンナさんは最後に一礼してこの場を去っていった。
さらば俺の癒し系要素、また会う日まで。
まあそれはそれとして、今はヨーロッパ観光を楽しむか!
超テキトーな感じになってしまった...。
だがしかし、これが俺の文才なんです...。
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