問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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 4月は忙しくて書けないかなって思ってたんですけど意外と書けたので投稿します。
 平成も残り少なくなってきました。令和になっても多分そんなに変わらない日常が待ってるんだろうなと思いつつ、程々に頑張って生きていきます。


身体を鍛えるのは時間がかかるけど衰えるのは嘘みたいに早い

 

 

 

 

 

「えー、じゃあ改めて。今日からしばらく妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属することになった、坂元凌太だ。よろしく」

 

 所々でぱちぱちと拍手が鳴る。

 天狼島から所移ってフィオーレ王国。の端の端。オンボロの名が相応しい建物内で、凌太は簡潔な自己紹介をしていた。

 

「サカモトリョウタ...変わった名前だな」

「メイビスにも言われた」

「メイビス? あ、それより! リョータはどんな魔法使うの?」

「神の御業の真似事」

「あっはっは! 神の御業とはまた大きくでたなぁ。具体的にどんな魔法なんだ?」

「色々あるけど、一番得意なのは雷系のやつ」

「ってことはラクサスと同じだな!」

 

 やんややんやと質問攻めに遭う凌太。

 天狼島からの帰りの海路で一応の自己紹介はしていたのだが、初顔合わせの者や諸事情(船酔い)で船上では聞けなかった者達のために、もう一度自己紹介をしていた。

 

「リョータァ! 俺と勝負しろ!」

「いいよ、雷砲(ブラスト)

「アバァアア!!!」

「おいこらギルドを壊すな!」

「あのナツが一撃で...スッゲェなリョータ! お前、凄い魔導士だぜ!!」

 

 ただでさえオンボロなギルドを壊されて四代目マスターは声を荒らげ、リョータの見せた魔術(魔法)に興奮した様子のマックスは、手放しで凌太を褒める。

 

 七年もの間行方不明だった者達の帰還、加えて新メンバーの加入とくれば宴待ったナシだ。元々騒ぐのが好きな者が多い妖精の尻尾(フェアリーテイル)では、この七年間の出来事や天狼島での出来事、そして凌太の話を肴にして、久方ぶりのどんちゃん騒ぎが繰り広げられていた。天狼組にとっては一日ぶりの再会だが、居残り組はそうではない。積もる話も多いのだ。

 

 自己紹介も終え、ある程度の質問にも答え、ようやく解放された凌太はカウンターで酒を呷ろうと考える。質はあまり良いとは言えなそうだが、いつぞやに飲み損ねた葡萄酒があったので手に取った。

 そこで、騒ぎには混じらず給仕のような仕事をこなしていた白髪の女性、ミラジェーンと軽く会話を始める。

 最初は他愛のない話だった。どの酒が美味いだとか、ツマミにはこれだとか。主に飲食の話をしていたが、次第に妖精の尻尾(フェアリーテイル)についての話へとシフトする。

 

「うちにはね、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が四人もいるのよ」

「滅竜魔導士? ああ、ナツとかガジルとかか」

「ええ。その二人のほかに、ウェンディとラクサスもそうなの」

 

 そう言い、ミラは青い髪の少女と金髪の男を指差す。

 男の方は強そうだし凌太が感知できる魔力も大したものだが、少女の方は竜を倒せるような人物には見えない。というのが凌太の意見だった。

 

「けどまぁ、滅竜を謳うくらいだ。それなりの実力はあるんだろ」

「ええ。特にラクサスはS級魔導士って言って、うちでもかなり上位の実力者なのよ? まぁ、今は破門されてるんだけどね」

「破門された奴がいていいのかよ」

「状況が状況だし、誰も反対はしないと思うわ」

 

 ラクサスは天狼組の危機に駆け付け、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を救ったのだという。ならば破門が解けるのも時間の問題だろう。

 

「S級魔導士か。ラクサスのほかには誰がいるんだ? そのS級って奴らは」

「エルザとギルダーツ、それからマスターもよ。ちょっと前まではミストガンっていう人もいたんだけど」

「それから、ミラもS級だぞ」

 

 二人の会話に入ってきたのは、今しがた名前の上がったエルザだった。凌太の隣に腰掛け、ミラに苺のショートケーキを注文する。

 

「元、ね。今はもう現役引退してるの」

「しかし実力は折り紙付きだ」

 

 出てきたケーキのスポンジ部分をフォークで切り取り、口に運びながらエルザはミラを評価する。

 凌太も、ミラの高い魔力は感じ取れていた。ミラの中になんとなく悪魔のような気配の残滓があることから、憑依系なのかと予想する。

 その後、誰がどんな魔法を使うかの説明を受けていたところ、中央の方から怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。

 酒も入っているのだし、喧嘩の一つや二つは起こるものだろうと思い無視しようとしていた凌太だったが、少しばかり気になる単語が出てきたために意識を向ける。

 

「父ちゃんは悔しくないのかよ! 恥ずかしくないのかよ!! 天狼組は帰ってきた、俺はもう七年も待った! これ以上は待てねぇよ! なぁナツ(にぃ)、手っ取り早くフィオーレ最強のギルドになる手段があるんだ!」

「ロメオ!」

 

 見れば、大人と子供が言い争いをしている最中だった。

 ロメオ、と呼ばれた少年は、父親でもある四代目マスター(マカオ)(マスターの座は一旦マカロフに返されているため、厳密には元四代目マスター)から視線を外し、ナツに意思の篭った目を向ける。

 

「大魔闘演武っていう、フィオーレ中の魔導士ギルドが集まる祭りがあるんだ! それに出て優勝すれば、フィオーレ最強の魔導士ギルドになれる!」

 

 熱く語るロメオの目は爛々と輝いており、すでに優勝した妖精の尻尾(フェアリーテイル)を夢想しているように見える。

 だが現実はそんなに甘くない、と主張するのがマカオ達居残り組だ。

 

「あんなの生き恥晒すだけだ! 天狼組だって七年もブランクがある! なぁマスター、アンタからもなんとか言ってくれよ」

「ふぅむ...確かに、四代目の言う通り、今のガキ共でどこまで通用するのか...」

「その言い方はやめてくんないかな、三代目」

「因みに、優勝賞金は三千万J(ジュエル)だぜ」

「良し出るぞ小僧共ォ!!」

「「「「マスター!?」」」」

 

 マカロフの一言により、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は三ヶ月後に控えた大魔闘演武への参加を決定。去年までの散々たる結果を思い出して鬱々とする居残り組とは対照的に、天狼組は胸を踊らせる。

 

「大魔闘演武、最強を決める祭りかぁ。いいなそれ、ロマンがある」

 

 今の妖精の尻尾(フェアリーテイル)の現状から言って、ここで優勝して頂点に輝くのは難しい。天狼組不在の間に勢力を伸ばしたギルドは数知れず、中でも剣咬の虎(セイバートゥース)という魔導士ギルドは名実共に現代の最強ギルドなのだという。そこを倒さなければ、頂点には行けない。まさにジャイアントキリング、最弱だったギルドが最強を下す。実にロマンがあると、凌太は少しだけ興奮した。

 居残り組からは未だ不満が漏れているが、マカロフの一喝でそれも治まる。

 

「出ると決めたからにはとやかく言っても仕方あるまい! 目指せ三千ま...ンンっ、目指せフィオーレ(いち)! チーム妖精の尻尾(フェアリーテイル)、大魔闘演武に殴り込みじゃあああ!!」

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)が大魔闘演武への参戦を決めてから、早三ヶ月。修行だなんだと飛び出して行った天狼組と同じく、凌太も大陸を渡り歩いていた。当地限定グルメに舌鼓を打ってみたり、未発達であるが故に残っていた絶景を見に行ったり、道中襲ってきた闇ギルドをしめて舎弟(凌太不認知)を作ったり。

 強敵と出会うことこそ無かったものの、それなりに充実した時を過ごした凌太は、マグノリアに戻ることなく、大魔闘演武会場のある首都クロッカスへと足を運んでいた。

 

「マカロフから送られてきた手紙に書いてた宿ってここだよな? まだ誰もいないんだけど」

 

 各地で暴れ回っていた凌太(無自覚)の居場所は、少し調べれば分かる。というより、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に苦情が届くのだ。幸い、各自賠償金は全て凌太が負担している。もはや中ランクの黄金律スキルを獲得したと言っても過言ではないほど、凌太は金銭に困らなくなっていた。しかしまぁ、金は払ったから万事解決、とはならない事例も多い。その分の苦情がギルド本拠に届くので、自動的に居場所は知れたのだった。

 

「多分合ってると思いますけど...」

「まだ誰も来てないんじゃない?」

 

 手紙に記された住所と目の前の宿を見比べる凌太の横から、少し幼い声と高い声がする。ウェンディ・マーベルと、その相棒である空飛ぶ猫、シャルルの声だ。

 何故二人が凌太と一緒にいるのかというと、この三ヶ月間凌太とともに旅をしていたからだ。

 凌太が放浪に出る前、せっかくだから同行人が欲しいと思った凌太は、ギルド内で募集をかけた。結果として立候補してきたのはウェンディとシャルルのみ。なので、二人+一匹旅が始まったのだ。

 

 ウェンディが凌太について行ったのは、シャルルに薦められたから。なんでも、凌太と行動を共にすることで飛躍的にパワーアップするウェンディの姿、という未来を視たのだという。

 事実、ウェンディは三ヶ月前とは比べ物にならないくらい強くなった。気まぐれで凌太が課す修行を乗り越え、凌太の引き起こす騒動に毎回巻き込まれ、揉みに揉まれた結果だ。

 

「しゃーない。どっかその辺で時間潰すか」

「あっ、それならさっきの喫茶店入りましょうよ! あそこのパフェ、美味しそうでした...」

「雑誌にも取り上げられてたわよね、あそこのパフェ」

「ああ、なんだったっけ。名前聞いただけで胸焼けしそうなやつだろ?」

「『スペシャルストロベリーシュガーホワイトチョコマシマシハチミツソルトクリームアイススイートパフェ』ですよ、凌太さん!」

「早口言葉かよ。よく噛まずに言えたな」

「えへへ」

「そこ、照れるとこじゃないわよ、ウェンディ」

 

 もはやどんなパフェなのか想像もつかないような名前を聞き流し、凌太たちは来た道を戻る。

 凌太にとっては興味のないパフェだが、ウェンディやシャルルはとても楽しみなようで。ニコニコしながら歩くウェンディは、浮かれて前方への注意が疎かになっていた。だからだろう、すれ違うはずだった人物とぶつかってしまったのは。

 

「あっ、ごめんなさい」

 

 ウェンディがぶつかった相手は、まだ少年といえるほどの男だった。つんつんとした金髪は、どこかナツを思わせる。

 

「ちゃんと前見て.....お前、妖精の尻尾(フェアリーテイル)か?」

 

 悪態をつこうとした少年は、ウェンディの肩に刻まれている紋章を見て立ち止まり、ウェンディの肩を握って問いかけた。

 

「えっ? あ、はい、そうですけど...」

「じゃあナツさん知ってるだろ!? 火竜(サラマンダー)のナツ・ドラグニル! あの人が大魔闘演武に出るってホントなんだよな!?」

「えっと...私まだ出場メンバーを知らなくて...」

「はぁ? ちっ、じゃあもういいよ」

「おいスティング、行くぞ」

 

 スティングと呼ばれた少年は、乱暴にウェンディを押しのける。それに怒ったのは、彼女の親友であるシャルルだった。

 

「ちょっとアンタ! ぶつかったのはウェンディが悪いのかもしれないけど、その後のアンタの行動はなによ! ウェンディは謝ったわ、今度はアンタが謝りなさい!」

「あ? 喋るネコ...レクター達と同じ種族か?」

「シャ、シャルル、私は大丈夫だから...!」

 

 憤るシャルルを(なだ)めるようとするウェンディとは逆に、シャルルのボルテージは上がっていく。しかし、たかだかネコに本気になって言い返すほどスティングも子供ではない。むしろ「レクターやフロッシュ以外の喋るネコ初めて見た」と感心しているほどだ。

 

「おいウェンディ、シャルル。何やってんだ、早く行くぞ」

 

 二人がゴチャゴチャやっていることに気付いた凌太が、ウェンディ達に声をかけた。腹の減ってきていた凌太はさっさと食事を済ませたいのか、早く来るよう二人を促す。

 

「ほ、ほらシャルル! リョータさんも呼んでるから、ね? あのっ、すみませんでした!」

「シャー!!」

 

 未だ威嚇するシャルルを抱え、ウェンディは凌太の元へと駆ける。

 

「なんだったんだ?」

「スティング、早く行くぞ。みんな待ってる」

「あ、おう」

 

 

「お前ら、何やってたんだ?」

「あの、私が人とぶつかってしまって...」

「あの男、ちゃんと謝ったウェンディを乱雑に突き飛ばしたのよ!?」

 

 プリプリと怒るシャルルの視線の先には、白みがかった金髪の少年の姿が。その他にも数名ほど、個性的な服装や外見をした面子がまとまって道の真ん中を歩いていた。

 その中で凌太が注目したのは、スティングとその隣を歩く黒髪の少年だ。

 

「...あの二人、ウェンディと同じ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だな」

「えっ? そ、そうなんですか?」

「ああ、竜の気配が混ざってる。間違いない。そんで一緒に行動してるっつーことは...もしかしたらあいつら、噂の双竜かもな」

「双竜...剣咬の虎(セイバートゥース)の!」

 

 大魔闘演武優勝、ひいてはフィオーレ(いち)の魔導士ギルドを目指す妖精の尻尾(フェアリーテイル)において、絶対に避けては通れない存在。剣咬の虎、セイバートゥース。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)が勝ち進めば確実にぶつかるであろう相手を、ウェンディとシャルルは呆然と見つめる。最強と名高いギルドの主力メンバーを相手にしていたと分かって、遅れて緊張してきたのかもしれない。

 それを見越したのか、凌太はわしわしとウェンディの頭を雑に撫でる。

 

「安心しとけ。もしお前がアイツらと戦うようなことがあっても、今のお前ならそう簡単には負けねぇよ」

「勝てる、とは言わないのね」

「そりゃあまだ断言は出来ねぇなぁ。せめてあと一年あれば、ってところか。まあ別に、勝てないわけじゃない。やり方次第でどうとでもなるさ」

「そう、でしょうか?」

 

 不安げに、ウェンディはそう呟く。

 

「リョータさんは、私は強くなったって言ってくれますけど...私、あんまり自信持てなくて...本当に私、強くなったんでしょうか?」

「はぁ? お前、あんな力(・ ・ ・ ・)まで使えるようになってまだ言うのか?」

 

 呆れたようにため息を漏らす凌太。

 しかし、ウェンディの悩みは本物だ。凌太やシャルルは強くなったと言ってくれるが、それがお世辞である可能性も決して0ではない。或いは、強くなったといってもそれは極めて微々たるもので、今の時代には追い付けていないのではないか。そういう不安がウェンディの頭から離れないのだ。

 

 不安がるウェンディを見て、凌太は先程より少し強くウェンディの頭を掴むように撫でる。

 

「俺を信じろ。お前は確実に、そんでもってすげーパワーアップしてるよ。なんたってお前、俺に一撃入れたんだぜ?」

 

 事実だ。数日前に行ったサシの組手で、ウェンディは凌太の腕に蹴りを入れることに成功している。凌太へのダメージはほぼ0で、その後瞬殺されもしたが、それでも攻撃が当たったことに違いはない。

 

「でも...それもたった一回きりですし...」

「たった一回、されど一回。三ヶ月前のこと思い出してみろ? ナツにガジルにグレイ、それからエルフマン。あの四人でも俺に一発だって届かなかったんだぞ? 少なくともウェンディ、今のお前は三ヶ月前のアイツらよりは確実に強い。だから自信持てよ」

 

 慢心しろってことじゃないぞ? と笑いながら言う凌太を見て、ウェンディは小さく微笑んだ。彼女の性格上、そう簡単に自信は持てないかもしれない。だがそれでも、悲観しすぎることはないのかもしれない、と。そのくらいには思えるようにはなっていた。

 

「んじゃ、さっさと飯食いに行くぞ。えっと...スペシャルストロベリーホワイト.....」

「スペシャルストロベリーシュガーホワイトチョコマシマシハチミチュソルトクリームアイススイートパフェですよ、凌太さん!」

「お前今噛んだろ、ハチミチュって」

「噛んでません」

「じゃあもう一回言ってみろ」

「スペシャルストロベリーチュッ」

「ほらみろ言えてねぇじゃねぇか」

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 あれから二時間後。

 凌太とウェンディ、そしてシャルルは、指定されていた宿に足を運んでいた。

 

「意外と美味かったな、パフェ」

「三人でやっと食べ切れるくらいの量でしたけど、すっごく美味しかったです! ね、シャルル?」

「ま、まあまあだったわ」

 

 厳選された果実がどうとか、塩が意外と効いていたとか、そんな他愛もない話をしつつ宿に着いた凌太達を待っていたのは、衝撃の展開だった。

 

「ウェンディは選抜チームに入っとるのでの、しっかり準備しといてくれぃ」

「ほぁぇ?」

 

 再開の挨拶もそこそこに、宿で待ち受けていたマカロフからそんな言葉が飛び出てきた。全く予想していなかったのか、ウェンディは間抜けな声を漏らしてしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!? なんで私が...ほかの皆さんは!?」

 

 数秒の時間をおいて、ようやく事態を理解したのだろう。ウェンディは焦ったようにマカロフに言いよる。

 

「まぁまぁ落ち着きなさい。ウェンディのほかはナツ、グレイ、エルザ、ルーシィじゃ。お前ら五人はチームを組んでおったろう? 今回は総戦力よりチームワークに重点をおいたんじゃ」

「な、なるほど...それなら私が選ばれたのも理解できなくは...」

 

 そんな風にマカロフにいいように言いくるめられたウェンディは、明日から試合に出るならその前に王都を観光しておきたいと言ってシャルルと共に宿を飛び出していった。見た目通りチョロいんだよなぁあの子、などとウェンディの身の心配をしつつ、宛てがわれた部屋に行こうとした凌太は、マカロフに呼び止められる。

 

「リョータ、お前にも大魔闘演武に出てもらうぞ」

「は? いや、出てもらうもなにも、俺選抜チームじゃないんだが?」

 

 素直に疑問に思った凌太は、首を傾げた。

 そんな凌太に、マカロフは不敵な笑みを送る。

 

「フッ...此度の大会、ギルド内から二つまでチームを出せる...つまり、ぬしには妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bチームとして参戦してもらう」

「Bチームだぁ?」

「頼む! この通りじゃ! 妖精の尻尾(フェアリーテイル)が優勝するためにぬしの力を貸してくれ!」

 

 両手を合わせて頭を下げるマカロフを見て、凌太は考え込む。

 

「(確かに俺が出れば優勝できるかもしれねぇな。いや、慢心とかそういうのじゃなく。相手がただの魔導士である以上、俺に勝てる奴がいるってのは考えにくい。正直言ってこんな出来レース紛いなこと、あんまり好みじゃないんだが...)」

 

 仲間の命や失えない尊厳がかかっていれば話は別だが、基本的に凌太は勝負事を楽しむ傾向がある。多少手段を選ばない時もあるにはあるが、それでも『確実に勝てる勝負』を楽しいと思えるほどではなかった。

 しかし、仮にでも自分が籍を置いている組織のトップが、頭を下げてまで頼み込んできている。その事実に、思わない所がないでもなかった。

 

「(ま、もしかしたら魔術...魔法に依存しない戦闘力の持ち主もいるかもしれないしな。それかウェンディみたいな強化特化型の奴とか)」

 

 まぁどっちにしろただ観戦してるよりは楽しいだろ、そう結論を出し、凌太は首を縦に振る。

 

「分かった、出てもいいぞ」

「おお! そりゃ助かるわい! ふふっ、これでギルダーツがいない分はカバーできたかの」

「因みに、そのBチームってのは他に誰がいるんだ?」

「うむ。ガジル、ラクサス、ジュビア、それからミストガンじゃ」

「ミストガン? って確かもうギルドにはいないんじゃなかったか」

 

 以前ミラから聞いた話を思い出し、マカロフに問う。

 

「そうなんじゃが...なんと言ったものか」

「俺から説明しよう」

 

 口篭るマカロフを訝しげに見ていた凌太の横から、マカロフとは違う声がした。

 そちらを見てみれば、目元以外の全てを外套などの布で隠した、いかにも怪しげな男が立っていた。

 

「お前がミストガン?」

「そうであるとも言えるし、違うとも言える」

「んだよ、めんどくせぇな。はっきり言え」

「全く、せっかちな奴だな...。俺はジェラールという。ミストガンという男と同一人物とも言える存在だ」

「なんだお前、ミストガンって奴と融合でもしたのか」

「違う。ミストガンとは、別世界の俺のことだ。そのミストガンは元の世界へ帰り、今はこちらにはいない」

「...なるほど。だいたいは理解した。んで? そのミストガンの代わりに、こっちの世界のミストガンであるお前が妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーとして大会に参加する、と。...いいのかそれ? 普通に反則じゃね?」

「勝つためじゃ! それにミストガンを妖精の尻尾(フェアリーテイル)から脱退させた気もなければ脱退したいとも言われとらん。だったらこやつもミストガンってことで」

「暴論がすぎるな」

「や、やっぱりダメかのぅ...?」

 

 反則という言葉にビクビクし始めたマカロフを見て、凌太は一つ息を吐く。

 

「まあいいんじゃねぇの? バレなきゃ」

 

 そんなこんなで、妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bチームは結成された。

 少しは楽しませてくれる奴がいればいいんだけどな、と。ちょっとばかりの期待を胸に、魔術師の王(カンピオーネ)は魔導の祭典へと足を踏み入れる。

 

 

 

 




 ウェンディ魔改造計画。

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